<入れ替わり>僕がお姉ちゃんだよ③~決断~(完)

なんとか身体を取り戻そうと奔走していた
女子大生の萌奈ー。

萌奈になった悪ガキ・丸男から
元に戻る方法を聞き出そうとするー。

しかし…?

--------------------–

交差点が、騒然としているー
赤信号の中、飛び出してきた女子大生が
車に跳ねられたのだー

「------…!!!」
丸男(萌奈)は戸惑いの表情を浮かべるー。

「--ちょ、、ちょっと!」
丸男(萌奈)は思わず、倒れている萌奈(丸男)に駆け寄ったー。

死んではいないが、みるからに重症なのが分かるー
額のあたりからは血を流しー
苦しそうに、うめき声をあげているー

「--きみ、どいて!」
すぐに救急隊員が駆けつけてきて、萌奈(丸男)の身体が
緊急搬送されていくー

丸男(萌奈)は、ただただ言葉を失い、
その場に立ち尽くすことしかできなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

萌奈は助かったー。
意識不明の重体になっていたものの、
なんとか、萌奈は一命を取り留めて、
回復に向かい始めていたー。

「--ーーー……萌奈」
萌奈(丸男)の手を握りしめる伸之ー。

彼氏の伸之は、萌奈が交通事故に遭ったと聞いて
すぐに飛ぶようにして、病院に駆け付けたー。

萌奈の痛々しい姿に、伸之は心を痛めてー
そしてー、それからは付きっきりで、萌奈の回復を待っていたー。

「------う」
萌奈(丸男)が目を開くー

「--萌奈…!萌奈!無事だったか!よかったー」
伸之が叫ぶと、萌奈(丸男)は嬉しそうに少しだけ微笑んだー。

伸之は、虚ろな様子の萌奈(丸男)を安心させると、
病院の看護師さんに、萌奈が意識を取り戻したことを伝えようと、
「ちょっと、待ってて」と、萌奈(丸男)に告げて、
そのまま病室の外へと向かったー。

病院の廊下を歩きながら、
伸之は、思うー。

”萌奈が車に轢かれる前、萌奈は例の悪ガキから
 追いかけられていた”という目撃情報がたくさんあるー。

萌奈側が、あの悪ガキを挑発するようなことをしていた、という
情報もあるが、
萌奈が理由もなくそんなことをするはずもないー。

萌奈は、何らかの理由で、悪ガキ・丸男に追いかけられてー
そして、交通事故に遭ってしまったのだー。

「---萌奈…」
伸之は”とにかく無事でよかった”と思いながらも、
悪ガキ・丸男に対して、激しい憎悪を抱いていたー

交差点が赤信号なのに、そこに突っ込んでいくほど、
萌奈は無謀な人間じゃないー。
自殺をする理由も、(おそらく)萌奈にはないー。

そんな萌奈が赤信号の交差点に突っ込んだということは、
よほど、あの悪ガキから逃げたかったのだろうー。

そんな風に思いながら、伸之は病院の看護師さんに声を掛けたー。

「---------」
丸男(萌奈)も病院にやってきていたー。

萌奈(丸男)の病室に潜り込む丸男(萌奈)-
とにかく”元に戻るための方法”を聞かないといけないー。

入れ替わった時に使われた、謎の黒い糸は、
萌奈になった丸男が、使えないようにしてしまったー。

まずは、あの黒い糸の入手先を聞かないといけないー

病室をノックして、病室に入るー。

「--丸男くんー」
丸男(萌奈)が言うと、
萌奈(丸男)が「あ…」と表情を歪めたー。

「-丸男くん…危ないことしちゃだめでしょ…!
 丸男くんも、わたしの身体も、死んじゃうところだったのよ!」
丸男(萌奈)が叫ぶと、
萌奈(丸男)は、戸惑いながら、窓の外を見つめたー。

「---…ねぇ、丸男くん…
 入れ替わるときに使った、あの黒い糸はどこで手に入れたの?

 事故で身体も痛いだろうし、しばらく入院だろうから、
 わたしが代わってあげる。

 だからもう、身体を返して」

”入院生活はつらいだろうから”という理由付けをすれば、
萌奈(丸男)も、”元に戻るための黒い糸の入手方法を教えてくれるはず”
そう思った丸男(萌奈)は、ここぞとばかりに、萌奈(丸男)の”心”を攻めたー

「-----…」
萌奈(丸男)は少し考えてから、微笑んだー。

「--わたしのために、代わってくれようとしているんだ?
 ありがとうー

 でも、大丈夫ー。
 わたし、ちゃんと元気になるからー。

 だから、丸男くんも、イタズラは、やめるんだよ?」

萌奈(丸男)の言葉に、
丸男(萌奈)は「え?」と首を傾げたー。

まるで、萌奈本人のような口ぶりー。

「---…い、いい加減にしなさい、丸男くんー。
 元に戻る方法をー」
丸男(萌奈)は、表情を歪めながら、もう一度
”元に戻る方法”を確認しようとするー。

しかし、萌奈(丸男)は、全く動揺する様子をみせず、
ほほ笑んだー

「--今度は、わたしになりきりごっこ?」
とー。

「--丸男くんは、男の子だから、わたしにはなれないよ」
萌奈(丸男)は、穏やかに笑ったー

「-ちょっと…何を言ってるの?
 もう、とぼけるのは、やめて」
丸男(萌奈)が、声を少しだけ大きくして、萌奈(丸男)を見つめると、
萌奈(丸男)はさすがに困惑した、という表情で、
丸男(萌奈)を見つめたー

「丸男くんこそ…何を言ってるの?」
とー。

「----…え、、あ、、あなたは、丸男くんでしょ。
 あなたこそ、、何をー」
丸男(萌奈)がそこまで言いかけると、
病室に伸之が戻って来たー。

「---!」
伸之が、丸男(萌奈)の姿を見るや否や、怒りの形相で叫んだー

「--お前!萌奈にまだー…!
 萌奈が車に轢かれる前に、お前が萌奈を追い回していたみたいだな!

 お前のせいで、萌奈、こんな怪我しちゃったんだぞ!?

 子供だからって、何をしてもいいわけじゃないんだ!
 今度は何をしようとしていたんだ!?」

伸之の言葉に、
丸男(萌奈)は「ま、待って!違う、わたしはー」と、
口を開いたその時だったー

「--伸之、いいのー」
ベッドにいる萌奈(丸男)が怒り狂う伸之を落ち着かせたー。

「萌奈、、でも!」
伸之の言葉に、萌奈(丸男)は、丸男(萌奈)の方を見て優しくほほ笑んだー。

「-今日は、わたしのこと心配してくれて、来てくれたんだよね?ありがとう」
萌奈(丸男)は、まるで、本物の萌奈であるかのように、優しい口調で
そう言い放つー。

「---え…ちょっと…わ、わたしの真似をー」
”わたしの真似をしないで”
丸男(萌奈)がそう言おうとすると、
萌奈(丸男)はさらに続けたー。

「でもね、丸男くんー
 悪戯は、だめ。

 丸男くんの大切な人も傷つけちゃうかもしれないし、
 丸男くん自身が怪我をしちゃう可能性だってあるの。

 だからー。
 悪戯ばっかりしてちゃ、だめー。

 悪戯は、ほどほどに、ね」

萌奈(丸男)が丸男(萌奈)に言い放った言葉はー
まるで、萌奈本人が、丸男に言っているかのような、
そんな言葉に聞こえたー

恐らく、逆の立場なら、萌奈は、丸男に同じような言葉を
掛けただろうー。

「---わたしのこと、別に大切じゃないかもだけど、
 でも、イタズラはだめだからね?」
萌奈(丸男)が微笑んだー。

「-----え…」
丸男(萌奈)は戸惑うー

”丸男が萌奈のフリをしているー?”
一瞬、そう思ったが、
2年生の丸男に”萌奈になりきる”というような
芸当が出来るはずがないー。

萌奈(丸男)と信之が雑談を始めるー。
その内容は”完全にかみ合っていて”
萌奈(丸男)は、萌奈として完璧に振舞っているー。

「どういうことー?」
丸男(萌奈)は戸惑うー。

2年生の丸男が、
完全に萌奈になりきっているー

丸男に、そんなこと、できるはずがないー。
伸之と話している萌奈(丸男)は、
丸男が知らないはずのことも、普通に話しているー

仕草からー
表情ー
声までー

完璧に”私”であると、確信できるほどー
今の萌奈(丸男)は、萌奈そのものだったー

「-ま、丸男くん!そろそろやめよう…?そういうの」
丸男(萌奈)が叫ぶー。

だがー
萌奈(丸男)は、不思議そうな顔をして
丸男(萌奈)の方を見つめたー

その目はー
”演技”などではないー

そう、確信できるほどに、自然な目つきだったー。

「--萌奈の言葉、聞いてなかったのか?
 もう、人を傷つけるような悪戯はやめるんだー。

 …悪戯しないでいい子にしてたら、
 ちゃんと萌奈も優しくしてくれるだろうし、
 その…俺も、遊んでやるから」

伸之の言葉に、
丸男(萌奈)は”わたしは入れ替わってー”と
反論しようとしたー。

しかしー
萌奈になった丸男の目を見てー
それは言えなかったー

伸之は、”小さいころに母親がオカルト的なものにはまった”
ことから、非現実的なことを嫌悪しているー。

入れ替わりとて、例外ではないー
”少し萌奈の様子が変”ぐらいでは、入れ替わりを信じないだろうし、
今の萌奈(丸男)は完全に萌奈のような振る舞いをしているー。

「----------わかった」
丸男(萌奈)は、その場はそう答えて、撤収したー。

”ある可能性”にたどり着いた丸男(萌奈)には
確認するべきことがあったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

丸男(萌奈)は、丸男の家庭環境がよくないことを
イヤというほど味わったー

母親も、父親も、丸男をほとんど放ったらかしで
愛情というものは感じられなかったー
悪そうな両親には見えなかったが、”外部から”では
計り知れないこともあるー

そういうことだろうかー。

だからこそ、イタズラを繰り返していたのだろうー
寂しかったのだろう、と、丸男(萌奈)は理解したー。

そして、丸男(萌奈)は再び病院にやってきていたー。

どうしてもー
確認したいことがあったからだー。

伸之がいない、2人だけのこの場所でー。

「-ーーーねぇ、教えて」
丸男(萌奈)は言うー。

「-あなたは、丸男くん?それとも、萌奈?」
丸男(萌奈)の言葉に、ベッドの上で萌奈(丸男)はほほ笑んだー

「-ふふ、どうしたの?丸男くんってば…
 わたしは萌奈に決まってるでしょ」

とー。

その表情は、完全にー
萌奈そのものだったー

丸男が、ここまで萌奈になりきることは、できないー。

「----本当に?」
丸男(萌奈)が言うと、
萌奈(丸男)は少し戸惑いながらも、
力強く頷いたー。

丸男(萌奈)は確信したー。
事故に遭った衝撃ー…が原因だろうか。

萌奈になっていた丸男は、記憶喪失のような状態になり、
完全に萌奈になってしまったのだとー。

丸男はーー
事故のショックで記憶喪失になったー
丸男としての自我や記憶が完全に失われてしまったのだー。

そしてー
そのことに身体がパニックを起こしたー。
人間の身体は何らかの損傷が起きると”できる範囲内”でそれを補おうとするー。
丸男としての記憶を失い、記憶喪失になった萌奈(丸男)-
普通の人間であれば、事故後に記憶喪失のまま目が覚めるー…
ところだったのが、萌奈(丸男)の身体には、
脳に”萌奈自身の記憶”も、封印されるような形で残っていたー

丸男の記憶が喪失され、パニックになった萌奈の身体は、
入れ替わったことで上書きされるかのように封印されていた
萌奈の記憶を身体中に浸透させたー。
”損傷した箇所を補う”人間の優秀な機能がー
失われた丸男の記憶の代わりに、脳に残っていた萌奈の記憶を
流し込んだのだー

結果ー
萌奈(丸男)は、完全に萌奈そのものになってしまったー。

事実と似たような推理にたどり着いた丸男(萌奈)-

「----」
そうであれば、もう、入れ替わりを証明することはできないー

入れ替わったときに使われた”黒い糸”の入手ルートを
聞くこともできないー

「---ごめん。これからは僕…いい子にする」
丸男(萌奈)は、それだけ言うと、微笑む萌奈(丸男)に頭を下げて
そのまま病室から退室したー。

泣きながら、病院を去っていく丸男(萌奈)-

萌奈になった丸男が、完全に萌奈になってしまった今ー、
もう、どうすることもできないー

これ以上、騒げばー

今は自分が萌奈だと思い込んでいる萌奈(丸男)を苦しめー
非現実的な話題が嫌いな彼氏・伸之を傷つけー
自分自身も傷つくことになるー。

「------…」
伸之のことが本当に大好きな丸男(萌奈)は、
泣きながら”身を引く”決断をしたー。

死ぬわけじゃないー
伸之が幸せならー
それでー

丸男(萌奈)は、張り裂けそうな気持ちを我慢しながら、
伸之のためー
萌奈になった丸男のために、
自分が丸男として生きていく決意をしたー。

”人生、10歳分ぐらい得したかも…”と、
無理矢理ポジティブに考えながら、
悲しそうに丸男(萌奈)は、自分が住んでいたーー
萌奈の部屋を見つめてから、
そのまま丸男の家に帰るのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

近所の悪ガキと入れ替わってしまうお話でした~!

そのうち、丸男くんとしての人生にも慣れることが出来れば…
女子大生⇒2年生になったわけですし、
もう一度学生時代を堪能できて、
いいこともある…かもですネ~

お読み下さりありがとうございました!!

コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    やっぱりこういう展開になりましたか。
    2話目の交通事故の場面で『その身体いただきます』みたいに記憶喪失になる展開は予想出来ました。丸男が萌奈そのものになるとこまでは予測出来ませんでしたが。

    萌奈は優しすぎますね。伸之と丸男の幸せだけを考えて自分の身体を諦めるなんて、普通なら出来ません。

    その点、自分の価値観に囚われて本物の萌奈を理解してくれない伸之はちょっと最低ですね。本当に萌奈が好きなら理解してあげて欲しいところです。
    まあ、もはや偽物もある意味、本物みたいなものですけどね。

    でも萌奈はまだ幸せな方かもしれませんね。他の話みたいに老い先短い老人とか、『その身体いただきます』みたいに障害持ちのおっさんと入れ替わったわけではありませんから。小学生から前向きに人生を再出発することは十分可能でしょう。

    それにしても萌奈は諦めるのが早すぎる気もしますね。
    小学生の丸男が入手出来たんだから、恐らく黒い糸はネットとかで入手した可能性が高そうなので、萌奈が探せば黒い糸は普通に手に入った可能性が高い気がします。

    まあ、丸男が自分を萌奈と思い込んでる状態で元に戻っても、「私の身体返して」みたいなことになりそうなので、厄介ですか。

    ところで丸男が自分を本物の萌奈と思い込む展開も悪くないですが、交通事故で丸男が萌奈の身体ごと死んでしまう展開でもよかった気もしますね。

    その場合でも萌奈は丸男として生きていくしかなくなるわけですが、萌奈が交通事故で死んでいたら、丸男は萌奈を死なせた仇ということになるので、
    伸之が丸尾(萌奈)を復讐として殺そうとしても不思議じゃありませんからね。

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コメントありがとうございます~!

    萌奈は確かに優しすぎましたネ~!
    これ以上いざこざして、みんなを傷つけて泥沼になることを
    恐れてしまったようデス~…!
    (それなら、このまま丸男として生きたほうが…
     みたいな感情になってしまった感じですネ…!)

    交通事故で命を落とすパターンも、良かったですネ…!
    そのルートの場合だと、
    続編にも膨らむお話になったかもしれません…!