<憑依>消えたストーカー①~追跡~

ストーカー男に悩まされていた女子大生。

しかし、ある日を境にそのストーカー男は
突然姿を見せなくなったー。

ストーカーはどこに消えたのか。
その居場所は、想像を絶する居場所だったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「最近、例のやつは大丈夫か?」

彼氏の猪川 謙太(いがわ けんた)が
心配そうに尋ねるー。

謙太に声を掛けられた女子大生・
穂坂 茉莉(ほさか まり)は「うん」と
少しだけ心配そうに答えるー。

茉莉は”ストーカー”に付き纏われていたー。

一宮 芳夫(いちみや よしお)ー。

大学の学園祭の際に茉莉に一目ぼれをしたという男で、
それ以降、茉莉に執拗なアプローチを仕掛けてくるようになったー。

当初、茉莉はやんわりとその男を遠ざけようとしたがー
その男が、茉莉のことを諦めることはなくー、
次第に男はストーカー化したー。

男は、茉莉の通う大学の卒業生で、
現在はフリーターとして近く牛丼店でバイトをしているー。

そのため、このあたりにも土地勘があり、
あの手この手で茉莉の前に姿を現すのだったー。

「ーー俺がこの前、ガツンと言ってやったのが効いたかな…」
呟く謙太ー

「ーーうん…謙太にまで迷惑かけて、本当にごめんね…」
茉莉が申し訳なさそうに言うと、
謙太は「いや、いいさ」と、微笑むー。

ちょうど1週間ほど前に、彼氏の謙太が
茉莉に付き纏うストーカー男・芳夫と偶然遭遇し、
謙太は芳夫にきつい口調でストーカーをやめるように忠告したー
これ以上付き纏いを続ければ、こちらも相応の対応をするー、と。

既に警察などにも相談はしているものの、
芳夫自体が、茉莉に暴力を振るったり、
茉莉に触れたり、そういうことをしていないために
なかなかすぐには動いてくれないのが現状だったー。

しかし、ここ1週間、芳夫は姿を現しておらず、
謙太がガツンと言ったことで、諦めてくれたのかもしれないー…

謙太と茉莉の間ではそんな空気が流れ始めていたー。

だがー
それは、甘かったー。

ストーカー男の芳夫は”さらに恐ろしいこと”を
考えていたのだー。

数日後ー

「ーー僕と君はやっぱり結ばれる運命なんだ…!」
大学の帰り道ー
芳夫が再び姿を現したー

茉莉は芳夫を無視して足早に歩き出すー。
身体の震えが止まらないー

「ー待ってくれよ!茉莉ちゃん!
 君は、あの日、僕のほうを見て微笑んでくれたじゃないか!」

叫ぶ芳夫ー。

茉莉は返事をせずに、芳夫から逃げているー。
芳夫は、そんな茉莉を追いかけるー。

「ーあの時、僕は確信したんだ!君は僕の天使だって!」
芳夫が叫ぶー

茉莉は必死に逃げたー。

「ーもう、付き纏わないで!」
叫ぶ茉莉ー

だがー
芳夫は笑みを浮かべたー

「そんなに照れなくてもいいじゃないか。
 僕にはわかるんだー
 あれは、僕に好意がある微笑みだったー」

何でも自分の良い方向に物事を決めつける危険人物ー
それが、この一宮芳夫だー。

学園祭の際に、茉莉が所属するサークルの出し物を
見に来た芳夫に対して、茉莉はただ単に、普通に
接客モードで接しただけー。

特別な笑みを浮かべた覚えなんてまったくないしー
芳夫以外の人にも普通に同じように対応していたー。

それなのに、どうして、こんなことにー

「くふふふふ…今日こそ、僕は君を妻にする!」
芳夫は、裏路地に追い込んだ茉莉を見て笑みを浮かべるー。

「ー答えはイエスだー」
芳夫が意味不明な言葉を呟くー

茉莉は表情を歪めるー。

「ーー僕にはわかってるんだ。
 学園祭の時、僕は君にプロポーズされた。
 あの時の君の笑顔を見て、僕は気づいたんだー
 ”僕はこの可愛い子にプロポーズされているんだ”ってー」

芳夫の言葉に、茉莉は思わず反論するー

「してません!!!」
と、涙目でー。

学園祭の際には、芳夫以外の人にも同じように接していたことを
説明する茉莉ー。
自分たちのサークルの出し物にやってきてくれた人に笑顔を浮かべるのは
当然であり、特別な意図はないことを改めて説明するー。

これまでにも既に何度も芳夫に説明したことだー。

だが、
芳夫は納得しないー

「マリッジブルーって誰にでもあるんだなぁ」
とー。

何でも自分の都合の良いようにしか解釈しない
狂気の男ー
それが、芳夫だー。

「ーーだから、違うんです!
 あなたは、わたしに無表情でお客さんに対応しろって言うんですか?
 どうして笑顔で対応しただけで、こんな勘違いされなくちゃいけないんですか!?」

茉莉が言うー。

だが、芳夫は「勘違いではない」と、突然真顔で呟くー

「”勘違い”だと思っている茉莉ちゃんのほうが”勘違い”してるんだー。
 マリッジブルーのせいでね」

”ダメだこの人ー”
茉莉は、心の中でそう思わずにはいられなかったー。
会話が成り立たないー。

茉莉は、これまでも必死にやんわりとこの男を
遠ざけようとしていたがー
もう、限界だったー

こういう男を刺激するのは危険だと思っていたし、
茉莉自身、優しい性格であることから
今まで直接的な表現は避けてきたー。

だが、もう、我慢の限界だったー。

「ーーーもう、付き纏わないで!」
泣き叫ぶようにして言う茉莉ー。

芳夫の表情から笑顔が消えるー

「ーーあなたみたいなストーカーがいると迷惑です!
 本当にわたし、悩んでるし、困ってるし、怖いんです!

 何度も説明してますけど、わたしには彼氏もいるの!
 もう、二度とわたしの前に姿を現さないで!」

茉莉は、今までため込んでいた気持ちを全て吐き出したー。

”付き纏わないでください”と言ったことはあったが、
”ストーカー”と断言して、ここまではっきりと言い放ったのは
初めてだったー

「ーーーそうかそうか」
芳夫は笑みを浮かべながらうなずいたー

「ー君は、あの悪い男に、騙されているんだね。」
芳夫はそう呟くと、
「大丈夫。安心して。僕は妻を見捨てたりはしないよ」と笑みを浮かべたー

「ー妻!?ふざけないで!いい加減にして!」
茉莉が叫ぶー。

「ーーもう、、あの、、その…えっと、こんなこと言っちゃいけないのは
 分かってるんだけど」
茉莉が半分泣きながら、感情のままに叫んだー

「気持ち悪い!!近寄らないで!」
とー。

人に気持ち悪い、などと普段は絶対に言うことのない茉莉ー
だが、それを言ってしまうほど、茉莉は追い詰められていたー

「ーーきもち…わるい…?」
芳夫が表情を歪めるー

茉莉は頭を下げて、
「2度と私に近寄らないでください。お願いします」とだけ言って
そのまま足早に立ち去っていくー

「きもち…わるい きもち… きも… KI…Mo?
 う…うふ…うふふふふふふふふふふふ」

芳夫の顔が歪むー

芳夫は笑いながら、自宅に帰宅すると、
パソコンを起動して何かを調べ始めたー

”女 支配”

”女 意のままにする”

”操る”
”支配”
”支配”
”支配”

何度もエンターキーを連打して、キーボードを破壊した芳夫は
ふ~ふ~言いながら、怒りの形相でネットを見つめ始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・

その日以降ー
”芳夫”は姿を現さなくなったー

「ーー仕方ないさ」
謙太は言うー。

「ーーでも…あんなにきついこと言っちゃったの
 初めてだったし、ちょっと申し訳なかったかなぁって」
茉莉の言葉に、
謙太は「ストーカーにまでそう思っちゃうところが
茉莉のいいところでもあるんだけどな」と苦笑いするー

「ーごめんな。本当は俺がずっと一緒にいてあげられれば、
 茉莉のこと、守れたのにー」

謙太の言葉に、茉莉は「ううん」と首を振るー。

”ストーカー・芳夫”は消えたー。
あれから半月ー
芳夫は一度も姿を現しておらず、
謙太が共通の友人である男子・英輔(えいすけ)に、
芳夫が勤務していた牛丼屋に確認に行ってもらったが、
芳夫は既に退職していたー。

謙太は一度、芳夫と対峙しているため、
自分が顔を出して芳夫を刺激するのは良くないと考えて、
友人の英輔にお願いしたのだー。

芳夫は、消えたー。

「ーーでも、良かったじゃん」
茉莉の友人の一人である響子(きょうこ)が大学の廊下を歩きながら言うー。

「ーーうん」
茉莉は、安心したような、けれどもまだ、ちょっと不安を
感じているような、そんな複雑な表情を浮かべながらうなずくー。

確かに、この半月、芳夫は姿を現していないー。
今まであれだけ頻繁に姿を現していた芳夫が消えた、ということは
やはり、それなりの効果があったのだろうー

しかし、本当に消えたのだろうかー。

三つ編みに眼鏡というスタイルの響子が、
「ーー大丈夫。いつまでも心配してないで前向きにいこっ!」と、
茉莉を励ますー。

茉莉は「うん…そうだね」と、微笑みながらも、
”消えたストーカー”に対して、不安を消せずにいたー。

本当に、芳夫は消えたのだろうかー。

そう、思わずにはいられないー

・・・・・・・・・・・・・・・

ニヤリと笑みを浮かべるー。

芳夫は”いる”

常識では考えられない場所にー
芳夫は”いる”のだー。

「んっ…くくくくく…くくくくくく…♡」
勃起した肉棒のようなものを綺麗な手で触りながら
笑みを浮かるーー

「ーーはぁぁぁぁぁ…茉莉…♡」

狂気に染まったその笑みはー
芳夫が浮かべているのではないー

だが、その笑みはー
芳夫の笑み、そのものだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

茉莉はまだ”どこかで見られているような”
そんな気がしてならなかったー。

そのことを彼氏の謙太に相談するー。

謙太は、真剣に茉莉の不安を聞いてくれたー。

「ーー…そっか。
 茉莉の家の周りとか、今夜、それとなく
 パトロール的なことしてみるよ」

謙太が笑うー。

「ーーえ…でも、それはさすがに悪いよ…」
不安そうな茉莉に対して謙太は
「彼女が悩んでるんだ。そのぐらいお安い御用さ」と、笑ったー

「ーーあ~!だったらわたしも手伝おうか?」
その話を聞いていた友達の響子も、手伝うことを申し出るー

「いやいやいや、あのストーカー野郎、
 結構やばいやつだから、俺一人で見回りするよ」
謙太が響子の申し出を断るー。

”響子まで巻き込まれるようなことがあってはならないー”
謙太も、茉莉もそう考えて、響子の気持ちだけ受け取ることにしたー。

しかしー
ストーカーは消えていないー

翌日ー
それをイヤと言うほど、思い知らされることになるー

「ーー茉莉!?」
彼氏の謙太が駆け付けてくるー

するとそこには、
乱れた髪のまま、泣きじゃくっている茉莉の姿があったー

茉莉は怯えた様子で机のほうを指差すー。

机にはー
”僕は茉莉ちゃんにプロポーズされた
 だから僕は茉莉ちゃんを愛した”

と赤い字で書かれたメモ書きが置かれているー

「ーーあ、、あいつにやられたのか!?」
謙太が叫ぶと、
茉莉は「わからない…わからないよ…」と泣きながら叫ぶー。

寝ている間に、襲撃されたのだというー。

「ーー…そんな馬鹿な」
謙太は戸惑うー

昨日の夜ー
謙太は茉莉の住むアパートの周辺を約束通り見回ったー
途中で、友人の英輔も一時的に手伝いに来たりしてくれてー
結構遅い時間までウロウロしていたが、
特に何もいなかったはずだと、謙太は説明するー。

だがー
茉莉が襲われたのは紛れもない事実ー。

悲しそうに涙を流す茉莉を見て、謙太は唖然とすることしかできなかったー

”僕は、ここにいるよー”
邪悪なるストーカーは、”他人の身体”で不気味な笑みを浮かべたー

②へ続く

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突然消えた狂気のストーカー…
果たして、どこにいるのでしょうか~?

答えは明日デス!

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