今まで恋愛に縁がなかった男子大学生ー。
彼は、ある日、一人、涙を流していた女子大生に声を
かけたことがきっかけで、その女子と意気投合し、
付き合い始めたー。
しかし、彼女には”大きな罪”が隠されていたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー最近、元気ないけど、大丈夫か?」
大学生の福原 大輝(ふくはら だいき)は、
大学構内で彼女の西岡 友麻(にしおか ゆま)のことを
見つめながら、心配そうに呟くー
「ーーえ…うん。大丈夫ー…わたし、元気なく見える?」
友麻が少しだけ微笑みながら呟くと、
大輝は「ーーちょっと前から、明らかに元気ないしー」と、
少しだけ苦笑いするー。
「ー悩みがあるなら、できる限り力になるからー…
まぁ…俺もただの大学生だから、何もできないかもしれないけど、
俺のできる範囲で力になるから!」
不器用で、今まで恋愛と縁のなかった大輝がー
この友麻と付き合い始めたのは、半年前のことだったー。
大学内で、一人落ち込んでいた友麻に声をかけたところー
それがきっかけで、次第に友麻と接する機会が多くなり、
友麻と趣味で意気投合ー、
勇気を出して、大輝が友麻に”人生初の告白”を行ったところ
OKを貰うことができたのだー。
友麻はとても”美人”だー。
高校時代の写真を見せてもらったことがあるが、
”明るく、クラスの中心人物かのような美少女”に見えたー。
だがー
何かあったのだろうかー。
大輝は、”そんな友麻”を知らないー
大輝が友麻と初めて知り合ったのは、大学生になってからでー
友麻が大学に入学する以前のことは知らないー。
今の友麻は
”明るく元気な女性”な、雰囲気の容姿に見えるものの、
どこか切なそうな表情を浮かべていてー
いつも、寂しそうな感じだったー
何て説明したらいいのか、大輝にはよく分からなかったがー
顔立ちや、声などから感じる雰囲気と
実際の性格にはギャップを感じるー。
まるでー
”過去に何か起きて”、
本来の性格とは変わってしまったー
かのような、そんな印象を大輝は受けていたー。
「ーーありがとう」
”何かあったら力になるよ”と言われた友麻は、
少しだけ嬉しそうに、そう微笑むー。
大輝は「頼りないかもしれないけど、
もうちょっと頼ってくれてもいいからな!」と、
笑いながら呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・
友麻は帰宅するー。
現在、友麻は一人暮らしー。
両親からは離れて暮らしているー。
そうしないとー
”罪悪感”で心が折れてしまいそうだったからー。
彼女はー
今すぐにでも”死にたい”と、そう考えていたー
けれど、
それはできなかったー
”自分の犯した罪”を償うためにはー
ずっと、ずっと、生きていかなくていけないー。
そう、思ったからー。
「ーーーー」
カレンダーを見つめる友麻ー。
”最近、元気がない”のは、
もうすぐ”命日”が近づいているからだー。
赤い丸で囲まれたカレンダーの数字ー
”命日”が
近付いているー
友麻は、そう思いながらー
部屋の端っこの方に置かれていた
”写真”を見つめたー。
人が遊びに来るときには隠してあるものの、
彼女は、その写真の横に”蝋燭”を立てていたー。
「ーーー本当に、ごめんなさいー」
”遺影”なのだろうかー。
友麻が、笑顔で写っている女の写真に手を合わせるー。
自分が”殺してしまった”相手ー
そうー
彼女には、罪があったー。
友麻は、手を合わせ終わると
申し訳なさそうにしながら、その場から離れるー
友麻が手を合わせていた写真はー
”高校時代の友麻”の写真だったー。
友麻自身が、過去の自分の写真を前にして、
まるで”死んだ相手”に対するような行為をしていたのだー
それもそのはずー
彼女はーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
数年前ー
西岡 友麻は、明るく元気な女子高生で、
クラスの女子の中心的存在のひとりだったー
表裏もなく、誰にでも優しく明るい性格で、
男女問わず人気だった友麻ー
決して”今の友麻”のような大人しい性格ではなく、
とても元気で、活発だったー。
「ーー友麻って悩みとか、一切なさそうだよねぇ~」
友達の一人が笑いながら言うと、
友麻は「そんなことないよ~!」と笑うー。
「わたしだって悩んだりすることは色々あるけど、
でも、それ以上にポジティブな考えで
頭の中を埋め尽くしちゃう感じ!」
友麻の言葉に、友達は「そういうことできるのがすごいんだよ~!」と、
微笑んだー。
ある日の下校中ー
友麻は、いつも通り下校していたー。
友麻も、一緒に歩いていた友達もー
”これから起きる出来事”など、まったく、夢にも思っていなかっただろうー
その付近ではー
一人の女性が、虚ろな目で道を歩いていたー。
霧島 佳奈(きりしま かな)ー
付近の大学に通う女子大生ー。
彼女は、”容姿”に恵まれずー
幼いころから、それが原因でいじめを受けてきたー。
”この世の中は、綺麗事ばっかり”
それが、彼女の口癖だったー。
人は見かけじゃないー、とか言いながら
結局、人は見かけで判断されるー。
いじめは許さない、とか言いながらー
裏では先生たちは面倒臭そうにしているー
”この世界なんて、そんなもの”
その程度のものだと、彼女は思っていたー
荒れた肌に、虚ろな目で佳奈はこれから、
自らの人生に幕を引こうと、ある場所を歩いているー。
彼女は、”就職活動”の最中に
再び”地獄”を見たー
企業の面接でー
彼女の容姿を揶揄うような発言をする採用担当もいたしー
”きみは、残念だけど、接客業は無理だねー。
鏡を見てごらん”
などという面接担当もいたー。
佳奈の心は、ズタボロに壊されてしまったー。
もう、佳奈は生きる気力さえも失っていたー
「この世界に、わたしを必要とする人なんて、いないもんー…」
佳奈はそれだけ呟くと、寂しそうな表情を浮かべたー。
何故、ここを選んだのだろうー。
それは、分からなかったー。
佳奈は”死にたいのに、臆病だったー”
だから、ここを選んだー。
ここならー
誰かが、助けてくれるかもしれないー
そんな、考えもあったのかもしれないー。
人が大勢歩いている、この交差点ならー。
佳奈はー
”地獄ってー…本当にあるのかな?”と、静かに微笑むー。
好きで太ったんじゃないー
好きでこの顔に生まれたんじゃないー
好きで、こんな風になったんじゃないー
けれどー
人間は生まれる身体も、立場も、選ぶことができないー
「ー地獄ってー”ここ”のことだよねー」
”地獄”は架空の存在なんかじゃないー。
佳奈はそう思ったー。
地獄はーあるじゃんー…と。
そう、この世界こそが、地獄なのだー。
佳奈はそう思いながら、
自らの人生に、自分で幕を引こうとするー。
車が走る交差点に、
自ら飛び出したのだー
しかしー
「ーーーーーー!!!」
予想外の事態が起きたー。
自分とは”正反対の”可愛らしい女子高生が
「危ない!」と叫んでー
道路に飛び出した佳奈を助けようとしたのだー。
だが、間に合わずー
そこで、佳奈の意識は強い衝撃と共に途切れたのだー。
けれどー
どこまでも、この世界は、地獄だったー
「ーーーーー……よかった…!よかったー!」
佳奈が目を覚ましたときにはー
佳奈の目の前には”知らないおばさん”が
目に涙を浮かべてそう呟いていたー。
”佳奈”は死んだー。
いやー
死んだのは”身体”だけー
道路に飛び出した佳奈の身体は、そのまま死んだー
しかしー
佳奈の意識は、死の直前、自分を助けようとした友麻に
憑依してしまったのだー。
「ーーーーー……」
病院のトイレで、鏡を見つめていたのはー
佳奈が落下した先にいた女子高生ー…友麻だったー。
醜い容姿に苦しんだ自分とは正反対ー
絵に描いたような美少女の身体にー
佳奈は憑依してしまったのだったー。
鏡を見つめながら歯ぎしりをする友麻ー
「ーーなんの苦労もしてなさそうな女ー…」
友麻は、”友麻の容姿”に激しい嫉妬と怒りを覚えたー。
けれどー…
”自ら死のうとした佳奈を助けようとした結果、
事故に巻き込まれて緊急搬送された友麻”は、
記憶障害の診断を受けー…
その中で友麻の家族や友達が色々教えてくれたー
友麻は一生懸命真面目に頑張っていた子で、
友達も多く、家族からも愛されていた子であることを知ったー
友麻本人が書いていたという日記を見せられてー
友麻の”醜い自分とは正反対の考え方”に、佳奈は心を打たれたー。
そしてー
激しく後悔したー
そんなつもりはなかったとは言え、
佳奈自身が交差点に飛び出したことで、無関係の友麻を巻き込んでしまったのだとー。
それからはー
佳奈は、友麻として生きてきたー。
”他人の人生を奪ってしまった”
それがー
佳奈の”罪”ー。
最初は、再び死のうとも考えたー。
けれどー
死ねば、今度は、友麻の周囲の人々まで
悲しませることになるー。
友麻は、たぶん、もうこの世にいないー。
佳奈は、そう思っていたー
だからこそ、
”わたしが友麻を殺してしまった”、と、
そう思っていたのだー。
その”罪”を背負って、友麻に憑依した佳奈は生きているー。
そんな中ー
友麻になった佳奈はいつもー
”このまま、人の人生を奪った自分だけが、生きていていいのかな?”
と、思っているー。
しかし、それと同時にー
”今、友麻として生きていくことを自分が諦めてしまったら、
何も知らない友麻の家族や知り合いを悲しませてしまうことになる”
という考えも浮かんでくるー。
友麻本人の人生を奪い取っただけではなくー、
何も知らない友麻の家族や、周囲の人間まで、傷つけてしまうー。
何が正しいのかは分からないー
このまま、友麻として生き続ければ、
友麻の家族や周囲の人々は、少なくとも
”もう、本当の友麻はいない”ということは知らないままー
悲しむことはないー
けれどー
それは”友麻本人”にとって、いいことなのだろうかー。
友麻本人が今の状況を知ったら、なんて言うのだろうかー。
友麻本人と話すことができたならー
本人は何て言うのだろうかー。
”わたしの人生を奪っておいて、あんただけ生きるなんて許せない”
って言われるのだろうかー。
いつもいつも、その狭間で友麻は苦しんでいたー。
苦しみ、もがき、それでも出すことのできない答えの中でー
友麻に憑依した佳奈は、今日も生き続けていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大輝は、日に日に、友麻が元気をなくしていくことに
戸惑っていたー。
”友麻に憑依してしまった”
あの年から、友麻は、毎年、この時期になると
元気をなくすのだが、
半年前から友麻と付き合い始めた大輝は、
そのことを知らず、戸惑っていたのだー
「友麻…本当に大丈夫か?」
大輝が言うと、友麻は悲しそうに大輝のほうを見つめたー。
”自分だけが、彼氏を作ってのうのうと生きているー
しかも、自分の姿ではなく、人の身体でー
わたしが、わたしであったならー
きっと、大輝もわたしのことなんて、好きにならないー”
そう、思いながら友麻は、大輝のほうを今一度見つめるー。
「ーーー………………大輝ー」
「頼りないかもしれないけど、
もうちょっと頼ってくれてもいいからな!」
そんな言葉を、友麻は思い出すー。
そしてー
ついに、ある言葉を口にしたー。
「ーー大事な話があるのー」
友麻は、そう呟くと、大輝のほうを見つめるー
大輝は、少し不安そうな表情を浮かべながらも、
静かに友麻のほうを見つめたー。
”この人には、全て話をしておきたいー”
友麻に憑依した佳奈は”自分の罪”を、
全て大輝に打ち明ける決意をして、
静かに大輝のほうを見つめたー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・
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次回が最終回デス~!
今日もお読みくださりありがとうございました!
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