<入れ替わり>未来の結婚事情③~発端~(完)

結婚した夫婦は、夫婦間での入れ替わりが可能になる
2XXX年ー。

その”発端”を、彼は知ることになる…。

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「---は~~!楽しかった~!」
帰宅した苗美は、満足そうに微笑んだー。

先程、スーパーで購入した商品は既に家に”転送”されているー。

大吾は、そんな商品を片付けながら、
苗美の方を見て「苗美の身体になるの、まだまだなれないなぁ」と、
苦笑いするー

「--わたしだってそうだよ~!
 でも、入れ替わると、わたしたち、結婚したんだ!と
 実感できるし、いいよね!」

苗美の言葉に、大吾は「だな」と、笑うー。

この世界では”入れ替われるようになる”ということが
”結婚後に大きく変わることのひとつ”だー。

結婚後に入れ替わった状態で”新婚旅行”をする夫婦も
多いのだと言うー。

大事な相手と入れ替わることによって
夫婦になったことを改めて実感するー。
それが、当たり前の世界になっていたー

大吾と苗美は、それからも
入れ替わり生活を続けたー。

大吾が、色々と他の家庭を調べた際には
”持ち逃げ”だったり、”死別”だったり、
色々と悲惨な結末を迎えた夫婦もいたが、
大吾と苗美の夫婦生活は穏やかなものだったー。

基本的に、大学では入れ替わらずに生活することが
ほとんどで、休日や帰宅後には、お互いの気が向いたときに
入れ替わるー…

そんな、生活を送っていたー。

そして、その傍らー
大吾は”人間がどうして結婚すると入れ替わるようになるのか”に
なんとなく興味を抱き、こっそりと調べ続けていたー。

サンシャインドリンクカンパニー…
何百年も続く、人気飲料水メーカーで
人気ドリンク・”サンシャイン”を主力商品とするメーカーだ。

”サンシャイン”は誰でも1回は飲んだことがあるぐらいの
ドリンクでー
現代でも変わらず人気ー。

大吾は、そんな”サンシャインドリンクカンパニー”に
入れ替わりの起源があるのではないかと感じ、
度々、サンシャインドリンクカンパニーに足を運んでいたー。

サンシャインドリンクカンパニーの本社には
一般開放されているミュージアムが存在しており、
そこで会社の歴史などを見つめたり、
色々調べたりしていたー。

べつに”入れ替わりの起源”を知って、どうこうしようというわけではないー。

ただ単に、気になるのだー。

数百年前ー
最初に入れ替わりが発生したのは、
当時のサンシャインドリンクカンパニーの会長・竜崎茂雄の娘、
竜崎明日香と、その夫だったと言われているー。

だからー
”入れ替わりが当たり前になったこの世界”を作り上げたのは
サンシャインドリンクカンパニーだと、大吾は思っていたー。

「---ふぅ~~~」
ある日、大学帰りに、サンシャインドリンクカンパニーの本社を訪れて、
いつものように、ミュージアムで資料を確認していると、
そこに、スーツ姿の女がやってきたー。

「-君、ちょっといいかな?」

綺麗な感じの、まだそれほど年齢を重ねていない女性だー。

大吾は「俺ですか?」と、戸惑いながら自分を指さすー。

”入れ替わりの起源”を調べていたのがバレてー
消されるのだろうか、などと一瞬思ってしまったが、
大吾は色々考えた末に、その女性のあとについていくことにしたー。

会議室のような場所に案内されるとー

「--ー現社長の竜崎ですー」
と、その女は名刺を渡してきたー

「--あぁ、これは妻の身体なんですけど、
 今日はちょうど女性社員が多い会社との会議があったので
 この姿のほうが、向こうも安心かと思いましてね」

自分が”中身は夫”だと、明かした上で、社長は
大吾に席に座るように促したー。

「---…」
大吾が警戒していると、社長は口を開いたー。

「--君、最近、うちに出入りして、
 ”入れ替わりの起源”を調べているようですね」

その言葉に、大吾は「え、、いや、、俺は…別に何も」と
目を逸らすー。

”知ってはいけないことを調べているー”
そんな気がしてしまったからだー

「--あぁ、いや、警戒しなくていいですよ。
 別に何もしませんー。

 ただ、君みたいな若者に
 つまらないことで時間を無駄にしてほしくない、と
 思いましてね」

社長はそう言うと、大吾にお茶を出しだしてから、
正面に手をかざし、
ホログラム映像を表示させたー。

「---君の読み通りー
 人類が入れ替わるようになったのは、
 我が社ー、サンシャインドリンクカンパニーが原因です」

優しそうな女性の声でそう呟く社長にー

「--えっ!?」
と、大吾は声を上げるー

「--まぁ…一部の人間は知ってることですし、
 今更知る人間が増えても、世の中が変わることはないでしょうからー
 …お話しましょう。

 --出来る限り、他言は無用でお願いします」

社長はそれだけ言うと、続けたー

数百年前ー
サンシャインドリンクカンパニーの3代目会長だった竜崎茂雄は、
娘の明日香を溺愛していたー。

だが、その明日香が婚約者を連れて来たことで、
竜崎茂雄は激怒したー

娘を溺愛していた茂雄は、娘の結婚を認めなかったのだー。

そして、口論になる茂雄と明日香ー。

茂雄は、自分と口論になった娘に腹を立てたー。

その仕返しに作り上げたのがー
”入れ替わり薬”だったー。
一度飲めば、キスした相手と入れ替わるように、
作り出した薬ー。

そんな、竜崎茂雄の”些細なこと”が発端だったー。

そして、それを、自分の会社の主力商品”サンシャイン”に混ぜて、
娘の明日香と婚約者にどさくさに紛れて飲ませたー。

だがー
無差別に入れ替わってしまっては色々面倒になるー

そこで、竜崎茂雄は入れ替わりの効果を発揮する相手を
”結婚相手”に絞ることにしたー。

入れ替わり薬に特殊な加工を施しー
”結婚した相手以外”とは入れ替わらないようにしたのだー。

それを識別するために用いたのが、
ちょうど、その時点で70年以上前から導入されていた
婚姻届け提出の際に用いられる
”偽装結婚防止のための電子登録”だー。

結婚した組み合わせ同士、異なる電子情報を体内に入れ込むー。
そんなシステムを利用しー
”同じ電子情報を持つ相手同士”しか入れ替わらないよう、設定したー。

これにより、”結婚した夫婦同士だけが入れ替わる”という
状況を作り出したー

結婚してから、夫婦が入れ替わり可能になるまで、
若干のタイムラグがあるのは、偽装結婚防止の電子登録が
人間の体内で反映されるまでに、数日かかるためだー

結果、明日香と婚約者は入れ替わりー、
娘を奪った男と、自分と口論になった娘の
両方に、竜崎茂雄は仕返しを果たしたのだったー

だがー
ここで、竜崎茂雄に誤算があったー。

それはー
人気ドリンク・”サンシャイン”の製造ラインに、間違えて
入れ替わり薬の原液を入れたままにしてしまったことー
ドリンクに混ぜて娘たちに入れ替わり薬を飲ませるために、
一時的に製造ラインに入れ替わり薬の原液を入れたのだがー
それを、そのままにしてしまったのだー

結果ー
世界中で大勢の人が飲む”サンシャイン”に入れ替わり薬が混入した状態のままー
世界中にそれは出荷されー
気付いた時には、入れ替わる夫婦だらけになっていたー

その時には、もう、手遅れだったー。

しかも、厄介なことに”入れ替わり薬の成分”は遺伝することが分かったー。

入れ替わり出来るようになった人間から生まれた人間は、
最初から”入れ替わり薬の成分”を体内に宿している状態で生まれるー。
そんなことが、分かったのだー。

もう、どうすることもできなかったー。

竜崎茂雄は、どうにかしようとしたが、どうにもできないまま、
この世を去ったー

”サンシャイン”は世界的飲料ー。
入れ替わり薬が混入している状態だと分かった時には、
もう、人類のかなりの割合が、夫婦で入れ替わりできる状態ー、に
なってしまっていたー。

「---そんな理由で…」
大吾が言うと、社長は頷いたー。

「--”偽装結婚防止システム”-
 あれをトリガーとしている以上、
 あのシステムを廃止すれば、入れ替わりは起きなくなりますー

 ですがー
 もう、世の中は”入れ替わり”が当たり前の世の中になってしまったー。

 人間は
 一度手にしたものを捨てられるほど、強くはありませんー。

 ”入れ替わり”も、そうー。
 それで不幸になっている人間がいるとは言えー、
 ”入れ替わり”が既に当たり前になってしまったこの世の中で
 ”入れ替わり”が起きないようにすることは、難しいでしょう」

社長の言葉に、大吾は返事を迷いながらも
「このことはーー」
と、言葉を口にするー。

社長は「ほとんどの人は知らない事実ですー。
が、ごく一部の人間は知っていますー」と、言いながら首を振ったー

だが、ネットでもそんな話は見たことがないしー
聞いたこともないー。

「--どうして、そんな話を、俺にー?」
大吾が言うと、社長は
「ここのところ、ずっと入れ替わりの起源を調べていたようですし、
 先ほども言った通り、君のような若い人に、時間を無駄にしてほしく
 ありませんので」と、裏のない感じで説明したー。

「-----でも、もし俺がネットとかで今、聞いた話を
 みんなに教えようとしたら、どうするんです?」

大吾の言葉にー
社長は「今まで事情を説明した人間にー、それをした人間はいませんー。」
と、自信満々に答えたー。

そしてー
「仮に言っても、証拠がないー。
 ”入れ替わり”が当たり前になった世の中で、
 誰か一人がそんなことを言い出しても、
 おかしな妄想に憑りつかれた人間がネットにいるー、
 で、終わりですよ」
とも、付け加えたー。

大吾は、その後も社長と少しだけ雑談をしてー
そのままサンシャインドリンクカンパニーの本社を後にしたー。

”不思議と、誰にもこのことを言う気にはならないー”

帰宅した大吾は
苗美の方を見つめるー

結婚した夫婦が入れ替わることが
出来るようになったのは、
一人の父親の、ほんの些細なことが原因だったー。

その些細な仕返しの、些細なミスでー
今や、人間が入れ替わることは、当たり前になってしまったー。

「----ま、、それでもー」
大吾はそう呟くと、苗美の方を見つめながら
静かに呟いたー。

「-好きな人と身体を共有しながら生きることができるっていうのは、
 幸せなことだしなー」

そう呟くと、
”何か言った~?”と首を傾げる苗美の方を見て
「いいや、別に何も!」と、笑いながら
大吾は苗美の方に向かって行ったー。

入れ替わりの起源を知り、すっきりとした大吾は
それからも、苗美と共に、幸せな夫婦生活を堪能したー。

やがてー
苗美は妊娠しー
大吾は「俺が変わろうか?」と提案したー。

夫婦間の入れ替わりが当たり前の世界では、
出産を夫側が妻の身体で経験することも出来るー。

「--大丈夫…!気持ちだけ、ありがとう」
苗美は、結局、自分で出産をしー、
子供が出来てからも、二人は、
入れ替わりをバランスよく使いながらー、
幸せな家庭を築き上げたー。

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”入れ替わりありき”で発展してきてしまった社会からー
もう、入れ替わりを消すことは出来ないー

原因は分かっていてー、
”偽装結婚防止システム”を婚姻届けを出した際に
新婚夫婦に注入するのをやめさえすれば、
それがトリガーとなって発生している”入れ替わり”は、
止まるー。

けれどー
もう、”入れ替われない時代”には、戻れないー。

人類は、夫婦間の入れ替わりが当たり前となってー
この数百年、歴史を積み重ねて来たのだー。

大吾に出したお茶の中に混ぜた
”秘密を他言しないよう精神に影響を与える特殊な薬剤”を
見つめながら、サンシャインドリンクカンパニーの社長は
静かに、入れ替わりの発端となったご先祖の写真を見つめるー

そしてー

「-あなたのせいで、未来は、入れ替わりが当たり前になってしまってますよ」
と、呆れ顔で笑いながら囁いたー。

おわり

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コメント

入れ替わりが当たり前の未来世界の日常を描くだけで、
特に、何か事件が起きるわけではありませんでした…!

色々な日常を描くことも出来そうな気がしますネ~!

お読み下さり、ありがとうございました!!

コメント

  1. 匿名 より:

    色々興味深い設定の世界観の未来の話ですが、もしも一度入れ替わったまま、二度と戻れなくなる感じだったならどうなっていたでしょうね? 

    さすがにいつでも入れ替われるという事がなかったら、入れ替わりを恐れて、結婚しようとする人間が
    大幅に減っていたかもしれませんね。最初から身体目的ならともかくですが。

    あと、入れ替わりの起こる条件のトリガーは分かりましたが、もし離婚した場合はどうなるんですかね?

    電子情報がそのままなら、離婚しようと変わらず入れ替われますから、色々厄介なことになりそうです。

    それからもし再婚したとしたら、入れ替わる対象が増えるということになるんですかね?

    • 無名 より:

      ありがとうございます~!

      元に戻れないタイプの入れ替わりだったら、
      結婚自体が根底から覆ってしまいそうな…
      そんな感じもしますネ…☆

      離婚の際にも特殊な手続きが必要になりますが、
      ちゃんとした手続きをせずに、持ち逃げしたり
      いつでも入れ替わろうとしたり、
      そういう人もいます~!笑

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