<憑依>魔王城の悪夢①~魔王に憑依された姫~

魔物たちにさらわれてしまった姫を
助け出すため、勇者は戦いを続けるー。

そして、ついに魔王の城に乗り込んだ勇者が
目撃したのはー
”悪夢”だったー。

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平和を長年謳歌していたとある王国ー。

だがー
その平和はある日、突然崩壊したー。

遠い昔ー
人間との激闘の末に封印されたという魔物たちが、
王国を襲撃ー

王国の兵士たちは必死に応戦したー。

しかしー
女王・リーア姫が上空から侵入した魔物に
連れ去られてしまったのだー。

まだ若いながらも、絶世の美女と言われー
人望にも溢れていたリーア姫がさらわれてしまいー
民衆は途方に暮れたー。

王国では宰相・ウィンドルが王国の権力を掌握ー、
そのまま王国を自分のモノにしようとし始めたり、
姫を失い、統制を失った兵士たちが辺境の村で
略奪を始めたり、と、

混乱と恐怖から、自滅の道を歩み始めていたー。

そんな中、立ち上がったのが、古の勇者の血を引くと
言われている青年・ライルだったー。

ライルは、代々伝わる剣を手に、魔王の城を目指しー、
数々の魔物を打ち倒し、
そして今日、ついに魔王の城に到着したのだー。

「ーーここに、魔王とリーア姫が…」
そう呟くライルは剣を手に、魔王の城に突入するー

中で襲い来る魔物を倒しー
最上階にたどり着いたライルが目にしたのはーーー

「ーーーーー姫様…?」
禍々しい紫色のドレスのようなものに身を包みー
魔王の玉座で足を組みながら座るリーア姫の姿だったー

いつも穏やかで、優しく微笑んでいるリーア姫の姿とは
似ても、似つかぬ姿ー。

戸惑いライルを見て、リーア姫は
悪女のような笑い声をあげたー。

「ー遅かったではないか、勇者ー」
見下すような声で、リーア姫はそう言うー。

確かにリーア姫の声だー。
だが、その声はいつもより低くー
悪意に満ちているー。

「ーー……ひ、、姫様…?魔王は、どこですー?」
勇者ライルがそう呟くが、
リーア姫は「あはははははははははは!」と、
笑い声をあげたー。

「ーー我なら、目の前にいるではないかー」

両手を広げながら、笑うリーア姫。

「ーー…ど、どういうことですか!?」
剣を握りしめながら叫ぶライルー。

「ーーくくくくくく…」
リーア姫は不気味な笑い声をあげるとー
次の瞬間、リーア姫の口から、ランプの精霊のように、
口からつながるような形で、黒いシルエットが姿を現したー。

リーア姫が白目を剥いて、わずかに痙攣しているー。

「ーーな、なんだ…これは…」
剣を構えたまま、唖然とするライルー

リーア姫からランプの精霊のような状態で
飛び出している黒い影は、声を発したー

「ー来るのが遅かったな勇者ライルよー。
 姫の身体は、我が完全に支配したー。」

その言葉に、ライルは「な…なんだって…?」と
やっとの思いで声を絞り出すー。

「我が魔族に伝わる禁忌の術ー
 ”憑依”ー。
 それを用いた、姫の肉体を貰い受けたのだー」

そこまで言うと、黒い影が再びリーア姫の口の中に戻っていくー。

「ー姫の美しい身体と聖なる力ー
 それがすべて、我が物にー」

拳を握りしめて、邪悪な笑みを浮かべるリーア姫ー

「ーーこの綺麗な手でー」
リーア姫は自分の手を開いたり握ったりしながら
うっとりとした表情で手を見つめるとー
悪魔のように囁いたー

「この綺麗な手でー
 この女が一番大事にしている王国とー民衆を
 恐怖で支配してくれるー」

リーア姫の口から、信じられない言葉が放たれるー。

勇者ライルは戸惑いながらも、剣をリーア姫の方に向けるー。

「ひ、、姫様から出ていけ!」
とー。

ライルも、リーア姫とは面識があったー。
”勇者”として何度も姫と会っているし、
姫に助けられたこともあるー。

また、王宮の兵士たち相手に剣術指南も任されていてー
”あなたがいれば、わたしも安心ですー”と、
リーア姫からは絶大な信頼を得ていたー

それだけにー
こんな結果になってしまっていることを
勇者ライルは、激しく後悔したー

”もっと早く、俺がここにたどり着いていればー”

別に寄り道をしたわけではないー
勇者ライルは、十分に早く、この場所にたどり着いたー

けれどもー
正義感の強いライルは、己を責めずにはいられなかったー。

「ーーわたしに剣を向けるのですか?」
クスッと笑うリーア姫ー。

「ーーふ、ふざけるな…!姫様のフリをするな!」
ライルが叫ぶー。

「ーーら、、ライル…何を言っているのですか…?
 わ、、わ・・たしは…」
怯えた表情のリーア姫ー

”違う…これは、魔王がやらせているだけだー”

ライルは自分の心の中でそう叫ぶー

だがー

「ライル…わたし……どうして、どうしてこんなところに…」
目に涙を浮かべるリーア姫ー

「ーーひ、、姫様…?本当に姫様なんですか!?」
勇者ライルの言葉に、リーア姫は震えながらうなずくー。

ライルは困惑しながら、リーア姫の方に近付いていくー。

「落ち着いて聞いてくださいー。
 姫様は今、魔王に憑依されています」

ライルの言葉に、リーア姫は「そ、そんな…!」と
両手を口元にあてて、目から涙をこぼすー。

「ですが、大丈夫ですー
 俺が、必ず、魔王を倒しますー。」
ライルはそこまで言うと、
リーア姫と距離を保ったまま、
「ー失礼ながらー…姫様が、姫様であるという証明を頂きたいです」
と、言葉を口にするー。

”リーア姫しか知らないであろうことを言ってほしい”
そういう意味だー。

リーア姫は、ライルと初めてあった日のことを口にするー。
魔王は知らないはずの情報だー。

「ーー姫様」
ライルは頷くと、リーア姫に接近してー
禍々しい紫色のドレスを身に着けた姫に声を掛けるー。

「ー何があっても、姫様のことは守ーーー!?」

鈍い衝撃が走ったー

リーア姫が、いつの間にか持っていた剣をー
ライルに刺したのだー

「がっーー…」
血を流し、その場に蹲るライルー

「ーあはっ…あははは、あはははははははははっ!
 はははははははははははっ!」
リーア姫が笑いながら立ち上がるー

「愚かな勇者めー」
リーア姫の言葉に、ライルは”騙されていたこと”を悟るー

リーア姫は、自分の頭をつつきながら笑みを浮かべるー

「ーこの女の記憶などー
 とうに我のものだー」

ライルが話していたのは、リーア姫などではなく
「リーア姫のフリをした魔王」ー。

リーア姫が一時的に意識を取り戻していたわけではなかったー

「ーー勇者ライルー」
リーア姫は笑いながらライルに近付くと、剣を構えたー

「”魔王様”に歯向かった罪で、あなたを処刑します」
クスッと笑うリーア姫ー

リーア姫に”魔王様”と言わせていることー
そして、リーア姫の口調で”処刑”を口にしていることー

魔王自身も興奮しながらー
リーア姫の身体で、ライルを斬り捨てようとしたー。

しかしー
ライルは激痛に耐えながらも、
リーア姫の攻撃を回避するー。

「ーー大人しく死になさいー。」
笑いながら近づいてくるリーア姫ー

ライルはとっさに身を少し引いたことで、
なんとか致命傷は免れていたー。

”身体は動くかー”

剣を振るいながら、本気でライルを殺そうとしてくる
リーア姫の攻撃を回避するライルー。

だが、ライルは反撃する様子を見せずー
ひたすらリーア姫の攻撃を避けているー。

「ーーふふふ わたしに攻撃できるはずないものね?」
リーア姫の口調で挑発的に言うー。

「ーー…くそっ!」
ライルは防戦一方の状態で、リーア姫の剣から
繰り出される攻撃を回避していくー。

「ーーはぁっ はぁっ はぁっ」
リーア姫の身体から息が上がり始めるー。

”姫様の身体を傷つけるわけにはいかないー
 なんとかして、行動不能にしないとー”

勇者ライルには、リーア姫を攻撃することはできなかったー
”憑依”されている状態となれば、
おそらく、反撃しても傷つくのはリーア姫の身体であり、
魔王にダメージを与えることは難しいー。

なんとかしてー

「はぁ…はぁ… 人間とは、何とも貧弱な身体だな」
リーア姫が息を切らしながら言うー。

勇者ライルは「姫様の身体から出ればいいじゃないか」と、
皮肉を込めて呟くー。

「ククク…その心配はないー」
リーア姫はそう言うと、不気味な呪文を唱え始めるー。

魔物たちが使う魔術だー。

闇の霧のようなものが噴き出しー、
それがリーア姫の身体に降り注ぐー。

リーア姫は心地よさそうに、うっとりとした表情でー
「なんて心地よい闇なの…♡」と甘い声を出したー

”喜んで姫が闇に晒されている”
その状況は、
リーア姫を知る勇者からすれば、
見たくない光景だったー

「ーくくく…闇の魔術を使えば、この女の身体も
 いくらでも動かせるー」

リーア姫はそう言うと、剣をペロリと舐めて、
再び勇者ラッシュに襲い掛かってきたー。

先ほどよりも動きが速いー。

「ーーくっ…」
防戦一方のライルー。

ライルの腕前は確かなものだー。
魔王との直接対決であれば、ライルが勝つ可能性は
十分にあったと言えるー。

しかし、リーア姫の身体を人質に取られた状態ではー

「ーーはぁっ!」
リーア姫が、ライルに蹴りを食らわせるー

吹き飛ばされたライルの腕を踏みにじるとー
「ーーさぁさぁ、命乞いをしろ」
と、笑みを浮かべるー。

リーア姫とは思えないような悪意に満ちた笑みー。

それを見ながら、勇者ライルは
「ふざけるな…」と、苦しそうに声を出したー。

「ー”魔族の女王”であるこのわたしに命乞いをすればー
 助けてあげないこともないわよ」

”悪女になったリーア姫”風の口調で
挑発的に言うと、
勇者ライルは「貴様などに屈するものか…!卑怯者…!」と叫ぶー。

リーア姫の身体を人質に勝負を挑んでくるなど、
卑怯だー。
勇者ライルは、心からこの魔王を軽蔑したー。

「ーーーククク…ねぇ、知ってる?
 この身体ー”ここ”すっごく感じるのー」

挑発的に、身体の一部分を指さしながら笑うリーア姫ー

「ーリーア姫の喘ぐ声、聞いたことはあるか?」
ククク、と笑うリーア姫に、
「姫の口でそんな言葉口にするな!」と大声で叫ぶライルー。

「ークククククク
 毎晩毎晩、お前たちの姫さんは、あんあん甘い声を出してるんだぞ?
 ククク…
 王国を命がけで守ろうとしていた女が、今では我の意志に従って
 快楽に身を任せて、毎晩喘いでいるー

 愚かよな」

リーア姫の言葉に、ライルは怒りの形相で雄たけびを上げたー。

だがー
この状況をどうすることもできないー。

ライルは自分の愚かさを呪うー。

「ーー残念だったな、勇者ー」
リーア姫はそう囁くと、「おい!」と大声で叫んだー。

魔物たちが姿を現すー

「お前には、悪夢を見せてやろうー」
リーア姫はそれだけ言うと、
「連れていけ」と、恐ろしい声で指示を出したー。

リーア姫の声なのにー
中身が違うだけで、
こんなにも恐ろしい声に聞こえるなんてー

そんな風に思いながら勇者ライルは
なすすべもなく、そのまま魔王城の牢屋に
投獄されてしまったー。

「ーーククク…さぁ、姫よー」
リーア姫が自分の身体に語り掛けるー。

「ー我と共に、世界を血に染めようではないかー」
リーア姫は、当然、魔王に力を貸すつもりなどないー

しかし、今やリーア姫の身体と心は完全に乗っ取られて
抵抗することもできないー

「ーはい…魔王様と共に、世界を焼き尽くしますー」
”リーア姫”のような口調で、魔王がそう言わせると、
一人二役を堪能したリーア姫は
狂ったように笑い始めたー

②へ続く

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今月最初のお話は、
魔王様の憑依モノですネ~★!

次回もたっぷりゾクゾクしてくださいネ~!

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憑依<魔王城の悪夢>

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