人を皮にする力で
庶民を皮にして欲望の日々を送るブロンツィーニ家の三人息子。
しかし、跡目争いが勃発して…?
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「ーー次期当主は、私だー」
ブロンツィーニ家次男のベルトランド・ブロンツィーニは、
紅茶を口にしながら笑みを浮かべたー
「ーーへぇ、でもお前は次男だろ?」
近隣を支配する貴族・ソルレンティーノ家の次期当主である
一人息子、フェルディナンドがそう呟くー。
「ーー父上の話は、聞いているだろう?」
ベルトランドが紅茶の入ったカップを置きながら言うと、
フェルディナンドは「あぁ、気の毒だったな」と、頷くー。
「ーーでも、お前のことだ。父君も”皮”にしたんじゃないのか?」
フェルディナンドが、揶揄うようにして言うと、
ベルトランドは「まさか」と、動揺を一切見せずに淡々と呟いたー
フェルディナンドの指摘は正しいー
だがー
”格下”のソルレンティーノの息子であるフェルディナンドに
”親友”とは言え、そんなことを教える必要はないー
「ー今晩、晩餐会があるー。
そこで、”事故”が起きるー。
次期当主は、私だー」
ベルトランドの言葉に、
フェルディナンドは「ー全くー…お前みたいな兄弟が俺にはいなくてよかったぜ」と
苦笑いするー。
ベルトランドは
「ー事が済んだら、我がブロンツィーニ家と、
ソルレンティーノ家の今後についても、しっかりと話し合おう」と、
笑みを浮かべるー。
「あぁ」
フェルディナンドは、頷くー。
今夜の晩餐会ー
次男ベルトランドは、
長男のアレッシオと三男のサルヴァトーレを葬り去りー、
ブロンツィーニ家の次期当主の座に正式に就くつもりだったー。
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夜ー
「ーーーーモニカ」
メイド・モニカの髪を触りながら、用意されている料理を
見つめるベルトランドー。
彼は”確認”をしにきたのだー。
「手筈通りに、できているな?」
ベルトランドの言葉に、モニカは「はい。仰せのままにー」と、頭を下げるー
「君は本当に賢い女だー。
私が次期当主になった暁には、君を妻に迎えてやってもいいー」
ベルトランドは上機嫌でそう呟くと、
「今夜の晩餐会を楽しみにしていたまえ」と、呟き、そのまま立ち去っていくー。
そして、すぐに
晩餐会の会場に入ると、町娘のローザが、足をばたばたさせながら
フォークとナイフを手に、机の上で
まるで”ご飯を待つ子供”のような仕草をしていたー
「兄上ですね」
ベルトランドは笑みを浮かべるー
身体は町娘のローザだが、中身は
長男のアレッシオであると、ベルトランドはすぐに理解したー。
「ーーあはははっ!女の身体でいるの楽しくてさ~!
他の人の皮を着てると、ごはんの味も違うんだよ~!
すごいだろ~?」
ローザが笑うー。
「ーーいつもながら、兄上に着られると、美人も台無しですね」
と、ベルトランドが笑うと、
ローザは「あはははっ!」とご機嫌そうに笑ったー
「ーローザの身体がさ、一番ごはんが美味しいんだよ!」と、
ローザの姿で力説する兄上を見つめながら
ベルトランドは笑みを浮かべるー
”兄上の幼稚なお話に付き合うのも、これで最後だと思うとー
寂しいよ”
ベルトランドは、美男子な顔に哀愁を漂わせながら
ローザを見つめるー。
そこに、三男のサルヴァトーレもやってくるー。
「ーー遅れて申し訳ない」
サルヴァトーレの言葉に、ベルトランドは「構わん」と呟くと、
「ーさぁ、我がブロンツィーニ家の未来について、話し合おうではないか」と、
笑みを浮かべたー
「ーー”我が”?」
まるで自分が当主かのような言い草に、三男のサルヴァトーレが反応するー
「ーーいや、失礼。今は我々三人がこの家を引っ張っていかなければ
ならないからな」
ベルトランドが言うと、サルヴァトーレは納得したのか、静かに頷くー。
「ーーー」
メイドのモニカが執事と共に料理を運んでくるー
”手筈通り”
料理には”毒”が盛られているー。
ベルトランドが、食べる料理以外にはー
それも知らず、ローザの皮を着たアレッシオと、
三男のサルヴァトーレは、着席して、料理を見つめているー
料理の準備が終わると、ベルトランドも着席してー
「兄上」と、”一応”長男のアレッシオを立てるような発言をすると、
ローザの皮を着たまま、アレッシオは、
「ーパーティの始まりだ!あははははっ!」と、嬉しそうに叫んだー
”ー貴族のたしなみも理解できない兄上に、次期当主など勤まるまい”
ベルトランドは、そう思いながら目を閉じるー。
しかしー
「ーーところで、ベルトランド。
こういうときってさ、食事に毒が入ってたりすることもあるんだよねぇ~!
僕、知ってるよ!」
ローザの皮を着たアレッシオが言うー。
「ーーー!」
ベルトランドが表情を歪めるー。
「ーそこで、だ。僕とベルトランドの料理を取り返っこしたいんだけど、
どうかな?」
ローザがニヤニヤしながら言うー。
”ーーー!”
ベルトランドは、目を見開いたまま、しばらく硬直するー。
「ーー僕と、サルヴァトーレの料理に毒が盛ってあるー…
なんてことは、ないよねぇ?」
ローザの皮を着たアレッシオの言葉に、
ベルトランドは「ーーーもちろんです。兄上」と笑みを浮かべるー
「じゃあ、僕と料理を交換することも、できるはずだよね?」
子供のように嬉しそうに言うローザに、ベルトランドは「もちろんですとも」と、
頷くー。
その様子を、三男のサルヴァトーレは、食事に手をつけずー
見つめているー。
「ーー交換して」
ローザの皮を着たアレッシオが、メイドのモニカに指示をすると、
アレッシオとベルトランドの料理が交換されたー
ベルトランドの前には、アレッシオが食べるはずだった、料理ー。
「ーさぁ、召し上がれ」
ローザが笑みを浮かべるー
「ーー兄さんー…お先に」
三男のサルヴァトーレは、そう小さく呟くー。
ベルトランドはーー
目の前の料理をーー
食べたー
”計画通りー”
ベルトランドは笑みを浮かべるー
”兄・アレッシオ”は、変なところで疑い深いー
子供が”ほんと~?”みたいなことを言ってくるのと同じで、
そこに策略はないが、単純に、子供っぽく疑い深いのだー。
ベルトランドは”兄上が毒を疑い、料理の交換を申し出る可能性は90%”と踏んでいたー
だからー
”自分の前に毒入りの料理”
”アレッシオの前に普通の料理”をセッティングさせたー。
”交換したことにより、逆にアレッシオに毒入りの料理が行ったのだー”
ベルトランドが料理を食べ始めたのを見て、
ローザの皮を着たアレッシオが笑みを浮かべるー。
ローザも料理を口にするー。
三男のサルヴァトーレも”毒入りではない”と判断したのか、
料理を口にし始めたー。
”さらばだ、兄弟たちよー”
三男サルヴァトーレの前に置かれている料理は元々毒入りー。
”兄上も、サルヴァトーレも、これでー”
「ーーー!」
ベルトランドは、突然自分の胸が苦しくなるのを感じたー
「ーーーぐっ…」
急激に吐き気や頭痛、悪寒が全身を襲い、
耐え切れなくなって、テーブルの上のグラスを倒すー。
その姿を見たローザが笑いだすー
「あっはははははははァ!
どうしたんだいベルトランド!?」
ローザの後頭部がぱっくりと割れて、
中から長男のアレッシオが出てくるー
「ーーぐ… が…あ、、兄上ー」
苦しそうにベルトランドが、胸を押さえながら呟くー
その背後では、三男のサルヴァトーレも毒で苦しみ始めているー。
「ーー残念だったねぇ…君が食べたのは毒入りの料理だー!
元々、僕の前にあった料理と、サルヴァトーレの前にあった料理が
”毒入り”だったんだよ!」
アレッシオが笑いながら言うー。
ベルトランドは、メイドのモニカのほうを見るー
モニカには”ベルトランド”と”サルヴァトーレ”の前に毒入りを用意するよう、
指示をしたはずー
「ーーはっ!?」
ベルトランドが驚くと同時に、メイドのモニカも、
ローザと同じように”後頭部”からぱっくりと割れてー
中から、アレッシオの側近の男が出てきたー
「ーーー!!!!!!!!!!」
ベルトランドは、自分が信用していたメイド・モニカが
”皮”にされていたことを知るー
「ーあはははははっ!驚いたかい?
君の大好きなモニカちゃんは、僕の側近に皮にされて
乗っ取られていたのさ!
バカだねぇ…!」
アレッシオの言葉に、ベルトランドが表情を歪めるー。
アレッシオは自身の力で、モニカを皮にして、
側近にそれを着せたのだー
”全ての独占”を目論むベルトランドからすれば
”貴族ですらない側近に力を分け与える”ことなど、
想像すらできなかったのだー
「ーーバ…ば、、、馬鹿な…!」
ベルトランドは、美男子風な顔を歪めながらもがき苦しみー
そしてー動かなくなったー
「ーおやすみぃ!」
アレッシオはそう叫ぶと、
倒れ込んだベルトランドとサルヴァトーレを見て、笑みを浮かべながら
晩餐会の会場を後にしようとしたー
しかしー
「ーーー!」
アレッシオは、背中に激しい痛みを感じたー
「ーーー!?」
アレッシオが表情を歪めながら振り返るとー
三男のサルヴァトーレの剣が、アレッシオを貫いていたー。
「ーーえ」
アレッシオが表情を歪めるー
「ーーお前…毒…食ったはずじゃー?」
とー。
サルヴァトーレは呟くー。
「俺の鍛え上げられた肉体に、この程度の毒は、些細なものだー」
とー。
サルヴァトーレ・ブロンツィーニはー
ベルトランドの用意した毒如きでは、死ななかったー。
鍛え上げられた肉体が、毒に打ち勝ったのだー。
「ーーこ、、こ、、こ、、この、脳筋がああああああああああ!」
アレッシオが叫ぶと同時に、アレッシオは
サルヴァトーレに斬り捨てられたー。
サルヴァトーレの意向により、
表向きは”長男アレッシオが弟たちの毒殺を企て、次男ベルトランドは死亡”
そして、”ご乱心した兄アレッシオを、三男サルヴァトーレが斬り捨てた”ということで
処理されたー。
ブロンツィーニ家の次期当主はー
三男サルヴァトーレ・ブロンツィーニとなったのだったー。
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ブロンツィーニ家の当主となった
サルヴァトーレ・ブロンツィーニは、
本性を現したのか、気に入った町娘を見つけては、それを”皮”にして、
兵士たちに身につけさせたー。
”美女兵団”を結成したサルヴァトーレは、
武力を以て勢力を拡大しようと、そう考えていたー
「ーーソルレンティーノ家とは、関係を深めておいた方がよさそうだな」
近隣の貴族・ソルレンティーノ家との関係を良好なものにしようと、
サルヴァトーレは、会談を設定しようとする。
次男ベルトランドが、ソルレンティーノ家と親しかったものの、
三男のサルヴァトーレや長男のアレッシオは、あまり関係は深くなかったー
そのため、ソルレンティーノ家と、一から…。
「ーサルヴァトーレ様」
町娘の皮を着た兵士が、可愛い声で叫ぶー。
「どうした?」
サルヴァトーレが言うと、
町娘の皮を着た兵士は、報告したー
「ーーソルレンティーノ家の大軍勢が、こちらにー!
敵襲です!」
とー。
「ーなんだと?」
サルヴァトーレは剣を持って立ち上がったー
・・・・・・・・・・・・・・・・
いつの間にかー
ブロンツィーニ家の領地を包囲していた
ソルレンティーノ家ー。
跡取り息子のフェルディナンドが、その軍勢を率いているー。
”馬鹿なやつらだー”
フェルディナンドは笑うー
フェルディナンドは、ブロンツィーニ家の次男・ベルトランドが
ソルレンティーノ家を見下し、どれどころか、妹のカーラに少しずつ
毒を盛っていることに気付いていたー。
だからー
”滅ぼす”ことにしたー
偶然見つけた”禁断の果実ー”
人を皮にする力を、ベルトランドらに与えれば、必ず
ベルトランドたちは、父親であるアルカンジェロを皮にし、
欲望の日々を送り始めると、フェルディナンドは計算していたー
結果ー、
ベルトランドたちは、アルカンジェロを皮にし、
思い通りとなったー
フェルディナンドは”アルカンジェロ失脚”の情報を流しー
ベルトランドらに跡目争いを勃発させー、
ブロンツィーニ家を弱体化させたー。
当主が変わり、三兄弟の二人が死亡しー
混乱した状況のブロンツィーニ家をしとめるのは、たやすいー
”まぁー”
フェルディナンドは笑みを浮かべるー
”ベルトランドー…俺はお前が残ると思ってたのだがー
想像以上に、間抜けだったみたいだなー”
そう、心の中で呟くと
「我が兵よ!サルヴァトーレ・ブロンツィーニを打ち取れ!」
と、兵士たちに向かって叫ぶのだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
「貴族の戯れ」の続編でした~!☆
前回がお戯れだけで終わってしまい、
いつか続編を…!
と、思っていたのでこのように、続編を書くことができて良かったデス!
お読みくださりありがとうございました~!
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