<入れ替わり>離婚なんて許さない①~離婚届~

妻から離婚を告げられた夫ー。

しかし、離婚を告げられて妻に掴みかかった夫は、
妻と共に転倒ー、
そのまま身体が入れ替わってしまうー…。

・・・・・・・・・・・・・・・

「あ?」

土屋 優吾(つちや ゆうご)は、
表情を歪めたー。

妻から突然”離婚届”を突き付けられたからだー。

妻・麻友(まゆ)が「もう、これ以上は無理ー」と呟くー。

優吾は「な、何が無理なんだー」と、
少し声を荒げながら言うー。

優吾と麻友は、大学のサークル活動で出会った二人ー。

優吾は友達が多く、交友関係の広いタイプで、
一方の麻友は、大人しく、交友関係の狭いタイプだったー。

”自分を変えようと思ってサークルに入った”という麻友のことを
何かと気遣い、優吾は優しく接してくれたー

そんなことから、麻友は優吾が好きになり、
優吾に告白して、付き合い始めたのだったー。

優吾は、付き合い始めてからも気配り上手で、
麻友のことをいつも気遣ってくれていたー。

しかしー
大学卒業後に結婚してから、優吾は変わってしまったー。

”社会人になって忙しくなった”からなのかー、
それとも”結婚というゴールを迎えた”からなのかー

いやー
”元々、こういう人間だった”のかー

それは分からない。

けれどー
優吾は変わってしまったー

今や、麻友のことなど放ったからし状態で、
家のことも、一切やろうとしないー。

麻友自身も大学卒業後に入社した会社で
働き続けているにも関わらず、
家事は全て麻友がゆることになっていてー
少しでも疎かになっていると

”お前は夫を馬鹿にしている”、などと騒ぎ出すー。

優吾は、変わってしまったー。
理由は、何であれー。

麻友は”もしかしたらわたしにも至らないところがあったのかもしれないー”と
思いつつもー
”それならそれで、これ以上一緒にいることは、
 優吾のためにも、わたしのためにもならない”と
大学時代からの親友である、葵(あおい)に相談した上で、
離婚を決意したのだったー。

葵は”同席しようか?”と言ってくれたものの、
これは夫婦の問題ー
葵を巻き込みたくないという思いもあり、
麻友は、今日、帰宅した優吾に対して、
離婚届を示したのだったー。

「ーー…ごめんなさいー。
 このまま夫婦とやっていくのが”無理”ー。

 わたしも、あなたのためにもー
 別れましょうー」

麻友がそう言い放つと、優吾は離婚届をじっと見つめるー。

麻友は優吾なら分かってくれると信じていたー。

だがー

優吾は「ふざけるな」と、言葉を口にしたー。

「ーーー!」
”優吾なら分かってくれる”
そう信じていた麻友は、その希望を打ち砕かれたような気持ちになって
優吾のほうを見つめたー

「ーーお前はどこまで夫を馬鹿にしているんだー」
優吾が怒りの形相で立ち上がるー。

「ーーバカになんてしてないよ!どうしてそういう考えになるの!?」
麻友が困惑しながら叫ぶと、
優吾は「いいや!お前は俺を馬鹿にしている!」と叫んだー

「ーーーそういうところが無理なの!
 なんで、なんでそうなるの!?」

麻友が泣きそうになりながら叫ぶー。

「ーわたしは、優吾のことを馬鹿にしたことなんて一度もないのに!
 それなのに、そんな風に言われたり、思われたりするなら、もう無理だよ!

 それに、優吾だって”俺のことを馬鹿にしている”って思うなら
 わたしと一緒にいたって辛いだけでしょ!?

 だったらー
 だったら、お互い別の道に進もうよ…!」

麻友の悲痛な叫びー

しかしー
優吾は、麻友の言葉に耳を傾けることはしなかったー。

「ーー泣けば俺が「はいそうですか」ってなると思ったか?
 ふざけんなよ…?」
優吾が麻友を睨むー

麻友は泣きながら怯えた表情を浮かべるー

「ーー何が離婚だ!ふざけやがって!俺に恥をかかせる気か!?」
優吾が麻友の腕を乱暴に掴むー

麻友は「や、やめて!」と泣きながら叫ぶー。

「ー大学で俺が声をかけてやった恩をもう忘れたのか?なぁ?おい!」
乱暴な口調ー。

優吾は、元々こんなことを言うような男ではなかったー

いや、少なくとも”麻友にはそう見えていた”

しかしー
これが優吾という人間なのだー

以前、優吾から「妹とは仲良くない」と聞いたことがあるー

度々、”妹は俺を馬鹿にしていてさ”などと笑っていたー

結婚前に、優吾の妹・優美(ゆうみ)からは、
何度も”やめたほうがいい”と警告されていたー。

けれど、麻友は、それに耳を貸さなかったー。
優吾から”優美は嫉妬深くて、俺の邪魔ばかりするんだよ”などと
聞かされていたからだー

けれどー
今思えばー
もしかするとー

「ーもう、やめてよ!」
麻友が、優吾を突き飛ばすー。

突き飛ばされた優吾は、鬼のような形相で叫んだー

「ーこの”クソ女”」
とー。

「ーーーーー!!」
麻友は、強くショックを受けるー。

「お前も優美と同じだー
 俺のことを馬鹿にして!
 なんなんだ!
 どいつも、こいつも!

 お前は優美に頼まれて、俺を馬鹿にしているのか?

 離婚してこうやって、俺を地獄に突き落として
 お前は俺をあざ笑おうとしているのかー?」

優吾は、それだけ言うと、さっきよりも強く麻友の腕を掴むー。

しかしー
その瞬間ー

優吾と麻友はバランスを崩しー
そのまま勢いよく、床に転倒してしまったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーおきろ!」
声が聞こえるー。

「ーーおい!おきろ!」
女の乱暴な声ー

「ーーー!!!」
その言葉に目を覚ますとー、
目の前にー

「ーーえっ!?」

麻友は思わず驚いてしまうー。

目の前に”自分”がいたのだー。

「ーーーな、な、なんで…わたしが…目の前にー?」
意識を取り戻した麻友は、優吾の身体になっていたー

そして、目の前にいる麻友ー
麻友の身体になった優吾は、淡々と言葉を続けるー。

「それは俺のセリフだ…!
 お前、ふざけんじゃねぇぞ!」

麻友の身体で乱暴な言葉を吐き出す優吾ー。

「いったい、何をしたんだ!
 俺がお前みたいな女の身体とかー
 ふざけんじゃねぇぞ!」

麻友(優吾)が大声で叫ぶー。

優吾(麻友)は激しく動揺しながら、
自分の身体ー…
優吾になってしまった自分の身体を見つめるー。

「そうかそうか。お前、俺に嫉妬して
 俺の身体をこうして奪おうとしてたのか」

麻友(優吾)が怒りの形相で言うー。

「ーーち、違う…違うよ!そんなことー」
優吾(麻友)は困惑するー

”二人の身体が入れ替わってしまった”という状況にー。

入れ替わりは、
麻友が仕組んだことではないー

だが、優吾は、麻友が仕組んだものだと決めつけて
怒鳴り声をあげているー。

「ーーわ、わたし、本当に何も知らないの!」
優吾(麻友)が大声で叫ぶとー
麻友(優吾)は「だったら、こんな風になるわけないだろうが!」と叫ぶー。

「ーー俺の身体を返しやがれー」
麻友(優吾)が迫ってくるー。

”自分の手”に自分が掴まれるという、これまで経験したことのない
奇妙な体験をしながら、
「ーーわたしじゃないって言ってるでしょ!」と、怒りの形相で
叫び返したー。

そして、麻友(優吾)の手を振りほどくー。

手を振りほどかれた麻友(優吾)は驚いた表情を浮かべながらー
「ーーそうかそうか」と、頷くー。

「ー俺の身体を奪って、とぼけるんだなー。
 それなら俺にも考えがあるぞ」

そう言うと、麻友(優吾)は恐ろしい言葉を口にしたー

「ーーお前の身体を使ってお前を滅茶苦茶にしてやる!
 俺を散々バカにして、俺の身体まで奪ったお前に思い知らせてやる!

 俺を散々バカにしておいて離婚?
 ふざけんじゃねぇ!」

麻友の声でそう叫ぶと、
麻友(優吾)は、怒りの形相で、離婚届をぐちゃぐちゃに丸めて
そのままゴミ箱に放り投げたー

「ははははっ!お前、身体だけはいい身体してるもんなぁ!」
ニヤニヤしながら麻友(優吾)が見せつけるようにして、
胸を揉み始めるー

「ーちょ、ちょっと!やめて!」
優吾(麻友)が叫ぶー。

「ーお前が自分でこうしたんだ!
 どんな風にされても、文句は言えないはずだぞ?」

麻友(優吾)が胸を触ったり、
髪を触ったり、足を触ったり、身体のあらゆる場所を
イヤらしい手つきで触るー

「ーだから!わたしは何もしていないんだってば!」
優吾(麻友)は必死に叫ぶー。

麻友は何もしていないー。
身体が入れ替わるように仕組んだりしていないー。

そもそも、どうして身体が入れ替わったのかも分からないー。

「ーー俺の身体を盗んだ泥棒猫めー。
 たっぷり思い知らせてやるぞ」

麻友(優吾)はニヤニヤしながら、
優吾(麻友)のほうを見つめるー

”離婚成立”
どころかー
”最悪の展開”ー

優吾になってしまった麻友は、そう思わずにはいられなかったー。

♪~~~

その時だったー。
麻友のスマホが鳴るー。

優吾(麻友)がそれを取ろうとしたものの、
麻友のスマホが置かれている場所から近かった麻友(優吾)が
先に麻友のスマホを取り上げるー

”葵”

スマホには、そう表示されているー。
麻友が離婚を決断するに至るアドバイスをしてくれていた親友だー。

「ちょっと!勝手に私のスマホをー!」
優吾(麻友)が叫ぶと、
麻友(優吾)は不気味な笑みをニヤリと浮かべたー

「今は”わたし”のスマホなんだけどー?」
とー。

「ーー!!」
優吾(麻友)が表情を曇らせると同時に、
麻友(優吾)は容赦なく、電話に出てしまうー。

「ーーあ、もしもし~葵~?どうしたの~?」
麻友の口調を真似る麻友(優吾)ー

どんな間柄であったにせよ、夫婦であったからか、
それなりには似ている雰囲気だー。

優吾(麻友)はそんな光景を見ながらハッとするー

”そういえばー今のわたしじゃ、電話に出ても、
 わたしが麻友って気づいてもらえないー”

とー。

入れ替わった直後で、そこまで頭が回らなかったが、
今、この状況で電話を手にしても、
相手からすれば聞こえてくるのは”優吾の声”

そう簡単に”わたしが麻友”だということも、
認識してもらうことができない状況なのだー。

「ーーー…へ~~~」
麻友(優吾)が、電話で親友の葵と話しながら、
一瞬、優吾(麻友)のほうを冷たい目で見つめたー。

「そっか~!葵が”離婚のアドバイス”をしててくれたんだねー」
麻友(優吾)が少し低く、冷たい声で笑うー。
顔は笑っているが、目は笑っていないー

「ーーー!!!!!」
優吾(麻友)は、恐怖を感じたー。

親友の葵は、恐らく…というかほぼ確実に
”電話相手が麻友”だと思い込んで、
”優吾との離婚の話題”を出してしまったのだろうー

結果、麻友になった優吾に、”離婚の相談を受けていたのは麻友の親友・葵”
であると伝わってしまったのだー

「ーねぇねぇ、これから、会えるかな?
 離婚のことで話があるのー」

麻友(優吾)はそう言うと、
これから葵と会う約束を取り付けてしまったー

通話を終えると、麻友(優吾)は静かに呟くー。

「お前が急に離婚なんて言い出すから、何でかと思ったけどー
 この葵とかいう女のせいだったんだな?」

麻友(優吾)の怒りの込められた口調にー
優吾(麻友)は「や…やめて!葵には何もしないで!」と叫ぶー

「ーーー俺から妻を奪おうとした女には
 ”お仕置き”が必要だよなぁ…」

麻友の姿でそう呟く優吾ー

”自分の身体”の、恐ろしい笑みを見てー
優吾(麻友)は震えることしかできなかったー。

②へ続く

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離婚成立…どころか身体が入れ替わってしまってピンチ…!
続きはまた明日デス~!

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