☆こちらは「試し読み」コーナーデス
本コーナー以外の憑依空間内の作品は、憑依空間内で”必ず”完結します
<試し読み>と明記していない作品で、(試し読みコーナー以外では絶対にやりません)
「続きはFANBOXで」は絶対にやらないのでご安心ください!
「試し読み」は↓を全てご納得の上でお読みください☆!
(料金が掛かったりすることはないので、安心してください~!)
※こちらの小説はFANBOXご案内用の「試し読み」です。
(試し読みが欲しいというご要望にお応えして、試し読みをご用意しました)
pixivFANBOXで連載していた憑依長編「きみと過ごした日々」の
第5話までを公開していきます!
※「試し読み」では、最後まで完結しません。ご注意下さい
(完結済み全24話)
・試し読みコーナーでも、事前に<試し読み>と明記、どこまで読めるかを
明記した上で掲載しています。途中までであることをご納得の上でお読みください!
※1話あたりの長さは通常のと私の作品と同じで、
FANBOXでは1話ごとに公開していますが、
試し読み版では①~⑤を全部まとめてあります。
第1話「幸せな日々」
1枚の写真が、彼の手元にあったー。
ライトアップされた観覧車の前で
ほほ笑むカップル。
「---明美…」
彼は悲しそうに呟いた。
「---俺は、、きみと過ごした日々を、忘れないから…」
目から涙が零れ落ちるー。
写真のように、ほほ笑む彼女の笑顔はー
もう、2度と見ることができないからー。
彼女はーー
”憑依”されて、変えられてしまったからー
・・・・・・・・・・・・・・・・
去年の12月ー。
「--来年も、一緒にここに来ようね」
ライトアップされた遊園地ー。
彼女の明美(あけみ)が嬉しそうにほほ笑むー。
夢にまで見た幸せな時間ー。
男子高校生・倉本 康成(くらもと やすなり)は、
「あぁ…約束するよ」と優しく微笑み返したー。
小学生時代から一緒の学校で
幼馴染の間柄だった藤森 明美(ふじもり あけみ)と、
付き合い始めてから3か月ー。
康成は、彼女になった明美と
最高の時間を過ごしたー
けれどー
その、幸せは、もう、その手にはないー。
「---うざい」
敵意を向ける明美ー。
明美の笑顔は、もう、そこには、ないー。
「--明美…!」
康成が明美を呼ぶ。
しかしー
「--気安くわたしの名前を呼ばないで!」
明美が声を荒げるー
茶色に染まった髪ー
短いスカート
派手になった化粧ー
明美は、変わってしまったー。
いいやー
変えられてしまったー。
明美は悪くないー。
何も、悪くないー。
それなのにー
どうして、こんなことに。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
1週間前ー。
「--わ!」
背後から急に押されて驚く康成。
振り返ると、そこには彼女の明美がいた。
「どう?びっくりした?」
明美が笑う。
「おいおい~!急に押すのは勘弁してくれよ~!」
康成が笑いながら言うと、
明美は「ごめんね!おはよ!」と可愛らしく微笑んだー。
康成の彼女・明美。
明美は明るく、元気な性格で、
真面目で優しいことから先生からの信頼も厚く、
友達も多い。
ちょっとお茶目でいたずら好きなところが
また可愛らしい。
一方の康成は、ごく普通の男子生徒。
イケメン…というほどではないが、
よくいそうな顔立ちだ。
明美とは幼馴染で、
小学生時代からずっと同じ学校だった。
小さいころからよく遊んでいて、両親も親しい。
そんな明美を、中学卒業を控えたぐらいから、
異性として意識をし始めた。
明美はどう思っているか分からない。
けれど、高校1年生の2学期が始まった直後に
勇気を出して明美に告白した結果ー
OKを貰えたのだー
2年生になった今も、同じクラスで
順調に彼氏彼女の関係を続けている。
「---おうおう!今日もイチャイチャしやがって!」
男子生徒の柳沢 零次(やなぎさわ れいじ)が
茶化しながら声をかけてくる。
零次は、中学時代からの知り合いで、
同じ中学からこの高校に来たのは
康成と明美、そしてこの零次と、もう一人の計4人だったー。
「--イチャイチャってほどじゃ…」
康成が言うと、
零次が「照れるな照れるな!」とニヤニヤしながら
肩を叩いた。
スポーツ刈りのガタイの良い男子で、
少々うるさく、お調子者ではあるものの、
根本的には良いやつだ。
「---藤森さんも、こいつを
あんまり甘やかしちゃだめだぜ~?」
笑う零次。
「こいつ、すぐ調子に乗るからな~」
零次がニヤニヤしながらべらべらと喋っている。
「--ふふふ、甘やかすつもりはないから
だいじょうぶ!」
明美は笑いながらそう答えたー
何気ない日常ー
明美と過ごす日々ー
それは、これからも続いていくものだと
ずっと思っていたー
教室に入ると、
不良生徒の長谷部 勝(はせべ まさる)と
陰険なお嬢様女子・哀川 裕子(あいかわ ゆうこ)が
何やら口論していたー。
男子の問題児と女子の問題児という感じで
いつも衝突していることが多い。
関わらないようにしながら康成が座席に座る。
「ーーーあ、今日は帰り、遅いんだっけ?」
明美の言葉に、康成は頷く。
生徒会副会長でもある康成は、
放課後に生徒会の話し合いを控えていた。
「--あぁ…今日は一緒には帰れそうにないな~」
康成が言うと、
明美は「ザンネン!」とほほ笑んだ。
「まぁ、今日はちょうどわたしもバイトがあるし、
帰ったらお話しようね」
明美はそう言うと、自分の座席に向かっていくー。
「---もうすぐ文化祭だからな~」
2学期が始まり、文化祭の日が近づいている。
その話し合いで、何かと康成は忙しかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・
放課後ー
生徒会長の篠塚 沙耶香(しのづか さやか)が、
文化祭についての話し合いを進めている。
この沙耶香が、同じ中学出身の”もう一人”だー。
沙耶香は中学時代は凄いくらい感じだったのだが
高校に入ってからはまるで別人のようになり、
生徒会会長を務めるほどになったー
「---あ…倉本くん」
生徒会の話し合いが終わり、帰ろうとした康成に声をかけてくる沙耶香。
「--ん?」
康成が振り返ると、
沙耶香が「あ、明美と最近どう?」とほほ笑む。
沙耶香は明美とも仲が良く、
とても親しい感じだ。
中学時代は、康成とも明美とも接点はほとんど
無かったのだが。
「--ま~、順調かな」
康成が笑うと、
「生徒会の話し合い多くてごめんね!
明美もさみしがってるでしょ?」と沙耶香が気を遣う。
「--あぁ、いや、大丈夫大丈夫。
彼女がいるから、話し合いでませーん!なんて
言ったら書記の高藤にボコボコにされちゃうよ」
康成がふざけた雰囲気で言う。
高藤とは別のクラスの生徒で、
リア充爆発しろ!といつも叫んでいるやつだー。
「---ふふ、それもそうね」
沙耶香が笑う。
「--あ、じゃあ、俺はそろそろこれで」
康成がそう言って
生徒会室から外に出ると
沙耶香は少しだけさみしそうな表情を浮かべたー
そうー
この日まではいつも通りだったー。
悲劇が起きたのはーーーー
次の日ー
金曜日だー。
その日はー
康成の誕生日だったー。
まるで、その日を狙ったかのようにー
その事件は動き出したー
”憑依”で変えられてしまった明美ー
その、悲劇の始まりの日だー。
・・・・・・・・・・・・・・・
「おっはよ~!誕生日、おめでと~!」
明美が笑うー。
「わわ!ありがとう!」
康成が言うと、明美が”昼休みに渡したいものがあるから
屋上に来てくれるかな~?”とほほ笑んだー。
「もちろん!何貰えるのか楽しみだな~!」
康成が笑いながら言うと、
明美が「どんな反応してくれるか楽しみだな~」と
ニコニコしながら教室へと入って行ったー
授業が始まるー
中間試験のテストが返却されるー
2位ー間宮 結乃(まみや ゆの)
1位ー藤森 明美(ふじもり あけみ)
社会科の先生は、なぜか
男女別の上位3人をいつも発表しながら
返却するー
「やった!一番!」
明美が嬉しそうに答案用紙を受け取る。
そんな様子を微笑ましく見つめながら
康成は屋上で何貰えるのかな~などと
ニヤニヤしながら考えていたー
昼休みー
「---お前、朝からずっとニヤニヤしてたけど?」
友人の零次が笑いながら言う。
「---えっ!?うそっ!?顔に出てた!?」
康成が言うと、零次が「傍からみたらやばいやつだぜ!」と
肩を叩きながら笑う。
「ま、どーせ誕生日で藤森さんから
何か貰えるかとか、想像しちゃって
ニヤニヤしてたんだろ?」
「うるせー!」
顔を赤くしながら叫ぶ康成。
零次が「お?顔がトマトみたいになってるぞ!」と
茶化す。
茶化しながらも、零次は時計を見ると
「邪魔して悪いな。待ってるんだろ?彼女が」と
言うと、真剣な表情で言った。
「俺はお前たちを応援してるからな」
とー。
「ーーあぁ、ありがとな」
康成が言うと、零次が小包を取り出した。
その小包の中にはハート形のチョコ。
「なにこれ?」
康成が言うと、
零次が「誕生日プレゼントだよ!」と
康成の肩を叩いた。
「---って…
なんで♡形チョコなんだよ!
しかも今日はバレンタインじゃねーぞ!」
康成はそんな突っ込みを入れながらも
それを受け取り、屋上へと向かったー
屋上ー
「ーーあ、!待ってたよ~!」
明美が嬉しそうに手を振る。
「お待たせ~!
零次のやつが、ハートのチョコなんか
俺に渡してくるからさ~」
苦笑いしながら康成が言うと、
明美が「仲良しだね~!」とにこにこしながら言う。
そしてー
康成に箱を手渡す明美
「誕生日、おめでとう!」
明美が笑うー
「な~にかな!」
康成が嬉しそうに箱を開けると、
箱からーーーー
ピエロのようなものが飛びだした。
「うわぁぁぁ!?」
思わず驚いてしまう康成。
「あはははははは!びっくり~~~~!」
明美が笑う。
明美が渡したのはびっくり箱だった。
「--この~!騙したな!」
康成がドキドキしながら言うと、
明美は「ごめんごめん、一度こういうのやってみたくて~」と
テヘペロしながらほほ笑んだー
「はい、こっちが本物の誕生日プレゼント」
明美に渡されたのはーーー
謎のキラキラした物体だった。
「なにこれ?」
康成が言うと、
明美はにっこり微笑んだ。
「--ひ・み・つ!」
笑いながら屋上から立ち去って行く明美。
「ひみつ!?っておい!な、ナニコレ!おい!」
康成が笑いながら明美を追いかけるーーーー
・・・・・・・・・・・・・
放課後ー
今日は一緒に帰る約束をしていたー
明美が図書委員の仕事で少し遅くなるらしく
昇降口の前で待つ康成。
「4時ぐらいには出れるよ」
そう言われていたものの、
明美が出てくる様子がない。
「---おそいなぁ…」
康成が呟く。
4時10分ー
4時20分ー
4時30分ー
いつまで経っても明美が出てこない。
心配になってLINEを送っても返事がないー
康成は、不安になって
「一応、図書室見に行くか~!」と呟く。
「まさか…
また、明美のドッキリか!?」
などと、思いながらー
・・・・・
だがー
ドッキリなどではなかったー
図書室ではーーー
明美が虚ろな目で立っていたー
「----わたしの彼氏は…この人…」
写真を見つめながら、呟く明美ー
その写真はーーー
「---こいつは、、彼氏じゃないーー」
ビクン ビクンと震えながら呟く明美ー
明美はー
何者かに憑依されてーー
今、まさに、思考を塗りつぶされようとしていたー
②へ続く
第2話「憑依」
当たり前のように、身近にあるものー。
それを、永遠のものだと錯覚してしまう。
失ってみて、初めて、
その幸せが身近にあったことが
どんなに幸せなものだったのかを知るー。
小さいころ、ランドセルを背負って
駆け抜けた通学路ー
その途中の道にある家、俺が可愛がっている犬がいた。
いつも何気なく可愛がって
何気なく立ち去って行くー
そこに”犬”がいるのが、当たり前だと思っていた。
これからもずっとー
でも、違った。
その犬は、ある日、突然いなくなった。
死んだのだー。
いつも、そこにいた犬が、いないー。
何気なくいつも可愛がっていた犬が、もうそこにはいないー
失ってみて初めて、人は気づく。
”当たり前”など、そこにはないことをー。
自分が当たり前のように存在すると思っていたものはー
そうではないことを。
「--来年も、一緒にここに来ようね」
そう、あの笑顔もー。
幼馴染で、大切な彼女でもあった明美の笑顔もー
あの日、突然消えてしまったー。
明美の笑顔が、当たり前のように存在していた日々はー
当たり前などではなく、奇跡だったのかもしれないー。
・・・・・・・・・・・・・・
倉本 康成
2年B組生徒。彼女が憑依されてしまう。
藤森 明美
2年B組生徒。お茶目な性格。憑依されてしまい…?
柳沢 零次
2年B組生徒。康成の親友。
篠塚 沙耶香
2年C組生徒。生徒会長。同じ中学の出身。
哀川 裕子
2年B組生徒。陰険なお嬢様
長谷部 勝
2年B組生徒。クラス一のワル。
・・・・・・・・・・・・・・
「---なに…?」
別人のようになってしまった明美が、
康成のほうを見て、舌打ちするー。
「----…」
「--来年も、一緒にここに来ようね」
明美の笑顔をい思い出すー
その笑顔は、もう、ここにはないー。
あの日、きみの笑顔は消えてしまったからー…。
1週間前ー
一緒に帰る約束をしていた康成は、
明美がいつまで経っても
昇降口に来ないことを心配して
LINEを送ったー。
だがー
明美から返事はなかった。
図書委員の仕事をしていると言っても
少し遅すぎる気がするー。
そう思った康成は、図書室へと向かうー。
図書室の前に到着した康成。
図書室の電気は既に消えている。
「---あれ…」
明美は図書当番で図書室にいるはずだー。
だが、電気が消えている。
入れ違いで明美が昇降口のほうに
行ってしまったのかもしれないー
そんな風に思いながら康成は
図書室の中をのぞくー。
図書室の中にはー
一人の女子生徒が背を向けて立っていたー
「--」
康成は図書室に入ろうと手をかけたー。
その時だったー
「あはははははははは♡
これで、これでこの女は…
くくくく…あぁ…最高!」
明美が一人で何かを呟いている。
「--明美?」
康成はただならぬ雰囲気を感じて
図書室の扉から手を離して、
中を見つめるー
「あぁぁ~憑依できるなんて最高だぁ…♡
えへへへへ…へへへへへへ♡」
明美が手を前のほうにやって
何かをしているー
背中を向いているので、
何をしているのか、図書室の外からでは見えなかったがー
なんとなくー
胸を揉んでいるように見えたー
「--明美…?何をしてるんだ…?」
康成は、何が起きているのかわからず、
考えるー。
「--憑依…?そ、そうか」
康成は呟いたー
明美はきっと、自分が来たのに気づいていて、
また自分を驚かせようとしているのだろう、と
そう思った。
明美は、まじめな子だが、お茶目な性格で
彼氏である康成にもよく、ドッキリを
仕掛けてきている。
「--その手には乗らないぞ~」
康成は図書室の外から小声でつぶやく。
明美がー
写真を手にして呟く。
「この人がわたしの彼氏…」
「--こいつは、わたしの彼氏じゃない」
「-真面目にやってるなんてばからしいー」
呪文のようにいろいろと呟いていく明美ー
そしてーーー
「--うっ!?」
明美がうめき声をあげると、
信じられないことにー
明美の中から男子生徒が出てきたのだー。
まるで、明美に憑りついていた幽霊のように。
「---!?」
外から覗いていた康成は驚く。
”人間の身体から人間が出てきた”のだー。
「--え…」
明美が図書室の中で一人、変な行動をしていたのは
康成がここにいることに気づいていて、
ドッキリを仕掛けているのだと思っていたが、
違う気がするー
明美から出てきた男子生徒は覆面のようなものを
被っているー
そして、虚ろな目で立ったままの明美の
頭をなでながらその男は呟いたー
「憑依でお前の思考を塗りつぶした…
これでお前は…今日から新しい明美として
生まれ変わるんだ。」
男子生徒が呟くー
そしてー男子生徒は、明美の胸のあたりに手を触れたーーー
「--おい!何してる!」
康成が図書室の中に飛び込む。
覆面の男子生徒が驚いて振り返るー
「--明美に何をしてるんだ!」
康成が覆面の男子生徒のほうにとびかかる。
「---チッ!」
覆面の男子生徒が舌打ちをする。
康成とその男子生徒がつかみ合いになる。
「お前…!今、明美に何をしてた!?」
康成は覆面の男子生徒を図書室の机に押し倒して叫ぶ。
「--へへへへ…もう遅い」
覆面の男子生徒が笑ったー
覆面をしているからかー
何か細工しているのか、
その声は不自然な声だったー。
「----おい!明美!大丈夫か?」
康成が、ぼーっと立ったままの明美のほうを見て叫ぶ。
だが、明美は返事をしない。
「明美に!何をした!」
もう一度叫ぶ康成。
覆面の男子生徒が康成の足を引っかけて
康成のバランスを崩すー
その隙に康成から逃れた覆面の男子生徒は
図書室の出口のほうに向かっていく。
「おい!待て!何をしてた!?言え!」
康成が叫ぶ。
だがー
覆面の男子生徒は康成のほうを見つめて
指を突き立てると、そのまま走り去ってしまったー
「くそっ!」
康成は、覆面の男子生徒を追うのをやめて
明美のほうに駆け寄る。
「大丈夫か?明美!」
康成の言葉にも反応しない明美ー
意識が飛んでいるかのようだー。
「--くそっ!どうなってるんだ!?」
康成がふと、図書室のカウンターを見る。
そこにはー
クラスの男子生徒で、
不良生徒の長谷部 勝の写真が置かれていたー
「--今のは、長谷部なのか?」
康成が図書室の出口のほうを見るー
さっきの覆面の男子生徒は、誰だー?
なぜ、ここに不良生徒・勝の写真が?
「う…」
明美が動き出したー
立ったまま気を失っていた状態の明美が
意識を取り戻したのだ。
「--明美!よかった!」
康成が言うと、
明美は、康成のほうを
不愉快そうな目で見た。
「----…なに?」
明美が舌打ちをする。
「え…?」
康成は明美の態度に違和感を覚えた。
「--だ、、大丈夫だったか?
ほら、さっき変なやつ、ここにいただろ?」
康成が言う。
明美が何をされていたのか。
乱暴をされていたのか。
何も分からない。
とにかく今は明美を安心させてあげたい。
「--変なやつ?」
明美が鼻で笑ったー
「---変なやつは、あんたでしょ?」
冷たい口調で言う明美。
そして、明美はそのまま図書室から立ち去ろうとする。
「---え…」
康成は唖然としていたー
明美の豹変に驚きを隠せないー
「--あ、、、あ、、そ、、そっか、
いつものドッキリか!」
康成が笑いながら言う。
さっきの覆面の男子生徒は
恐らく親友の零次なのだろう。
明美と零次が結託して
ドッキリを仕掛けてきている、と考えれば
合点がいく。
零次のやつも、誕生日プレゼントとか言って
人にハートのチョコ渡してくるようなやつだし、
ドッキリ好きな感じだ。
「---いや~!また引っかかっちゃったな~!
明美のドッキリに」
笑いながら言う康成。
「ーーっと、そうだ、さっきのコレだけどさ」
昼休みに、明美から誕生日プレゼントに渡された
謎のキラキラした球体のようなものを鞄から取り出す。
「--ひ・み・つ!」
昼休みー
明美は、これが何なのか教えてくれなかったー
それを聞こうと、康成は明美に近寄ったー
しかしー
「キモイ!近寄るな!」
明美が声を荒げたー
「--あ、、、あけみ…?」
驚いてしまう康成。
康成のほうを見る明美の目は
敵意に満ちていた。
「---な、、何があったんだよ…?」
康成は震えながらそう聞いたー
明美とは小学生時代からの付き合いだー
こんな態度、今までに一度もー
「--いつまでも幼馴染面しないで貰える?
あんたのそういうところが、わたし、
死ぬほど嫌いなの!」
明美が声を荒げるー
「--ちょ、、ちょ、ちょっと待ってくれ!」
康成が言う。
「--な、なにがあったのかわからないよ!
俺、何か悪いことしたか?」
康成の言葉に、
明美は舌打ちしてから答えたー
「--とにかく、ウザイもんはウザイのよ!」
吐き捨てるように言うと、
明美は、そのまま図書室の扉を乱暴に閉めて
立ち去ってしまったー
「あ、、明美…?」
康成は困り果てた様子で立ち去って行く明美を
見つめたー
・・・・・・・・・・・・・・
帰宅してからー
明美にLINEを送ってみても返事がないー
「--いったい…」
康成は困り果てた様子で
スマホを見つめるー
「あぁぁ~憑依できるなんて最高だぁ…♡
えへへへへ…へへへへへへ♡」
図書室の外から見ていた時に
明美が呟いた言葉を思い出す。
「憑依…」
康成は気になってネットで検索するー
当然、創作物の憑依しか出てこないー。
「---まさかな…」
現実で憑依されるなんてこと、あり得ないー
しかしー
康成は、明美から覆面の男子生徒が出てきた光景を見ていたー
あれは、いったいー…
「---ねぇ、さっきからお兄ちゃん、ため息ばっかついてるけど?」
妹の夏帆(かほ)が苦笑いする。
「え?あぁ、ごめん。
ちょっとさ…いろいろあって」
康成が言うと、
夏帆は笑う。
「あ~!彼女さんと喧嘩したんでしょ~!」
夏帆が笑う。
「--お兄ちゃん、デリカシーないからね~~~!
きっと彼女さんぷんすかなんだよ~あはは」
そんな風に言う夏帆のほうを見て
康成は呟くー
「-ーうるさいなぁ」
とー。
康成はゲラゲラ笑っている夏帆を無視して
自分の部屋に向かったー。
「---ぷんすか…か」
それならいいけど…と、
康成は考えるのをやめて、ベットに飛び込んだ。
明日ー
機嫌を直してくれていればいいがー。
しかしー
そんな考えは甘かったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---うざい!うざい!うざい!」
明美は、自分の部屋にある
康成の写真や、康成に関係するものを
怒り狂った様子でごみ袋に放り投げていたー
「---はぁぁぁぁ…」
明美が机の前で頭を抱えるー
なんだかイライラする
真面目にやっていた自分が馬鹿らしいー
「---そうよ…
真面目にやるなんて…馬鹿のすることじゃないー」
憑依されて、思考をすっかり変えられてしまった
明美はそう呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
康成が登校すると、
廊下ですれ違った
生徒会会長の沙耶香に声をかけられた。
「---何かあったの?」
沙耶香の第1声はそれだった。
「---え?」
康成が言うと、
沙耶香は言いにくそうに答えたー
「--明美……なんか……その…」
沙耶香はそれだけ言うと、
康成のほうを見て呟く。
「喧嘩でもした??」
と、心配そうにー
「--そ、、それって、どういう…?」
康成が困り果てた表情を浮かべると、
沙耶香は申し訳なさそうに呟くー
「--教室に…行けば分かるわ」
とー。
康成は走るー
明美に何があったのかー
全く分からないー
そしてー
教室にたどり着いた康成は、
明美の姿を見て驚いたー
黒髪は、茶色に染まりー
短くなったスカート、
濃くなったメイクー
学校に不釣り合いなアクセサリー
変わり果てた明美がそこにはいたー
「----なに?じろじろ見ないでくれる?」
明美が敵意に満ちた声で言う。
周囲がざわめいているー
康成と明美の仲の良さは周囲も知っているー
「---じろじろって…
い、いったいどうしたんだよ?」
康成が明美に言うと
明美は答えたー。
「--あんたに話す必要なんてない」
それだけ言うと、明美は
不良男子・勝の側に歩いていき、
勝のほうを見てほほ笑んだ。
「--わりぃな」
勝が笑う。
「--え」
困惑する康成に向かって、不良生徒の勝が言い放ったー
「明美は、今日から俺の彼女だー」
と。
明美の笑顔はーー
当たり前のように存在していた
大事な人の笑顔はー
俺の手から零れ落ちたーーー
③へ続く
第3話「面影」
”記憶”とは曖昧なものだー。
消えゆく蝋燭の炎のようにー
儚く、そして、消えたあとには何も残らない。
”記憶”とは何だろうか。
後世の人々の記憶に残る人間は、ごくわずか。
何億もの人間の存在は、忘れられるー
人々の記憶から、消し去られるー。
記憶は永遠ではないー
儚く、おぼろげで、泡のように、消えてしまうー
死んだ人間の記憶は、どこに消えるのだろうー。
死んだ人間の感情は、どこへ行ってしまうのだろうー。
いいやー
生きていても、それは同じ。
記憶を塗り替えられてしまった明美の
元々の感情はー
どこに行ってしまったのだろうー。
記憶とは、おぼろげなものー
小さな炎のように、
それは、ふとしたことで、消えてしまうー
ちょっとしたことで、変わってしまうー。
・・・・・・・・・・・・・・
倉本 康成
2年B組生徒。彼女が憑依されてしまう。
藤森 明美
2年B組生徒。お茶目な性格。憑依されてしまい…?
柳沢 零次
2年B組生徒。康成の親友。
篠塚 沙耶香
2年C組生徒。生徒会長。同じ中学の出身。
哀川 裕子
2年B組生徒。陰険なお嬢様
長谷部 勝
2年B組生徒。クラス一のワル。
・・・・・・・・・・・・・・
昼休みー
生徒会の話し合いの最中ー
康成はため息をついたー
「明美は、今日から俺の彼女だー」
不良生徒・勝の言葉を思い出す。
明美の様子がおかしいー
昨日から、明美の様子がおかしいー
昨日の図書室で何があったー?
「あぁぁ~憑依できるなんて最高だぁ…♡
えへへへへ…へへへへへへ♡」
明美に…いったい何が?
康成が頭を抱える。
「---大丈夫?」
生徒会長の沙耶香が心配そうに声をかけてくる。
「--あ、、え、ご、ごめん」
康成は、我に返るー
朝から、明美の豹変のことで
頭がいっぱいだー。
授業中や休み時間にも明美の様子を
見ていたが、どう考えてもおかしいー
やる気のない態度に
反抗的な態度ー
明美は、あんな態度をとる子じゃない。
いったいー
明美に何があった?
「--なぁ、ちゃんと話し合いに参加してくれよ」
生徒会の一人・高藤が口を開く。
”リア充爆発しろ”が口癖の生徒だ。
「--あ、あぁ」
康成がそう返事をすると、
高藤は続けた。
「---彼女とのトラブルを抱えて
そういう風になるとかさ、ほんと勘弁してくれよ
こっちは迷惑なんだよ。
これだからリア充は…
喧嘩したり、何かあると、すぐにそーやって
悩みだす。
だったら最初から恋愛なんかすんじゃねーよ」
眼鏡をかけた高藤がいら立ちながら言う。
「--高藤くん。言い過ぎよ」
生徒会長の沙耶香が言うと、
高藤は眼鏡をいじりながらため息をついたー
「---……」
康成は、それでも、明美のことを考えずには
いられなかったー。
生徒会の話し合いが終わる。
「--明美…何があったの?」
沙耶香が、康成を呼び止める。
「分からない…
昨日から様子が変なんだ」
康成が困り果てた様子で言う。
「---…そう」
沙耶香が悲しそうに呟く。
沙耶香も同じ中学出身で
明美のことをよく知っている。
中学では暗い感じだった沙耶香だが
今は別人のように明るくなって
生徒会長にまでなっているー
これもまた”豹変”と言えば
豹変なのかもしれないー
康成はそんな風に思いながら
沙耶香のほうを見る。
「--わたしもね…
ちょっと理由があって
高校入学の時に自分を変えようと思って
イメチェン…って言うのかな?
したことあるけど…
明美にも何かあったのかもしれないね」
沙耶香が優しく微笑む。
明美に何かー
「---」
康成には思い当たることがない。
家庭の事情かー
それともー
”憑依”
康成にはどうしても図書室で
明美が一人呟いていた言葉と、
突然明美の身体の中から現れたように見えた
覆面の男が気になっていたー
「--あるはずがない」
康成は呟く。
他人が他人に憑依できるなんて、
あるはずがないー。
教室に戻った康成は明美に話しかける。
「なぁ…明美…ちょっと放課後、話せるか?」
康成が聞くー。
だが、明美は康成を感染に無視していた。
頬杖をつきながらスマホをいじっている。
「明美…頼むよ…何があったんだよ?」
康成がなおも声をかける。
明美はそれでも返事をしないー
「…俺、何か怒らせるようなことしちゃったか?
なぁ…明美」
バン!
明美が机をたたいた。
「ごちゃごちゃごちゃごちゃうっさいなぁ!!!」
明美がスマホを机に置くと、
康成のほうを見た。
「--あのさぁ、うっざいから話しかけないでくれる?」
明美が怒りの表情で康成を見つめる。
確かに明美だーー
だが、中身が別人のようにー
そんな風に感じる。
「--…ご、、ごめん…
で、、でもさ、、なんでそんなに怒ってるか
教えてくれよ…」
「---あ~~~も~~~」
明美が茶色に染まった髪を
イライラしながら掻きむしる。
「--うぜぇ」
明美が康成を睨むー
康成は思わず、恐怖すら感じたー
そしてそのまま明美は教室から立ち去ってしまうー
「---明美…」
康成は、何が起きたのかわからず、困惑してしまうー。
「---……康成」
親友の零次が声をかけてきた。
「何かあったのか?」
とー。
「--……俺にも分からないんだ…」
康成は悲しそうに首を振ったー。
明美はいったいどうしてしまったのかー?
まったくわからないー
康成は、ふと教室の窓際を見つめるー
窓際に立っていた不良生徒の勝が
康成のほうを見ながらニヤニヤしていたー
そういえばー
図書室には勝の写真が置かれていたー
あの時の覆面の男は、勝なのかー?
どうして急に明美が勝と付き合いだすなんて
言い始めたのか…?
さっぱりわからない。
康成はモヤモヤしたまま
週末を迎えることになってしまったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰宅した康成は
誕生日に明美からもらった
キラキラした球体を見つめるー
「結局…これが何かも
教えてくれてないじゃんか…」
部屋で、明美からの誕生日プレゼントを見つめながら
康成は悲しそうな表情を浮かべたー
小学生の時ー
初めての教室で、隣の座席になったのが明美だったー
「わたし、明美!よろしくねー!」
あの日からー
ずっと、共にーー
何かがあれば、いつも明美が助けてくれたしー
何かがあれば、いつも明美を助けていたー
「ーー康成と一緒で、本当によかったー」
明美の笑顔ーーー
それが、突然消えてしまったー
どうしてー
なんでー?
康成は、
スマホを手にするー
明美のLINEにメッセージを送るー
だが、反応はないー。
「---どうしてだよ…」
康成は悲しそうに部屋で考え込んだー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
週明けー
明美が元通りになっていることを
少し期待していたが、
明美はそのままだった。
「---きゃはははははははは!
うけるぅ~!」
明美がゲラゲラと笑うー
明美と一緒に笑っている女子生徒はー
クラスの中でも一番陰険な女子ー
しかも、お嬢様育ちで我儘な
哀川 裕子だったー。
「--今度、あんたにもやらせてあげるよ」
裕子が笑うと、
明美も笑う。
「え~?マジ?やるやるぅ~!」
「----」
康成は明美のほうを見つめるー
明美は、裕子ら女子グループとはあまり関りがなかった。
裕子らは素行も良くないからだ。
康成は、親しくする友達まで変化していることに
違和感を覚えるー
明美は元々友達が多いが、
特に親しくしていたのは、クラスでは2人。
一人は
大人しい眼鏡女子の結乃(ゆの)
テストでもよく成績を競い合ったり、
好きな本について雑談したりしているー
もう一人は
ボーイッシュな女子生徒・千穂(ちほ)。
よく明美と一緒にお昼を食べていたー
「二人なら、何か知ってるかもしれない…」
康成は、
結乃や千穂が明美について
何か知らないかを聞いてみよう、と心に決めるー。
「---え~?
きゃははははははは!」
明美が笑うー
まるで別人のようなー
明美が、明美じゃないようなー…
そんな感じがするー
・・・・・・・・・・・・・・・
放課後ー。
康成は、廊下を歩いていたー
不良生徒の勝が前からやって来る。
「---くくく…彼女に嫌われちゃったなぁ?」
勝がすれ違いざまに笑う。
「----…お前が、明美に何かしたのか?」
康成が勝を睨む。
「--ーーあ?」
勝はガムを噛みながら不愉快だと言いたげな
表情を浮かべた。
「--明美から俺に告白してきたんだぜ?
くくく、俺はそれに答えただけだ」
勝はそう言うと、
康成の肩をポンポンと叩いた。
そして、耳元でささやく。
「ーーーじゃあな。明美の”元彼”さん
くくく」
勝はそれだけ言うと、フーセンガムを膨らませながら
そのまま立ち去って行くー
康成の手は震えていたー
”元カレ”という言葉が
胸に突き刺さったー
康成は図書室に向かう。
明美と一度、1対1で話をするしかない。
今日は、明美が図書当番だったはずだ。
図書室の開放時間が終わったら、
明美と話をしてみよう。
そう思いながら、康成は図書室に向かう。
雨が降り注ぐー。
秋の雨ー
さっきまで晴れていたのにー。
そんな風に思いながら、康成は
図書室の前に到着したー。
「---明美…」
図書室は既に片付けの準備に入っていた。
心にポッカリと穴が開いてしまったー
明美の存在はそれほどまでに大きな存在だったー。
その明美が、どうして急に変わってしまったのだろうかー。
康成は意を決して図書室へと入るー
そこには、本を読んでいる明美の姿があったー
明美が持っていた本はー
明美がお気に入りの本ー
「---」
康成は、”やっぱり明美は明美だ…”と少し安心する。
「----」
明美が少し複雑そうな表情を浮かべるー
雨の音が響き渡る図書室。
「--明美…何があったんだよ…教えてくれよ」
図書室には康成と明美だけ。
明美は本を閉じると、図書室のカウンターの前に立って
康成のほうを見つめた。
「---…あんたが、うざいの」
明美が吐き捨てるように言う。
「--ど、、どうして……
俺は何も…明美!」
康成が言うと、
明美は声を荒げた。
「分かってる!分かってるよ!
でも、、なんでかな…?
うざくて、うざくて、たまらないの!」
明美の表情が歪むー
「どうしてー…?」
明美は自分でも、自分の現状を理解できていなかったー
自分に憑依した人間に、
思考を変えられて、憎悪を植え付けられてしまったことをー。
「---明美…」
康成は、明美のほうに近づいていく。
「ーーうるさい!わたしの名前を呼ぶな!」
明美がカウンターに置いてあった本を投げつけてくる。
康成は、本を避けなかったー
痛みに耐えて、明美の目の前にやってくるー
「---明美…
俺は、どんなことがあっても、
明美のこと、好きだからー…
だから頼むよ。
理由を教えてくれよ。
どうして…どうしてなんだ、明美」
康成が優しく言うと、
明美は、瞳を震わせたー
「---あんたのこと見てると…
むかついて…むかついて…
どうして…」
明美の目から涙が零れ落ちるー
「---明美…」
康成が呟く。
「---…わたし……どうしちゃったんだろう…」
明美が図書室の端のほうにある鏡のほうに目をやるー
茶髪になってー
メイクが濃くなってー
自分はどうして、こんな…
「---明美…俺も力になるから…
何が起きてるのか分からないけど、
俺、、できる限りのことはするから」
康成がそう言うと、
明美は康成のほうを見たー
少しだけ、明美の表情が緩むー
「---……ほんと、お人よしなんだからー」
ーー!!
明美に今までに何度も言われたことのある言葉ー
康成がおせっかいをするたびに、
明美は苦笑いしながら、康成にそう言っていたー
やっぱり、明美は、何があっても明美なんだー
康成はそう思いながら、明美にほほ笑みかけようとしたー
しかしー
ビクン
明美が、震えたー
「---あ、、明美…?」
康成が明美のほうを見る。
「-----ククク…危なかったぁ」
明美が邪悪な笑みを浮かべているー
「---!?」
康成が驚く。
「まだ、塗りつぶしが完全じゃなかったかぁ…
こいつには、もっともっと、悪い女に
なってもらわなくちゃなぁ」
明美が自分の胸をつつきながら笑う。
「な…あ、、明美…?」
雨がさらに強くなり、雷が鳴り始めるー。
「--お前を苦しめるためだー。
自分の大事な彼女が
変えられてー
染められてー
自分の手から零れ落ちていくー
そのざまをもっと、俺に見せてくれー」
明美が狂気に満ちた笑みを浮かべながら言うー
「--お、お前…明美じゃないな…
誰だ!」
康成が叫ぶー
「--くくく、それは言えないなぁ…」
明美はそう言うと、笑いながら図書室から
立ち去って行こうとするー
「もっともっと、こいつにお前への憎悪を植え付けてやる!
もっともっと、悪い女に変えてやる!
あはははははははっ!」
「--待て!、、あ、、明美に何をしたんだ!?
お前は…いったい!?」
康成が叫ぶ。
明美が振り返るー
雷が鳴り響くー
明美は呟いたー
「憑依…されちゃった♡」
とー。
「---ひ、、、憑依…」
康成は唖然とする。
「---ばいばい、康成」
明美の口調を真似て笑うー。
そして、明美はそのまま立ち去ってしまうー
「---…あ、、、明美…」
絶望してその場に崩れ落ちる康成ー
雨の音が響き渡る図書室で康成は、
一人、絶望の表情を浮かべたー
”憑依ーーーー”
それが、康成と、
憑依されて変えられてしまった明美の
戦いーー
そして、憑依した男子生徒を追う日々のはじまりだったーーー
④へ続く
第4話「失恋」
夢を見たー。
彼女の明美と、遊園地に行ったときのことー。
去年の12月のことだー
「--来年も、一緒にここに来ようね」
ライトアップされた観覧車の前で、俺は明美と約束したー。
けれどー…。
もう、その約束を果たすことはできないのかもしれないー
現実もー
過ぎ去れば、夢と同じなのかもしれない。
明美との幸せな日々は、夢のように消えてしまったー。
残った現実は、
只、つらく、残酷な現実ー。
笑顔も、約束も、大切な思い出も、
全て、消えてしまったー。
幸せな日々は、
もしかするとー
夢だったのかもしれないー
そんな風に思うことでしか、
過酷な現実を受け入れることはできなかった。
・・・・・・・・・・・・・・
倉本 康成
2年B組生徒。彼女が憑依されてしまう。
藤森 明美
2年B組生徒。お茶目な性格。憑依されてしまい…?
柳沢 零次
2年B組生徒。康成の親友。
篠塚 沙耶香
2年C組生徒。生徒会長。同じ中学の出身。
哀川 裕子
2年B組生徒。陰険なお嬢様
長谷部 勝
2年B組生徒。クラス一のワル。
・・・・・・・・・・・・・・
「---ねぇ、冷蔵庫に
ハートのチョコ入ってたけど、アレなに?」
朝ー
妹の夏帆からそう言われて
康成は思い出した。
「あ、いけね!」
誕生日の日ー
明美が憑依されたあの日に、
親友の零次から渡されたチョコを
冷蔵庫に入れっぱなしにしていたー。
「--も、もう腐ってるかも…」
康成が言うと、
夏帆が言う。
「も~!明美さんからもらったんでしょ?
彼女さんからのプレゼントをダメにするなんて
最低だよ!お兄ちゃん!
わたしが彼女だったら、ぷんすかだよ!」
夏帆の言葉に
康成は苦笑いした。
「あ、いや、そのチョコはさ、
男からもらったやつだよ」
「え~~~~!」
夏帆が驚き、そしてニヤニヤする。
「--男子にも女子にもモテモテなんて
お兄ちゃんってばやるぅ~!」
「--ち、ちげーよ!」
康成はそう呟きながら
学校へと向かうー。
「---…わたし……どうしちゃったんだろう…」
昨日、放課後に図書室で
明美と話した時のことを思い出すー
明美はーーー
明らかに動揺していたー
そして
「もっともっと、こいつにお前への憎悪を植え付けてやる!
もっともっと、悪い女に変えてやる!
あはははははははっ!」
明美は、何者かに再び憑依されたー
目の前で…
昨日、下校後にも明美に何度も連絡したが
返事はなかったー
もしもーー
もしも…
康成は嫌な予感を覚えるー
昨日、憑依された明美が言ってた言葉通りならー
明美は…さらに…変わってしまっているかもしれないー
「---」
正門前に到着した康成。
足が震える。
明美のことが心配だー。
だが、逃げるわけにはいかない。
康成は深呼吸してから、
学校の中に足を踏み入れたー
・・・・・・・・・・・・・
教室に康成が入ると、
既に明美は登校していたー
見た目は昨日と変わらない。
茶色に染まった髪、短くなったスカート、
少し濃くなった化粧…
そこにいたのは、
”いつもの明美”ではなかった。
「--え~!そいつウザすぎでしょ!」
明美が、足を組んで行儀悪く座りながら
お嬢様育ちの陰険女子・哀川裕子に対して話しかけている。
豹変した明美はー
裕子と親しくしている。
昨日、図書室で話をした際に、
明美は一瞬、元の自分を取り戻しそうになっていたー。
しかしー
何者かに憑依された明美はー
さらに、変えられてしまったのだろうか。
いったい誰が、明美に憑依をー。
康成は、教室の窓側で
ガムをくちゃくちゃしている不良生徒・
勝のほうを見つめるー
憑依されて変えられた明美は
勝と付き合いだした。
最初に明美が憑依されたあの日も、
勝の写真が図書室に置かれていたー
今のところー、勝が明美に憑依して、
明美を変えてしまったのだと、
康成はそう考えているー。
だがー
そうとは限らない。
こんなことになる前に、明美に何か変わった様子が
なかったかどうか、
明美と親しくしていた子たちに聞いて回ろう…。
康成はそんな風に考えていた。
その時だったー
「あ!ホラ、来たよ」
裕子が明美に対して言う。
明美が「は?」と言いながら、
裕子が指を指したほうを見つめる。
「---?」
裕子は康成のほうを指さしていた。
近づいてくる明美ー。
「ねぇ…」
明美が康成のほうを見るー。
いつものような笑みはそこにはない。
「明美…」
康成は、なんと話していいか分からず、困惑するー
憑依されて変えられてしまった明美ー。
どう接していいか、分からないー。
「---今日の放課後、話があるんだけど」
明美が冷たい口調で言う。
「---…わかった」
康成は、何の話だろう?と思いながら
明美の背後でニヤニヤしている陰険女子たちのほうを見る。
陰険女子のリーダー・裕子の不気味な笑みー。
康成は、明美の話がいい話じゃないと感じ取りながらも
”逃げるわけにはいかない”と、意を決する。
「--生徒会の話し合いが少しだけあるから、
待っててもらえるかな?」
不満そうな明美。
だが、明美は頷いた。
逃げるわけにはいかないー。
たとえ、どんなになってしまっても、
明美は、康成にとって
大切な彼女であり、幼馴染だからー。
・・・・・・・・・・・・・・
昼休みー
「---きゃはははははは!」
明美が、裕子たちと共にゲラゲラ笑いながら
教室から出ていくー
授業態度も明らかに悪くなっているー
康成は、教室から出ていく明美のほうを見ながら
不安そうな表情を浮かべるー
明美は、あんな子じゃないー。
誰かに”憑依”されて、そして、変えられてしまっているー
「ーー何かあったのか?」
親友の零次が声をかけてきた。
「ん?あぁ…」
康成は元気なく答える。
「---最近、イチャイチャもしなくなっちゃったじゃねぇか…。
…もしかして、喧嘩でもしたのか?」
ニッと笑う零次。
茶化しているわけではない。
暗い康成を見て、零次なりに励まそうとしているのだ。
「---…」
康成は零次の顔を見る。
零次とは、中学時代からの付き合いだ。
お調子者だが、悪いやつではないし、
頼れる親友だ。
「---零次には、、話しておくか」
康成は呟く。
”明美が憑依されて変えられた”
という事実を、康成は必要以上に
広めるつもりはなかったー
”誰”が、明美に憑依したのかわからない以上、
うかつに動くわけにはいかないからだー。
だが、零次ならー。
零次なら信用できる。
「---実は…」
康成は、小声で零次に対して
今まで起きたことを話した。
明美が、憑依されてしまい、
思考も記憶も塗り替えられてしまったことをー
「憑依ィ!?」
話を聞き終えた零次が大声で叫ぶ。
教室にいた何人かがびっくりして零次と康成のほうを見る。
「おい!声がでかい!」
康成が「しっ」というポーズをすると、
零次は「すまねぇすまねぇ」と呟くー
「でも…憑依なんて、そんなこと…」
零次はそこまで呟くと、
康成のほうを見てため息をついて、笑ったー
「---でも、きっと、本当なんだよな」
零次は言うー
「ーーーお前のその顔…
嘘ついてる顔じゃないもんな」
とー。
「---……零次…」
康成はそう呟いた直後に、って、と叫ぶ。
「表情だけで嘘かどうかわかるのかよ!?」
とー。
零次はふざけた調子で
「あぁ、俺はお前のファンだからな」と冗談を口にしたー
・・・・・・・・・・・
零次は”何か分かったらお前にすぐ言うよ”と
約束してくれたー
やっぱりー
零次はいざというときには頼りになる友だ。
そんな風に思いながら康成は廊下を歩く。
明美が憑依される前に
何かおかしなことや、トラブルがなかったかどうかー。
それを聞くために。
明美は友達が多いほうだったが
特に親しくしていたクラスメイトは2人。
間宮 結乃(まみや ゆの)と
国松 千穂(くにまつ ちほ)。
結乃は、おとなしい性格の女子で、
吹奏楽部所属。昼休みは音楽室で
間近に迫った文化祭の練習をしているはずだー。
千穂は、結乃とは正反対のスポーツ少女。
考えるよりも行動するタイプで、
テニス部の部長だ。おそらくグラウンドにいるはず。
この二人なら、憑依される直前の
明美に何か異変があったなら、
知っているかもしれないー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
♪~~~
音楽室。
ベートーベンのクラシック音楽をピアノで
演奏しているツインテールの女子生徒。
明美と親しいクラスメイトの一人・結乃だ。
テストの成績でも結乃は、クラス2位の実力者。
そこに、康成がやってきたー。
「---あ、」
演奏の邪魔をしたことに気まずさを感じながら
康成が頭を下げる。
吹奏楽部の部長・小野坂 亮介(おのさか りょうすけ)が、
康成に気づく。
続いて、結乃も康成に気づいた。
「--あ、、邪魔してごめん。
ちょっと、、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
康成が言うと、結乃は「え?わたし?」と不思議そうにしながら頷いた。
「---」
康成が吹奏楽部部長・亮介のほうを見ると、
亮介は”聞かれたくない話か?”と
なんとなく空気を読んで、
「僕は失礼するよ」とだけ言うと、
そのまま音楽室の外に向かって歩いて行ったー。
・・・
音楽室から出た亮介が、
後ろを振り返り、康成のほうをしばらく見つめると、
そのまま亮介は立ち去って行くー
音楽室には結乃と康成ふたり。
「ちょっと、先にメモしておかないといけないことがあるから」
とー
結乃がハート型のメモ用紙に
吹奏楽部の活動内容を何やらメモしている。
「--ゲッ」
康成は、嫌なことを思い出してしまったー
親友・零次からもらったハート形のチョコのことをー
「ハートがトラウマになりそうだぜ」
「え?」
結乃が、康成の独り言に反応する。
「あぁ、ごめんごめん。それで…」
康成は、明美に何かおかしな様子がなかったかどうか、
結乃に尋ねる。
結乃は、ピアノの前で考える仕草をしたものの、
思い当たることはないようだった。
「---それより」
結乃が康成のほうを見る。
「---わたしのほうこそ、
その、、気になるんだけど…?」
と、結乃が言う。
「-最近、哀川さんたちとばかりいっしょにいるし、
長谷部くんと付き合いだしたって話だし…
…その、何かあったの?」
結乃の言葉に、
康成は「あぁ、いや、ちょっとね」と誤魔化して
「急に邪魔しちゃってごめんな!」と、足早に
音楽室を後にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
グラウンドー。
明美と親しかったもう一人のクラスメイト・千穂にも
同じように話を聞いた。
「え~~?う~ん、
明美の変わったところ~???
う~ん、う~ん、う~~~~ん」
テニスラケットをぶんぶん素振りしながら
千穂が考えているー
(いつも国松さんって騒がしいよな…
じっとしてられないタイプっていうか
常に身体動かしている感じだよな…)
康成は、千穂が何かを思い出すのに期待しながら
千穂の反応を待つ。
「あっ!!!」
千穂が手を叩いた。
「---そういえば、明美、この前、
告白されたって言ってたよ!」
千穂が叫ぶ。
「--告白? 俺のこと?」
康成が言うと、
千穂は「ううん!最近の話!
倉本くんと明美が付き合い始めたあとね!」と笑う。
「--確か、ほら、あいつ!
いつもガムくちゃくちゃやってるやつ!
あの不良くんがね、明美に告白したんだよ~!
笑っちゃうよね!」
千穂が一人ゲラゲラ笑う。
「--長谷部のやつが、明美に告白した?それで?」
康成は、そんな話、明美から聞いたことはなかったー。
「え~?決まってんじゃん!明美、即決で振ったみたいだよ!
だって、倉本くんと付き合ってるんだし、
明美が浮気するわけないでしょ!」
千穂がテニスラケットを振り回しながら笑う。
「--あれ???でもぉ…
最近、明美、変だよねぇ?」
千穂が、単純な頭で考えだす。
「---ありがとう!」
康成は走り出したー
”やっぱ、あいつだー”
康成は、不良生徒・長谷部 勝の姿を思い浮かべるー
明美に振られたあいつが、腹いせに
明美に憑依して、
明美の思考を塗り替えて、彼女にしたんだー…!
廊下を走る康成ー
そこに、偶然、勝がやってきた。
ガムをくちゃくちゃしながら康成のほうをニヤニヤと見る。
「---お前が…お前が明美を…!」
「--あ?」
勝が、ガムを噛みながら笑う。
「---明美を元に戻せ…!」
康成が勝を睨む。
「--…はぁ?元に…?
何言ってるか知らねぇけどよ、
もう明美は俺の彼女だぜ。
元・カ・レさん」
勝が挑発的にそう言うと、康成の肩をポンポンと叩く。
康成は勝の手を掴んだー
驚く勝。
「---俺はまだ明美と別れてなんかいないー」
康成は怒りの形相で言葉を吐き出すー
そうー
明美から振られてないし、
今でも康成は明美のことが好きだー
勝手に、終わらせるな!と勝を睨む康成。
「----……クク」
勝は笑うと、康成の手を振りほどいた。
そして、フーセンガムを膨らませると、それを
破裂させてから、康成に向かって言い放った。
「--せいぜい、がんばりな。」
とー。
「--おい待て!」
立ち去って行く勝。
昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。
「くそっ!」
康成は、舌打ちして、教室へと戻るのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
放課後ー
生徒会長であり、明美と親しい、
沙耶香にも、事情を説明した。
零次と同じく、同じ中学出身で、
信頼できる相手の一人としてー。
沙耶香は、驚きつつも、康成の話を信じてくれた。
そして、康成を支えてくれる約束をしてくれたー。
生徒会室で文化祭の話し合いを終えるー
康成は、明美の待つ場所に向かうために、
跡片付けを生徒会長の沙耶香に任せて
生徒会室から飛び出した。
生徒会室に残っていた
リア充を憎む生徒会書記・高藤がふと呟く。
「会長ってさ、
なんか最近、楽しそうだよな」
沙耶香を見つめながら、そう言う高藤。
そんな高藤の言葉に、
沙耶香は「え?」と言いながらも
少しだけほほ笑んだー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
明美に指定されたグラウンドの端にやってくる康成。
明美が面倒臭そうにガムを噛みながら待っていたー
「明美…」
康成は、明美のそんな姿を見たくない、と思いつつも
明美のほうに向かう。
明美は「遅いんだけど」と舌打ちしながら
ガムをその場に吐き捨てたー
「---…そういうの、よくないよ」
康成が言うと、
明美は「うざい!黙ってて」と吐き捨てるようにして言った。
「---…で、話って」
康成は取り乱さないようにしながら
明美のほうを見つめる。
明美が悪いんじゃないー
明美は、憑依されて、変えられてるだけなんだー
そう、自分に言い聞かせながら。
「---わたしと、別れて」
明美が冷たい声で言う。
「え…」
康成はショックを隠せないー
明美の本心じゃないー
本心であるはずがないー
「--あ、、明美!なぁ、聞いてくれ!
明美は、明美は、その、憑依されて…
その…なんていえばいいのかな・・・
思考を、思考を変えられてるんだ!」
康成が叫ぶ。
明美は「はぁ!?」と声を荒げる。
「--え、、えっと、ほら!
操られてるっていうか…
し、信じられないかもだけど、
本当なんだ!
明美…!信じてくれ!」
康成が叫ぶ。
憑依されて思考を変えられてしまった明美に
なんていえばいいのか分からない。
「---明美、、正気に戻ってくれ!頼む!」
パン!
「--!?!?」
明美がーー
康成の頬をビンタしたーー
「ーーふざけないで!
正気に戻れ!?
馬鹿にすんのもいい加減にしろ!」
明美が声を荒げる。
「操られてるとか、憑依とか、正気じゃないとか、
あんた、頭おかしいんじゃないの!?」
明美が叫ぶー
康成の言っていることは正しいー
けれど、思考を完全に変えられて
しまった明美には、その自覚がないー
明美は、康成を睨んだ。
「あんたなんて、大っ嫌い」
それだけ言うと、明美は
不機嫌な様子でそのまま立ち去ってしまうー
「-----…明美…」
康成は、その場に膝をついたーー
自分は、明美に何もしてあげられないー
自分は、無力だーーーー
・・・
・・・・・・
校舎3階の窓から、
その様子をこっそり見つめている男子生徒がいた。
「くくく…苦しめ…
いい顔だ…」
男子生徒は、ショックを受けて放心状態の康成を
見つめると、楽しそうに笑みを浮かべたー。
立ち去って行く明美の姿も窓から見つめるー
「---あぁ…いい…
すっかり悪女になっちゃって…」
不気味な笑みを浮かべるー。
やがてー
その教室から外に出ていく男子生徒。
廊下を歩いていると、
廊下の反対側から女子生徒がやってきたー。
すれ違いざまに立ち止まる女子生徒。
「ねぇ、なんで、憑依のこと、あいつに教えたの?
教えない予定だったでしょ?」
女子生徒が呟くー
「--へへ…明美ちゃんに憑依してるとき、
ノリでつい言っちゃったんだよ。
その方が、面白いと思ってさ」
男子生徒のほうが言うと、
女子生徒がイライラした様子で
手に持っているボールペンでカチカチカチカチと音を
立てた後に、口を開いた。
「---勝手な行動はしないで。いい?」
それだけ言うと、女子生徒はそのまま立ち去って行くー
「はいはい…」
明美に憑依していた男子生徒はそう呟くと、
再び廊下を歩き始めたー。
⑤へ続く
第5話「希望」
心にぽっかりと穴が開いたー。
分かっているー。
彼女の言葉は、彼女の本心じゃない。
誰かに憑依されて、
思考も、記憶もいじられてー
明美は変わってしまった。
明美に憑依して、明美を弄んだやつは、
今も平然と、いつものような日常を送っているのだろうー。
彼女は、何も悪くない。
彼女の言葉は、本心ではない。
そんなことー
分かっているのにー
「あんたなんて、大っ嫌い」
明美の言葉がー
まるで、弾丸のように、
心を貫いたー。
俺の心に開いてしまった穴は、
もう、塞がることはないのだろうかー。
・・・・・・・・・・・・・・
倉本 康成
2年B組生徒。彼女が憑依されてしまう。
藤森 明美
2年B組生徒。お茶目な性格。憑依されてしまい…?
柳沢 零次
2年B組生徒。康成の親友。
篠塚 沙耶香
2年C組生徒。生徒会長。同じ中学の出身。
哀川 裕子
2年B組生徒。陰険なお嬢様
長谷部 勝
2年B組生徒。クラス一のワル。
・・・・・・・・・・・・・・
「-----」
康成は、自分の部屋で
キラキラと輝く謎の球体を見つめていたー
「なにこれ?」
「--ひ・み・つ!」
誕生日の日にー
明美からもらった謎の物体ー
ちょっとお茶目な明美は、
よく康成のことを驚かしたり、
康成にいたずらをしたりしていたー
これも、そんな明美の、いたずらなのかもしれないー
「---教えてくれよ……明美…」
謎の球体が虚しく輝くー
お茶目な明美もー
教えてくれる明美もー
もう、いないー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
学校に登校する康成ー。
「-----」
康成は、すっかり元気をなくしていた。
「--お、、おい…大丈夫か…?」
あからさまに落ち込んだ様子の康成を見て、
親友の零次も戸惑う。
教室の窓際でゲラゲラ笑っていた明美が、
康成に気づくと、
わざとらしい口調で言い始めた。
「みんな~!聞いて!わたし、あいつと別れて
長谷部くんと付き合うことにしたの!」
康成にも聞こえるように言う明美ー
どよめく教室ー
笑うものもいれば、驚くものもいるし、
無関心のものもいるー
「--ふふふ…どうして、あんたなんかと
付き合っちゃったんだろうね?」
明美が腕を組みながら近づいてくる。
明美はーー
憑依された際に、康成への憎悪の言葉を
呟かされ続けた結果ー
その思考も記憶も、康成への憎しみで
埋め尽くされているー。
「--……」
康成が悲しそうな目で明美を見る。
「----…なに?その目?」
明美が舌打ちしながら康成を見る。
苦しんでいる康成を見るだけでゾクゾクするー
「---…なんなのよ!その目!」
明美が苛立ちながら、康成の机をバン!と叩く。
「--おい、藤森さん!やめとけよ!」
たまらず、親友の零次が割って入る。
零次は、康成から”明美が憑依された”と聞かされているー。
「---ふん。揃いもそろって、うざいやつら…」
明美は不機嫌そうに、不良生徒・勝のもとへと歩いていく。
勝は、”今の明美の彼氏”だー。
憑依される前の明美と親しかった
ピアノが得意な、大人しいツインテール少女の結乃も、
いつも騒がしいスポーツ少女の千穂も、明美の豹変に戸惑っている様子だー。
「----康成」
零次が呟く。
「もう、いいんだ」
康成はすっかり落ち込んでしまっていたー
もう、明美はいないのかもしれないー
そうだ…最初から…
「----」
康成は頭を抱えてため息をつくー
面と向かって別れを告げられたー
明美にビンタされたー。
分かってはいるー
けどー
激しくショックを受けてしまったー
これ以上、明美と関わろうとしても、
明美にもっともっとつらいことを言われるだけかもしれないー
そんな風に思ってしまうー。
「---きゃはははははは!あ~!サイコ~!」
明美が、今度は陰険女子グループのリーダー格
哀川裕子と喋りながらゲラゲラ笑っているー。
「---…明美…」
康成は目を逸らした。
あんなの、、、明美じゃないーーーー
・・・・・・・・・・・・・・
「-----…あのさぁ」
昼休みー
生徒会室で話し合いをしている最中に
書記の高藤が声を上げた。
「---失恋したとか、なんとか、
噂になってるけどさ、
さっきから、俺の話聞いてる?」
高藤が苛立った様子で言う。
リア充嫌いの高藤からしてみれば、
失恋だか何だか知らないが、今の康成の態度は
我慢ならなかったー。
「--高藤君。やめて」
事情を知っている
生徒会長の沙耶香が高藤を止める。
高藤は、不満そうに眼鏡をいじりながら黙り込むー。
「--リア充野郎が」
話し合いが終わると、高藤は捨て台詞を
残して、生徒会室の外に出ていくー。
「----…大丈夫?」
沙耶香が心配そうに言う。
康成は拳を握りしめて呟くー
「ーーわかっているんだ…
明美は悪くないって…
でもさ…明美に…明美に
面と向かってあんなこと言われちゃうとさ…
俺…どうしたらいいか…」
康成が悔しそうに呟くー
「---……倉本くん…」
沙耶香が悲しそうな表情で康成のほうを見つめる。
「---…」
沙耶香が生徒会室の窓のほうを見つめるー
沙耶香にとっても、明美は大切な友人だー。
明美が憑依された影響で、豹変してしまった
その日から、明美は沙耶香のことも避けている。
「---辛いよね……」
沙耶香は悲しそうに呟くと、
康成の近くに歩いていくー。
「---わたしも…できる限り、倉本くんと
明美の力になるから…」
沙耶香の言葉に、
康成は泣きそうになりながら
それをこらえて沙耶香のほうを見る。
「--ありがとう…
でも…俺…」
康成は言葉を止めるー
ここで、諦めてしまったら、
明美はずっとあのままかもしれないー。
でもーー
でも、もうー…
どうしたらいいか分からない。
明美は、完全に変えられてしまったのだろうかー。
元に戻すことはもう、できないのだろうかー。
慰めてくれた沙耶香に礼を言って
生徒会室の外に出るー。
康成は思うー
”明美に憑依したやつー”
そいつと話をして、明美を元に戻してもらうしかない。
康成の見立てでは、
明美に憑依したのは、
不良の長谷部 勝だー。
明美が憑依される前に、明美に告白して振られているらしいし、
康成を恨む動機としても十分だ。
ほぼ確実に、あいつだろう。
康成はそう思っている。
だがー
康成は逃げていたー。
康成はいじめられっ子ではないし、クラスに友達も
そこそこ多いほうだが、
これまでに何度も停学処分になっているほどのワル・勝とは
出来る限り関わりたくない、という思いもあった。
康成は、逃げていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
放課後ー
「---」
元気なく、康成が下校しようとしているその時だったー。
「ねぇねぇ勝~!わたしにもちょうだい~」
「--おお?へへへ、急にそんなに悪い女になっちゃって
どうしたんだよ?ケケケ」
空き教室の中から不良生徒・勝と明美の声が聞こえてきた。
「明美……」
辛そうに歯を食いしばる康成。
明美と勝が身体を密着させて
イチャイチャしているのが少しだけ見えたー。
「----…」
康成は目を逸らそうとしたー
そのまま素通りしようとした。
これ以上、こんなつらい目に遭うぐらいならー。
鞄を握りしめて、
素通りしようとする康成ー
しかしー
「---あ~~~!おいしい!
今まで真面目にやってたのが、ばっかみたい!」
髪を茶色に染めた明美が、
おいしそうにー
咥えていたのはーー
勝からもらった煙草だったー。
「--明美!」
康成は我慢できずに空き教室の中に入って叫ぶー。
明美と勝が驚くー。
「--テ、テメェ!」
勝が声を荒げる。
煙草を吸ってる現場を見られたことに
勝は動揺していたー
だがー明美は、動じる様子もなく
笑みを浮かべたー
「---なに?何か文句あるの?」
明美がたばこを手に持ちながら言う。
康成は近くの机に鞄を置くと
明美のほうを見つめて叫ぶ。
「--文句って…
分かるだろ…?明美…
そんなことしちゃダメだって…
頼むよ、明美!
頼むから、もうやめてくれ」
康成が言う。
もう、自分のことを嫌いになってもいいからー
それでもいいからー
これ以上、道を踏み外さないでほしいー。
「--わたしがどうしようと、わたしの勝手でしょ?」
明美はおいしそうに煙草をくわえて、
煙を出して康成を挑発する。
「--明美…
元に戻ってくれ。お願いだから」
明美のほうに近寄って
泣きそうになりながら康成は言う。
「---ふん。」
明美は勝にたばこを手渡すと、
康成を睨むー。
「---先生に言う?
わたしがたばこを吸ってたって?
言いたいんでしょ?
言えばいいじゃん!」
明美が挑発的に言う。
「--おい」
ガムを噛みながら勝が小声で明美に向かって言う。
”もしチクられたら面倒だ”
とー。
「--ふふふ、大丈夫。こいつは言わないから。
ね?
先生に言ったら
わたし、悪者になっちゃうもんね?」
明美が康成に近づいてくる。
康成は、悲しそうな目で明美を見るー
そうだー
言えないー
明美は、憑依されたときに
思考や記憶をあれこれいじられてー
こんな性格に変えられてしまっているだけー。
言えばー
明美が悪者になってしまう。
先生に言えばー
明美が元に戻った後に、
明美の心に大きな傷を残すことになってしまうー
「---あっははははははは!
そうだよね?言えないよね???
あっははははは!」
明美が笑いながらー
康成の頬を突然ビンタし始めた。
康成がよろめく。
「--そういうの!すっごくうざい!!」
明美が2回、3回と康成をビンタするー
「---」
康成は痛みにこらえながら
明美のほうを見つめるー
「---…」
明美に叩かれる痛みよりもー
明美がこんな風に変えられてしまった痛みのほうがーー
俺にはずっとつらい…
康成はそんな風に思いながら、こらえるー
「--何よその目!
うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざい!」
明美が何度も何度も康成をビンタするー
「おい!あんまりやりすぎると、問題になるぜ」
勝が止めに入るー。
だがー
明美は、息を切らしながら振り返る。
「--びびってんの!?
黙ってて!」
明美に怒鳴られて
勝は、思わずガムを飲み込んでしまうー。
明美は再び康成のほうを見ると、
康成の胸倉をつかんだー
「あんたみたいなやつが…
いっちばん むかつくのよ…」
明美に睨まれる康成ー
背後の机に押し付けられながら
康成は「明美…」と悲しそうに呟くのがやっとだったー
明美が、さらに力を入れようとした
その時ーーー
机に置いてあった康成の鞄から、中身が落下したー
ガシャン…!
「---!?」
「----!!」
鞄から零れ落ちたものを
康成と、康成の胸倉をつかんでいた明美が見つめるー。
鞄からー
明美に貰った誕生日プレゼントー
”光る球体のようなもの”がー
床に音を立てて落ちたー
球体が割れてーーー
中から、男女が仲良さそうに
遊園地を歩いているジオラマのようなものが
出てきたー。
♪~~~
音が鳴りだすー
優しい音ー。
「------!!」
康成を乱暴に掴んでいた明美の手の
力が弱まるー
「明美ー?」
康成が明美のほうを見るー
明美が康成に渡したものはー
オルゴールだったー。
明美からもらった誕生日プレゼントを、
康成はずっと”キラキラ光る謎の物体”だと思っていたー
キラキラしている部分=カバーを外すと
中からオルゴールが出てくるようになっていることに
気付いていなかった。
明美の瞳が震えているー
「---な、、に、、これ…?」
心安らぐオルゴールのメロディーが
空き教室に響き渡るー
そしてー
音が鳴りやむと、
オルゴールから声が聞こえてきたー
”どう?わたしからの誕生日プレゼント!
おじいちゃんに頼んで
わたしと康成の思い出をイメージした
オルゴール、つくっちゃった!”
録音されていた明美の声が再生されるー
憑依される前の明美の声ー
「………な……」
明美がオルゴールのほうを睨んでいる。
”--ど~せ、康成のことだから
中身に気づかないで、
しばらく光るボールだとでも
思ってるでしょ”
明美の音声を聞きながら
康成は、悲しそうにほほ笑むー
「--そうだよ…」
とー
”オルゴールだって気づくまでに
1週間、
う~ん、あ、もう1か月ぐらい
経ってたりして!
康成、結構鈍いからなぁ~…”
いつものちょっぴりいたずら好きで
優しい明美の声が、聞こえてくるー
そしてー
”--改めて、誕生日おめでとう。
たぶん、これを聞いてるのは家で、だよね?
明日、感想聞かせてね!
ばいばい!”
録音された明美の音声が消えるー
「---……わたし……こんな…」
明美が片手で頭を押さえながら首を振っている。
「--明美…」
康成が明美のほうを見つめるー
涙目で明美がオルゴールのほうを見つめると、
吐き捨てるように、うざい!と叫んで
そのまま明美は康成から離れて
空き教室から飛び出して
廊下に出て行ってしまったー
「お、おい!急にどうしたんだ!?」
明美に置いていかれた勝が叫ぶ。
そして、勝も明美の後を追って
そのまま空き教室から飛び出して行ったー。
「---」
康成は床に落ちたオルゴールを拾うと、
それを見つめるー。
遊園地で幸せそうにしている
康成と明美らしき人形が、ゆっくりと回転しながら
優しく響きわたるメロディが流れていたー
「---な、、に、、これ…?」
オルゴールを見た時の明美の反応を思い出すー
明らかに動揺してー
反応していたー
「明美…」
康成は呟く。
そうだー
辛いのは自分だけじゃない。
誰かに憑依されて、無理やり思考や記憶を変えられてしまった
明美だってつらいんだー。
そして、明美は今も必死に自分の中で
戦っているー
優しくて、ちょっぴりいたずら好きな明美はー
消えてしまったわけではないー。
「--俺が、逃げてちゃいけないよな」
康成はオルゴールを拾って、鞄の中に大切にしまう。
「-ーーー……明美…
俺は、絶対に諦めない…」
落ち込んでいた康成はー
オルゴールを見た明美の反応を見て
希望を取り戻したー。
何があってもー
どんなにつらいことを言われたとしてもー
俺は、逃げないー
絶対に、元の明美を取り戻して見せるー。
・・
・・・・・
「----」
反対側の校舎の窓から、
双眼鏡でその様子を見つめていた人影は、
少しだけ笑みを浮かべて、そのまま姿を消したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
「---長谷部」
康成は、登校すると、
不良生徒・長谷部 勝の座席のところまで
歩いて行った。
”もう、逃げないー”
”明美を取り戻すためなら、どんなに辛いことでも
乗り越えて見せるー”
康成は、不機嫌そうにスマホをいじっている明美のほうを
チラッと見た後にー
勝を睨んだ。
「--放課後、お前に話がある」
康成が言うと、
勝はガムを噛みながら笑みを浮かべた。
「---話?」
「---あぁ」
康成が決意の表情で勝を睨むー
勝は半笑いで頷いた。
「いいぜ。放課後、屋上で待っててやる」
勝はフーセンガムを膨らませて、
康成を挑発すると、不気味な笑みを浮かべたー
⑥へ続く
コメント
私にとって、初めての憑依関連の長編がこの作品でした。
そういうこともあって、長編4作品目に突入している今でも
思い出深い作品ですネ~!
ここまでお読みくださりありがとうございました!
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