<他者変身>あなたが落としたのはどっちの彼女?①~選択~

デート中のカップルの彼女が、泉に落ちてしまった…!
戸惑う彼氏ー
そして、泉から、女神のようなものが出てきて、彼にこう言い放ったー…!

「あなたが落としたのは大人しい彼女?
 それとも明るい彼女?」

ーと。

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大学生カップルの二人は、
休日を利用して、”カップルの愛を試す”という都市伝説のある
山にやってきていたー。

「--はぁ、、はぁ…ここのどこが、カップルの愛を試すんだ…?」
戸惑いながら、山を登るのは、
男子大学生の前沢 恭平(まえさわ きょうへい)-。

「はぁ…はぁ…」
後ろをついて歩く彼女の元木 遥奈(もとき はるな)も疲れた様子で、
歩いているー。

恭平と遥奈は、同じ大学に通うカップルー。
大学で出会い、意気投合し、そのまま付き合い始めたのだったー。

既に付き合い始めてから1年以上が経過し、
今でも二人は、順調に仲良く過ごしているー。

恭平は、明るく、優しいタイプの男子で、
時折ずる賢いところがあるのが傷ではあるものの、
素行も全体的に良く、彼女である遥奈のことも、とても大切にしている。

一方の遥奈は、小さいころから身体が弱かったせいか、
大人しい性格で、とても真面目なタイプの子だー。
友達の人数も限られてはいるものの、
けれども、いじめを受けたりはしておらず、
程よい人間関係を築いているー。

ただ、あまりにも遥奈が大人しいタイプであるため、
恭平は友人たちの明るい彼女を見ると、
時折羨ましがるような素振りを見せるようなこともあるー。

そんな感じの間柄だったー。

とは言え、恭平も、遥奈の前でそんな素振りを見せるようなこともなく、
遥奈のことは今でも心から大事にしていたー

そして、今日ー
”カップルの愛を試すことが出来る”という都市伝説のある山に
二人でデートをしにきていたのだったー。

「はぁ…はぁ…ただ疲れるだけだな…ここ…
 遥奈、、大丈夫か?」
思った以上に険しい道に、戸惑う恭平ー

”こんなことなら、別の場所の方がよかったな”と
遥奈の身を案じながら思うと、
遥奈は「だいじょうぶ…!」と呟いたー

「でもさぁ、愛を試すなんて、どういう意味なんだろうな…?
 そんな要素、今のところ見当たらないけど」
恭平が苦笑いしながら言うと、
遥奈は「ふたりで力を合わせて登りきれたら、絆が深まる…とか
そういう意味なんじゃないかな?」と、呟いたー

「-あ~そういう系か。確かにそうかもな」
恭平がそう言いながら、前に進もうとするとー

「あ!」
と遥奈が声を上げたー
恭平が振り返ると、
遥奈が「みてみて!」と、山道から少し外れた方向を指さすー

「あそこにキラキラした泉がある!」
遥奈の言葉に、恭平が遥奈の指をさしている方向を見るとー

確かに、そこにはキラキラと輝く泉のようなものが見えたー

「--綺麗~」
遥奈が泉の方に向かって行くー

「--」
”山道から外れると危ないぞ”と言おうとも思ったが
すぐ側だったし、
道も安全そうだったために、
恭平もそちらに向かうー。

”愛の泉”
そう書かれた看板が、立っているー

「愛の泉…ねぇ。確かに綺麗だけど」
恭平がそう言いながら、泉の側に立っているとー

「あっ!?」
隣にいた遥奈がつるっと、滑ってそのまま泉に転落してしまったー

「は、、遥奈!?」
恭平が慌てて遥奈を助け出そうとするとーー

突然、”愛の泉”が光り始めたー。

「---!?!?!?」
恭平は思わず目をぱちぱちとさせるー

泉の中からー
”光輝く女神”のようなものが
姿を現したからだー

「--え……」
”夢でも見ているのか?”そんな風に思いながら
恭平が泉から出て来た女神のようなものを見つめると、
女神が光り輝く泉に手をかざしたー。

そしてーー
かざされた両手から、それぞれ遥奈が、浮かび上がるようにして
出て来たー。

どちらの遥奈も意識を失っているー

「え…?え?遥奈が、ふたり…?」
戸惑う恭平ー

泉から出てきた女神が、二人の遥奈を
それぞれ右手と左手に吸引するような形で
浮かばせているー。

「--」
女神がすっと口を開いたー

「--あなたが落としたのは「大人しい彼女」ですか?
 それとも「明るい彼女」ですか?」

とー。

「---え?」
恭平は思わず首を傾げるー

どこかで聞いたことがあるような展開だー。

「ちょ、ちょ、ちょ…待てよ ど、どういうー?」
恭平が戸惑っていると、
女神は再び同じ言葉を繰り返したー。

恭平は、現実離れしたこの光景を前に、困惑したー。

「--……」
”明るい彼女”が羨ましいー
そんな気持ちが、恭平に無い、と言えばウソだったー。

遥奈のことは好きだー。
大人しい性格も含めてー。

けれど、人間は”ないものねだり”をしてしまう生き物だー

友人の明るい彼女を見ていると、
どうしても”明るい性格の彼女が羨ましい”と
少なからず思ってしまうことがあるー。

仮にー、
仮にもしもここで、恭平が
”明るい彼女”を指定したらどうなるのだろうか。

一瞬、そんなことを考えてしまいながらもー
恭平は”大人しい彼女”として紹介された
女神の左手側の遥奈を見つめるー。

”-たしか、正直に答えると両方貰えるんだったっけか…?”
などと思いながらー

恭平は、迷いを振り切り、すぐに答えたー

「そんなの、決まってるー」
とー。

そして、叫んだー

「俺が落としたーー
 あ、いや、落ちた本人はーー
 ”大人しいほうの彼女”だ!」

とー。

女神はにこっと微笑んだー

だが、”遥奈はふたりもいらない”
恭平はすぐに
「あ、両方ご褒美でくれようとしているなら結構ですー
 そちらの遥奈だけ返していただければ」
と、早口で付け加えたー

「わかりました」
女神はすぐにそう答えると、
遥奈を泉から、陸地の方に優しくあげるとー、
「もしも何かあれば、またここに来なさいー」とだけ呟いて
そのまま姿を消したー

意識を失っている遥奈に「遥奈!」と呼びかける恭平ー

幸い、遥奈はすぐに目を覚ましたー

「き、、恭平…」
遥奈が無事だったことを確認して、
恭平は安堵の表情を浮かべたー

”それにしても、今のはいったい、何だったんだ…?”
そんな風に思いながらも、恭平は「大丈夫だったか?」と
遥奈の身を案じた。

「---うん…ごめん。ちょっと近づきすぎちゃった」
遥奈がそう呟くと、
恭平は「まったく~…びっくりしたよ」と、
遥奈の方を見つめながら笑ったー。

泉に転落して濡れてしまった遥奈を見つめると
「このままだと風邪もひいちゃうし、もう、戻るか」と
優しく呟いたー

頷く遥奈ー。

遥奈と恭平は、そのまま来た道を引き返し始めるー。

「-------」
恭平の後ろを歩く遥奈がクスッと笑ったー。

そのことに、恭平は気づいていなかったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

愛の泉ー

いつからだろうかー。
それは、そこに存在したー。

”カップルの愛を試す”
この山が都市伝説のようにそう言われているのは、
この”愛の泉”の存在が理由だー。

恭平らが立ち去ったあとに、笑みを浮かべる女神ー

泉の底に潜った女神は、微笑みながらーーー
遥奈の方を見つめたー

泉の底に遥奈は”幽閉”されていたー
何故だか呼吸は出来るー
だが、身動きを取ることが、できないー

「--わ、、わたしをここから出して!」
遥奈が怯えながらそう言い放つと、
女神はほほ笑んだー

「ここは、”愛”を試す場所ー。
 
 1週間ー

 あなたの彼氏が”連れ帰った彼女”が
 偽物であると気づき、
 ここに戻って来たらー
 あなたたちの”愛”は本物ですー」

女神はそう言い放つー

恭平が選ばされた
”大人しい遥奈”と”明るい遥奈”は
どっちも”偽物”だったー。

泉の中に巣くう思念体ー。
そのうちの2体が、遥奈の姿に変身した”偽物”だー。

”も~~~~あたしが現世に戻りたかったのに~!”
泉の中を泳ぐ霊魂のようなものが女神に向かって言い放つー

「--我慢なさい。あなたは選ばれなかった」
女神はそう呟くと、
”本物”の遥奈の方を見つめたー

「--あなたたちが本当に”愛”で結ばれているならー
 あなたの大切な彼氏は、必ずここに戻って来るはずー」
女神の言葉に、身動きの取れない遥奈は、
震えながら女神を見つめたー

「も、、もし…もし、恭平が、来なかったら…?」
思わず不安になってしまう遥奈。

女神はクスッと微笑んだー。

「--その時はーーー
 ”あなたは必要ない”
 それだけのことー」

女神を名乗る存在の目に”憎しみ”の気配が浮かんだー。

遥奈は、女神に底知れぬ恐怖を覚え、
ただ、震えることしかできなかったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「今日は、ごめんね」
”偽”の遥奈がお詫びの言葉を口にすると
恭平は「いや、いいよ 風邪ひくなよ?」と
心配そうに呟いたー

「--うん」
偽物の遥奈が微笑むー。

「------」
”遥奈”に変身したことで、遥奈の記憶までも
しっかり受け継いでいる偽物は
遥奈の家の位置を記憶から探り、少しだけ微笑むー。

「---それにしても、あの山、
 全然”愛を試す”なんて要素、なかったよなぁ」
恭平が言うと、
偽物の遥奈は「あの泉が、愛を試してくれたんじゃない?」とほほ笑むー。

「---え?」
恭平は泉での出来事を思い出すー

とても、奇妙な経験だったー。
大人しい遥奈か、明るい遥奈かー。
泉の女神に選ばされたー。

「---恭平、明るいわたしを選ぶんじゃないかって
 思って、ドキドキしちゃった」
偽物の遥奈が微笑むー。

「--ははは、そんなわけないだろ。
 俺にとって、遥奈は遥奈だー。

 ”いつもの遥奈”を選ぶに決まってるだろ?」

笑いながら、まっすぐとした目で遥奈を見つめる恭平ー

その言葉に、にこっと、微笑む偽物の遥奈ー

「--あ、ごめんごめん。つい長話を…
 帰ったら早くお風呂に入ったほうがいいぞ

 遥奈、身体あんま強くないんだからさ」

恭平の言葉に、偽の遥奈は「うん」と頷いたー。

「じゃ、また明日ー」
「-ばいばい」

別れの挨拶を交わすふたりー

恭平が立ち去っていくー

恭平に笑顔で手を振る偽遥奈ー。
やがてー
恭平の姿が見えなくなると、偽物の遥奈は
笑みを浮かべたー

「遥奈は遥奈…」
低い声で呟く偽物ー

「-----ば~~~~~~~か
 俺は遥奈じゃねぇよ」

”偽”遥奈は、静かにそう呟くと、
鼻で笑って、そのまま遥奈の家に向かったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

泉の底ではー
不思議な力により”偽物”の今の様子と
恭平の今の様子が映し出されていたー

恭平は”連れ帰った遥奈”が偽物だと全く気づいていないー

部屋に戻った偽遥奈が自分の胸を揉みながら笑っているー

「--(お願い…早く…気づいて)」
遥奈が祈るような気持ちで、映像を見つめるー。

この泉にはー
”世の中に未練を残して死んだ人間の魂”が
集まって来るー。

”女神”は、
そんな人間の魂を使って、”愛”を試しているー。

”大人しい遥奈”として、
恭平の前に姿を現した”遥奈に変身した”のは、
大昔に女遊びを繰り返した挙句、病死した男の魂だー。

「---”1週間”」
女神は呟いたー

1週間以内に恭平が、”一緒に帰った遥奈”が偽物だと気づき、
この泉にやってくればー
本物の遥奈を返すー。
そして、二人に永遠の愛が訪れるよう、女神は二人を祝福するー。

けれどー
1週間以内に恭平が気づかなければー。
”本物”を処分しーー
遥奈に変身して、遥奈になりきっている”偽物”に
本物の遥奈として生きる権利を与えるー。

「----」
女神は、”偽遥奈”と”恭平”
それぞれの現在の様子を見つめながら、静かに笑みを浮かべたー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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偽物に気づいていない彼氏…!
果たしてその運命は…?

続きはまた明日デス~!

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