<皮>人質~HITOZITI~③”未来”(完)

逆怨み男たちの手から解放された妹の結花ー。

しかし、結花の心の傷は深く、
兄の昌平は、男たちに激しい怒りを燃やすのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー…ーーー…わたし……ーーー」
目から涙を流しながら、結花が呟くー。

結花が解放されてから半月ー。
ようやく、結花は少しだけ会話できるようになったー。

だが、何かを思い出しては泣き、
何かを思い出しては怯えるー。

そんな状況で、とてもではないが
結花が学校に通い始めて、普通に生活できるような状態ではなかったー。

「ーーーー知らない人とー…いっぱい……」
結花が涙を流すー。

結花が言うには、知らない人といっぱい、
変なことをさせられたのだと言うー。

変なこと、というのは大体想像はつくー。

クレーマー男は、時々結花の皮を脱いで、
結花本人の意識を”あえて”戻し、
”乗っ取られている状態の結花”がしていることを
録画した映像を結花に見せているようだったー

「ーー……もう……わたし……だめ」
結花は、そう呟くと、涙を流しながら
一人、怯え始めるー。

皮にされていた間の3か月間ー
結花は想像を絶する仕打ちを受けたのだろうー。

想像を絶する心の傷を負ったのだろうー。

昌平はあのクレーマー男に怒りを燃やすと共に、
自分のせいで、結花を巻き込んでしまったことを激しく後悔し、
100万円を要求されて、結花を救出するまでに
結果的に3か月もの時間をかけてしまったことに
激しい怒りを感じていたー。

「ごめんな…結花ー…」
昌平は、大学とバイトの合間に、毎日、結花の病室に通ったー。

結花は日によって、かなり不安定な日と、
比較的安定している日があったが、
比較的安定している日であっても、
”お兄ちゃんがびっくりする顔、面白い~!”などと笑っていた
冗談が好きで、明るい妹の面影はもはやないに等しかったー

明らかに暗い性格に変わり、
表情にも乏しいー
生気すらも薄い状態ー。

結花の友達も何人かお見舞いに駆け付けたり、
結花のスマホにメッセージを送ったりしてくれてはいたもののー、
結花の変わりように、誰もが驚いていたー。

昌平は警察の捜査が進まないことにも
苛立ちを感じていたー。

あのクレーマー男と、その仲間二人は
断じて許せないー。

昌平はあの男たちが、せめて逮捕されて
裁きを受けることを、心の底から願っていたー。

そんなある日ー。
昌平が飲食店でバイトをしているとー

「よぉ」
背後から声がしたー

「ーーー!!」
昌平は、接客業の店員としての対応も忘れて
「お前…!」と怒りの声を上げたー

「お前とは、何だー?」
昌平のバイト先にー
再び、”例のクレーマー男”がやってきたのだー。

「へへへ…結花ちゃんは元気か?」
クレーマー男の言葉に対して、
昌平は歯ぎしりをするー。

背後にいた仲間の二人もニヤニヤしながら
昌平を見つめるー。

やがてー
他のバイトスタッフが、その男たちを
席に案内すると、昌平は激しい怒りを燃やしながら、
奥へと引っ込んでいくー。

「ーーあまり、無理しないほうがいいー」
店長も、当然、このクレーマー男とのトラブルは知っているー。
後日、報告をしているからだー。

妹の件は、”皮”の部分は話していないが、
妹が、この男たちに酷い仕打ちを受けたことは話しているー。

「ーーあの客たちは、俺が接客するからー。
 あまり、無理しなくていい」
店長の言葉に、昌平は「すみませんー」と頭を下げるー。

ここで、あの男たちと対決してもー
警察は”捜査中”であり、証拠がないー

例の映像も提出はしてあるものの、
わざとだろうかー。
クレーマー男たちが昌平に送ってきた
”結花を皮にする瞬間”の映像は
”加工された痕跡”がたくさん残っていたことから、
”証拠として利用できない”状態だったー。

恐らくは、結花を皮にした映像に”わざと加工の痕跡をたくさん残し”た
のだろうー。
証拠として、使えないようにするためにー。

普通の事象であれば、それでも証拠になったかもしれないー

しかし、”人が皮にされる”という、あまりにも現実離れした内容だったため、
加工の痕跡がある=こんな現実離れしたことは起きるはずがないから作られた映像だ、
と、なってしまったのだー。

だがー
店長の配慮とは裏腹にー
名指しで昌平が、例の男たちの座席に呼び出されたー。

「ーーーいいー。俺が対応をー」
店長は、昌平をなおも気遣うー。

けれどー
「ー俺、大丈夫です。行きますー」

昌平がそう告げると、店長は少し間を置いてから
「わかった。気をつけろよー」と、昌平の肩を優しく叩いたー。

昌平が男たちのいる座席に向かうと、
クレーマー男が笑みを浮かべたー。

「ーー妹さん、入院してるんだってなぁ」
クレーマー男の言葉に、
「なんでそれを知っているー」と表情を歪めるー。

「ーそりゃ、少し調べりゃ分かるだろ?
 個人情報、色々知ってるんだからよ」

クレーマー男の言葉に、
周囲の仲間二人が笑うー

「ーー二度と、妹に手を出さないと約束したはずだ!」
昌平が言うー。

「ー分かってるって。言ったろー?
 ”俺は約束を守る男だぜー”ってなー。
 入院してることを調べたぐらいじゃ、別に約束は破ってねぇ」

男の言葉に、昌平は怒りを込めて、
注文されたハイボールを机に置くー。

「ーお~~お~~相変わらず客への態度がなってねぇな」
クレーマー男が笑いながら言うと、
「そうだ」と、仲間の一人に合図を送ると、
仲間の一人からスマホを受け取って、
何かを再生し始めたー

”あっ♡ あっ♡ はぁ♡ はぁぁ♡”

甘い声がスマホから響き始めるー

”おにいちゃん♡ わたし…イっちゃう♡ あっ♡ あっ♡”

そこにはー
クレーマー男に乗っ取られていた結花が、
チャイナドレス姿で、エッチなことをしている映像が
収められていたー

「ーへへへ どうだ?
 妹のチャイナドレス姿を見て、勃っちまったか?」
クレーマー男がスマホを手にしながら、ニヤニヤと笑うー。

「ーーーーー」
昌平は、乗っ取られた結花がエッチな格好でエッチなことをしている
動画を見せつけられながら、激しい怒りを感じたー

続けてー
メイド服姿の結花が、クレーマー男の仲間二人に
フェラをしている映像が流れ始めるー

「ーーあ~~~あ~~~妹のフェラ見て、興奮してんだろ?」
クレーマー男がニヤニヤと笑うー。

さらにはー
結花が、笑いながら放尿してピースをする動画まで再生され始めたー。

「ーーー」
昌平は、壁を勢いよく叩いたー。

「ーーふぅ…ふぅ… はぁ…はぁ…」
今にもクレーマー男たちを殺しそうな目で睨みつける昌平ー。

「ーーへへへへへへ…興奮してイっちまったか?」
クレーマー男はなおも挑発を続けるー。

昌平はーーー
握りこぶしを作ってから、たった今運んできたハイボールの入った
グラスを手にー、
それをクレーマー男の頭から、中身をぶちまけたー。

「ーーー二度と、俺の前に姿を見せるな」
昌平はそれだけ言うと、店長の元に向かい、
「ー恩を仇で返してすみませんーー」と、頭を下げると、
客に対する対応で、首になることを覚悟して、
そのまま店を後にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」

1か月後ー
結花は、無事に退院したー。

妊娠の件もー
結花はひどく傷ついていたものの、
家族で話し合い、医師とも話し合った末に、
生まない選択をしたー

苦渋の決断だったがー、
”乗っ取られた結花”と”誰か分からない男”との間にできた
子供を産ませることは、できなかったー。

「ーーーーーーーーー」
退院後も、結花は、暗い性格のままで、
まるで別人のようになってしまったー

要所要所に結花の癖はちゃんと残っていてー、
結花は結花であることには違いないー。

だがー
3か月間も皮にされて乗っ取られていたー、という状態は、
結花の性格を捻じ曲げてしまうほどに、
大きなショックとなっていたのだったー。

「ーーーいってきますー」

それから半月ー
結花は、学校にも復帰したー。

けれどー

「ーーただいまー」
行って、帰ってくるー。
ただ、それだけー。

友達も心配してくれたものの、
結花は、何に対しても無気力な状態になってしまいー、
兄の昌平に対しても、
感情がないようなー、そんな感じになってしまっていたー。

「ーーーーごめんね」
結花の口癖は”謝ること”になってしまったー。

帰宅して、部屋に戻ると、結花は寝ているか、
ぼーっとしているばかりになってしまったー。

そんな結花を、昌平は必死に支えたー。

どんなに過去を悔やんでも、もうその時には戻れないー。

あの時、迷惑なクレーマー男たちにひたすら謝り続ければ、
こんなことにはならなかったのかー?

あの日、結花の側にいてやれば、こうはならなかったのかー?

結花が皮にされて”人質”にされ、100万円を要求したときに、
家族に相談していればー、
こうはならなかったのかー?

あるいはー…
相談していれば、結花は皮のまま、ハサミで切断されてしまって、
今よりももっとひどい結末を迎えていたのかー。

それは、分からないー。

けれどー。
いずれにせよ、もう過去に戻ることはできないー。

昌平は、”今、自分にできること”を必死にすることにしたー。

それは、とにかく”結花を支えること”

今の昌平には、それしかできないー。
両親も、同じ気持ちだったー。

あのクレーマー男への復讐心を燃やしても、
結花が元気になるわけではないー
過去が”リセット”されるわけでもないー

だからー
昌平は”結花を支えること”を
何よりも、第1に考えることにしたー

そしてー
その結果ー。

「ーーーー…お兄ちゃん…本当に、いつもありがとうー…」

2か月が経過したころにはー
結花は、”元通り”とは言えないまでも、
大分、良い方向に、回復しつつあったー。

たまにー
時々だけれどー…
”笑ってくれるー”

そんな風にー
結花は少しずつ、回復し始めていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

♪~~~

ある日ー

結花からの電話に出る昌平ー

そしてー
昌平は表情を歪めたー

”お兄ちゃん、わたし、また、皮にされちゃったー
 うふっ♡”

結花の言葉にー
昌平は凍り付くー

「ーな…なんだってー…?」

結花は冗談をよく口にする妹だったー

だがー
”まだ”そんなレベルには回復していないー。

「ーーー……お前ー…」
昌平が叫ぶー

「お前…!ふざけるな!約束が違うぞ!」
とー。

”あ~?へへ…”俺は”、お前と約束なんかしてねぇ”
結花の声が響き渡るー

「なにー…?」
昌平は、ふと会話を思い出すー

「ーー二度と、妹に手を出さないと約束したはずだ!」

「ー分かってるって。言ったろー?
 ”俺は約束を守る男だぜー”ってなー。」

”お前と約束したのは、俺のダチだー。
 俺はぁ、あいつと一緒にいた仲間だよー。
 覚えてるだろー?”

結花の言葉に、昌平は青ざめたー。

”結花を皮にした”のは、
最初のクレーマー男とは別の男ー。
クレーマー男と一緒にいた二人のうちの、どっちかー。

「ーー…ふ…ふざけんな!ふざけんな!!!!!」
昌平が怒り狂った様子で叫ぶー

”ー交渉しようぜー。
 それともー、妹を滅茶苦茶にされてぇのか?”

結花の言葉に、
昌平は悲鳴に似た叫び声を上げるー

仮にー
仮に、”また”結花を助け出せたとしてもー

そのときー…
結花の”心”は耐えられるのだろうかー

せっかく回復に向かっていた結花の心はー
今度はどうなってしまうのだろうかー。

そう思っただけでー
昌平の頭の中には”絶望”以外の文字が浮かばなくなってしまったー…

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

苦しみながらも、なんとか希望のあるエンド…
とは、行きませんでした~…!

お読みくださりありがとうございました!!

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皮<人質~HITOZITI~>

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