☆こちらは「試し読み」コーナーデス
本コーナー以外の憑依空間内の作品は、憑依空間内で”必ず”完結します
<試し読み>と明記していない作品で、(試し読みコーナー以外では絶対にやりません)
「続きはFANBOXで」は絶対にやらないのでご安心ください!
「試し読み」は↓を全てご納得の上でお読みください☆!
(料金が掛かったりすることはないので、安心してください~!)
※こちらの小説はFANBOXご案内用の「試し読み」です。
(試し読みが欲しいというご要望にお応えして、試し読みをご用意しました)
pixivFANBOXで連載している長編「崩壊都市」の
第5話までを公開していきます!
※「試し読み」では、最後まで完結しません。ご注意下さい
(完結済み)
・試し読みコーナーでも、事前に<試し読み>と明記、どこまで読めるかを
明記した上で掲載しています。途中までであることをご納得の上でお読みください!
※1話あたりの長さは通常のと私の作品と同じで、
FANBOXでは1話ごとに公開していますが、
試し読み版では①~⑤を全部まとめてあります。
第1話「発生」
作品の性質上、地震災害の描写などが存在します。
苦手な方は、ご注意ください!
作中で発生する地震災害、場所、物語は全てフィクションデス!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ついさっきまで、こんなことになるなんて、夢にも思ってなかったー。
「ーー走りにくいな…この身体ー!」
「ーーそ、そんなこと言われても!」
男女が、崩れた裏路地を必死に走っているー。
「ーーくそっ!髪が…邪魔だな…!どうにかならないのかこれ!?」
「ーー今、結ぶわけにもいかないからどうにもならないよ!」
男女が、必死に何か会話をしているー。
「ーというか、なんでこう、、スカートってこんなふわふわしてるんだよ!?」
男の手を引っ張りながら走る女子高生が乱暴な口調で叫ぶー
「スカートはスカートなんだから、仕方ないでしょ!」
女子高生に手を引っ張られている男が叫ぶー
まるでー
”中身”が逆転しているかのようにー
険しい表情の女子高生と、目に涙を浮かべた男が走っているー
「ーー小娘がー。
いったい、何のつもりだァ…?」
瓦礫が積まれている裏路地で、
二人を追いかけていた粗暴な雰囲気の男が呟くー。
スキンヘッドにサングラス、という明らかに危険な風貌に、
目つきは鋭いー
「ーーね、、ねぇ、何なの!?あのヤバそうなやつー!」
男が叫ぶー。
完全に、女子っぽい口調でー。
「ーお、俺に聞くなよ!」
可愛らしい女子高生が鋭い目つきで、不釣り合いな雰囲気を見せるー。
一人称も”俺”でー、
見た目は完全に女子なのに、中身は完全に男ー。
そんな感じの少女だー。
その時だったー。
大地が音を立てて揺れ始めるー。
女子高生が「危ない!」と叫びながら、慌てて
男の手を引っ張るー。
近くの電柱が倒れて、火花を散らしー、
危険そうな男の目の前に倒れるー
「ーーーっ…オラァァァアアアア…!
逃げられると思うんじゃねぇぞ!
小娘がァァアあぁああア!!!」
怒り狂う男の声を他所にー
まるで男のような言葉遣いの女子高生とー
まるで少女のように目を潤ませている30代ぐらいの顔の整った男がー
その場から離れていくー。
二人はーーーー
”入れ替わって”いたー。
少女の中に、男がー
男の中に、少女がいたー。
周囲の街は、”崩壊”しているー。
何かが、あったかのようにー。
数時間前までー
こんなことになるなんて、夢にも思っていなかったー。
蒼月(そうげつ)市を襲った地震災害ー。
彼女と、彼の運命はー
それをきっかけに大きく変わったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主な登場人物
月森 彩香(つきもり あやか)
高校3年生。修学旅行中に地震に巻き込まれる。
日向 俊樹(ひゅうが としき)
彩香を助けた謎の男。
的場 聡(まとば さとし)
高校3年生。彩香の彼氏。
相馬 晴美(そうま はるみ)
高校3年生。生徒会長。誰にでも優しい。
木下 響子(きのした きょうこ)
高校3年生。彩香の親友。
早乙女 美穂(さおとめ みほ)
高校3年生。大人しいタイプの子。
黒井 健太郎(くろい けんたろう)
高校教師。影で女子を盗撮しているという噂も。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数時間前ー。
観光地としても有名な、蒼月市に向かう観光バスー
その車内では、修学旅行を迎えた高校生たちが
賑わっていたー
「ーーねぇねぇ、彩香(あやか)ー」
ニヤニヤしながら笑うボブカットの可愛らしい少女、
木下 響子(きのした きょうこ)が、呟くー
「ーーせっかくの旅行なんだし、彼氏と、ほら、
アレしちゃいなよー」
笑いながら言う響子の言葉に、
ペットボトルのジュースを飲んでいた女子高生・
月森 彩香(つきもり あやか)は、思わず
ジュースを吹き出しそうになったー
「ちょ!?ちょっと!?いきなり何を言いだすのー?」
彩香の言葉に、
「ーーウチにはお見通しやで?
まだシテないんでしょ~?的場(まとば)くんと!」
と、彩香の親友・響子が笑ったー
”的場 聡(まとば さとし)ー”
彩香の彼氏で、クラスでトップクラスの成績を持つ優しい男子生徒だー。
「ーーも~!響子ってば、頭の中、エッチなことでいっぱいなんじゃないの?」
彩香が苦笑いしながら言うー。
響子は「ごめんごめん~!冗談に決まってるやんか~」と、
言いながら微笑むー。
彩香と響子は、小さいころからの幼馴染で、
今でも大の仲良しだー。
修学旅行の行動班が、彩香と一緒になったときも
”彩香と一緒の班で本当によかった”などと、とても嬉しそうにしていたー。
もちろん、彩香も気持ちは同じー。
「ーーー」
C組の担任の黒井先生が、「ほら~!少し静かにしろ~!ほどほどにな~!」と
言いながら、女子のほうをチラッ、ちらっと見ているー
黒井先生は、とてもフレンドリーな先生なのだが、
”先生になったのは、合法的に女子高生を見られるから”だと語っていたという
”都市伝説”が存在するー。
ネタでクラスのお調子者女子・長瀬 裕梨(ながせ ゆうり)が、
黒井先生に聞いたところ「そんなわけあるか!」と、笑い話になったがー
実際、どうなのかは分からないー。
雑談をしながら、バスがようやく目的地ー
蒼月市に到着したー。
「ーーわ~!すごい」
響子が楽しそうに笑うー。
後から下りて来た生徒たちも、観光地・蒼月市の華々しい
雰囲気に、圧倒されたようだったー
”和”と”大自然”と”近未来”の融合ー
そんな感じの、古風を感じさせながらも未来を感じさせるー
そんな、独特な発展を遂げたこの場所は、
修学旅行としても人気のスポットだったー
「ーあ、見て見て!山の上に蒼月城が見える!」
指を指す響子ー。
「ほんとだ!」
彩香が笑いながら、響子と雑談しているー。
修学旅行1日目ー。
まずは、蒼月市での自由行動が行われるー
彩香の班は、
生徒会長の相馬 晴美(そうま はるみ)ー
大人しい性格の早乙女 美穂(さおとめ みほ)ー
そして、彩香と親友の響子の4人ー
「ーー今日は、よろしくね」
晴美が微笑むー。
晴美は誰にでも優しい”お姉さんタイプ”の頼れる女子高生で、
とても頭が良く、運動も気配りもできる”優等生”だー。
今日も可愛らしい眼鏡がよく似合っているー。
「ーーーー早乙女さん、大丈夫?」
彩香が、大人しい性格のツインテールが良く似合う女子・美穂に
声を掛けると、
美穂は「乗り物酔いで…」と、申し訳なさそうに呟いたー
「乗り物酔い~?じゃあ少し休んでからにする~?」
響子が、班行動の開始を遅らせる提案をすると、
「ううん…だいじょうぶ」と、美穂は少し無理をした
様子で立ち上がったー。
「ーー彩香!また後でな!」
別の班の彼氏・聡が彩香に手を振るー。
「ーうん!」
彩香も笑いながら手を振り返すー。
楽しい修学旅行になるはずだったー。
けれどー
まさかーー
こんなことが起きるなんてー。
1日目 12:30-
「ーー知る人ぞ知る名店!って感じ!」
響子が、班行動中に見つけた定食屋で、オムライスを口にしながら言うー。
「-あ、すみません~!今度はチャーハンもお願いします~!」
響子の言葉に、彩香は「え!?食べすぎじゃない?太るよ響子!」と
ツッコミを入れるー。
「-ウチの胃袋はブラックホールだから、太らないし!
彩香は心配性すぎやって」
笑いながら言う響子ー。
「--そんなわけないでしょ!最近響子、少しお肉ついてるよ!」
彩香の言葉に、響子は「えっ!?ウソ!?」と叫ぶー。
「--ふふふ」
そんな二人を見つめながら、生徒会長の晴美が笑うー。
「ー月森さんと、木下さんみてると
何だか本当にお笑いのコンビみたい」
晴美の言葉に、響子は「それええな」と、笑いながら
彩香のほうを見て、「彩香がツッコミで、ウチがボケな」と笑うー
「嫌だよ~!絶対売れないし!」
彩香のそんな言葉に、響子は「意外と売れるかもしれないやろ~?」と
彩香さえOKを出せば本気でお笑いコンビを結成できそうな
勢いで話を進めているー。
ふと、大人しい性格の美穂が、ご飯を少しだけ
口に運びながら涙ぐんでいるのに響子が気づくー
「あ、ごめんー、ウチらちょっと、うるさすぎやな」
響子が苦笑いしながら彩香に対して言うー。
「ーーうるさいのは、響子でしょ!」
小声でそう言うと、美穂はすぐに、
「あ、ごめん…そういうことじゃなくてー」と呟くー。
修学旅行の昼食中に急に涙ぐんだ美穂を見て、
響子も彩香も自分たちがうるさすぎるからだと、一瞬
勘違いをしたが、そういうことではなかったー
「ど、どうしたの…?どこか具合でも悪いの?」
生徒会長の晴美が心配そうに聞くと、美穂は
首を横に振ってから、少しだけ恥ずかしそうに呟いた。
「ーーーそ、その…お兄と今日から3日間会えないと
思うと、寂しくてー」
美穂の言葉に、顔を合わせる彩香・響子・晴美ー。
そういえばー
美穂は大の”お兄ちゃん好き”で、
いつもツインテールにしているのも
”お兄が喜んでくれるから”と前に言っていた気がするー。
「ーーあ、、え、、えっと、、ご、ごめん…
その…気にしないでー」
美穂が急に恥ずかしそうにそう呟いて俯くー
「なんや~お兄ちゃんと会えないのが寂しいんか~?
じゃあ、今日から3日間はウチがお兄ちゃんに
なってあげる!」
響子の言葉に、彩香は「響子は男じゃないでしょ!」と突っ込むー。
美穂は、照れくさそうに「あ、ありがとうー」と、呟くー。
そんな、穏やかな昼食の時間が終わると、
彩香たちは食堂から外に出て、
食堂がある路地の先にある比較的小規模な
交差点のところまでやってきたー
「あーーーっ!」
彩香が急に声を上げるー。
「どうしたん?」
響子が言うと、彩香は「財布!財布お店に置いてきちゃった!」と叫ぶー
「ドジやなぁ」
笑う響子ー
「ー響子ほどじゃないし!」
彩香がそう叫ぶと、生徒会長の晴美は
「じゃあ、ここで待ってるからー」と微笑むー。
「ーうん!すぐ戻ってくるから…!ごめんね!」
彩香はそう言いながら路地の方に引き返していくー。
彩香が先ほどの定食屋に財布を取りに戻っている間に
自動販売機でコーラを購入した響子は「あ!そうや!」と
笑みを浮かべるー
イタズラ好きの響子の笑みー。
響子は「戻ってくる彩香をちょっと驚かしちゃお」と、
まるで子供のように笑いながら、彩香の向かった路地の方に
向かっていくー。
定食屋で財布を回収して戻ってくるであろう彩香を、
路地の途中で待ち伏せして「わっ!!」と、驚かせようと
しているのだー。
”あ、あかんー。コーラの缶持ったまま走ると、
開けた時、大変なことになりそうやわー…
ウチも、彩香と同じで、ドジやなー”
そんなことを思いながら、響子は路地の方に入りー
彩香の向かった方に向かうー。
「ーふふ…本当に仲良しー」
生徒会長の晴美は、彩香のあとを追って路地に入った響子を見て
微笑むー。
だがー
その笑顔はー
間もなく、消えることになるー
「ーーー兄貴…どこへ向かうんです?」
スキンヘッドにサングラスの怪しげな男が、路地で
整った顔立ちの20代後半~30代ぐらいの男に声をかけているー
「ーー悪いが、答えられないー」
男はそう言うと、スキンヘッドの男から逃げ出そうとするー。
「ー兄貴!」
スキンヘッドの男が後を追い始めるー
「ーーありがとうございました~!」
一方、彩香は定食屋で財布を回収すると、
そのままお店の外に出たー。
狭い路地を歩き出す彩香ー
その時だったー
「ーーーー!」
彩香のスマホが”音”を鳴らし始めたー
「ーーーこの音ー!」
彩香が、”スマホから鳴っている音”が
いつもと違う音であることに気付きー
それが、地震を知らせる音であることを思い出す前にーー
”それ”はやってきたー。
町全体が”ピシっ”と音を立ててー
「え!?」
と、思った直後、彩香の立っていた地面が
激しく揺れ始めたのだー。
「ーーきゃっ!?」
彩香がバランスを崩すー
”じ、地震ー!?”
彩香がそう思っているとー
すぐに、その揺れは”今までに経験したことのない”強さへt
変わっていくー
「ーーーひっ…」
彩香はその場から動くこともできずー
周囲から聞こえる轟音と、激しい揺れに
恐怖を覚えるー
「ーーーー地震ー…!?」
ちょうどそこに、スキンヘッドの男から逃げていた男が
やってくるー。
男も当然、地震に気づいているー。
そしてー
「ーーーー!」
ちょうど、脇道から彩香のいる通りに出てきた際に
地震に遭遇した男はー
彩香の頭上の電柱がグラグラと揺れてー
今にも彩香の方に倒れてきそうなことに気づくー
「おい!君!」
男が叫ぶー。
しかし、彩香は悲鳴を上げているからかー
それとも地震の轟音のせいか、男の言葉に気づかないー
「君!!!」
もう一度叫んだ男ー。
しかしー
そうこうしているうちに、彩香に向かって電柱が倒れてきたー
「ーーきゃああああああっ!」
悲鳴を上げる彩香ー
男はとっさにーー
動いたー。
揺れに耐えながら、気づいたときには
彩香の方に飛びつきー
彩香を突き飛ばして、彩香と共に路上に倒れ込んでいたー
揺れは続くー
恐ろしい音が周囲から何度も何度も響き渡りー
そしてようやくーーー
揺れは止まったーーー
”緊急報道ですー。
先ほど12時54分頃、
蒼月市北部を震源とする地震が発生しましたー
地震の規模を示すマグニチュードは7.8と推定されー
蒼月市北部・南部で最大震度7を記録していますー
各地の震源の情報とーーー”
テレビほ報道が一斉に、蒼月市を震源とする
地震の報道に切り替わるー。
この日ー
12時54分ー
楽しかったはずの修学旅行は”おわり”を告げたー
蒼月市北部を震源とするマグニチュード7.8の
巨大地震が発生し、蒼月市を中心とする周辺地域は
一瞬にしてー”崩壊”したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーっっ…」
彩香を咄嗟に倒れてきた電柱から庇うため、
飛びついて、彩香を突き飛ばした男はー
苦しそうに身体を起こしたー。
「ーーーーいてててて…大丈ーーーー…あ?」
”大丈夫か?”と、言おうとして男は表情を歪めたー。
自分の口から、自分の声が出なかったのだー。
”喉をやられたのか?”
そう思いながらー
「あ、、、あ~~~あ~~~」と
声を出してみるー。
だがー
「ーーな、なんだ!?」
自分の口から出てくるのが、自分の声ではなくー
”女の声”であることに気付いた男は、戸惑いの表情を浮かべるー
そう思いながら、男が下に視線を落とすとー
そこには、あるはずのない胸の膨らみが見えたー
「ーー!?!?!?!?!?」
男はとっさに、バッと身体を動かすー。
助けた女子高生に抱き着いた状態に
なってしまっている、と、そう思ったのだー
しかしー
自分と共に、眼下の胸も移動してくるー
「ーー!?!?!?!?…!?!??!?!?」
男は混乱するー。
「お、おい、、も、もう大丈夫だから、俺から離れろー」
そう言ってから、男は”何かがおかしい”と思うー。
自分の声が女みたいな声になっていてー
制服を着た女子高生の胸が、視線のすぐ下にー
「ーーお、、、おぉぉ…???」
男は、ようやく、視線を下に向けると、胸が見えるのはー
助けた女子高生を抱きかかえている状態になっているからー…ではなく、
自分自身に胸があってーー
女子高生の服を着ていることに気付いたー
「ーーちょ!?おい!?なんだこれ!?」
叫ぶ男ー
いやー
自分自身が、女子高生になっているー?
男がーー
近くのガラス片に反射する自分の姿を見つめるとー
そこにはーーー
助けたはずの女子高生の姿が映っていたー
「ーーーー…」
男は、困惑するー。
だがー
鏡に反射している女子高生が自分とは限らないー。
そう思いながらー
おもむろに胸を触ってみるー。
反射している女子高生も胸を触るー。
胸を真顔で揉み続ける少女になった男ー。
「ーーーーマ…マジかー」
男はーー
彩香の身体になってしまっていたー。
「ーーーちょっと!!!何触ってるの!?」
背後からー
”自分の声”が聞こえて振り返るー。
「ーーーーあ、、いや、これは、ちがっ!」
彩香になった男は、顔を真っ赤にして叫ぶー。
別に胸を触ったのは下心からじゃなくてー
ガラス片に反射した少女が、自分かどうか確かめるためー
「ーーーこ、これは、違うんだーそのー」
彩香(男)はそう呟くと、
突然、男になった彩香が
「きゃああああああああああ!」と悲鳴を上げたー
「ーー!?!?!?!?」
彩香(男)が驚くー。
「ーーーわ、わ、わたしが目の前に、もう一人ー…」
男(彩香)が乙女のように震えながら、彩香(男)を指さすー。
「ーーな、、ふ、普通反応、逆じゃね?」
彩香(男)が戸惑いながら呟くー
今まで入れ替わったことに気付いてなかったのかー?
そう思いながらー
「ーーお、落ち着いて聞いてくれー。君と、俺ー
身体が入れ替わっちゃったみたいだー」
と、彩香(男)は、男(彩香)の手を優しく掴んで呟くー。
「ーい、入れ替わり…わ、わたしと…?」
男(彩香)は戸惑いの表情を浮かべるー。
その時だったー。
再び、周囲がギシギシと音を立て始めるー。
「ーーーっ…」
彩香(男)が、咄嗟に男(彩香)を守ろうと抱き寄せるー。
「ひゃっ!?」
男(彩香)が変な声を出すー。
今度の揺れは、すぐに収まりー
男(彩香)が、顔を上げるー
「ーーじ、、地震…」
男(彩香)が不安そうに呟くと、
彩香(男)はスマホを手に、
「蒼月市震源の地震があったみたいだー…かなりでかいな」と、呟くー
「ーーこれだけの規模だと、余震が続くかもしれないー」
彩香(男)が言うと、
「ーーって!ナチュラルにわたしのスマホ使わないでよ!」と、
男(彩香)が叫ぶー
親友の響子との日常会話で培ったツッコミは、
非常事態においても、健在だったー。
「ーーき、君こそ、ナチュラルに俺の身体で女の子口調はやめてくれよ!」
彩香(男)の言葉に、
「ーじ、じゃあ、わ、わたしの身体で男言葉もやめてよ!」と
男(彩香)が反論するー
しばらく、謎の口論が続きー
「ーー…つ、、ツッコミとツッコミじゃーー終わりがない…」
と、男(彩香)は呟くー。
そしてー
再び、軽い揺れが襲うー。
その揺れが落ち着くと、男(彩香)は
「み、みんなは…大丈夫かなー」と、路地の入口のほうを見つめるー。
だが、建物が崩れたことにより、路地に入ってきた道を
引き返すことは難しそうだったー。
「ーーー大きい余震が来るかもしれないー
身体のことはひとまずあとにして、まずはこの路地から出ようー」
彩香(男)の言葉に男(彩香)が頷いたその時だったー
「ーーー兄貴ぃ、どこに行くつもりですかい?」
路地の脇道から、スキンヘッドにサングラスのヤバそうな男が現れるー
「ーーひっ!?」
男(彩香)が怯えた表情を見せるー
彩香(男)は「ーーーーー」と、男になった彩香のほうを
何度か確認するとーーー
「ーーあ、、あの、わ、わたしたち、先を急いでるんで!」と、
彩香のフリをして、言葉を発しー、
そのまま男(彩香)の手を引っ張り、路地の別の方向に走り始めたー
走り始めた直後ーーー
コーラの缶が転がってくるー
「ーーわわっ!?」
男(彩香)は、路地に転がっていたコーラの缶に躓きそうになりながらも、
なんとかそれを避けるー。
「あ、あのコーラ開いてないじゃん!勿体ないー」
男(彩香)はそう呟くと、彩香の身体になった男のほうを見て叫ぶー。
「っていうか、あ、あの人誰!?知り合い!?」
その言葉にー
彩香(男)は「ーーー知らない!」と、叫ぶー。
どう考えても、スキンヘッドの男と知り合いっぽかったけどー、と
思いながらひとまず、逃亡を続けるー。
スキンヘッドの男は「兄貴!その小娘はいったい誰なんだ!?」などと、
一人、背後で怒鳴り声をあげているー。
「あの人、”兄貴”って言ってるけどー?」
男(彩香)が言うー。
だが、彩香(男)は、走りながら話を逸らしたー。
「ーー走りにくいな…この身体ー!」
「ーーそ、そんなこと言われても!」
崩壊した裏路地を必死に走る二人ー。
”自分に手を引っ張られて走っているー”
そんな不思議な状況に、
男の身体になった彩香は、少し戸惑いながらー
”なんか…いつものわたしと違ってかっこいいわたしに見えるー…”
などと、心の中で呟くー。
そんな風に思っていると、走りながら
髪が視界を邪魔する状況に、彩香(男)が鬱陶しそうに髪を払いのけるー
「ーーくそっ!髪が…邪魔だな…!どうにかならないのかこれ!?」
「ーー今、結ぶわけにもいかないからどうにもならないよ!」
走りながら会話する二人ー
スキンヘッドの男は、乱暴な口調で相変わらず何かを叫んでいるー。
「ーというか、なんでこう、、スカートってこんなふわふわしてるんだよ!?」
「スカートはスカートなんだから、仕方ないでしょ!」
二人は、入れ替わっているー。
そのことを知らないスキンヘッドの男は、
”兄貴”を連れ去る謎の女子高生にー、苛立っていた。
「ーー小娘がー。
いったい、何のつもりだァ…?」
「ーーね、、ねぇ、何なの!?あのヤバそうなやつー!」
男の身体で、彩香は再び問うー。
「ーお、俺に聞くなよ!」
しかしー、彩香(男)は答えないー。
その時だったー。
大地が音を立てて揺れ始めるー。
「危ない!」と叫びながら、慌てて男(彩香)の手を引っ張る
彩香(男)ー
二人は脇道の方に入りー
近くの電柱が倒れて、火花を散らしー、
危険そうな男の目の前に倒れるー
「ーーーっ…オラァァァアアアア…!
逃げられると思うんじゃねぇぞ!
小娘がァァアあぁああア!!!」
彩香と男が逃げ込んだ脇道が、倒れた電柱によって塞がれるー。
スキンヘッドの男は、大声で怒鳴り声を上げると、
一人その場で怒りの形相を浮かべたー
「ーーはぁ、はぁ…なんとか、、逃げ切れたなー」
彩香(男)が、髪を乱した状態で呟くー
男(彩香)も、荒い息をしているとー
「ーーっていうか、君の身体ー…体力なさすぎだろ…
はぁ、、はぁ…こんな、、ちょっと走っただけで、
息が上がるなんて…
はぁ…はぁ…」
と、彩香(男)は呟くー。
「ーーそ、そ、そんなことないし!
女子と男の人の身体は違うの!」
男(彩香)が言うと、
彩香(男)は「それもそうかー…」と呟きながら、
ため息をつくー。
そしてー
「俺は日向 俊樹(ひゅうが としき)ー
君はー?」
と、笑みを浮かべながら自己紹介をするー
「わ、、わたしはー…
月森 彩香ー…
し、修学旅行中だったのー」
俊樹の身体になった彩香が言うと、
彩香(俊樹)は「修学旅行ー?そっか…災難だったな」と呟くー。
修学旅行ということは、普段はこの蒼月市にはいない、
ということを意味するー。
「ーーほ、他のみんなを早く探さないとー」
俊樹(彩香)は不安そうに路地から飛び出そうとするー
「ーーー待て!入れ替わった状態のままでー
君一人で行動するのは色々危険だー。
それに俺も…し、正直…
この身体でどうしていいか分からないー」
彩香(俊樹)はそう言いながら、
胸を触るー
「ー何でそのタイミングで胸を触るの!?」
俊樹(彩香)がツッコミを入れると、
彩香(俊樹)は、「あ、いやーなんとなくー」と、苦笑いするー。
そしてー
ふと、あることに気付き、彩香(俊樹)は、
俊樹(彩香)の身体の異変を指摘したー
「ーー君…勃ってるぞー」
とー。
「ーーえぇっ!?」
俊樹(彩香)は、驚いてズボンを見つめるー
すると、ズボンがパンパンに膨らんでいたー。
「ーーえっ!?ちょ!?何これ!?どういう原理!?」
俊樹(彩香)が狼狽えているー。
その時ー
再び、軽い揺れ…”余震”が二人を襲うー。
「ーーーまたいつ大きな余震が来るか分からないー
まず、この路地から出ようー」
彩香(俊樹)の提案に、俊樹(彩香)は頷くー。
そしてー
路地から出たふたりはーーー
唖然としたーー
サイレンや悲鳴が聞こえる街ー
煙が複数個所から立ち上る街ー。
”先ほど発生した蒼月市の地震ですがー
間もなく、気象庁の会見が行われる模様ですー
公島(きみしま)総理大臣は先ほど、
対策本部を設置しー”
ラジオの音が、異常事態を告げているー。
「ーーーー嘘……」
俊樹(彩香)は、街のあまりの光景に唖然とするー。
彩香(俊樹)も、言葉を失いー
その場に立ち尽くしていたー
二人のー
過酷な戦いはー
蒼月市に居合わせた人々の”生きるため”の戦いは、
今、始まったばかりだったー
②へ続く
第2話「現実」
「先ほど12時54分頃、蒼月市北部を震源とするー
M7.8の地震により、各地で甚大な被害が起きていますー。
先ほど、公島総理大臣は、迅速な対応を指示ー、
救助活動に全力を尽くすと、会見で語りましたー
現在も、余震活動が続いており、
先ほどもM4.8の余震が発生しましたー。
今後も、余震活動は続くものと見られますー
命を最優先にー
身を守る行動を、落ち着いて取って下さいー。
また、各地で停電や断水の報告が相次いでおり、
蒼月市北部を中心に、火災が発生しているのも
上空の映像からは確認できますー
あ、ここで、現地からの映像ですー。
現地からの中継ですー
蒼月テレビの、南さん、お願いしますー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主な登場人物
月森 彩香(つきもり あやか)
高校3年生。修学旅行中に地震に巻き込まれる。
日向 俊樹(ひゅうが としき)
彩香を助けた謎の男。
的場 聡(まとば さとし)
高校3年生。彩香の彼氏。
相馬 晴美(そうま はるみ)
高校3年生。生徒会長。誰にでも優しい。
木下 響子(きのした きょうこ)
高校3年生。彩香の親友。
早乙女 美穂(さおとめ みほ)
高校3年生。大人しいタイプの子。
黒井 健太郎(くろい けんたろう)
高校教師。影で女子を盗撮しているという噂も。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
★あらすじ
修学旅行中の彩香を襲ったのはー
”蒼月市を震源とした巨大地震”だったー。
さらにー、彩香は地震の発生時に、
自分を助けてくれた謎の男、
日向 俊樹と入れ替わってしまうー。
俊樹と入れ替わったことに戸惑いながらも、
謎のスキンヘッドの男から何とか逃れた二人はー
蒼月市の”崩壊”した現状を目の当たりにし、
唖然としていた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1日目 13:30-
路地から出て、蒼月市の惨状を目の当たりにした
彩香と俊樹のふたりはー、
その悲惨さに、言葉を失っていたー。
ふたりは、自分たちの身体が入れ替わってしまっていること以上にー
強い衝撃を受けていたー。
崩れた建物ー
散乱したガラスや瓦礫ー
遠くからは炎や煙も見えるー
泣き叫ぶ人ー
瓦礫の下敷きになって、悲鳴を上げている人ー
それを助けようとする人々ー
緊急事態発生を知らせるラジオー
「ーー”また”ーーーーー」
彩香(俊樹)が険しい表情でそう呟くー
「え…?」
俊樹(彩香)が言うと、彩香(俊樹)は、俊樹(彩香)の
ほうを振り向いてから、
「ーーこの近くの一番近い避難所は、蒼月第3小学校だったなー…
まずはそこに移動しよう」と、呟くー。
「ーそ、その前にーちょっと、スマホ返してー」
俊樹(彩香)の言葉に、彩香(俊樹)は「ん?あぁ」とスマホを返すー
しばらくスマホをいじってから、俊樹(彩香)は表情を曇らせるー。
「ーーーどうした?」
彩香(俊樹)が、尋ねるー。
俊樹(彩香)は、少し恥ずかしそうにー
「し、指紋ー」と、スマホを彩香(俊樹)の方に突き出すー
「ーわたしはわたしなのにー
自分のスマホのロックも解除できないなんてー」
スマホを渡して”自分の身体”が、指紋認証を解除しているのを
見ながら、不貞腐れた様子で呟く俊樹(彩香)ー
「ーーま、まぁー仕方ないだろ。
自分でも解除できるように、指紋認証は変えておいたほうがいいぞ」
彩香(俊樹)はそう言いながら、ロックを解除した
彩香のスマホを返すー。
「ーー今、君の指紋は俺のものなんだしー」
俊樹(彩香)が苦笑いしながら言うとー
「なんかヤらしい言い方ー」と、ジト目で、彩香(俊樹)を見つめる
俊樹(彩香)ー
「ーーえぇっ!?なんでだよ!?」
思わず突っ込みを入れる彩香(俊樹)を無視してー
俊樹(彩香)が電話をし始めるー。
修学旅行の同じ行動班だったー
親友の響子、生徒会長の晴美、大人しい性格の美穂に
ひとまず自分の無事を伝えようとしたー。
響子に電話を入れる俊樹(彩香)ー
”ウチと彩香は、ずっと友達やからー”
響子の顔が浮かぶー。
けれどー
電話は繋がらないー。
「ーー響子ー」
続けて、生徒会長の晴美に電話を入れるー。
いつもしっかり者で頼れる存在の晴美ー
けれどー
晴美にも電話は繋がらないー。
「ーーー」
焦った手つきで美穂に連絡を入れるー
だが、美穂にも連絡はつかなかったー。
「ーーー…みんな…出てよ…」
表情に焦りが浮かぶ俊樹(彩香)ー
別の班だったため、別行動の彼氏である・聡にも
連絡を入れたが、やはり繋がらないー
俊樹(彩香)が続けて両親に連絡しようとしたその時だったー。
その様子を壁に寄りかかって腕組みしながら見ていた
彩香(俊樹)が呟くー
「ーー地震直後は、設備のトラブルとか、通信規制もかかるし、
みんな一斉に電話しようとするからな…」
”当分、まともにはつながらない”という
彩香(俊樹)の言葉に、俊樹(彩香)は慌てた様子で
スマホでの連絡を諦めて、
「響子ー…みんなー」と、呟きながら、先ほどまでいた
裏路地まで戻ろうとするー。
「おい!やめとけ!」
彩香(俊樹)が、俊樹(彩香)の肩を掴むー
「離して!みんなが…みんながー」
俊樹(彩香)がそう叫びながら、彩香(俊樹)の腕を振り払うー。
「…ーーー!」
彩香(俊樹)は、彩香の手ー…
今は”自分の手”を見つめるー
そしてすぐに叫ぶー
「おい!まだ余震があるかもしれないから、
そっちは危ないから戻ってこい!」
彩香(俊樹)が叫ぶと、俊樹(彩香)は
「ー放っておいてよ!」と叫ぶー。
そのまま、裏路地の方に入ってしまう俊樹(彩香)ー
「ーーーは~~~~~~」
彩香(俊樹)は綺麗な黒髪を掻きむしりながら
ため息をつくと、「ーー俺の身体を持ち逃げするな!」と
叫びながら、俊樹(彩香)を追って、再び裏路地に入ったー。
”ごめんねーーー”
一人の少女の言葉が、彩香になった俊樹の中にフラッシュバックするー。
「ーー身体は変わってもーー忘れたりはしないよ」
彩香(俊樹)は小さくそう呟くと、
もう二度とーー
と、俊樹になった彩香が向かった方向に走るー
「ーっ…女って本当に走りにくいな…!
スカートはふわふわするし、
胸になんか違和感あるしー!
もう、はぁはぁ息切れしてるし、
おまけに息切れ可愛くて気が散るし!」
自虐的にそう叫びながら、彩香(俊樹)が、曲がり角を曲がるとー
そこには、途方に暮れた俊樹(彩香)がいたー。
彩香と同じ班だった、響子・晴美・美穂がいた方角への道はー
地震の際に倒壊した建物によって、完全にふさがれてしまっていたー。
「ーーー」
俊樹(彩香)は、彩香(俊樹)のほうを見ると、
彩香(俊樹)を無視してそのまま、さらに路地の奥に向かって
”別の道”を探そうとするー。
だがー
そんな様子を見て、彩香(俊樹)は、俊樹(彩香)の腕を今度は
さっきよりも思いっきり掴んだー
「離して!みんなのところに早く戻らないとー!」
俊樹(彩香)が叫ぶー。
「友達が心配なのはわかる!でも、こんな狭い場所にいたら危険なんだ!」
彩香(俊樹)が言うー。
建物が密集しているこの裏路地はー
”余震”が発生したら、非常に危険だー。
大きな地震災害が発生した際にはー
最初の本震(ほんしん)よりも、小さな余震であったとしてもー
既にダメージの蓄積している建物が倒壊する可能性があるー。
それにー
本震だと思っていたものが、実は本震はなくー
そのあとにさらに大きな地震が来るケースもあるー。
俊樹はー
それを、知っているー
「ーー君を心配して言ってるんだ!早くさっきの場所に戻ろう!」
彩香(俊樹)が叫ぶと、
俊樹(彩香)が、目に涙を溜めながら
「放っておいてよ!あなたに何がわかるの!!」
と、俊樹(彩香)は叫んだー
そう言われた彩香(俊樹)は、表情を歪めながらー
「ーーバカ野郎!!!」
と、叫びーー
俊樹(彩香)の頬に、ビンタを食らわせたー。
突然、”元自分”の身体にビンタされて驚く俊樹(彩香)ー
「ーー君は死にたいのか!?
突然のことに慌てるのはわかる!
俺だって”そう”だったー!
でも、それじゃダメなんだ!
冷静さを失ったら、本当に、死ぬんだよ!」
彩香(俊樹)が感情的になって、目を潤ませながら言うとー
俊樹(彩香)は、ようやく我を取り戻したのかー
「ご…ごめんなさい…」と呟いたー。
建物の密集した裏路地ー。
既に半壊している建物も多く、非常に危険なことは、
俊樹になった彩香にも、改めて見て見ると、よくわかったー。
「ーーーわたし…こんなこと、はじめてでー…」
俊樹(彩香)が言うと、
彩香(俊樹)は、深呼吸をしてから、
俊樹(彩香)のほうを見て、優しく微笑んだー。
「ーー…ごめんな…急に叩いたりしてー
でもーー…地震は本当に怖いものだからー」
「ーー本当よ!女の子を叩くなんて、最低!」
俊樹(彩香)が批判の言葉を口にするー。
けれど、その表情は、本気、という感じではなくー
冗談であることがわかるような口調だったー。
「ーーーはは…残念だったなー」
ニヤッと笑う彩香(俊樹)ー
彩香(俊樹)は、自分を指さしながらー
「今は、俺が女の子ー」
と、呟き、そして、俊樹(彩香)を指さしてー
「ー君が、男ー」
と、笑うー。
「ーー女子高生が、言うことを聞かないおっさんを殴っただけー」
彩香(俊樹)は、ニヤニヤしながら言うとー
俊樹(彩香)は「もう!!」と、不貞腐れた様子で頬を膨らませたー
「ははは、俺の身体も中身が違うと可愛いなー」
緊張をほぐすかのように、そんな冗談を口にすると、
彩香(俊樹)は深呼吸をして、路地の出口のある方向を見つめるー。
彩香(俊樹)の、”まるで過去にも被災したかのような発言”に、
俊樹(彩香)は
「ーーーあなたは…前にも被災したことあるの?」と、不安そうに呟くー
「ーーー…まぁな」
彩香(俊樹)はそれだけ言うと、わずかな揺れを感じてー
警戒しながら周囲を見つめるー。
幸い、余震はすぐに収まり、彩香(俊樹)は
「早くこの路地から出ようー。さっきの場所に戻るんだ」と、
俊樹(彩香)に向かって言い放ったー
「ーーねぇ…余震ってどのぐらい続くの?あと何回ぐらいー?」
路地の出口に向かいながら、俊樹(彩香)が言うー。
彩香(俊樹)はー
「ー分からない…さっきの地震はかなり大きかったしー…
何百回…何千回…何万回も続くかもー」
と、険しい表情で答えるー
「ーーえ、、えぇっ!?余震ってそんなにー?」
俊樹(彩香)が驚くー。
「ーー何十年前の地震の余震が来ることもあるぐらいだからな」
彩香(俊樹)が、路地の出口にたどり着いて、
俊樹(彩香)と共に路地から出ると、
駅の方の建物が火災になっているのが見えたー
「ーーあれは…ホテル蒼月か…」
彩香(俊樹)が、唖然とするー
駅前の大きなホテル”ホテル蒼月”が、火災になっているのだー。
「ーーー…どうするの?」
俊樹(彩香)が呟くー
「ーどうするって…?俺たちには何もできないよー…
だから今はーーまず、いったん避難所に向かおうー。
君の友達もそこにいるかもしれないー。
この身体のことも、まず避難所に行ってから話そうー」
この付近の避難所は、
彩香になった俊樹によれば
”蒼月第3小学校”らしいー。
被災した際には、まず、安全な場所へと移動することが
何よりも大事だと、彩香(俊樹)は説明したー。
「ーーーみんな…無事でいてねー」
俊樹になった彩香は心の中でそう呟くー
響子ー
晴美ー
美穂ー
同じ行動班のメンバー
同じクラスの友達たちー
彼氏の聡ー。
それにー
担任の黒井先生ー。
ちょうど班ごとの”自由行動”の時間だったのが災いしたかもしれないー
先生も、生徒たちも色々な場所で散り散りだー。
自由行動の範囲は、蒼月市内だけではなく、
北蒼月市、南蒼月市ほか、周辺の市内も設定されていて、
班によっては、別の市で被災した可能性もあるー。
全員が合流するのは、かなり困難だったー
「ーーーさっきの写真の子は、彼氏か何かかー?」
彩香(俊樹)が歩きながら言うー。
俊樹(彩香)は「えっー」と、言いながら顔を赤らめて、
彩香(俊樹)がスマホをいじっていた際に、
スマホの待ち受け画像を見られたことを悟るー
「ーーちょっと!勝手に見ないでよー」
恥ずかしそうに言いながら俊樹(彩香)はーー
「ーーそうー…わたしの、彼氏の聡ー」
とー、不安そうに呟くー。
明るく、気配りもできる性格の聡ー。
成績優秀で、先生やクラスメイトたちからの信頼も厚いー。
去年は、1年生の頃は、生徒会の書記を担当していたこともあるー。
彩香とは、元々はクラスも別で、ほとんど接点はなかったものの、
2年生の際の文化祭の時に、一緒に実行委員をやったことがきっかけで
意気投合し、去年のクリスマスに付き合いを始めた間柄だー。
”いつも勉強してそう”なイメージもあったものの
休日にはよく出かけたり、家にいるときはゲームも遊んだりと、
実際に付き合ってみると「勉強も娯楽も一生懸命楽しんでいるー」
そんな感じの男子だったー。
「ーーいつも笑ってる聡といっしょにいるとー
ホントにこっちも笑顔になれるっていうかーそんな感じでー」
歩きながら彼氏の話をして、
微笑む俊樹(彩香)ー
「ーー君は、本当にその彼氏のことが好きなんだなー」
彩香(俊樹)はそう呟きながらー
「早くー、元に戻る方法も見つけないとな」
と、付け加えるー。
「ーーこのままじゃ、おっさんと男子高校生のボーイズラブになっちまうー」
そんな冗談を口にする彩香(俊樹)ー
「ーーーーー」
俊樹(彩香)は思わず、一瞬考えてしまいー
「ちょっと!変なこと想像させないでよ!」と叫ぶー。
「ーっていうか、あなたは何歳なの!?おっさんって歳じゃないでしょ!」
「ー20過ぎりゃ、おっさんだよ」
そんなやり取りをしながらも、
再び余震の揺れを感じて、
彩香(俊樹)は、俊樹(彩香)に注意を促すー。
「ーー足元にも、気をつけてなー」
彩香(俊樹)は、地面にガラス片や、危険なものが散乱している
可能性も指摘しながら、再び歩き出すー。
「ーーねぇ…さっきのスキンヘッドのヤバそうな人ー
あなたのこと、知ってたよねー?」
歩きながら、俊樹(彩香)が今度はそう尋ねるー。
「ーーー」
彩香(俊樹)は、一瞬沈黙しようとしたものの、
少ししてからようやく口を開いたー。
「ーーー赤岩(あかいわ)ーーー」
そう言いかけたその時ー
「ーーーあ!」
俊樹(彩香)が声を上げるー。
ちょうど、反対側から歩いてくる人の中にー
彼氏の聡の姿見えたのだったー
「ーーーさ、、さと…!」
彼氏の姿に、嬉しそうに叫ぼうとした俊樹(彩香)ー
しかしー
自分の口から出た声に、イヤでも、
”今、自分はちょっぴりイケメンな30代前後の男”であることを思い出すー。
「ーーねぇ…」
俊樹(彩香)は彩香(俊樹)のほうを見て呟くー。
「ーー入れ替わっちゃった!なんていきなり言って信じてもらえると思うー?」
その言葉に、彩香(俊樹)は、「ーー君の彼氏は、信じてくれそうなのか?」
と答えるー。
聡は、気配りもできるタイプだし、
二人で説得すれば、信じてもらえると思うー、と俊樹(彩香)は答えたー
「ーーわかったー えっと…普段は”聡”って呼んでるのか?」
彩香(俊樹)はそう言うと、
俊樹(彩香)は頷きー、二人は共に、彼氏の聡に声をかけたー。
「さ、聡~!ぶ、無事で、よ、よかった!」
少しぎこちない様子で彩香(俊樹)が声を掛けると、
聡は「彩香!」と、嬉しそうに微笑んだー
だが、すぐに横にいる俊樹(彩香)の姿を見ると、
聡は「その人はー?」と、彩香(俊樹)に尋ねるー。
「ーーわ…わたしを助けてくれた人でー」
”地震の時に助けてくれた”と、彩香(俊樹)が説明するー。
ウソはついていないー。
すると、聡は「彩香を助けてくれたんですねー。ありがとうございます」と
礼儀正しく頭を下げたー。
「ーーい、、いえ」
俊樹(彩香)は、戸惑いながら目を逸らすー。
そしてー
彩香(俊樹)と俊樹(彩香)が目をあわせてからー
”入れ替わってしまったこと”を聡に伝えようとするとー
「ーそうだ彩香!いっしょに駅前に行かないか?」と、
聡が先に口を開いたー
「駅前…?」
彩香(俊樹)は、
駅前の蒼月ホテルが火災になっていて危ない、ということや、
これから蒼月第3小学校の避難所に向かおうとしていることを伝えたー
するとー
「ーーははっ そっか。 俺はとりあえず、駅前行くから」
と、聡は笑ったー。
「ーー駅に何かあるの?」
俊樹(彩香)は、思わず俊樹の身体であることを忘れて
普通に喋ってしまいー
”あっ”と内心で焦ったもののー
聡は普通に反応してくれたー。
「ーーいや、すげぇらしいんだよ!駅前の火事!」
スマホを手にしながら呟く聡ー
「ってか、地震やばいよなー。
マジさっきからテンションあがっちゃってさ~」
聡が笑いながら言うー。
「ーーさ、聡ー?」
俊樹(彩香)は思わず、表情を曇らせるー。
「ーーいや、だってさ、こんなの見たことないじゃん!
マジでゲームみたいで、すごいし、
駅前のホテルも、ほら、あんな燃えてるー!」
遠くに見える炎を指さしながら、聡は笑うー。
「ーーーー……何言ってんのー?」
不愉快そうに、彩香のフリをした彩香(俊樹)が
聡を睨みつけるー。
「ーーせっかくだからさ、動画に撮ろうと思ってさ!
撮影ミッション的な? ははっ!」
聡の言葉にー
彩香(俊樹)は
「ーーこれは、ゲームなんかじゃないんだよ」と、
ひきつった笑顔を浮かべながら反論するー
俊樹(彩香)は気まずい空気を察して
俊樹のフリをしながら「き、君も、一緒に避難所にー」と、
割って入るー。
だがー
その直後ー
駅の方向から爆発音が聞こえてー
聡は嬉しそうにスマホで動画を撮影し始めるー
「すっげぇ…すげぇ…ゲームみたいだ…!すげぇ!」
聡は目を輝かせながら、そのまま駅の方に走っていくー。
「ーーさ、聡!」
思わず叫んでしまう俊樹(彩香)ー
立ち去っていく聡はー
”いつものように”とても楽しそうだったー
でもーーー
”どうしちゃったの…聡…?”
俊樹(彩香)は、そう思わずにはいられなかったー。
彩香(俊樹)は「君の彼氏は、いつもあんななのかー?」と、
不愉快そうに呟くー
俊樹(彩香)は「ううん…いつもはー…優しくて…
一緒にいると安心できるのにー」と、返事をしながらー
聡の後ろ姿を見つめるー。
その直後ー
再び強い揺れが二人を襲うー。
「危ない…!そっちに!」
彩香(俊樹)が、近くの建物が崩れかけているのを見て、
建物から離れるように、と叫ぶー。
幸いー
すぐに揺れは落ち着いたものの、道路には亀裂が入りー
建物が半壊ーー
聡の向かった方向に進むことは困難な状況になってしまったー。
「ーーー聡ー」
不安そうに呟く俊樹(彩香)ー
「ーーひとまず、避難所に向かおうー」
彩香(俊樹)が言うと、俊樹(彩香)はしばらく戸惑った様子を
見せてから頷くー
”聡…無事でいてね”
俊樹(彩香)は、そんなことを思いながら歩き出すー
けれどー
彩香(俊樹)は険しい表情を浮かべていたー。
被災地ではー
”人”はーー
支えにも、敵にもなるー。
俊樹は、それをよく知っているー。
助け合いー
支え合いー
暖かい一面ばかりが、世間では報じられるー
けれどー
決して、そうではないー。
光の裏には、闇があるー。
空き巣を繰り返す火事場泥棒ー
パニックを起こす人ー
そして、極限状況下で攻撃的になったりー
理性を失う人ー
人は、”支え”にも”恐怖”にもなるー。
彩香(俊樹)は、彩香の彼氏である聡の先ほどの雰囲気を見て
そのことを”再び”噛み締めるのだったー
③へ続く
第3話「避難所」
先ほど発生した地震でー
蒼月市の複数個所で、火災の通報が相次いでいますー。
ライフラインにも影響が及んでおり、
広範囲での停電・断水が発生している模様ですー。
地震発生から2時間が経過した現在でも
活発な余震活動が続いていますー。
命を最優先に、
落ち着いて、身を守る行動を取ってくださいー
先ほどー
蒼月市の地震発生を受け、
首相官邸の危機管理センターに官邸連絡室を設置、
現在、情報収集にあたっておりー……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主な登場人物
月森 彩香(つきもり あやか)
高校3年生。修学旅行中に地震に巻き込まれる。
日向 俊樹(ひゅうが としき)
彩香を助けた謎の男。
的場 聡(まとば さとし)
高校3年生。彩香の彼氏。
相馬 晴美(そうま はるみ)
高校3年生。生徒会長。誰にでも優しい。
木下 響子(きのした きょうこ)
高校3年生。彩香の親友。
早乙女 美穂(さおとめ みほ)
高校3年生。大人しいタイプの子。
黒井 健太郎(くろい けんたろう)
高校教師。影で女子を盗撮しているという噂も。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
★あらすじ
修学旅行中の少女・彩香を襲ったのは、
修学旅行で訪れていた蒼月市を震源とした巨大地震ー。
彩香は、地震発生時に自分を助けてくれた謎の男・俊樹と
入れ替わってしまい、そのまま行動を共にすることに
なってしまったー。
街の想像以上に悲惨な状況に呆然としながら、
二人は、一番近くに存在する避難所・蒼月第3小学校を目指すー。
そんな中、彼氏の聡と再会した彩香ー。
しかし、聡は、”火災現場を撮影しにいく”と、嬉しそうに語り、
そのまま立ち去ってしまいー
困惑する中、再び蒼月第3小学校に向かって歩き始めたふたりはー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーねぇ…」
避難所の蒼月第3小学校を目指していた彩香(俊樹)と、俊樹(彩香)ー
俊樹(彩香)が、足元に気を付けつつ、歩きながら
ふと口を開いたー。
「どうした?」
髪を邪魔そうに払いのけながら、彩香(俊樹)が言うと、
俊樹(彩香)は「うん…え~っと…えーっとね…」と、
少し戸惑いながら言葉を口にするー
彩香(俊樹)は「?」と、首を傾げるー。
「ーーあの…あのね…。
トイレ…トイレ行きたくなっちゃったんだけど…
どうすればいいかな…?」
俊樹(彩香)が顔を真っ赤にするー
「ーーーあ~~~~トイレか」
彩香(俊樹)は立ち止まると、綺麗な黒髪を掻きむしりながら呟いたー。
「ーーーそういえば、そんな暇なくて、
ちょっとトイレ我慢してたんだったな…俺」
彩香(俊樹)はそう呟くー。
入れ替わる前の”自分の尿意”的に、そろそろ限界が近いことは
なんとなく想像ができるー。
「ーー我慢しないでよ!トイレ行っておいてよ!」
俊樹(彩香)がツッコミを入れると、
「ーーこんなことになるとは思わなかったし、それどころじゃなかったしー」
と、彩香(俊樹)は髪を掻きむしりながら、
”自分のことを追ってきていたスキンヘッドの男”のことを思い出すー。
「ーーーまぁ…ちょうどここなら、見られる心配もないだろうしー
そこの草むらにー」
彩香(俊樹)が言うと、
「えぇっ!?」と、俊樹(彩香)は困惑した表情を浮かべるー
「ーちょ、ちょ、ちょっと!女の子に…外でさせるつもり!?」
俊樹(彩香)が喚くー。
そうこうしている間にも、ギシギシ、と周囲が音を立てて、
軽く地面が揺れるー。
すぐに揺れは収まりー
彩香(俊樹)は周囲を見渡すと、
「気持ちはわかるけどー…この先、そうは言ってられない状況が
しばらく続くんだー」と、険しい表情で呟くー
「ーー断水が発生すればー…普段のように清潔な状態で
トイレは使えないー」
彩香(俊樹)の言葉に、俊樹(彩香)は「…もう…!」と、
不満そうに呟きながらも、彩香(俊樹)に言われた通りの場所で
ズボンを下ろそうとするー
「ーーー…っっ…」
ズボンを下ろした状態で、顔を真っ赤にして俊樹(彩香)は
上を向いているー
「ーど…どうした?」
彩香(俊樹)が、困惑しながら俊樹(彩香)に尋ねるとー
「ーわ、、わたし…聡…彼氏とも、
エッチなこととかはしたことなくて、
男の人のこういうの…見たことなくてー…
そ、、それに触るのは…ち、ちょっとー」
ぷるぷると震えながら俊樹(彩香)が恥ずかしそうにするー
「ーーそ、そっかー」
”乙女みたいに恥ずかしがってる俺の姿を見るって、変な気分だな”と
思いつつため息をつくとー
「ーーじゃあ…俺が君の…俺の身体の、ソレ、うまく向きを調整するから
俺が合図したら…出してくれ」
と、彩香(俊樹)が俊樹(彩香)の近くに歩いていくー。
そしてー
俊樹の身体の、ズボンから出した肉棒に手を触れーーー
「あ~~~~!ダメ!タイム!!タイム!!!」
俊樹(彩香)が叫ぶー。
「ーーき、君は忙しいやつだなー…今度はどうしたんだよ?」
彩香(俊樹)が苦笑いしながら、そう呟くと、
「ーわ、わ、わ、わたしの手で、これ、さ、触るのはー
ちょ、ちょっと!」と、俊樹(彩香)が顔を真っ赤にしながら呟くー
彩香(俊樹)は、彩香の綺麗な手を見つめてからー
「ーーーーじ、、じゃあ、君が自分でやるしかー」と、
戸惑った様子で呟くー。
「ーーも、、も、、もう…やるしかないんでしょ!」
俊樹(彩香)もようやく決心がついたのか、目を瞑りながら、
手でソレを掴んで、不慣れな様子で、ようやく、尿意との戦いを終えたー。
「ーーよくできました」
彩香(俊樹)が揶揄うような口調で言うと、
俊樹(彩香)は「もう…」と、顔を赤らめながらズボンを上げて
戻ってくるー。
「ーーーー蒼月第3小学校はこのすぐ先だー。
そこでまずは、状況を整理しようー」
再び通りに出ると、周囲の人々の混乱した様子が
視界に入るー。
そこら中に乗り捨てられた車がそのままにされていてー、
泣きじゃくっている人や、どうすればいいのか分からず困惑している人ー、
ひたすら電話をかけている人ー、
色々な人の姿が見えるー
「ーーーーあっ!!!!」
俊樹(彩香)が叫ぶー。
「ーーわ、、わたしがあなたの身体でトイレを済ませたってことはー…
も、もしかして、あなたがわたしの身体で…トイレを済ませるってことー?」
顔を真っ赤にしながらそう呟く俊樹(彩香)に対し、
彩香(俊樹)は「ま…まぁ…そうなるなー」と、スカートのほうを見つめるー。
「ーーだ、大丈夫だよ。君の身体を必要以上に見たりはしないしー」
彩香(俊樹)が言うとー
「ーそ、そんなこと言っても、色々見えるでしょ!?」と、
俊樹(彩香)は、再びツッコミを入れるー。
「ーーーーーー」
彩香(俊樹)は、ため息をつきながら、髪の毛を少し触ると、
ジト目で俊樹(彩香)のほうを見つめたー
「ーじゃあ…”わたし”漏らしちゃうケドー…?」
彩香の口調を真似て、彩香(俊樹)がいじわるっぽい表情で言うと、
俊樹(彩香)は「それはもっとダメ!」と、叫ぶー。
「ーーはは、面白いな君はー…」
彩香(俊樹)はそこまで言うと、真剣な表情に戻ってからー
「でもまぁ、トイレ我慢できなくなりそうになったらー…
その時は色々教えてほしいー」と、俊樹(彩香)に向かって、
少しだけ申し訳なさそうに呟いたー
「ま…まぁ…この状況じゃ仕方ないよね」
俊樹(彩香)もようやく納得するとー
”避難場所”に指定されている蒼月第3小学校の校門前まで
到着したー。
人々が、押し寄せていて、
学校の敷地内は混乱状態ー。
「ーーーー」
俊樹(彩香)はゴクリと唾を飲みこむー。
”彩香は心配性すぎやって”
親友の響子に、さっき言われたばかりの言葉を思い出すー。
”そうだよねー…大丈夫だよね”
みんなは、きっと無事ー。
一緒の行動班だった、親友の響子、生徒会長の晴美、大人しい性格の美穂の
ことを思い出しながら、深呼吸をすると、
彩香(俊樹)が俊樹(彩香)の肩を優しく叩いたー。
「ーー大丈夫。きっと、君の友達もここにいるさー」
その言葉に、俊樹(彩香)は「うん…」と、微笑んで頷くとー
「ーーー……って、今、わたし、わたしに惚れそうになったけど!?」と、
声を上げたー。
「ははー」
そんな風に言いながら、避難所となっている蒼月第3小学校の敷地内に
足を踏み入れるー。
地震からまだそれほど時間が経過していないこともあり、
”秩序の保たれた避難所”というよりかは、人がごった返していて、
平静とは程遠い状況だったー。
「ーーーーあ!」
校庭を見回していた俊樹(彩香)はー
見覚えのある姿を見つけたー。
校庭のタイヤの上で、身体を震わせながら座っていた
ツインテールの女子高生ー
同じ行動班だった早乙女 美穂の姿を発見したのだー。
「ーー早乙女さん!」
俊樹(彩香)が咄嗟に美穂の方に向かって走り出すー。
「ーーーあ、おい!」
彩香(俊樹)がそう叫ぶもー
既に時遅くー
俊樹の身体で、彩香は美穂に抱き着いてしまったー
「ーー無事でよかった~…」
俊樹(彩香)がそう言いながら美穂に抱き着いていると、
美穂は「ひっ…!?」と声を漏らしたあとに
「ど…どちら様ですかー…?」と、不安そうに呟くー
「ーーあ…え、、えっとー…」
俊樹(彩香)はようやく自分のミスに気付くと、戸惑いながら
美穂のほうを見つめるー
彩香(俊樹)はそんな様子を見ながらため息をつくとー
”早乙女さんって言うんだな”と、心の中で思いながらー
「早乙女さんー…無事でよかったー」
と、彩香のフリをしながら美穂に言葉を掛けたー
「ー月森さんーー」
美穂は、たくさん泣いたのか、目がしょぼしょぼした状態ー。
「ーーーこ、、この人はー?」
美穂が戸惑いながら、俊樹(彩香)を指さすー。
彩香(俊樹)は「わ、、わたしを助けてくれた人でー…
ここまで一緒に、みんなを探してもらってたからー…」と、
ぎこちない口調で説明したー。
「ーーーーーそっか…」
美穂は元気なく、うつむくー。
俊樹(彩香)と彩香(俊樹)の目が合うー。
俊樹(彩香)が”他のみんなは?”って聞いてほしそうにしていることを
悟った彩香(俊樹)は「他のみんなはー…?」と、口を開くー
美穂は、怯え切った表情のままー
「ーー長瀬さんと、海藤(かいとう)くんと、藤井(ふじい)さんはー
あっちにいるよー」と、体育館のほうを指差すー。
だが、班行動の最中で、生徒と教職員がバラバラになっていたこともありー
他の生徒の姿は見ていない、とのことだったー
「あとーー」
美穂は怯え切った表情で呟くー
その時だったー
「ーー月森さん!」
背後から声がして、
彩香(俊樹)と、俊樹(彩香)が振り返るとー
そこには、いつものように優しい笑みを浮かべた
生徒会長、相馬 晴美の姿があったー。
「相馬さん!」
俊樹(彩香)は思わずそう叫んでしまうー。
「ーーだれ…?あなたー?」
晴美は表情を歪めるー。
「ーー君は学習しないな!」
小声で彩香(俊樹)が俊樹(彩香)に向かって呟くと、
「この人はー」と、”俊樹”について、彩香(俊樹)は説明したー。
晴美はすぐに穏やかな笑みを浮かべると、
「ーー無事でよかった」と、彩香(俊樹)のほうを見て微笑んだー。
同じ行動班のメンバーで、
生徒会長の晴美と、早い段階で合流できたことに、
俊樹(彩香)は、ホッと一安心するー。
これでー
修学旅行の行動班がいっしょだったメンバーのうち、
2人と合流できたことになるー。
晴美は普段から、成績優秀で、頼れる女子生徒だー。
今回もー
きっとー
「ーーーそれで…他の子たちはー?」
彩香(俊樹)が、彩香の代わりに晴美に聞くと、
晴美は、さっき美穂が話したのと同じようなことを口にしたー。
「響子は?」
彩香(俊樹)が、俊樹(彩香)に小声で言われたことを聞くー。
「木下さんはー…見てないねー」
晴美は申し訳なさそうにそう呟いたー
晴美と情報交換を行う彩香(俊樹)と俊樹(彩香)ー
俊樹(彩香)は、自分が俊樹のフリをしないといけないこの状況に
歯がゆい思いをしながらも、彩香(俊樹)に協力してもらいながら
情報交換を続けたー。
その時だったー。
「ーーー!」
彩香(俊樹)が表情を歪めるー。
大地に轟音が轟くー。
学校の校舎がー
周囲の建物が激しい音を立てるー。
強い余震が再び、蒼月市を襲ったのだー
「ひっ…!?」
俊樹(彩香)が思わず声を上げてー、
その場で姿勢を低くするー。
現在地が校庭、校舎から少し離れていることから、
身の安全はある程度確保されてはいるもののー
何度経験しても、この”揺れ”は気持ち悪くー
そして、怖いモノだったー。
地震特有の音をイヤというほど聞きながらー
俊樹(彩香)は”早く収まってー”と心の中で願うー。
彩香(俊樹)は、俊樹(彩香)を守るようにしてー
近くで寄り添っているー。
それと同時にーーー
「ーー邪魔!どいて!」
生徒会長の晴美が、突然、普段は絶対に上げないような
怒鳴り声を出したー
余震の揺れが収まり始めたタイミングで、
俊樹(彩香)が、顔を上げー、晴美のほうを見つめるー。
生徒会長の晴美が、少年を突き飛ばしてー
突き飛ばされた少年は泣いていたー。
余震が発生して、校庭の真ん中に移動しようとした際に、
晴美の進行方向に立っていた少年を晴美が突き飛ばした様子だったー。
「ーーはぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
晴美は、憔悴した様子で、周囲をキョロキョロと見まわしているー。
「ーーーそ、相馬さんー?」
俊樹(彩香)が思わず、声を掛けると、
晴美は 俊樹(彩香)と彩香(俊樹)のほうを振り向くー
「ーーーはぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
晴美は、青ざめた表情で、荒い息をしながら、
彩香(俊樹)たちのほうを見つめるとー
泣き出した少年のほうを見てー
「うっさいわね…!何なのよ!あんたが邪魔だったからいけないんでしょ!」
と叫び始めるー。
その晴美の姿はー
普段の穏やかで優しい生徒会長の姿などではなかったー。
ヒステリックに騒ぎー、
駆け付けた母親と、口論を始めている晴美ー
「ーークソババア!」
晴美は最後にそう言い放つと、そのまま彩香(俊樹)たちのほうを
見ることもなく、そのまま、体育館の方に立ち去って行ってしまったー
「ーーそ、、相馬さんー…」
俊樹(彩香)は唖然としながら呟くー
その様子を見ていた、大人しい性格の美穂は、
「ーーーー…相馬さんは…おかしくなっちゃったのー」と、
俯きながら、自虐的に笑うー。
「ーーお、、おかしくー…?」
俊樹(彩香)が美穂に聞き返すと、美穂は頷いてからー
「ーー怖い…」と、静かに呟いたー。
たった今、発生した余震にどよめく周囲の人々ー。
普段とはまるで違う”光景”に、
俊樹(彩香)は、呆然とすることしかできなかったー。
そして、隣に立っている彩香(俊樹)は、
そんな様子を見つめながら、
複雑そうな表情を浮かべたー
④へ続く
第4話「地獄」
「それでは、蒼月支局の本田(ほんだ)さんお願いしますー」
ニュース番組のキャスターがそう、言葉を口にすると、
画面が、蒼月市からの中継に移り変わるー。
”はいーわたしは今、被害の大きかった蒼月市北部に
やってきていますー。
あちら、駅前からは依然として激しい炎が上がっていて、
現在、消火活動が行われている模様ですー
また、先ほど、蒼月市長のーー
ーーー!”
中継の映像が揺れるー。
画面が揺れ、カメラが乱れて
”危ない!危ない危ない!と、カメラマンの声が聞こえるー
”中継どころではない”
緊迫した様子が伝わってきて、カメラは激しく揺れながら
地面を映し出していて、何も伝わってこない状況ー
「ーーーえ~…現地では…依然として…
活発な余震活動が続いておりー」
ニュース番組の映像がー
再びスタジオに切り替わるー
スタジオから状況を伝えるキャスターは
何とか落ち着いて現状を伝えようとするもー
その表情は、強張っていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主な登場人物
月森 彩香(つきもり あやか)
高校3年生。修学旅行中に地震に巻き込まれる。
日向 俊樹(ひゅうが としき)
彩香を助けた謎の男。
的場 聡(まとば さとし)
高校3年生。彩香の彼氏。
相馬 晴美(そうま はるみ)
高校3年生。生徒会長。誰にでも優しい。
木下 響子(きのした きょうこ)
高校3年生。彩香の親友。
早乙女 美穂(さおとめ みほ)
高校3年生。大人しいタイプの子。
黒井 健太郎(くろい けんたろう)
高校教師。影で女子を盗撮しているという噂も。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
★あらすじ
蒼月市を襲った巨大地震ー。
避難所である蒼月第3小学校に到着した
彩香と俊樹は、
”入れ替わった状態のまま”、の行動を
余儀なくされることにー。
身体の違いにお互い、戸惑いつつも、
避難所では、彩香と同じ行動班だった、
生徒会長の晴美や、大人しい性格の美穂と再会を果たすー。
しかし、余震が来ると同時に、晴美は普段の晴美とは真逆の
乱暴な言動を露わにするのだったー…。
自然災害への恐怖ー
そして”人”に対する恐怖ー。
あらゆる恐怖が、彩香たちをも、飲み込もうとしていたー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
足元に気を付けながら体育館に移動した
彩香(俊樹)と、俊樹(彩香)ー
「ーーあ、月森さんー!」
体育館の一角に、避難していたクラスメイト数名の姿を見つけた
俊樹(彩香)は手を振ろうとしてー、
彩香(俊樹)に手を掴まれたー。
「ーー君は本当に学習しないなー」
彩香(俊樹)が苦笑いしながら言うと、
俊樹(彩香)は「あ、つい…」と、申し訳なさそうに笑うー。
どうしてもー
”身体が入れ替わった”という現実に頭がついていかず、
咄嗟に「いつも通り」振る舞ってしまうー。
今、俊樹(彩香)が、クラスメイトたちに手を振っても、
みんなからは”誰?あの人?”としか、思われないと言うのにー。
「ーーー三人の名前は?」
彩香(俊樹)が、クラスメイトたちに向かって
作り笑いを浮かべながら手を振るー。
俊樹(彩香)は、三人の名前と、特徴を素早く伝えるー。
長瀬 裕梨
海藤 守
藤井 理絵ー
体育館で再会した三人のクラスメイトの名前だー。
裕梨は、噂好きの女子で、
父親は警察官ー
守は、威勢だけはいい男子生徒ー。
理絵は、ギャルな女子生徒だー。
三人の特徴を聞くとー、
彩香(俊樹)は「そっか」と言いながら、
三人に近付いたー
「ーーみんな、無事でよかったー」
彩香のフリをしながら言うと、
避難していた三人のうちの一人、クラスメイトの長瀬 裕梨が
口を開いたー
「ーーー月森さんも、無事でよかったー…!
でも…その人はー?」
裕梨が表情を曇らせながら、俊樹(彩香)のほうを指差すとー、
「ーえ~、っと、わたしを助けてくれた人!」
と、彩香(俊樹)は、俊樹(彩香)のことを、裕梨たちに紹介したー。
「ーーーそっかー…でも、まさかこんなことになるなんてー…」
裕梨が不安そうに口を開くー。
「ーーあ~~もう、マジこういうの無理ー」
ギャルな理絵が、不満そうに怒りを爆発させるー。
「ーーっていうか、あんたも、さっきからびびってるだけで
役立たないんだけど!」
ギャルな理絵が、大柄で目つきの悪い男子生徒・守に
文句を言い始めるー
「び、び、び、び、び、び、びびってねーし!」
明らかにビビっているのがまるわかりな返事をする守ー
まるで不良生徒のような見た目で、
普段、大きいことを言うわりに、
いざというときはビビりで頼りないことから、
彼は”ビッグマウス守”というあだ名までつけられてしまっているー。
「ー漏らしてんじゃん」
理絵が、守のズボンを指さしながら言うと
「ちげーよ!これは地震が来た時にお茶をこぼしたんだ!」と叫び返すー。
「ーーはは…」
彩香(俊樹)は少しだけ笑いながらそんなやり取りを見つめると、
俊樹(彩香)とも相談しながら、裕梨らとしばらく会話を交わしてからー
避難所の一角に移動したー
「ーーーーふ~~~~」
彩香(俊樹)がため息をつくー。
地震発生直後からー
余震も多発していて、落ち着かないこの状況ー。
周囲は想像以上にざわついていて、大混乱しているー。
今までー
彩香がテレビで見ていた”避難所”の映像は
しっかりと仕切りが作られて、
それなりに落ち着いているように見えたー。
そんな”印象”を抱いていたー
けれどー
今のこの避難所の姿は違うー。
「ーーー…」
瞳を震わせながらその様子を見つめる俊樹(彩香)を見て、
彩香(俊樹)は呟くー。
「ーーー映像で見るのと、全然違うだろ?」
とー。
彩香(俊樹)は、避難所の様子を見つめながら呟くー。
「ーーテレビで流れる避難所の映像なんてー
ほんの一部分だからな」
彩香(俊樹)は、避難所の光景を見つめながら言うー。
映像で映し出されるのは一部であるとー。
地震発生直後の避難所は、
発生から数日経過したような、”テレビで見るような避難所の光景”とは
また違うのだとー。
「ーーー……ねぇ…あなたは…前にも被災したことがあるの?」
俊樹(彩香)の言葉に、
彩香(俊樹)は、彩香の手を見つめながらー
「ーーーまぁな…」と、寂しそうに頷いたー。
「ーー君はまだ小さかっただろうけどー…
俺がまだ学生だった頃に、大きな地震に巻き込まれてさー」
彩香(俊樹)が、それだけ言うと
俊樹(彩香)は「そう…」と、申し訳なさそうな表情を浮かべるー。
「ーーー…君のご両親は?」
彩香(俊樹)のその言葉に、俊樹(彩香)は、
自分の住んでいる県を口にするー
「ーーそっかー…よかったー……」
安心そうにそう呟く彩香(俊樹)ー
「ーーよかった?」
俊樹(彩香)は少しだけ不快そうに呟くー。
だが、すぐに彩香(俊樹)の言葉が、悪い意味ではないと悟るー。
「ーーいや…ここから離れた場所ってことは、
少なくとも君の両親は無事ってことだろ?
…まぁ…ご両親も心配してるとは思うけどさ…
それだけでもー」
彩香(俊樹)がそこまで言うと、俊樹(彩香)は、あることを
悟り、言葉を口にしたー。
「ーーえ…待って…あなたの家族はー…?」
俊樹(彩香)の言葉に、彩香(俊樹)はー
切なさと、悲しさと、悔しさー、けれども、強さをにじませた、
形容しがたい表情を浮かべてー
少しだけ寂しそうにー呟いた。
「ーーーー…地震でみんな、死んだよー」
彩香(俊樹)の言葉に、俊樹(彩香)は「ーー!!」と
表情を歪めるー。
「ーーーーー」
彩香(俊樹)は、”過去”のことを思い出すー。
両親もーー
そしてーーー
”ごめんねーー”
妹もーーー
救えなかったー
「ーーーーさて…使えるトイレがあればいいけどー」
彩香(俊樹)が、話を変えると、静かに立ち上がるー。
「ーーー…トイレ、そんなに大変なの?」
俊樹(彩香)が呟くと、「ーーー地獄だよ」と、彩香(俊樹)は、
険しい表情を浮かべるー。
スカートをくしゃっと握る彩香(俊樹)ー。
入れ替わる前にーー
お昼を食べた際、彩香はトイレに行っているが、
そのあとすぐに地震が発生したし、
入れ替わってしまったためー
それが”彩香の最後のトイレ”だったー。
入れ替わったあと、俊樹は彩香の身体でトイレには行っていないー。
そのためー…
そろそろ”限界”なのは、俊樹になった彩香にもよく分かっていたー。
”被災地では、トイレ問題が生じる”
それは、彩香も理解しているー。
だが、その実情は、彩香の想像以上のものだったー。
「ーー災害用のトイレなんか、すぐには到着しないしー、
断水が起きてれば水洗トイレはすぐに地獄になるー
とても、使えるような状態じゃないー」
”災害時に臨時に設置されるトイレ”は
ワープしてくるわけではないー
そこら辺のおじさんが、ほらよ!と持ってきてくれるわけでもないー
災害発生後、すぐに地面から生えてくるわけでもないのだー。
しかしー
水洗トイレは止まっているー。
そんなトイレを利用していれば、あっという間に、
トイレは使い物にならなくなるし、衛生面の問題が生じるー。
彩香(俊樹)は困惑の表情を浮かべるー。
「ーーえ…でも……それじゃ…トイレはー」
俊樹(彩香)が言うと、
彩香(俊樹)は「だから地獄なんだー」と、答えるー。
その表情には、微塵も”冗談”の色は浮かんでいないー。
過去に地震を経験したという俊樹が、これだけ不安そうな
表情をしているのだからー
想像を絶する苦労がー
これから待ち受けていることは、安易に予想できたー。
「ーーーーーーーどうするの…?」
俊樹(彩香)が言うとー
「ーー…俺と君の場合は、さらに地獄だー」と、
困惑の表情で、彩香(俊樹)は呟くー。
そうー
彩香と俊樹は”入れ替わった”状態だー。
俊樹は”女”としてトイレを済ませることに慣れていないしー
当然、彩香は”男”としてトイレを済ませることに慣れていないー。
仮に平常時に入れ替わってしまったとしても、
男と女の違いで戸惑うだろうしー、
仮に自分の身体で被災してしまったとしても、
災害時の過酷なトイレ状況で戸惑うだろうー。
しかしー
今の二人は、その”両方”の状況に陥っているー。
「ーー…最悪…君の身体で…その……」
彩香(俊樹)は、それだけ呟くと、俊樹(彩香)は表情を歪めたー。
幸いー
避難所では、学校があらかじめ備蓄していたのか、
誰かが運んだのかは分からないが、
非常用の簡易トイレが用意されていたー。
”トイレ”と言ってもー
イメージするようなトイレではなく、
本当に、簡易の使い捨てのような商品だー。
「ーーー悪いけどー…
決めてくれー…
簡易トイレでしてもいいかー?
どうしても、って言うならー…このままー」
彩香(俊樹)が顔を赤くしながら、もじもじして呟くー。
俊樹(彩香)は、彩香になった俊樹が、
彩香を気遣ってギリギリまでトイレを我慢してくれたことを悟りー、
「ーーーもう…いいよ…気を遣わせてごめんー」とだけ呟きー、
周囲から身を隠すようにしながらー
彩香(俊樹)は、トイレを済ませたー。
俊樹になった彩香が”女としてのトイレ”のアドバイスをしー
彩香になった俊樹は”非常用の簡易トイレ”の使い方を、伝えながら
用を済ませたー
幸いー、
俊樹にそういう知識があったのは、良かったのかもしれないー。
「ーーーー…あんな風に使うんだ…」
普段のトイレのありがたみを実感しながら、俊樹(彩香)が言うと、
「ーーあれも、すぐになくなる」と、
彩香(俊樹)は、不安そうに呟いたー。
その時だったー。
体育館が音を立てて、再び揺れを感じるー。
周囲ではパニックからか、声を上げる人々もいるー
「ーーもうイヤ…!いい加減にしてよ!」
揺れが収まると、ひときわ大きい声で、誰かが叫んだー。
「ーーー相馬さんー」
俊樹(彩香)が、不安そうに、体育館の中央あたりで叫んだ
生徒会長の晴美のほうを見つめるー
晴美は、青ざめた表情で「何なの…?なんでわたしがこんな目に…?」と
震えながら呟くー。
「ーーいつまで揺れてんの!うざい!うざい!」
晴美が、怒り狂った様子で叫ぶー。
「ーーー」
彩香(俊樹)と俊樹(彩香)が、顔を見合わせてから
彩香になった俊樹が、彩香として晴美に声をかけるー。
「ーーはぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
晴美は、真っ青な表情で、彩香(俊樹)を見つめるー
「ーー相馬さんー落ち着いてー」
彩香(俊樹)が言うー。
相馬 晴美ー
俊樹は、この子とも当然面識はなかったがー
彩香によれば、生徒会長で、誰にでも優しく、
気配りのできる優等生だったのだというー。
悪い噂は全くなく、成績も優秀、先生からも信頼されていたのだとかー。
しかしー
今の晴美からは、到底、そのような姿は想像できないー
「ーー…落ち着いて…?誰に命令してるの…?」
晴美が彩香(俊樹)を睨みつけるー
「ーーめ…命令なんかじゃないよ…と、とにかく落ち着いてー」
彩香(俊樹)が言うと、晴美は「そうやってー…いつもいつも」と、
不満そうに呟くと、そのまま彩香(俊樹)を少し力強く押し飛ばしー
そのまま、体育館の外に方に向かっていくー
「ーー大丈夫?」
駆け寄ってくる俊樹(彩香)ー
彩香(俊樹)は「大丈夫だよ」と伝えながらもー
「ーーーみんな…”いつものみんな”じゃなくなるかもしれないー…
君もー…気を付けるんだー」と、そう、静かに呟いたー
極限状況下ではー
”普段優しい人”が、”優しい”とは限らないー
”普段頼りになる人”が、”頼りになる人”とは限らないー
「ーーーー」
俊樹(彩香)は、「みんな、無事かなー…?」と不安そうに呟くー。
親友の響子は、
地震災害発生時から、消息不明の状態だー。
ここに避難しているクラスメイトたちも、響子のことは見ていないというー。
そして、彼氏の聡は、
楽しそうに火災現場を見に行ったきりー…
「ーーー…暗いうちに行動するのは危険だー」
彩香(俊樹)はそう言いながら、
「探すなら、明日、明るくなってからにしよう」
と、呟くー。
俊樹(彩香)は頷くと、
災害発生の初日は、避難所・蒼月第3小学校で過ごすことを決めるー。
色々と話をする二人ー。
俊樹(彩香)は”そういえば、まだこの人が何してる人なのか
聞いていなかった”と、思いながらそれを聞くと、
彩香(俊樹)は「ーーまぁ…ただの会社員だよ」と、答えるー。
「ーなぁんだ…なんか、ちょっと特殊な仕事してる人かなぁ、って
思ってたのにー」
俊樹(彩香)が言うと、
「なんだよ特殊って! てか、”なぁんだ”ってなんだよ!」
と、彩香(俊樹)が声を上げたー。
「ーーーーーー」
その様子を、避難所の中を移動していた
噂好きのクラスメイト、長瀬 裕梨が遠くから
不審そうに見つめるー。
”二人の口調”に違和感を感じながらー…。
裕梨は、そのまま二人に声をかけることなく、
自分たちが集まっている体育館の一角に移動していくー。
裕梨に見られていたことを知らないまま、
彩香と俊樹は”入れ替わり”についても話し始めるー
彩香(俊樹)は「ー原因は……なんだろうな」と、呟きながらも
色々と”元に戻れる可能性のあること”を試し始めるー。
しかしー
色々試してみても、二人は元に戻ることはできなかったー
「ーーー…ひとまず、明日も君と一緒に行動するよ」
彩香(俊樹)が言うと、俊樹(彩香)は「え…」と、戸惑うー。
”クラスメイトを探しに行く”のは、自分の事情だー。
この人を巻き込む必要はないー、と、彩香は思ったのだー。
しかしー、
彩香(俊樹)が言うー。
「ーー別行動したら、君の身体で好き放題するかもしれないぞ?」
彩香(俊樹)が胸のあたりを触るような真似をしながら言うと、
俊樹(彩香)は「そ、それはダメ!」と、言いながらー
「ーでも…あなたはそういう人じゃなさそうだし…」と呟くー。
彩香(俊樹)は笑いながら
「ーーまぁ……そう思ってもらえてるなら嬉しいよー」と、答えるー
そして、真顔になると、
「別行動だと…俺もほら…女子としてどうすればいいのか
分からないこともあるし、君の友達ともし合流しても、
名前も性格も分からないからさー」と、”一緒に行動した方がいい理由”を
口にしたー
「ー確かに…それもそうねー」
俊樹(彩香)も納得するとー
彩香(俊樹)は「それにしても…余震多いな…」と呟きながら、
再び軽く揺れた体育館の天井を見つめたー。
「ーーーーー」
夜ー
俊樹(彩香)がウトウトしているのを確認しながら、
彩香(俊樹)は一度校庭の方に出たー。
”眠れないー”
そんなことを考えながらーー
”ーーーーーー”
俊樹(彩香)のいるほうを見つめるー
”君が俺の身体でいる限りー
君の身にはーー危険が迫るかもしれないー”
”入れ替わった”のも、恐らくはー…
だからーー
別行動するわけには、いかないー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
別の場所ではー
俊樹を追っていた
スキンヘッドにサングラスの男が、
瓦礫の上を歩いていたー。
そこにー
白衣姿の笑みを浮かべた男が姿を現すー。
顔は笑っているがー
目は笑っていないー
それどころか、死んでいるー。
そんな、男がー。
「ーーー”彼”を逃がしたようですね」
優しい笑みを浮かべる男ー。
「ーーあと少しだったんだ!
急に地震なんか起きやがってよォ!」
スキンヘッドの男が、不満そうに言葉を口にするとー
突然、白衣の男がスキンヘッドの男の胸倉を掴んだー
「”言い訳”は、私がこの世で最も嫌うことのひとつですー」
微笑みながら、スキンヘッドの男を掴んだ手に力を込める白衣の男ー
「ーう…う、、ぐぉぉぁあああ?」
首を絞められたスキンヘッドの男が、ドスの効いた声を上げるー
「ーーこのまま、死にてぇですか?」
乱暴な口調と、丁寧な口調が混ざった奇妙な口調で
白衣の男が言うと、
しばらくしてから、スキンヘッドの男を突き飛ばしたー
「ーーー赤岩(あかいわ)ー」
白衣の男がスキンヘッドの男の名前を呼ぶと、
赤岩と呼ばれたスキンヘッドの男は咳き込みながら「へ、、へい…」と呟くー。
「ーー逃げた日向俊樹を必ず捕まえなさいー。
言い訳は二度と許しませんー
良いですね?」
とー、
白衣の男が穏やかな口調で呟くー
「ーへ…へい…これ以上、神代(かみしろ)主任に
恥をかかせるような真似はしないのでー」
と、スキンヘッドの男・赤岩は、逃げるようにして
その場から立ち去って行ったー
「ーーーー逃げられると思わないことですー」
白衣の男・神代主任は、逃げた俊樹の姿を思い浮かべながら
静かにそう呟いたー。
⑤へ続く
第5話「深夜の避難所」
「地震発生から、半日ほどが経過しましたー。
夜になっても、活発な余震活動は続いており、
また、現地では停電・断水が相次いでいる状態ですー
先ほどー、
蒼月駅周辺のホテルの火災はようやく消火されましたが
被害状況は確認中とのことですー
また、南部では、工場の大規模火災が発生しており、
現在も、懸命の消火活動が続けられていますー。」
蒼月市北部を震源とする地震発生から半日ー
ニュースでは各局が、地震の報道を繰り返し伝えていたー
1局だけが、アニメの放送を続ける中、
残りの各局から、繰り返される地震の報道からはー
現地の過酷な状況が伝わってくるー。
しかしー
あくまでもこれは”一つの側面”を報じているに過ぎないー
現地には、
もっともっと、見えない”地獄”があるのだからー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主な登場人物
月森 彩香(つきもり あやか)
高校3年生。修学旅行中に地震に巻き込まれる。俊樹と入れ替わっている。
日向 俊樹(ひゅうが としき)
彩香を助けた謎の男。彩香と入れ替わっている。
的場 聡(まとば さとし)
高校3年生。彩香の彼氏。駅前のホテルを見に行き、消息不明。
相馬 晴美(そうま はるみ)
高校3年生。生徒会長。誰にでも優しい。蒼月小学校に避難中。
木下 響子(きのした きょうこ)
高校3年生。彩香の親友。地震発生後は消息不明。
早乙女 美穂(さおとめ みほ)
高校3年生。大人しいタイプの子。蒼月小学校に避難中。
黒井 健太郎(くろい けんたろう)
高校教師。影で女子を盗撮しているという噂も。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
★あらすじ
避難所である蒼月第3小学校に到着した
彩香と俊樹の二人。
彩香になった俊樹から、
過去にも同じような震災に巻き込まれていることを聞き、
その時の経験の話を聞かされ、
俊樹になった彩香は、”過酷な状況”をイヤでも理解せざるを
得なかったー。
クラスメイト数名とも無事に合流し、
避難所で一応の安全を確保した二人ー。
しかし、別の場所では、入れ替わる前に俊樹を追っていた
謎のスキンヘッドの男が、神代主任を名乗る白衣の男から、
”日向俊樹を捕まえるように”迫られていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
AM0:15ー
避難所となった蒼月第3小学校では、深夜になっても、
人々の声が止むことはなかったー。
泣きじゃくる者ー
パニックになる者ー
怒声を放つ者ー
どうしていいか分からず右往左往する者ー
色々な人々の姿が、そこには広がっているー。
”秩序”というものは、そこには存在しないー。
人間はー
”自然の前では無力だ”ということを、
改めて思い知らされる光景が、広がっているのだー。
人間は、自然の恩恵を得て生き、そして、自然の気まぐれで殺されるー。
「ーーーーー」
彩香(俊樹)は、体育館の壁に寄りかかりながら、近くで
寝息を立てている俊樹(彩香)のほうを見つめるー。
(ーーこの状況で、よく眠れるよな…)
彩香(俊樹)はそんな風に思いながらも、
時々、髪を邪魔そうに払いのけるー。
「ーーーーーー…」
彩香の髪を少し指でつまむと、
「ーー髪が長いってー…面倒臭いな」と、呟くー。
自分の身体だったら、速攻で理髪店に行って
短く切りそろえてもらうところだー。
まぁー…
そうは言っても年頃の少女の髪を勝手に切るわけにはいかないしー
そもそも今は理髪店も営業してないだろうけれどー
「ーーー」
彩香(俊樹)は、俊樹(彩香)を見つめるー
”眠れるときに寝ておく”
これも、とても重要なことだー。
地震発生直後は、いつ眠れるか分からないし、
十分は睡眠がとれず、体調を崩してしまう人間もいるー。
当然、状況によっては眠るどころではない場合もあるー。
ゴゴゴゴゴゴー…
と、イヤな音が聞こえるー。
悲鳴を上げる人間やー
戸惑う人間ー
彩香(俊樹)のように、身構える人間ー
反応は、様々だー。
幸いー
余震はすぐに止まるー。
しかし”立て続けの余震”が、
被災地の人々の心をさらに疲弊させ、追い詰めていくー。
小刻みな地震であっても、怖いものは怖いしー、
またいつ、大きな揺れに襲われるかも、分からないー。
「ーーー大丈夫だ」
彩香(俊樹)が、目を覚ました俊樹(彩香)に言うと、
俊樹(彩香)は、不安そうに「うん…」と呟くと、
再び目を閉じて眠り始めるー。
相当、疲れているのだろうー。
「ーーーーーーー」
彩香(俊樹)は、
”自分の寝顔を、他の人の身体で見つめる”というこの状況に
奇妙な感覚を覚えるー
「ーーーー俺…こんな寝顔、してるんだなー」
彩香(俊樹)は、自虐的に呟くー。
”ーーお兄ちゃんの、間抜けな寝顔~!”
寝坊すると、妹によく、そう笑われたことを思い出すー
「ーーこれが、俺の間抜けな寝顔かー」
彩香(俊樹)がそう呟くとー
「ーー俺?」と、背後から声がしたー。
ドキッとして振り返るとー
そこには、彩香のクラスメイトで、噂好きの裕梨の姿があったー
「ーーごめん!驚かせちゃった?」
裕梨が小声で言うと、
「ーいや、、あ、うん。大丈夫ー」と、
彩香(俊樹)は、腕組みしていたのを慌ててやめて、
無理やり笑顔を浮かべながら裕梨のほうを見るー。
「ーーーー…眠れないね」
裕梨が呟くー。
「ーーーーうん」
彩香(俊樹)は、”彩香として”裕梨に話を合わせてー
寝ている俊樹(彩香)が見える範囲内で、移動しー
体育館の外に、少し顔を出すー。
ざわついている外ー。
「ーーーーーーわたしたち、無事に帰れるのかなー…?」
裕梨が、不安そうに空を見上げるー。
地震が起きようとー
夜空は、いつものように、綺麗だー。
綺麗な夜空が、今は残酷に見えるー。
「ーーーねぇ…ところでさ」
裕梨が、彩香(俊樹)のほうを見て、ふと呟くー。
「ーーん?」
彩香(俊樹)が裕梨と目を合わせると、
裕梨が「さっき、彩香、男の人みたいな喋り方してなかった?」と、
突然、尋ねてきたー
「ーーえ!?!?えっ!?え、、あ、、え!?!?!?」
突然のことに、彩香(俊樹)は取り乱すー
「ーーあ、、え、、え~っと、君、聞いてたのか?」
咄嗟に彩香(俊樹)が、裕梨のことを”君”と、呼んでしまうー
「あ、いや、その、聞き間違えでしょ!さっきほら、
あそこで寝てる男の人の物真似して遊んでたから!」
彩香(俊樹)が言うと、裕梨は「でも、あの男の人も
女の人みたいな喋り方だったけど~?」と、疑いの眼差しを
向けてくるー
「ーそ、、それはーー…
そのーー
お互いの物真似ごっこしてたから!」
彩香(俊樹)が、指を立てながら苦笑いするとー
裕梨は「ーーーそうなの?」と、疑いの目で彩香(俊樹)を
見つめるー。
「ーーそう!そう!ちょっと、外の空気吸ってくるから、
あの男の人のことも、ちょっとは見ててあげて!」
彩香(俊樹)は逃げるようにして裕梨から
離れると、校庭の一角まで移動してきて、
ため息をついたー。
「ーーーふ~~~~~~…
女子高生って難しいな…」
彩香(俊樹)はそう呟くー
”いや、女子高生じゃなくても他人のフリをするのは難しいか”
ふと、手がたまたま左胸に触れてしまうー。
「ーーー」
彩香(俊樹)は、自分の身体を見下ろすー。
”いつもの自分”なら、見下ろして見えるのはー
自分の胴体と、足ー。
だがーーー
彩香の身体で見下ろすと、長い黒髪やー
胸の膨らみが視線に入るー。
「ーーーこれなぁ…」
彩香(俊樹)は、胸を触ると、
「ーー……ちょっとなんか…あれだよな…」と、
戸惑いの表情を浮かべるー
別に、彩香の身体をどうこうしてやろうー、という気はないー
だがー
やはり、男である以上、俊樹は、ある程度は意識をしてしまうー。
何気ない行動中に胸を感じたり、
胸に手を触れたり、
人とすれ違う時に、壁に胸が触れたりすると、
男の自分では感じることができなかった感触を感じるー
いや、感じてしまうー。
「ーーー」
彩香(俊樹)は拳を握りしめるー
だからこそー
”この状況”の恐ろしさを感じてしまうー。
もしーーー
もしもーーーーー
入れ替わった相手が”悪人”ならー?
彩香(俊樹)は、
彩香が笑みを浮かべながら、エッチなことをしている場面を
一瞬、想像してしまうー。
「ーーーー」
首を横に振る彩香(俊樹)ー
”そのために、俺がー”
そんなことを考えていると、
校庭のタイヤに座って泣いている少女の姿が目に入ったー。
早乙女 美穂ー
彩香と同じ行動班の一人だった生徒で、
大人しいツインテールの子だー
「ーーーー」
彩香(俊樹)は”声をかけるとボロが出る”と思いながら
そのまま立ち去ろうとするも、
「~~~あ~~~~」と、呟きながら髪を掻きむしりー
そのままUターンして、美穂に声をかけたー。
「ーー大丈夫?」
”彩香”として美穂に声をかけると、
泣いていた美穂は「うん…」と頷くー。
どう考えても、大丈夫じゃなさそうだー。
彩香(俊樹)は、「隣、座ってもいい?」と呟くとー、
美穂は静かに頷くー
「ーーお兄…わたしのこと…心配してるかな…」
美穂がそう呟くー。
そういえば、俊樹になった彩香から
クラスメイトについて簡単に説明された際に、
美穂は”大人しい性格”であることの他に
”大のお兄ちゃん好きで、ツインテールにしてるのも
お兄ちゃんがツインテール好きだから”などと言っていたー。
「ーーーー……妹を、心配しないお兄ちゃんなんて、いないだろ…
あ、いや、でしょー…」
彩香(俊樹)はそう呟くー
「ーーーーーー」
俊樹は思うー。
自分の”妹”のことをー。
「ーーーー……会いたいー…」
美穂がそれだけ呟くと、泣きながら顔を覆い隠すー。
「ーーー……お兄ちゃんはーー今、きっと、
君のこと、本当に心配して、必死に助けようとしてくれてるからー」
彩香(俊樹)は、美穂を慰めようとそう呟くー
俊樹にも妹がいたー。
かつて、災害に巻き込まれた際に、俊樹は必死に妹を
助けようとしていたー
だからー分かるー。
きっと、この美穂という子の兄もーーー
「ーーーーうんーーーありがとうー」
美穂は、そう呟くと「ーーわたしも…少しだけ休もうかなー」と、
体育館のほうを見つめたー。
「ーーうん。それがいいよ」
彩香(俊樹)はそう言うと、体育館の方に向かう美穂を見て
”俺もそろそろ戻るか”と、体育館の方に移動し始めるー
”あ…俺、今、”君”って呼んじゃったけど、平気だったかなー?”
そんな風に少しだけ思いながらも、
美穂は、それどころじゃなかったのか、気にする様子は
見られなかったー
体育館の中はー薄暗い。
避難してきた人間たちが持っている
スマホの光や、学校が用意した、ランプの光ー
そういったものだけが輝いているー
停電や断水ー
そういったものが早いところ復帰すれば良いのだけれどー。
彩香(俊樹)はそんな風に思いながらー
俊樹(彩香)が休んでいる場所へ近づくー
彩香(俊樹)も壁に寄りかかりながら
少しだけ目を閉じるー
ウトウトする中ーーーー
”ごめんねー”
昔ー、妹が犠牲になった時のことを思い出すー
”今日から君は、家族だー”
”ある男”のことを思い出すー
今回の蒼月市の地震が発生したときのことを思い出すー。
そしてーーーー
”先ほど蒼月市北部を震源とするー
非常に大きなーーー”
ーー!?!?
ニュースが、”恐ろしい事態”を伝えているー。
”お前をぶっ殺してやるー”
”彩香と同じ制服を着たツインテールの少女”が、
狂気に満ちた目で、彩香に向かってそう言い放つー。
ーーーーーーー!?!?!?!?!?!?
彩香(俊樹)は、ハッとして目を覚ましたー。
再び余震が体育館を襲い、
近くで寝ていた俊樹(彩香)も目を覚ますー
「ーー大丈夫だー」
それほど大きい余震ではなかったー。
彩香(俊樹)がそう合図すると、
俊樹(彩香)は「ーーこれじゃ…ゆっくり眠れないよ…」と呟くー。
繰り返される余震は、睡眠の妨げにもなるし、
大きなストレスにもなるー。
地震災害の際の”脅威”の一つと言えるー。
彩香(俊樹)は俊樹(彩香)と少しだけ会話を交わすと、
”さっき見た光景”を思い出すー。
蒼月市北部を襲うー”恐ろしい事態”ー
そしてーーー
「ーーーーー」
彩香(俊樹)は、さっきまで会話していた
大人しいツインテールの女子・美穂のほうを見つめるー。
”美穂に襲われている謎の光景ー”
「ーーーー」
彩香(俊樹)は、ため息をついてから、首を振ったー。
「ーー俺も…疲れてるんだなー」
ウトウトしている最中ー、変な夢を見てしまったー
そう、思いながら
「ーーとにかく…色々するのは、明るくなってからだなー」
と、俊樹(彩香)に向かって話しかけるー。
「ーーーうん…そうだね」
俊樹(彩香)も頷くー
こう、暗い状態では下手に動くのは危険だしー
クラスメイトを探すにしても、逆に自分の身を危険に晒すことにも
なりかねないー
「ーーーわたしの身体で、変なことしないでよね…?」
俊樹(彩香)はそう呟くとー
「ーーしないって!」
彩香(俊樹)は顔を赤らめながらそう言い返すと、
俊樹(彩香)は「入れ替わった相手が、あなたで良かったー」と、
少し安心した様子で、
俊樹(彩香)は再び目を閉じたー
”ーー今日は、寝かせないから、覚悟しときー”
修学旅行で宿泊予定だった旅館らしき場所でー
親友の響子が笑っているー
そんな、夢を見たー
本当は、そうなるはずだったのにー
地震は、全てを一瞬にして、変えてしまうー。
そんな未来は、もう、訪れないー。
現在、消息不明の状態が続いている
親友の響子が、夢に出てきたことに、
再三の余震で、目を覚ました俊樹(彩香)は
目に涙を浮かべるのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”俺は、この子を守らないといけないー
絶対にー”
彩香(俊樹)は、壁に寄りかかりながらそう考えるー
”奴ら”は、必ず、”俺”を狙いに来るー
この子が、俺の身体でいる限りー
だから、俺がこの子から離れるわけにはー
それにー
入れ替わったのはーーー
「ーー先生!」
ふと、声がしたー
ビッグマウスなんちゃらー…、
クラスメイトの男子生徒の声だー。
ふと、彩香(俊樹)が振り返ると、
ビッグマウス守と、噂好きの女子・裕梨が
体育館に入ってきた男を見て、安堵の表情を浮かべていたー
「ーー先生が来たからには、もう安心だよー」
笑みを浮かべる男ー
その男は、彩香たちの担任である男性教師ー
黒井(くろい)だったー。
「ーーー先生、他のみんなはー?」
裕梨が聞くと、黒井先生は「ー蒼月第2中学校のほうに
10人ちょっと避難してるー」と、答えるー
彩香(俊樹)は、俊樹(彩香)がまた、眠りについているのを見て、
”あの先生のことはよく分からないけど”と、心の中で呟きながらも
”彩香のために”、「先生…無事でよかったですー」と、声を
かけてから、彩香が心配している、親友・響子が、
その”蒼月第2中学校”にいたかどうかを確認したー
「ー響子?あぁ、木下さんかー…
木下さんの無事はまだ確認できてないな」
黒井先生が残念そうに呟くー。
彩香(俊樹)は「そう…ですか」と、静かに表情を曇らせたー。
「ーー…必ずみんな、無事に保護者の元に返すから、安心するんだ」
黒井先生はそう言うと、ビッグマウス守や、裕梨に向かって、
安心させるような表情で頷いたー。
裕梨が安心した様子で、さっきまでいた場所に戻っていくー。
「ーーーーーーーーーーーーー」
だがー
担任教師・黒井は、自分に背を向けた裕梨のスカートのあたりを
じっと見つめていたー
そしてーーー
俊樹(彩香)の近くに戻っていく彩香(俊樹)のことも、
また、イヤらしい目で凝視していたー
「ーーーー」
担任教師・黒井はーー
”日頃から女子生徒をイヤらしい目で見ている変態教師”ー
いやーーー
「ーーー」
黒井はスマホを手にすると、その中に保存されていた
”盗撮写真”を見つめるー。
”頼りになる先生”の”裏の顔”が、
震災によって、あぶりだされようとしていたー。
⑥へ続く
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コメント
試し読みコーナーを作った時点では
長編は4種類しかなかったのですが、
第5弾の連載を開始+ちょうど憑依空間が5周年なので、
試し読みコーナーにも
追加してみました~!!
今まで以上に難しいテーマの作品なので、
最後までしっかりと書ききれるように、執筆していきます~!☆
ここまでお読みくださりありがとうございました!!
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