繁盛している回転寿司ー。
しかし、その回転寿司で
お客さんの身体が次々と入れ替わってしまう
”非常事態”が発生してしまうのだったー。
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休日のにぎわう回転寿司ー。
今日も店内は賑やかな様子を見せ、
家族連れや、仕事中の休憩に立ち寄った人、
休日を一人で堪能したついでに寿司を食べている人ー
色々な人が、そのお店にやってきていたー
「今日も忙しいですね」
アルバイトスタッフの一人、並木 雄一(なみき ゆういち)が言うと、
店長は「口よりも手を動かせ~!」と声を出すー。
「あ、はい」
雄一はそう言いながら、忙しそうに、お客さんから
注文の入った寿司の準備を始めるー。
ベテランアルバイトスタッフの梶岡 宗太郎(かじおか そうたろう)も
必死に寿司の準備をしているー。
しかしー
”異変”は既に起き始めていたー。
「ーーえ…」
「あれ?」
家族連れで回転寿司にやってきていた
母親と息子が戸惑っているー。
「どうしたんだ?」
父親が不思議そうにその二人に問いかけると、
母親が突然自分の胸を触りながら
「うぉぉぉ~おっぱい!」と叫び始めたー。
息子の方が顔を真っ赤にして
「ちょっと!」と叫んでいるー。
「ーーははは、あれなんだろうな」
少し離れた座席にいる高校生カップルの彼女が笑いながら言うと、
すぐに表情を歪めて、言葉を止めたー。
隣に座っている男子高校生のほうが
「え!?わたし…!?」と、目の前にいる彼女のほうを指さしたー
「えっ!?ちょ!?俺が目の前に…
ってか、声が女の声に…
えっ!?あれ!?」
この高校生カップルは身体が入れ替わってしまっていたー。
その反対側の通路でも
「俺が目の前に!?」
「わたしがもう一人いる!?」
などと、声が上がっているー。
「ーー騒がしいな?」
店長が店内の騒ぎを耳にして不思議そうに首をかしげるー
「何でしょうね…?」
雄一が言うと、ベテランスタッフの宗太郎も「さぁ…?」と呟くー。
次第に、その騒ぎが大きくなっていくー
「ーえ!?ちょっと、今度は俺が女に!?」
「えへへへへへ♡ やっべぇ、マジで女になってるー」
「ーこのまま失礼しまぁ~す♡」
色々な声が店内から響き渡り始める中ー
利用客の一人、おばあちゃんが、スタッフの方に
おろおろしながらやってきたー
「ーーわ、わ、わたし…おばあちゃんの身体に…
どうすればいいですか…?」
おばあちゃんの言葉に、店員の一人が困惑しながら
対応するー。
聞けば、おばあちゃんは”自称”女子高生であり、
おばあちゃんと自分の身体が入れ替わってしまったのだというー。
接客をしていると、当然、記憶力が曖昧な高齢者の方や、
時には、記憶がはっきりしないような状態になってしまっていたり、
病気になってしまっているような高齢者と接することもあるー。
店員は、この”自称女子高生”のおばあちゃんをそうだと判断して、
上手く話を合わせようとするー。
しかしー
そうこうしているうちに店内の騒動が大きくなっていきー
さすがに店員も異変に気付いたー。
「おい!どうしてくれるんだ!」
女子大生のような子が怒りの形相で叫ぶ。
「わたしの身体を返して!」
小太りのサラリーマンのおじさんが、その女子大生にしがみつくー
「おい!店長出せ!」
可愛らしいツインテールの子が叫ぶー
「このお店はどうなってるの!?」
いかついスキンヘッドの男がおネェ口調で喋るー
「なんだ?なんの騒ぎだ?」
寿司を用意する方で作業をしていた店長がついに
お店の方に出てくると、表情を歪めたー。
「ーあの~?」
先ほどの女子高生を自称していたおばあちゃんが
店長の方に近付いてくるー。
「ーーえ…え???」
店長は思わず首をかしげてしまうー
「ーー店長!」
他の方向から声がするー。
イケメンなサラリーマン風の男だー。
こんなスタッフうちにはいないし、
本部にもいないはずー、と思いながら
店長が「ど、どちら様ですか?」と言うと、
サラリーマン風の男は、レジをやっていた女性スタッフの
名前を名乗ったー
「ーーほ、他の人に触れると身体が入れ替わっちゃうみたいです!
気を付けて下さい!」
と、サラリーマン風の男(女性スタッフ)が叫ぶー
「そ、そんなことー」
そう言いながら店長は、地獄絵図となった店内を見渡すー
床に膝をついて、胸を触り始める女子高生ー
泣きじゃくる小太りのおじさんー
怒り狂うおばあさんー
男口調でクレームを言い続ける女子大生ー。
ニヤニヤしている男の子ー。
店内は”カオス”な状況だったー。
「ーーー……こ、、これはどうすれば…?」
店長がそう叫んでいると、
背後からベテランスタッフの宗太郎と、
比較的年数の浅いバイト・雄一がやってきたー
「これは、どういう状況ですか?」
雄一が言うと、ベテランバイトの宗太郎は「さぁ…」と呟くー
店長が、「大丈夫ですか~?」と声を掛けながら
客の状況を把握していくー
「大丈夫なわけねぇだろ!」
可愛らしいツインテールの女子高生に胸倉をつかまれる店長ー。
店長は、戸惑いながらも
「ーーほ、他の人に触れると身体が入れ替わっちゃうみたいです!
というスタッフの言葉を思い出すー。
”入れ替わってないぞ?”
そんな風に思っていると、
胸倉をつかんでいた女子高生が怒りの形相で、
店長を殴りつけたー
「テメェ!早く元に戻せ!おい!こら!」
女子高生の中身は別の人間なのだろうー
店長は、仰向けに倒れた状態で、
女子高生に上に乗られて、グーで殴りつけられてしまうー
女子高生に乗られてグーで殴られている状況にー
店長はへらへらと笑っていたー
「ご褒美だ…♡」
とー。
「ーーて、店長!くそっ」
雄一は思わず舌打ちをするー。
ベテランスタッフの宗太郎は戸惑いながらも、
混乱の収拾にあたるため、いったん事務所の方に向かうー。
雄一は改めて店内を見回すー。
入れ替わっている人間ー
入れ替わっていない人間ー
様々な人間がいるー
「ーーあの、すみませんー」
雄一は、その中から
”入れ替わってなさそうな家族”に声を掛けたー。
大混乱の中、その家族に話を聞くと、
雄一の予想通り、その家族は
「入れ替わって」いなかったー。
「ーー……」
雄一は、さらにその家族と話を続けるー。
”どうして、入れ替わる人と入れ替わらない人がいるんだー?”
雄一はそんな風に思いながら、
周囲を見渡すー
ニヤニヤしながら、少年が女子高生らしき人物に
手を触れようとしているー
「へへへへ…おじさんにその身体をよこせよ」
”触れると入れ替わる”ことを理解したのか、
少年が、女子高生を追い詰めているー。
少年の口ぶりから、中身は既に少年でないことがわかるー。
女子高生の方も「このJKの身体は渡さない!」と
叫んでいることから、既に元々の身体の持ち主ではなく
別の人間が表に出ているのだろうー。
「ーー…あの、すみません」
雄一は、入れ替わっていないと思われる別の親子連れに
声を掛けるー
母親と息子2人の組み合わせだー。
「ーーお身体、なんともありませんか?」
雄一が言うと、母親が「はい…」と頷きながら
”何が起きてるのですか…?”と、とても不安そうに尋ねてくるー。
雄一はそんな家族の机を見つめるー
”お寿司”は既にこの家族も食べているー
”触れると入れ替わる人間”と
”触れても入れ替わらない人間”がいるー。
雄一も先ほど、泣いているおじさんとぶつかってしまったが
入れ替わることはなかったし、
女子高生に胸倉をつかまれた店長も身体が
入れ替わっている様子はなかったー。
相変わらず女子高生に怒鳴られて
ニヤニヤと「ご褒美だ…」と呟いている店長を
横目で見ながら呆れた雄一は、
”他に何かないかー”と、家族連れの食べたモノを確認するー
店内の大勢の客が入れ替わっているー。
だが、この建物内に何かが起きているなら
”全員”が入れ替わっていないとおかしいー
”入れ替わる人”と”入れ替わらない人”がいるということは、
”何か”条件があるはずだー。
店内のほぼ多くの人間が入れ替わっているー
”何か”を食べたことが原因かー?
それなら、ほとんどの店員が入れ替わっていない理由も納得できるー
”何か”とはなんだー?
寿司を食べている家族も入れ替わっていないー
比較的小さな子がいる家族連れが入れ替わっていないーー
「ーーーー!!!!わさび!」
雄一は叫んだー
「ーー食べていたお寿司はわさび抜きですか!?」
雄一の言葉に、母親は「え、、えぇ…」と頷くー。
雄一はそれを確認すると、大混乱する店内を走ったー。
カウンターの奥に向かってー
”わさび”に、何か原因があるとすればーー
細工できるのは、店員しかいないー!
「ーーくへへへへへ 俺と遊ぼうぜぇ!」
店の奥に向かおうとしていた雄一の前に、
下着姿の女が姿を現すー。
大人しそうな顔立ちを極限まで歪めてニヤニヤしている女を見て
雄一は一瞬ドキッとしたものの、すぐに「どいてください!」と叫ぶー。
中身は絶対に別人だろうー。
「ーーいいからヤラせろよ!」
襲い掛かってくる女性を、雄一はなんとか払いのけると
そのまま店の奥に向かうー。
おじいさんが「わ、わたしの身体が…!わたしの身体が!」と叫びながら
しがみついてくるー
「すみません!今、対応しますので!」
雄一はそう叫ぶと、おそらく中身は別人であろうおじいさんを
なだめてから、店の奥へと入り込んだー。
そこにはー
「WASABI」と書かれた不気味な容器が
置かれていたー
中身は既に空っぽー
蓋は開いたままで、このわさびが使われたことがわかるー
わさびの容器には人間のシルエットが2つ描かれていて
そのシルエットが「⇔」で結ばれていたー
「ーーやっぱり、わさびか!」
雄一はその容器を怒りのあまり投げ捨てるー
店員の誰かがー
本来のわさびではなく
この怪しげなわさびを寿司につけたことによって
そのわさび入りの寿司を食べた人間同士が
入れ替わってしまったー
そうことなのだと、唯一は思いながら、
奥の事務室へと駆け込んだー
するとそこにはー
”俺はずっとずっと一生懸命この店でバイトしてきたー
なのに社員にはなれないし、時給も上がらない
もう、うんざりだ。
だから、寿司に”食べたもの同士が接触すると入れ替わる”
わさびを盛ったー
このお店は、もうおしまいだ。
こんなお店、やってられるか。
俺は店長よりも頑張ってたー
このお店は俺で回ってたんだー
それなのにー
それなのにーーー”
そう書かれたメモ書きが事務室に残されていたー
「ーーー…」
雄一は、歯ぎしりをするー
「あいつだー…」
とー
ベテランのアルバイトー
梶岡 宗太郎ー
そういえばー
異変が始まったころまで店内にいたが、
今は店内に宗太郎の姿はないー
「ーーこれって…あれじゃん…」
雄一は”これがバイトテロかー”
などと思いながら唖然とするー
店内の状況は、まさにカオスー。
この先、このお店に待ち受ける運命を
物語っているかのような、そんな光景だったー。
「ーー入れ替わりバイトテロ…」
唖然としながら、雄一はこれからどうするべきか考えながら
頭を抱えることしかできなかったー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
ツイッターで「没のアイデア」として紹介した
作品だったのですが、
せっかくなので、ということで1話完結モノに
頭の中で再構成して執筆してみました~!
前に書いた集団入れ替わり「深夜のコンビニ大騒動」とは違い、
さらに大勢の入れ替わりなので、
一人ひとりの個性は描けませんでしたが、
また機会があれば集団入れ替わりにもチャレンジしてみます~!
コメント
一人ひとりの個性が出せないのは、大人数にしたからというより、一話完結の短編にしたせいな気がします。せめて2話くらいあればもう少し深く描けたでしょうに、勿体ないです。
それにしても、入れ替わりアイテムがわさびというのは斬新ですね。
ありがとうございます~!
集団入れ替わりだと、小説の場合
以前書いた「コンビニ大騒動」ぐらいの人数が
私の力量では限界のような気がします…☆
大人数で個性を持たせるとなると、
話数をかなり長くするか、絵か映像がないと
難しいですネ…!
また機会があれば、集団入れ替わりにもチャレンジしてみます~!
わさびは、お寿司屋さん要素を出すためにそうしました!☆