<憑依>現世への未練②~やり残したこと~(完)

ある日、突然の出来事で命を落としてしまった男ー

”俺にはまだやりたいことがある”と、
彼は、あの世から逃亡して女子大生に憑依するー。

その目的とはー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーなるほどー…あくまで抵抗するつもりですかー」
一人暮らしの女に憑依した死神は、
再びサングラスをかけると、逃げ出した尚之ー…
架純に憑依している尚之の追跡を始めるー。

まるで、殺人ロボットのように、無表情で架純の追跡を始める
サングラスの女ー。

女は、架純と同じ大学生ー。
死神が女子大生に”憑依”したのは、別に趣味や
下心からではないー。

尚之が架純に憑依したことによる
”戦略的”な判断だー。

死神がもし、男に憑依すれば、
架純に憑依した尚之が、女子トイレに逃げ込んだり、
死神が憑依している男を”痴漢扱い”したりして逃亡する可能性があるー。

それを避けるために、尚之を追跡するには、
尚之が憑依した身体と”同じ性別”を選ぶ必要があったのだー。

「ーーーーくそっ!なんだよあいつ!」
架純が、背後を振り返りながら叫ぶー

「あ~~もう!走ると髪も胸も気になるし、俺より足が遅い!」
架純はそんなことを叫びながら、
必死に”やりたいこと”を成し遂げることができる場所を目指すー

”ーーー…”
サングラスをかけた女が口元をわずかに歪めるー。

架純に憑依した尚之は、逃亡しているように見えつつー
”ある場所”を目指していることに、死神は気づいたのだー。

”なるほどー…
 そういうことですかー”

サングラスに手をかけて、
”借りている身体ですし、なるべく手荒なことはしたくないですがー”と、
呟くと、路地裏に逃げ込んだ架純を見つめて、
突然、路地裏の建物の壁に向かってジャンプすると、
そのまま壁を走り始めたー。

「ーーうわっ!?なんだよあの女!?」
背後を振り返りながら架純が叫ぶー

”死神の力”で乗っ取った身体以上の力を引き出しー
サングラスの女の身体で死神は、架純を追うー。

近くの棒でスタントアクションのような動きをすると、
あっという間に架純に追いついて、
サングラスの女は笑みを浮かべたー

「逃げられると、思わないことですー」
架純の首を絞めるサングラスの女ー。

「ーお、、お、、お前…この子を…殺す気かー?」
架純が苦しそうに叫ぶー。

「いいえー…”あなたの霊”を取り出すだけですー。
 殺しはしませんー」

周囲から見ればー
女子大生が女子大生を殺そうとしているようにしか
見えない異様な光景ー。

しかし、裏路地に入り込んでしまったため、
人通りが、ほとんどないー。

ククク、っと笑うサングラスの女ー。

「しかしまぁ…あなたに追悼した男を女子大生の身体で
 殺しに行こうとするとは、悪趣味ですねー?」

サングラスの女が言うとー
架純は「は…離せ…」と、苦しそうに呟くー。

架純に憑依した尚之が向かっているのはー
”尚之に背後から追突した車の運転手”の男の家ー。
死神は、そう分析して、笑みを浮かべたー

裏路地を出て、あと30分程度移動すると、
その男の家があるー。

苦しそうに架純が、サングラスをかけた女のほうを見るー。

架純の身体から力が抜けていくのが分かるー。
いやー、尚之が架純の身体をコントロールできなくなりつつある状況ー
と、言うべきだろうかー。

尚之の霊体が、架純から抜けていくような、
そんな感触を感じたー。

「ーー大方、あの運転手を殺害して、
 あとはその身体でお楽しみをしよう、と、そう思ったのでしょうー?
 違いますかー?」

サングラスの女の言葉に、架純は「お…お前だって……女に…」と、
苦しそうに言うとー、
「それは、あなたと同じ性別の身体じゃないと、色々不便だからですよ」
と、サングラスの女がニヤリと笑ったー

架純に憑依している尚之は観念したー

”ごめんーーー”
心の中で、そう呟きながらー。

だがー

「ーーえ…愛希(あき)ちゃん…?」

偶然ー
路地の前を通りかかった”サングラスの女”ー
死神が乗っ取っている身体の”知り合い”が、”友達が知らない女の首を絞めている”
場面を目撃して、驚きの言葉をあげるー

「ーーー!」
その瞬間ー
架純は、サングラスの女ー、愛希の腹部を蹴りつけると、
愛希は驚いて、架純から手を離すー

架純は「捕まるわけにはいかないんだ!」と叫ぶとー
そのまま逃げていくー

「ーーーっ…」
サングラスを落とした愛希は、
愛希が死神に憑依されているなどとは夢にも思わず
声をかけた友達のほうを見るー。

「ーーー…すみませんねー」
愛希は、サングラスを拾いながらそう呟くとー、
「お友達の身体をお借りしていますー」
と、呟いてからー「え…!?」と驚く友達をー
死神の特殊な力で一時的に眠らせてー
”今、見た光景”を忘れさせたー。

「ーーーー」
路地の端の、周囲からは見えない位置にその子を
寝かせると、「数分で目が覚めますー」と、だけ呟いて
愛希は再びサングラスをかけて走り出したー。

・・・・・・・・・・・・・・・

「くそっ…!俺には…俺にはやることがあるんだー」
架純は、髪を振り乱しながら、全力疾走していたー。

街の人々が、
全力疾走する架純を見て、何人かが
驚いた様子で架純のほうを見るー。

これほどまでに必死に走っている女子大生など、
あまり街では見かけないからだー。

”ーー大方、あの運転手を殺害して、
 あとはその身体でお楽しみをしよう、と、そう思ったのでしょうー?
 違いますかー?”

サングラスの女の言葉を思い出すー

架純は歯ぎしりをしたー。

「全部不正解だよ…バカが!」
架純はそう呟くー。

尚之が架純の身体に憑依したのはー
決して下心からではないー。
”ある事情”で咄嗟に憑依してしまったのだー。

それが無ければ、尚之はそもそも男に憑依するつもりだったー。

結果的に、この架純という子からすれば
”どっちが良かった”のかは分からないがー、
あの時はとっさの判断でこうしてしまったー。

あの世から、霊体でとなってこの世に戻ってきた際ー、
この、架純という女子大生はー
”不審な男”に見つめられていたー

明らかに”これから架純に何かをしようとしている男”が、
架純のことを見つめていたのだー。

霊体として、宙に浮いていた尚之はそれに気づきー
”この子を逃がしてあげないと”と思い、咄嗟に架純に
憑依してしまったのだー。

今、考えればー
尚之が見た不審者が、本当に架純を襲おうとしていたのかは
分からないし、その男の方に憑依すれば良かっただけなのだが、
自分も事故で動揺していたし、仕方がなかったー。

よくよく考えればー
こんな風に勝手に身体を使われたほうが、
この子にとっては災難だったかもしれないー。

そんな風に思いながらも、尚之は架純の身体で
目的地を目指すー。

そしてーーー

「ーーはぁ…はぁ…はぁ…」
架純は、荒い息をしながら、ある場所に辿りついたー。

死神に憑依されたサングラスの女に指摘された
”尚之に追突した運転手”の家ではないー。

その家のインターホンを鳴らす架純ー。

だがー
その家の”主”は不在だったー。

「ーーーーーー」
架純は寂しそうな表情を浮かべるとー
少しだけ迷ってからー

「ー風邪…ひいちゃったらごめんな…」
と、架純の身体に向かって呟きながら
アパートの前でその部屋の主の帰りを待ったー

「ーーーーー」
サングラスの女…愛希が、架純に追いつき、
サングラスを少しだけ下げながら架純のほうを見つめるー。

サングラスは、愛希が元々愛用していたものではなくー
死神が用意した変装用のグッズだー。

「ーーーー運転手の家ではないようですねー…」
愛希はそう呟くと、少しだけ表情を歪めるー。

(まぁ、誰の家であろうとー)
そう思って、物陰から姿を現し、架純に声をかけようとした
その時だったー

「ーーー怜菜(れなー)」
架純が、別の女の名前を口走ったー。

少し離れた場所にいる愛希が、サングラスをかけなおしながら
架純のいるアパートのほうを見ると、
その部屋の主が戻ってきていたー。

”知らない女性”が待ち構えていたことに驚く
怜菜と呼ばれた女性ー

架純はそんな怜菜に対して
「しーー…信じられないと思うけどー…
 俺…俺、、尚之なんだー」
と、架純の身体のまま呟いたー

「ーーーえ…」
怜菜は表情を歪めるー。

落ち込んだ様子の玲那ー
玲那は既に”知っているー”

尚之は死亡した事故のことをニュースで見てー
尚之の両親から連絡も受けているー。

「ーーー信じられないと思うけどー
 信じてほしいー…
 俺、もう帰らないといけないんだー

 でも、これだけはー
 これだけは言いたくてー」

雪が降り出す中、架純が目に涙を浮かべながら言うと、
怜菜は「本当に…本当に尚之なのー?」と、
涙目で呟くー。

事故に遭う直前ー
尚之は”2週間後”のことを考えていたー。

何故ならー
尚之はーーー

「ーーー俺とーーー結婚してくださいー」
架純は、泣きながらそう呟くと、
怜菜は驚いた様子で、架純のほうを見つめるー

2週間後ー
尚之は、数年前からずっと付き合っていた彼女・怜菜に
プロポーズするつもりだったのだー

自宅に既に婚約指輪も用意してあるー。

鍵が無くて、架純の身体では、それを回収
できなかったけれどー

「ーーーーーーよかったーーーー」
架純は、少しだけ微笑むと、怜菜のほうを見つめるー

「ーこれ、言わないとーー…死んでも死にきれなかったからー…」
架純はそれだけ言うと、
怜菜は、架純に尚之が憑依していることを信じてくれたのか、
「尚之ー……嬉しいー」と、だけ呟いてー
架純のことを静かに抱きしめたー

周囲からすれば、意味が分からない光景ー
20代中盤の玲奈と、女子大生の架純が抱き合っているー

「ーーーー」

サングラスをかけたまま、愛希がその様子を見つめるー
雪が、髪の上に乗るぐらいには、強くなったその中でー

架純は、怜菜からようやく離れると、呟いたー。

「ーーでも…俺、死んじゃったからー。
 だからー。俺、ずっと”あっち”で待ってるからー」

架純が言うと、
怜菜は「ーー尚之ー」と、悲しそうに呟くー

「ーーあ、俺を追って来ちゃダメだぞ!
 俺、50年でも100年でも待つから、怜菜はちゃんと
 自分の人生を生きてー
 それからこっちに来てくれよな!」

架純がそれだけ言って微笑むとー

「ーそうそう、俺に遠慮して生涯独身とかしなくていいから!
 怜菜の前にいい人が現れたら、その時は俺のこと気にすんなー」

と、付け加えるー。

「あとはーー」
と、呟くと同時に、怜菜が、再び架純を抱きしめたー

「尚之ー…ありがとうー…
 何十年後か分からないけど、”ずっと”待っててねー…」

怜菜の言葉に、架純は安心した様子でほほ笑んだー

「あぁー」
とー。

怜菜は尚之の言いたいことを全て理解してー
そう答えたのだー

”俺の後を追って死んだりしないでほしい”
”俺に変に気を遣ったりせずに、この世で幸せになってほしいー”
”いつまでも悲しまないでほしい”

そんな、あらゆる気持ちを怜菜は読み取って
そう言い放ったー

”ずっと、待っててね”と言われた架純に憑依している尚之は
安心した様子でほほ笑んだー

「ーーーーーーーーーー」

その様子を物陰から見ていた愛希は
サングラスを捨てると、
「ーーーーー仕方ありませんー”特例”ですー」とだけ呟いて、
そのまま雪の中へと消えていったー。

・・・・・・・・・・・・・・・

「ありがとうー」

あの世に戻ってきた尚之は、
そう呟くと、死神は「何のことですか?」と答えるー。

「ー私はあなたを見失ったー
 それだけのことですー」

死神の言葉に、尚之は「そっかー」と笑う。
”本当は見てた癖にー”と、思いながらー。

あのあと、架純の身体を安全な場所に移動して、お礼を一人呟いて
架純を開放した尚之ー。

愛希に憑依していた死神も、愛希を安全な場所で解放してー
”こちら”に戻ってきたー。

「ーでも、おかげでもう未練はないしー
 怜菜も、きっと前向きに生きて行ってくれると思うー」

と、呟くと、尚之は
「ー手間をかけさせて、悪かったなー」と
死神に向かって呟くと
意を決したように、手を差し出したー

「ーー連れて行ってくれー」
とー。

死神は、少しだけ表情を緩めると、
「言われなくてもそうしますよ。それが私の仕事ですからー」と、
尚之の手を掴んだー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

今年最初のダークではない(?)憑依モノでした~!☆
(初詣のお話も比較的ダークじゃない感じかもですケド…)

作中では書きませんでしたが、
架純と愛希は、死神が去る際に、
”記憶が飛んだことを怖がらないように”うまく乗っ取られている間の
記憶を調整してから去ったので、
二人とも、そのまま健康にも影響なく、正気を取り戻したあとに
普通に暮らしている設定デス~★

お読みくださりありがとうございました~!!

憑依<現世への未練>
憑依空間NEO

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