☆こちらは「試し読み」コーナーデス
本コーナー以外の憑依空間内の作品は、憑依空間内で”必ず”完結します
<試し読み>と明記していない作品で、(試し読みコーナー以外では絶対にやりません)
「続きはFANBOXで」は絶対にやらないのでご安心ください!
「試し読み」は↓を全てご納得の上でお読みください☆!
(料金が掛かったりすることはないので、安心してください~!)
※こちらの小説はFANBOXご案内用の「試し読み」です。
(試し読みが欲しいというご要望にお応えして、試し読みをご用意しました)
pixivFANBOXで連載している皮モノ長編「モルティング~人を着る凶悪犯~」の
第5話までを公開していきます!
※「試し読み」では、最後まで完結しません。ご注意下さい
(連載中 現在32話まで)
・試し読みコーナーでも、事前に<試し読み>と明記、どこまで読めるかを
明記した上で掲載しています。途中までであることをご納得の上でお読みください!
※1話あたりの長さは通常のと私の作品と同じで、
FANBOXでは1話ごとに公開していますが、
試し読み版では①~⑤を全部まとめてあります。
第1話「遭遇」
世の中には”闇”があるー。
決して、触れてはならない”闇”がー。
人間が、手にしてはならない”力”がー。
これはー
”力”を手にしてしまった”闇”の物語ー。
凶悪犯罪者が”他人を皮にして着込む”力を手にしてしまった
ことにより、起きる数々の悲劇ー。
そして、それに立ち向かった若き警察官の物語ー。
・・・・・・・・・・・・・・
登場人物
長瀬 治夫(ながせ はるお)
若き警察官。”皮”にまつわる事件に巻き込まれていく
松永 亜香里(まつなが あかり)
治夫の彼女。現在同居中。
塚田 総司(つかだ そうじ)
先輩刑事。治夫の面倒を見ている兄貴分。
片桐 由愛(かたぎり ゆめ)
かつて治夫に助けられた女子高生。
目黒 圭吾(めぐろ けいご)
警視正。計算高い性格の持ち主で、出世欲も強い。
黒崎 陣矢(くろさき じんや)
指名手配中の凶悪犯罪者
・・・・・・・・・・・・・・
交番勤務の警察官・長瀬 治夫(ながせ はるお)は、
今日も地域の平和を守るため、パトロールをしていたー。
「---戻りました」
治夫がパトロールを終えて、勤務先の交番に戻ると、
少し年上の先輩刑事・塚田 総司(つかだ そうじ)が
「ご苦労さん」と笑みを浮かべたー。
総司は、治夫にとって”兄貴分”と言える刑事でー
人当たりがよく、先輩としてとても頼りになる存在だー。
「--おはようございます~!」
そこに、声を掛けて来る可愛らしい女子高生ー。
彼女は、この交番の近所の高校に通う高校生・
片桐 由愛(かたぎり ゆめ)-。
「--お、由愛ちゃん おはよう」
治夫がいつものように返事をすると、
由愛は嬉しそうに微笑んだー。
半年前ー
この由愛という子は、部活帰りに、
柄の悪い地元の不良連中に絡まれてしまっていたー。
その現場を偶然目撃して助けたのが、治夫ー。
それからは、由愛は、恩人でもある治夫に懐き、
毎朝、この交番に顔を出しているのだったー。
「---ふ~ん、そうなのか~
俺もなぁ~…テストは実は数学苦手でさ~」
治夫が笑いながら、由愛と雑談をしているー
地域の住人と触れ合うのも、交番勤務の警察官の仕事の一つだー。
「--ははは、いつまで話してるんだ?長瀬」
先輩刑事の総司が笑いながら治夫に声を掛けると、
治夫は、総司の方を見て、すみません、と笑いながら、
「じゃ、由愛ちゃん、頑張って」と声を掛けるー。
「ありがとうございます。長瀬さんも、頑張ってください!」
由愛はそれだけ言うと、微笑みながら立ち去って行ったー。
「--はっは~~」
総司が笑うー。
「--お前、あの子に惚れたりするんじゃねぇぞ?」
とー。
「--はっ!?え!?いやいやいや、それは絶対ないですから」
治夫が顔を赤らめながら言うー。
治夫には、大学生の頃からの付き合いの彼女・
松永 亜香里(まつなが あかり)がいるー。
現在は同居中で、亜香里一筋の治夫は「絶対、断じて、浮気などありません」と
自信満々に言うー。
「---ははは、そんなに大事にされて、
羨ましいなぁ、彼女さんは」
雑談する二人ー。
そんな交番の脇には
”指名手配中”の凶悪犯罪者の顔写真が貼られていたー
”黒崎 陣矢(くろさき じんや)”
連続殺人を犯した人物でー
既に、5人ほど犠牲になっているー。
逮捕は時間の問題ー…
の、はずだったのだが、警察はこの陣矢の逮捕に手を焼いていたー
先日も、目黒(めぐろ)警視正が、陣矢を逮捕するために
特殊チームを結成した、などという話があったがー
交番勤務の治夫からしてみれば、あまり関係のない話でもあったー
「--ただいま~~」
帰宅する治夫ー
「おかえりさない!」
可愛らしい女性が出迎えるー。
この女性がー
治夫の彼女の亜香里だー。
亜香里は治夫と今日の出来事を話しながら楽しそうに笑うー。
こんな、幸せな日々がずっと、続くー。
そう、思っていたー。
治夫が、中学時代の卒業写真を見つめるー。
中学時代の恩師である、泉谷(いずみや)先生ー。
この泉谷先生こそが、
治夫が警察官を目指し始めた、理由ー。
「---」
懐かしそうに、泉谷先生の写る写真を見つめると、
治夫は、「今日も疲れたし、そろそろ寝るか」と笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
「--ちょっとパトロールに行ってきます」
治夫がそう呟くと、
”近寄りがたいオーラ”を出している女性刑事の
宮辺 奈々子(みやべ ななこ)が、
淡々と「分かりました」と返事をしたー
奈々子も、同じ交番に勤務する仲間の一人だがー
常に”感情”を感じさせない機械的な感じの女性で、
年上だろうと、年下だろうと、誰に対しても敬語だー。
まるで”ロボット”かのように、人間味を感じさせないー。
「---はぁ~…宮辺さんと二人の時は
パトロールしているに限るー」
夜の街を自転車で走る治夫ー。
「--」
奈々子から逃げるー
そんな意味合いがあるのはもちろんだったがー
当然、治夫は、街の治安を守ることに熱意を燃やしていたー。
以前、女子高生の由愛を助けた時もー
こうして、夜にパトロールをしていたからだー。
夜の路地をパトロールする治夫ー
その時だったー
「----やめてください!」
「--!?」
近くの通りから、女性の声が聞こえたー。
「--へへへ…逃がすかよ」
そして、男の声ー
「--!」
治夫はすぐに自転車を道の脇に止めると、
その声がした方向へと向かうー。
路地から、悲鳴のした狭い道を見つめるとーーー
そこにはーー
男と女がいたー。
一人はー
30、40代ぐらいの綺麗な感じの女性ー
もう一人はーー
「--!!!!!!!!」
逃亡中の凶悪犯罪者ー
黒崎 陣矢ーーーー
そしてーー
信じられないことが起きたー
黒崎 陣矢が、女性の後頭部を掴むとー
女性が”真っ二つ”に引き裂かれたー
「ーー」
応援を呼ぼうとしていた治夫は、唖然とするー。
目の前で、真っ二つに女性が引き裂かれたー
いいやー
それだけではないー
引き裂かれた女性は、まるで”着ぐるみ”のようにー
ペラペラの布のような状態になってー
地面に無残に崩れ落ちたのだー
言葉を失う治夫ー
すぐに飛び出そうとするもー
”さらに”
異常事態が起きたー
黒崎 陣矢がー
”皮”のようになった女性を掴みーー
そしてー
”着た”のだー。
「--ククク…」
女が、笑うー
黒崎 陣矢に”着られた”女が、笑うー
「---…!」
「---!!」
治夫と女の目が合うー。
「-----!」
女が驚いたような表情を浮かべているー
「ーー今、悲鳴が聞こえたものでー…
何か、ありましたか?」
治夫は、戸惑いながら、そう尋ねるー。
今の光景はー?
黒崎陣矢がこの女性を”引き裂いて”
まるで、着ぐるみのように”着た”ように見えたー
いやー
だがしかしー
そんなこと、できるはずが、ないー
「---悲鳴?ふふ、聞き間違いじゃないですか?
わたし、何も聞こえませんでしたよ?」
女が馬鹿にしたように笑うー
「--そ、、そうですか…」
治夫は混乱していたー
今のはーー、なんだー?
ふと、女の目に涙が浮かんでいることに気づく治夫ー。
「---」
治夫は、不審に思い、食い下がるー
「今、男があなたと一緒にいませんでしたか?」
とー。
「--男?ふふふ、何を言ってるんですか?
ここには、わたし、一人ですよ」
女は、なおも馬鹿にした口調で呟いたー。
「---……」
治夫は戸惑うー。
だが、周囲を見渡しても、他に人はいないー。
”見間違え”かー?
いや、でも、確かにー
しかしー
この女性しかこの場におらずー
この女性自身も、何もないと言っている以上ー
何も、できないー
治夫は、夜間パトロールの一環として、
念のためその女性に職務質問を行い、
所持品などを軽く確認させてもらったが、異常はなかったー
「--失礼いたしました。お気をつけてお帰り下さい」
治夫は、そう頭を下げるがー
”さっきの光景は???”と何度も何度も頭の中で
自問自答していたー
「---ククク…」
立ち去る女は、凶悪な笑みを浮かべていたー
「---わたし、乗っ取られちゃいましたぁ~♡
なんてな…」
女はペロリと唇を舐めると、そのまま立ち去って行ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・
翌朝ー
「---…あ、、、おはようございますー」
かつて助けた女子高生・由愛が今日も
交番の前を通りがかるー
だがー
今日の由愛は、なんだか元気がなかったー
「--お、由愛ちゃん どうしたんだ、今日は?」
治夫がいつものように声を掛けると、
由愛は「いえ……ちょっと、今朝”お母さん”の様子がおかしくて」と
苦笑いしたー
「-様子がおかしい?」
治夫が首を傾げると、
「あ、いえ、大したことじゃないんですけど…
なんか、、こう、、わたしを妙に触ってきてー」と、
恥ずかしそうに由愛が答えたー。
「--ははは、そっかー。
ま、何かあったら、話ぐらいはいつでも聞くよ」
治夫が、そう笑みを浮かべると、由愛も笑みを浮かべて
そのまま学校に向かったー。
「---何かあったのか?」
交番の奥にいた先輩の総司が声を掛けて来るー
「あぁ、いえ、特に問題はないみたいです」
治夫はそれだけ言うと、
”昨日の夜”見た光景について、総司に相談しようか迷ったー。
だがーー
”暗がり”だったし、見間違えかもしれないー。
黒崎陣矢が女性を着ぐるみのようにして着込んだー
そんな風に見えたーー
がーー
絶対にそんなこと、ありえないー
と、治夫は、昨日見た出来事を”何かの見間違い”と
自分の中で無理やり納得させてしまったー
だがー
それはーー
”間違い”だったー
・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー
「---ふふふふっ…ふふふふふふふ」
女が、笑いながら、男を包丁で刺しているー。
自宅の庭先でーー
女が血のついた包丁をペロリと舐めるー
「--へへへ…”殺し”はやめられねぇ…
ゾクゾクする…」
女は、夫を包丁で刺して、
ゾクゾクしながら顔を赤らめていたー。
ピキッー
女の後頭部が割れるようにしてー
中から凶悪犯・黒崎 陣矢の顔が出て来るー
「--人を皮にして着る力…たまんねぇぜ」
陣矢がそう呟くとーー
背後で物音がしたーー
「--お、、、おかあ…さん…?」
震えているのはー
陣矢に乗っ取られた女の娘ーーー
警察官・治夫に助けられたことのある女子高生・由愛ー。
「---見・た・な?」
昨夜ー
乗っ取られたのは、由愛の母親である・藤江(ふじえ)だったー。
「ーーーーー」
血のついた包丁を手に、藤江が、由愛の方を見つめるー
由愛が血まみれで倒れている父親に気づいて叫ぶー
「お、、お父さん!?」
目に涙を浮かべながら由愛が後ずさるー。
「--へへへへへっ…
”決めた”-
俺はー
しばらく”お前を着る”ぜー」
ペロリと唇を舐めると、藤江の身体がぱっくりと割れてー
まるで”脱皮”するかのように藤江を脱いだ陣矢はー
怯える由愛の頭を掴んでー
邪悪な笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「----きゃああああああああっ!」
偶然ー
由愛の家の近くをパトロールしていた治夫が、悲鳴に気づくー
治夫が何事かと、駆け付けるとー
そこにはー
血まみれの藤江の姿があったー
悲鳴を上げたのは、それを見た近所の住人ー。
「---あ、、、あ、、、あ、、」
藤江についている血はー
”乗っ取られていた藤江”が、夫を刺した時の返り血ー
「--な、、何があったんですか?!」
治夫が慌てて藤江に駆け寄るー
藤江はパニックになっていて、何を言っているか分からないー。
「---」
ただちに応援を呼び、治夫は、周囲の人から
”藤江が夫を自宅の庭で刺した”ということを聞かされるー。
「---!!!」
治夫は、そのまま藤江の家の方に向かうー
庭では、既に死亡している藤江の夫が倒れているー。
そしてーーー
「-----!!!」
自宅の中でーー
不気味な笑みを浮かべながら座り込んでいる女子高生を見つけてー
治夫は驚いたー
「--由愛…ちゃん…?」
治夫は、この家が、由愛の家だとは知らなかったー
毎朝交番で挨拶していたもののー
由愛の家には来たことがなかったし、
以前助けた際も、その場でやり取りしただけで、
由愛の両親のことも知らないー
だからこそー
”死亡した夫”と”夫を刺した妻”が
由愛の両親だと知って驚いたのだー
「--由愛ちゃん!…」
治夫は、由愛が、父親が母親に殺されたことに
動揺していると考えて、由愛を安心させようと言葉を掛けるー
治夫からの無線連絡で駆け付けた警官が、
放心状態の母親・藤江を逮捕して、そのまま連行していくー
「-----ありがとうございます。わたしは大丈夫ー」
由愛が静かに呟くー
「---由愛ちゃんー」
治夫は、由愛の方を見て、不安そうな表情を浮かべるー
駆け付けた警察官から声を掛けられて
由愛に背を向ける治夫ー
治夫が状況を説明するー
そんな治夫の背中を見つめながら、由愛は邪悪な笑みを浮かべたー
「---ククク…可愛い女子高生の身体、げーーーっと♡」
由愛は小声でそう呟くと、舌を出して唇をペロリと舐めたー
②へ続く
第2話「不穏」
凶悪犯罪者・黒崎 陣矢ー。
彼は、筋金入りの”狂人”-
常識では計り知れない、壊れた倫理観の持ち主ー
「---命が消える瞬間は…たまらない…」
ゾクゾクしながら、黒崎 陣矢は
また”ひとつの命”を消したー
「---ぁぁぁあああ…♡♡」
自宅のー
可愛がっていたハムスターの息の根を止めた
女子高生の由愛は、興奮した様子で
そのハムスターを何度も何度も足で踏みつけるー。
狂った笑みを浮かべる由愛ー
あまりの興奮に、由愛の後頭部が割れてー
由愛の中から、由愛を皮にして乗っ取った男ー
黒崎 陣矢の顔が飛び出してくるー
「--誰にも俺を止められやしねぇ…」
陣矢はそう呟くと、再び由愛の皮を身に着けて、
笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・
「--昨日は大変だったな」
交番の先輩刑事・総司が呟くー。
「--あ、いえ、」
治夫はそう呟くと、
由愛のことを心配しながら、総司に
逮捕された由愛の母親・藤江の様子を尋ねたー。
藤江は陣矢に”皮”にされて着こまれてー
乗っ取られた状態のまま、夫を殺害、
その後、陣矢は、娘である由愛を皮にして
由愛の方に移ったのだがー
治夫も、総司も、そんなことは知る由もなかったー
「それがだな…」
総司が言うー。
「聞いた話によると、由愛ちゃんの母親は、
「何も覚えていないんです!」の一点張りー
つまり、容疑を否認してるようだな」
総司の言葉に、
治夫は、そうですか…と呟くー。
由愛は、以前、柄の悪い男たちに絡まれているところを
パトロール中の治夫が助けてから、
治夫に懐いている女子高生だー。
勿論、治夫に恋愛方面の特別な感情はないがー、
顔見知りの子として、毎朝交番で挨拶をするような
間柄だー。
そんな、顔見知りの子の母親が事件を起こしたことで、
由愛のことも心配だったしー
もう一つ、気になることがあったー。
治夫が現場に駆け付けた時、由愛の母親・藤江は
既に返り血を浴びていて、パニックになっていたため、
その時は気づかなかったがー、
由愛の母親・藤江の顔写真を後から見て、
治夫は”あること”に気づいていたー
「--男?ふふふ、何を言ってるんですか?
ここには、わたし、一人ですよ」
事件の前日ー
黒崎 陣矢によく似た男にー
引き裂かれて”着られた”ように見えた女性ー
その時に、職務質問した女性は、
確かに由愛の母親である藤江だったー。
”夫を殺した記憶がないー”
「----」
治夫は暗い表情で考え込むー
「---おい長瀬、どうした?そんな暗い顔して」
先輩の総司の言葉に、治夫は「いえ…」と首を振るー。
由愛の母・藤江が、凶悪犯 黒崎 陣矢に”着られて”
操られていたー
なんてことはないだろうかー。
そんな、現実離れした考えが、治夫の中に浮かび上がったー
「----」
治夫は、事件の前日に目撃した光景を、先輩の総司に伝えたー
「--はははははっ!はははははははっ!」
だがー
総司は笑ったー。
「-ー逃亡中の黒崎陣矢が、由愛ちゃんの母親を
まるで着ぐるみのようにして着込んで
夫を殺したんじゃないか…って?
はははははっ!
刑事ドラマでもそんな犯人、出てこないぜ?
見間違いだよ。
黒崎陣矢がこんな地域にいるわけないし、
人を皮にして着込むなんて、できるわけないだろ?」
総司の言葉に、
治夫は「まぁ…そうですね…はい」と、
納得いかない様子で頷いたー
「---おはようございます」
由愛がいつものように、交番の前を通りかかったー
「---あ、、由愛ちゃん… もう大丈夫なのか?」
治夫は心配そうに由愛を見つめたー
昨夜、父親が母親に殺されて
母親は逮捕されているー
そんな過酷な状況なのにー
由愛は案外落ち着いているように見えたー
「--大丈夫?ふふ、大丈夫に決まってるじゃないですか」
由愛が微笑むー。
「--そっか…ならよかったー」
治夫はそう言うと、
「そういえば、昨日の朝、事件の前も、
お母さんの様子がおかしいって言ってたよね?」
と、由愛に質問をするー
「いえ……ちょっと、今朝”お母さん”の様子がおかしくて」と
「あ、いえ、大したことじゃないんですけど…
なんか、、こう、、わたしを妙に触ってきてー」
昨日の朝、由愛が交番の前に来た時、そう語っていたことを
思い出したのだー
「---言いましたっけ?」
由愛が微笑むー。
「ーー確かに聞いた気がするけどー」
治夫がそう言いかけると、
由愛の足元に、少し大きめの蜘蛛が歩いているのに気づいたー
「--!」
由愛がそれに気づくと、由愛は足で蜘蛛をそっと踏みー
そのまま靴で踏みにじるようにして、蜘蛛を殺したー
ぐちゃっと潰れた蜘蛛を見つめて
由愛が不気味に笑ったー
気がしたー
「--あ、わたし、急いでるんで。
もういいですか?」
由愛の言葉に、治夫は、「あ、、あぁ、今日も頑張って」と
声を掛けると、由愛はにっこりと笑って
そのまま立ち去って行ったー
「---お前、あの子に惚れるんじゃねぇぞ?」
先輩の総司がいつものように治夫を微笑むー
「--ほ、惚れませんってば!」
治夫が笑いながら言うー
だが、その直後ー
治夫は、由愛に踏みつぶされた蜘蛛を見つめて
不安そうな表情を浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
高校ー
昼休みー
「---由愛、話ってなに?」
由愛の友達の一人・美海(みみ)が、呼び出されたトイレで、
先に待っていた由愛に話しかけるー
「---」
由愛はクスッと笑うと、突然美海の胸をわしづかみにしたー
「えっ!?由愛!?何してるの!?」
驚く美海ー。
「--お前、いいスタイルしてんじゃん」
由愛が低い声で笑うー。
「--ゆ、由愛?」
美海が怯えた様子で由愛を見るー
由愛の様子が、おかしいー
「--俺さ、輝いてる命を奪う瞬間ーー
すっげぇ興奮するんだよね」
由愛が、自分のことを”俺”と言ったー。
美海が「ど、どうしちゃったの!?」と言いかけた
その瞬間ー
由愛が隠し持っていた注射器を美海の首筋に刺したー
美海が悲鳴を上げながら、あっという間に”皮”に
なっていくー。
「--あぁああ、、、あ…」
スタイルの良い女子高生が、
あっという間に無残な皮になっていくー。
「--くくくっ…くくくくくく」
興奮した様子で由愛は、もう一つ、別の注射器を使うー。
美海の身体が人間に戻るー
怯えた様子の美海ー
さらに最初の注射器を使って、美海を再び皮にするー。
何度も何度もそれを繰り返してまるで”拷問”のように
楽しむ由愛ー
そして、最後にはー
「--ばいばい」
由愛は、美海の皮をトイレに押し込んでー
そのままトイレを流すとー
邪悪な笑みを浮かべながらトイレを出たー
「--はぁぁぁ…♡ やめられない…♡」
ペロリと唇を舐める由愛ー。
”殺し”はやめられないー
黒崎 陣矢に乗っ取られた由愛は、その手で、人の命を奪ったー
・・・・・・・・・・・・・・・
「どうしたの?」
夜ー
彼女の亜香里が心配そうに、治夫を見つめるー
「--ん?」
治夫は、帰宅後に、同居中の彼女・亜香里と
ご飯を食べながら、考え込んでいたー
もしー
もしも、
本当に、黒崎陣矢が、由愛の母親・藤江を皮にして
着込んでいたのだとすればー?
まだ、藤江の中に黒崎陣矢が潜んでいるのだとすればー
だがー
”何も覚えていない”という取り調べに対する藤江の言葉が
引っかかるー。
黒崎 陣矢が仮に藤江を乗っ取って、藤江の夫を
殺したのだとすればー…
藤江が記憶がない!と叫んでいるのには、
いくつかの理由が考えられるー
ひとつは、黒崎陣矢が、藤江の身体でとぼけていることー
ひとつは、黒崎陣矢は藤江の中に潜んでいるものの、
藤江は正気を取り戻していることー
そしてーー
もう一つはー
”既に、黒崎陣矢は藤江の身体の中にはいないということー”
もしーー
もし、そうだとすればーー
治夫は、現場に駆け付けた時、藤江がパニックになっていたことを思い出すー
”あの時点で、黒崎陣矢は、既に藤江の外に出ていたー?”
と、なるとー
由愛の顔が一瞬浮かび、治夫がヒヤッとするー。
「--は~~る~~お~~!!!」
彼女の亜香里が、そんな考えを打ち消すかのように、
治夫の肩をぺしぺしと叩いたー
「も~~~!!!!難しい顔ばっかりして~~~!!!」
亜香里が頬を膨らませながら言うー。
「--ご、ごめんごめん」
治夫が苦笑いしながら亜香里の方を見るー
そうだー
黒崎陣矢が他人を皮にして着込むー…
なんて、あり得るはずがないー
考えすぎだー。
”単純に、藤江が容疑を否認ーつまり、とぼけている”
だけなのだろうー。
「---何か悩んでるの?」
亜香里が心配そうに呟くー。
「--悩んでる…というか、心配してる…って感じかな?」
治夫が言うと、亜香里は「わたしで良ければ、いつでも聞くからね」と
微笑んだー。
治夫は「ありがとう」と穏やかな笑みを浮かべると、
亜香里と共に晩御飯を済ませて、
事件のことは、ひとまず考えるのを、やめたー。
・・・・・・・・・・・・・・・
「昨日から、行方不明?」
翌日ー
治夫が声を上げたー。
「ええ」
”近寄りがたいオーラ”を出している女性刑事・奈々子が
愛想なく返事をしたー。
「---」
奈々子はパソコンの画面に、”それ”を表示するー。
「--郷原 美海(さとはら みみ)-
昨日から、行方不明で、捜索願が出ています」
奈々子の言葉に、
治夫は、その生徒を見つめるー
由愛と同じ制服を着ているー。
「--行方不明って…最後に目撃されたのはいつなんです?」
治夫が言うと、
奈々子は「昨日のお昼ごろ」と、だけ呟いたー。
学校で行方不明になったのだというー。
行方不明になった美海はー
由愛と同じクラスであることも判明したー。
治夫は、由愛の母親・藤江を皮にしていた黒崎陣矢が
まるで”脱皮”するかのように藤江を脱ぎー
そして”由愛を着る”イメージが、頭に浮かんでしまい、
それを振り払ったー。
「---……何か?」
奈々子が、そんな治夫を見て、不思議そうにしているー
「あぁ、いえ、なんでもないです」
治夫は、そう呟くとため息をついたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
夕方ー
パトロール中に、治夫は由愛の家の前に
やってきていたー。
「----」
深呼吸する治夫ー。
そんなことあるわけがないー
そう、思いながらー。
けれどー
”他人を信じるには、まず、自分を信じることだー”
治夫が刑事の道に進むきっかけを作った
中学時代の恩師・泉谷先生の言葉を思い出す治夫ー。
「-----」
”自分の勘を信じるー”
治夫は意を決して、インターホンを鳴らしたー。
中から、黒いミニスカート姿の由愛が出て来るー。
いつも交番で挨拶するときは、制服姿だからー
由愛の私服はあまり知らないー。
思ったより、派手な印象を受けるー。
「--急に、どうしたんですか?」
由愛が微笑むー。
治夫は、「少しお母さんのことで気になることがあってー」
と、そう呟いたー
由愛は、父親が殺されて
母親が逮捕されたのにー
まるで動揺している様子がないー
そのことにも、少し違和感を覚える治夫ー
「-ーー実は、前の日にー
由愛ちゃんのお母さんがーー
”男の人”と一緒にいるのを見たんだー」
治夫は、単刀直入にそう呟いたー
もしー
もしも、由愛の中に黒崎陣矢がいるのであればー
当然、黒崎陣矢も、治夫のことを知っているはずー。
あの日ー
皮にされた藤江としゃべっているのだからー。
治夫は、由愛の方を見るー
由愛に、驚いてほしかったー
”いつもの由愛”なら、
治夫がそういう話をすれば、驚くはずだからー、だ。
だがー
由愛のリアクションは薄かったー。
「それで?」
由愛はそれしか言わなかったー。
「---…」
治夫は、由愛の母親・藤江が黒崎陣矢と一緒にいてー
その時に、黒崎陣矢が藤江を引き裂いて、
藤江を着たように見えたー
と、そう、全てを告げたー
もしもーー
由愛の中に黒崎陣矢がいるならーーー
由愛が豹変する可能性が高いー
もしもー
ただの杞憂ならーー
それでいいー
「----くっ…くく」
由愛が突然笑いだしたー
「--!!」
治夫は思わず身構えるー
「--くくくく…あは、、あはははははははははっ!」
狂ったように笑い始める由愛ー
そんな由愛を前に、
治夫は警戒心をあらわにしながらー
由愛の方を見つめたー。
③へ続く
第3話「少女」
目の前で、突然、笑いだす彼女を見てー
治夫はより警戒心を強めるー
やはりー
彼女はー、
由愛は、”黒崎 陣矢”に皮にされて
乗っ取られているのではないかー?
とー。
”そんなことあるはずがない”
そうは思いながらも、笑い続ける由愛を見て、
治夫は、”最悪の予感”を考えてしまうー。
もしー
もしもー
黒崎陣矢がー
凶悪犯罪者が、”人を着ぐるみのようにして着ることが出来る”
のだとしたらー?
「---あはははっ… は~~~~~」
ようやく笑い終えた由愛が、
そんな治夫の方をにっこりと見つめたー。
・・・・・・・・・・・・・・
「--ーーーちょっと~~笑わせないで下さいよぉ~」
由愛が、クスクスと笑いながら呟くー。
「--わたしのお母さんが、凶悪犯罪者に”皮”にされて、
今度は、わたしのお母さんを乗っ取っていたその悪い人が
お母さんからわたしに乗り換えて、
わたしは悪い人に乗っ取られているーーー
そう、言いたいんですよね?」
由愛がクスクスと笑いながら言うー。
「--ーそうと決まったわけじゃないー
でもーー
”一つの可能性”があれば、それを調べるのが
警察の仕事だからー…」
治夫が言うと、
由愛はほほ笑んだー
「ーーーわたし、どこからどう見ても、
片桐 由愛ですよねぇ~?
かわいいかわいい、女子高生にしか
み・え・ま・せ・ん よねぇ~~?」
由愛が棘のある口調で言うー。
毎朝、交番の前を通る由愛はー
こんな子ではないー。
母親と父親の件で気が立っているのだろうかー。
それともやはりーーー
「---由愛ちゃんを疑ってるわけじゃないんだー
でも、由愛ちゃん、事件が起きる日の朝、言ってただろ?
今日、お母さんの様子がおかしいーって」
「---言いましたっけ~?」
由愛が再びとぼけるー。
「---心配なんだー
由愛ちゃんのことが」
治夫が真剣な表情で由愛を見つめると、
由愛は治夫を睨むようにして見つめてからー
ため息をついたー
「---お巡りさん、心配してくれてるのにー
わたしってばーー
ごめんなさい」
由愛がイスに座るー。
「---お母さんがお父さんを殺して逮捕されたー……
……冷静では、いられないんです」
由愛が自分の気持ちを吐き出すかのようにして呟くー
「---…俺のほうこそ、ごめんな。
こんなつらい時に」
治夫が言うと、
由愛は「いいですよ」と、少しだけ微笑んだー。
「-ーー俺たちは困ってる人の味方だからー。
由愛ちゃんも、何かあったら、すぐに知らせて」
治夫は、そう呟くと、
由愛の家から帰る準備をするー。
「---急に押しかけてごめんな」
治夫が言うと、
由愛は「いえ」と、頭を下げたー。
家の扉が閉まるー
治夫は、由愛の家の方を振り返って、
心配そうに呟いたー
”俺の考えすぎかー?”
あの日ー
由愛の母親・藤江が、黒崎 陣矢に”皮”のようにされてー
黒崎 陣矢らしき人物が藤江を”着た”ように見えたー
あの光景はいったいー?
・・・・・・・・・・・・・
「--ーーうっぜぇな!」
治夫が立ち去ったあとー
一人、家に残された由愛は、怒りの形相で
机を蹴り飛ばしたー
「---ヒーロー気取りしやがって!」
由愛は唾を吐き捨てると、イライラした様子でー
たまたま壁を這っていた蜘蛛を見つけるー
由愛は怒り狂った表情で、
素手で蜘蛛を叩き潰すとー
何度も何度も何度も何度も、狂ったように
壁に叩きつけられて潰れた蜘蛛を、さらに手で押しつぶしていくー
やがて、汚れた手をペロリと舐めると、由愛はほほ笑んだー。
「--”見られた”のは厄介だなー…」
由愛がそう呟くと、由愛の後頭部に亀裂が入りー
由愛の中から
凶悪犯罪者・黒崎 陣矢が姿を現したー
「ーー誰も信じやしねぇとは思うがーーー
早いうちにーー」
・・・・・・・・・・・・・・・
翌朝ー
元気のない様子の治夫を見て、
先輩刑事の総司が声をかけるー。
「あんま気負うなって。
由愛ちゃんのこととか、
凶悪犯の黒崎のこととか、色々気になるのは分かるぜ?
でもさ、まずは少し落ち着け」
ペットボトルのお茶を差し出す総司ー。
「すみません」
治夫は、申し訳なさそうにしながら、お茶を一口飲むー。
”黒崎陣矢らしき男が、由愛の母親を”着た”ように見えた光景ー”
”自分が過去に助けた女子高生・由愛の母親が事件を起こした件”
色々なことが絡んで、治夫は疲れ切っていたー。
そんな治夫を見つめながら、総司は笑うー。
「俺もさ、新米の頃は、色々空回りしちゃってさ…
”悪い奴は全員逮捕してやる!”だとか
”困ってる人は全員助けてみせる”だとか
思ってたけどさー。
俺たちに出来るのは
”俺たちの手の届く範囲内の人を助ける”
ことだけなんだー。
警察官だって、神様じゃないー
全員を救うことはできないー
全員を捕まえることはできないー
そうだろ?」
総司の言葉に、治夫は「ええ…」と頷くー
「--だから、あまり気負いすぎるな。
俺たちは、神様でも、悪の組織と戦うヒーローでもないんだ。
俺たちも、ちっぽけな人間のひとりー。
だからー
まずは、俺たちに出来ることをしよう。 な?」
総司は、そう言うと笑ったー。
総司は治夫のように、まだ新米刑事だったころに
”強すぎる正義感が原因”で、ある事件の”罠”にはまり、
結果的に先輩刑事を死なせてしまった過去を持つー。
その話は、治夫も聞いたことがあるー。
今でこそ、明るく、時折やる気無さそうな振る舞いも
見せる総司だがー、
彼は、彼なりに、自分の過去から学び、
”手の届く範囲”の人々を精一杯守ろうとしているー
「--ありがとうございます」
治夫は少しだけ落ち着いた気持ちになって、お礼を言うー。
「--はは、いっつもお前を揶揄ってばかりのダメな先輩だけどなー
たまにはいいこと言うだろ?」
総司は、そう呟きながら笑ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー
帰路を歩く治夫ー。
俺たちは、神様でも、悪の組織と戦うヒーローでもないんだ。
俺たちも、ちっぽけな人間のひとりー。
だからー
まずは、俺たちに出来ることをしよう。 な?
先輩刑事・総司の言葉を思い出すー。
”人を着ぐるみのように着て乗っ取る凶悪犯”
そんなもの、いるわけがないー
見間違いだー。
治夫は、深呼吸するー。
「--自分に出来ることー。」
交番勤務の治夫にとって、それは地域の安全を守ることだー。
凶悪犯の黒崎 陣矢を追うことじゃないしー
由愛の母親が起こした事件の件は、交番の刑事たちが
どうこうする問題じゃないー。
「--俺に出来ることは、由愛ちゃんから相談されたら、
相談に乗ることぐらいー…だな」
治夫はそう呟くと、
”もしも相談された時は、精一杯力になってあげなくちゃな”とほほ笑むー。
その時だったー
「---!」
背後からバイクのエンジン音が響くー
ライトに照らされた治夫がとっさに、横に身体を動かすとー
バイクが走りっていくー
”今ー 俺をひき殺そうとー!?”
治夫は咄嗟に身構えるー
バイクが再びUターンして、治夫に向かってくるー
フルフェイスヘルメットにラバースーツの人物が、
治夫をひき殺そうと襲い掛かって来るー
咄嗟に回避する治夫ー
バイクが近くの廃屋に突っ込むー。
バイクに乗っていた人物が、鉄パイプを手に、
治夫に襲い掛かって来るー
「--なんだお前は!とまれ!」
治夫が叫ぶー
治夫が「俺は警察だぞ!」と叫ぶー
しかし、それでもバイクを運転していた人物は
止まる気配がないー
治夫は慌てて、鉄パイプによる攻撃をかわすー。
鉄パイプを掴み、それを投げ飛ばすー。
その際に、相手の手に鉄パイプが擦れるようにして、当たりー
バイクを運転していた人物が左手を抑えるー。
ヘルメットにラバースーツ…
素顔も素肌も一切見えない状態のその人物と
つかみ合いになるー
その人物が、治夫を殴りつけようとするー。
治夫はその人物の手を掴むー
左手からは、軽く出血しているのが分かるー。
そしてー
治夫は、格闘技でその人物を投げ飛ばしたー
「--!?」
治夫が”何か”に気づくー。
投げ飛ばされたその人物は、慌てた様子で
そのまま走り去っていきー
”夜の闇”に消えたー。
「----…今のは…”女”…?」
突然襲われたため、気づくのが遅れたが
フルフェイスヘルメットにラバースーツの人物はー
女のようだったー。
投げ飛ばした時に、胸に手が触れたー。
「---…」
治夫は、すぐに警察に連絡して応援を呼んだー
・・・・・・・・・・・・・
「大丈夫だった?」
同居中の彼女・亜香里が心配そうに呟くー
「--まぁ…なんとか」
治夫は不安そうにしている亜香里を見つめると笑うー
「--大丈夫大丈夫。亜香里には絶対に迷惑を掛けないし
俺なら絶対大丈夫」
亜香里に心配を掛けまいと、明るく振舞う治夫ー。
「----……わたしを置いて、死んだりしたら
許さないから」
亜香里が、頬を膨らませながら言うー。
「--わ、、わかってるよ!絶対死なない!約束する!」
治夫が亜香里の手を握ると、亜香里はにっこりとほほ笑んだー。
治夫は、机の上の写真を見つめるー。
”なぜ”自分は襲われたのだろうかー。
バイクは盗難車だったー。
自分を襲った女はーー
「---」
”由愛”の顔が浮かぶー
いや、さすがにそんなはずはないー
たまたまだー。
治夫は、机に飾られている妹・聡美(さとみ)と一緒に写った
写真を見つめながらー
”あ~、そういえば聡美、そろそろ来る頃だなぁ…”と、
苦笑いしたー
妹の聡美は、お兄ちゃん大好き!な感じの妹で、
実家を出た後も、定期的に遊びに来るのだー。
治夫と同居している彼女・亜香里を
勝手に”ライバル”と決めつけていて、
亜香里もよく苦笑いしているー
また、家が騒がしくなるー。
治夫はー
”まぁ…最近、俺も暗いことが多いし、
ちょうどいいかな?”と
心の中で妹のことを考えながら、微笑んだー。
・・・・・・・・・・・・・・
翌朝ー。
「---はい… はい…わかりました」
交番の裏で隠れるように電話していた同僚の奈々子が
戻って来るー
相変わらずの近寄りがたいオーラ。
奈々子は、幼少期に家族を目の前で全員殺された過去を持ちー、
それ以降、今のような感じになってしまったのだと、
噂で聞いているー。
警察官になったのも、”犯罪者への強い憎しみ”からであるー、と。
「---」
電話を終えた奈々子は、無表情で、パソコンに何かを打ち込むー。
先輩刑事の総司は、奥でお茶を飲みながら、
何か書類をまとめているー
それを横目に、治夫が交番の前で立っているとー
女子高生の由愛がいつものように登校するため、
交番の前を通るー
昨日の、総司との会話で、少し前向きになったー
”今、助けられる人を助けるー”
凶悪犯・黒崎 陣矢が、由愛の母親を皮にして、
今は由愛を乗っ取っているー
なんて、非現実的すぎることを考えても仕方がないー
交番勤務の治夫に出来ることはー
地域の安全をーー
「---!」
治夫は、表情を歪めたー
由愛は、左手をポケットに突っ込んでいたー
”不自然”にー。
治夫はーーー
昨日”女”に襲われた際に、その女の左手に傷をつけたことを思い出すー。
「--……由愛ちゃん!」
治夫が声を掛けると、由愛が振り返るー
「あ、おはようございますー」
由愛の笑顔はぎこちないー。
「--ちょっと、ごめん」
治夫は、由愛の左手を掴んで、ポケットから手を引き出したー
「---!!!」
由愛の左手にはーー
包帯が巻かれていたー
昨日ー
治夫を襲った女に傷つけた箇所と同じ個所ーー
治夫は、咄嗟に由愛の手を引っ張って
警察に引きずり込んだー。
「--ーーー」
治夫は険しい表情で、交番の中に連れて来た由愛の後頭部のあたりを
確認するー
「ちょっと!何なんですか!?」
由愛が怒りの形相で叫ぶー
先輩の総司と、女性刑事の奈々子も戸惑った様子だー。
「--いい加減にしろ!お前、黒崎 陣矢だろ??
俺は見たんだ!
由愛ちゃんの母親を着ぐるみのように着たお前を!」
治夫が机を叩いて叫ぶー
由愛は治夫を睨んでいるー。
「--由愛ちゃんの中にいるんだろ!?
おい、黒崎陣矢!!!!
おい!!!!」
治夫が怒りの形相で叫ぶー。
”自分が助けた女子高生が乗っ取られているかもしれない”という焦りー
そして、治夫の強い正義感が、治夫をそうさせていたー。
「---おい!やめろ!」
先輩刑事の総司が止めに入るー
治夫が理由を説明するー
左手の”傷”-
由愛が、昨日、自分を襲った可能性が高いー、と。
そして、その上で「由愛ちゃんを良く調べるべきです!」と叫ぶー
「--ふざけないで」
由愛が机を叩いたー
「--わたしが黒崎 陣矢って人だっていう証拠はあるの?
わたし、学校に遅れちゃうんですけど!」
手の傷は、昨日、料理をした際にできた傷だと説明する由愛ー。
攻撃的な口調の由愛ー。
由愛は、こんな子じゃないー
「--ーー俺は、、見たんだ!由愛ちゃんの母親をーーー
お前がーーー!」
治夫が叫ぶー
由愛は笑ったー
「--証拠を出せ…」
怒りの形相の由愛ー
”今にも暴言”を吐きそうなのを、必死に押えたのかー
「--って、、言ってるんですよ わ・か・り・ま・す・か?」
と、怒り爆発寸前の敬語で由愛は続けたー
治夫と由愛がにらみ合うー。
「--ご、ごめんなぁ…由愛ちゃん!」
先輩刑事の総司が、由愛と治夫を離して、
由愛を交番の外に向かわせるー。
「---不愉快なんだけど…
そいつ、ちゃんと、指導してください」
由愛は捨て台詞を残して、そのまま立ち去っていくー。
「--先輩!由愛ちゃんの中に!あいつが!
お願いします!先輩!」
総司に向かって叫ぶ治夫ー
だがー
「いい加減にしろ!」
と、先輩刑事の総司に怒鳴られてー
治夫は、そのまま悔しそうな表情を浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・
学校ーーーー
昼休みの時間帯ー
「あ~~~~うぜぇ」
由愛は隠し持っていた注射器で、呼び出した友達一人を”皮”にしていたー。
悲鳴を上げながら、皮になっていきー
ペラペラになる友達ー。
「---ま、いざとなったら”別の洋服”を着るまでの話さー」
由愛はそう呟いて、”皮”にした友達を無理やり鞄に押し込むと、
そのまま、教室に向かって歩き出したー。
④へ続く
第4話「銃声」
夜ー。
周囲は静まり返っているー。
静まり返った道を歩く、一人の女子高生ー。
片桐 由愛は、静かに舌打ちをしたー。
可愛らしい女子高生の由愛ー。
しかし、今の由愛の中には、邪悪な男ー
凶悪犯罪者の黒崎 陣矢が潜んでいるー。
「--あの警察官、邪魔くせぇな…」
由愛はボソッと呟きながら、自宅に向かって歩き続けるー。
交番勤務の警察官・治夫に、由愛の母親である藤江を
皮にして、乗っ取る場面を目撃されたことからー
治夫は、由愛のことを疑っているー。
「---」
そんな由愛を遠目から見つめながら、笑みを浮かべる男がいたー。
最近、この辺りでは、痴漢の目撃情報が何度か寄せられていたー
それが、この男ー、岩滝 和雄(いわたき かずお)ー。
彼はー
由愛を見つめながら、笑みを浮かべたー
「へへへ…おいしそうな女子高生を発見~」
ペロリと唇を舐めながら、痴漢男・和雄は、
前を歩く可愛らしい女子高生に向かって早歩きで歩き出したー。
・・・・・・・・・・・・・・
夜の公園のトイレー
「ーーーくくくくくくっ」
由愛が邪悪な笑みを浮かべているー。
女子トイレの中で、悲鳴を上げながら
土下座していたのはーー
痴漢男・岩滝 和雄だったー。
”由愛の中に凶悪犯罪者の黒崎陣矢がいる”
などと、夢にも思っていない和雄は、由愛を襲って
返り討ちに遭い、公園の女子トイレに引きずりこまれたのだー
「---ほらぁ…命乞いしろよ、おっさん」
由愛が笑みを浮かべながら、和雄に向かって呟くー
和雄が「すみません…!すみません…!」と笑みを浮かべるー
由愛は、現役の女子高生とは思えないような
悪魔の笑みを浮かべると、
和雄の頭を踏みつけて、トイレの床に押し付けたー。
「--可愛い女子高生が歩いてたから、襲いたくなっちゃったか?あ?」
由愛が言うと、和雄は半泣きで、ごめんなさい!ごめんなさい!と叫ぶー。
「-くくくくくく…
追い詰められた人間が命乞いする姿って、たまんねぇよなぁ」
可愛らしい声で叫ぶ由愛ー。
悲鳴を上げる和雄ー
”この女子高生は…この子はいったいなんなんだ!?”と
戸惑いながらも、和雄はひたすら命乞いをするー。
誰もやってこない夜の公園ー
由愛は、散々和雄をいたぶった末に、
最後には便器に和雄の顔面を突っ込んで、
何度も何度も、足で踏みつけ続けたー。
「-ひゃはははははははっ!!
ははははははっ!あははははははははっ!!!
死ね!!死ね!!!死ねええええええええええ!」
由愛とは思えないような狂った笑い声が響き渡るー
由愛を支配している黒崎陣矢はー
”命を奪うこと”に快感を感じる超・危険人物ー
「--はぁぁぁぁぁぁ…たまんねぇ」
由愛は笑みを浮かべると、動かなくなった和雄を放置して、
トイレの中で鞄から、昼間に皮にした別の女子生徒の皮を着こんで、
そのままトイレから外に出たー。
「へへへへへ…」
昼休みに皮にした由愛の友達、”舞子(まいこ)”という女子高生の皮を
着て、夜の街を歩く陣矢ー
”皮”を使い分ければー
誰にも、捕まらないー。
存分に、”快楽”を楽しむことが出来るー。
舞子は邪悪な笑みを浮かべながら、
由愛の家に向かって、歩き出すのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
「---はい、、はい…ええ…」
交番勤務の警察官・宮辺 奈々子が、
誰かと電話で話しているー
「はいーー。彼はそう言っていますー。
はいーーはい。わかりましたー。
目黒警視正ー」
奈々子がそう言って電話を切ると、
パトロールを終えた治夫が戻って来たー。
「-あ、、戻りました」
治夫は、気まずそうに、机に座るー。
「----」
相変わらず、感情を感じさせない奈々子ー。
「--今の電話…」
治夫は”目黒警視正”という言葉が気になって、
奈々子に確認したー
目黒警視正は、最近、凶悪犯罪者・黒崎陣矢を追うために、
対策チームを結成したという話だー。
交番勤務の自分たちからすれば、雲の上のような存在だが、
何故、その目黒警視正と奈々子が電話で話をしていたのだろうかー。
「---…それを聞いて、どうするの?」
奈々子の”聞くな”オーラに、治夫は
「いえ、すみません」と頭を下げたー。
「----」
治夫はパソコンで、事件を確認するー
昨夜は、近くの公園で、痴漢の常習者であった男、
黒滝 和雄が無残な遺体で発見されたー。
そして、由愛の通う高校の生徒が、また一人、行方不明になったー。
これで、二人目だー。
「---」
治夫は、”やっぱり由愛ちゃんが…”と、困惑の表情を隠せないー
由愛の中に、”黒崎陣矢”が隠れているのだとしたら、
大変なことになるー。
だがー
先輩の総司からは”いい加減にしろ”と叱責されてしまったー。
もちろん、先輩の言い分は分かるー。
けれどー。
交番での仕事を終えて、帰路につく治夫ー
夜道を歩く治夫は、色々なことを考えていたー。
”由愛ちゃんの様子が、どう考えてもおかしいー”
以前、絡まれていた由愛を助けた時から、
毎日のように、交番前で、由愛とあいさつを交わしていたー。
その由愛の様子が、明らかにおかしいー
両親が事件沙汰になったからー?
いや、やはり、それだけではーー
「---これ以上、関わらないほうがいいー」
ーー!?
治夫が驚いて振り返ると、
背後に、立派なスーツを着た中年の男がいたー。
すらっとした体形の、優しそうな顔の男ー。
だが、その目は鋭く、底知れぬ”何か”を感じさせるー。
「---それが、あなたのためですー」
男が言うー。
車道を車が行きかう中、治夫は「あなたは…」と、
呟いてから、すぐに身なりを整えて、緊張した様子で
その男を見たー
何故なら、夜道で治夫に声をかけてきたのはー
”目黒警視正”だったのだからー。
”生”で目黒警視正と会うのは、これが始めてだったー。
「---どういうことですか?」
治夫が緊張した様子で尋ねるー。
すると、目黒警視正は笑みを浮かべたー。
「--黒崎 陣矢は、交番勤務のあなたが
どうこうできる相手じゃないー
そう、申し上げているのです」
目黒警視正の言葉は、丁寧だったー
遥か年下であるはずの治夫に対してもー。
「---…!?
く、、黒崎陣矢について、何かご存じなのですか!?」
治夫が叫ぶー
”皮”のことを目黒警視正に伝えようとするー
しかし、目黒警視正は、その言葉を遮ったー。
「--黒崎陣矢のことは、忘れなさい。
それが、あなたと、あなたの周りの人間を
守ることに繋がりますー。」
そう言い放つと、目黒警視正は、
さらに付け足したー
「--まだ、間に合います。
”深淵”を覗き込んではならないー」
目黒警視正は、鋭い目つきでそう告げると、
そのまま立ち去っていくー
「--ちょ!待ってください!
それはどういうーーー」
目黒警視正を追う治夫ー
だがー
曲がり角を曲がった時には、もう目黒警視正は姿を消していたー
「----……どういう…意味なんだ…」
治夫は、戸惑いながら、そう口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・
帰宅した治夫は、
目黒警視正の言葉を考えていたー。
同居している彼女の亜香里は、
またまた元気のない治夫のことを心配そうに見つめているー
「も~~、そんな顔ばかりしてると、
顔が難しい顔になっちゃうよ~~?」
治夫の顔をぷにぷにしながら笑う亜香里ー。
「--ご、ごめん亜香里」
治夫は苦笑いしながらそう返事をするー。
「あ、そうそう、さっき聡美ちゃんから連絡があってー」
亜香里が治夫の妹・聡美から”来週”遊びに行くという
連絡があったことを告げるー。
妹の聡美は女子大生ー。
少し休みが続くために、遊びに来るのだというー。
”お兄ちゃん大好き”な聡美ー。
亜香里をライバル視していて、いつも一方的に火花を
散らせているー。
「はははー、また、亜香里に火花バチバチかな?」
治夫が少しだけ冗談を口にすると、
亜香里は「聡美ちゃんに認めてもらえるように頑張る!」と、
笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
治夫が交番に向かう途中ー。
女子高生とすれ違ったー。
”----これ以上”
ーー!?
その女子高生がすれ違いざまに呟くー
”これ以上ー
”俺”を詮索するなー
これ以上、俺を詮索すればー
お前は後悔することになるー”
「--!?」
治夫が振り返ると、
その女子高生は、もう、治夫から離れて、ゆっくりと立ち去ろうとしていたー
「--おい!どういう意味だー!」
治夫が叫ぶー。
だがー女子高生は返事をしないー
その女子高生はー
数日前、由愛に皮にされてしまい、行方不明になっている、舞子だったー
治夫は追おうとするが、信号が赤になり、舞子を
見失ってしまうー。
「くそっ!」
治夫が、怒りの形相で叫ぶー。
治夫から離れた舞子は笑みを浮かべながらー
後頭部をぱっくりと開くー
中から出て来たのは黒崎陣矢ー。
陣矢は笑みを浮かべながら、舞子の皮を鞄に詰め込むと、
鞄から由愛の皮を取り出して、由愛を着こみ、
高校へと向かうー
「--くくく…”警告”はしたぜー
刑事さんよ」
陣矢は、まるで”服”を着替えるかのように、
舞子から由愛の皮に着替えて、高校に向かうのだったー
・・・・・・・・・・・・・
交番に到着した治夫は、また、考え込んでいたー。
「--おい」
先輩刑事の総司がそんな治夫を見て、声を掛けるー。
目黒警視正から”忠告”された件ー
そして、さっきの件ー
黒崎 陣矢が”他人を着こむ”ことに、治夫は
ほぼ確証を持っていたー。
だがーー
「--おい!!!」
総司が、治夫の肩を叩いたー
「あ、先輩…すみません」
治夫が総司の方を見ると、
総司は「いい加減にしろ」と、治夫を叱責するー。
治夫は、「申し訳ありません」と頭を下げるー。
そんな治夫を見て、総司は考え込むー
”あまりにも非現実的な妄想をして、
暴走しているー”
治夫のことをそんな風に思いながらも、
同時に、治夫が誰よりも熱心なことを知っている総司は、
”治夫のやつがここまで悩むってことは…”と、
考え始めていたー。
そして、口を開くー。
「---……今週末、一緒に飲みにいかないか?」
「え?」
治夫が総司の方を見ると、総司は穏やかに笑っていたー
「--お前の話、ちゃんと聞いてやるー。
何を見たのか、何が起きてるのか、お前はどう思ってるのかー
ちゃんと、全部聞いてやるー。
だから、もう、そんな顔をするな」
総司が、治夫の肩を優しく叩くと、
治夫は総司の方を見つめながら、
「でも……」と、不安そうな表情を浮かべるー
今までもそうだったしー
あまりにも非現実的すぎる話で、先輩の総司や、奈々子に
信じてもらえるとは思えないー
「---はは、もちろん、信じるか信じないかは別問題さ。
でもなー
後輩が悩んでるときは、話をしっかり聞くのが、
先輩の役割だからなー。
もう一度、お前の話を、しっかり聞いてやる。
だから、もう、そんな顔、するな。な?」
総司の言葉に、治夫は「ありがとうございます」と、
少しだけ、気持ちが楽になった、という様子で
頭を下げたー。
総司は、よく治夫を揶揄ったりすることもあるが、
いざという時は、頼れる先輩だー。
こういう先輩が、身近にいてくれてよかったー、と
治夫はこれまでにも、何度も思ったー。
「--先輩、いつも…本当にありがとうございます」
治夫が今一度頭を下げると、
総司は「俺に惚れるなよ?」と冗談を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
今日は非番の治夫は、由愛の高校の様子を、
高校付近のカフェから確認していたー
既に2名の生徒が行方不明になっているー。
やはり、黒崎陣矢は”由愛”の中にいるー。
治夫は、そう考えていたー。
”由愛ちゃん…今、助けるからな…”
治夫は、そう思いながら、高校の様子を、
カフェから見つめていたー。
「-----」
由愛が登校してくるー。
「----チッ」
由愛は、治夫が見張っていることに気づくー。
そして、そのまま高校の中に入っていったー
・・・・・・・・・・・・・・
夕方ー
「--お疲れ様です」
機械のように感情を感じさせない奈々子が、
パトロールから戻った総司に声を掛けるー。
総司が「大変だったよ~」と、
パトロール中に起きた出来事を笑いながら話しているー。
「--あの~~」
「ん?」
総司と奈々子が、交番の入口に立つ女子高生の方を見ると、
そこには由愛が立っていたー
「--お、由愛ちゃん」
総司が、立ち上がり、由愛の方を見つめるー
「今日は、長瀬ならいないぞ?」
治夫が非番であることを告げる総司ー。
由愛は笑いながらー
「この前、悪態をついちゃったので、お詫びを
しようと思ってー」と、呟くー
「---ははは、いいさ
長瀬のやつも、由愛ちゃんを急に交番に引っ張り込んで、
由愛ちゃんに迷惑かけたんだし、
由愛ちゃんが怒るのも当然さ」
総司が笑いながら言うー。
奈々子は、交番に掛かって来た電話に出て、通報者の話を聞きながら
二人の様子を見つめているー。
その時だったー
由愛の顔から突然笑顔が消えたー。
「--!?」
由愛が鞄から、何かを取り出したー
総司が、それに気づくと同時に、銃声が響き渡ったー
身体ごと吹き飛ばされて壁に叩きつけられる総司ー。
由愛が鞄から銃を取り出して、総司を撃ったのだー。
「--え」
電話中だった奈々子が、咄嗟に受話器を置いて、
銃を抜こうとするー
しかしー
由愛は笑いながら振り返ってー
奈々子を撃ったー。
その場に崩れ落ちる奈々子ー
由愛が近づいてくるー。
「--ほらぁ…命乞い…♡ 命乞いしなよぉ♡」
由愛が興奮した様子で、血を流している奈々子を見つめるー
「--あ、、、あなた…や、、、やっぱり…」
奈々子が苦しそうに呟くー
「--い・の・ち・ご・い♡」
由愛が冷たい笑みを浮かべながら、倒れている奈々子に
銃を向けるー
奈々子は苦しそうに、由愛の方を睨むー
由愛は「チッ」と舌打ちすると、交番内に銃声が響き渡ったー。
奈々子が動かなくなるー。
「うああああああああああああっ!」
背後から、治夫の先輩・総司が、由愛の頭部をイスで殴りつけたー
だがー
振り返った由愛は、笑っていたー。
「---恨むなら、俺にしつこく付きまとった、あの刑事を
恨むんだなー」
そう呟く由愛の後頭部がピキッと割れたー。
「---お、、、お、、、おまえ…!」
先程、撃たれた腹部から、血を流しながら総司が青ざめるー。
割れた由愛の顔から出て来たのはー
凶悪犯罪者・黒崎陣矢の顔ー
「--ーーーあばよ」
陣矢が不気味な笑みを浮かべるー。
銃声が響きー、
頭を撃ち抜かれた総司が、その場に崩れ落ちるー。
「---くくくくく…
ひひひひひ、ははははははははははっ♡」
由愛は血をペロリと舐めると、騒ぎ始めた周囲を余所に、
堂々と歩き始めたー。
悲鳴を上げる通行人たちー。
すぐに死角に入り、別の皮を着こんだ黒崎陣矢はー
そのまま笑みを浮かべながら、立ち去って行ったー
・・・・・・・・・・・・・
「---(由愛ちゃん、出てこないな)」
高校から由愛が出てこないことを不審に思う治夫ー。
由愛は、裏門から既に高校を出ていたー
その時だったー。
治夫のスマホが鳴ったー
”---お前のせいで、犠牲者が出た”
その文章を見て、治夫は青ざめたー。
すぐに、彼女の亜香里に連絡を入れるー。
だが、亜香里は無事ー。
と、なるとーーー
勤務先の交番に駆け付けた治夫はーーー
その場で膝をついたーー
先輩の塚田総司と、宮辺奈々子の遺体が、
ちょうど、交番から運び出される光景を前にーー
治夫は、悔しそうに涙を流すことしかできなかったー
⑤へ続く
第5話「怒り」
無力ー。
自分は、無力だー。
治夫は、そう痛感せざるを得なかったー。
騒然とする交番の周囲ー。
治夫は一人、愕然としたまま、涙を流すことしかできなかったー。
他に何も考えることが出来ないー
騒がしい周囲の声も、彼の耳には響かないー。
運び出される”2人”の遺体ー
頼れる先輩だった塚田総司と、
いつも無表情な女性刑事、宮辺奈々子の遺体だー。
二人は、あっという間に殺されてしまったー。
ごく普通の女子高生だった、片桐 由愛にー。
いいやー
その由愛の中に潜み、由愛を支配している
凶悪犯罪者・黒崎陣矢にー。
・・・・・・・・・・・・・・
治夫は、気づいたときには、走り出していたー。
総司と奈々子を殺した黒崎陣矢は、まだ近くにいるー。
そう思ったからだー。
”許せない”
”許せない”
”俺はお前を許さない”
治夫は、薄暗くなった路地を走るー。
「----!」
怪しげな女が、治夫の方を見て、笑ったー
「待て!」
治夫は怒りの形相で走るー。
黒崎陣矢ー
お前を許さないー。
建設中の工事現場にやって来るとー
女は立ち止まって振り返ったー。
辺りは暗くなりー
既に夜になっているー。
「---くくくくく…」
女は、数日前から行方不明になっている由愛の同級生・舞子だったー。
由愛の身体で、皮にした同級生の一人ー。
「---動くな!!塚田さんを…!宮辺さんをよくも!」
治夫が叫ぶと、舞子はニヤッと笑みを浮かべたー
そしてー
ぱっくりと後頭部が割れるー
舞子が笑ったままーー
その場に、着ぐるみのようになって、崩れ落ちるー
中から出て来たのは、由愛ー。
黒崎陣矢は”複数の皮”を重ね着することも出来るー。
「---くくくく…お前の推理は大正解~」
由愛が本性を隠そうともせず、狂気的な笑みを浮かべるー
治夫は銃を構えたままー。
実際に銃なんて撃ったことはないー。
でもーー
「--俺はさぁ…人間を”皮”にすることが出来るんだ」
由愛は笑いながら、注射器を手に持ってクルリと回すー。
「--動くな。それを床に置け!」
治夫が足元をガクガクさせながら叫ぶー。
それなりの事件現場は見て来たー
だがー
目の前にいるのは凶悪犯罪者ー。
しかも、他人を皮にして着込む、悪魔の力を持った、
凶悪犯罪者なのだー。
「ーーー動くな? くく 撃てよ」
由愛が可愛い声で挑発的な言葉を口にするー
「-撃てば~~わたし、死んじゃうよ~~??
それでも、撃てるのかなぁ~~~~?」
由愛の邪悪な笑みー。
治夫は銃を握る手を震わせるー
「--この女の母親が俺に皮にされる場面、お前、見ただろ?」
由愛の声で、黒崎陣矢がそう言い放つー。
由愛は笑いながら、馬鹿にするように、
治夫の周りを歩くー。
建設現場の、高い部分にいるからかー
由愛のスカートはふわふわと風で揺れるー。
「--でも、この女の母親は今は、元に戻って
警察署の中だ。
この意味がわかるか?」
由愛は、自分の胸をつんつんとつつきながら笑ったー。
「”皮”にされた人間も、生きているー。
”皮”にされた人間を元に戻すことも出来るんだよ」
由愛が、もう1本の注射器を手に、ペロリと舌を出して、
挑発的に笑うー。
「----う・て・る・の・かぁ~~~~~????
お前が俺を撃てば!
お前は人殺しだ!
この女子高生を、お前は殺すことになるんだ!」
由愛の叫び声に、治夫は震えるー。
「くそっ…くそっ…くっそぉぉぉぉぉ」
治夫が怒りの形相で叫ぶー。
「-ーほらぁ、わたしを撃ちたいなら撃てば~~?
わたし、身体から血を流して死んじゃうけどねぇえええ~~~?」
由愛の挑発的な口調に、治夫は震えながら
由愛の方を見つめたー
先輩二人を殺された怒りと悔しさー
あらゆる感情が噴き出てー
爆発しそうになるー。
「----そうだ」
由愛は、さっき脱いだ”舞子”の皮を手にするー。
由愛に皮にされてしまった同級生だー。
「---な、、なにを…!」
治夫が叫ぶと、由愛は突然煙草を取り出したー。
由愛の皮を着たまま、煙草を吸う黒崎陣矢ー。
由愛が煙草を吸っているー
怒りに震える治夫ー
そしてーー
「---!!????」
治夫は、目を見開いたー
由愛が煙草の火を、舞子の皮に押し付けたのだー。
燃え上がる舞子の皮ー。
「--お、、おい!お前…や、、やめろ!おい!」
治夫が叫ぶー
由愛が、同級生・舞子の皮に火をつけたー。
皮になったままの舞子は、何もしゃべらないままー
燃えていくー
「--へへっ、見てろよ 刑事さんよぉ」
由愛がそう言うと、注射器を手にーー
それを舞子に押し付けたーーー。
”元に戻す”
その力がある注射器の方を注入された舞子はー
みるみる人間の身体に戻るー
しかしーー
「--えっ…ひ、、あ、、、きゃあああああああっ!」
炎に包まれている舞子の身体ー。
「--あっははははははははは!
使い終わった皮を燃やすの、超たのしい!!」
由愛が興奮した様子で叫ぶー
”サイコ”な殺人鬼ー
それが黒崎陣矢ー。
陣矢は、命を奪うことを楽しんでいるー
由愛の可愛らしい顔を極限まで歪めて、狂ったように笑うー。
何も分からない舞子が、由愛を見て「由愛ちゃん!たすけて!」と
悲鳴を上げるー。
由愛は笑いながら舞子に近づいていくと、
「燃えてる舞子ちゃん、さいっこうにゾクゾクする♡」と、
歪んだ言葉を口にしたーーー
治夫が舞子の方に向かって走り出すー
舞子を助けるためにー
由愛は笑いながら舞子から離れるとー
笑いながら、夜空を背に、笑みを浮かべたー。
治夫が舞子の炎を消そうとするー。
だがーー
”皮”にされていた状況から火をつけられたからか、
舞子は、内部から炎を上げていてーー
どうすることもできなかったー
泣きじゃくる舞子を助けることもできずー
舞子は動かなくなってしまうー。
無言で膝を折る治夫ー
「--あっはははははははは♡!!!
人が死ぬって、ゾクゾクするよなぁ!」
由愛が大笑いで叫ぶー。
塚田先輩をー
宮辺さんをー
そして、この女子高生をーー
「--うあああああああああああああっ!」
治夫が怒りの形相で、銃を由愛に向けてー
それを発砲したー。
「---!」
由愛の肩に銃弾が直撃しーー
端に立っていた由愛の身体が建設現場から転落するー
「--!!」
まさか転落してしまうとは思っていなかった治夫が慌てて
「由愛ちゃん!」と叫びながら、由愛が落下したほうに向かって走るー
だがーーー
「----!!!」
由愛が落下した地点に、トラックが既に待ち構えていてーー
由愛はその荷台に落下ー
落下した先にはクッションが用意されていて、由愛は無事だったー。
トラックがすぐに走り出しー
建設現場の敷地内から飛び出していくー
由愛は中指を突き立てながら、治夫を馬鹿にした表情で、
そのままトラックと共に走り去っていったー。
「くそっ…くそっ…」
治夫は歯ぎしりをしながら、夜になった空を見つめるー。
「くっそおおおおおおおおおおおおお!!」
あまりの怒りに、叫ばずにはいられなかったー。
コツー
コツー
革靴の音がして、治夫がハッとして振り返るとー
そこにはー
目黒警視正がいたー。
「--め、、目黒…警視正」
治夫が驚いて、その名前を呟くと、
目黒警視正は穏やかな笑みを浮かべたー。
「--あなたに忠告したはずですー。
深淵を覗き込んではならない、と。」
淡々と言う目黒警視正ー。
「---……塚田さんと、、宮辺さんが…」
治夫が悔しそうに言うと、目黒警視正は、膝を折った治夫を
見下すようにして見つめたー。
「--”力”のない、あなたのような”若造”がー、
黒崎陣矢を一人で追い詰めようとした結果が、これです」
遥か上の階級であるはずなのに、相変わらずの敬語ー。
だが、その言葉は厳しいー。
「--…で、、ですが…黒崎陣矢が、由愛ちゃんをーー
片桐由愛ちゃんを皮にしていたことに気づいていたのは
私だけでした…!
だから、、だから!」
治夫が叫ぶと、目黒警視正は首を振ったー
「思いあがるのもいい加減になさい。
黒崎陣矢が”他人を皮にする力”を持っていることは
”我々”はとうに知っていましたー。
片桐由愛の母親を皮にして、彼が今、
片桐由愛の中に潜んでいるであろうことも、です」
目黒警視正の言葉に、治夫は、警視正を見つめるー
「--け、警視正もご存じだったと…?
じゃ、、じゃあどうして、由愛ちゃんを野放しにしていたのですか!」
治夫が正義感から叫ぶー。
「--”深淵のさらにその先に潜むもの”」
目黒警視正は、そう呟いたー。
「-我々は”それ”を探していますー
他人を服のように着て、”脱皮”するかのように脱ぎ捨てる
凶悪犯、黒崎陣矢ー
我々はそれを、”モルティング”と呼んでいますー。
単純に、脱皮を意味する言葉です。
ですが、モルティングを捕まえるだけでは、解決には至りません。
彼のバックには”本当の深淵”が潜んでいるー。
我々は、片桐由愛を泳がせて、その”黒幕”を探るつもりでした。
黒崎陣矢に”他人を皮にする力を与えた”黒幕をー。
ですが、あなたが青臭い正義感で、邪魔をしたー。
そういうことです」
目黒警視正の言葉に、治夫は納得いかない、という表情で叫ぶー
「じ、、じゃあ、警視正は、
黒崎陣矢の背後にいるであろう”黒幕”をあぶりだすために、
由愛ちゃんを助けようともせず、野放しにしていたっていうんですか !?
由愛ちゃんは今も、黒崎陣矢に乗っ取られて
好き放題されているのに!!」
治夫が叫ぶと、
目黒警視正は「そうなります」と、即答したー。
「-ーー追い詰められれば、黒崎陣矢は躊躇なく、
片桐由愛を殺すー。
そこの、女子高生のように、です」
目黒警視正は、燃え尽きた舞子を指さすー。
「”助けられる可能性の低い女子高生”を助けようとするよりも、
片桐由愛を乗っ取った黒崎陣矢を放置して泳がせ、
黒幕と接触するのを待つほうが”上策”と、
考えたー、
それだけのことです」
あくまでも効率主義の目黒警視正の言葉に
治夫は不満を抱きながら、目黒警視正の方を見つめたー。
「---あなたの先輩だった女性刑事ー
宮辺奈々子も、”我々”に協力する一人でしたー。
私と、彼女は、電話で度々、情報交換をしていました」
目黒警視正の言葉に、治夫は、奈々子が交番で目黒警視正と
電話していた光景を思い出すー。
「--ーーですが、あなたが青臭い正義感のせいで、
宮辺巡査は、殺されてしまった」
目黒警視正が、女性の先輩刑事・宮辺奈々子が死んだのは
治夫のせいだと言わんばかりの言葉を投げかけるー。
「--……私の…俺のせいだって言うんですか!」
治夫が悔しそうな表情で、遥か上の階級である目黒警視正に
向かって、感情的になって叫ぶー。
「---違いますか?
あなたが深淵に踏み込もうとしなければ、宮辺巡査も、
あなたの先輩刑事も死なずに済んだー」
目黒警視正は、それだけ言うと、治夫の方を見て続けたー。
「--あなたの青臭い正義感は、我々にとって”邪魔”ですー。
大した力もないのに、余計なことに首を突っ込むのは
やめていただきたい
黒崎陣矢のことは、忘れなさい。」
そう言い放つと、そのまま立ち去って行こうとする
目黒警視正ー。
「--待ってください」
治夫が叫んだー。
治夫に背を向けていた目黒警視正は、
治夫に見えないように、少しだけ微笑んだー
”狙い通り”で、あるとー。
「--ー俺にも…俺にも、黒崎陣矢を追うのを手伝わせてください!
さっき”我々”と言いましたよね?
目黒警視正は、黒崎陣矢を追っているー。
なら、俺もその仲間に加えてください」
治夫がそう叫ぶー。
黒崎陣矢を許さないー
その一心でー。
「---ええ。私は今、極秘に結成されたチームを
率いて”皮”の事件を追っていますー。
”皮”に関する事件は、世間には公表できないー。
秘密裏に、闇に葬り去れー、と。上からの指示です」
目黒警視正の言葉に、治夫は、まっすぐと目黒警視正を見つめたー。
「----俺を、そのチームに加えてくださいー」
治夫が、頭を下げると目黒警視正は低い声で呟いたー
「一度”深淵”に踏み込めば、もう逃れることはできないー。
その”覚悟”があなたにありますか?」
目黒警視正の言葉に、治夫は戸惑うー。
「------」
彼女の亜香里や、妹の聡美を危険にさらすことになってしまうー。
そう、考えたからだー。
「--ーーーー」
目黒警視正が、治夫の迷いを感じて、そのまま立ち去ろうとするー
「--待ってくれ!」
治夫は敬語も忘れて叫んだー。
「--俺、、俺、やりますー。
亜香里も、妹も、みんな守ってーー
そしてーーあいつを追い詰めて見せますー」
治夫の決意に、目黒警視正は、少しだけバカにするようにして笑ったー
「---青臭い正義感ー…」
とー。
だがー
その直後、今度は穏やかに笑ったー
「--ですが、あなたのような若き力が、我々にも必要なのかも
しれませんね」
目黒警視正はそう呟くと、都内のとあるホテルの住所を
治夫に手渡したー
「-”我々”の対策本部ですー。
もしも、あなたが我々と共に、黒崎陣矢を追いたいのであれば、
明日の13時に、ここに来なさいー。
あなたがそれまでに来なかった場合はー
この話は、忘れなさいー」
目黒警視正は、それだけ言うと、建設現場の夜の闇に消えていくー。
「--”深淵”は、あなたを歓迎しますよー」
と、言葉を残してー
「----」
治夫は、ぎゅっと、受け取った紙を握りしめるー。
「--塚田さん、宮辺さんー」
殺された二人の先輩のことを思い出すー
「-由愛ちゃんー」
かつて自分が助けた女子高生・由愛が
皮にされてしまっている現実を思い出すー。
「-------」
治夫は、焼き尽くされた、由愛の同級生・舞子の残骸を
寂しそうに見つめながら、そのまま歩き出したー
・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
「--亜香里…俺…」
治夫が昼食を食べ終えると、亜香里の方を見つめたー
そしてー
”今日から、危険な捜査に参加する”ことを
亜香里に打ち明けたー。
亜香里の身にも危険が及ぶ可能性があることを
申し訳なさそうに告げるー。
「--いいよ」
亜香里はにっこりとほほ笑んだー。
「--え?」
治夫は、あっさりと亜香里が、前向きな返事をしたことに驚くー。
「--そういうこともあるって覚悟して、
警察官を目指していた治夫を好きになったんだからー。
だから、いいの。
わたしだって、わたしの身を守ることぐらいはできるし-
それにー
何かあったら、治夫が助けてくれるって信じてるからー」
亜香里のその言葉に、治夫は「亜香里…」と呟きながら
手を握りしめたー。
「--絶対守るって約束するからー」
治夫の言葉に、亜香里は「うん!」と嬉しそうに微笑んだー。
”あーー来週遊びに来るって言ってる聡美にも来ないように
言っておこうかな”
治夫はそんな風に思ったが、すぐに苦笑いしながら首を振ったー
聡美が、”危険だから来るな”と伝えて”うん”というような妹で
ないことを、治夫はよく知っているー。
”亜香里も聡美も守りつつー
目黒警視正たちと共に、黒崎陣矢を、追うー”
治夫はそう決意して、亜香里の方を見て頷いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
「--あっ…う…」
由愛が”元”に戻されていたー。
黒崎陣矢は、由愛の皮を脱ぎー
元に戻す注射器で、由愛を人間の姿に戻して、
笑みを浮かべていたー。
「--同級生ふたり、警察官ふたりー
痴漢ーー
いっぱい殺しちゃった感想は?」
黒崎陣矢が笑いながら、正気を取り戻した由愛の方を見るー
由愛は混乱した様子で、泣きじゃくっているー。
「--お前は、俺の”お気に入り”の洋服だぁ
もっともっと、お前の身体で、人殺ししてやるぜ ククク」
陣矢の言葉に、由愛はその場で泣き崩れることしかできないー。
「-あ、そうそう、お前の家にいたハムスター…
お前のその綺麗な手で握りつぶしてやったぜ!
ひはははははは!」
陣矢が笑うー
「うっ…う、、、いやああああああああ!」
由愛が泣き叫びながら陣矢に向かってくるー
陣矢は、由愛を掴むと、
「これからもよろしくな、俺の”洋服”」と、
笑みを浮かべながら、再び由愛の首筋に”皮にする注射器”を
打ち込んだー。
悲鳴をあげながら皮になっていく由愛ー。
「---相変わらず、悪趣味だな」
背後から声がかかるー。
由愛の皮を着て、再び由愛の姿になった陣矢は笑うー。
「--へへへ 最高の誉め言葉だぜ」
そう呟いた由愛はペロリと唇を舐めて、邪悪な笑みを浮かべたー。
⑥へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・
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FANBOXでの長編第4作目が、このモルティングデス!
私の中では一番、思い描いた通りに描けているので、
毎回私自身も執筆が楽しみな作品ですネ~!
現在は終盤を執筆している最中デス!
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