<憑依>目が覚めたら知らない女になっていた①~目覚め~

ある日、目を覚ましたら、彼は
知らない女になっていたー。

何が起きているのかも分からないまま
困惑する彼の運命は…?

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朝日がカーテンから差し込むー。

”あれ?”
彼は、この時点で違和感を感じたー。

穏やかな朝ー
窓から差し込んでくる太陽の光を見る限りー、
今日も天気は良さそうだー。

だがー
この状況こそが、彼にとって違和感だったー。

”おかしいな…?昨日、雨戸を閉め忘れたか?”

20代後半の一人暮らしの会社員ー
矢内 純太(やうち じゅんた)は、
夜になると、いつも雨戸を閉めて寝ているー。

防犯上、という意味合いもあったし、
急に雨が降ったりしたときに、目を覚まさずに済むようにー
という意味合いもあったー。

だからー
朝になっても、窓から太陽の光が入って来ることは
ないはずなのだー。

眩しそうに太陽の光を見つめる純太ー。
髪の毛が妙に広がって、口元のあたりに髪の毛が
やってくるー。

”はぁ”
髪の毛を邪魔そうに払いのけながら、
”今日も仕事か 週末まであと3日ー”と、
面倒臭そうに起き上がったー。

「---ん?」
起き上がった純太は、首を傾げたー。

「-----」
周囲を見渡す純太ー

見慣れない家具ー
見慣れない壁ー
見慣れない天井ー
可愛らしい小物類ー

「----どこだここ!?」
純太は思わず叫んだー。

純太が目を覚ました場所は、
純太が暮らしている部屋ではなかったー

「--え…!?え…!?」

”連れ去りー?”
そんな風に思う純太ー

「い、、いやいやいやいや、俺なんか連れ去っても何も意味ないだろ!?
 貯金もそんなにないし、別にイケメンでもないし、
 誰も身代金なんか払わないぞ!?」

一人でそこまで呟いてー
「ってか、誰だよ!俺の言うとしたことと、同じセリフ喋ってるのは!」と、
叫んだー。

さっきから、自分が喋ろうとした言葉を、
誰かー
女が喋っているー

”鬱陶しい女だ”
と、思いながら、純太はさらに続けたー

「--だ、誰だか知りませんけど!俺を連れ去って
 どうするつもりなんですか!」
純太が叫ぶー。

だがー
叫んでいるつもりなのに、純太の声は出ずー
知らない女が純太が言おうとしていた言葉を近くで口にしているー。

慌てて振り返る純太ー

だが、そこには誰もいないー

「---で、、出てこい!」
誘拐されたと思った純太はそう叫んだー

だがー
また、女の声が聞こえるー

”完全にバカにされている”
純太はそう思ったー

”出てこい!”と
喋ろうとすると、

”出てこい!”と、
女の声が近くで聞こえてくるー。

まるで、純太が言おうとした言葉を
誰かが代弁しているかのようにー。

純太は部屋の中を慌ただしく動き始めるー

”女の部屋”
”女の声”

自分の部屋で寝ていたはずの純太を拉致したのは、
”女”であるに違いないー

”くそっ!一体何が目的なんだ!?”
純太はそう思いながら部屋の中を探し回りー

そしてー
浴室とトイレがある方向に向かって歩き始めたー。

「----出てこい!」
今一度叫ぶー

やはり、自分は何故か発声できずー
女の声がどこからか聞こえてくるー。
まるで、自分のすぐ側から
聞こえているような気がするがー
やはり、振り返っても、誰もいないー。

浴室の扉を開ける純太ー

しかし、浴室の中にも誰もいないー

”くそっ!どういうことだー
 どこに隠れてるんだー”

純太は”今日も仕事だから、あんまり時間に余裕もないぞ?”と思いながら
洗面台の前を通過するー

「---!!!」
純太がビクッとして、鏡の方を見るー

鏡にー
見知らぬ若い女が写っているー
とても可愛らしい感じの美人だー

大学生だろうかー

「--!?!?!?」
振り返る純太ー

だが、鏡に写っている女は、そこにはいなかったー。

”どういうことだー”
純太はそう思いながら、

鏡の方を再び見るー。

純太と同じように、驚いた顔をしながらこちらを見ている
鏡の中の女を見てー

「な、、何が目的だ!」
と、叫んだー。

やはり、自分の声はせずに、
純太の喋ろうとした言葉を、女が復唱するかのように、叫んだー。

「---く、、くそっ!」
鏡の周囲を見渡すー。

完全におちょくられているー。
そう思った純太は、険しい表情を浮かべながら、
鏡を睨みつけたー

「--…鏡の裏に隠れているのか!?出てこいっ!」
とー。

女が同じ言葉を口にするー。
純太は何故かさっきから声を出せないー

純太が喋ると、
女が代わりに同じ言葉をしゃべるー

「--ふざけやがってー!」
そう思って、鏡に映る女を殴りつけようとしたー

だがーー

「---!?!?!?!?!?」
この時、
ようやく純太は”更なる異変”に気づいたー

「---」
鏡の前で手を動かしたり、ウインクしてみたり、
口を動かしてみたりするー。

鏡に映る女が、全く同じ動きをするー。

最初ー
鏡に映る女が、純太の動きを真似して
純太を弄んでいるのかと、
純太は思っていたがー
違う気がするー

「え…」
純太は、自分の身体を見下ろすー。

そこには、純太の身体にはなかったはずの
膨らみがー

「--えっ!?!?えっ!?!?!?」
戸惑う純太ー

混乱しながら鏡と、自分の胸を何度も何度も
見返してー
やがて、純太は、あるはずのない自分の胸に
手を触れたー。

胸の感触がたしかにあるー。
鏡に映る女も、同じことをしてー
顔を赤らめているー。

「---な、、、、、」
純太はようやく気付いたー

鏡に写っている女はー
自分自身であるとー。

そして、先ほどから
”自分の声が出ない”
”喋ろうとした言葉を、女が真似している”
と思っていたのはー

単純に”自分の口から女の声が出ているー”
ためだったー。

自分の声が出なくて当然だー。
自分が、女になってしまったのだからー

「----は?いやいやいやいや待てよ!」
可愛い声でそう呟く純太ー

この部屋の持ち主である女に拉致されたのかと思っていたが
実際にはそうではなく、この部屋の持ち主である女に、
純太自身がなってしまっていたのだったー。

「--マ、、マジかー」

そういえば、
髪もさっきからジャマに感じていたしー、と思いながら
「--というか、誰だよこの子!」と
叫びながら再び鏡を見つめるー。

正直、結構かわいいー
家の中を見渡す限り、一人暮らしに見えるから、
大学生、あるいはOLと言ったところだろうかー。

「--いや…え……えぇぇ?」
純太は困惑してしまうー。
”目が覚めたら知らない女になっていた”

こういう状況はいったいどうすれば良いのだろうかー。

”朝起きたら女になっていた”みたいな
作品を前に少しだけ見たことがあるー
”女体化”と呼ばれる現象が寝ている間に起きて、
朝、目を覚ましたら自分自身が女になっていたー、と
そういう感じのお話だ。

だが、今の場合はそれとも違うー。

先程純太が想像したような女体化であれば
身体が女になっていても、
目覚めるのは”自分が寝た場所”
つまりは、純太の寝室であるはずなのだー。

しかしー
純太が目覚めた場所は、見知らぬ部屋ー。
と、いうことは、純太自身が女になったわけではなくー
純太が他の人間に憑りつくような感じー
”憑依”してしまった感じなのではないか、と
純太は考えたー。

「----」
玄関の方に向かい、玄関の扉を開けるー。

アパートのようだったが、
当然見覚えのない場所だー。

そして、
表札を確認すると”森沢”とそこには書かれていたー

「--森沢さん…ね…
 知らない人だな」
純太はそう思いながら、室内に戻ると、
今度は部屋の中を漁り始めたー

”必ず、身分証明書があるはずだ”

そう、考えたからだー。

そしてー
その予想通り、身分証明書を発見したー。

そこにはー
”森沢 清美(もりさわ きよみ)”
と書かれているー

大学の学生証を持っていることから、
どうやら、大学生のようだー。
とても可愛らしい笑みを浮かべているー。

「-----」
清美になってしまった純太は、あぐらをかきながら
首を傾げるー

「ってことは、俺がこの森沢清美さんになってしまったってことかー?」
首を傾げる清美が鏡に映るー。

「って、こんなかわいい子にあぐらさせるとか、ダメだろ!」
と、一人で呟きながら、座り方を変えると、
純太は困惑の表情を浮かべたー。

「---ってか…なんだよこの状況…
清美の姿で呟く純太ー。

「--昨日…」
清美の声でそう呟くだけで、
どうしても違和感を感じてしまうー。

20数年、純太は
”自分の声”と付き合ってきたー。

自分が声を出せば
自分の声がするー。
当たり前と言えば当たり前のことだが、
純太はずっと、そうして生きて来たー。

それがー、
急に、自分が声を発すると
女の声がー…
清美の声が口から出るー…

そんな状況になってしまい、純太は激しく戸惑っていたー。

昨日のことを必死に思い出す純太。

だがー
昨日も、特に変わったことはなかったように思えるー。

普通に会社に行き、
普通に仕事をして、
早く週末にならないかな~と思いつつ、仕事を終え、
帰りにコンビニでプリペイドカードとお菓子とドリアを買い、
家でそれを食べながら、見たかった映画を動画配信サービスで見て、
お風呂に入って、スマホをいじって、ちょっとゲームを進めてー
それで、寝たー。

何も変わりがなかったように、思えるー。

「---何で…この人の身体にー?」
そう呟きながら、鏡に映る清美が再びあぐらをしていることに
気付いて「うわっ!ダメだって!」と、姿勢を再び元に戻すー。

こんなかわいい感じの女子大生に男っぽい仕草をさせるなんてダメだ!
と、思いながらも、
ついつい20何年も男として生きて来た”癖”が出てしまうー。

「--大学生ってことは…今日平日だし、大学も行かなくちゃ…なのか」
清美はそう呟くと、学生証を見て、
スマホで清美の通う大学の位置を調べようとするー。

だがー

「--------」
「---------」
スマホを手に、しばらく清美は硬直すると、

「だぁ~~!暗証番号わかんね~~!」
と、スマホをベッドに放り投げたー

「-って、俺、女子大生になんて言葉遣いさせてるんだ!」
と、頭を抱えると、「仕方ない!」と、机の上に置かれていた
ノートパソコンの方を見つめるー。

スマホがダメならノートパソコンだー。

そう思いながらパソコンを起動するとー
ログインの際に暗所番号を求められたー。

「はいはいはいはいはいはい」

失笑しながら、”大学の位置も分かんねぇぞ”と
思いながら、座り込むー。

「--……」
そもそも、大学に行くには、外出するための姿に着替えないといけないしー

「--ってか、メイクとか、髪とか…どうすりゃいいんだ?」
清美はそう呟くー。

何をしたら良いのかも分からないー。
このまま大学に行くのは、かなり難しいと判断した純太は
”ごめんな…”と思いながら、
今日1日だけ、大学を休むことにしたー。

今日中にこの清美という子から抜け出せればそれでいいし、
万が一明日まで抜け出させなくても、今日の間に色々状況を把握することが出来るー。

「----」
大学の学生証に書かれていた連絡先に連絡して
”体調不良で休む”ということを伝えると、
清美は、ため息をついたー

”さて…これからどうするかなぁ…”

目が覚めたらいきなり知らない女になってしまっていた純太は、
頭を抱えながら、これからのことを考え始めたー。

②へ続く

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コメント

いきなり目が覚めたら、知らない人に憑依していた状況…!
色々大変そうですネ…!

幸い、変な人の身体じゃなさそうなのが救いですネ!

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