彼氏が”TSF好き”であることを知っている彼女ー。
そんな彼女から渡された”誕生日プレゼント”は、
なんと、”本物”の憑依薬だったー。
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「-ーーー」
”悪の怪人に憑依されて、悪事を企む女子高生”
そんな特撮作品を見ている二人ー。
男子大学生の森重 文彦(もりしげ ふみひこ)は、
とても楽しそうに、その様子を見つめているー。
一方、文彦の彼女で同じ大学に通う女子大生
氷室 雪菜(ひむろ ゆきな)は、あまり面白そうにはしていなかったー。
特撮の憑依回が終わると、
文彦はとても満足そうに「は~!面白かった!」と笑うー。
「---……う~ん…やっぱりわたしにはよく分からないかも…」
雪菜が苦笑いすると、
「--まぁ、趣味は人それぞれだし、あまり無理しなくていいよ」と、
文彦は笑いながら言うー。
文彦は、
大の”TSF”系ジャンル好きだー。
男が女に憑依する「憑依モノ」や、
「入れ替わり」などを特に好んでいるー。
その趣味は、彼女の雪菜も知っていて、
今日は、文彦の趣味を理解したい、という理由で、
雪菜から頼み込んで、文彦の部屋で”おすすめの作品”を
見せて貰ったのだが、結局、文彦の趣味を理解することはできなかったー
文彦も、”雪菜に理解しろ”と押し付けたことは一度もないー
文彦は、趣味は人それぞれだと思っているし、
雪菜の趣味にもしっかりと理解を示していて、
”それでいい”と考えているー。
「-ーー人が、誰かに乗っ取られたりしててもー
わたしの場合は”可愛そう”って思っちゃうだけかなー…
さっきの怪人に憑依された子も、そうだしー」
雪菜の言葉に、
文彦は「はは!まぁ、それが普通の反応なのかもな!」と笑ったー。
「--俺の場合は興奮しちゃうんだけど!」と、苦笑いする文彦ー。
文彦は、これまでにも仲良くなった女子に”趣味”を打ち明けたことがあるがー
その都度、引かれてしまったー。
女子からすれば、”女が乗っ取られるのが好き”なんて趣味を持つ男は、
やっぱり、ちょっとアレなのかもしれないー、などと
文彦は思いながらも、それでも、仲良くなった相手には、
男子だろうが、女子だろうが、その趣味を打ち明けていたー。
”TSFが好き”
それも、立派な誇れる趣味の一つなのだからー。
それに、趣味を隠して生きるー、なんて生き方は
文彦にはできなかったー。
好きなモノを堂々と、好き!と叫ぶー。
それは、恥ずべきことではないー。
文彦はそう考えているー
だからこそ、親しくなった相手には、”TSF好き”であることを
正直に伝えるし、
隠すつもりは何もなかったー。
TSFが好きであることは、犯罪でもなんでもないー。
もし、それで偏見を抱かれたり、引かれたりすれば、
それは、それまでの間柄だったのだー、と
文彦は”割り切った”考え方をしていたー。
友人にも、彼女にも
”趣味を一緒に好きになってくれ”と要求したことは一度もないー
ただ、”否定しないでいてくれれば”それでいいー。
そんな文彦にとっての、”趣味を受け入れてくれた彼女”が
雪菜だったー。
これまで、一人だけ付き合ったことがあるが、
趣味を打ち明けたその日に、振られたしー
それ以降は、先に趣味を打ち明けるようにしているが、
そのせいか、彼女が出来ることはなかったー。
とは言えー
犯罪でもないことを”隠さないといけない”人間関係など
文彦は、必要としていなかったー。
趣味を隠さないと友達や恋人でいることができないのであれば、
それは、本当の意味での友達や恋人ではない。
それが、文彦の持論なのだー
雪菜が、文彦の顔を覗き込むー
「じゃあさ、もしも、もしもわたしが憑依されたりしたら、興奮する?」
クスッと笑う雪菜ー
「ブッ!」
飲んでいたカルピスを吹き出した文彦が
雪菜の方を見ると、文彦は顔を赤らめながら
「い、いきなり何を言い出すんだよ!」と叫んだー
雪菜は「ほら、だって、憑依のお話で興奮しちゃうみたいだし、
わたしが乗っ取られたら興奮するのかなぁ~って」と、
楽しそうに文彦の方を見つめたー
「--ち、ちがっ!俺はあくまでもそういう話が好きなだけだから!
現実で憑依しようなんて思わないし、
身近な人が…憑依されでもしたら
そりゃ、必死に助けるさ!雪菜のことだって!」
文彦が言うと、
雪菜は「そっか!」と笑みを浮かべたー。
彼女の雪菜は、とても心優しい性格の持ち主で、
容姿も可愛らしいー。
ちょっぴり悪戯好きで、人を揶揄うのが好きな性格ではあるものの、
そんな一面も、また可愛らしく思えたー。
「---文彦がもし”憑依できる力”とか手に入れたら
真っ先にわたしに憑依しそう~!」
雪菜の言葉に、文彦は「しないって~!」と顔を赤くしながら笑ったー。
しばらく憑依トークをすると、
文彦は「あ、そろそろお昼にしようか」と提案しー
雪菜も「あ、うん!そうだね!」と、ほほ笑んだー。
昼食の準備を始める文彦ー。
そんな文彦の姿を見つめながら、雪菜はクスッと微笑んだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
半月後ー
今日は、文彦の誕生日ー。
大学が終わった後に、雪菜の家でお祝いをすることになっているー。
「---じゃあ、また後でね!」
昼休みが終わると、雪菜が微笑みながら手を振って、立ち去っていくー。
文彦と、雪菜の関係は、相変わらず良好だったー
だがーー
この日、彼女から”とんでもないプレゼント”を渡されることになるとは、
この時の文彦はまだ、夢にも考えていなかったー。
「----誕生日、おめでと~!」
雪菜の家に入ると、雪菜が、クラッカーのようなものでお祝いしてくれたー
「--さぁ入って入って~!」
雪菜が微笑みながら、文彦を家に招き入れるー。
雪菜の家の中にはー
ロックバンドグループのポスターが貼られているー
雪菜は、男性人気の高いバンドグループのファンで、
そのグループのライブに行くと、別人のように豹変してしまうぐらいだー。
文彦には、そのバンドグループの良さは分からなかったがー、
”雪菜の趣味”として、ちゃんと、それを受け入れていたー
雪菜が文彦のTSF好きを受け入れてくれている以上ー
文彦が雪菜のロックバンド好きを受け入れるのは当然ー
と、文彦は考えていたー。
「---おぉ~!こんなに食べられるかな」
豪華なテーブルを見て文彦は「なんかこんなに豪華にしてもらっちゃって
悪いなぁ~」と、苦笑いするー
雪菜は「いいのいいの!いつも文彦には楽しい思いさせてもらってるし!」と笑うー。
思えばー
雪菜と出会ったのは、”人間が憑依される絵本”を大学の図書館で見つけて
読んでいたときだったー。
”絵本、好きなの?”
と、興味本位で聞いてきた雪菜ー
”あ、いやー”
と、文彦は答えたが、それから”絵本好き”だと勝手に勘違いされて、
雪菜は何かと文彦に声を掛けて来るようになったー。
最終的に”絵本じゃなくて憑依とか入れ替わりを読んでるんだ…”と
打ち明けるまで、勝手に”絵本好き”にされていたー。
その時のことを思い出しながら少しだけ微笑んでいるとー
雪菜は奥から紙袋を取り出したー
「はい!誕生日プレゼント!」
雪菜から手渡された紙袋を持ちながら
「--お~!ありがとう!何かな?」と言いながら
中身を確認するー
すると、そこにはー
”憑依薬”と書かれた、
ビンの容器に入った飲み物のようなものが入っていたー。
「--ぶっ!」
文彦は思わず笑ってしまったーー。
どう見ても炭酸飲料の”ラムネ”にしか見えないー。
こんなものを渡されるなんてー、と
苦笑いしながら雪菜の方を見ると、
「--本物だよ」と、雪菜は笑ったー。
「---え」
文彦は戸惑うー。
スカートを整えながら、椅子に座ると、
雪菜は「ほんもののひょういやく!」と、強調するかのように、
そう言い放ったー
「は?い、、いやいやいや、さすがにそんな嘘には引っかからないけど!」
笑う文彦ー
だが、そんな文彦に対して
雪菜は、「本物だよ」と、自信満々に微笑むー。
「---~~~~」
文彦は”どこからそんなもの手に入れたんだよ”と思いながらも、
ニヤニヤと文彦を見つめる雪菜を見て、ドキッとしたー
”ま、、まさか、俺、試されてる!?”
そんな風に思った文彦は、「ーーほ、本当に本物なのか?」と
不安そうに尋ねるー。
雪菜は「そう。本物!文彦、喜ぶと思って!」と
いつものように穏やかに微笑んだー
「ーーそ、そ、そ、そっか…あ、、ありがとう…」
文彦は、戸惑いながらお礼の言葉を口にすると、
憑依薬の入った容器を再び紙袋にしまったー。
「-ー悪用はしちゃだめだよ~?」
雪菜が釘をさすように言うー。
文彦は、顔を赤らめながら
「し、しないって!と、いうか、本物だとしても
他の人に憑依して乗っ取るなんて、申し訳なくて
出来るわけないし…!」と、少し興奮気味に言うー。
「---憑依とか、入れ替わりは
創作だからこそ映えるっていうかー」
文彦の言葉に、雪菜は「ふふっ…そっか」と
優しくほほ笑んだー。
「------」
戸惑いを隠せない文彦ー
そもそも、この憑依薬は本物なのかー
雪菜は、いったい何が目的でこれを渡してきたのかー。
「--じゃあ、早速食べよっか!
せっかくの料理が冷めちゃう!」
雪菜の言葉に、文彦は「そ、そうだなー」と呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
大学の食堂で、親友の上澤 良一郎(うえざわ りょういちろう)と、
雑談をしていた文彦ー。
良一郎が揶揄うようにして
”昨日の誕生日、どうせ雪菜ちゃんとイチャイチャしてたんだろ?”と、笑うー。
”か、揶揄うなよ”と、顔を赤らめながら
文彦は「そ、そうだー」と、困惑した表情で、声を小さくしたー。
「--昨日、雪菜から”憑依薬”貰ったんだけどー」
とー。
「--はぁっ!?」
良一郎が声を上げるー。
良一郎にも、当然自分の趣味のことは話してあるー
「はははっ!憑依薬なんて現実にあるわけないだろ~!」
良一郎の言葉に、文彦は
「でも、雪菜は自信満々に本物だってー」
と、困り果てた様子で呟くー。
「---はははは、いつも憑依憑依ばっかり言ってるから、
反応を面白がられてるんじゃないのか?」
良一郎が、”やれやれ”という様子で笑うー。
「--…そ、そうかな」
文彦が言うと、良一郎は「そうだよ」と、笑ったー。
「まぁ、でも、どうしても気になるなら飲んでみりゃいいじゃないか。
雪菜ちゃんから貰ったんだろ?
さすがに毒が入ってるわけないと思うし、
飲めば「あ~これ偽物じゃん!」って、すっきりするだろ?」
良一郎からそう言われた文彦は「た、確かにそうだな…」と、
少しだけ穏やかな表情を浮かべて頷いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰宅した文彦は”憑依薬”の容器を見つめるー。
ただの”炭酸飲料のラムネ”にしか見えないー。
「雪菜は、俺にこんなものプレゼントして、いったい何をー?」
良一郎の言う通り、ただ反応を見たいだけならいいー。
けれどー。
「-----」
少しだけ考えてから笑う文彦ー
「ってー、本物なわけないよな、やっぱり!
俺の反応見て楽しんでるんだろうなぁ…」
そう思った文彦は、
”彼女が俺の反応を見て楽しもうとしているのに、
俺が何も反応を示さないのは、失礼ってやつだろ”
と、頭の中で考えて、憑依薬を飲むことにしたー。
しかしー
”もし、毒だったらー?”
”もし、本物だったらー?”
と、いう考えが頭の中をよぎりー、
結局、その日は憑依薬を飲むことができなかったー。
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「---おはよ~!憑依薬、飲んだ?」
雪菜が小声でニコニコしながら聞いてくるー
「の、飲んでないよ」
文彦が言うと、雪菜は何故か少しだけホッとした様子で、
「-よかった~!やっぱり、リアルで誰かに憑依するなんて、
なかなか出来ることじゃないもんね!安心した!」と、
笑いながら、文彦の方を見たー。
そしてー
「”飲まない”って決めたら捨ててもいいよ!」と、文彦に言い放ったー
「-す、捨てる…いや、それはー」
戸惑う文彦に”憑依薬を捨てたら、別のプレゼント、ちゃんと用意してるから~”と、
笑いながら立ち去っていく雪菜ー。
彼女からの誕生日プレゼントが”憑依薬”-
その、奇妙な状況に、文彦は戸惑うことしかできなかったー。
②へ続く
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彼女の目的は…!?
どことなく不穏な空気が漂ってますネ~!
続きはまた明日デス~!
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