”命日”ー
それが間近に迫ったその日ー
彼女は、彼氏に全てを打ち明けることにしたー
”己”の罪をー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
近くのカフェに移動した友麻は、静かに口を開くー。
大輝は、不安そうな表情を浮かべているー。
”最近、みるみる元気がなくなっていった友麻ー”
そして、その友麻に、深刻な表情で呼び出された大輝はー、
”別れを告げられる”かもしれないー
と、そんな不安も抱いていたのだー。
「ーーーあのね…わたしはー…」
友麻が語り出すー。
雨の中ー
友麻は、全ての罪を告白するつもりでいたー。
今までも、そうしてきたようにー
ずっと、ずっと、それを隠せばよかったのかもしれないー
自分が、佳奈という別人であることを隠し続けー
友麻として、生き続けー
永遠に罪悪感の中に苦しむー
それが、”罪”を償う唯一の道だったのかもしれないー
けれど、友麻はもう我慢できなかったー
「ーーわたしはー、西岡 友麻じゃないのー」
友麻の言葉に、大輝は「え…?」と困惑の表情を浮かべるー。
「ーーーー…わたしの、高校の時の写真、見たことあるでしょ?」
友麻に言われて、大輝は「あぁ」と、頷くー。
今のー
大人しくて、すぐに落ち込んでしまう友麻とは”まるで別人”のように見える写真ー。
写真だけでも、
”友麻がクラスの中心人物”であったことは、
安易に想像できてしまうような、そんな写真ー。
「ーーーあれは、わたしじゃないのー」
「ーーど、どういうことなんだ?」
大輝は戸惑うー
”実はわたしは双子なの”
みたいな話だろうかー。
「ーーー………わたしはー……西岡 友麻の身体を奪った女なのー」
友麻は、悲しそうな表情でそう呟いたー。
「ーーーえ……な、何を言ってー?」
大輝は、そこまで言ったものの、友麻の本当に悲しそうな表情を見てー
その言葉を止めるとー
”最後まで、聞かせてほしい”
と、優しく呟くー。
友麻は、悲しそうに頷くと、
そのまま”自分の身に起きたこと”を全て話し始めたー
自分は霧島佳奈という名前の当時、女子大生だったということを、
自分自身の写真を見せながらー
友麻とは正反対の”醜い”と自分で感じている姿が写った写真も見せつけたー。
自分はあの日、交差点で自殺しようとしていたことー、
そして、それを助けたのが、友麻であったことー
けれど結局間に合わず、佳奈と友麻が事故に巻き込まれたことー
佳奈の身体は死亡して、気づいたら佳奈が友麻になっていたことー
それから数年が経過しても、友麻の意識は戻らず、自分が代わりに友麻として生きていることー
周囲の人間を騙し続けて、罪悪感を感じながらもー、
友麻として生き続けていることー
その全てを語ったー
そして、最近、自分の元気がないのは、
「もうすぐ友麻の命日だからー」という理由も告げたー
「ーーーーー……」
大輝は、その話を聞き終えたあとに、
しばらく”どう返事をしていいのか分からない”というような
表情を浮かべて、口を半開きにしていたー。
しかし、やがてー
大輝は言葉を発したー
「ーーじゃあ…友麻はー
今、俺の目の前にいる友麻はー
霧島 佳奈さんってことー?」
大輝が言うと、
友麻は静かに頷いたー
「前に…わたしのこと、見た目と中身が違うみたいーって…
冗談で言ってたことあるよね…?
その通りなのー…
見た目がこんなに可愛いのにー
中身のわたしは、腐ってるからー」
友麻がそう呟くと、
大輝は「ーー…ほ、本当にー…本当なのか?」と、
戸惑いの表情を浮かべながら言葉を発するー。
友麻は「うん…」と、悲しそうに頷いたー。
「ーー俺は…本物の西岡 友麻さんを知らないってことかー」
大輝はため息をつくー。
友麻の話が本当なら、
”大学で友麻と出会った大輝”は、
”既に佳奈に憑依された友麻”としか面識がなく、
”本当の友麻”のことを全く知らないということになるー。
「ーーー………」
友麻と、大輝がしばらくの間、沈黙するー。
カフェの外では、冷たい雨が降り出していたー。
「ーーーー……」
大輝は、どう喋っていいか分からない、という様子だー。
それもそのはずー
いきなり彼女から
”わたしは、わたしじゃないの”などと言われた挙句、
”今、わたしはこの身体に憑依している別人”などと言われれば
誰だって困惑するだろうー。
大輝の反応は、当然と言えば当然と言えたー。
「ーーーー…信じてくれるー…?」
友麻は、申し訳なさそうにそう呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーあぁ」
大輝は、そう頷くー
「信じるよー」
大輝はそれだけ言うと、友麻のほうを見つめるー。
「ーーー…今まで、辛かったな…」
大輝はそれだけ言うと、友麻の手を握ったー。
「ーー…わたし…ずっと、ずっと、誰にも言えなくてー…
つらかったー…
この子の身体を勝手に奪ってー
西岡 友麻としてずっと勝手に生き続けてー
周囲の人を騙し続けてー…
それでー…」
友麻が涙を流しながら言うと、
大輝は、友麻のほうを見て、優しく微笑むー
「俺にとって、友麻は友麻だー」
とー。
「ーー俺が友麻と出会ったのは、大学に入ってからー
だったら、俺は今の友麻しか知らないー。
俺は、今の友麻が、中身も含めて、全部好きなんだー…
本当のその子の人生を奪っちゃったことは、
君が悪いとは思うー。
でもー
だったら、俺も一緒に償うからー。
今の友麻の辛いことは、俺も一緒に背負っていくからー。
だから、もう、泣くなー。
な?」
大輝の言葉に、
友麻は涙をこぼしながら、頷いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーごめんー」
大輝は、言ったー
”友麻の空想”を打ち崩すようにー。
友麻はー
友麻に憑依している佳奈は、”本”だけが友達だったー
現実は、本のようにー
上手く行かないこともあるー。
たった今ー
”信じてくれる?”と発言した友麻はー
大輝が、友麻のー…友麻に憑依している佳奈の言葉を受け入れて
優しく包み込んでくれる”妄想”をしたー。
しかしー
それは、妄想でしかなかったー。
「ーちょっと…ついていけないよ…俺」
大輝が困り果てた様子で言うー。
「ーーー…え…」
友麻が目に涙を浮かべながら大輝を見つめるとー
「ーー…だって…
君が…君が、霧島 佳奈さんって人なのだとしたらー
君は、その子の人生を…
奪ったってことだろー?」
と、大輝が困惑した様子で呟くー。
「ーーー……そんなの…あんまりじゃないかー…
友麻はー…
その子は、何も分からないまま、身体を奪われてー
君は、その身体でのうのうと生きているー…
それにー
その子の両親の気持ちを考えるとー…」
そこまで言うと、大輝は「ーその子の、両親には…今のこと、言ったのかー?」と、
言葉を口にするー
友麻は泣きながら首を横に振ったー
”この話をするのは、大輝が初めてー”
だと。
「ーーー………酷いな、君はー」
大輝は、それだけ言うと、席から立ち上がるー。
「ーーま…待ってー…!
悩みがあるなら、相談してほしいって、大輝が言ったからー!」
友麻がそう叫ぶと、
大輝は立ち止まって呟いたー。
「ーもちろんーー
そのつもりだったよー」
大輝はそれだけ言うと、友麻のほうを見つめるー。
「ーーだったらー
俺がついていくから、一緒に、その身体…
友麻の両親に、一緒に本当のことを話そうー」
大輝が言うと、
友麻は「そ…それはー」
と、呟くー。
「ーーー…ほらな」
大輝は呆れた様子で呟いたー
「結局、君は自分を守りたいだけなんだろー…?
結局ー、その身体を奪えてラッキーだとどこかで思ってるー
違うかー?」
それだけ言うと、大輝は、もう一度座席に着席してからため息をつくー。
「ーーきつい言い方でごめん。ごめんなー。
でも、彼女からいきなりこんなこと言われたら、俺だって動揺するし、
ショックを受けるー
君はー…相手の気持ちを考えることができてないー」
大輝の言葉に、友麻は表情を曇らせるー。
「ーー何で俺だけに打ち明けた?
俺が「そうか、辛かったね」って抱きしめれば満足だったのか?
何で、今までずっと隠してきたのに、俺だけには言った?
隠し通す決意をしたのに、何で、俺だけにはー?
隠すならずっと隠すべきだと思うし、
言うなら…言うならご家族にもちゃんと言うべきじゃないのか?
いきなりそんなことを言われて「はいそうですか辛かったね」なんて
言えると、君は本当にそう思ったのか…?」
友麻は、その言葉に、涙を流しながら「わたしは…」と呟くー。
「君も色々辛かったのは分かったー…
でも、ーごめん。
俺からは、君が、自己満足のために動いているようにしか、思えないー
本当に、ごめんー。
もし、両親に今の話をするつもりになったら
俺も力を貸すー。
でもー
そうじゃないならー
俺はもう、君とは付き合えないー。
ごめん」
大輝はそれだけ言うと、伝票を持って、友麻の分を含めた
全ての会計を済ませると、そのまま店の外に出て行ってしまったー。
友麻はー
それ以降、大輝を避けるようになったー
大輝の言う通りー
大輝に打ち明けて、自分はどうするつもりだったのだろうー?
”辛かったな”と、大輝に言ってもらいたかっただけなのかもしれないー…。
大輝は、誰にも”佳奈という別人が友麻に憑依している”という
秘密は言わなかったー。
黙っててくれたー。
けれどー
半月後、友麻は正式に大輝から別れを告げられたー
最後にー、大輝はこう言ったー
”俺には、やっぱ、無理だー”
とー。
そうー
”彼女が、他人に憑依されている存在だった”
などと、彼には、受け入れることはできなかったのだー。
”現実は、ドラマや漫画みたく、うまくはいかないー”
友麻に憑依している佳奈は、それを強く思い知らされたー。
”自分は友麻じゃない”
それを吐き出すことはー
自己満足なのかもしれないー。
友麻の家族はー
今も、友麻が友麻だと信じて生きているー。
けれどー
”知らない”からこそ、
友麻の家族は今、”普通”に、普通の幸せを、日常を送っているー
もし、もしも、大輝に言わなければー
大輝に、このことを言わなければ
今も大輝は”今まで通りの笑顔”を浮かべていたのだろうー。
大輝は、すごくつらそうな顔をしていたー。
大好きなはずの彼女に、厳しい言葉を投げかけることになりー、
しかも、お別れすることになるー、
そんな状況に、とても、辛そうだったー。
大輝に、あんな顔をさせてしまったのはー
全部ー
今日は”命日”ー
気付けばーー…
友麻は、”あの日の場所”を訪れていたー。
佳奈が、自ら命を絶とうとした交差点ー
あの時、歩いていた歩道にー。
ここにはーー
”佳奈にしか分からない友麻の墓がある”
友麻は生きているー
だから、友麻の墓はないー。
けどー
友麻はもう、この世にいないかもしれないー。
まだ、この身体の中に友麻の意識がいるのかもしれないしー
いないかもしれないー
もう、友麻が消えてしまっているなら、どうすることもできないし、
友麻が消えてなかったとしてもー、
こうして佳奈が身体の主導権を握ってしまっている今ー、
どうすることも、できないー
「ーーー…これが…わたしの”罪”なのかなー…」
友麻は、静かにそう呟いたー
これからもずっと続く生き地獄ー
これが、償いなのだろうかー。
「ーーーーーーー」
友麻は、静かに手を合わせると、寂しそうにその場を見つめたー。
大輝との関係が切れたことは、正直、辛いー。
でもーーー
それでも、”他人の身体”を使っている以上ー…
もう、自ら命を絶つことは許されないと、
友麻に憑依している佳奈は、改めて思い、その場を歩き出したー
”どんなにつらくてもー
このことは、ずっとずっと、自分の心にしまっておこうー”
友麻に憑依している佳奈は、そう決意して、
静かに大通りを歩き始めたー。
もう、これ以上、誰も傷つけたくないからー。
おわり
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コメント
”実はわたしは…”系は今まで何度か書いたことがありますが、
結構、受け入れてくれるパターンも多かったので、
自然な感じ(?)で受け入れてくれないパターンで書いてみました~!
(狂ってしまった相手も、前に別作品でいましたネ~…!)
お読みくださりありがとうございました!☆
コメント
確かに事実を打ち明けても本人の気が軽くなるだけなので、自己満足でしかないかもしれませんね。
とはいえ、大輝もちょっと無神経というか、一方的な決めつけも多分にあって、酷い気がします。自分から悩みを相談するように促しておいて、いざ、打ち明けてみれば、あの言いようはちょっとあんまりですよ。
どんな人間でも辛ければ、楽になりたいと思うのは当然のことでしょうに、佳奈が勇気を出して打ち明けた罪の告白を、自分を守りたいだけとか、身体を奪えてラッキーだとか、相手の気持ちを考えることができてないとか、酷すぎます。
そもそも、佳奈は他の身勝手な憑依人みたいに悪意を持って憑依薬とかで意識的に身体を奪った訳じゃないのに。奪ったという言い方すること自体、無神経です。
友麻の両親に真実を話さないのも、ある意味、寧ろ、思いやりとも言えるでしょうに。どうにもできない事を知ったところでただ悲しませるだけですから。
大輝の方こそ、相手の気持ちを考えれてないし、自分を守りたいだけの偽善者に思えます。
というか、他の皮とか憑依の話で彼女の中身がおっさんだったという話に比べれば、大輝は全然マシだと思うのですが。友麻が見せた、元々の姿が余程、受け入れられなかったりとかでもしたんですかね? 実はそれで、もっともらしい事言って拒絶しただけだったりとか?
コメントありがとうございます~!
二人の考えの相性が合わなかった…
ということかもしれませんネ~★
事実を打ち明けられて、
混乱の中、咄嗟に言ってしまったのか、
それともコメントにある通り拒絶したのか、
真相は闇の中デス…★
時間が経てば、大輝も後悔したりするかもしれませんし、
しないかもしれません…★