<憑依>憑依発見機 ~憑依された人間を見破る発明~

”憑依薬”

裏社会に蔓延するその薬で
不運にも乗っ取られてしまった人々ー。

そんな事態に対応するため、
”憑依発見機”の開発を急ぐ男がいたー。

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数十年前ー
”憑依薬”が開発されたー。

人間が、他人に憑依することができるようになる薬だー。

開発された理由は、
純粋な心からだったー。

”患者さんの痛み・感覚・現状”
それらをすべて、正確に理解して、
正確な医療を提供したいー

そんな、一人の医学者の発明だったー。

だが、
世の中は、そんなにきれいな世界じゃない。
研究者の一人によって、外部に持ち出された憑依薬は
あっという間に世の中に拡散し、
”悪用”されたー。

”医療分野のために役立てる”
そんな当初の想いは失われてー
私利私欲のために憑依薬を使い、他人を乗っ取る用途に使われたー

乗っ取られた人間は、
抵抗することもできず、
身体も、心も全てを奪われて、
そして、欲望のままに身体を使われてしまうー。

今でも”憑依薬”の存在は
世間的には、公にはなっていないものの、
確実に乗っ取られて人生を奪われた人間が
存在しているのも事実だったー。

「-----俺は、そんな状況を変えたいんだ」
研究者の山尾 翔一(やまお しょういち)は、
そんな世の中を救うために、
あるものを開発していたー

「--お父さんってば、今度は何を作ってるの?」
女子高生で、娘の奈津(なつ)が興味深そうに
父親・翔一の作業を見つめる。

翔一は笑ったー

「世界を救う発明だよ」
とー。

”憑依薬”のことは、政府が徹底的に隠そうとしているために
世間的には、認知されていないー
だが、実際にその被害はどんどん広がっており、
今では、100人にひとりは憑依されている、などと
政府内で予測も出ているー。

政府直轄の研究施設に所属している翔一は、
”憑依されている人間”と
”憑依されていない人間”を見分けるための
”憑依発見器”の開発を続けていたのだー。

「----遅くまで、お疲れ様」
妻の百恵(ももえ)が、夜遅くまで作業を続けている翔一に声を掛けるー。

翔一は「家でも忙しそうにしてて、ごめんな」と、
申し訳なさそうに頭を下げるー。

翔一は研究所でも、家でも研究を続けているー

”憑依”のことは、あまり広めるべきではない、ということで、
家族にすらそのことは話していなかった翔一は
ある意味で、孤独な戦いを続けていたー。

「--大丈夫。でも、あまり無理はし過ぎないでね」
百恵の言葉に、翔一は
「あぁ。家族を置いて身体を壊すわけには
いかないからな」と、微笑んだー。

翔一は、夜遅くまで作業を続けると、
家族の写真を見つめたー

妻の百恵ー
娘の奈津ー

そして、
現在、修学旅行中の息子・佳也(けいや)

その3人と一緒に写っている写真ー

「----(この研究がひと段落したら、
 しばらく休暇を取るかー)」

翔一の収入は、平均よりも高いー

とある企業で研究者として働いていた翔一は、
その才能を認められて、
政府直轄の研究組織にスカウトされたー。

そこで、翔一は”憑依”のことを知ったー。

この世には、”憑依薬”というものが存在しー、
既にそれは社会に出回ってしまっているのだという、
恐ろしい事実をー。

そして、翔一は実際に”憑依”された少女を目にしたのだー

凶悪犯罪者に憑依されてしまった哀れな女子大生はー
綺麗な顔を鬼のように歪めながら
「-お前ら全員ぶっ殺してやる!」と叫んでいたー。

”見た目”は優しそうな女子大生が
そう叫んでいた場面を目撃した翔一は、強いショックを受けたー。

現在、事件を起こして逮捕された後に、
研究施設に移送されて、隔離されている状態にある
その女子大生と、翔一も実際に話したことがあるが、
かなりショッキングな光景だったー

汚い言葉を口走り、
指を突き立て、
挑発的な行動を繰り返す彼女はー

完全に
”中身と外見が一致しない”状態だったー。

こんな風に
”人生”を乗っ取られてしまった子が、
他にもいるー。

そう考えただけで、翔一は
”なんとかしなくてはならない”という
使命感が強く、湧いてきたー。

翔一は、それから”憑依発見器”の開発に全力を尽くしているー

同じ研究施設では
”憑依された人間に投与することで、憑依した人間を分離させる薬”の
開発も進められているー。

翔一が主任となって進めている研究ー
そして、別部署による、分離薬の研究ー

その二つが揃えば、
憑依された人間を救い出すことが、できるー。

さらに、別部署では、”憑依薬による憑依”を防ぐための、
予防薬も開発が進められているー
場合によっては、これを人々に投与することによって、
憑依薬そのものを無効化する必要も、今後、出て来るかもしれないー。

「----……」
翔一の”研究”はラストスパートを迎えていたー。

憑依された人間の中には、
2つの意識が宿るー
元々、憑依された側の人間にあった意識は
強引に抑え込まれて、
脳が、新しく入って来た”憑依した側の意識”に従い、
思考するようになるー。

そこにー
”一つの信号”が生まれるー。

”無理矢理従わされている状態の脳”は、
通常の人間が発することのない特殊なシグナルを発することを
突き止めた翔一は、
それを判別するためのシステム開発を続けていたー。

それさえ完成すればー。

「-----------!」
翔一は、笑みを浮かべたー

数週間前から取り組んでいた”最後の課題”を
ようやくクリアすることが出来たのだー。

翔一の研究室で拍手が巻き起こるー。

「---所長」
研究所長の元に報告に行くと、
”憑依発見器”の完成を誰よりも喜んでくれたー

所長と抱き合い、早速”テスト”を行うー。

施設に隔離している例の女子大生の前にいくと、
その女子大生に、憑依発見器を向けたー

するとー

”Possession”と、画面に表示されたのだー。

「おおおおお!やったな!山尾くん!」
所長が嬉しそうに言うー。

「--ええ、やりました!」
翔一が、所長の方にも向けると、所長は”normal”と表示されたー。

翔一は自分にも向けて”normal”と表示されるのを確認すると、
所長と共に、研究の成果を喜んだー。

「---あとは、分離薬のほうの開発が進めば、
 憑依された人間を助けることができる」

喜びから、ようやく落ち着いた所長が、隔離されている
女子大生の方をガラス越しに見つめながら
「彼女も…」と、呟いたー。

「---分離薬の方の開発状況は、どのぐらいですか?」
翔一が言うと、

「-8割は進んでいるが、何せ人間に投与するものだから、
 発見器以上に、慎重に開発しなければならないからな」と、
所長は説明したー。

「-そうですね。では、私のチームでは、
 発見器の最終確認と、精度向上、量産できるかどうかの
 検討をその間に進めます」

翔一の言葉に、「あぁ、任せる」と、所長は力強く頷いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅した翔一は、自室で”研究成果”を見つめていたー

翔一が、”憑依発見器”を持ち出して、
自宅でも研究を続けてることを許可されていたのは、
翔一自身が所長から強い信頼を得ていたこと、
そしてもう一つ、
翔一の研究自体は、単体では悪用される可能性が
非常に低いという理由からだったー。

発見器だけを万が一盗まれても
”それが何なのか”分からないだろうし
”それを悪用することもできない”だろうし、
リスクは非常に低いと、所長は判断していたのだー。

それならば、優秀な翔一本人のやりたいように
やらせよう、という、所長の判断ー

その結果ー
翔一はこうして、”分離薬”を開発している部署よりも早く
研究の成果を出すことに成功したのだー。

「---さて…あともうひと頑張りだな」
翔一は満足そうに呟くー。

分離薬は同じ研究施設に所属する、鍋田(なべた)という男が
率いる研究チームが開発を続けているー。

鍋田は研究者としてのプライドがとても高いため、
鍋田から頼まれない限り、翔一が自分から声を掛けることは
しようとしなかったし、所長も、そんな鍋田の性格を理解しているからこそ、
翔一に、鍋田チームの分離薬開発が終わるまでの間、
発見器の更なる性能向上を命じたのだろうー。

「-俺は、俺の仕事を完璧に仕上げなくちゃな」
そんな風に呟きながら、翔一は、満足そうに
”そうだ”と、何気なく、リビングにいる家族に
こっそりと、憑依発見器を向けたー。

スマホをいじっている娘の奈津に、
向けた発見器はー

”Possession”と表示されたー。

「---?」
翔一は首を傾げるー。

”Possession”とは、対象の人間が
憑依されていることを示す文字だー。

「--?まだ動作が不安定だな」
そう呟きながら、翔一は、台所で洗い物をしている妻の百恵にも
発見器を向けたー

するとー

”Possession”と、表示されたー。

「--あれ?誰に向けても憑依判定が出るな?」
発見器の動作がまだ不安定なのだろうー、
そう思いながら、翔一は一度部屋に戻り、発見器を特殊な機械でスキャンするー。

しかし、動作に異常はない、と表示されているー

「---ん?」
翔一の表情から、笑顔が消えたー。

もう一度部屋から飛び出し、
娘の奈津と、妻の百恵に発見器を向けたー

しかし、何度発見器を向けても、
発見器から帰って来る答えはー

”Possession”
だったー。

つまり、娘の奈津と、妻の百恵は、憑依されているー

少なくとも、発見器はそう言っているのだー。

「----!!!」
動揺しながら、翔一は自分に発見器を向けるー。

自分に向けた発見器は”normal”と表示されているー

「--う、、嘘だ…」
翔一は困惑しながら、娘の奈津と妻の百恵が楽しそうにしている
リビングの方を見つめるー。

嘘だ…こんなのあり得ない…
何度も何度も、自分の中でそう呟きながら
奈津と百恵を見つめるー

その時だったー

「ただいま」
修学旅行中だった息子の佳也が帰宅したー。

愕然としていた翔一はビクッとして、振り向くー

佳也は「なんだよ、父さん…モンスターを見るような目をして」と
苦笑いしながら、リビングの方に入っていき、
リビングにいる奈津と百恵に「ただいま~!、おみやげなんだけどさ~」と
修学旅行の思い出話に花を咲かせ始めたー。

「---」
翔一は”そんなはずはない”と、思いながら
佳也にも発見器を向けたー。

発見器から帰って来た答えはー

”Possession”
だったー。

娘の奈津にもう一度向けるー
結果は”Possession”

妻の百恵にもう一度向けるー
結果は”Possession”

手を震わせながら佳也に向けるー
”Possession”

そして、自分に発見器を向けるー
”normal”

それはー
”冷たい現実”を翔一に伝えていたー

翔一が開発した機械は、正常に動作しているのだー。

「---!…!!」
青ざめた表情で翔一が、現実を受け入れられず
何度も何度も、娘の奈津や妻の百恵ー
息子の佳也に向けるも、
結果は変わらなかったー

「--あれぇ?お父さん、どうして真っ青になってるのー?」
奈津が、リビングの外から、奈津たちを真っ青な表情で
見つめているのに気づき、笑みを浮かべたー

そして、手元の装置に小さく
”Possession”と、表示されているのに気づくと、
奈津・百恵・佳也の三人は、
口を揃えて、父親である翔一の方を見つめながら呟いたー。

「--あ~~~あ、バレちゃったか」

とー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

憑依発見器の1話完結のお話でした~!
1話完結モノなので、あっさり気味ですが、
身の回りの人が知らずの間にこんなことになってたら
びっくりしちゃいますネ…!

お読み下さりありがとうございました~!

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小説

コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    途中まで読んだ辺りで翔一の家族が憑依されてるというオチはなんとなく予想がつきました。最後の後、どうなったか気になります。

    ところで翔一の家族に憑依してるのは翔一の知り合いなのか、全く他人なのかどっちでしょうね? 前に家族全員がグルになってた会社の同僚に乗っ取られる話がありましたが、この話はどうだったんでしょう? 最後にバレて3人が口を揃えてるとこを見ると、3人はお互いに憑依してるのを知っていたようですが。

    それにしても、家族が憑依されていたのはいつからなんでしょうね? もし憑依されてるタイミング次第では憑依から開放出来てもハッピーエンドにはならなさそうですよね。

    例えば妻の百恵が憑依されてるのは結婚前、あるいは出会う前だったとしたら、本物の百恵は翔一を知らない訳ですから。

    普通に家族として暮らしてたとこを見ると、三人とも憑依してることを別とすれば、翔一を破滅させようとするような悪意がある訳でもなさそうですが。

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コメントありがとうございます~!

    1話完結のお話の方が、オチは読みやすいかもですネ~!

    家族が憑依されていたのが、いつからかによって
    色々妄想も捗りそうデス…笑

    憑依している三人の目的は、確かに翔一の破滅ではないですネ~!
    一応設定はありますが、それはいつか書く…かもしれないので、
    今は語らないで起きます☆!