<憑依>レンタル彼女②~正体~

憑依するために呼んだレンタル彼女ー。

しかし、やってきたレンタル彼女・月菜の言動に、
彼は振り回されていくー。

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恭三と月菜は、遊園地で
デートを満喫していたー。

”本物”のデートではない
”偽り”のデートー

月菜は”レンタル彼女”としての仕事をしているだけでー
恭三は”乗っ取る身体”目当てでレンタル彼女を呼んだだけだー

しかしー
恭三は、未だに月菜に憑依することが出来ずにいたー。

”っていうか、何でこの子、憑依のこと知ってるんだ?”
恭三は戸惑うー。

あっさりと”わたしに憑依するつもりですよね?”と
見破られてしまった恭三ー

だが、普通の子であれば、憑依のことなど、知るはずがないー。

それにー
普通、”自分の身体が奪われる”なんて思えば、怖いはずなのだー。

「----なぁ…る、、月菜」
”レンタル彼女”に対しての語り掛け方で呟く恭三ー

素の彼女は、どこか”見た目とのギャップ”がありすぎるぐらいに、
冷静で、人生を達観している印象を受けー、
正直、恭三からすると”怖い”という印象すらあるー。

だから、レンタル彼女モードの月菜にそのまま聞くことにしたー

「なぁに?」
観覧車の中で、月菜が答えるー。

「---憑依のこと、なんで知ってるんだ?」
恭三が尋ねるー。

月菜はにこっと、微笑んだー

「ーー知ってちゃいけない?」
とー。

恭三は、表情を曇らせるー。

”この子はいったい何なんだー?”
とー。

観覧車の中ー
周囲の誰からも見られることのない、チャンスー。
ここで月菜にキスをすれば、月菜の身体を奪うことが出来るー

それなのにー
恭三の身体は動かなかったー

「---で、、でも、ほら、普通は知らないだろ?
 なんで知ってるのかな~って」
恭三が、観覧車の外に広がる景色を見つめながら言うと、
月菜は呟いたー

「”経験者”だからー」
とー。

「--け、経験者!?」
恭三は戸惑うー

じゃあ、目の前にいるこの子はー
既にほかの誰かが憑依している状態ー

そういうことなのだろうかー。

恐怖を覚えながらー
「じ、、じゃあ…月菜は、、月菜じゃないってこと?」
と、恭三が聞くー

月菜は首を振ったー

「わたしは、わたしだよ」
とー。

笑みを浮かべながらー

「--わたしは金井 月菜ー
 身体も、中身も、金井 月菜ー。」

そう呟くと、月菜は「ほら、もっと面白い話をしようよ!荻田くん!」と
恭三の手を握ったー

さすがプロのレンタル彼女ー
あくまでも、こちらから何か言わない限り、
レンタル彼女モードを崩そうとはしないー。

「--…経験者っていったいー?」
恭三はなおも食い下がるー

「-その話はおわり!それより荻田くん、わたし次はーー

「--月菜…いいや、金井さん!経験者ってどういうことですか!?」
恭三が”彼氏”モードをやめて叫ぶと、
月菜の表情から笑顔が消えたー

「--言葉の通りですよ」
月菜がため息をついて、そう呟くー。

「---言葉の通り…!?ど、どういう」
恭三が言うと、月菜は観覧車の外を見つめたー。

「--わたしは、”憑依”されたんですー」
月菜の目は、悲しそうだったー

けれども、とっくに涙は枯れているー
そんな、感じだあったー

「え…じゃあ、やっぱ君は…金井さんであって、金井さんじゃない…?」
恭三が困惑しながら言うー。

この子は
金井月菜ではなく、
金井月菜に憑依した誰かなのだとー

「--さっき言いましたよね」
月菜が恭三の方を見つめるー

「-わたしはわたしだと。
 わたしは、正真正銘、金井月菜です」

月菜が少し口調を強めて言ったー

「じ、、じゃあ…憑依されたって…え?」
恭三の頭の中は混乱していたー

「---…今も、されているのは確かです」
月菜はそれだけ言うとー

”わたしは、高校1年生の時に、憑依されました”

と、語り始めたー。

スマホを開いて、写真を見せて来る月菜ー。
高校に入学したばかりの月菜本人の写真なのだと言うー。

その写真の月菜は心から笑っていてー、
月菜の”守ってあげたくなるような優しそうな美少女”の
雰囲気と一致しているような笑顔だったー。

フッ、と自虐的に鼻で笑う月菜ー
まるで、過去の自分をあざ笑うかのようにー

「いったい、何が…」
恭三がそう言いかけると、
月菜はため息をついてから、目を閉じて、
話を続けたー。

高校1年生のとき、金井月菜は憑依されたー
憑依薬を手に入れた、下心丸出しの男にー。

「---わたしは、浅井(あざい)という男に
 憑依されたんですー」

月菜は言ったー。

下校中、急に声を掛けられた月菜は、
知らない男にいきなり名刺を渡されたー

浅井 典夫(あざい のりお)-

名刺を渡した男はほほ笑んだー
”今から君の身体を貰う男だ。よろしくね ふへっ”
とー。

そしてー
月菜は、
”浅井”を名乗る男に、突然キスをされて、憑依されたー

「--それから、どうなったと思います?」
月菜が、諦めのような色の浮かんだ瞳で、恭三に語り掛けたー

観覧車がちょうど頂上にたどり着くー。

「ーーー気が付いたら、わたしは高校を卒業していました」
月菜が言ったー。

「え…」
恭三が戸惑っていると、
月菜は、自虐的に笑ったー

「気が付いたら、大学生になっていて
 気が付いたら、一人暮らしを始めていてー
 気が付いたら、男といっぱいヤッててー
 気が付いたら、両親にも絶縁されててー

 何もかもが、変わっていたー」

沈黙する恭三ー。

「--すると、君は…、高校生の3年間の間、
 その浅井って人に憑依されていたってこと…?」

恭三が言うと、月菜は「そうです」と呟いたー。

「--」
ため息をついた月菜は続けるー。

「-ーレンタル彼女は生きていくために始めました。
 気づいたら両親には絶縁されていて、
 頼る人もいないので、お金稼がないとやっていけませんから」

月菜は言うー。

浅井に憑依されていた3年間の間に、
月菜の身体は、欲望のままに利用され、
何人かの男と身体の関係を持たされた上に、
両親にも呆れられて、絶縁されてしまったのだとー。

憑依されて、気づいたときには、全て失っていたのだとー。

「--人生なんて、こんなものですよ」
月菜はすべてを諦めて悟りの境地に達してしまったかのような
表情で呟くー。

「--夢も希望も奪われてー
 わたしには、何も残っていないー

 こうして、バイトしながら、必死にお金を稼いで
 生きるためにそれを消費していくー

 趣味にかけるお金もないし
 両親に親孝行することもできないし
 友達ももういないー。

 ふふっ…
 だから、いつ終わってもいいんです。こんな人生ー。

 わたしの身体、欲しいんでしょう?
 さぁ、どうぞ」

月菜の瞳はー
”何もかも諦めた”瞳だったー。

「--そ、、その浅井って男は…?
 どうして金井さんは意識を取り戻したんですか…?」

恭三が言うと、
月菜はクスッと笑ったー

「--わたしに憑依した男…、浅井は
 大学生になってすぐ、夜道で痴漢に襲われて
 乱暴されて、あまりの恐怖に心を閉ざしてしまったんですー」

月菜に憑依して、月菜を乗っ取っていた男・浅井は
欲望の高校生活を楽しみー
さらには欲望の女子大生生活も楽しもうとしていたー。

しかしー
男を誘うような恰好で夜道を歩いていた際に
痴漢に襲われて、散々乱暴されたー。

あまりの恐怖から、浅井は、月菜に憑依したまま
心を閉ざし、完全に廃人状態になってしまいー、
結果的に、月菜本人の意識が3年ぶりに表に出て来ることが出来たのだー

それから1年半経過したのが
今の月菜なのだというー。

「---わたしの中には、今もわたしを乗っ取った男がいますー
 まぁ、もう、そいつが目覚めることはなさそうですけど」

月菜はそこまで言うと、
「-これで満足ですか?」と、呟いたー

「あ…は、、はい…」
恭三がうつむくー。

「--憑依、いつでもどうぞ。
 わたしには、どうせ何もないので」

月菜はそれだけ言うと、観覧車から降りて、
にこっと笑ったー

「じゃ、次はあれに乗りたい~♡」
レンタル彼女モードに戻った月菜ー

恭三は、月菜の話を忘れられず
何度も何度も頭の中で月菜の話を思い出したー

「きゃ~~~~~~~~~!」
お化け屋敷で楽しそうに驚いている月菜ー

月菜の後ろ姿を見て、恭三は思うー。

きっと、この子は、憑依される前は
こんな感じだったのだろうー、とー。

けれどー
憑依が彼女を変えてしまったー。
心から、笑うことのない彼女に、
憑依が変えてしまったー。

「--ほら、!こっちこっち!」
月菜が嬉しそうに手を振るー。

「---」
恭三は、険しい表情をしながらも、月菜についていくー。

月菜と共に、色々な乗り物に乗るー。

”レンタル彼女”の時間が着々と減っていくー。

”早く憑依するんだ、俺”
恭三は心の中で何度も何度も叫んだー。

月菜は本当に楽しそうにしているー
さっき、観覧車の中で見せてくれた月菜の高校時代の写真のようにー

でも、きっと、これは”演技”なのだろうー

”彼女”という役をレンタル彼女として忠実に演じているー
そういうことなのだろうー。

「-----」

月菜の見た目と中身が違うように感じたのはー
月菜が変わってしまったからー。

恭三は、そう思ったー

「---ーー!」
恭三は、のんびりと動く車の乗りものに乗りながら
夜の遊園地の風景を見つめている月菜が
少しだけ涙ぐんでいるのに、気づいたー。

「---…」
恭三は、なんて声を掛けて良いかも分からなくなって
「--景色、綺麗だね」と、だけ呟いたー。

「---うん!綺麗!」
月菜が”レンタル彼女”モードで返事をするー。

「--あ、、あの!」
恭三が叫ぶと、月菜が「なぁに?」と、
あくまでも彼女モードで返事をしたー

あと40分ー。

「--あの!残り時間は!素の金井さん…で…
 お願いできますか?」
恭三が言うー

”俺は何を言ってるんだ?”と思いつつ、
”憑依されていた過去を持つ月菜”に好奇心を
抱かずにはいられなかったー

「------まぁ、いいですよ 別に
 それでいいなら。
 この方が楽だし」

月菜が髪を触りながら、そう呟くと
景色で騒ぐのも、笑顔を浮かべるのもやめて、
ため息をついたー。

「--ーーーーーー」
月菜はつまらなそうに遊園地の景色を見つめているー

恭三は気まずくなって、
「--レ、レンタル彼女の仕事ってー…ど、どうですか?」
と、呟くー

「--別に。お金がないと、生きていけませんから。
 まぁ、別に死んでもいいんですけど」
月菜がフッと、笑うー。

「--そ、そんなこと…!
 ほ、、ほら、今からだって、人生ー」
恭三は言うー。

高校3年間、憑依されていたとは言え、
まだ、月菜は大学生だー
今からだって人生ー

「-----は???????????」
月菜が表情を歪めたー

恭三はビクッとしてしまうー
自分よりはるか年下の月菜に、ビクッとしてしまったー。

「----今からでもやり直せるーー
 って、言いたいんですか?

 ーー親には絶縁されて、友達は全員失ってー
 はじめても奪われていてー」

月菜の言葉に、
恭三は「--で、、、でも、ご両親に、事情を説明してー
友達にも、事情をーー」
と、おどおどしながら言うー

「---もういねぇよ!!!!!!!!」
月菜が声を荒げて、乗っている乗り物のハンドルを思いっきり叩いたー

「ひっ!?!?!?」
恭三が悲鳴を上げるー

「--すみません。 うざいと思ったんでつい」
月菜はすぐに平静さを取り戻すと、続けたー。

「---母も父も、わたしが憑依されていることに気づかないままー
 わたしと絶縁したあとに、山中で心中して死にましたー
 
 ご両親に事情を説明して?
 それは、わたしに死ねってことですか?

 まぁ、それでもいいんですけどね」

月菜はそこまで言うと、時計を見るー

車の乗りものから降りた月菜は恭三の方を見つめたー

「--わたしには、もう何もありません。
 ですから、そのわたしの身体が欲しいなら、どうぞ。

 レンタル彼女だって、家賃とか払えないから
 仕方なくやってるんです。
 
 わたしが憑依されている間は男に身体を売ったり
 風俗店で稼いでたみたいですけど、
 わたしはそういうことできないので

 これがギリギリのラインなんです」

月菜が、人通りの少ない場所まで歩いていくと、
遊園地の光を見つめながら続けたー。

「-ーどうぞ。 憑依するために、呼んだんでしょう?」
月菜の言葉に、恭三は戸惑うー。

「-さぁ、どうぞ。
 人生なんて、つまらないのでー」

「----…」
恭三は、表情を曇らせながら、月菜の方に近づいたー

あと20分ー

そうだ、俺は、この子の身体を奪うためにー
この子を呼んだんだー

恭三は、そう思いながら、月菜の方を見つめたー。

③へ続く

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レンタル彼女・月菜の身体を奪うことは
出来るのでしょうか~?
それとも…?

次回が最終回デス~!
 

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憑依<レンタル彼女>

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