<憑依>彼女からの誕生日プレゼント~砕かれた絆編~(後編)

”彼女からの誕生日プレゼントが憑依薬だった!”

そこから始まった悲劇と欲望の物語は、
ついに終幕を迎えようとしていた…!

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「ーーーー…雪菜」

ネットで購入した憑依薬が到着したー。

雪菜には、おそらく親友の良一郎が憑依しているー。
雪菜は頑なに認めようとしないが、
ほぼ間違いないー。

絶対に、雪菜は良一郎に乗っ取られているー。

雪菜の服装ー、仕草、ゲームセンターでの態度、
それに良一郎が失踪していることー
すべてが、”親友の良一郎が雪菜に憑依している”という
現実を示していたー。

「ーーー…雪菜…今、助けるからー」
文彦はそう呟きながら、
雪菜と写っている写真を見つめるー。

雪菜本人にも、既に嫌われているかもしれないー。
良一郎から雪菜を救い出しても、
雪菜と元の関係に戻れる、などと、
都合の良いことは思っていないー。

それでもー
雪菜を助けたかったー。

意を決して憑依薬を飲み干す文彦ー。
文彦は幽体離脱して、
すぐさま雪菜の家に向かったー。

「ーーはぁぁぁ~~~…たまんない…」
部屋の中で、雪菜は、夜の営みをするときのようなー
過激な恰好をして、鏡の前でポーズを決めていたー。

「ーーあぁぁぁ…♡ こんな格好をしてるなんて…♡
 やばいよ…♡」
雪菜が顔を真っ赤にしながら嬉しそうに
太もものあたりを触るー。
その表情は、完全に雪菜のものとは思えないぐらいに
歪んでいたー。

”ーーーーー…やっぱり、お前なんだな”
霊体になって、雪菜の部屋にやってきていた文彦は
胸を触っている雪菜を見つめながら、そう呟いたー。

”彼女の部屋を覗くなんて…”と
罪悪感を感じながらも、これでハッキリとしたー

雪菜は、良一郎に乗っ取られているー。

「ーーへへへへへ この身体は俺のものだぜ!」
鏡の前で笑う雪菜ー。

文彦はーー
雪菜を救うため
”最後の手段”に出たー。

それはーー

「ーー雪菜…ごめん!」
もう一度、雪菜の身体に憑依することー。

そしてー
雪菜の体内から、良一郎を追い出すことー。

「ーーーーー!!!!」
雪菜の身体に入り込んだ文彦はー
”この前”雪菜に憑依したときとは、違う状態に驚くー。

この前は、雪菜の身体に憑依した直後にー
雪菜の身体の感覚や、雪菜の視界が見えてきて、
雪菜を自由に操ることができたー。

だがー
今日はー

不気味なドロドロとした世界にやってきてしまったのだー
粘液のような不気味な物体とー
”あらゆる欲”が可視化されたかのような、
不気味な、空間ー

「ーーなんだ、ここはー?」
自分は雪菜に憑依したはずー。
では、ここは一体何なのかー?

雪菜の精神世界とでも言うのだろうかー。

そんな風に思いながら、さらに奥へと進んでいくとー

そこには、見慣れた姿があったー。

背を向けているその男に声を掛ける文彦ー。

「ーー良一郎…!」
とー。

良一郎は振り返ると「文彦…」と、表情を歪めたー。

「ーー良一郎…!やっぱり、やっぱりお前だったのか!」
文彦が悲しそうに叫ぶと、良一郎は、
「雪菜ちゃんは、もう俺のものだー。邪魔をするなー」と
笑みを浮かべたー。

「ーーここは、雪菜ちゃんの中ー。
 見ろよ。俺の欲望で、雪菜ちゃんの中身は塗りつぶしてやったー。
 雪菜ちゃんの身体は、完全に俺のものだー」

良一郎はそう言うと、
文彦は「俺がここに来たってことは、どういうことか分かってるよな?」
と、良一郎に鋭い視線を送りつけるー。

「ーーあぁ…あれだろ?お前も憑依薬を飲んで、雪菜ちゃんに
 憑依したってことだろ?」

その言葉に、文彦は「雪菜を返せ!」と叫んだー。

「ーーおいおいおいおいー」
良一郎はそれだけ言うと、首を振ってからー
自分の姿を、雪菜に変形させたー。
精神世界であるが故に、自分の姿も自由自在、ということだろうかー。

「ーーもうさ、俺がー
 いいや、わたしが雪菜なの。あきらめなよ」
雪菜の姿をした良一郎が笑うー。

「ーーいつからだ?」
文彦が突然、言葉を口にするー。

「ーーーあ?」
雪菜の姿をした良一郎が間抜けな声を出したー

「ーーいつから…いつから、そんな風になってしまったんだ!?」
文彦は、悲しそうに叫んだー。
良一郎とは、確かに”親友”であったはずだ。

それなのに、どうして、こんなー。

「ーー…最初は祝福してたさ。
 お前と雪菜ちゃんが付き合い始めたときは、なー。

 でもさ、お前を通じて、雪菜ちゃんを見ているうちに、
 俺も雪菜ちゃんのことが気になり始めてさー。

 だんだんと、”俺が雪菜ちゃんを奪いたい”
 そう思ってしまったんだー。」

笑いながら言う雪菜の姿をした良一郎ー。

「ーそんな時だったかな。偶然、ネットで憑依薬を見つけてさー。
 
 …もちろん、最初は俺も”本当に憑依なんてできるわけがない”
 って思ってたさ!

 でもー
 ”そういえばお前、憑依好きだったよな”って思い出してー
 お前をモルモットに実験してみることにしたんだー」

雪菜の姿をした良一郎の言葉に、
悔しそうな表情を浮かべる文彦ー。

憑依薬が現実に存在するかもしれないー。
そう思った良一郎は、徐々に狂気に囚われていきー
やがて、”雪菜ちゃんを奪いたい”から
”俺が雪菜ちゃんになりたい”という歪んだ願いを
抱くようになったー。

「ーーーそして、この通りー
 今じゃ俺が、雪菜ちゃんだー
 クククク」

笑う雪菜の姿をした良一郎ー。

「ーーふ、、ふざけるな…!
 俺や、雪菜のこと…お前は何にも考えていないじゃないか!
 お前自身の欲望のために、雪菜や俺を巻き込むな!」

文彦が叫ぶと、
雪菜の姿をした良一郎は笑みを浮かべたー。

「ーー欲しいものを手に入れるためなら、
 親友や、親友の彼女が犠牲になることぐらい、
 どうってことねぇさ」

雪菜の姿で笑う良一郎ー。

良一郎は、最初からこういうやつだったのだー。
それに、気づけなかったのだー。

そう思った文彦は、「雪菜から出ていけ!」と叫んだー。

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「ーーあ…ぐ、、、ぁ…」

一方、二人に憑依された雪菜は、
部屋でエッチな恰好のまま膝をついて、
ビクンビクンと震えながら、よだれを垂らしていたー。

文彦の意識と良一郎の意識が、雪菜の中で
戦っているー。

そんな状態は、雪菜の身体に強い負担をかけていたー。

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「ーーへっへへへへ…
 この身体は、もう俺の欲望で支配されてるんだぜ!
 ほら、見ろよー!」

雪菜の姿をした良一郎が叫ぶと、
雪菜の精神世界の中に、
裸の雪菜の姿と、雪菜の喘ぎ声が響き渡り始めたー。

「ーーへっへへへ…雪菜ちゃんの”中”は
 俺の欲望で満たされてるんだぜ…!」

雪菜の姿をした良一郎が心地よさそうに言うー。

「ーーふざけるな…!ふざけるな!」
文彦は、雪菜の姿をした良一郎にとびかかるー。

「ーー離せよ…。
 お前にできることはもう何もねぇ」
雪菜の姿から、良一郎の姿に戻り、良一郎は笑う。

「ーー雪菜ちゃんは俺のものだ!
 もう、お前にできることは何もない…!あきらめろ」

良一郎がそう言うと、
文彦は、良一郎の方を見て、呟くー

「ーーわかってるだろ…?
 そんなこと言っても、俺が諦めるわけがないって」

文彦がそう言うと、良一郎は少しだけ笑ったー。

「ーそうだったなー。」

文彦の親友でもある良一郎は、文彦の性格をよく知っているー。

そうー
文彦は”好きなもの”に対して一生懸命だー。

”TSFモノ”に対してもー
”彼女”に対してもー

「ーだったらー、力ずくで排除してやるー!」
雪菜の体内で、霊体同士の戦いが始まるー。

文彦の霊体と、良一郎の霊体が
激しい殴り合いを始めるー。

文彦は、普段人を殴ったりするようなことはないが、
今は霊体であるということや、
雪菜を助けたいという思いからー
必死で良一郎に立ち向かったー

「ーーん…っ… あ…… ぁぁぅぅぅぁ…」
身体の中で、文彦と良一郎の意識が暴れている
雪菜は、エッチな恰好のまま、白目を剥いて
部屋でぴくぴくと震えていたー

「ぁ……♡ ぅ…♡」
苦しそうにうめく雪菜ー

そんな雪菜の状態を知らずー
二人の戦いは続いていたー。

そしてー

「ーーはぁ…はぁ…はぁ…」
雪菜の体内では、文彦が良一郎を倒していたー。

雪菜の精神世界で、良一郎は仰向けに倒れて笑うー。

「く…く…くく……やっぱすげぇな…」
良一郎は呟くー。

「ー好きなものに対する愛情じゃー
 お前に、勝てねぇな…」

良一郎の言葉に、文彦は良一郎に近付くと、
「雪菜から、出ていくんだ!」と、
力強く叫んだー。

「ーーーー……」
良一郎は、少しだけ考えると、
「ーーあぁ……雪菜ちゃんに、なりたかったなぁ……」と呟くー。

「ーーー…ふざけるな!憑依や入れ替わりは
 実現しないからこそ、妄想が広がって美味しいんだよ!
 現実でそれをやるなんて…!
 乗っ取られる側のことも考えろよ!」

文彦の言葉に、良一郎は少しだけ笑うと、
「ーーーわかったよ……あばよ」と、呟いて、
そのまま光の雫のようになって消滅したー。

雪菜の身体から、良一郎が出ていったのだろうー。

文彦は安堵の溜息をつくー。
雪菜の精神世界の景色が変わっていくー。

良一郎が抜けたことによる影響だろうかー。

文彦は”俺も出なきゃな”と呟いて、
そのまま雪菜の身体から飛び出したー。

しかしー

雪菜は、白目を剥いたままピクピクと震えて、
気を失っていたー

”ゆ、、雪菜…?”

二人の人間が憑依した影響だろうかー。
文彦は慌てて自分の身体に戻ると、
そのまますぐに救急車に通報、雪菜の住所を伝えー
雪菜は救急搬送されたー。

エッチな恰好のまま搬送されてしまったが、
そんなことは言ってられないー。

文彦も、自分の身体で、すぐに雪菜の搬送された病院に
駆け付けた…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーーくそっ…」
病院に駆け付けた文彦は、唖然としていたー。

雪菜は、意識を取り戻さず、
昏睡状態に陥ってしまっていたー。

先に駆け付けていた雪菜の両親によれば、
医師は原因不明、と言っているとのことだったー。

雪菜の両親はまだ、文彦と別れたことは知らないのか、
文彦に対しては”娘の彼氏”として接してきたー。

最近は、突然雪菜が連絡をくれなくなって
困惑していたところー
こんな結果に、と、雪菜の両親はひどく悲しんでいたー。

「ーーー……」
医師は原因不明と言ったー。

だがー
文彦には原因は分かっているー

”憑依”のせいだー。

良一郎が、長い期間憑依していたせいかー、
それとも、文彦が憑依して”二人の人間が同時に憑依した”せいかー、
それは分からないー。

だがー
いずれにせよ、自分が、雪菜を傷つけてしまったことに、
変わりはないー。

「雪菜…」
文彦は、眠ったままの雪菜を見つめながら呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・

あれから数か月ー。

良一郎は、あのあと、自宅で変死体として
発見されたー。
死因は”餓死”ー
おそらく、雪菜に憑依している間に、身体が死んでしまったー…
ということなのだろうー。

そしてー

雪菜もまだ、目を覚ましていないー。

「ーーー雪菜…」
文彦は、あれから毎日、雪菜のお見舞いに足を運んでいるー。

いつか、雪菜が目を覚ますと信じてー

「ーー俺…どんなに罵倒されても、
 何をされてもかまわないからー…」

文彦は寂しそうに雪菜を見つめるー

「だからーー
 目を覚ましてくれー…
 雪菜ー」

祈るようにして嘆願する文彦ー

いつの日かー
雪菜が目を覚ましたらー

その時は、どんな罰でも受け入れようー。

文彦は、そう思いながら
大切な彼女の目覚めの日を、
毎日毎日、待ち続けるのだったー。

おわり

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コメント

「彼女からの誕生日プレゼント」の完結編でした~!

もし、いつか彼女が目を覚ましたら
その時はまた、何か動きがあるかもしれないですネ!

お読みくださりありがとうございました!

※土曜日のみ以前から予約投稿で更新しています!
 現在はサイトリニューアル後のため、
 予約投稿機能のテストも兼ねて0時に予約投稿しています
(土曜日以外はその日に書いてお昼前後に更新しています)

コメント

  1. 匿名 より:

    とりあえず、良一郎の思い通りになったり、良一郎を雪菜の身体から追い出した文彦が当初の目的から外れて、そのまま雪菜の身体を乗っ取ってしまうような後味の悪い結末にはならなくてホッとしました。

    それにしても、文彦は本当にまともというか、すごく立派ですね。
    ↓のセリフ、他の作品で数え切れないくらいいる、自分勝手で最低最悪な憑依人達に聞かせてやりたいくらいです。 

    「ーーー…ふざけるな!憑依や入れ替わりは
     実現しないからこそ、妄想が広がって美味しいんだよ!
     現実でそれをやるなんて…!
     乗っ取られる側のことも考えろよ!」

    文彦はあくまで趣味は趣味として、現実で暴走したりせず、節度をちゃんと持ってるのですごいです。それに、雪菜との関係を元通りにしようとか、見返りを求めず、私利私欲で動いてないとこも立派ですね。

    それにしても、昏睡状態の雪菜が目を覚ました後、どうなるのかすごく気になります。
    例え、雪菜が今回の件の真相を知ったとしても、文彦との関係が戻るのは難しそうですよね。というか、憑依で自分の人生を奪われかけたことで、憑依という概念そのものがトラウマになってそうな気がするので、そんな趣味を持ってる文彦みたいな人間を受け入れるのは無理そうな気がします。

    多分、創作だとしても、憑依描写のある内容の作品を雪菜が見たら精神に異常をきたすんじゃないですかね?

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!

      文彦はとっても良い子でしたネ~!

      昏睡状態の雪菜が目を覚ましたあと…
      確かに仲直りできるとも限りませんし、
      憑依がトラウマになっている可能性もありますネ…!

      なんだか、まだ続きが書けそうな気もしてきました…!

  2. 匿名 より:

    なんか繰り返し読んでて、気づいたんですけど、良一郎は実際のとこは、どうなったんでしょう?

    改心して雪菜から出てったみたいに見えますが、良一郎の身体は死んでるし、そのまんま成仏したんですかね?

    良一郎の計算高さと執念深さを考えると、妨害されたからといって、雪菜を乗っ取るのを簡単に諦めるようには思えない気がします。それに親友を実験台にして憑依薬の安全を確かめるくらい保身的だった良一郎が潔く自分の死を受け入れる気がしませんし。

    文彦には勝てないから、とりあえずは、引いただけで、間に合せに他の女の子の身体でも奪って、雪菜を乗っ取る機会を伺ってるんじゃ?

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!

      成仏したようにも見えますが
      ”あえて”曖昧にしてあります~★!

      その謎は…いつか解けるかもしれません!と、だけ…★!