馬主の父親を持つ男子大学生は
父親の許可を得たうえで、遊びに来ていた彼女に
乗馬体験をさせていたー。
しかしー…?
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「すごい~!馬を目の前で見たのは初めて~!」
女子大生の出嶋 紗江(でじま さえ)が、嬉しそうに
馬を見つめるー。
紗江の彼氏である、椎野 卓三(しいの たくぞう)は
笑いながら「ははは、俺は小さいころからずっと見て来たけど、
ふつうは、馬を目の前で見る機会なんて、そうそうないもんな」と、
紗江の方を見つめながら言い放ったー。
父親は、牧場の経営者で、
馬が好きなこともあり、牧場の本業とは別に
馬を何頭か所有しているー
今でこそ、競走馬はいないが、
以前は、競走馬も所有していたー。
今日は、彼女の紗江が、以前から馬を見たがっていたため、
父親の許可を取った上で、こうして紗江に馬をみせていたのだったー。
「乗れるんだっけ?」
紗江が言うと、
卓三は「あぁ、乗れるよ」と、微笑むー。
近くに立っていた牧場のスタッフの方に卓三が
頭を下げながら歩いて行くと、
「--今日は、井尻さんが見ててくれるから」と、
紗江に向かって言い放ったー。
スタッフの井尻が、紗江に”乗馬体験”の
レクチャーをしているー。
普段も、定期的に近所の子供や
観光客を対象に、乗馬体験を牧場の敷地内で
行っており、今日は父親の好意もあり、
特別に紗江が乗馬体験できるように、
と準備していてくれたのだったー。
”息子の彼女”ということで、
父親は何かと気を使ってくれていて、
そのことに対し、卓三も感謝していたー。
「--うわっ…思ったより高い!」
紗江が笑いながら言うー。
「--ははは、確かにテレビとか本で見るより、
最初は高く感じるかもなぁ…」
卓三は、乗馬した紗江の方を見つめながら笑うー。
「--じゃあ、井尻さん、よろしくお願いします」
卓三が頭を下げると、
スタッフの井尻は「はい、じゃあ、1周してみましょう」と、
紗江の方を見ながら、丁寧に乗馬の流れを教え始めたー。
穏やかな時間ー
彼女との、楽しいひと時ー
この、のどかな牧場で、穏やかな1日ーー
と、なるはずだったー。
だがー
信じられない言葉が起きたー
突然、紗江の乗っていた馬が暴れ出すー
「---!!」
卓三は、驚いて、険しい表情を浮かべながら
「紗江!」と叫ぶ-。
スタッフの井尻も、馬の名前を叫ぶながら、
必死に馬の暴走を止めようとしていたー。
だがー
「きゃあああっ!」
走り出した馬が、近くの柵にぶつかり、
そのまま紗江と共に転倒してしまったー。
「--紗江!!!」
卓三は紗江の名前を呼びー
続けて馬の名前を呼ぶー。
最悪の場合、馬が突然心不全などを起こした可能性もあるー。
そう思いながら、卓三が近くに駆け寄るとー
「-ーー」
紗江が何事もなかったかのように、起き上がったー。
「--紗江!無事だったのか!よかった!」
卓三が、紗江の方に近づくー。
馬に振り払われて、少し離れた場所にいたスタッフの
井尻も、卓三たちの方に近づいてくるー。
ほっと一息をつきながら、卓三は
「紗江、ごめんな…普段はこんなことないんだけど…」
と、馬の方を見つめるー。
馬も無事だった様子で、
ゆっくりと起き上がり、卓三の方を見つめたー。
馬が近づいてきて、卓三に顔を近づけるー
卓三は「ど、どうしたんだ…?」と、馬に向かって言い放つー。
なんだか、様子がおかしいー。
そう、思ったからだー。
そしてー
更なる異変が起きたのは、その直後のことだったー。
立ち上がっていた紗江が、突然四つん這いのような姿勢になってー
まるで、馬のように、そのまま草原を走り始めたのだー。
「さ…紗江っ!?」
卓三は戸惑いながら声を上げるー。
奇行を始めた紗江を止めようとする卓三ー。
しかし、紗江は、ものすごい速さで、
牧場内を走り回るー。
「--ちょ!?紗江!?見えてる!見えてるって!」
卓三が慌てた様子で言うー。
スカートを履いていた紗江が、四つ足で走っているため、
後ろから見ると、スカートの中身が丸見えの状態だったー。
卓三は、下心からではなく、純粋に
「見えてるから!!!」と、必死に叫ぶー。
紗江のおかしな行動を止めたいー。
その一心でー。
「---!」
四つん這いで走り回る紗江を追いかけていた卓三の前にー
突然、馬が立ちはだかったー。
「---!」
卓三は、戸惑いながらも、
馬のように走り回る紗江を追いかけようとするー。
しかしー
馬の目を見て、卓三は何かを感じとったー
「---え…」
卓三は、馬のように走り回る紗江とー
悲しそうにこちらを見つめている馬を、
それぞれ見比べるー。
そして、”あり得ないことだ”
と、思いながらも、
卓三はある言葉を呟いたー。
「---さ…え?」
とー。
卓三の目の前にいる馬は、
悲しそうに頷いたー。
牧場の中を走りまわる紗江ー。
目の前にいる、馬ー。
「----…嘘だ…そんなこと…」
戸惑う卓三に対して、
目の前にいる”紗江”を主張する馬は、
自分の背中の方を見つめたー。
「-----!」
卓三は、少し戸惑ったものの、
紗江を名乗る馬が何を言いたいのかを、理解したー
”わたしに乗って、わたしの身体を追いかけてー”
そう、言っているように思えたのだー。
「--もし、本当に紗江なら、ごめんな」
そう呟きながら、いつものように馬に乗り、
馬を優しく撫でるー。
馬が走り出すー。
牧場の手伝いは、よくしているし、
卓三自身も、この馬に乗ることは時々あるー。
だからこそ、分かるー
”いつもと走り方が違うー”
とー。
「うおおおおおおおおっ!」
卓三は、一瞬振り落とされそうになりながらも、
馬は、まるで馬のように走り回る紗江に接近ー
卓三が、飛び掛かる形で、四つん這いの状態で
走り回っていた紗江を取り押さえると、
「井尻さん!」と叫んだー。
乗馬の面倒を見てくれていたスタッフの井尻が駆け寄るー。
「--こ、これは…いったい!?」
困惑したような表情を浮かべる井尻ー。
卓三は、確信したー。
奇声を上げながらじたばたしている紗江ー、
そして、悲しそうに卓三を見つめる、馬ー。
ふたりはーー
”入れ替わってしまった”のだとー。
「-井尻さん…
紗江と、リリが入れ替わりましたー」
”リリ”とは馬の名前だー。
「--へ?」
スタッフの井尻が、変な声を出すー。
「--だ、だから…紗江とリリが入れ替わってー」
真顔で言う卓三を見てー
思わず、スタッフの井尻は笑ってしまったー
「あはは、はははははははははーーー」
笑う井尻に対して卓三は
「い、、いや!ホントなんですって!」と叫ぶー
井尻は、笑い過ぎて目に涙を浮かべながらー
「--卓三くん…それはさすがにちょっと…」と、続けたー
「--いや!でも見てください!紗江のこの状況ー!」
卓三は、じたばたしながら雄叫びのような声を上げている紗江(リリ)を
指さすとー
スタッフの井尻は、紗江(リリ)と、馬になった紗江を見つめたー。
「---…馬と、人ですね。どう見てもー」
井尻の言葉に、「ち、違う!そうじゃなくて!」と、卓三は慌てた様子で
叫んだー。
馬になってしまった紗江は
”何なの…?”と心の中で強い不安を感じていたー。
馬になってしまった以上ー
人間と意思疎通をすることも出来ないー
彼氏の卓三と、スタッフの井尻が言い争っている中ー
馬になった紗江は、卓三に近づいていくと
身体で”もういいよ”と、伝えたー
「紗江…」
卓三が、馬(紗江)の方を見つめると、
スタッフの井尻は、まだ笑いながらー
「ちょ、ちょっと卓三くん!」と、面白そうに叫んだー。
「---……じゃあ…信じてもらえなくてもいいんで」
卓三はそれだけ言うと、スタッフの井尻の方を見つめながら
「--父と話がしたいんで、紗江を運ぶの、手伝ってもらえますか?」と、
言い放ったー
井尻は戸惑いながらも「ま、まぁ、それなら」と、
暴れる紗江(リリ)を取り押さえて、
卓三と一緒に運び始めるー
馬になった紗江は、大人しく卓三の横で
卓三と一緒に歩くー。
何もせずとも”自主的に”卓三の隣を歩いている
馬のリリを見つめる、スタッフの井尻ー。
そうこうしているうちに、父が作業をしている場所に
たどり着いたー
「父さん」
卓三が言うと、
卓三の父が「お!卓三」と、手を挙げたー。
そしてー
じたばたとしている紗江(リリ)、と
馬・リリになった紗江を見て、卓三の父親は
少しだけ首を傾げたー。
「ーーー紗江ちゃん、どうしたんだ?」
卓三の彼女・紗江とは、卓三の父親も面識があるー
紗江(リリ)が、じたばたもがいているので、
卓三の父親は首を傾げたのだー
「大変なんだ父さんー
信じられないと思うけど、笑わないで聞いてほしいー」
卓三が真顔で言うー。
隣では、馬のリリ(紗江)が、悲しそうな表情で
卓三を見つめているー。
「---な、、なんだ改まってー」
父はそう言うと、少し考えてから、「分かった。笑わない」と頷くー。
「---」
卓三は少しためらってから、隣で笑いをこらえているスタッフの井尻の
方を見つめるとー、
父の方をまっすぐ見つめて呟いたー。
「----紗江と、リリが入れ替わったー」
とー。
「-----」
父が、卓三の方をまっすぐと見つめているー
「----ん?」
父は、しばらく思考停止していたが、ようやく反応したー
「--紗江と、リリの身体が入れ替わったんだ!」
卓三が言うとー
父は「プッ」と吹き出したー
「--は、、ははは、ははははははははははっ!
卓三、なかなかシュールな冗談だな!」
父の言葉に、
卓三は顔を赤らめながら「わ、笑わないって約束しただろ!?」と叫ぶー
「--はははは、いやぁ、すまんすまんー
いや、でもー
無理があるだろー
紗江ちゃんと、馬がー
ぷっ…ははははははははっ!」
再び笑いだす父親ー
近くにいるスタッフの井尻まで笑いだ出すー
「--わ、わ、笑うなぁ!本当なんだって!」
卓三が、じたばたしている紗江(リリ)を指さしながら叫ぶー。
だが、父は「紗江ちゃんにそんなことさせてまで、そんな冗談、言うもんじゃないぞ~」と、
笑いながら言うー。
「い、いやいやいやいや、マジで入れ替わったんだって!」
卓三がそう叫ぶとー
父の元に、別の牧場スタッフが駆けつけて来るー
「--ん?わかった。今行く」
それだけ言うと、父は「-紗江ちゃんと仲良くするんだぞ」と、言いながら、
スタッフと共に立ち去って行ってしまったー
「ーーちょ!!ちょ!!父さん!」
卓三が叫ぶー
横では、スタッフの井尻がケラケラと面白そうに笑っているー
「ちょっと井尻さん!笑ってる場合じゃないし!」
卓三が言うと、
井尻は「いやぁ…すみませんすみません」と、
笑いを必死にこらえながら、卓三の方を見たー。
「---ごめんな…紗江」
リリになった紗江の頭を撫でながら、
紗江になったリリがじたばたするのをなんとか抑える卓三ー。
スタッフの井尻は、そんな卓三を見つめながら、
「-本当に入れ替わっている、って言うんならー…
もう一度落馬すれば元に戻るんじゃないですか?」と
呟いたー。
「----」
「----」
卓三は、リリ(紗江)の方を見つめるー。
リリ(紗江)は馬の身体になっていて、
言葉を話すことが出来ないが、
必死に首で、頷くような仕草をしたー。
「---あんま紗江の身体を落馬させたくないけどなぁ・・・
危ないし…」
そう呟きながらも
”いつまでもこのままってのもまずいか”と、
卓三は「よし、やってみましょう」と、スタッフの井尻に向かって声を掛けたー。
その言葉に、スタッフの井尻は、「わかりました」と、
静かに頷いたー
<後編>へ続く
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コメント
最近は、毎週土曜日がリアルタイムで更新できない日なので、
土曜日のみ、他の日にコツコツ書いて予約投稿しています!
(以前は別の曜日でした)
その都合上、続きは来週土曜日になってしまいますが、
楽しみにしていてください!
今日もお読み下さり、感謝デス!
コメント
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流行りに合わせてきたのかなぁ
紗江(リリ)に馬刺しを食べさせたいです(ゲス)
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コメントありがとうございます~!
ツイッターで皆様が盛り上がっていたので、浮かびました!
馬がいるだけで、内容は全然違うと思いますケド、
楽しんでいただけると嬉しいデス~☆笑