バレンタインデーを心の底から憎む男子生徒が
憑依薬を手に入れたー。
そんな彼はー
”自分が良い思いをすること”よりも、
”周囲のやつらを苦しめる”ことを優先するのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーバレンタインとか、平日じゃん」
男子高校生の橋本 昭典(はしもと あきのり)が呟くと、
「またお前はそんなこと言ってー」と、
クラスメイトの毅(たけし)が呟いたー。
「だってそうだろ。ほら、カレンダー見てみろよ」
スマホを手に、昭典が”カレンダー”を見せる。
確かに2月14日は別に赤い日にはなっておらず、
普通の黒い文字で”14”と書かれているー。
つまりは、2月14日は平日であると、カレンダーも
そう言っているのだー。
「ーーははは…そんなこと言ってるからモテないんだぜ」
毅が苦笑いしながら言うー。
昭典は、小さい頃から、全く女子にモテなかったー。
女子の友達もいないー。
と、いうのも、性格が”滅茶苦茶捻くれている”からだー。
モテないことにコンプレックスを抱いているのか、
とにかく妬みや僻みの感情が非常に強く、
それ故に、女子たちからは余計に敬遠されてしまうー。
そんな、悪循環に陥っているー。
「ーーってかさ、必死こいてチョコ作ってる女子とか
頭弱すぎだろ」
昭典がそう言うと、毅は周囲をキョロキョロしながら
「おい、問題発言やめろ」と、苦笑いしながら昭典を
なだめようとするー。
「いや、だってそうだろ?
美味しくもねぇチョコを必死こいて作っちゃってさー。
お前のチョコより、10円の駄菓子のチョコのほうがうまいっつーの!」
昭典が一人、怒りの形相で叫ぶと、
毅は「お前はホント、人に気持ちが分からないやつだなぁ」と呟くー
「バレンタインチョコは味じゃなくて想いだろ。
想いが詰まってるから、嬉しいし、意味があるー
あ、まぁ、義理チョコは手作りじゃなくてもいいと思うけどさー」
「ーー想いで飯が食えるのか?」
と、昭典は真顔で呟いたー
「人の想いとかくだらねー!
手作りチョコ喰うぐらいなら、賞味期限切れのチョコでも
食ってたほうがマシだね!
ってかさ、バレンタインとかもうやめない?」
毎年これだー、と
小さい頃から昭典を知る毅はため息をつくー。
本当に興味がないのであれば、黙っていればいいだけだしー
そんなにムキにならなくてもいいのにー、と毅は
心の中で思うー。
毎年、バレンタインデーが近づくたびに、
昭典はバレンタインデーの話ばかりするようになり、
毎年のように、バレンタインデーを否定する言葉ばかり、連呼するー。
明らかに”俺は妬んでます”と大声で言っているようなもので、
哀れになってしまうー。
疲れた毅は
「じゃあ、賞味期限切れのチョコ喰ってればいいじゃないか」と呟くー
昭典はその言葉にムッとしてー
「ーあ~~!2月14日うぜぇ~~!」と、一人叫び始めるー。
毅はあきれ顔で
”ま、2月15日になれば、毎年すげぇ機嫌よくなるしー
今は放っておくかー”
と、呟きながらそのまま自分の座席の方に
戻っていくのだったー。
「ーーーーーーー」
毅は、となりの座席の女子生徒・里谷 和美(さとや かずみ)の
ほうを見つめながら気まずそうにするー。
和美は、誰にでも優しいタイプの女子生徒で、
男女問わず、同級生から人気があるー。
真面目なので、先生からも人気…はたぶんありそうな感じだ。
そんな和美に向かって、毅は「あいつ…いつものことだからーごめんな」と呟くー。
和美は去年、
バレンタインデーに手作りのチョコを全員に配っていたー。
去年、和美と同じクラスだった毅も、和美から
義理チョコを貰っているー。
和美とは高校で初めて出会ったため
”毎年、手作りのチョコを全員に配っているのか”までは知らなかったが
同じ中学出身の子によれば「前からやっている」とのことだったため、
今年も手作りチョコを全員に配ろうとしていた可能性は高いー。
「そ…そうなんだー…」
和美は、毅の言葉に戸惑った様子で呟くー。
毅は、昭典のことをよく知っているが、
この和美にとっては、昭典とは去年も別のクラスで、
中学も違ったため、バレンタインを前に機嫌が悪くなる昭典を
見るのは初めてのはずー。
”里谷さん、傷ついてねぇかな…”
毅はそんな心配をしながら、
”ったく、あいつはホント…なんかこう…もうちょい心に余裕を持ってほしいよなー”と、
昭典の座席のほうを見つめながら呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーはぁ…どこもどこもどこもどこもバレンタインー」
スーパーのバレンタイン売り場を見ながら
怒りの形相でそう呟く昭典ー。
今日は休日ー。
いよいよ明後日に迫ったバレンタインデーを前に、
昭典は、さらに荒ぶりつつあったー。
昭典がスーパーで昼食を買い、
家に帰ろうとすると、
「ーーそんなに、バレンタインデーが憎いのか?」と、
背後から男の声がしたー
「ーーー!」
昭典が振り返ると、そこには、口元を覆面で隠した怪しげな男がいたー。
「ーーーな、なんだお前はー」
昭典が言うと、男は”騒ぐな”と呟くー。
「ーーーバレンタインデーを壊す、力が欲しいかー?」
覆面の男の言葉に、昭典は「どういうことだー…?」と呟くー。
男は言うー
「ーバレンタインチョコが貰えなくて、嫉妬しているー。
違うかー?」
見透かしたかのような言葉に、昭典は不愉快になって
「ち、ちげーし!チョコなんていらねぇし!
大体チョコなんて100円も出せばうまいやつが買えるだろ!
それをわざわざ貰って喜ぶとか、ガキじゃあるまいしー」
と、不貞腐れた様子で言うー。
「そうか。嫉妬かー」
勝手に答えを受け取る覆面の男ー。
「ーだからちげぇって!」
昭典がそう叫ぶと、覆面の男は続けたー。
「ーバレンタインチョコが貰えないなら、身体そのものを貰ってしまえばいいー
そうは、思わないかー?」
その言葉に、昭典は「お…お前…何を言ってるんだー?」と表情を
歪めるー。
と、いうかさっきからつい会話に乗ってしまったものの、
どう考えても、この覆面の男は”不審者”にしか見えないー
さっさと話を切り上げてー
昭典がそう思っているとー
”憑依薬”
と、覆面の男が呟くー。
「ー憑依薬ー?」
昭典が振り返るー
「そうー。
お前が望めば、お前にこれを渡そうー」
覆面の男が言うー。
ますます怪しいー
「ーそ、そんなことできるわけないだろ!」
昭典が叫ぶとー
突然、覆面の男が、”憑依薬”を呼ばれるものを
自分の腕に注射したー。
そしてー
「ーーえ」
昭典が驚くー。
目の前の覆面の男が倒れて、
少し離れた場所を歩いていた小さな子を連れたお母さんが
急に「ひぅっ!?」と声を上げたー
そして、笑みを浮かべながら昭典の方に近付いてくるー
「ーーどうだ?これで信じるつもりになったかー?」
母親の言葉に、昭典は「えっ…?」と驚くー
スーパーから影になっている建物の裏で
覆面の男は倒れたままー。
見知らぬ母親が笑みを浮かべながら
「これが憑依だ」と宣言するー
その子供が「ねぇ…おかあさん?どうしたの?」と近づいてくるのを
母親は無視して、ニヤリと笑うー
「ー俺は”闇.net”の”ビショップ”ー。」
乗っ取った母親の身体で勝手に名前を名乗ると、
憑依薬を手に、昭典のほうを今一度見たー
「おかあさん…ねぇ…おかあさんー?」
今にも泣き出しそうな子供を無視して続ける母親ー
「ーーーこの力でー
”バレンタイン”を変えてみせろー」
見知らぬ母親のその言葉に、昭典は「す、、すげぇ…」と呟きながら
母親から憑依薬を受け取ったー
「ーーー…ククー」
母親は満足そうに笑みを浮かべると「ぁ…」と呻いて
その場に倒れるー
すぐに覆面の男…、ビショップが起き上がると、
昭典の肩を2度叩いてから
「良い憑依ライフをー」と、呟いて、そのままその場を立ち去って行ったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
バレンタインデーを明日に控えたタイミングでー
昭典は、自宅で一人、考え込んでいたー。
「ーバレンタインチョコが貰えないなら、身体そのものを貰ってしまえばいいー
そうは、思わないかー?」
謎の覆面男の言葉を思い出しながら、
自宅で憑依薬を前に、考え込むー
「マジかー…マジでこんなものがー」
何度考えてみても信じられない。
現実にこのような”憑依”などというものが存在するなんてー。
けれどー
あの覆面の男は、目の前でそれを実証してみせたー
「ーーいや、待てよー?」
昭典は、一人考えるー。
「あの母親らしき人物がグルで、近くで騒いでいた子供も、
子役とかだったとしたら…?」
昭典は”いや、でもー”
と、あの”憑依された母親”の様子を思い浮かべるー。
演技なんかには見えなかったー
それにー
「ー憑依される母親役と子役まで用意して、
俺を騙すメリットはあるのかー?
金を要求してきたわけでもねぇし…」
と、昭典は考えるー。
そしてー
ついにー。
「ーーやるかー…偽物なら偽物だったとしてもー
死にはしねぇだろ」
得体の知れないものを注射するのは、
かなり抵抗があったが、昭典は、それを注射してしまうー。
するとー
その直後ー
「ーーー!?!?!?!?」
昭典は、気づいたら自分の部屋の天井付近に浮いていたー。
「ーーあ?」
最初は一瞬、何が起きたのかを理解できなかったが、
少し間を置いて、昭典はすぐに、自分の身に
何が起きているのかを理解したー
「お…俺、マジで幽体離脱してるぞ…!」
これは本物だー
昭典はそう思ったー
いや、実際には憑依薬と思い込んでヤバいやつを注射してしまって
自分が即死して幽霊になった…という可能性もあるわけだが、
そのようなことは、もはや頭によぎらなかったー。
「ーーへへへへへ…」
”ーーーーーーー”
喜ぶ昭典を、少し離れた場所から見つめる”不気味な小さな光”があったー
”クククククー
少年ー。お前がバレンタインデーにどのような憑依をするのか、
というところを見せてもらうぞー”
闇・netと呼ばれる謎の集団の一員ー、
覆面男のビショップが、昭典の様子を見つめていたー
”まァー、憧れの子に憑依して、好き放題ー”
そんなところだろうー、と
ビショップは考えながら、昭典の霊体の行方を追うー。
「ーーあぅ…」
ちょうどチョコを作っている最中だったクラスメイトの和美が、
可愛らしい声を漏らして、苦しそうに目を閉じると、
その場でふらっ、と倒れそうになるー。
「ーーっと、あぶねぇ…」
和美はすぐに笑みを浮かべながら、身体のバランスを立て直すー。
「憑依する瞬間って、結構ビクッ!ってくるんだな…」
和美の口で、昭典がそう呟くと、
「あ~~~2月14日ってうぜぇ」と、
和美の声でそう呟いたー。
手作りチョコをたった今、作っているとは思えない少女の言葉ー。
昭典は和美にそう言わせていることに、
激しく興奮しながら、さらに続けたー
「ーーってかさ、必死こいてチョコ作ってる女子とか
頭弱すぎだろ」
自分の頭をつつきながら呟く和美ー。
やがてー
和美は笑みを浮かべるとー
「ーーへへへへへへ…」と、作っている最中のチョコを
和美の親に見つからないように隠しー、
突然外に向かって歩き始めたー。
”ーーー!”
外であるものを手に入れて帰宅した和美ー。
それを見ていた闇・netの男は、
和美に憑依した昭典の”予想外”の行動に表情を歪めたー。
「ーーくくくー
みんなに、わたしがすっげぇチョコ、プレゼントしてあげるー」
”下剤”を手にした和美は、くくくくく…と笑いながら
チョコに下剤を盛ろうと、不気味な笑みを浮かべたー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
今年もバレンタインデーが明日に迫ったので、
バレンタインモノ(今年は憑依)を書いてみました~!
続きはまた明日デス~!
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