<FANBOX試し読み>「異世界の星空」①~⑤

☆こちらは「試し読み」コーナーデス
 本コーナー以外の憑依空間内の作品は、憑依空間内で”必ず”完結します
<試し読み>と明記していない作品で、(試し読みコーナー以外では絶対にやりません)
「続きはFANBOXで」は絶対にやらないのでご安心ください!

「試し読み」は↓を全てご納得の上でお読みください☆!
(料金が掛かったりすることはないので、安心してください~!)

※こちらの小説はFANBOXご案内用の「試し読み」です。
(試し読みが欲しいというご要望にお応えして、試し読みをご用意しました)

pixivFANBOXで連載していた女体化X異世界転生長編「異世界の星空」の
第5話までを公開していきます!
※「試し読み」では、最後まで完結しません。ご注意下さい
(完結済み全41話)

・試し読みコーナーでも、事前に<試し読み>と明記、どこまで読めるかを
明記した上で掲載しています。途中までであることをご納得の上でお読みください!

※1話あたりの長さは通常のと私の作品と同じで、
FANBOXでは1話ごとに公開していますが、
試し読み版では①~⑤を全部まとめてあります。

第1話「俺が異世界の姫!?」

「ここはー…?」

黒雲から稲光が見えるー。
広々としたー
不気味な渓谷のような場所-
見晴らしの良い、けれども不気味なその場所で、
男は戸惑っていたー

「俺はーーー?」
ごく普通のサラリーマン・藤枝 和哉(ふじえだ かずや)は
自分の置かれた状況を理解できずにいたー

現実でこんな場所は見たことがない。
まるで、ファンタジー世界のような、不気味な空間…

「ここは、いったい…何だ?」

和哉が、戸惑いながら歩いているとー
すぐ近くにー
骸骨が転がっていたー

「ひっ!?!?」
和哉が驚いて尻餅をつくー

”----”

ー!?

和哉は、かすかに女性の声が聞こえた気がして
振り返るー

そこには、何もいないー

そしてー
突然、身体全体が締め付けられるような、
今まで感じたことのない感覚を覚えて、
思わず苦しそうに声を上げてしまうー

「ぐあああああああ…
 あ…!?!?」

和哉はさらに異変を感じたー

突然、自分の声が高くなっていくー
戸惑い、恐怖を感じー
そしてー
突然、髪が伸び始めて、
身体に激しい違和感を感じると共にー
胸が膨らみー
股間のあたりに言葉では言い表せない様な感覚を感じー

「---!?!?!?ど、、どういう…?」

苦しい感覚が抜けた時にはー
和哉は”女”になっていたー

鏡はないー
自分の姿を確認することはできないー

だがー
この綺麗な手と髪ー
胸はーー

スーツ姿のまま、突然女になってしまった和哉は、
サイズが合わずにぶかぶかになったスーツ姿のまま
近くに落ちていた自分の鞄を広いー
歩き出すー

鞄の中にはスマートフォンがあるー
それを取り出して、亜優美や友人の省吾に
連絡しようとするもー
電波が通っておらず、つながらないー

「くそっ!ネットもだめか」
和哉は呟くー
何が起きているー?

「ここは…いったい…俺は…」
可愛い声を出す和哉ー。

そもそもーー
俺はーーーー

”死んだ”
はずー?

「---ほぉ…こいつは驚いた」

ーー!?

突然、聞こえてきた不気味な声ー
振り返ると、そこには、小さな浮遊する生命体ー
見たこともない不気味な生命体がいたー

「よ、、妖精…精霊…?え???虫…?」
女体化した和哉が戸惑っていると、

「虫!?俺は虫じゃねぇ!」
と、”ソレ”は叫んだー。

「---じゃ、、じゃあ、なんなんだお前…!」
和哉が可愛い声でそう呟くと、
妖精…のような生き物はこうつぶやいたー

「俺か?俺は…そうだな…
 死神みたいなもんだー」

とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

★主要登場人物★

藤枝 和哉(ふじえだ かずや)
ごく普通のサラリーマン。異世界に転生してしまい、女体化してしまう。

謎の生命体
自らを死神と語る謎の生命体

・・・・・・・・・・・・・・

夏がもう少しで終ろうとしているー

彼女の高梨 亜優美(たかなし あゆみ)が、
夜空を見上げているー

「---来月だったっけ?」
和哉が、亜優美の背後から声を掛けると、
亜優美は頷いた。

「うん。半年ぐらいで戻って来れるから…
 その間はちょっと寂しいけど」
亜優美がほほ笑むー

亜優美は、和哉の彼女で、
小さいころからの付き合いだー。

今では、彼女彼氏の関係となっていて、
このまま結婚も考えているー。

そんな亜優美が、来月から
転勤することになり、半年間、和哉とは
離れ離れになってしまうことになったー

「---ーーー」
亜優美が、星空を見つめながら呟くー

「---おじいちゃんが言ってたんだー
 辛いとき、寂しいときは、星空を眺めなさいってー」
亜優美が言うー。

「--星空?」
和哉が星空を見つめるー。

「うんー
 よく小さいころは、おじいちゃんと一緒に
 こうして、夜の空を見つめてたのー

 だから、今でも時々、
 ちょっと寂しくなっちゃったときは、
 こうやってー」

空を見つめてほほ笑む亜優美ー。

亜優美は、小さいころから自然を眺めたり
星空を見つめたりするのが好きだったー
明るい性格で、優しく、表裏のない亜優美ー。
和哉は、そんな亜優美をこれからもずっと支えていきたいと、
そう考えていたー

「ーーー遠く離れていても、この星空の向こうには、
 みんながいるー」

亜優美は、そう呟くと、少しだけほほ笑んでー
「半年間、東京で頑張って来るねー」と、笑みを浮かべたー

「あぁ。俺も亜優美の帰りを待ってる」
亜優美に対して、和哉は優しく微笑んだー

・・・・・・・・・・・

それから1週間が経過したー

亜優美と同じ幼馴染で、小さいころから腐れ縁の友人・
神埼 省吾(かんざき しょうご)から
”亜優美ちゃん、東京に行っちゃうんだってな”と
メッセージが届いた。

そういえば、省吾にはまだ教えてなかったな、と
思いながら和哉が返事をするー

省吾も小学生時代からの付き合いで、
和哉・亜優美とも親しいー。
亜優美と和哉が付き合いだしたときも、
心から祝福してくれたし、
最近は”結婚はまだなのか~?”などと
よく言ってきているー。

「--さて」
省吾にメッセージを送ると、
和哉は、時計を見つめたー

今日の仕事も終わりだ。

「お疲れ様でした」
サラリーマンの和哉は、スーツを整えると
上司に挨拶をして、そのまま会社を出るー。

「--さて、と……」
コンビニに寄って晩御飯でもかって帰るかー
などと、いつも通り、家に向かって歩く和哉ー

その時だったー

ーーー!?

和哉は目を疑ったー

和哉の視線の先に、ある光景が目に入ったー

亜優美がいるー。
亜優美と一緒に、男がいるー
その男も、和哉のよく知る人物だったー。

亜優美と和哉の共通の友人である、神崎省吾だー。

省吾が亜優美の肩を叩くと、
そのまま省吾は立ち去っていくー。

亜優美が、目から涙をこぼすとー
そのまま放心状態で歩き出すー

そしてー
赤信号の横断歩道にそのままーー

「---!」
大型のトラックがやってくるー

このままじゃ、亜優美が轢かれるーー!!

そう思った和哉はとっさに、
今までの人生で一番ー
そう言えるぐらいに全力疾走してー
自分の持っていた鞄を放り投げるのも忘れー
亜優美に駆け寄ったーー

「亜優美ーーー!!!」

「--え!?」

二人のすぐ側にはー
トラックー

間に合わないー!

そう感じながらも、
”亜優美だけは”と願いを込めてー
ハッとした様子の亜優美をー
突き飛ばすー

その直後、和哉の意識は途切れたー

・・・・・・・・・・・

「俺か?俺は…そうだな…
 死神みたいなもんだー」

”死神”を自称する謎の生き物がそう返事をしたー

「---…!?」
謎の世界で目を覚ました和哉は、
突然女体化してしまった自分の身体を
戸惑った様子で見つめるー

男物のスーツー
そのスーツが胸で膨らんでいるー

サイズも違うのか、
少しぶかぶかだー。

「---俺、死んだのか…?」
可愛い声で呟く和哉ー

「--いいや。死んじゃいねぇ。
 ここはー
 お前の住んでいた世界とは”異なる”世界ー」
”死神”がそう告げるー

「---は???へ??何言ってるのか、さっぱり分かんないけど!?!?」
和哉が戸惑いながら言うー
大体、なんで急に女になってしまったのか。
ここに来た時には、ちゃんと、自分の姿だったのにー。

「ーーー交通事故で死ぬ運命だったお前をー
 救ってやったんだよ」

”死神”は言う。

「は???え???じゃ、ここはどこなんだ?
 というか、あんたは誰なんだ!?」
和哉が戸惑いながら聞くー
可愛い声が口から出るのも、落ち着かないー

「言っただろ?ここは”お前の住む世界とは別の世界”」

そう言いながらも、”死神”はー
女体化した和哉を見つめながら、
あることを考えるー

”予測外の出来事ってわけかー。
 こいつは、もしかしたらー”

「---と
 俺の名前は…そうだな”エックス”とでも呼んでくれ」

「エックス!?」
和哉が言うと、”死神”ことエックスは呟いたー

「適当に今考えた名前だ。
 俺のことはエックスと呼べ」

とー。

「は…はぁ…」
和哉はそこまで言うとハッとしたー

「そ、、そうだ!?亜優美は!?
 俺を助けてくれたってんなら、亜優美はどこに!?
 亜優美は、、助かったのか!?」

髪をなびかせながら叫ぶ和哉ー

亜優美はー
トラックを避けれたのだろうかー
そもそも、亜優美は何故、赤信号の横断歩道をー?
直前に、亜優美と友人の省吾は何を話していたー?

「---亜優美…?
 あぁーーそれなら…」

エックスが言葉を止めたー

「--?」

「来た」
エックスが言う。

「-へ?」
和哉が周囲を見渡すと、そこには剣を持った骸骨の騎士が
集まってきていたー

「---”その姿”じゃ、狙われるのも無理はねぇな」
エックスが呟いたー

「狙われる?は?ど、どういうことだ!」
和哉が叫ぶと、
エックスは呟いたー

「-奴らは”皇帝・ゼロ”率いる闇の軍勢ー
 さしずめ、グール伯爵が、お前のことを嗅ぎつけたのだろうさ」

「---は???え!?」

剣を持って襲い掛かって来る骸骨の騎士。

「ひぃっ!?」
和哉は尻餅をついてしまうー
女体化した身体のお尻が地面に当たるー

「--ちょ、どうすれば…って!?えぇ!?」
和哉が振り返ると、”エックス”はそこには
既にいなかったー

「ちょ!!おい!!」
骸骨の騎士が次々と襲い掛かって来るー

和哉は戸惑い、逃げようとするー

だが、女の身体になっているからだろうかー
思うように、力が入らないー
すぐに息が上がってー

そしてー

骸骨の騎士に追いつかれてしまうー

「だ…誰か!!!」
和哉は悲鳴を上げたー

「誰かーーー!!!」

ーーー!

目の前の骸骨の騎士の首が砕け散った。

「ひぃぃっ!?」
和哉がおびえていると、
骸骨の騎士がいた場所の背後から、
馬に乗った騎士のような男が現れたー

「--姫様、ご無事ですか?」
イケメン、とでもいうべきだろうか。
勇敢そうな男が、馬から降りると、
和哉に手を差し伸べたー

「姫…?」
和哉が首をかしげる。

「--ユーリス、抜け駆けは禁物だぞ」
背後から、女の声がするー。
ユーリスと呼ばれた男と同じような恰好の女ー。

背後からさらに二人の騎士がやってくるー。

「--王宮騎士団長4名ー
 ユーリス、フェルナンデス、ジーク、ミリアー
 全員揃っております」

ユーリスと呼ばれた男ー
最初、和哉を助けた男が頭を下げるー

「--花のように美しい姫様をお守りするのが
 我らの仕事ーご安心ください」
いかにも貴族な雰囲気の男・フェルナンデスが言うー。

「--しかし姫様、単独行動とは感心しませんな。
 ご自分の立場に対する自覚が足りないのでは?」
神経質そうな男・ジークが言うー。

「--ジーク、今はそんなことを言っているときではない」
ユーリスがなだめるようにして言うと、
ジークは舌打ちをして目を逸らしたー

「ご無事で何よりです。姫様。
 このあたりには、グール伯爵の魔物が潜んでおります。
 急ぎ、城に戻りましょう」

ユーリスが丁寧に、そう告げたー

「--えっ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。
 姫様?城?
 えっ?これって、ドラマの撮影ですか?」
和哉が苦笑いしながら言うー
可愛い声でー。

「------?」
ユーリスら4人が首をかしげるー

「--どら…?何を言っているかわかりませぬな」
神経質そうな男・ジークが言う。

「--ところで姫様、その格好は?」
女性騎士・ミリアが、和哉のスーツを指さす。

「へ?あ、、あぁ、これは、スーツですけど」
和哉が、女体化してぶかぶかになったスーツを
触りながら言うー

「--スーツ?おぉ、よく分かりませんが、美しい!」
貴族風の騎士・フェルナンデスが叫ぶー。

「----」
ユーリスが、和哉の方を見るー

和哉も4人の方を見るー

”なんだなんだ???
 ”姫”ってー?
 俺の事を”姫”と勘違いしているのか?”

「--あ、、あの人違……」
”人違いだ”
そう言おうとしたその時だったー

「ーーーしっ!」
女性騎士・ミリアが静かに、と合図をするー

「---おやおや、魔物どもが集まってきたようですな」
神経質そうな騎士・ジークが言うー。

「---ジーク、フェルナンデス、ミリア。
 姫様は俺がお守りするー
 お前たちは、活路を切り開いてくれー」

ユーリスがそう言うと、
「姫様は、私の後ろに」
と、馬に乗りながら言うー

「--へ…だ、、だから俺は姫様じゃ…」

「–早く!」
ユーリスの必死の叫びに、
和哉は気圧されて、そのまま鞄を持って
ユーリスの背後に乗るー。

ユーリスが馬を走らせるー

周囲に広がっていたのはー
見たこともないような光景ー

まるで、RPGゲームのようなー
そんな、世界ー

骸骨の騎士や剣士ー
ゴブリンやオークのような姿をした者たちがー
騎士たちと戦っているー

「--姫様をお守りしろ!」
騎士団長の一人・フェルナンデスが部下たちに
指示をしているー

別の騎士団長、ジークとミリアも、部下たちに
指示を出して、魔物たちと戦っているー

兵士が骸骨の剣士に斬られー
血を噴き出して倒れるー

「ひっ!?」
和哉は恐怖したー

”夢”じゃないー?
”ドラマ”じゃないー?

和哉は、無意識のうちにユーリスにしがみついていたー

騎士団長・ユーリスは、王宮を目指すー

ここはどこだー?
俺はなんで女になったんだー?
王宮騎士団長を名乗るこいつらはなんだー?
闇の皇帝ってなんだー?

亜優美は助かったのかー?
事故前に亜優美と省吾は何を話していたー?

頭の中が混乱するー

でもー
和哉はそんなことも忘れて、
恐怖に震えー
ただただ、馬を走らせるユーリスにしがみついたー

「--ーーー走れー」
”死神”エックスが、遠くから
小さな体を浮遊させて、女になった和哉とユーリスの乗る
馬を見つめていたー

「---”運命”の外に外れた存在ー
 もしかしたらー
 それこそが、未来となるのかもーな…」

エックスはそう呟くと、静かに姿を消したー

和哉はふと、空を見上げるー

この世界にもー星空があるー

 「ーーー遠く離れていても、この星空の向こうには、
 みんながいるー」

訳の分からない状況ー
命の危機すら感じるこの状況でー
亜優美の言葉を思い出して、
和哉は少しだけ気持ちを落ち着けたー

②へ続く

第2話「困惑」

その日が、全ての始まりだったー。

いきなり、見知らぬ世界に飛ばされてー
いきなり、女になってー
いきなり、知らない人たちに”姫様”と呼ばれてー

すぐに、状況を理解できるはずもないし、
気持ちの整理もつくはずがないー

それでもー
”動き出してしまった運命”は止めることはできないー

立ち止ればー
未来は、閉ざされてしまうからー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

★主要登場人物★

藤枝 和哉(ふじえだ かずや)
ごく普通のサラリーマン。異世界に転生してしまい、女体化してしまう。

高梨 亜優美(たかなし あゆみ)
和哉の恋人。自ら命を絶とうとしていたところを、和哉が救い…?

神埼 省吾(かんざき しょうご)
和哉・亜優美の共通の友人。事故直前、亜優美と会話していた。

ユーリス/ジーク/フェルナンデス/ミリア
突如として現れて、女体化した和哉を魔物から救った王宮騎士団長たち。

エックス
自らを死神と語る謎の生命体

・・・・・・・・・・・・・・

馬に乗った騎士団長・ユーリスにしがみつくようにしている
和哉ー。

和哉は異世界に飛ばされてすぐに、突然女体化してしまい、
その直後に、骸骨の騎士に取り囲まれたー

だが、”王宮騎士団”を名乗る4人に救出されて
訳が分からないままー
王宮騎士団長のひとり・ユーリスの馬に
乗せられて危機を脱していたー

綺麗な髪が、風にゆられてふわふわするー
思わず、ドキドキしてしまうー。

”いったい、どうなってるんだ?”
和哉は思うー。

この世界はー?
こいつらはー?
俺はなんで女にー?

亜優美はどうなったー?
恋人の亜優美が、トラックに跳ね飛ばされそうに
なっているのを助けてーー

そして、気付いたらここにいたー

訳の分からないことが多すぎるー

「---姫様、もう大丈夫です。ご安心を」
ユーリスがそう言うと、
目の前には、活気づいた街が広がっていたー。

「--門を開けよ!」
騎士団長・ユーリスが叫ぶー。

すると、立派な門が開くー

後から合流してきた他の騎士団長の3人、
ジーク、フェルナンデス、ミリアも、ユーリスに続くー

街に入ると、民衆が、ユーリスら4人を出迎えたー

「姫様のご帰還だ!」
「アリシア姫が戻られたぞ!」
「おおぉぉ!我らの希望!」

民衆が、一斉に叫ぶー。
心から、”姫様”の帰還を喜んでいるー

「--これは…?」
和哉が、ユーリスの馬の後ろに乗ったまま
不思議そうに周囲を渡すと、
横にいる騎士団長のフェルナンデスが答えたー

「ご覧ください。
 民が、お美しい姫様の帰還を喜んでいるのですー」
フェルナンデスの言葉に、
「姫…」と和哉は表情を曇らせるー

いったい、どうなっているー?

「----」
女体化した和哉をうしろに乗せて
馬を歩かせているユーリスが、表情を少しだけ歪めたー。

馬から降りる騎士団長たちー。

「---姫様…よくぞご無事でー」
城の前で、老人がユーリスら騎士団長を出迎えるー。

「---ルベール殿」
騎士団長の一人・ユーリスが、出迎えた老人をそう呼ぶと、
何やら話し込み始めたー

「---」
ルベールとユーリスがしばらく話し込むー。

そして、しばらくすると、ユーリスが和哉の方を見たー

「姫様、お疲れでしょう…
 一度部屋でお休みになられては?」

ユーリスの言葉に、和哉は「え…あ、、は、、はい」と
慌てて返事をしたー

とりあえず、一息つきたいー
状況が全く理解できないー

「--よし、姫様を部屋へとお連れするー」
ユーリスが周囲にそう言い放つと、
出迎えた老人・ルベールと共に、
和哉を城の中へと招き入れたー

城の中は、まるでRPGゲームで見るような
王宮のように、豪華で、輝いていたー

「---…これは」
和哉は不思議そうに周囲を見渡すー

ぶかぶかのスーツが気になるし、
自分の身体に胸があるのも気になるー

ユーリスらに案内されながら、さりげなく自分の
股間のあたりを確認してみたが、
”アレ”がないー。

「-----」
ユーリスがチラッとその様子を横目で見るー。

やがてー
「到着しました」と、ユーリスが頭を下げるー

部屋の中に入るー

しかし、そこは、とても”姫の部屋”とは思えないような
暗い部屋だったー

「--ユーリス殿、どうして、ここに?」
老人・ルベールが戸惑っているー

ユーリスは、部屋の扉を閉めると、
突然、剣を和哉に向けたー

「ひっ!?」
和哉が尻餅をつくー。

可愛い悲鳴が、口から洩れてしまうー

「---……お前は、誰だ?」
ユーリスが鋭い目つきで和哉を睨むー

「ひっ…!?!?え、、、えっ!?!?」
和哉は戸惑うことしかできなかったー

”それは、こちらが聞きたいぐらいだー”
とー

いやー
そんなことを言ってる場合じゃないー
下手をすれば、この訳の分からない騎士に
殺されーー

「--ひ、姫様に向かってなにをしおておられる!?」
老人・ルベールが声を上げるー

「--ルベール殿、この者は
 姫様ではありませんー

 見た目は姫様ですがー、
 ”違う”」

ユーリスが鋭い目つきで、女体化した和哉を睨むー。

和哉は頭をフル回転させたー

さっきー
”アリシア姫が戻られた”と民衆が言っていたー

つまり、今の和哉の姿は
”アリシア姫”なる人物の姿であるということだろうー。

だったらー

「--ゆ、、ゆ、、ユーリス…
 わたしは、、わたしは、アリシア、、、ですよ」
和哉は、姫っぽい口調を、なんとか作り出して
震えながら振り絞ったー

”アリシア姫”なる人物が、普段敬語で話しているのかどうかも
分からないー
だが、和哉の中の”姫”のイメージから、
敬語を使ったー

「---……答えよ、何者だ」
ユーリスが剣を和哉に近づけるー

「--ひ、、、や、、やめ…やめてくれ…助けてくれ!」
和哉が叫ぶー

そしてー
髪を揺らしながら、その場で土下座したー

「す、、すみません…
 すみません!
 お、、俺は敵じゃありません!
 ぜ、全部説明させてください!」

和哉は、観念したー
”アリシア姫”として振舞うのは困難だー

全てー正直に、包み隠さず、話すー。

ユーリスとルベールが顔を見合わせるー。
和哉は、アリシア姫なる人物の姿・声で
これまでのことを話し始めたー

自分は、藤枝和哉という人物であることー
普通のサラリーマンであることー
恋人の高梨亜優美を助けようとして車に轢かれたと思ったら
突然ここにいたことー
最初は男の姿だったけれど、突然女になってしまったことー
そこに、”死神”を名乗る”エックス”という変な奴が現れたことー

その直後に骸骨の騎士に囲まれて
死ぬかと思っていたところ、ユーリスらがやってきて
助けてくれたことー

全てを、隠さず話したー

「-----------」
ユーリスは、和哉に剣を向けたままー

「-ふじえだかずや?たかなしあゆみ??」
老人・ルベールが困惑するー

”あまりにも変な名前だ”と、
そう思ったためだー

「-------そんな話、信じると思うか?」
ユーリスが剣を向けたまま、和哉を見つめるー

「---信じるも何も、全部、真実だー」
理不尽に疑われて腹が立ってきた和哉は
そう言い放つと、ユーリスの方を睨んだー

にらみ合う二人ー。

そしてー
ユーリスが、剣を収めたー

「--!」
和哉が驚いていると、ユーリスが頭を下げたー

「--失礼した。
 ふじえだかずや殿。
 ご無礼をお許しいただきたい」

ユーリスがそう言うと、
ルベールが驚いたよう様子でユーリスの方を見るー

ユーリスは、そのルベールの反応を察して呟くー

「意味不明なことばかり言っているがー
 この者の目、嘘をついている目ではないー」
ユーリスがそう言うと、
老人・ルベールが、和哉の方を見つめて、
頭を下げたー。

「--ま、、ま、、待ってくれ!」
和哉が叫ぶー
姫の声でー。

「---い、、今説明した通り
 俺は他の世界から飛ばされてきたばかりで、
 何も分からないんだー

 ど、どうして俺は、この姿になったんだ?
 ここはどこなんだ!?」

和哉が言うと、
ユーリスがため息をついてからー
近くの椅子に座ったー

そしてー
答えたー

「--お前は、どこの出だ?」
ユーリスが尋ねて来るー

「--え…お、、俺は…
 え、、えっと、日本の北海道というところからー」

「---にほん?
 ほっかい…?」
ユーリスが表情を歪めるー
ルベールの方を見るー
ルベールが”知らない”という様子で首を振る。

「---アクア王国ー」
ユーリスが口を開くー

「は?」
和哉が表情を歪めるー。

「--知らないか?」
ユーリスが確認するー
和哉は頷いたー

そんな名前、聞いたことがないー

ユーリスたちは”アクア王国の人間”であると説明したー
この大陸は、アクア王国が千年以上にわたり統治してきており、
長い平和を謳歌していたが、
”闇の帝国”が現れ、長年戦争状態が続いているのだというー

「--お前を救ったのはー
 アクア王国の王宮騎士団。
 その騎士団を率いる4人の騎士団長が、
 俺と、お前を救った他の3人ー
 ジーク、フェルナンデス、ミリアだー。」

ユーリスが丁寧に一つ一つ説明していくー

「---お、、俺のこの姿はーー」
和哉が言うと、
ユーリスは少しだけさみしそうに答えたー

「我らが姫様ー
 アリシア姫のお姿だー
 1週間ほど前に、消息を絶たれたー」

ユーリスの言葉に、
和哉は唖然とするー

「俺が…姫…?」

その言葉に、ユーリスが頷くー

「--お前の姿は、アリシアそっくりだー。
 どうしてそうなったのかは分からないー

 だが少なくともー
 外から見れば、アリシアにしか見えない」

ユーリスはそう説明したー

「---だからお前をここに呼んだー
 俺以外は、お前を本物のアリシア姫だと思っているだろう。

 他の人間が、”本物のアリシア姫”だと思っているうちに
 お前が何者なのか、確認しておきたかったー」

ユーリスの言葉に、
和哉は「どういうことだ?」と首をかしげるー。

「----…姫が戻られるまでで構わないー
 どうかー
 ”姫様の代わり”になってくれないかー」

ユーリスが頭を下げたー

「は!?!?」
和哉は思わず叫んでしまうー

「--この国は今、
 アリシアが突然姿を消して
 絶望に包まれているー

 不安と恐怖が民衆を支配しているんだー。

 アリシアは、俺たちの希望なんだー。

 アリシアが戻るまででいいー
 どうか、”姫として”
 姫として、みんなの希望になってくれないかー」

”姫の姿をしたよく分からない男”-
そんな怪しいやつに、頭を下げてまで頼み込むのには
ユーリスなりの事情があったー

ひとつはー
国民の間に”姫失踪”の不安と恐怖が広がっていることー

もうひとつはー
王国も一枚岩ではなく、姫失踪の混乱に乗じて
宰相を中心とした勢力が、乗っ取りを企てていることー

”姫が行方不明”という状態を長引かせるわけには
いかなったのだー。

ユーリスは、そのことを包み隠さず説明したー

「---ーーお前も、俺に嘘をつかなかったー
 だから、俺も正直に話そう」
ユーリスは”和哉の目”から
”よく分からないやつだが、信頼はできる”と
判断していたー。

「あ、、い、、いやいや、ちょ、ちょっと待ってくれ!
 姿は、その、アリシア姫?だったっけ…?だとしても
 俺、さっきまで男だったし、
 そのアリシア姫の普段の振る舞いも知らないし、
 この国のことも皆さんのことも何も分からないから
 さすがにそれはちょっと…」

和哉が、可愛らしい声で戸惑いながらそう言うと、
ユーリスは
「ーーールベールが、全部教えてくれるー
 俺も出来る限りカバーする。
 だからー頼む。
 この国の未来のためにー
 アリシアを慕う、民衆のためにもー」
と、今一度、頭を下げたー。

「-----そ、、そんな…」
和哉は戸惑うー

だがー
同時に困っている人を放っておけない性格の
和哉は、頭を下げている騎士団長・ユーリスを
見つめて、戸惑っていたー
ユーリスという男は
好青年風の騎士で、裏表はなさそうだー。
とても、誠実そうに見えるー。

「---…確かに、すぐには答えは出せない…か」
ユーリスはそう呟くと、和哉の方を見たー

「--1週間…
 1週間だけ、待つー。
 その間にーー決めてほしい」

ユーリスがそう言うと、
和哉は戸惑いつつも頷いたー

そしてー
”不安”を口にしたー

「--もしも、Noと言ったら…?」
和哉の言葉に、
ユーリスは表情を曇らせたー

「-----…その時はーーー」
ユーリスは、それ以上は言わなかったー

「--1週間…じっくり考えてみてくれー。
 その間、みんなには”姫は療養中”だと説明しておくー」
ユーリスはそれだけ言うと、
「ルベール殿…この者をよろしく頼みます」と頭を下げて
そのまま部屋を後にしたー。

「-----い、、いきなりそんなこと言われても」
困り果てた表情の和哉ー
だらしない座り方と、サイズが合わないぶかぶかのスーツを見て、
老人・ルベールは、苦笑いしたー

「私は姫様のお世話をしておりますルベールと申します。
 以後、お見知りおきを」

ルベールが”姫の見た目だけど姫じゃない”和哉に対して
自己紹介をするー

そして、和哉に向かって
「まずは、着替えを用意いたします」
と、ルベールは頭を下げたー

ーーーー!?!?!?!?!?

ルベールが持ってきた着替えは
いかにも、”姫”という感じのドレスのようなものー

「---ひぅっ!?俺がこれ着るの?」

「--はい。ここは、一部の者しか入れない
 離宮の部分になりますが、誰が見ているか分からない故、
 姫様としてふさわしいふるまいを身に着けていただきます」
ルベールが、そう言いながら頭を下げたー。

「--ひぇぇぇぇ…」
和哉は悲鳴を上げるー

”俺は男だぞー?”

和哉は特別下心満載な男ではないがー
こんな格好させられたらー
興奮してしまうかもしれないし、
平常心を保てる自信がないー

「---…」
和哉は、戸惑いながらもスーツを脱いで、
ドレスに着替えようとするー

「---!?」
ルベールが表情を歪めるー。

「ーーな、、何とはしたない…!」
ルベールの目の前で突然、裸体を見せつけた女体化した和哉に
ルベールは取り乱した様子だー。

「お、、お着替えはあちらですぞ!
 人前で脱ぐなんて、何を考えておられる!?」
ルベールの言葉に、
和哉は「お、、俺はさっきまで男だったんだよ!」と、悲鳴にも
似た声を上げたー

「--」
隣の着替えをする際に姫が使っている部屋に入るー

「ーーーーーー」
着替えのドレスを見つめて、戸惑う和哉ー

「---これ…どうやって着るの?」
隣の部屋から顔を出した和哉ー

ルベールは呆れた様子で
「何も知らないのですな」
と、呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

テーブルに騎士団長や王国の重鎮らが集まっていたー

「ーーー姫様の姿が見えぬが、どうかなされたのかな?」
騎士団長・ジークが、ユーリスの方を見る。
神経質そうな顔を歪めながらー

「---姫様は、心身ともに衰弱しておられたー。
 しばらくの間は、離宮の方でお休みいただく。」
騎士団長・ユーリスが答えると、
同じく騎士団長のジークは食い下がったー

「ほう?民衆の間に不安が広がる中、
 姫様はひとり、悠々自適にお休みになられている?
 そういうことですかな?」
ジークの言葉に、女性騎士団長のミリアが
「口を慎め!ジーク」と声を荒げるー

ジークはうすら笑みを浮かべて首を振ったー

4人の騎士団長は一枚岩ではないー
アリシア姫を慕っているのはユーリスと女性騎士団長のミリア。
“反アリシア派”と言うべきなのは、神経質な雰囲気の騎士団長・ジーク。
もう一人のいかにも貴族風な騎士団長・フェルナンデスは中立ー。

アクア王国はー
”内部”にも不安を抱えているー

それが、ユーリスが
”偽物”と知りつつも、アリシア姫の姿になった和哉に
姫の代わりをお願いした理由ー。

姫が失踪したとなれば、
宰相ローディスを中心とした”反アリシア派”が動き出す。
もちろん、騎士団長のジークも黙ってはいないー

「ーー今は、姫様の回復を信じ、我々が奮起するしかなかろう?」
騎士団長・フェルナンデスがそう言うと、
ジークも、それ以上は何も言わなかったー

・・・・・・・・・・・・・

女体化してアリシア姫の姿になった和哉の
2日目の朝が始まったー

「--1週間…じっくり考えてみてくれー。
 その間、みんなには”姫は療養中”だと説明しておくー」

騎士団長・ユーリスの言葉を思い出すー

「はぁぁ…」
足を開いて座っている和哉を見て、
ルベールが「これ!姫様はそんな座り方しませんぞ!」と注意するー

「--うるさいなぁ…俺は姫じゃないんだって…」
和哉はうんざりしながらルベールに対して反論するー

「--その姿である以上、姫様としての振る舞いを
 していただきますぞ!」
ルベールが言うー。

”口うるさいじいさん”
そんな感じで、和哉はうんざりしていたー

”どうすっかなぁ…”
和哉は考えるー

この世界はなんだ?
なんで俺は”アリシア姫”とやらの姿にー?
亜優美は無事なのだろうかー?
どうやったら、元の世界にー?

”あの自称死神のエックスに話を聞ければ…”
和哉はそんな風に考えるー
あいつが、この世界に俺を飛ばしたのだとすれば
元の世界に戻る方法も知っているかもしれないー。

「----」

この時の和哉はまだー
”これから自分を待ち受ける運命”

そしてー
多くの”出会い”と”別れ”が待っていることを
知らなかったー

③へ続く

第3話「俺は姫じゃない」

「はい、プレゼント!」
大学生の頃の誕生日ー

和哉は、”それ”を貰ったー

「---え?なになに!?」
当時、大学生だった和哉が嬉しそうに包みを開けると、
可愛らしい柄の腕時計が出てきたー

「--!?」
和哉が驚くー

「和哉、いつも腕時計してるでしょ~?
 この前”最近調子が悪い”って言ってたから!」
亜優美が笑顔で言うー。

「--もしも今後、仕事とかで離れることがあっても、
 その腕時計を通じて、和哉のこと、見てるからね♪」
無邪気に笑う亜優美ー。

「------」
和哉は、祖父が時計屋を営んでいた影響からかー
腕時計をいつも身に着けているー

”調子が悪い”と言っていた和哉のために、
亜優美が用意したのが、花柄の腕時計ー

「---亜優美ぃ…」
和哉が苦笑いしながら言う。

「--え?」
亜優美が笑うー

亜優美は、時々”どこか抜けている”
真面目で優しく、明るく、友達も多いのだがー
急に、”天然”な一面も見せるー

どう考えても、女性向けー。
男の自分がする腕時計じゃないー

「--…」
和哉は”俺がこれを大学につけていくのかよ!?”と
突っ込みたくなったが、
それ以上は何も言わなかったー

亜優美は亜優美なりに、一生懸命選んできてくれたのだからー

和哉は優しく微笑んだー

「ありがとうー
 大事にするよー」

あれからーーー

”一度”も身に着けたことのない腕時計ー

けれどー
いつもいつも、和哉は、仕事に行くときも
鞄に”亜優美からもらった大切な腕時計”を
潜ませているー

”異世界に転生した、今”もー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

★主要登場人物★

藤枝 和哉(ふじえだ かずや)/アリシア姫
異世界に転生後、女体化。行方不明のアリシア姫と間違えられてしまうことに…。

高梨 亜優美(たかなし あゆみ)
和哉の恋人。自ら命を絶とうとしていたところを、和哉が救い…?

神埼 省吾(かんざき しょうご)
和哉・亜優美の共通の友人。事故直前、亜優美と会話していた。

ユーリス/ジーク/フェルナンデス/ミリア
突如として現れて、女体化した和哉を魔物から救った王宮騎士団長たち。

ルベール
アリシア姫の世話係。

エックス
自らを死神と語る謎の生命体

・・・・・・・・・・・・・・

「---亜優美ー」
アリシア姫の自室のベットに座りながら、
”元の世界”から持ってきた鞄を見つめる和哉ー

この世界に到着直後に女体化してしまって、
今はみんなに”アリシア姫”だと思われているー。

鞄の中にはー
大学時代に亜優美からもらった腕時計があるー。

大学を卒業して、社会人になって、
20代中盤になった今でも、
この腕時計は大切に、常に持ち歩いているー

まさかー
異世界にまで持ってくることになるなんてー

「--もしも今後、仕事とかで離れることがあっても、
 その腕時計を通じて、和哉のこと、見てるからね♪」

「----今も、俺のこと見ててくれてるのかな…」
少しだけ自虐的に笑うー

こんなことになるなんてー。

「--1週間…
 1週間だけ、待つー。
 その間にーー決めてほしい」

王宮騎士団長のひとり・ユーリスに言われた言葉を
思い出すー。

「急に、そんなこと言われてもなぁ…」
足を組みながらため息をつく和哉ー。

あのユーリスという騎士団長は”信頼できる男”に見えるー

だがー
それでも、自分にー

「---な、なんと…姫様のお姿でそのような…!はしたない!」
足を組んでいる和哉を見て、部屋に入ってきた
世話役のルベールが声を上げたー。

「---俺は姫様じゃないんだってば…」
和哉がため息をつきながら、足を組むのをやめて、
「と、いうか、頻繁におじいさん、ここに来るの?」と、尋ねるー

「お、、おじいさん!?こ、、コホン…
 これが、私の仕事でございます故ー」
ルベールはそう言うと、
「私は姫様のことを幼き頃より見ておりましてな…
 小さいころは姫様の教育係も務めたものです」
と、説明をつけ加えた。

「--ふ~ん…」
和哉がそう呟くと、ルベールは、和哉の服の着こなしを見て
「-ーーーあぁ…だらしない」と、嘆いたー。

「--し、仕方ないだろ?!
 俺、こんな服着たことないんだし!?」
和哉が、戸惑うー
姫のドレスなんて着たことがないー
いきなり、綺麗に着ろと言われる方が無理だー。

「じゃ、じゃあさ、じいさんが教えてくれよ
 俺だって、数日前まで男だったんだから!」

そう言うと、ルベールは首を振った。

「無理でございます」
とー。

「な、なんで!?姫様のお世話してたんじゃないの!?」
と、和哉は戸惑いの声を出したー

その声は当然、アリシア姫の声で
綺麗な声が部屋に響き渡るー

「---姫様のお着替えを覗くわけには参りませんので」
ルベールの言葉に、和哉は”そ、そりゃそうか”と思いながらも
「って、俺はアリシア姫じゃないし!急に女体化しただし!
 元男だし大丈夫だから!」と叫ぶー。

「--ダメです」
ルベールは即答したー。
例え、和哉が女体化した、”偽物”のアリシア姫で
あったとしても、ルベールは断固として見るつもりはなかったー

「なんでぇ!?俺の身体、別にアリシア姫の身体じゃないし!
 なんか急に女の身体になっただけだし!
 べ、、別に大丈夫だから、ほら…綺麗にドレスを着るために
 できれば手伝ってほしいなぁ…なんて」

「--ダメです」
ルベールはにっこり笑いながら即答した。

「ケチ!頑固じいさん!」
和哉が不貞腐れた様子で、胡坐をかくー。

「--こ、、こら!そんな格好はダメですぞ!」
ルベールが慌てて叫ぶー

「--だから~!俺は姫じゃないの!」
和哉がそう言うと、
ルベールはやれやれと言う様子で
”分かりました”と呟く。

”落ち着かない”
和哉はそう思ったー
部屋にいても落ち着かないー

ルベールとかいうじいさんがしょっちゅう
入って来るし、心が落ち着く暇がないー

ルベールが部屋から退出すると、
和哉は、ベットにぐったりと寝ころんだー

「あ~~髪が邪魔だなぁ…」
和哉は、仰向けになったまま、アリシア姫の部屋の
豪華な天井を見つめるー

「----どうなってるんだよ…ホント」
和哉が呟くー
口から出るのは、可愛い声ー
容姿は”アリシア姫”とやらとそっくりなのだろうー
みんな、自分のことを姫と呼ぶー。

「--あぁぁぁ…胸も気になるし、
 アソコにアレがないのも落ち着かないし…
 何よりこんな姫スタイルの格好…
 全然落ち着かない!」

髪を振り乱しながら起き上がるとーー

目の前に不気味な浮遊する生命体がいたーー

「----ぎゃああああああああああああ!お化け!」
和哉は悲鳴を思わず悲鳴を上げてしまうー

「おいおい、オバケとはご挨拶だな」
浮遊していた生命体ー”エックス”はそう言ったー

和哉がこの世界に転生して女体化した直後に
和哉の前に姿を現した自称”死神”

「ーーー交通事故で死ぬ運命だったお前をー
 救ってやったんだよ」

とも、言っていたー

「--うわぁ…びっくりした、、え、、エックスだっけ…?」
和哉がそう言うと、
エックスは「はははっ、姫扱いされて、大変そうじゃないか」
浮遊しながら、小柄なー妖精ぐらいのサイズの彼は、
そう呟いたー

「--な、何の用だよ…
 と、というか、こ、、この髪、邪魔なんだけど!」
和哉が、長くなった髪を掻きわけながら言うー。

「ーー切れ」
エックスが冷静にそう言い放ったー

「--…む、、胸も気になるんだけど!?
 せめて胸をどうにかー」

「-できるわけないだろ」
エックスが失笑したー

それを聞いて和哉が叫ぶー

「というか、俺、本当にどうなってるんだよ?」
ーと。

その問いにエックスは答えたー

「言っただろ?お前のいた世界とは別の世界だってー」
エックスは、最初に和哉に言ったことと、同じことを答えたー。

「そ、それは分かったけどさ…!
 ほら、なんで俺、女の身体になっちゃったの?
 全然、訳分からないけど?
 
 そ、そうだ…
 あと、俺って元の世界に帰れるんだよな?

 あ、あと、亜優美は!?」

和哉が叫ぶと、
エックスは「質問の多いやつだな。
3つも一気に答えるのは面倒くせぇ」と、言いながらも、
質問に答えたー

「亜優美?あぁ、お前と一緒にトラックに轢かれそうになっていた女か?」
エックスが言うー

「ーーそう!その子!
 その亜優美はいったいー」
和哉はそれが一番の気がかりだったー

目から涙をこぼしながら、放心状態で歩いていた亜優美ー
その亜優美がトラックに轢かれそうになりー
とっさに亜優美を突き飛ばした和哉ー

和哉はそのあと、気付いたら
この世界にいたー

だから、”亜優美がどうなったのか”を知らない

「---ーーーその女はー」
エックスがそう言いかけるー

その時だったー

部屋の扉が開きー
ルベールと見知らぬ女がやってきたー

「--おっと!またな”お姫様”」
エックスがからかうようにしてそう言うと、
そのまま姿を消したー

ルベールと、見知らぬ女にはエックスが
見えないようだったー

「-ーー今、誰と話されてましたかな?」
ルベールが不思議そうに言うー。

「あ、いや、なんでもない」
和哉がそう言うと、ルベールは、背後にいた女を紹介し始めたー

「この者はーラナ…。
 アリシア姫にお仕えしていた侍女ですー。」

ルベールに紹介された女・ラナは
「姫様にお仕えしていたラナと申します」と
丁寧に頭を下げたー
穏やかそうなー
まだ、年齢的には高校生ぐらいにも見えるような少女だー

「---お力になれるか分かりませんが、
 姫様のために、全力でお手伝いさせていただきますー」
ラナが頭を今一度下げたー。

「あ…えっと…」
和哉が戸惑っていると、
ルベールがそれを察して答えたー

「ラナには、あなたのこと、これまでのことを
 伝えてありますので、心配はいりませんぞ。

 あなたの身辺のお世話をするにはー
 その、私だけでは力不足ですからな…」

ルベールは目を逸らしながらそう答えたー

”姫様の裸を見たりはできない”
そう、言いたいようだー
さっき和哉がルベールに着替えのことで
文句を言ったから、
ルベールが気を利かせて、同性のーーー
侍女・ラナを連れてきてくれたようだー。

「ーーお、、俺のこと、いろいろな人に伝えていいのか?」
和哉が小声でルベールに聞くと、
「心配はいりませんぞ。ラナは姫様に忠誠を誓う優秀な侍女ー
 あなた様の力にもなりましょうぞ…
 ユーリス殿の許可も頂いております。
 これからは私とラナで、あなた様のお世話をさせていただきます」
と、小声で答えたー

「---は…はぁ」
和哉が戸惑っていると、ルベールは「では、私はこれでー」と
そのまま立ち去ってしまったー

部屋に残されたラナと和哉ー

「あ、、え、、、えっと…よろしく」
和哉がそう言うと、ラナが口を開いたー

「--わたし、あんたのために世話するんじゃないから」
とー。

「--え」
和哉が戸惑うー

さっき、ルベールと一緒にいたときと、
ラナの雰囲気が全然違うー

「え…あの…」
和哉が言うと、ラナはうんざりした様子で答えるー

「-わたしは、姫様のために、あんたの世話をするの!
 そもそも、姫様の姿になったとか、すっごい失礼じゃない?
 反省してよね」

ツンツンしながらラナが、何かを準備し始めるー

「---え、、あ、、、う、、うん」
和哉はラナの”気の強い本性”に戸惑うー

「--こっちに来て」
ラナが言う。

「え??」
和哉が戸惑うー

「--着替えの練習するんでしょ!は・や・く!」

「--は、、はひっ!」
和哉は、強気なラナに言われるがまま
”女の着替え”の練習を始めたー

・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「-------アリシア」
騎士団長・ユーリスは、アリシア姫のいない玉座を見つめるー。

ユーリスはアリシア姫の”幼馴染”であり、幼少期は
よく一緒に遊んでいたー
成長するにつれて”立場の違い”を自覚し、
姫と騎士としての間柄となりー、
その任務を忠実に果たしているー

公の場では”幼馴染”としての顔を出すことは決してないー

だが、二人きりになったりしたときには、
小さいころのような接し方をしたり”アリシア”と呼んだり
することもあるー

「---」
騎士団長・ユーリスにとっては、
アリシア姫は仕えるべき姫であり、大切なヒトでもあるー。

「---何か、私に隠してないか?」
ユーリスが廊下を歩いていると、女性騎士団長・ミリアが
待ち構えていたー

”氷の女”と呼ばれるほど任務に忠実でー
男顔負けの武術を戦場で振るうー。

「---隠す?俺が?」
ユーリスが苦笑いしながら答えるー

「--あぁ。ジークとフェルナンデスの目はごまかせても
 私の目はごまかせんぞ」
ミリアが、凛々しい女性、という雰囲気の声で
ユーリスを見つめるー

「---ー別に、何も隠してなんかないさ」
ユーリスは笑いながらそう言うと、立ち去っていくー

残されたミリアは、姫のいない玉座を見つめてー
「姫様…」と静かに呟いたー

・・・・・・・・・・・・

「--もっと、上品に食べなされ!」

食事中ー
世話役のルベールがガミガミとうるさいー

「あ~~!もう!じいさん!食事ぐらい好きに取らせてくれ!」
和哉が言うー。

髪が口に当たって落ち着かないー

「--ダメです」
ルベールが即答したー

「--あなた様がどういおうと、そのお姿はアリシア姫瓜二つ。
 姫としての振る舞いを身に着けていただけなければ
 困るのです!」

ルベールの言葉に、
和哉が「あ~!はいはい、分かりましたよ!」と
うんざりしながら、できるだけ丁寧に食事を口に運ぶ。

食事を終えた和哉は首を振るー

「あのじいさん、口うるさすぎだろ…
 おまけに頑固だし」
和哉がそう言いながら廊下を歩いていると、
「--あんたが悪いのよ」と、一緒にいた侍女のラナが吐き捨てたー

ルベールは口うるさいじいさんだし、
侍女のラナは、アリシア姫の偽物でもある和哉へのあたりが強いー

和哉は”帰りたい”と思いながら、
自分の部屋へと向かうー

「--歩き方!姫様はそんなガツガツ歩きませんぞ!」
ルベールが背後から叫ぶー

「--あ~~~!もう!」
和哉は、女の子らしい歩き方に変えると
イライラした様子で歩き始めたー

・・・・・・・・・・・・・・・

夜ーーー

ルベールが、王宮の書庫で、
何やら必死に本を読んでいるー。

「--------なるほど」
ルベールは、本を読みながらそう呟くー

蝋燭に照らされたルベールの表情は、
普段見せる表情とは違いー
険しい表情だったー

④へ続く

第4話「苛立ち」

昔からー
”じいさん”は苦手だー。

何故かはわからないー

”嫌い”ではないー
”苦手”なんだー。

”おじいちゃん”を思い出してしまうからー。

和哉は、小さいころに祖父を失った。
小さいころの和哉は、おじいちゃんにとても
なついていたー

「おじいちゃん、これ欲しい~!」
まだ小さく、無邪気だった和哉がおもちゃを指さしながら言うと
「はは、和哉が来月、5歳になったら買ってあげるぞ~!」と
おじいちゃんは”約束”してくれたー

でもー
その約束が果たされることはなかったー
何故ならー
その約束をした2週間後に、おじいちゃんの
持病が悪化して、倒れてしまったからだー

「--おじいちゃんなんて、嫌いだ!
 約束したのに…!約束したのに!!」

4歳の和哉はー
まだ幼かったー

死ぬ間際のおじいちゃんにかけてしまった
あの言葉が、今にも忘れられないー

「ーーーごめんな…和哉」
”誕生日プレゼント”の約束を守れなかったことを嘆く祖父ー。

「--うそつきは泥棒のはじまりっておじいちゃん言ってたもん!
 ドロボウー!!!」

それがー
4歳の和哉と、大好きなおじいちゃんの最後の会話ー。

「---苦手だなぁ…じいさんは」

”嫌い”ではないー
ただ、あの時のことを、今でも思いだしてしまうからー。

口うるさい側近のルベールを思い出しながら
和哉は自虐的にほほ笑んだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

★主要登場人物★

藤枝 和哉(ふじえだ かずや)/アリシア姫
異世界に転生後、女体化。行方不明のアリシア姫と間違えられてしまうことに…。

高梨 亜優美(たかなし あゆみ)
和哉の恋人。自ら命を絶とうとしていたところを、和哉が救い…?

神埼 省吾(かんざき しょうご)
和哉・亜優美の共通の友人。事故直前、亜優美と会話していた。

ユーリス/ジーク/フェルナンデス/ミリア
突如として現れて、女体化した和哉を魔物から救った王宮騎士団長たち。

ルベール
アリシア姫の世話係。

ラナ
アリシア姫の侍女。和哉に対しては辛辣な接し方をする。

エックス
自らを死神と語る謎の生命体

・・・・・・・・・・・・・・

女体化した和哉がアリシア姫として王宮に連れてこられてから、
5日目ー。
和哉は未だ、”どうするべきか”答えを見いだせずにいたー。

そんな中ー

「--フェルナンデス様から報告」
兵士が、騎士団長ユーリス、ジーク、ミリアの3人に向かって頭を下げる。

「--皇帝軍の戦力が想像以上に多く、
 増援をお願いしたいとのこと」
兵士の報告に、ユーリスら3騎士団長が顔を見合わせるー。

昨日、闇の皇帝・ゼロが率いる勢力が
アクア王国の西方に存在する村・フロル村を襲撃したとの
報告が入り、4部隊存在する王宮騎士団のうちの1部隊を率いる
騎士団長・フェルナンデスがその迎撃に向かったー

だが、想像以上に敵の勢力が強大であるため、
もう1部隊、援護のために派遣してほしい、と
そういう知らせだったー

「---…」
騎士団長のユーリスは考えるー

(あいつの件もあるー
 俺はここを離れるわけにはいかない)

異世界からやってきたという”かずや”
この世界にやってきた瞬間に、女になってしまい、
その姿がアリシア姫そっくりだったことから、
ユーリスは、和哉にアリシア姫の代役を、
お願いしていたー

アリシア姫の不在を長引かせればー
民衆の不安にもつながるし、
闇の帝国も、総攻撃に出る可能性がある。
また、宰相ローディスや、反アリシア姫派である
騎士団長・ジークが王国の全権を握ろうと
動き出す可能性もある。

だからこそ、ユーリスは、和哉にアリシア姫の”影武者”を
頼んでいたー
和哉がどう決断するかはまだ分からない。
だが、それまではここを離れるわけにはー

「--ミリア、お願いできるか?」
ユーリスが言うと、女性騎士団長のミリアが頷くー。

だがー
「--いいや、ここは貴公が向かうべきだろう」
神経質そうな顔を歪めて、騎士団長のジークが言う。

「--いやー俺は姫様にー」
ユーリスが反論しようとするー
”和哉の件”で、今は王宮を離れるわけにはー

「---何か、不都合なことでも?」
ジークがイヤらしい笑みを浮かべるー

「---……」
ユーリスが表情を歪めるー。

先日、救出した”アリシア姫”が、異世界から来た男が
アリシア姫そっくりに女体化した”偽物”であると
ジークに知られるのはまずいー。

とは言え、ここで、頑なに”王宮を離れたがらない”という
印象をジークに与えるのもまずいー

「---別に、そんなことはないさ。俺はただー」
ユーリスがそこまで言うと、ジークは頷くー

「---ならば、王宮を離れることも問題ないかろう?
 王宮には、この俺と、ミリアが残る。
 何も、問題あるまい?」
ジークの言葉に、ユーリスは反論できずに戸惑うー。

ジークは”ユーリスが何か隠している”と疑っているー。
だからこそ、ユーリスに揺さぶりをかけていたー

「---…姫の身にー
 何か起きているのかな?」
ジークがいじわるそうな口調で言うー

「--そんなことはない!俺は…!」

そんなやり取りを見て、女性騎士団長のミリアが口を挟むー

「ユーリス、姫様は私とジークに任せろ」
ミリアの言葉に、ユーリスは戸惑いながらも、頷いたー

「わかった…」
とー。

「--姫様は、今、ひどくお疲れだ…。
 ルベール殿と侍女のラナに身辺はお任せしてある。
 他の者は近づけるな」
ユーリスが言うと、ミリアは頷くー。

出立の準備をするユーリス。
女体化した和哉がいる離宮に足を運び、
ルベールに、フロル村へ向かうことを告げるー

「--ルベール殿、俺が戻るまで、あの者をお願いします」
ユーリスの言葉に、ルベールは「承知いたしました」と頭を下げるー

「---無理は承知だー…
 だがーーーどうか、、、良い返事を期待している」
ユーリスは、和哉の方を見て、深々と頭を下げー
そのまま離宮を離れたー

馬に乗り、王宮騎士団を率いー
ユーリスが出陣した。

ジークが、その様子を見つめるー

”何か、隠しているな”
ジークは、口元を不気味に歪めたー

・・・・・・・・・・・・・・・・

「----」
女体化した和哉には悩みがあったー

”トイレ”だー。
上手くできないのだー

男と女のトイレの勝手は違うー

「---あんた、赤ちゃんじゃないんだから」

スカートを濡らした和哉を見て、
侍女のラナがうんざりした様子で言う。

「そ、そんなこと言われてもーー
 俺はついこの間まで男だったんだし…」
可愛い声で言う和哉ー

ラナが和哉を睨むー

「--いい!?この間まで男だったのだとしても、
 今、あんたは、姫様の姿なの!
 その姿で、トイレも満足にすることができずに、
 お洋服を濡らすなんて信じられない!
 
 その姿をしている以上、
 だらしない行動は絶対許さないから!」

激しい口調のラナに、
和哉は「俺は好きでアリシア姫とかいう人の姿になってるわけじゃ…」と
反論しようとしたー

だがー
ラナは「---返事は、”はい”」と激しい口調で言うー

和哉は思わず「は、はい!」と答えてしまったー

「---ほほ…荒れておるな、ラナ」

「--!」
ラナが、真っ赤な顔をして振り返ると、
そこには姫の世話役のルベールがいたー

「-ル、ルベール様!
 お、、お恥ずかしいところを」
ラナが、恥ずかしそうに頭を下げるー

”あの子、普段は猫かぶってるのか…”
和哉はそう思いながら
ルベールの方を見るー。

「--お食事の時間ですぞ。お迎えに上がりました」
ルベールが言う。

和哉は、「わかった」と、ルベールについていくー

「---その歩き方は、まずいですな」
ルベールが廊下を歩きながら言うー

和哉は「だ、、だから、俺は…」と、戸惑いながら反論するー

「---分かっております。
 ですが、その歩き方は、姫様として振舞うなら、
 やめていただかねばなりません」
ルベールの言葉に、和哉は
「俺は、姫の代わりするってまだ返事してないけど!」と
叫ぶー。

「---」
ルベールは少しだけ残念そうな表情を浮かべると、
振り返って、歩き出すー。

ルベールの小言は続くー

「あ~~~あ、本当にうるさいじいさんだな!」
和哉が思わず悪態をつくと、
ルベールは少しだけ笑ったー

「姫様にも、よく言われました」
とー。

そうこうしているうちに、食事が並んだテーブルのある部屋へと
到着するー

食事中もルベールがずっと、和哉を観察しー
”テーブルマナー”について、ガミガミと言い始めるー

和哉は、”このじいさん、本当に口うるさいなぁ”と
内心で思いながら、食事を終えて、
自分の部屋へと戻ったー

ベットに寝ころぶ和哉ー

”元の世界”から一緒にこの世界にやってきた鞄を見つめるー

その中にはー
彼女の亜優美からもらった”一度も使っていない腕時計ー”が
入っているー
”花柄で、男の俺がつけるのはさすがに…”という理由から
一度も身に着けたことはなかったが
いつも大切に鞄に忍ばせていた”宝物”-

「亜優美…」
和哉は呟くー

亜優美はどうして自殺まがいのことをしようとしていたのかー
直前に、共通の友人である神崎省吾と亜優美が話していた内容は何だったのかー

そもそも、亜優美は助かったのかー

鞄からスマホを取り出す和哉ー
だが、ネットにもつながっておらず、電波も通っていないー
連絡は出来ないし、情報を確認することもできないー

「---」
和哉は、充電が残りわずかであることに気づくー

「---…あ、、あの」
和哉がルベールを呼ぶー

ルベールが和哉の手にある”スマホ”を不思議そうに見つめるー

「--この世界、、充電とかってできるんですか?」

「--じゅ、、じゅう…?」
ルベールが”意味不明”と言わんばかりに首をかしげるー。

「--え、、、えっと、、電気…」
和哉が言うー

「--でんき?はて…?」
ルベールに意味が伝わっていないー。

「--この、部屋の明りの、、、エネルギーってか、、
 明りを照らしている、、、!」
和哉が、部屋のシャンデリアを指さしながら言うと、
ルベールは「あぁ、エナジーのことですな」と、頷いたー

「エナジー?」
和哉が首をかしげるー

「--左様。この世界には、”エナジー”と呼ばれる力が
 満ちておりましてな。
 その光も、エナジーによるものですぞ」

ルベールが説明するー

”エナジー…
 俺たちの世界の電力のようなものか”
和哉が内心でそう考えるー

「--我々一人一人にも、エナジーが存在していて、
 エナジーの扱いに長けたものは、
 それを戦闘にも生かすことができるのです」
ルベールがそう、説明したー

「--魔法…のようなものか?」
和哉が言うと、
ルベールは頷いたー

「そうですな…そのようなものと思っていただいても良いかと。」
”魔法”は通じたようだー

和哉が「え、、じゃあ、じいさんも使えるの?」というと、
ルベールは少しだけ恥ずかしそうに笑ったー

「お恥ずかしながら、”風”を使った攻撃を少々ー。
 ですが、私ももう歳ですし、披露することはないでしょうな。」

その言葉に、和哉は「ふ~ん…」と呟くー

「--騎士団長の皆様も、エナジーと武術を交えた戦いをするのですぞ」
ルベールが、部屋の片づけをしながら呟くー

ルベールによれば、”王宮騎士団長”も4人も
エナジーを使った能力をそれぞれ有しているのだと言うー

それぞれに異名がありー、
”炎の騎士”ユーリス
”氷の女王”ミリア
”薔薇の貴公子”フェルナンデス
”深淵の毒蜘蛛”ジーク
と、呼ばれているのだと言うー

「へ~…すごいんだな…みんな」
和哉はそう呟きながら”この世界では充電できなそうだな…”と
スマホを見つめたー

・・・・・・・・・・・・

フロル村ではー
救援に到着した騎士団長・ユーリスを
騎士団長のフェルナンデスが出迎えていたー

「おや、ユーリス殿ー、救援、感謝するよ」
薔薇を持った、”いかにも貴族”な感じの
フェルナンデスが言う。

「--フェルナンデス…状況は?」
ユーリスがそう言うと、
フェルナンデスは、薔薇を机に置いて、
状況を説明し始めたー

「フロル村周辺に、闇の皇帝軍が包囲する形で陣取っているー
 下級の魔物がほとんどだが、新しい”幹部クラス”が2名ほどいてな、
 それで、この私もてこずっているというわけだ」
フェルナンデスの言葉に、
ユーリスは「新しい幹部?」と、確認したー

「あぁ」
フェルナンデスは言う。

「一人は、女の剣使いで、
 もう一人は禍々しい紫の鎧に身を固めたやつだー。」

その言葉に、ユーリスは頷くー

「-ー我々騎士団長の力を見せてやろうではないか。
 ユーリス殿」

フェルナンデスは、そう言うと、
”敵の指揮官の奇襲”を立案したー

・・・・・・・・・・・・

翌日もー
和哉はルベールとラナの二人に
ガミガミ言われながら過ごしたー

早く、亜優美の安否を知りたいー

元の世界に戻ってー
亜優美の安否をー
和哉の中で、その感情が強まっていくー

こんなところで、姫なんてやってる場合じゃないー
とー。

亜優美は、何かに悩んでいたー
で、なければ放心状態で、道路に飛び出したりしないー

直前に、亜優美は、
和哉にとっても友人である幼馴染・
神崎省吾と話をしていたー
省吾と、いったい何を話していたのかー
そして、亜優美は無事なのか。

焦りだけが、増幅していくー

スマホに保存された、亜優美と和哉のツーショット写真を見て、
和哉はいてもたってもいられなくなるー
もうじき、充電できないスマホは、使えなくなるー。

そして、夜ー

「ーーーちょっと、じいさんに会いに行って来る」

和哉が、姫としての格好ではなく、
一番動きやすそうな服装に着替えながら言うー。

「--は?こんな時間に?」
侍女のラナが言うー。

「---あぁ。じいさん、夜にいつも、書庫に行ってるみたいだから」
和哉がそう呟くー

ルベールは夜になると、書庫にずっと引きこもって
何かを調べているー
書庫に行けば、ルベールに会うことができるー

「--ルベール様は、お忙しいの。
 その姿で、好き勝手しないで」
ラナが、ふん!と言わんばかりの態度でそう呟くー

だが、和哉は”大事な話なんだ”と、
ラナの静止を振り切り、図書室へと向かうー

「---おや?」
本を読んでいたルベールが、和哉がやってきたことに少し驚くー

「--じいさん…俺は、決めた」
和哉が言う。

「--ーーー」
ルベールが、少しだけ笑みを浮かべて、本を閉じるー。

「--俺は、姫の代わりなんてやらない。
 俺には大事な人がいるー。
 俺はこんなところで油を売っている暇はないんだー」
和哉はそう言い放った。

ルベールが戸惑いの表情を浮かべるー

「--お待ちください。
 あなた様の事情は分かりました。
 ですが、どうか落ち着いて考えてくだされー
 これは、あなた様のためでもあるのですぞ?」
ルベールが、和哉の方を見つめながら言うー

書庫を照らす蝋燭の炎が揺れるー。

「---俺のため?」
和哉が不貞腐れたように笑うー

「--いう通りにしないと、命を奪うってか?」
和哉の言葉に、ルベールは、首を振るー

「そんなことは致しません」
とー。

「--嘘だ!お前たちは、俺のことなんか、何も考えずに
 ただ、利用しようとしている!
 王国のことと、アリシア姫とやらのことしか考えてない!
 
 あんたたちが王国を守りたいように、
 俺も、亜優美を守りたいんだよ!!」

和哉が感情的になって叫ぶと、
ルベールは「どうか落ち着きなされ!」と叫ぶー

「---確かに、我々も、焦っているのは事実ですー
 姫様がいない状況が続けば、
 闇の帝国も動き出しますし、民衆の不安をさらに広がるー
 それに、宰相のローディス殿や、騎士団長のジーク殿らが
 反乱を起こす可能性も…」

「--それは、お前たちの事情だろ?」
和哉が言うー

「-ーー確かにその通りです。
 ですが、約束しますー

 あなた様の命も、願いも、全力でお守りするとー」

ルベールは、和哉の方をまっすぐ見つめるー。
だが、和哉は首を振ったー

「---俺だって、不安なんだよ。
 なのに、お前たちの都合ばっかり押し付けて
 ガミガミ言ってばっかだし、
 俺のことなんか、誰も考えてくれない…」

いきなり異世界に転生してー
いきなり女体化してー
訳の分からないまま姫の代わりをやれと言われてー
亜優美の安否も分からないー

こんなの、もう、無理だーーー

「---私も、ユーリス殿も、あなた様の味方ですぞ…!
 姫様の影武者をお願いしているのもー
 あなた様のことを想ってー」

「もういい!」
和哉がルベールの言葉を遮った-。

「--ど、、どうか、どうか、ユーリス殿が
 戻られるまでお待ちくだされ!
 今一度、ユーリス殿とお話を…」
慌てて叫ぶルベール。

「--わかったよ。あの騎士団長さんと
 話をしたら、それで、終わりだ」
和哉はそう言うと、そのまま書庫の外に出たー

一人残されたルベールは
蝋燭の炎を見つめたー

・・・・・・・・・・・・・・・・

2時間後ー

「---ルベール様!」
侍女のラナが、ルベールの部屋に駆け込んでくるー

「---どうした?」
ルベールがラナの方を見るー

「--あの、、姫様の偽物の方が…
 姿を消しました…」

「---!!」
ルベールは慌てて立ち上がったー

和哉はーー
逃げ出したー

”もう、こいつらと話をすることはない”

和哉は、最初にこの世界にやってきた
場所へと向かうためー
ひとり、王宮を飛び出したー
姫の姿であるため、兵士を誤魔化して外に出るのは
簡単なことだったー

「----ユーリス殿に伝令を!」
ルベールは、ラナにそう告げたー

フロル村に出陣したユーリスに伝令を飛ばしても時間がかかるー

かと言って、事情を知らない騎士団長のミリアには、
和哉の捜索はお願いできないし、
騎士団長のジークは、絶対にダメだー。

事情を知るのは、ユーリスと、ラナと、自分だけー。

「----…」
ルベールは意を決して、装備を整え始めたー

⑤へ続く

第5話「約束」

「---俺は、お前たちを応援するぜ」

和哉が、亜優美と付き合い始めたことを、
幼馴染でもあり、腐れ縁の神埼省吾に伝えた時、
省吾が、最初に言った言葉は、それだったー。

「--はは、ありがとな」
和哉が照れ臭そうに言うー。
省吾は「あ~あ、亜優美ちゃんは和哉を選んだか~」と
冗談交じりに笑うー

和哉と亜優美、省吾は3人とも小さいころからの
知り合いで、幼馴染の間柄だー。
省吾は今でも、和哉・亜優美、どちらとも親しいー。

「--なんだよ?嫉妬してるのか?」
和哉が苦笑いしながら言うと、
省吾は「いや」と、笑ったー

「次は”結婚”だな!」
省吾の言葉に、
和哉は「いや、気が早すぎだろ!」と突っ込むー

省吾は、星空を見つめると、
真剣な表情で和哉の方を見たー

「和哉ーー
 どんな時でもーー
 亜優美ちゃんが困っていたらー
 ちゃんと、助けてやれよ?」

省吾が”俺との約束だ”と、少しだけ笑いながら言うー

「--はは、言われなくても、そうするさ。

 でもー
 約束するー
 亜優美が困っていたらー
 俺は、どこでも駆けつけるー」

和哉のその言葉に、省吾は安心した様子で頷き、
ニヤッと笑って冗談を口にしたー

「--約束破ったら、俺が亜優美ちゃんを貰うからな~?」
とー。 

・・・・・・・・・・・・・・・・

★主要登場人物★

藤枝 和哉(ふじえだ かずや)/アリシア姫
異世界に転生後、女体化。行方不明のアリシア姫と間違えられてしまうことに…。

高梨 亜優美(たかなし あゆみ)
和哉の恋人。自ら命を絶とうとしていたところを、和哉が救い…?

神埼 省吾(かんざき しょうご)
和哉・亜優美の共通の友人。事故直前、亜優美と会話していた。

ユーリス/ジーク/フェルナンデス/ミリア
突如として現れて、女体化した和哉を魔物から救った王宮騎士団長たち。

ルベール
アリシア姫の世話係。

ラナ
アリシア姫の侍女。和哉に対しては辛辣な接し方をする。

エックス
自らを死神と語る謎の生命体

・・・・・・・・・・・・・・

「はぁ…はぁ…動きにくいな…この身体ー」
息切れしながら、和哉は森の中を進んでいたー

この世界に飛ばされてきた和哉が、
最初に気づいた場所は、この先だったー。

「和哉ーー
 どんな時でもーー
 亜優美ちゃんが困っていたらー
 ちゃんと、助けてやれよ?」

親友・省吾との約束を思い出すー

「ーーー遠く離れていても、この星空の向こうには、
 みんながいるー」

木々の隙間から見える星空を見つめながら和哉は、思うー。

亜優美ーー
今、行くからー。

早いところ、この世界から、元の世界に戻ってー
亜優美の力になりたいー

「ーーおいおい、どこに行くつもりだ?」
”死神”ことエックスが、小さな体を浮遊させながら
和哉の横に現れたー

「俺の勝手だろ。元の世界に戻る」
和哉が言うー

「どうやって戻るのか、分かりもしないのに、か?」
エックスがからかうようにして言うー

「うるさい!戻るったら戻るんだ!
 俺は…俺は、こんなところで油を売ってる場合じゃないんだよ」
和哉がそう叫ぶとー

”ガサッ”と
近くの木々が動いたー

「---あらら」
エックスが冷やかすようにして呟くと、そのまま姿を消すー

そしてー
代わりに”招かざる客”が、
近くの木々から姿を現したー

ゴツイ風貌の男たちー
見るからに”悪党”であると、和哉は察知するー

「ほぉ、こいつは、最高のごちそうじゃねぇか」
男たちのリーダーらしき人物は笑ったー

「---だ、、だ、、誰だ!」
和哉が可愛い声で叫ぶと、
男は名乗ったー

「盗賊頭・ドラス…
 イヤでも俺様の名を、忘れられなくしてやるぜ」
盗賊頭・ドラスは、そう言い放つと、
和哉に襲い掛かったー

「-ーーくっ!寄るな!」
和哉は、盗賊のひとりを蹴り飛ばし、
もう一人をグーで殴りつけるー

”盗賊”---
和哉の日常に”盗賊”など、縁は無かったー

当たり前だー
普通に暮らしていれば、今の世の中、
盗賊と遭遇することなど、ほとんどないー

だが、この世界は”異世界”
盗賊も当たり前のように存在するー

「--ひひひひひっ!女のくせに、やるじゃねぇか!」
盗賊頭・ドラスが笑うー。

「離せ!離せよ!」
和哉はドラスの手を振りほどこうとするー

しかしー

「--!!」
和哉が表情を歪めたー

「へへへ、俺様に力で敵うわけねぇだろ?」

”くそっ!…力が…”
和哉はー
”女体化”しているー。
だからー力が思うように出せないー

男であった和哉と、
今のアリシア姫そっくりの和哉ではー

決定的に”筋力”が違うー

「くそっ!!おい!!や、、やめろ!」
和哉が可愛い声で叫ぶー

盗賊たちが、和哉を押さえつけて、
盗賊頭のドラスが和哉の顎を掴むー

「綺麗な顔して…ずいぶん気が強いなぁ…?へへへ」
盗賊頭・ドラスは”気の強い女は、好きだぜ”と笑うと、
和哉にキスをしたー

「--や、、やめっ…」
和哉は悲鳴を上げるー

こんな小汚い男にー
キスをされるなんてー
女体化しているとは言え、自分は男なのにーー

”気持ち悪い”

生理的な嫌悪感が激しく膨らむー。

「---へへへへ…いいモノ持ってんじゃねぇかぁ~」
盗賊頭・ドラスが胸を触りながら、ゲラゲラ笑うー

和哉は、思わず甘い声を出してしまうー

「いや、、やめろ…やめてくれぇぇぇ…」
和哉が半分喘ぎながら叫ぶー。

ドラスは、部下の盗賊たちに、”好き放題していいぜ”と呟くと、
近くの木に寄りかかって、
和哉の持っていた鞄を探り出すー。

「--なんだこれは?」
スマホを手にして首をかしげるドラスー

和哉が”元の世界”から持ち込んだ鞄ー。
この世界に転生したときに、共に鞄もこの世界に
転生してしまったー

「---こいつ、訳分かんねぇものばかりもってやがる。
 金になりそうだぜ」

笑いながら、ドラスはそう呟くとー

「---!!!!!!!!!!!」
和哉は表情を歪めたー

盗賊頭・ドラスがーー
”亜優美からもらった大事な腕時計”を鞄から取り出したーー

「なんだぁ?これは?」

ドラスは、和哉の方を見るー
和哉の表情を見て”大事なモノ”だと判断したドラスは、
腕時計を土の上に放り投げたー

和哉はーーー
悟ったーー
”こいつは、亜優美からもらった腕時計を踏みつぶすつもりだー”

とー

「--やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
大声で叫ぶ和哉ー

ニヤリと笑みを浮かべて、土の上に放り投げた腕時計を
踏みつぶそうとするドラスー

その時ー

ゴオオオオオオオオオオオオオオ…

ー突然、突風が吹き荒れたー

「--なんだ?!」
ドラスが周囲を見渡すー

風が、刃となって、盗賊たちに襲い掛かるー

「ぐおおおおおおおあっぁぁ!?!?」
盗賊たちが風に切り裂かれて苦しそうに、倒れていくー

盗賊頭・ドラスもその身を引き裂かれー
表情を歪めながら叫んだー

「誰だ!」
とー。

森の闇の中から出てきたのはー
姫の世話役・ルベールだったー

「じ、じいさん!?」
腕時計を拾いながら、
和哉が思わず叫ぶー

「やれやれ…
 老いぼれを戦わせるとはーー
 困ったものですな」

そう呟きながら、ルベールは優しく笑みを浮かべたー

騎士団長・ユーリスが、フロル村救出に出撃している以上ー
和哉の事情を知る人間は、ルベールとラナのみー。
だからールベールが助けに来るしかなかったー。

和哉から視線を逸らすと、
ルベールはキッと、目つきを鋭くして、盗賊頭・ドラスを見つめたー

「--ー姫様に乱暴を働くとはー
 その罪、死を持って償っていただきますぞ…」
ルベールは、そう言うと、”風”を操りながら、
盗賊頭・ドラスを睨んだー

「ひ、、姫様…!?まさか、そいつは、アリシア姫…?」
盗賊頭・ドラスが少しだけ戸惑うー。

「風…」
和哉はルベールの方を見るー

王宮でルベールが言っていたことを思い出すー

”「お恥ずかしながら、”風”を使った攻撃を少々ー。
 ですが、私ももう歳ですし、披露することはないでしょうな。」”

「---じいさん」
”俺のために”身を挺して助けに来てくれたのかー。

そんな風に思いながら、和哉は「じいさん!無理すんな!」と叫ぶー。

「ーーー約束したはずですぞ?
 あなた様の命も、願いも、全力でお守りするとー」

ルベールはそう言うと、ドラスの方を見たー

「は、、はは……おもしれぇ」
ドラスは”思った以上の獲物”に笑みを浮かべー
持っていた斧のようなものをルベールに向けたー

そこからはーー
和哉にとって”夢”のように思える光景だったー

盗賊頭ドラスが、ルベールに向かって突進して斧を振るうー

だがー
ルベールの身体から、暴風が吹き荒れてー
斧はルベールには命中せず、
ドラスは自分が飛ばされないように、腕で風を防ぐー

ルベールは、その隙を逃さずにー
呪文のようなものを唱えるとー
風で作られた刃のようなものを大量にドラスの左右から放つー

ドラスは飛び跳ねてそれを回避し、ルベールと距離を取るー。

「お前たち!」と叫ぶとー
盗賊たちが、ルベールとーー
和哉の方に向かうー

和哉が「ひっ!?」と逃げ腰になるー

しかし、ルベールが再度呪文を唱えると、
再び暴風が発生しー
盗賊たちを一掃したーー

「貴様ぁ!!!!!!」
態勢を崩していたドラスが怒りの形相で、
隠し持っていた小刀を持ち、ルベールに突進するー

がー
ルベールは、さらに風を発生させて
ドラスのバランスを崩しー
追撃の”風の刃”を飛ばすと、ドラスの身体をズタズタに引き裂いたー

「---す、、すげぇ…」
和哉にとって、あっという間の出来事ー

と、言う他なかったー。

膝をついて戦闘不能になるドラスー
ルベールが、盗賊のひとりが持っていた剣をドラスに向けるー

「ーーーひっ、お助けを…」
ドラスが悲鳴を上げるー。

「---己の罪を、地獄で償いなされ」
ルベールが容赦なく、ドラスを斬り捨てようとしたー

しかしー

「---ま、、待ってくれ!」
和哉が叫ぶー

「---?」
ルベールが和哉の方を見るー

「そ、、その人は、もう…もう降参してるんだし…
 い、、命までは…!」

和哉はそう叫んだー

”人が死ぬ”
そんなところは、見たことがないー。

だから、耐えられなかったー

「---ど、どういうことですかな?」
ルベールが”理解不能”と言わんばかりに首をかしげるー

「--そ、その人は、もう降参してる…
 だから、、命までは取らなくてもいいと思うんだ…!」
和哉は動揺しながらそう言うと、
ルベールは
「やらなきゃ、やられるのですぞ?」と、戸惑いながら言うー

「---違う!」
和哉は叫んだー

ドラスの方を見て、和哉は、少しだけ戸惑いながらも、
ルベールに向かって叫ぶー

「憎しみ合って、命を奪い合うー
 そんなんじゃ、いつまで経っても争いは終わらないんだ…!」

和哉は首を振るー

憎しみは、何も生まないー

歴史が、そう証明しているー
憎しみ合い、戦争が起きー
終わりなき戦いが始まるー

この世界もー
このままじゃ、いつまでも、争いが終わらないー

人が人を殺しー
憎しみが生まれー
また、人が人を殺すー

負の連鎖が起きるー

だからー

「---そんなに怖がって震えているのにー
 命を奪うなんて…
 間違ってる」

和哉が、可愛らしい声でそう呟くー

盗賊頭・ドラスが「あんた…」と震えながら
和哉の方を見るー

「------」
ルベールは、和哉の方をじっと見つめたあとに呟くー

「-甘いですな」
とー。

「----」
和哉が表情を暗くするー

だが、ルベールは少しだけ笑ったー

「甘いー
 でもーー
 何の迷いもなく、そんな風に言えるーー

 きっと、あなた様の世界はーー
 素晴らしい世界なのでしょうな」

ルベールはそう言うと、剣を下したー

「---姫様への恩を、忘れるでないぞ」
ドラスに向かって、そう告げるー

「--は、、はい……すみませんでした」
ドラスは慌てて森の奥に消えていくー

それを見届けると、ルベールは和哉の方を見た

「---……どうして、こんな危険な真似を…?」
ルベールの言葉に、和哉は「ごめん…」と頭を下げるー

「--俺……亜優美が心配で…
 早く、元の世界に戻りたくて…」
和哉が、少しだけ涙ぐんで言うー

女体化したからだろうかーー
目から涙が溢れて来るー

「--いきなり知らない世界に飛ばされて
 いきなり姫様の姿になってーー…
 本当に、不安だったことでしょうな…」
ルベールが、和哉の頭を優しく撫でるー。

和哉は「---俺、、怖いんだ…」と、
いきなり異世界に飛ばされた不安や、
亜優美の安否の不安、
女体化した不安…
全ての想いを口にしたー

「---」
ルベールは黙って、和哉の不安な思いを聞き、
それを、受け止めてくれたー

その上で、ルベールは、配慮が足りなかったことを、謝罪したー。

”別の世界から、飛ばされてきた人間”を見るのも
”女体化した人間”を見るのも
初めてで、こちらとしても戸惑っているのだ、とー。

そして、ルベールは付け加えた。

「ですが、我々が、あなた様に姫様の代わりを…と
 お願いしているのは、あなた様のためでもあるのですぞ…」
ルベールは言うー

この世界で”姫”の姿になっているー
と、いうことは”危険”なのだとー。

姫を狙う人間はたくさんいるー
皇帝ゼロ率いる「闇の帝国」はもちろん、
さっきのような盗賊もいれば、王国内にも宰相ローディスや騎士団長のジークなど
不穏な動きをするものがいるー

王宮から離れれば、
たくさんのならず者に狙われることになり、
あっという間に和哉は殺されてしまうー、と。

とは言え、王宮内で”姫の姿をした別人です”なんて言えば、
宰相ローディスや、ジークが何をするか分からないし、
騎士団長のミリアやフェルナンデスの動きも、分からないー

和哉の安全のことも考えた上で、一番、”安全”なのは
”和哉がアリシア姫の代わりとして振舞う”
ことなのだと、ルベールは説明した。

「--あなた様が、姫様の代わりとして振舞ってくだされば
 王宮の兵士たちは、全力であなた様を守ります。
 もちろん、私とユーリス殿も、近くであなたを守り、
 協力することができるー」

ルベールの言葉に、和哉は戸惑う

「ひ、、姫って…そんなに命を狙われたりするものなのか!?」
とー。

「--…”姫”という立場はー
 愛される存在であり、憎まれる存在であるー…

 残念ながら、それが真実なのです」

ルベールはそう言うと、
「命を狙われる、などと言えば、あなた様が不安を感じるだろうから、
 と、ユーリス殿から口留めされてたのですが…
 逆に、不安にさせてしまったようですな…

 少なくとも、私とユーリス殿は、あなたのことをちゃんと
 考えておりますー。」

「---じいさん」
和哉は戸惑うー

確かに”この姿”で、そこら中を歩くのはー
和哉のいた世界で言えば、大物政治家が身辺警護もなしに
その辺をほっつき歩いたりするようなことなのかもしれないー。

ルベールが「王宮に…戻ってくれますかな?」と呟くー

和哉は、少しだけ考えた後に、静かに頷いたー

・・・・・・・・

森を歩きながら、ルベールは言う。

「和哉殿の世界は、どのような世界なのでしょうな?」
とー。

和哉は、”俺の住んでいた国では、命の奪い合いなんてなくて、
大体は、平和に暮らしている”と、呟いたー。

そして、和哉は、ハッとして、鞄からスマホを取り出したー

立ち止るルベール。
スマホに保存されている”写真”をルベールに見せるー

彼女の亜優美や、親友の省吾もそこには移っているー

遊園地ー
映画館ー
街並みの景色ー
誕生日パーティ

色々な写真を、和哉はルベールに見せたー

「----」
ルベールは驚きながらも、ほほ笑んだー

「--争いのない世界…
 いつか、私もそんな世界に行ってみたいものですな」
ルベールの言葉に、和哉は
「じいさんが、俺の世界に来たら、俺がじいさんを案内するよ」
と、呟くー

”ま、俺の世界にくる方法があればだけど”と、付け加えて笑う和哉ー

ルベールは「楽しみにしてますぞ」と言うと、
真剣な表情に戻り、語り出す。

「あなた様が元の世界に戻る方法ー
 そして、この世界に飛ばされてきた原因ー
 いろいろと調べていたのですが、
 どうやら、”何らかの呪術”が関係しているようですなー。

 ”エナジー”で、そういう術を使う者がいた、と
 古文書に記されておりましたー」

エナジーとは、この世界のエネルギーの源。
王宮の照明などの電力にもなっているほか、
ルベールが使ったような魔法の源にもなっているー

「---毎晩、書庫に行っていたのって…」
和哉が言うと、ルベールは「あなた様が元の世界に戻る方法を
調べておりました」と笑ったー

「--じいさん…」
和哉は立ち止ると、頭を下げたー

「口うるさいじいさんとか言って、ごめんー」
とー。

ルベールがほほ笑んで、口を開こうとしたその時だったー

「---!」
ルベールがとっさに、和哉を手で押し飛ばすー

「-!?」
和哉が慌ててルベールの方を見ると、
弓矢が飛んで来ていたー

「--はははははははは!クソどもがぁ!」
崖の上からー
盗賊頭のドラスと、その部下たちが
弓を放っているー

ルベールが呪文を唱えて、風のバリアのようなものを張るー

迎撃しようとするルベールー。

だが、”エナジーが不足したのか”
それとも”盗賊の人数が先ほどよりも多く、形勢不利”と
判断したのか、ルベールは、迎撃をやめて、
「--逃げますぞ!」と叫んだー

ルベールは”戦えない和哉を無傷で守り、この人数を相手に
することはできない”と判断したのだったー

大量の矢の雨の中、ルベールが、和哉をかばうようにして、
共に走るー

「はははははははは!!!!はははははは!」
盗賊頭のドラスは追ってはこなかったー

森の中を駆け巡りー

ようやく安全な場所にたどり着いたところでーー

ルベールが膝をついたー

「--…はぁ…はぁ…じいさん…さすがに走り疲れ…」
和哉はそこまで呟いて表情を歪めたー

ルベールから、血が垂れ流れているー

「--え…?ちょ…?お、、おい!」
和哉が駆け寄るー

「……老いとは怖いものですな」
そう呟くルベールの背中からは、血が流れているー

盗賊たちが放った弓矢から、和哉を守るため、
ルベールは盾になりながら走っていたのだったー

「----お、、おい!?じいさん!?」

土の上に、仰向けになったルベールが呟くー

「--もう、王宮はすぐ側です…
 早く、行きなされ…」
荒い息をしながら、そう言うルベールに、

「そ、、そんなこと…
 ま、、待ってろ!今、王宮に助けを呼びに行くからー」

和哉が走って行こうとすると、
ルベールが和哉を呼び止めたー

「---和哉殿の…その気持ちだけで、十分ですー
 もう、私は助かりません」

”助からない”
和哉の目から見ても、それは明らかだったー。

「--で、、でも…どうして…どうして俺なんかのために」
和哉が悲しそうに言うと、
ルベールは呟いたー

「あなた様の命も、願いも、全力でお守りするとー
 約束しましたからな…」

とー。

弱っていくルベール。
その姿が、”小さいころ死んだ祖父”と重なるー

「ま、、待ってくれよ!
 約束、守れてねぇよ!!
 俺の願いは、元の世界に戻ることだから…
 まだ、、まだ守れてねぇよ!」

和哉が悲しそうに叫ぶと、
ルベールは、悲しそうに、苦しみながらほほ笑んだー

「俺のせいで…俺のせいで、、こんな…!」
和哉が涙を流しながら言うー

和哉が”盗賊頭・ドラスの命を助けたりしたから”--

「--じいさんが正しかったよ…
 俺が甘かった…
 ごめん…本当に…本当にごめん…」

和哉が謝罪を繰り返すと、
ルベールは和哉の方を見たー

「---確かに、あなたは甘いー
 でも……あなた様は、そのままで、いいのです…

 その優しさを忘れては…なりませんぞ…

 それにー
 きっと、本物の姫様も、同じことを言ったでしょうな…

 まるで、姫様に言われているような気がしてー
 だから…あの盗賊を見逃したのです」

ルベールが静かに呟くー

「じいさん…」
和哉が悲しそうに呟くー

「--どうか…王国を…どうか……姫様の代わりを…」
ルベールが苦しみながらも、
王国の未来を案じ、和哉に願いの言葉を口にするー

弱っていくルベールを見つめながら和哉は思うー

”もう、あの時のように後悔はしたくないからー”

「--おじいちゃんなんて、嫌いだ!
 約束したのに…!約束したのに!!」

「ーーーごめんな…和哉」

「--うそつきは泥棒のはじまりっておじいちゃん言ってたもん!
 ドロボウ!!!」

子供の頃ー
”約束を守れず”死にゆく祖父に、
酷い言葉を浴びせてしまったー

あの時の祖父の顔は、今でも忘れられないー

とても、悲しそうな顔ー

「ーやっぱり、じいさんは苦手だな」
和哉は小声でそう呟くー

でもー
今度はーーー
後悔しないようにー

旅立つ大切な人をー
少しでも安心させてあげられるように

「---じいさん、分かったよ」
和哉は、ルベールの手を握るー

「--姫様の代わり、やる。やるよ。
 代わりをやりながら、俺は元の世界に戻る方法を探すー

 ついでに、王国のことも、俺にできることなら
 力になるからー

 だからーー」

和哉は、力強く、そして優しくー
ルベールに伝えるー

「だから、安心してー」

和哉の言葉に、
弱り切っていたルベールは、安心した様子でほほ笑んだー

「---よろしく、お頼みします…」
ルベールは、それだけ言うと、
安らかな表情を浮かべて、
そのまま、眠りについたー

穏やかな死に顔を浮かべているルベールを見て、
和哉は、目に涙を浮かべたー

この世界の人間は”人の死”に慣れているのかもしれないー

でも、自分は違うー

和哉は、動かなくなったルベールに手を合わせると、
「--ーーありがとう」と、静かに呟いて、
その場を後にしたー

”じいさんー
 約束は、守るからー
 どこかで見守っていてくれよ…”

新たな、決意を胸にー
和哉は立ち上がるー

「---!」
木々が揺れるー

「---ルベール殿…!」
ルベールが放った伝令からの知らせを受け、
駆けつけた騎士団長・ユーリスが、
ルベールの遺体を見て驚くー

「--じいさん…いや、ルベールさんは…」
和哉は、駆けつけたユーリスに、
起きた出来事を隠さず、全て語ったー。

⑥へ続く

・・・・・・・・・・・・・

コメント

今のところ長編で一番長い作品ですネ~!
全部で41話という長さになりました!
週1掲載ペースだったので、書き始めてから完結まで
だいぶ月日が流れたので、
終わった時は達成感もありました☆!

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