彼女から、
「わたしは二重人格なの」と打ち明けられた彼氏ー。
そして、彼女の中に潜む”別人格”と会話した
彼氏の邦明は…!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーねぇ…アキト…」
佑香が言うー。
”ん…?”
夜ー
自分の部屋で、佑香は”明人”と会話をしていたー
佑香を乗っ取った明人が、彼氏である邦明に
伝えた内容は、佑香は知らないー
佑香自身は、”明人”のことを
実際に存在していた人間が佑香に憑依しているもの、だとは
夢にも思っておらず、
明人のことを”アキト”という自分の中に生まれた別人格だと思っているー
「さっき、どうして、わたしが邦明と話している途中に
急に表に出てきたの?」
佑香が少し不満そうに言うー。
佑香と”アキト”の間では約束がありー、
アキトは、緊急事態以外、佑香の身体を
乗っ取ったりしないー、と約束していたー。
”どうしても、彼氏さんと話したいことがあってさ”
明人が言うー。
佑香には明人が”表”に出ている間の記憶は
基本的にはないー
多重人格と呼ばれる症状でも、
人格により、他人格の行動や存在を把握しているもの、
していないものに分かれているが、
佑香のケースの場合は、実際には二重人格と呼ばれる症状ではなく、
「憑依」であるため、
”明人”の方が、圧倒的優位な存在に立っているー。
そのためー
佑香が乗っ取られている最中は
佑香は記憶はないものの、
明人側は、佑香が表に出ている状態でも
意識ははっきりとしているー。
だが、佑香には
”普段は寝てるから”と説明していて、
佑香を必要以上に怖がらせないようにもしていたー。
「ーーねぇ」
佑香が呟くー。
”ん?”
明人が返事をするー。
こうして”表に出ている側”と”奥にいる側”が会話できるのはー
佑香が表に出ていて、佑香に憑依している明人が奥にいるときだけー。
佑香が奥にいるときは、完全に意識を失っているためにー
明人が佑香を”完全に支配”しようと思えばいつでもできるのだー。
だがー
明人の”佑香を傷つけたくない”という想いやー
”佑香が好き”という想いに嘘偽りはなくー
紛れもない、本心だったー。
「ーーアキト、いなくなっちゃったら、イヤだからねー」
本能的に悟ったのだろうかー
邦明に対して、アキトが”俺は消えたい”と語ったことを
まるで見透かしたかのように、佑香はそう呟いたー
”ーーー俺は、消えないー”
明人がそう呟くー。
「ーーうんー」
佑香は寂し気にそう呟くと、
明人は”あ、今度の土曜日、彼氏さんと一緒に行きたいところが
あるんだけど…俺が表に出てていいかな?”
と、申し訳なさそうに聞くー。
”土曜日”は佑香に予定がないことは、
佑香に憑依している明人はよく理解しているー
「あ、うんー
いいけどー
邦明を傷つけたりしないでよね?」
佑香が言うとー
”もちろんー。俺はいつだって佑香の幸せを願ってるんだからさー”
と、優しく明人は呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、土曜日がやってくるー。
「ーーお待たせ」
佑香が到着したー
到着した佑香を見て、
待ち合わせていた彼氏の邦明は、ドキッとしてしまうー
普段とは違い、ポニーテールにしている佑香ー。
服装も、なんとなく男っぽいような感じで、
しかも、普段は長めのスカートばかりの佑香が、
今日はショートパンツに黒タイツというスタイルだったためー
驚きとドキドキが同時に邦明を襲ったー
「ーーお、、俺を誘ってるのか?」
邦明が戸惑いながら言うと、
「ーーそんなわけないだろ!」と、佑香は返事をしたー。
今の佑香は、明人に完全に支配されていたー。
「ーこれから山奥に行くんだから、
少しでも動きやすい格好するのは当然だろ?」
佑香は恥ずかしそうにそう言うとー
「少し髪型変えたりするだけですぐこれだから、
やっぱ女って大変だよなぁ」と、髪を不愉快そうに掻きむしったー
「ーーご、ごめ…」
邦明がそう言いかけると、佑香は
「いや、いいっていいって」と、言いながら
「髪はほら、俺、男だったから、長いのにはいまだに慣れなくてさ」と
ポニーテールにした髪を触りながら言うー
「ーー切ればいいじゃないか」
邦明と佑香は、山奥に進みながら雑談を繰り広げるー
「ーバカっ!佑香の髪を勝手に切るわけにはいかないだろ!」
佑香の言葉に、邦明は「あ、まぁ、それもそうだな…」と苦笑いするー。
二人が目指しているのは、
山奥に存在する神社ー。
佑香の身体を使って、明人が以前から
ずっと調べていた”憑依してしまった自分が成仏する方法”が
そこにあるのだというー
「うさん臭くないか?」
邦明が言うと、佑香は首を振るー
「ずっと調べてきたんだー。
間違いない。
この先にある神社に行けば、俺は消えることができるー。
成仏できるんだー」
佑香はそう言うと、さらに先に進むー。
佑香に憑依している明人は、”二重人格”ではないー。
そのため、消えようと思っても
病院で治療する・しないの問題ではないー
一般的な二重人格・多重人格と呼ばれる状態とは異なるー。
佑香の中にいる自分は
「佑香から生まれた存在」ではなく、
「死の間際に佑香に憑依してしまった別人」なのだからー。
明人はずっと調べ続けてきたー
”自分の現状”を打開する方法をー。
そして、明人はその方法を見つけていたー。
”霊”を取り除くことができる力を持つ者がいるという神社ー。
バカげた話に思えるかもしれないが
こうして、実際に佑香に憑依している明人には分かるー。
決してそれはバカげた話ではないー、と。
ようやく、山奥に存在する寂れた神社に到着すると、
佑香は「ここだ」と、笑みを浮かべたー。
邦明はそのあとについていくー。
「ーーお前、佑香とキスをしたことはあるか?」
佑香が突然、そんな言葉を口にしたー
「ーーへっ!?!?えぇっ!?」
邦明が真っ赤になるのを見て、佑香は「したことねぇのか」と、
笑みを浮かべるー
「ーー俺は鏡の佑香とキスしたこと、あるぜ」
と、ニヤニヤしながら言うと、
「ーな、、なんだよ急に!」と邦明が叫ぶー
「悪い悪いー。
俺が成仏するためにはー
お前の力が必要なんだー
だからー
お前にお願いしたー。
俺一人で”これ”ができるなら、とっくにしてるさー」
佑香がそう言いながら、神社の主がいる場所にやってくると
「はじめまして」と、自己紹介を始めたー。
そこにいたのは、老婆だったー。
「ーーおやーーーそなたは…」
老婆が佑香のほうを見て、口を開くー
「ーーはは…わかりますか?
そうですー
俺、この身体から出たいんです」
佑香が言うと、
老婆は「なるほどー」と、深くうなずいたー。
「ーーあ、、あの…それで俺はどうすれば?」
邦明が言うと、
佑香は「そこのおばあさんが、”術”を施してくれるからー
そしたら、俺とキスをするんだー」と、説明したー。
”佑香に憑依した明人の魂”を佑香の身体から
取り除くためには、誰かが佑香にキスをする必要が
あるのだというー。
神社の主である老婆は、霊媒的な力を使う必要があり
”老婆以外に誰かもう一人”必要で、
そのために、邦明をここに連れてきたのだー
「だから一人じゃ成仏できないって…?」
邦明が言うと、佑香は「そうだー。俺が佑香にキスすることはできないだろ?」と
説明したー
それにー
「佑香が好きな男以外に、佑香をキスさせたりなんて、したくないからな」
と、佑香は付け加えたー。
「ーー本当に、佑香のこと、大事にしてるんだな」
邦明が少し微笑むと、
「あぁ、そうさー。この世の誰よりも、佑香を大事にしてるー」
佑香に憑依している明人は、そう言い放ったー。
そしてー
老婆が術のようなモノを唱え終えるとー
光のようなものが放たれー
それが、邦明と佑香の身体に宿ったー
「ーーーけれど、本当にいいのかいー?」
老婆がそう呟いたー
邦明と目が合い、
邦明は、確認のために佑香のほうを見たー
佑香に憑依している明人はこれで消えることになるー。
佑香のためとは言えー
そして自分自身が”佑香の身体”で生きることに
苦痛を感じているとは言えー、
彼は、消えることになるのだー。
「ーーーお前が消えたら…
佑香はきっと、悲しむと思うけどな…」
邦明が言うー。
佑香は、佑香自身に憑依している明人のことを
自分の中で生まれた別人格”アキト”だと思い、慕っているー。
明人本人と、佑香の言葉から、明人は、本当に佑香のことを
守り続けてきたのだろうー。
そんな明人が消えれば、やはり佑香は悲しむと思うー。
「ーー大丈夫さー」
明人に憑依されている佑香はそう呟いたー。
「ーーー大丈夫かどうか決めるのは、
お前じゃなくて、佑香だぞ!」
邦明が言うと、
佑香は「ーそんな時のために、お前がいるんだろ?」と呟くー。
邦明は表情を曇らせるー。
明人は”もしも佑香が落ち込んだら、彼氏である邦明の出番だ”と、
そう言っているのだー。
「ーーー…まったくー…」
邦明は全部自分に押し付けられたような感覚を覚えながら
そう呟くと、
佑香が老婆のほうを見た。
「ーお願いしますー」
とー。
老婆はため息をついてから言うー。
「ーもう準備はできておるー
二人で、キスをするのじゃ」
老婆の言葉に、
邦明は顔を赤らめながら
「ゆ、佑香とこんな形でキスをするなんてー」と
戸惑いの表情を浮かべたー。
「ーはははは 中身は俺なんだから
男とキスをすると思えばいいだろ?」
佑香が言うと、
邦明は「それはそれで問題だ!」と顔を赤らめながら叫んだー。
笑う佑香ー。
そしてー
佑香と邦明はキスをしたー
佑香はキスをする直前に”じゃあな”と静かに囁いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・
後日ー
佑香の中から”アキト”は消えたー。
佑香は、邦明の予想していた通り、
酷く落ち込んでいたがー
邦明が、佑香を慰めー、
明人の想いを伝えたことで、
佑香は前向きに生きることを決めていたー。
「ーーわたしのこと考えて、消える決断をしたのに、
わたしがこんなじゃ、アキトもきっと悲しむもんね」
そう呟き、前を向いた佑香に、
邦明は静かに笑みを浮かべたー。
「ーーそういえばさ、アキトが消えてから
なんだか邦明もアキトとどことなく似てるな~!
って思うようになったよ!」
笑う佑香ー
「ーーははは、なんだよそれ」
邦明が笑うー。
”邦明のことを好きになったのも、
どことなくアキトと似ているからだったのかもー”
そんな風に思いながら佑香は
「あ、そろそろ教室に戻らないと!」と笑いながら
昼休みがそろそろ終わることに気づいて、
そのまま立ち去っていくー。
「ーーーー」
そんな佑香の後ろ姿を見ながらー
邦明は静かに微笑んだー
「ーー”明人”に似てるんじゃなくてー
俺が”明人”だよー」
静かに笑う邦明ー。
あの日ー
邦明と明人に憑依された佑香がキスをしたあとー
佑香に憑依していた明人は”邦明に移動”したー
邦明はあの日、明人に乗っ取られてしまったのだー。
明人は元々ー
消えるつもりなんてなかったー
佑香が好きなのに、佑香の身体にいる現状ー
そして、彼氏ができたことによる嫉妬ー
自分は女の身体でしか生きられない苦しみー
それを解消するために、明人が目につけたのがー
”移魂の術”だったー
邦明の身体を奪えばー
明人が彼氏になれるー
佑香を邦明の手から自分のモノにできるー
男の身体で再び生きていくことができるー
佑香を、一番近くで守ることができるー。
「ーーーけれど、本当にいいのかいー?」
あの時、老婆が言った言葉はー
明人ではなく”これから身体を奪われる邦明”に
対して言った言葉だー。
キスをする直前、”じゃあな”と囁いたのも、そうー
「消えるのは、俺じゃなくて、お前さー」
邦明に憑依した明人は静かにそう呟くと、
「ーお前の全部、貰ったぜー。
安心しなー。
佑香は俺が幸せにするー絶対にー」
と、呟きながら、静かに廊下を歩き出したー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
彼氏の方が乗っ取られてしまいました~!
恐ろしいですネ~!
お読みくださりありがとうございました!!☆
コメント
なんかこの話、前にあった、乗っ取ろうとしたけど、完全には乗っ取れずに憑依した女の子に別人各と勘違いされて共生していく話に少し似てますね。
それにしてもダークな結末です。もし佑香に明人が彼氏を乗っ取ったことがいつかバレたらどうなるでしょうね?
うっかり明人しか知らないような事をしゃべったりでもしたら正体がバレそうです。
コメントありがとうございます~!☆
気づかれなければ、彼氏だけがバッドエンドですが、
気づかれた、あるいは気づいてしまった場合は…大変なことになりそうですネ~…!