<憑依>現世への未練①~突然の終わり~

「俺にはまだ、やりたいことがあるんだー」

ある日、突然の出来事で命を落としてしまった男は、
あの世から逃亡ー
現世の女子大生に憑依して、一人、逃亡を始めるー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーえ」
男は、表情を歪めたー

「ーー人生、お疲れ様でしたー」
黒っぽいーー
人間ではない”何か”が、男の前でそう呟いたー。

「ーーは…?いや、い、意味が分からないけどー」
男がそう言うと、
目の前にいる”人間ではない”と明らかに分かる
人型の何かが、首を横に振ったー。

「ーー川本 尚之(かわもと なおゆき)さんー。
 残念ですが、あなたは死んだのですー」

その言葉に、男ー、尚之は表情を曇らせながら
「ーーは…?いやいやいや、冗談きついってー」と、
困惑の表情を浮かべるー。

軽そうな雰囲気の尚之を見て、
目の前にいる人型の何かー”死神”は、
尚之のほうを冷たい目で見つめ返すー。

「ーーだ、、だって俺ー」
尚之は”自分の状況”を思い出すー。

20代中盤の尚之は、
仕事帰りにコンビニに立ち寄り、
ミートソースパスタと明太子のおにぎり、
そして、ホットのお茶を一つ、
あとは、楽しみにしていた漫画の最新刊が
発売されていたことに気付き、
それを購入して、レジで会計を済ませたー。

そのあと、自分の住むアパートに向かいながら
”2週間後のこと”を考えながら、
”早く帰らないとホットのお茶が冷めちまうな”
などと、考えていたー

はずだー。

「ーーいや、急に死ぬとかあり得ねぇだろ!?」
尚之が言うと、
死神は首を横に振るー。

「死ぬ人間の多くは、
 ”自分が今日死ぬ”などとは夢にも思わないまま
 最後の1日を始めるものですー。

 自ら命を絶つ人は、話は別ですがー
 大抵の人間は
 ”最後の日の朝”を、まさか今日が最後だと思わないまま
 迎えるものですー。

 川本 尚之さんー。
 あなたも、そうだー。」

その言葉に、尚之は「ふざけるなよ!そんなことあるものか!」と叫ぶー。

「俺はまだやりたいことがあるんだよ!」

”死神”の胸倉を掴む尚之ー。

しかし、こういう風に
”取り乱す人間”は、よくいるのだろうー。
死神が全く動じることなくー
「えぇ、それも分かります」と頷くー。

「ーですが、”はいそうですか”とは言えませんー
 それをしていたら、キリがなくなるー」

一人の”やりたいこと”を許せば、
僕も、俺も、わたしも、となるのは目に見えているー
だから、規則は規則なのだと死神は説明するー

「ーーはっ…ふざけんじゃねぇよ。
 大体ここはどこなんだよ。
 俺が死んだとか、絶対あり得ねぇし、
 話の内容によっちゃ、警察に通報するからな!」

尚之の言葉に、死神は少しだけ寂しそうに、
「ーーあなたは、死んだのです」と繰り返すー。

「ーそんなわけねぇだろ!
 俺は普通に道を歩いてただけだぞ!
 どうやって死ぬって言うんだ!?」

尚之の言葉に、
死神は、少しだけ考えたあとに、手を光らせると、
何もない空間に”立体映像”のようなものを表示したー。

コンビニの服を手に、夜道を歩く尚之ー。

だがーーー
次の瞬間ー

尚之の身体が、突然吹き飛ばされてー
無残な姿を晒すー。

「な…なんだよこりゃ…」
尚之は唖然とするー

尚之の身体は、見るも無残な状態ー
そしてー
尚之をそんな状態にしたのはー
背後から無灯火で迫ってきていた車だったー

最新の車だったためか、エンジン音もほとんどせず、
風が強かったこともあり、尚之は車の存在に全く気付かず、
まさか幅広い歩道の端っこにまで車が突っ込んでくるとは
夢にも思っていなかったのだー

跳ねられた瞬間ー
尚之は”ほぼ即死”だったー

だから、尚之に”死の自覚”が一切ないのだー。

「ーーーご納得いただけましたか?」
死神が言うー

「ーーー…俺は…車に跳ねられて死んだってことかー?」
尚之が、立体映像に写る”無残な自分”を見つめながら
呟くと、死神は「ええ」と、呟いたー。

「ーーーーご案内しますー」
死神は淡々と”あの世”に、尚之の霊を導こうとするー。

「ーーーーーーーーー…」
尚之は、沈黙して、周囲を見渡したー。

ほとんど何もない白い雲のようなものに包まれた空間ー。

だがー
少し先の床の部分に、”光の渦”みたいなものが
見えることに、尚之は気づいたー

”俺は…死にたくないー”
”俺には…どうしてもやらねぇといけないことがあるんだー”

尚之はー
”下”に光の渦が繋がっていることから、
”ここが天国なのだとすれば、あの光の渦をくぐれば下にー
 つまり、生き返ることができるのではないか”と、考えたー。

普通ー
そんな考えにはたどり着かないかもしれないー。

けれどー
尚之は”生き帰りたい”
その一心だったー。

「ーーーー俺は、まだやらなきゃいけないことがあるんだよ…!」
尚之はそう呟くと、突然走り出したー

「ーー待ちなさい!」
死神がすぐにそれに気付いて叫ぶー

だがー
尚之は「ーあの世なんて、ごめんだぜ!」と叫ぶと、
躊躇することなく、光の渦に飛び込んだー

するとー
白い空間の中を激しく落下するような感覚のあとにーーー

「ーーー!!!!」
見覚えのある光景が見えてきたー

まるで”航空写真”のような光景ー

そうー
現世の上空に、尚之は到達したのだったー。

「ーーーマジか…!へへへへへ!」
尚之はそう呟くと、自分の霊体を動かしながら
地上まで向かっていくー。

そしてーーー

「ーーー!」
ちょうど、道を歩いていた生足を晒している
スタイルの良い女子大生を見つけるとー
一旦は立ち去ろうとしたが「!」と、表情を変えてから、
再びその女子大生を見つめたー

「取り憑いたりできるのかな?」
そう呟くと、女子大生に向かって自分の霊体を重ねたー。

「ーーーうっ…」
ビクンと震えてー
尚之に、急速に生身の肉体の感覚が戻ってくるー

「ーーうぉっ…マ、、マジかー」
口から出たのは可愛らしい女の声ー

「ーーお…や、、やべぇ…」
ショートパンツ姿の女子大生が晒していた生足を見てー
”寒いだろこれ”と、呟くと、
「あっ!いけねぇいけねぇ」と呟いてから
突然猛ダッシュすると、その場から、女子大生は姿を消したー

・・・・・・・・・・・・・・・・

「困りましたねー」
死神は一人、そう呟いていたー

先ほどの光の渦は、偶然、”他の死者”がこちらに
やってくる際に発生したモノー。

タイミングが悪く、尚之を連れていく直前にそれが
発生してしまいー
尚之が”現世とあの世”がつながった瞬間に、
それを使って現世に戻ってしまったー

「ー仕方ありません」
死神はそう呟くと、”現世への扉”を開き、
静かに呟くー。

「”回収”するしかありませんねー」
その言葉と共に、死神は、現世へと舞い降りー、

「ーーーーー…」
静かに周囲を見渡したー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー澤田 架純(さわだ かすみ)ちゃんかー」
架純は、自分の学生証を見つめながらそう呟いたー

”おしゃれ”という感じの女子大生だー。

「ーーっても…これは寒すぎるだろー」
公園のベンチに座りながら、足をあげて
生足を見つめるー

「おしゃれのためとは言え、
 こんな風に寒い思いをしてまで、
 足を晒す意味は俺には理解できねぇ~…」

架純の声でそう呟きながらも、
「なんかいいことあるのかなぁ」と、不思議そうに、
ショートパンツから晒された生足を見つめるー

今は、冬だー。
正直、滅茶苦茶寒いー。

尚之からすれば、こんな風に足を晒す子の心情は
まるで理解できなかったー。

”せめて、足を晒すならタイツとかストッキングとかさ…”
そんな風に思いながらー
「っと、いけねぇ」と、立ち上がるー。

「ーーーー」
周囲で遊んでいる子供を見渡すと、
架純の身体で「俺にはやることがあるんだー…」と、
静かにそう呟き、
”自分の家”の方へと向かっていくー。

この子の家ではなく
”尚之の家”のほうだー。

どうしても、やらないといけないことがあるー。

だから、尚之はこの世に帰ってきたのだー。

”本当はなぁ…”
生足を見つめながら、”こんなつもりじゃなかったんだけどな”と
呟きながらも、”もう、憑依してしまった以上は仕方ない”と、
「ーちょっと身体を貸してもらうからな」と、静かに呟くー

しかしーーー
尚之は自分の家に行く前にー、と
架純の足を止めて少しだけ苦笑いしたー。

「ダメだ。寒すぎる。タイツ買お」

”よくもまぁ、寒い季節にこんな足を晒せるよなぁ”

そんな風に思いながら、近くの中規模のデパートに入ると、
「デニールって何が違うんだったっけな…」と、呟きながら
タイツの種類を適当に選ぶー。

「まぁ、一番暖かそうなやつで…」
そう呟きながら、”とにかく寒い”と、思いながら
”ってか、どこで着替えるんだよ…?”と思いつつ、
自分の家の方に向かうー

この子の住所は知らないし、別にこの子の家に行くのが
目的ではないー。

そんな風に思いながらー
自分の家にやってくるー

「ーーーーって…何やってんだ俺はー」
寒い生足に震えながら、尚之の家の前にやってきた
架純はあきれ顔でそう呟くー。

「ーーこの子が、俺の家の鍵、持ってるわけねぇじゃん…」
そう思いながら、周囲をキョロキョロして
”仕方ねぇ”と思いながら、
「とにかくタイツをー」と、適当な場所でタイツを開封して、
それを身に着けようとするー。

「ーーーーーーーーーー」
そんな様子を、少し離れた場所から見つめる女の姿ー

女は、サングラスを身に着けて、顔があまり分からないようにしているー

”ーーーー回収、させていただきますよー”
サングラスの女は静かにそう呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・

タイツを履き終えると、
架純は「いきなり死ぬなんて冗談じゃねぇ」と呟きながら
「っていうか、乗っ取る身体間違えたかもなー」と、困惑の言葉も口にするー

”仕方がなかった”とは言え、
自分のことを考えるのなら、
自分と同じような男の身体を借りたほうが良かったー

寒い足もそうだし、
髪も邪魔で気になるしー
胸もやっぱり気になるしー
咳き込んだり、走ってはぁはぁ言ったりすると
ドキドキするー。

咳も女の咳だし、
はぁはぁ言っても女だしー
尚之を惑わす要素が、そこら中にあるー。

「ーーでも、放っておくわけにはいかなかったしなぁ…」
そう呟いていると、前からサングラスをかけた女が近づいてきてー
突然、その左手が黄色く光ったのが見えたー

「ーー!?!?!?!?」
咄嗟に女から離れる架純ー

「ーーおや、気づかれてしまいましたかー」
サングラスの女が言うー。

「ーな、な、なんだお前はー!?」
架純が叫ぶと、サングラスの女は
静かに笑みを浮かべたー

「なんだとはご挨拶ですねー。
 川本 尚之さんー」

その言葉にー
サングラスの女が”死神”であることを理解した架純ー

「ーー…お、、お…俺は…!俺にはやりたいことがまだあるんだよ!」
架純が叫ぶと、
サングラスの女は微笑むー

「えぇ、分かってますー
 ですが、それはみんな同じこと。
 やりたいことを100%終えて人生を終える人間など、
 少ないものですー。

 特例を認めるわけにはいきませんー」

そう呟くと、サングラスの女がサングラスを外して笑うー。

その左目は黄色い光を発しているー

「ーー化け物めー…!」
架純が呟くと、
サングラスをかけていた女は、静かに微笑んだー

「ーーおやおや…この身体は人間のものですよ?
 あなたを追跡するために一時的にお借りしているだけでー」

女の言葉に、架純は”とにかく、こいつを振り切らないとー”と、
女の反対側に向かって走り出したー

②へ続く

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彼の”現世に残した未練”とはー…?
続きはまた明日デス~!

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