とある平和な王国のはずれに存在する
小さな村”ルーン村”
穏やかな空気が流れるその村に
謎の占星術師がやってきてからー
村の様子は一変していくー…
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数百年に続く平和を謳歌していた王国ー。
その王国では、遠い昔、魔物の軍勢と激しい戦争を
繰り広げていたものの、
今や、その戦争も過去の話ー
現在は、数百年にも及ぶ平和な時間を過ごしていたー。
そんな、王国のはずれに存在する村・ルーン村では、
今日も穏やかな日々が流れているー。
「ーーーおはよう」
村の青年・ジンは、近所の道具屋の一人娘・リリアに声を掛けるー。
「あ、ジン!おはよ~!」
リリアが微笑むー。
ジンとリリアは、友達以上恋人未満な関係でー…
いや、本人たちがそう思っているだけで、
ルーン村の村人たちは、既にジンとリリアを
恋人同士のような扱いをしているー。
「あ、ジン!お母さんがこの前、お店手伝ってくれてありがと~!だって!」
リリアが言うと、
ジンは「ははは、時間があるときならまたいつでも」と、
笑いながら、そのまま自分の目指す場所へと向かうー。
ジンは、朝目覚めると、決まって、
村の隅の方にある、険しい道を登り、
その先にある崖から、村を見つめるー。
途中で取った木の実を手にしながら、
今日も村全体を見渡せる崖から、村を見つめるジンー
ルーン村は、平和だったー。
数百年以上の平和を謳歌している王国ー。
ルーン村以外にも
王国の中心部にある城下町はもちろん、
その周囲に存在する街や村、
果てはこのルーン村と同じような王国中心部からは
離れた村の数々も平和を謳歌していたのだー
「ーーさて、とー」
ジンは、村のはずれの森に足を踏み入れるー。
ジンの仕事は、森に時々出没する魔物と対峙やー、
森から食料や資材などを調達する仕事だったー。
「ーー今日も気合入ってんなー。ジンー」
先に森の中で待っていた
中年の、髭を生やした”頼れる存在”風の剣士が言うー。
「ーーははは、いつも通り仕事をするだけですよ」
ジンが言うと、ジンの仕事の”師匠”でもある、サイモンが
剣を手に、「今日もサッとノルマを済ませるとするか」と、
笑みを浮かべる。
「はいー」
森の中を歩く二人ー。
木の実の採取や、食材の採取、生態系を傷つけない程度の狩りなどを
行っていくー
「そういや聞いたか?ライト村の話ー」
サイモンが、採取した木の実を整理しながら呟くー。
ライト村とは、
ここ、ルーン村からは少し離れた場所に存在する
ルーン村と同規模の村の名前だー。
「ーー何かあったんですか?」
ジンが言うと、サイモンは
「お前はホント、外のことには疎いなぁ」と、
苦笑いしながら続けるー。
「ーーなんか、村長が倒れたらしくて
色々大変らしいぜー」
サイモンの言葉に、ジンは「そうなんですか…」と、
木材を加工しながら呟くー。
村長はどの村もある程度高齢なことが多いー。
ライト村の村長も、確かそうだったはずだー。
病気か何かで倒れたのだろうー。
そんなこんなで、いつものように雑談をしながら
仕事を進める二人ー。
「ーーさて、今日はこのぐらいでいいだろー」
サイモンの言葉に、ジンは「ですね」と、笑うー。
「いやぁ、ホントお前が手伝ってくれるようになってから
助かるよー。
お前ももう立派な一人前だなー。
前まで「おじちゃん!おじちゃん!」なんて
言ってる子供だったのにー」
サイモンがジンの頭を撫でると、
ジンは照れくさそうに
「ーおじさんにはいつも良くしてもらいましたからね。
恩返しするのは、当然ですよ」
と、微笑んだー。
ジンの父親は、ジンが生まれてすぐに、
事故で命を落としたー
森で狩りをしている際に、転落事故を起こしてしまったのだー
そのため、このサイモンが、ジンの父親代わりとして、
小さいころから面倒を見てきたー。
「ーーおかえりなさい」
村に戻ると、サイモンの妻・ミーナが微笑みながら、
ジンとサイモンを出迎えるー。
「おう。ただいまー」
サイモンとミーナの家庭には子供が二人いるー。
元気な男の子と、元気な女の子の兄妹だー。
「ーー今日もお疲れ様ー
ジンくんも、ごはん食べてく?」
ミーナが言うと、ジンはサイモンのほうをチラッとみるー
「ー遠慮すんなって。そんな仲じゃねぇだろ?ほら」
サイモンに後押しされて、ジンは「じゃあ、お言葉に甘えてー」と
頭を下げながらサイモンの家に入っていくー
サイモン・ミーナ・二人の子供たちに囲まれてー
ジンは嬉しそうにご飯を食べるー。
「ーーー」
ジンは、3年前に病気で母親も亡くしているー
今や孤独になったジンを、サイモン一家は、こうして
気遣っているのだったー。
「そういや、明日は王国の人間がやってくる日だったなー」
サイモンが食事を口に運びながら言うー
「あぁ、そういえばそうでしたね」
ジンが頷くー。
王国は、辺境の村に月一度程度、大臣や騎士などを
派遣しているー。
別に圧力をかけるとか、そういうことではなくー、
王国内の村の様子を確認、
何か異常がないかどうかを調べたり、
村で困っていることがないかを確認したり、
場合によっては、支援物資を届けたりー
そういったことをしているのだー。
王国の女王・ライラによる
王国内の平和を維持するための活動の一つだったー。
村人たちも、王国の”訪問”を嫌がるような人間はおらず、
悪い印象を持っている人間はいなかったー。
「ーー前、よく来てた騎士さんは、
うまいモンいっぱい持ってきてくれてたんだけどなぁ」
サイモンが笑うー。
担当は、時々変わるのだー
半年前から村に来ている大臣は、
穏やかで話も分かる人間だが、
前の騎士のように、お土産を持ってきたはしないー。
サイモンは「担当変わんねぇかなぁ」と、笑いながら呟いたー。
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翌日ー
「おはよ~~~!朝だよ~~!」
幼馴染でもあり、道具屋の娘であるリリアが
ジンの家に勝手に上がり、
カンカン、と、道具屋で売っている盾のようなものを
叩きながら、ジンを起こしにやってきたー。
「ーーーま~たリリアの不法侵入か!」
ジンは冗談を言いながら起き上がると、
「ジンの家はわたしの家も同然だし!」と、リリアは笑ったー
「ーーまだお嫁さんじゃないんだからな~!」
ジンはそう言いながら起き上がると、
家の外に出るー。
リリアが「今のどういう意味~?」と揶揄うようにしてジンに
ついてくるー
「”まだ”ってことはいつかお嫁さんにしてくれるのかな~?」
ニヤニヤしながら言うリリアー。
だがー
「お、担当変わってんじゃん」
ジンがそう呟くー
「ーえ?あ~、そうみたいだね」
リリアが、ジンの見ている方向を見て微笑むー
”王国からの使者”
最近は王国の大臣の男が来ていたが、
担当が変わったようだー。
村の村長や、村長の補佐役の男性、サイモンらが
出迎えているー。
「ーー遠路はるばる、ご苦労様です」
村長が頭を下げると、
「ーーー今回から、ルーン村の担当になりましたー
ゼアと申しますー」
と、男は頭を下げたー。
水晶玉を手にしたローブを羽織った男ー。
占星術師・ゼアー。
「ーーー」
ジンは、王国の新担当者・ゼアを遠目から見つめながら、
イヤな雰囲気を覚えたー。
「ーーではこちらへー」
村長が、占星術師・ゼアの案内を始める。
サイモンは村長に「俺はこれで」と、
いつもの狩りに出かけることを伝えー、
ジンの方に向かってくるー。
「よぅし、ジン、行くか」
サイモンの言葉に、ジンは、「はい」と、頷くー
リリアが「気を付けてね~!」とほほ笑みながら手を振ると、
ジンは「あぁ」と、リリアに向かって返事をして、
そのまま森の方に向かって歩き出したー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー村長ー」
村の役場に相当する建物に案内された占星術師・ゼアは笑みを浮かべるー。
「ーーはい?どうかいたしましたか?」
村長が穏やかな笑みを浮かべながら、ゼアに呼ばれて
奥の部屋に向かうー。
しばらくするとーー
ゼアだけが出てきてー
数時間後ー
村長が”自殺”しているのが見つかりー
村で騒ぎが起こったー。
「ーーー村長は、誠に残念でしたー」
占星術師・ゼアが首を振るー。
村長に近い人間たちは、村長の突然の死に驚き、
そしてーー
ゼアを疑ったー。
村長は自殺するような、人間ではないー、と。
しかしー
ゼアは笑みを浮かべながら、手に持った水晶玉を光らせたー。
「お前たちは、我がしもべになるのだー」
ゼアの言葉にー
その場に集まっていた村長の補佐役の男やー、
リリアの母親である道具屋の店主は、
虚ろな目になりー
そのまま、ゼアの前で膝を折ったー
「ーーはい…ゼアさまー」
リリアの母親が呟くー
周りにいた男たちや、村長の妻も膝を折っているー
「ククククー」
占星術師・ゼアは笑みを浮かべると、
「村長殿は、ご病死なされたー。
しばらくの間は、このゼアが、村長代行を務めることにしようー。」
と、宣言したーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
村の牧場の手伝いをしていたリリアは、
村長の死を知らされて驚くー
「ーーえ…!?今朝まで元気だったのに!?」
小さいころから村長に世話になっていたリリアは
動揺を隠せないー。
「ーーリリア、今日はもう手伝いはいいからー」
牧場の主が、リリアを気遣い、そう言うと、
リリアは頭を下げて、村のほうへと向かったー。
だがー
予想外にも、村は村長の死をまったく気にも留めていない様子だったー。
それどころかー
「ゼア様!」
「ゼア様!」
「ゼア様!」
”王国”から派遣されたという
占星術師・ゼアの周りに村人たちが集まっていたのだー
「ーーさぁ、ゼア様がみんなを占ってくれるわ!」
リリアの母親が、怪しげなローブを身に着けて、
ゼアの占いを受けるようー
村人たちを扇動しているー
「ーーえ…お母さん…!?」
リリアは困惑の表情を浮かべながらー
村人たちの様子がおかしいことに違和感を抱くー。
「ーーあ、、あの…!」
村人の一人に声を掛けるリリアー。
「そ、村長さんが、亡くなったと聞いてー」
リリアが言うと、
村人は笑うー
「心配ないぜ、リリアちゃんー
俺たちの運命を、ゼア様が導いて下さる!」
男が叫ぶー。
リリアは不安そうな表情を浮かべー、
母親に声を掛けるがー
母親は「リリアもゼア様に占ってもらうのよ!」と、
話が通じないー
「み、、みんな、、どうしちゃったの…!?」
リリアが戸惑っていると、
その様子を少し離れた場所から見ていた村人の一人が、
リリアを手招きしたー
「ーリリアちゃんー…」
その村人は言うー。
さっき、村長が”自殺”してから、
村人たちの様子がおかしくなりはじめたのだとー
まるでー
”あの占星術師・ゼア”に操られているかのようにー
「ーそ、そんなー」
リリアは怯えた表情を浮かべるー
「ーリリアちゃんのお母さんも…きっとあいつに何かされたんだー」
その言葉に、リリアは母親の元に再び駆け寄ろうとするもー
「ーサイモンさんと、ジンが戻るまで待つんだー」と、
その村人は、リリアが占星術師・ゼアに近付かないよう、
なんとかリリアを落ち着かせたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー今日も、なかなかだったな」
サイモンが、今日の狩りの成果に満足しながら
ジンと共に村に戻ってくるとー、
リリアと、2人の村人が駆け付けてきたー。
「ーーリリア?どうしたんだ?そんなに慌ててー」
ジンが言うと、リリアは「み、みんなの様子がおかしいの!」と叫ぶー。
リリアの横にいた2人の男が、「村長が、自殺しちまってー」と、
これまでの出来事を説明したー
「な、なんだって…そりゃあ…」
サイモンは戸惑うー。
ジンは一連の出来事を聞き、占星術師のゼアを疑うー。
当然の反応だー。
周囲の”危険だ!”という制止を振り切り、ゼアの元に
駆け付けたジンはー
「お前…!村長さんに何をした!」
と叫ぶー。
しかしー
ゼアは、水晶玉に手をかざしながらー
ジンを見つめて、目を赤く光らせたー
ゼアによる”洗脳”ー
「ーーー!」
ジンがゼアの目が光ったことに反応するー
「ーーー!?」
だがー
何も起こらなかったー
”な、なんだこいつー?”
ゼアは内心で驚くー
ジンには、なぜか”洗脳術”が通用しなかったのだー。
ゼアを睨みつけるジンー
ジンを睨みつけるゼアー
ジンの故郷”ルーン村”は、
”滅び”に向かって、静かに時を刻み始めていたー。
②へ続く
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コメント
以前、
「姫や騎士が絡まないファンタジー世界のお話も面白そう」という
コメントを頂いたので、
考えてみたお話デス~!
(憧れのシスターとかはありましたケド…★)
ファンタジー世界の中のごく普通の村で暮らす青年やヒロインの
物語ですネ~!
続きはまた次回のお楽しみデス~!
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