人々の”大切な人にもう一度会いたい”という願いを
”変身”の力で叶えている
”現世とあの世の仲介人”・板倉ー。
そんな、彼の元に現れた依頼人はー?
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板倉の元には、
板倉の学生時代の親友・誠太郎が訪れていたー。
「頼む…妹に…、美里にもう一度、会わせてくれ!」
土下座して頼みこむ誠太郎に対して、
「わ、、わかった、顔を上げてくれー」と、
板倉は言い放ったー。
板倉は”断る理由はないー”と、判断した。
”現世とあの世の仲介人”を名乗っているものの、
実際に死者の魂を呼び寄せたりしているわけではないー。
板倉が事前に”依頼人”から写真などを提供してもらい、
聞き取りを行い、それを元に”再会”を演出するのだー。
実際には”依頼人の大切な人に変身した板倉”と
依頼人は会話しているだけなのだが、
今まで、何人もの依頼人が、とても喜んでいたし、
先日の恋人を失った龍介のように
大切な人との再会が、”前を向くきっかけ”になる人間もいるー。
悪さをしているわけではないし、
依頼人も満足し、おそらく死んだ”大切な人”も、
残された人が立ち直るきっかけになるのであればー、と
思ってくれているだろう-。
だが、それでも板倉は心を痛めていたー
”結果さえ良ければ良い”と割り切れる人間だったら
どんなに良かっただろうかー。
板倉は、どうしても
”依頼人を騙している”という罪悪感に襲われてしまうー。
自分の”他人に変身できる能力”に気づいたときに
”どうにか人助けに使えないか”と考えた結果、
たどり着いたのが、この道ー。
もちろん”変身能力”などが、世間に知れ渡れば
世間は大混乱するー。
だからー
”自分が変身能力を持っていると、誰にも気づかれないように、
かつ、人々の役に立つ変身能力の使い方”となれば、
これが最適だと、板倉は思っていたー。
「本当か!?俺を、美里に会わせてくれるのかー?」
親友・誠太郎の言葉に、
板倉は「それが俺の仕事だし、親友の願いであれば、なおさら、
断るわけにはいかないだろ?」と、ほほ笑んだー。
「--ははは…ありがとう…!本当にありがとうー!」
誠太郎が嬉しそうに笑うー。
断ればー
自分と誠太郎の間に溝が出来るだろうし、
誠太郎は”妹を失ったショック”から立ち直れないままになってしまうかもしれないー。
だからー。
”親友を騙す”という罪悪感を堪えてー、
引き受けたー。
相手が親友の誠太郎と言えども、
”変身能力”のことは、さすがに話すことはできないー。
”いつも通り”
再会したい相手の写真、名前、性格、経歴、普段の仕草などの
聞き取りを行っていく板倉ー。
写真は”変身”するために必要でー、
そのほかの情報は”再会”を演出する際に必要な情報だー。
「--わかった。まぁ…美里ちゃんのことは俺も知っているけどー…、
あの世とつなぐために、必要な情報だからな」
板倉が言うと、
誠太郎は「に、してもお前すげぇよな…どうやってそんなことを?」と笑う。
「-企業秘密だ」
板倉が言うと、誠太郎は「だよな」と笑ったー。
そしてー
板倉は「もう一度会いたい理由を、聞いてもいいか?」と呟くー。
これも、いつも”依頼人”に聞く質問だー。
「--あぁ」
誠太郎は頷いたー。
誠太郎は、妹・美里のことを語ったー。
大学時代ー
誠太郎が板倉と同じ大学に通い、共に楽しい日々を
過ごしていたころ、妹・美里の体調は安定しつつあったー。
病院通いは相変わらず続いていたが、
小さいころから美里が世話になっている医師も
前向きに考えていい、と言っていたー。
しかし、大学を卒業して、数年後ー
美里が、インフルエンザに感染したことをきっかけに、
急激に体調を崩してしまったー
幼いころから複数の病気と、難病を併発していた美里の身体にとっては
非常に大きな負担となったのだー。
通常の人はー
多くの人が通過する道かもしれないー。
だが、美里の身体にとっては、そのインフルエンザが、非常に大きな負担となったー。
緊急搬送された美里ー。
結果ー
インフルエンザ自体は治ったー。
だが、美里は、その数日後に急変してー
そのままこの世を去ってしまったー。
死因は”心臓”だったー。
小さいころから、”ある異常”が認められ経過観察を続けていた場所だー。
インフルエンザになったことがトリガーとなったのかー
それともたまたまなのか、それは分からない。
だがー
「---俺、”お前が辛いときは側にいてやるから”って約束したのにー」
誠太郎は悔しそうに拳を握りしめるー。
「---俺、美里が急変した日ー
会社の送別会に呼び出されててさ…
病院からの電話にも、気づけなかったんだー」
誠太郎は、涙をこらえながら言ったー。
「--俺…約束したのに…
美里を一人で逝かせちまった…」
誠太郎の言葉に、板倉は「そっか」と頷くー。
「--それは…残念だったな…」
板倉は心底悲しそうにそう呟くと、
誠太郎は「俺…謝りたいんだ…美里に!」と、叫ぶー。
その言葉に、板倉は静かに頷いたー。
誠太郎は、どうすることもできなかった死であるとは言え、
妹の死に立ち会えなかったことを悔やんでいるのだろうー。
しかも、病院から再三連絡があったにも関わらず、
自分が、上司との酒で酔っていたことが、
許せなかったのだろうー。
「---…場所はー」
板倉はいつものように場所を指定し、
希望の日時を誠太郎から聞き取ると、
「じゃあ、今日はこれで大丈夫だ」と、誠太郎の方を見て呟いたー
誠太郎は「悪いなー…お前も知り合いをあの世から呼び寄せるなんて
気分のいいもんじゃないだろ?」と、呟くー。
「--……いいさ…親友の役に立てるなら、願ってもないことだー」
板倉の言葉に、誠太郎は「ありがとな」と、ほほ笑んだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
約束の日ー。
誠太郎が、板倉から指定された場所にやって来るー。
板倉は、事前にその場所に向かい、
”いつものように”変身能力を使うー。
”美里ちゃん…ごめんな…
美里ちゃんの姿…少しだけ借りるよ”
板倉はそんな風に思いながら、
美里の姿に変身したー。
写真を見つめながら、強く念じるー。
みるみる体格が変わり、髪が伸び、
胸が膨らみー、
服装も、写真の通りに変わっていくー。
”服装”は提供された写真次第では、
再会にふさわしくない服装になることもあるから、
その場合は、板倉が、事前に着替えを持ち込み、
変身後に着替えるー。
だが、今回はその必要はなさそうだったー
「あ…あ~~…あ」
美里の姿で発声練習をする板倉ー
人によって、”声を出す”という行為でも
大きくその雰囲気は違うー。
なんというか、感覚が違うのだー。
だからまず、変身したら
”不自然”にならないように、こうして発声練習をするー。
そしてー
それが終わるとーー
”事前に用意していた”
白い煙幕を使ったー。
これも、”演出”
煙幕に包まれて登場しー
煙幕に包まれて姿を消すー。
”あの世とコンタクトしている雰囲気”を出すための演出だったー。
「---ふぅ」
深呼吸をして”美里”の姿で、既に待っている兄・誠太郎のところに向かうー。
「---美里!!!!!!」
誠太郎は、美里の姿が見えるや否や、そう叫んで、
駆け寄ってきたー。
「--お兄ちゃん…」
”美里”の性格を思い出しながら、忠実にそれを演じる板倉ー。
「--美里…ごめんな…!本当にごめんな…!」
誠太郎が、美里の姿をした板倉を抱きしめるー。
”ごめんな…は俺の方だよー”
そんな風に思いながらも、”仲介人”としての務めを果たす板倉ー
「--ううん…小さいころから、お兄ちゃん、わたしのこと
ずっとずっと、面倒見てくれてたし、
わたし、怒ってなんかいないよ」
美里の姿をした板倉が微笑むー。
「--美里…でも俺……、美里が苦しんでいるのに、
側にいてやれなかったー」
誠太郎が言うと、美里の姿をした板倉は首を横に振ったー。
「--”離れていても、いつも美里と一緒だ”ー」
美里の姿をした板倉が言うー。
前にー
美里が体調を崩して、入院した際にー
板倉と誠太郎が一緒にお見舞いに行ったことがあるー。
その時に、誠太郎が美里に言っていた言葉を
美里の姿をした板倉は使ったー。
「-お兄ちゃんがくれたお守りー
あれがあったからー
わたし…一人じゃなかったしー、
最後まで頑張れたんだよ」
美里は、その時に誠太郎が渡したお守りを握りしめて、
亡くなっていたのだというー。
だから、そのエピソードを利用したー。
兄である誠太郎の気持ちが、少しでも軽くなるようにー。
美里の姿をした板倉が言うと、
誠太郎は「美里…」と、涙を流しながら
美里の姿をした板倉の方を見つめたー。
謝罪から雑談ー
誠太郎の現状などー
色々なことを話す二人ー。
板倉の頭の回転の良さで、ボロを出さないようにしながら、
慎重に話を進めていくー
誠太郎は本当にうれしそうだったー。
そして”時間”がやってくるー。
誠太郎の顔は、とても晴れやかだったー。
美里の姿をした板倉は、
「お兄ちゃんのこと…ずっと見守ってるからー
だからー…あまりわたしのことで苦しまないでー」
と、悲しそうに微笑んだー。
「----…あぁ…わかった」
誠太郎がうなずくー。
「----…またね」
美里の姿をした板倉は、いつものように、
煙をうまく放って、姿を消そうとするー。
だがー
誠太郎は、”最後に”と、美里をぎゅっと抱きしめたー。
「---……ありがとう…本当に、ありがとうー」
誠太郎の言葉に、抱きしめられた美里の姿をした板倉は、
ドキッとしながらも、
”ここまで信じてくれている親友を騙している”ということに
激しく心を痛めー
思わず目から涙をこぼしたー。
「---…お兄ちゃん…」
”誠太郎”と呼びそうになるのを必死に我慢して、
そう呟くと、
「-わたしこそ、ありがとうー」
と、呟いて、そのまま色々な思いを抱いたまま、
”いつものように”演出をして、姿を消したー
煙に紛れて誠太郎から離れー、
すぐに少し離れた場所で変身を解除しー
そのまま板倉はその場から立ち去ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日ー
「-ーお前なら、報酬は別にいいのにー」
板倉は報酬を受け取りなたら、笑うー。
「-いや、そうはいかないさ。お前にとっちゃ仕事でもあるだろ」
誠太郎の言葉に、板倉は「じゃあ、お言葉に甘えて」と、
報酬をしっかりと受け取ったー。
「----」
誠太郎は板倉の方を見つめながらー
”ーーお前は、立派だよー。
俺だったら、きっとー”
と、心の中で呟いたー。
誠太郎は、学生時代、板倉が後輩のとあるトラブルを解決する際に
”変身”しているのを目撃してしまったー。
だが、本人には一切言わず、ここまで生きて来たー。
何かの見間違いかとも思っていたがー
今回、確信したー。
再会した美里は、おそらく本人ではなく、板倉が変身した姿であるとー。
”美里”のことしか知らなければ、おそらく気づかないだろうー。
板倉の振る舞いは、完璧だったー。
だが、他の客とは違い
”美里”と”板倉”その両方を知っているからこそー
誠太郎には分かってしまったー
”ほんのわずかな違い”にー。
「--板倉。本当にありがとなー。
これで俺は、前に向かって歩んでいける気がするよー」
「--それは良かったー。
美里ちゃんも喜ぶさ」
板倉が言うと、誠太郎は少しだけ笑って
そのまま事務所の外に向かうー。
扉の前で立ち止まった誠太郎は
「--”その仕事”に誇りを持てよー。
お前のおかげで、前に進める人も多いはずだからさー」
と、呟いたー。
誠太郎は”変身”のことを言っているのだが、
板倉は”現世とあの世の仲介人”としてのことを言われていると思い、
「--あぁ、そうだな、ありがとう」と、ほほ笑んだー
「---嘘って、人を傷つける嘘もあれば、
人を救う嘘も、あるもんな」
誠太郎は独り言のようにそう呟くと、板倉は「え?」と聞き返すー
それには答えずー
「-今度、機会があればメシでも行こうぜ」
誠太郎はそれだけ言うと、ニッと笑って、そのまま立ち去って行ったー。
「----」
一人残された板倉は、少しだけ微笑んだー
”そっか、誠太郎、お前は気づいてたのかー”
そう呟くと、
”人を救う嘘”かー…
と、思いながら、板倉は少しだけ気持ちが楽になった様子で呟いたー。
「--そうだなー。」
今回、救われたのは、自分のほうかもしれないなー。
そんな風に思いながら、板倉はまた、”次の依頼人”が
やってきたのを察して、「--どなたと再会したいのですか?」と、
やってきたお客さんに、優しく尋ねたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
変身能力を”良い方向”に使っている人の
お話でした~!★
毎日書いているので、たま~に、こういうお話も…!
お読み下さり、ありがとうございました!!
コメント
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いつも愛読させていただいています。
最近、誰かが亡くなるというお話が多いので、このご時世と重なって何か暗い気持ちになっていました。
今回のようなホッコリするお話はとても素敵です。
また機会があったらこのようなお話を執筆していただけたらと思います。
毎日更新、ありがとうございます。
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コメントありがとうございます~!★
確かに、色々暗いことが続いていますからネ…
ダークなお話もいつも通りのペースで続いていくとは思いますが、
希望を持てるようなお話も時々登場するので、
今回はどっちかな…?みたいな感覚で楽しんで頂けると嬉しいデス~!
いつも愛読…!
ありがとうございます!!
今後も頑張ります~!
誠実な気持ちと気持ちが触れ合う様を読み進めるのは心地よいものですね。もしやあんなことやこんなことがとはらはらしましたが。
こちらにもコメントありがとうございます~!
私の作品だと、どっちに転ぶか最後まで
分かりにくいので、ドキドキかもですネ…!