<皮>真夜中の訪問者①~皮にされちゃいました~

深夜のとある交番。

そこに若い女性が突然やってきて、奇妙な言葉を口走ったー。

「わたし、男の人に皮にされちゃいました」
とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

深夜の交番ー
交番勤務の警察官、金村 亮平(かなむら りょうへい)は、
ウトウトしながら、交番で書類に目を通していたー。

この時間帯は、一人ー。
このあたりの地域は治安もそれほど悪くなく、
酔っ払いなどもあまり出ないため、
基本的に、あまり人がやってくることはないー。

深夜2時を過ぎたこの時間であれば、尚更だー。

亮平は”今日も特に何もないだろう”と、
そんな風に思いながら、眠気と戦っていたー

その時だったー

「ーーーあの…」

綺麗な黒髪の、大人しそうな女性が交番の入口に顔を見せたー
落ち着いた配色の服装に、
程よい長さの赤いスカートと黒タイツの女性だったー。

「ーーどうかしましたか?」
亮平は”こんな綺麗な人が、こんな時間にどうしたんだ?”と
思いながら、いつものように、穏やかに話を聞き始めるー

すると、その女性は、信じられない言葉を口にしたー。

「わたし、男の人に”皮”にされちゃいました」
とー。

クスッと笑いながらー。

「ーーーん???」
亮平は、女性の言っている意味が分からず、
首を傾げたー

「ーーー…え~っと、すみません…それは、どういうことですか?」
亮平が聞き返すと、
「ーーわたし、近くのアパートで独り暮らしをしている大学生
 なんですけど、大学のサークル活動で帰宅したときに、
 ”皮”にされて乗っ取られちゃったんです」と、
笑いながら言い放ったー。

「ーーーそれで、女の身体でシャワーを浴びて、
 好みの服に着替えて、今、街を歩いてたんです
 深夜に女の一人歩きをするって、興奮しますよね」

クスクス笑いながら言う女ー

言っている内容がおかしいー。

亮平は”酔っているのか”
それとも、何かよくないモノを使っている女性かー、
そんな風に考えながら
「ーーじゃあ…まずお名前を」
と、確認するー

「ーーあ、はい、え~っと、ちょっと待ってくださいね」
そう言うと、女は、自分の名前を確認するために
スマートフォンを取り出したー。

「ーーえ~っと、あ、はい、
 嶋沢 莉香(しまざわ りか)ですね

 わたし、嶋沢莉香です」

自分の名前を名乗ることに興奮しているような様子を
見せながら言う莉香ー。

莉香は、頭のあたりを搔きながら、
「通ってる大学はー」と、大学の名前を言い、
続けて住所を説明し始めたー。

「ーーなるほど…
 それで…えっと、今はどうして、この交番に?」
亮平が言うと、莉香は暑そうにしながら、
「ーーだから、わたし、皮にされて乗っ取られちゃったんです」と、
微笑みながら言うー。

「ー身体はどうみても女に見えると思いますけど、
 わたしの中には男がいて、わたしは今、その男に
 身体を乗っ取られてるんですー

 身も心も完全に。
 ふふふ、どうしますか?」

莉香が挑発的な笑みを浮かべながら言うー

「ーーはははは…なるほど」
亮平は、当然、本気になどしなかったー。
”何らかの理由でおかしなことを言っている女”だと、
そう判断したのだー

「ーじゃあ…え~っと、君は大学から帰宅した際に
 男に襲われて”皮”にされて、そのあと家で少しゆっくりしたあとに
 この交番に来た…
 そういうことでいいですか?」

亮平が、莉香から聞いた話をひとまず整理するー

言っていることが明らかにおかしいから、
妄想や何かの類だと思うが、
ひとまず、相手の言い分を聞いてあげる、ということも
話を聞く交番の警察官としては大事なスキルの一つだったー。

この莉香は、ひとまず会話はできるが、
酔っ払いや錯乱状態、興奮状態の人間など、
交番には”会話が成り立たない相手”もたくさんやってくるー
そんなときにはまず、相手の言い分をしっかり受け入れた上で、
話をしていく必要があるー。

「はい。そうです。それで、こんな風にわたし、
 深夜の街を一人歩きさせられてるんです。
 興奮するでしょ?」

莉香の言葉に、亮平は「ははは」と愛想笑いを
浮かべながら
「ちょっと、検査させてもらっていいですか~?」と、
アルコールの検査をし始めたー。

酒臭さは感じないが、
この莉香が”酔っぱらっている”のではないか、と
そう判断したのだー

だが、アルコールは一切検出されなかったー

「ふふっ、もしかしてわたしが酔っ払いだと
 思ってます?」
莉香は微笑むー。

「ーーまぁ、それも無理ないですよね。
 人間が皮にされるなんて、普通、思いませんもんね?」

莉香はそう言うと、自分の指をペロリと舐めたー

大人しそうな雰囲気なのにー
”ギャップ”を感じるー

見た目と中身が釣り合っていないー
亮平はそんな風に思ったー

顔立ちも、髪の感じもー声もー、
何もかもが、中身と一致していないー

職業柄かー
亮平は”容姿”のあらゆる部分から
相手の本質を見抜くすべに長けていたー。

”大人しそうな顔”とか、そういう部分だけで
判断しているわけではないー
声、口調、仕草、服装あらゆるものから
相手の本質を見抜くのだー。

だがー
この莉香という女性は、
外見と中身のバランスがとれておらずー
不気味な感じを覚えるー

「ーー…皮にされたわたしが、もし正気だったら
 どうするかな~?って考えたときに
 やっぱりお巡りさんに助けを求めるよね!って思ったので
 ここに来たんですよ~!
 ふふふふふふ」

莉香の言葉に、亮平はさらに表情を歪めるー

「ーーーあ、クク…もしかして、アレ疑ってる?」

薬か何かを疑われていると思ったのだろうかー
莉香が腕をまくって
「ほら、わたしの腕、綺麗でしょ?」とほほ笑んだー。

注射だとか、そういう感じもないー

亮平は困惑したー。
”この女性はいったい何なんだ?”とー。

何がしたいのかもまるで分からないし、
目的も、意図も分からないー。

「ーーーで、どうします?」
莉香がほほ笑むー。

「どうするって……」
亮平はそもそもこの女性が”何をしてほしいのか”も
理解できずに表情を歪めるー

寂しがりやか何かだろうかー。

「え~っと、まぁ、嶋沢さんのお話を聞くぐらいなら、できますよ」
亮平は穏やかな笑みを浮かべながら椅子に座り、
莉香のほうを見るー

「ーこの女、いえ、わたしを助けないんですか?
 話をするだけですか?」
莉香の言葉に、亮平は「お話をすることで、何かお力になれることがあれば
お力になりますよ」と、答えるー。

すると莉香は突然、”タイツ足の魅力”を、自分の黒タイツを
撫でまわすようにしながら、し始めたー

”タイツの魅力を語る女”

亮平は、興奮したりしてしまわないように、
時々深呼吸しながら、平静を装って莉香の話を聞くー

「あ、お巡りさん、今、興奮しちゃうのを我慢しようとしてません?」
莉香の言葉に、亮平は戸惑うー

「ー分かりますよ。わたしだって、女のタイツとか、超興奮しますからねー」
莉香は、そう呟くー

さっきからー
時折、自分が男であるかのような発言をしたり、
自分のことを他人であるかのような発言をしていることが
亮平の中で引っかかっていたー。

そして、亮平は頭の中である考えにたどり着くー

”そういえば、二重人格とか、多重人格とか、聞いたことあるなー”

そう考えた亮平は、すぐに口を開くー

「失礼ですが、あなたは嶋沢莉香さんで、お間違えないですか?」

自己紹介されたフルネームを口にする亮平ー

「ーはい。”身体”は嶋沢莉香で間違いないですよ」
莉香はそう呟くとー

「ーー…身体は?」
と、亮平は首をかしげるー

莉香は
「さっきから言ってるじゃないですか、
 わたしは”皮”にされたー
 わたしの中には”男”がいるって」
と、つけ加えるー。

(やっぱりこの子、二重人格か何かか…?
 それならすべて、合点はいくー)

亮平は戸惑いを覚えるー。

交番には正直「おかしな人」も度々やってくるー。
亮平が勤務している交番では、
近くに飲み屋街などがあるわけでもなく、
酔っ払いも少ないため、
あまり深夜にやってくる人間はいないが、
それでも、深夜にやってくる人間は
訳アリであることが多いー

話が通じない相手も度々いるし、
暴れるような人間もいるー。

だがー
今、目の前にいるこの莉香という女性は
底知れぬ不気味さを持っているー。

一見、礼儀正しく、
会話はできているー。

しかし、会話の内容を理解することができないー。

亮平は、
二重人格である可能性や、
精神的に病んでいる可能性などを模索するー。

だが、精神的に病んでいる雰囲気でもないー。
むしろ、表情はイキイキとしているし、
職業柄、病んでいるような人間にもよく会ったりするが、
”こういう雰囲気”ではないー。

「ーーーでは、今、僕が話している君は、
 嶋沢莉香さんではない、そういうことですか?」
亮平が聞くと、
莉香は「えぇ、そうですよ」と、にっこり微笑んだー

(やっぱり、人格がいくつも存在する、とか
 そういう感じなのか…?)

亮平は医師ではないー。
専門家であれば、現状を的確に把握できたかもしれないが、
人格を複数持つ人間とは、出会ったことがなく、
未知なる経験だったー。

「ーでは…え~…今、僕と話しているあなたのお名前は?」
亮平が聞くと、
莉香は「答えるわけないじゃないですか」と、笑うー。

「ーだって、見ず知らずの女をこうして乗っ取ってるんですよ?
 わざわざ自分が誰かなんて、言うわけないですよね?

 わたしは今、この女ー
 嶋沢莉香なんですから」

莉香の言葉に、亮平はさらに戸惑うー。

「ーーじ、じ、じゃあ…」
亮平は動揺していたー。

この女性が何を求めているのか分からないー。
全く、理解できないー。

「ーー僕は、どうすればいいんですかね?」
亮平は戸惑いのあまり、思わず莉香に
逆に質問してしまったー

「ーさぁ?どうします?」
莉香がクスクス笑いながら、自分のタイツを触り始めるー。

「ーーこの女のタイツでも…
 あ、いえ、わたしのタイツでも触っちゃいますかぁ~?」

莉香はニヤニヤしながら自分のタイツを撫でまわすようにして触るー。

亮平はドキドキしてしまいながらも、
目を逸らして「ーー申し訳ありませんが、そういったことは」と、
莉香に言い放つー

”冷やかし”だろうかー。
そんな感じの女性には見えないー
とてもまじめで大人しそうに見えるのにー…

と、思いつつもー
”人は見かけによらないからな”と、
”見た目と中身が別人”であるかのような違和感を
必死に拭おうとするー。

「ーーと、特に問題がなければ、そろそろー」
と、亮平が話を切り上げようとするー

だがー
莉香はクスッと笑いながら言ったー

「ー男に乗っ取られちゃった可哀そうなわたしを
 見捨てるんですね?」

とー。

「ーーー」
亮平は深くため息をつくと、振り返って
「じゃあ、僕はどうすればいいんですかね?」
と、聞き返すー。

莉香は笑いながらー
「お巡りさんとしての仕事を果たすなら、
 皮にされて乗っ取られちゃった
 可哀そうな女子大生のわたしを助ければいいと思いますけどね」と
頭を掻きながら言ったー。

「ーー皮着てると蒸れちゃうんですよ ふふ」
莉香が笑うー。

意味が分からないー

交番勤務を始めてからー
ここまで意味の分からない人間は初めてだー。

不気味な真夜中の訪問者を前に、
亮平は戸惑うことしかできなかったー。

②へ続く

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コメント

急にこんな人がやってきたら、
びっくりしてしまいますネ…!

結末は明日のお楽しみデス~!

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皮<真夜中の訪問者>

コメント

  1. 匿名 より:

    しばらくぶりの皮モノですね。中身はおっさんですかね? 目的はなんなんでしょう?
    亮平をただおちょくってるだけなのか、それとも何か目的があるのか、続きが気になります。

    しかしここもずいぶん皮モノの作品が増えてきましたね。短編を別とすれば丁度これで20作めくらいですかね? 数年前くらいはそう数がなかった気がします。

    それにしても皮モノって、着る方と着られる方の性別、年齢、性格とかのパターンが大体決まってますよね。

    大抵、着る方がおっさんか、若くてもキモいブサイクなオタクで、着られる方は女子高生から20代前半程度の女というパターンの話が非常に多いですよね。

    別にここの作品に限った話ではありませんけど。

    女が男の皮を着たりとか、あるいは女が女の皮を着たりみたいな話ってあんまりありませんよね。あと、子供が皮を着たり、着られたりとかの話というのもあんまりないですよね。

    ここの作品でもそう低い年齢の女の子が皮にされる話とかはなかった気がします。最年少で中学生くらいでしたかね?

    そういえば以前、どこかで子供が二人で一緒に二人羽織みたいに母親の皮を着る皮モノのイラストを見たことがあるんですが、あれは斬新でした。

    たまには先述みたいな変わり種の皮モノも見てみたいですね。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!

      莉香の目的は…!
      ぜひ明日(もう日付が変わったので今日…ですネ)執筆する②を
      楽しみにしていてください~!

      変わり種の皮モノ…!
      確かに書く私も新鮮な気持ちで書けそうデス…!

      前向きに考えてみますネ~!