とあるオカルト雑誌の女性記者は、
”数々のでっちあげ”で、雑誌の売上に貢献していたー。
しかし、ある日ー。
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「田宮!この前の特集、さすがだったな!」
編集長の男が、
若い女性記者の田宮 佳里(たみや かり)に
声を掛けるー。
佳里のサポート役である女性・榎本 円子(えのもと まどこ)と共に
編集長の前に立つ佳里ー。
佳里は嬉しそうに「ありがとうございます」と
頭を下げたー。
オカルト雑誌”パンドラ・ドキュメンタル”の
編集部に所属するか佳里は
先月号で”廃墟に潜む怨念”という記事を担当し、
その反響が上々だったのだー。
「--しっかし、”ないもの”をあるように見せるのが
本当に田宮は上手いよな」
編集長が笑いながら言うと、佳里は笑うー。
「--オカルト系の話なんて、
全部人間の妄想ー
心の弱さが作り出しているものですから。
心霊現象とか、そんなものなんて、絶対存在しません」
佳里の言葉に、編集長は笑いながら
「オカルト雑誌の編集部に所属してるとは思えない言葉だな!」と
笑みを浮かべたー
サポート役の円子も、苦笑いしているー。
「でも、編集長だって、そう思っているじゃないですか?」
佳里が笑うと、
編集長も、「まぁな」と大笑いするー
「俺たちは”オカルト”という概念を食い物にしてるんだからな!
がはははは!」
編集長の言葉を聞きながら、佳里も満足そうに笑みを浮かべたー
「--円子、次もこの調子でやるわよ!」
佳里がサポート役の円子に声を掛けると円子も「あ、はいっ!」と
嬉しそうに返事をしたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日ー
佳里は”適当な廃墟”を再び見つけて、
編集長に企画を出したー
サポート役の円子と共に、再び調査に向かうつもりだー
「--今度は西地区の廃墟をネタにしたいのですけど」
佳里の言葉に、
編集長は「またいい感じの場所を見つけたねぇ」と
笑みを浮かべる。
「お金持ちの別荘がそのまま廃墟になった場所だそうですよ」
佳里は、笑いながら、その廃墟のことを説明するー
「なんでも、一家心中して、そのまま手つかずに
なっているみたいで…
ちょうど、こういう場所って、読者の興味を引くんですよねぇ~」
佳里の言葉に、
編集長は「ちげぇねぇ」と、ニヤニヤしながら頷くー。
「--で、どんな”作り話”をするんだ?」
編集長が言うと、佳里は
「--ふふ、それは取材してからのお楽しみですー」と
笑みを浮かべるー
「--でも、編集長の期待には、必ず添えますから」
佳里がそう言うと、編集長も
「--田宮のネタは、信頼度100パーセントだからな!
楽しみにしてるぜ」と、笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---」
佳里が、”廃墟”にやって来るー。
「---ねぇ、モタモタしないで」
佳里が、一緒に連れて来た
サポート役の美奈絵に声を掛けると、
美奈絵は「すみません」と頭を下げるー
佳里よりだいぶ年上に見えるが、
佳里は今や”パンドラ・ドキュメンタル”のエース。
若いながらも、こうして、手伝いを引き連れるほどに
なっているー。
「---不気味な感じね…ゾクゾクしちゃう」
元々オカルト好きの佳里にとって
この仕事はまさに”天職”と言えたー。
佳里が、廃墟を見つめるー
ここには金持ち一家が住んでいたー。
しかし、会社があることをきっかけに傾き、
最終的には両親、二人の子供ー、
4人の家族が一家心中をする形で、
全員、死亡したー。
「--ま、そんなのどこにでもありふれた話よね」
佳里は、廃墟を歩きながら微笑むー
”不気味なスポット”を探すー
心中した一家の”亡霊”がここに残っているー
そんな、記事を書くつもりだー
「こういう、10年近く放置されてるような
廃墟って特にネタになるのよね」
佳里が微笑むー。
”放置されているー”
恐らくは土地の権利関係や、
この土地の買い手が見つからないことに
起因しているのだろうが、
こういう”場所”は、とっておきのネタになるー
”悪霊が残っていて、それによって手付かずで放置されている”という
設定を作りやすいし、
それを信じ込ませやすいからだー。
世の中には”買い手のつかない土地”なんて
そこそこあるー。
だが、一般の人たちは”土地はすぐに売れる”と思っている人も多いー
そこにー
佳里が付け入る”スキ”があるのだー。
「---」
写真を撮影する佳里ー。
「--ほら!こっち!」
アシスタントの美奈絵に指示をすると、
美奈絵も慌てた様子で佳里を手伝うー
「ふふ、不気味な感じの写真が撮れたー」
佳里はさらに”亡霊が残っている”という
でっちあげの記事に現実味を持たせるためー
”自分がこのあと、体調不良になるようー”
あることも仕組んでいたー
病院に通院した記録を作ることでー、
”廃墟で呪われた”というような
イメージを作り上げるのだー
そのためなら、自分の身体を使うことも、佳里は
いとわないー。
「---美奈絵」
佳里が、年上の美奈絵を呼ぶー。
だがー
美奈絵の姿が”消えた”
「---え?ちょっと!来て!ここ蜘蛛の巣すごいから
あんた、どうにかして!」
佳里が叫ぶー
だがー
手前の通路にいるはずの美奈絵から返事がないー
「--っ」
佳里は舌打ちをしたー
いつも”雑”に使っているからだろうかー。
美奈絵はきっと、佳里を驚かせようとしているのだろうー。
「---美奈絵!美奈絵!」
怒りの形相で、廃墟の廊下の方に出る佳里ー。
しかしー
美奈絵の姿はそこにもなかったー。
「え…!?美奈絵…?」
佳里は初めて表情を歪めたー。
「--全く…わたしに嫉妬してそういうことするの?」
呆れ顔で廃墟の豪邸の中を探し回る佳里ー。
しかしー
美奈絵の姿は全く見当たらないー。
「編集長への説明面倒臭いんだけど」
と、うんざりしながら、佳里は廃墟の豪邸の奥の方に進むー
”さすがにまずいかな”
と、佳里は深くため息をつくと、
愛想のよい声を出しながら、
編集長に電話を掛けたー。
「---あ、わたしですー
あの、例の廃墟に今、来ているんですけど、
美奈絵が急に姿を消しちゃって…
そちらに戻ってませんか?」
佳里が言うー
”ん?”
編集長が、戸惑うー。
「--帰社する予定の時間ー
ちょっと過ぎちゃうかもしれないのでー
…ごめんなさい、美奈絵を必ず見つけてからー」
”おい、ちょっと待て”
編集長が佳里の言葉を遮るー。
「--はい?」
佳里が首を傾げるー
”美奈絵って誰だ?”
編集長の言葉に、佳里は「え?」と声を上げるー
電話を掛けながら横を見るとー
美奈絵が佳里のいる部屋に入ってきていたー。
「--あ!いた!美奈絵!どこ言ってたの!」
佳里が電話を手にしたまま叫ぶー
”おい!!!田宮!”
編集長が電話越しに佳里の名を呼ぶー
「あ、はい、美奈絵が見つかったので、今からーー
”美奈絵って誰だ!?”
編集長が叫ぶー
「---え、、ほら、わたしをいつもサポートしてーー
”ー何を言ってる?
お前のサポート役は円子ー
榎本 円子だろ?”
編集長の言葉にー
佳里は、凍り付いたー
近づいてきた美奈絵の方を横目で見るー
美奈絵は、無表情だー。
「----!」
ゾクッと背筋が凍る佳里ー。
”おい?どうした!?田宮!?お~い!”
編集長が叫ぶー
”美奈絵”
なんて、知らないー
佳里は、震えるー。
そうだー
自分のサポート役は、円子だー。
この廃墟にも、円子と一緒に来たはずー
なのにー
いつの間にか、円子の存在を忘れー
この美奈絵という”知らない女性”をサポート役と
勘違いしていたー
まるでー
”記憶を操作”されたかのようにー
「-----」
美奈絵が無表情で佳里の方を見つめるー
佳里は、震えながら美奈絵の方を見たー
「あーーーー、、、、、
あ、、、、、あの、、、、どちら…さま?」
佳里が、恐怖を感じながら
そう呟くと、美奈絵が指を刺したー。
その先にはーーー
「---ひっ!?」
思わず尻餅をついてしまう佳里ー
アシスタントの円子がー
宙に吊るされていたー
既に、死んでいるー。
円子は、佳里と一緒にここに足を踏み入れた直後ー
”殺されたー”
佳里は、いつの間にか記憶を操作されて、
円子のことを忘れてー
美奈絵という知らない女性を、同僚だと、思い込んでいたー
いつの間にかーー
「---この世にはー
本当の怨霊も、いるのよ」
美奈絵が呟くー
「----!!!」
震える佳里ー。
部屋の隅に置かれていた写真を見るー
そこにはーーー
”心中した家族”-
この廃墟の豪邸の主だった家族が写っているー
元気そうな子供たちー
穏やかそうな父親ー
そしてーーー
今、真横にいる、美奈絵が写っているー
「--ひっ」
佳里が、泣きそうになりながら美奈絵を見るー
「--…面白半分でーーあんたは、わたしたちを踏みにじったー」
美奈絵は、
心中した、この一家の母親だった人物ー
「---ひっ…ゆ、、ゆ、、許して!」
佳里がその場で土下座をするー。
「---」
美奈絵が、佳里を見下すように見つめるー
「--許して…!許して下さい!
わ、、わたし、、わたし、編集長に言われて仕方がなく!
あ、、あの、、あのオッサン!
セクハラするし、パワハラするし、
わたし、スクープ取って来いって脅されてて!」
佳里が泣きながら言うー
だがーー
美奈絵が何かを手に持っていたー。
美奈絵が持っていたのはーー
佳里のスマホー
”なんだって!?おい、、今、なんて言った!?”
スマホから響く編集長の声ー
佳里の”責任転嫁”がスマホを通じて
編集長に筒抜けだったー
「----」
冷たい目で美奈絵が、スマホを放り投げるー
「ひっ……そ、、その女!」
佳里が、死んでいる円子の方を指さすー。
「その女が、ここに来ようって言いだしたの!
全部、その女のせい!」
佳里は、今度は、アシスタントだった円子に責任転嫁を始めるー
「----ふ~ん」
冷たい目の美奈絵ーー
「じゃあ、聞いてみよっか」
美奈絵が言うとーー
円子が姿を現したー
殺されてしまった円子も、亡霊となったのだろうかー
「----…せんぱい…」
円子の目は、死んでいるー
恨みに満ちているー
「--ひっ…!?!?ひっ!?!?」
佳里が悲鳴を上げるー。
「そいつ!!その亡霊にわたし、、脅されて…!
円子、、わたしを助けて!」
佳里が必死に叫ぶー
しかしー
円子の亡霊は、佳里の方を憎しみを込めて見つめたー
「ーーーい、、いやああああああああああああ!」
佳里は恐怖に支配されて、泣きながら廃墟の豪邸の
出口に向かおうとするー
「----そうやってー
死者を食い物にしてる、あなたのような醜悪な人間はーーー」
美奈絵が、佳里の目の前に姿を現すー
「--いつかー
死者に食われるのよ」
目を赤く光らせた美奈絵が、佳里の口に手を突っ込んだー
「ぐばっっ!?!?」
佳里が悲鳴を上げることもできずに、
苦しそうに声を出すー
そのまま、美奈絵が佳里の中に吸い込まれていくー
仰向けに倒れた佳里は苦しそうにしばらく
身体を動かしていたもののーー
やがて、動かなくなり、ゆっくりと起き上がったー
「-----」
目を赤く光らせて笑みを浮かべる佳里ー
「--」
スマホを手にすると、佳里は呟いたー。
「--編集長ー、死者を食い物にして稼ぐのって
気持ちいいですか?」
とー。
編集長が、佳里のおかしな様子に驚いているー
佳里はくくく、と笑いながらー
「--あんたら全員、呪ってあげるー」
と、憎しみを込めて、言い放ったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
”パンドラ・ドキュメンタル”の編集部員が、
全員、刺殺されたー
駆け付けた警察官が見たのはー
返り血を浴びて、笑い続けている女ー
女性記者の田宮 佳里だったー
佳里は笑いながらー
”おばけ…”
”おばけ…”
と、虚ろな目で呟き続けていたのだというー。
警察の取り調べに対しても、
佳里は、まるで廃人のように涎を垂れ流しながら
「おばけ…」と呟くだけで、何一つ、佳里から事件を起こした動機を
聞き出すことはできずーー
事件の真相は、闇に葬られたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
”-----”
美奈絵の亡霊は、佳里の身体を完全に乗っ取ってー
「あはっ♡」
牢屋の中で自ら、首をへし折ったー
笑ったまま崩れ落ちる佳里ー。
それからー
編集部全員死亡の事件は
”とある廃墟”の取材に向かった女性記者が
まるで悪霊に憑依されたかのように狂ったことで起きたー、
と、噂が広まったことにより、
美奈絵ら、家族が心中した屋敷にはー
この事件以降、誰一人、近寄ろうとしなくなったー、
と、言われているー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
でっちあげのオカルト記事を書いていたら
本当に…
という憑依モノでした~!
今回は、憑依後ではなく、憑依するまで、が
中心で書いてみました!
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