若さに飢える母ー
その母に身体を狙われる娘ー。
幸せだったはずの家族が、行きつく先はー?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”お届け物です”
あの日ー
”憑依薬”が突然届いてー
母・蛍の運命は変わったー。
「ーーーこれは…?」
届いたお届けものを見つめる蛍ー。
最近、何かを注文した覚えはないがー
時々、食品のバーコードを集めてハガキに貼って
送るとプレゼントがもらえるキャンペーンに応募したりしている蛍は
”何か当たったのかな?”と思いつつ、
届いた荷物を開封したー。
「ーーー!?」
そこにはー
謎の液体の入った小瓶ー
一瞬、蛍は身の危険すら感じたー。
だが、その小瓶と一緒に入っていた”驚かないでください”と
書かれた紙を見て、蛍は表情を歪めたー。
そこにはー
娘・佳緒里の幼馴染であり、小さいころから家族ぐるみの付き合いのある
龍斗の名前が書かれていたー。
「ーー龍斗くん?」
佳緒里の母・蛍も当然、龍斗のことは小さいころから知っているー。
そんな龍斗から届いた”謎の液体”
それを見て、蛍は表情を歪めたー。
”電話でお話したい”
そう書かれていたー。
そしてー
蛍はその日のうちに、龍斗に連絡を入れたー。
すると、龍斗は言ったー
”それは、憑依薬ですー”
とー。
「ーーえ?」
母・蛍は表情を歪めるー
確かに”憑依薬”というものが、この世に存在するー、という
噂を聞いたことはあるし、
もし本当にあるのなら、それが欲しい、とも考えていたー
憑依薬があれば、”若さ”を取り戻すことができるからー。
だが、そんなもの、実際にあるわけがないー
そう思って、蛍は、”自分の老い”を受け入れるしかない、と、
娘の佳緒里を毎日毎日内心でうらやましく思いながら、
諦めかけけていたー
だがー
”佳緒里ちゃんのお母さんー、
ずっと若くなりたい、って言ってたじゃないですかー
だから、そういうもの、欲しいかなって思って”
龍斗の言葉に、
蛍は「これ、本物なの?」と、龍斗に確認するー
龍斗は”間違いなく、本物ですー”
と、答えたー。
蛍は表情を歪めながらも
「ー龍斗くんー…何を企んでいるの?」と聞き返したー。
そしてー
佳緒里の幼馴染である龍斗は、言葉を口にしたー。
”実は俺、佳緒里ちゃんに振られちゃってー…
お母さんに、お願いがあるんですー”
龍斗は”命がけ”でこの計画を実行に移していたー
失敗したらー
”死”すらも考えていたー。
”佳緒里ちゃんに憑依してーー
佳緒里ちゃんになったらー
俺と付き合ってくれませんかー?”
龍斗の言葉に、蛍はドキッとするー。
”娘の佳緒里になりたい”
そんな願望を、娘の幼馴染である龍斗に、
いつの間にか見透かされていたからだー。
時々会うとは言え、毎日のように顔を合わせるような関係でもなく
”娘の幼馴染”でしかない龍斗に、何故見透かされたのだろうー。
そんな風に思いながら、蛍は
「ーーわたしに若さを手に入れるチャンスをくれる代わりにー
わたしが佳緒里になったら、付き合えってことー?」
と、答えるー。
”そうですー。
お母さん、若くなりたいでしょ?
俺は、佳緒里と付き合いたいー
お互いにWin-Winです”
龍斗の言葉に、
蛍は”娘の身体を奪う”ということに散々迷った挙句ー
すぐに、笑みを浮かべたー
「わかったわー」
とー。
それがー
母・蛍が、娘・佳緒里の身体を奪おうと決意した瞬間だったー
その後、LINEで何度かやり取りをしー
蛍は、娘・佳緒里の身体を奪うチャンスを伺っていたー
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そんなことを夢にも思っていない佳緒里は、
今日も学校で、親友の紗羅と雑談をしていたー
「お兄ちゃんに相談したら、気持ちが楽になった」
そう伝える佳緒里ー
「そ、よかったー」
”家族のトラブル”が何かは知らないが友人である
佳緒里の安心した顔を見て、紗羅は安堵の表情を浮かべたー
”ーーー”
その様子を少し離れた場所から見つめる龍斗ー。
”もうすぐ、俺は佳緒里と付き合えるー”
笑みを浮かべる龍斗ー
”佳緒里のお母さんが、佳緒里に憑依したらー
約束通り、佳緒里として、付き合ってもらうー”
龍斗は、そんな風に思いながら、
佳緒里とのデートの光景を妄想して、
不気味な笑みを浮かべたー
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帰宅する佳緒里ー
「ただいま~!」
”お兄ちゃんが守ってくれている”
そう思ったからか、最近は元気を取り戻しつつある佳緒里は
母の蛍に対して、元気よく挨拶をするー
蛍は、憑依薬の入った小瓶を隠しながら、
佳緒里の方を見つめるー
今日は夫である恵三の帰りは遅いー
息子の秀太も、大学で帰りは遅いー
”憑依するなら、今ー”
今度は失敗は許されないー。
前回、
憑依薬を飲んだのに、佳緒里が目を覚ましてしまったことで、
憑依に失敗したー。
小分けにして飲んでも、5回分しかない憑依薬ー。
これ以上失敗すると、憑依できないままー
終わってしまう可能性も上がっていくー
”佳緒里…ごめんね…でも、わたし…若くなりたいのー”
蛍は、自分の老いた姿を鏡で見つめながら呟くー
40代になって、さらに衰えを実感している蛍ー
これ以上は、もう、耐えられないー
「ーー佳緒里!」
蛍が佳緒里を呼び止めるー。
「ーーどうしたの?」
振り返った佳緒里の腕を引っ張ってー
近くの机に叩きつける蛍ー。
「ーーごめんね佳緒里…お母さん…若くなりたいの…!
もう、耐えられないの!」
蛍が叫ぶー
母親として、娘を愛する気持ちは当然あったし、
身体を奪うことに対する罪悪感もあったー。
けれど、
今や、その罪悪感を塗りつぶしてしまうほどにー
蛍は”若さへの渇望”に憑かれていたー
「お、、お母さん…!?やめて!」
佳緒里が叫ぶー。
蛍が憑依薬を一口、口にすると
「佳緒里の身体が、欲しいのー!」と、叫んだー。
「やめて…!やっぱりお母さん…わたしに憑依するつもりなの!?」
叫ぶ佳緒里ー
この前ー
日記を見たことを慌てて告げると、
蛍は「見られてたのね…」と呟きながら、
佳緒里にキスをしようとしたー
だがー
「やめるんだ!母さん!」
玄関の扉が開きー、兄の秀太が飛び込んできたー
妹の佳緒里から”憑依”のことを相談されていた秀太は
その日以降、母親に”大学からの帰りが遅くなる”と嘘を告げてー
様子を探っていたのだったー
「秀太…!?」
驚く蛍ー。
秀太が駆け付けると、
佳緒里を守るようにして、自分の背後に回しー、
そして、蛍の方を見つめたー
「--母さん…なんてことを!」
そう叫ぶ秀太に対し、母・蛍は激しく動揺して、
目から涙をこぼしながら首を振ったー
「ーー二人とも…わかって!
わたし、、若くなりたいの!」
蛍の言葉に、
佳緒里は「お母さん…」と、悲しそうに蛍の方を見つめるー
”こんなお母さんの姿、見たくなかったー”
そう、思わずにはいられないほど、
醜悪な姿だったー。
「ーー………うぅぅぅぅぅ…」
母・蛍は泣きながら自分の部屋に逃げ込んでいくー
「母さん!」
叫ぶ秀太ー
秀太は机に置かれたままの憑依薬を回収すると、
「ーー母さん…」と寂しそうに呟くー
そして、佳緒里の方を見ると、「もう大丈夫だからー」と
秀太は、佳緒里を安心させようと、優しく言葉をかけたー。
その日の夜ー。
母・蛍は、家を飛び出し、近くの雑居ビルから飛び降りー
自ら命を絶ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー蛍さん…?」
翌日ー
佳緒里の母・蛍が自殺したと知りー、
佳緒里の幼馴染・龍斗は焦るー。
”蛍が佳緒里に憑依して、
憑依薬を提供した見返りに、佳緒里として龍斗と付き合う”
そういう取引をしていたのにー
その蛍が自殺してしまったー
「ーーくそっ…」
龍斗は、表情を歪めながら、”俺は、佳緒里と付き合いたいんだ…”と、
心の中でそう呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
佳緒里は、暗い表情で帰宅するー。
父・恵三も落ち込んだ様子だー。
母・蛍が、佳緒里に憑依しようとしていたことは、
父・恵三は知らないし、恵三には話していないー。
それを今、話したところで、
余計に父が悲しむだけであることは
佳緒里も理解していたからだー。
「ーーー佳緒里…大丈夫か?」
兄の秀太が呟くー。
「ーーー…………あんまり、大丈夫じゃないかも」
落ち込んだ様子でほほ笑む佳緒里ー。
「ーーだよな。」
兄・秀太は頷くー。
「ーーお母さんがわたしに憑依しようとしてて、
それでー、お母さんと仲直りする前に、
お母さんが自殺しちゃうなんてー…
なんかもう…辛い」
佳緒里が言うと、秀太は静かに頷いたー
「ーーでも、大丈夫だよ、佳緒里ー。」
秀太はそう言って立ち上がるとー
佳緒里の方に近付いてきたー
そしてー
「ーー母さんが佳緒里に憑依しようとしてるって
佳緒里から聞かされてー
本当に憑依薬を母さんが持ってるって知った時、
俺、思ったんだー」
佳緒里の近くで、秀太はそう呟くー。
「ーーー”俺が佳緒里になりたい”ってー」
「ーーー!?!?!?」
佳緒里が驚くと同時に、
秀太は佳緒里にキスをしたー。
秀太が手に隠し持っていた憑依薬の容器が床に転がるー。
”母さんが持ってた憑依薬、俺が代わりに使うよー。
母さんが自殺したの、どうしてだか知ってるー?
俺が母さんに憑依して、始末したんだー。”
「ーーーあ、、、、ぅ…」
震える佳緒里ー
秀太は昔から、妹の佳緒里を溺愛していたー。
母・蛍が”憑依薬”なるものを使って、佳緒里に憑依しようとしていると
聞いた時からー
秀太は”自分自身が佳緒里に憑依したい”と、そう思ってしまったのだー。
母・蛍の闇が、
兄・秀太の闇も、引き出してしまったー
目から涙をこぼす佳緒里ー
”ーー大丈夫だよ、佳緒里ー
もう、何も考えなくていいんだー。
安心してー”
秀太の優しい言葉を最後に、佳緒里の意識は途切れたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー」
翌日ー
佳緒里の母親・蛍に憑依薬を渡した龍斗が、
学校の廊下を歩いていると、
背後から佳緒里に声を掛けられたー。
佳緒里は、自信に満ち溢れた笑みを浮かべているー。
「ーーーちょっと、話せる?」
腕を組んでいる佳緒里を見て、
龍斗は違和感を感じるもー、
そのまま佳緒里の誘いに応じて、近くの空き教室に移動するー。
「ーーー…は、話ってー?」
龍斗は、”佳緒里にバレた”のだと思い、
不安そうに呟くー。
自分が、佳緒里の母・蛍に憑依薬を渡した人間だと
バレたのではないかとー。
クスッと笑う佳緒里ー。
「ーー憑依薬、すげぇじゃんー。」
佳緒里がニヤニヤしながら龍斗の方を見つめるー。
「ーーえ…か、、佳緒里の、お母さん、ですか?」
龍斗は、自殺した佳緒里の母・蛍が、既に佳緒里に憑依しているのだと
勘違いしてそう呟くー。
しかしー
佳緒里は龍斗を壁ドンすると、
まるで男のような目つきで、龍斗を見つめたー。
「ーー違げぇよー。
でもー
俺とー
いいや、”わたし”と付き合いたいんだろ?
これから、仲良くしようぜ?」
佳緒里の邪悪な笑みに、
龍斗は恐怖を感じながら、頷くことしかできなかったー。
おわり
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コメント
身体を奪われるまでが中心の物語でした~!
このあとは、欲望に満ちた日々を送ることになりそうですネ~!
お読みくださりありがとうございました★!
コメント
うわ~、この親にしてこの子あり、ですね。
肉親への情より自分の欲望の方が勝る、まるでケダモノみたいな酷い母と兄です。
特に秀太は自分の邪魔になる母親を自殺させてるので相当に狂ってますね。
もしかしたら父親も憑依薬の存在を知ったら、秀太みたいに佳緒里の体を奪おうとしたのかもしれませんね。
ところで秀太は龍斗と付き合うつもりなんですかね? それなら龍斗の目的は一応達成されたことになりますが。
それにしても好きな相手と付き合いたいという理由で自分ではなく、他人を憑依させようという龍斗のやり方はここの作品の中では結構、珍しい物ですよね。
多くの作品では好きな相手がいたとして、付き合うことよりも乗っ取ることに執着していくキャラの方が多いですから。
コメントありがとうございます~!
この家族の父親ですから、作中では蚊帳の外でしたが、
もし憑依に絡んでいれば、悪さをしていたかもしれませんネ~!
秀太はとりあえず龍斗君とお付き合いするつもりですが、
平気で母親を切り捨てた彼なので、
龍斗君もいずれ…
に、なりそうな感じがしますネ!
龍斗君は、本人になりたい!ではなく
あくまでも彼氏として付き合いたい願望が強かったみたいデス~!