とある事故をきっかけに
”姉”の中に”父”が憑依してしまった。
そんな日々の果てに待ち受けていたのは…?
---------------–
「---そう…なんだ」
美咲希の親友・瞳が少し残念そうに呟くー
「--うん…なんだか、色々お世話になったみたいで、ごめんね」
美咲希が言うと、瞳は「ううん」と首を振ったー
「-----」
瞳は少しだけ不安そうな表情を浮かべるー
先日ー
美咲希に憑依した状態になっていた父親・剛志が
消滅したー。
美咲希本人の意識が目覚めたことによって、
美咲希に身体の主導権が戻り、
剛志は”元気でな”と言い残して、
今までの状況を美咲希に説明し、
そして、消えたー。
そのことを聞いた瞳は
”自分が美咲希とエッチなことをしていたこと”まで
伝わっていないか、という不安を感じていたのだー
「--あの…」
瞳が、美咲希の方を見るー
「え?」
美咲希が振り返ると、瞳は言いにくそうに呟いたー
「あの……わたしのこと…手伝ってた以外に、何か聞いた?」
瞳が言うー。
「--え~~~~?」
美咲希は少し考えてから微笑んだー
「--お父さんに、わたしとして振舞うための方法を
教えてくれてたって、ことぐらいかな~」
とー。
「--そっか。ならいいの。」
瞳はそれだけ言うと、
安心した様子で、「これからもよろしくね、美咲希」と呟いたー
「うん!わたしこそ」
そう言って微笑むと、瞳も前から立ち去った美咲希ー
美咲希は”--言わないのが優しさだよね”と、
苦笑いしながら、そのまま自分の教室へと戻っていったー。
親友の瞳や
友人の佐由子ー。
瞳以外は、何も知らずー
”美咲希は美咲希”と、裏で起きていたことは
知らないままー
美咲希が、あのような状態だったのにも関わらずー
こうしてー
今”自然と”学校生活を送ることが出来ているのはー
父親のおかげー
なのかもしれないー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ただいま~!」
美咲希が帰宅すると、母の功恵が、おかえりなさい、とほほ笑むー。
母・功恵は
娘に起きていたことを知らないー。
娘の中に、夫である剛志が憑依した状態で、
半年以上も過ごしていたことを、全く知らないー
「--そういえば最近なんだか元気になった気がするけど
何かいいことあったの~?」
功恵が笑いながら尋ねて来るー。
美咲希は微笑みながら「うん~?あったかも!」と返事をして
そのまま自分の部屋へと向かったー
先に帰宅していた弟・和雄と会話をする美咲希ー
和雄には、美咲希は心から感謝していたー
”家で美咲希として振舞うためのコツ”を半年以上も
教え続けてくれていたのだからー
「--本当に、ありがとね」
美咲希が言うと、
「いやぁ…おじさん臭い行動をする姉さんに何度ドキドキさせられたことか」
和雄が苦笑いしながら言うー
「-えぇ~?そんなに?」
美咲希が笑いながら言うと、
和雄は「そうだよ!俺の前で急に胸元うちわであおぎだしたりとかさぁ~」と
愚痴を呟くー
美咲希は、そんなことも含めて
和雄に「本当に、ありがとう」と、お礼を口にしたー
「--まぁ、でも、もう、姉さんが俺の部屋にズカズカ
入って来ることが無くなると思うと、ちょっと寂しいかな」
和雄が冗談を口にすると、
美咲希は「え~?じゃあ入っていこうか?」と笑うー。
「ははは、まぁ、別に入ってきてもいいけどさ」と
和雄も楽しそうに笑ったー
父・剛志は、
最後まで家族のことを想いー
そして、自分に出来る最大限のことをして、
この世から去って行ったー
和雄は、そんな父・剛志に心から感謝したー。
母・功恵を戸惑わせないようにと、半年以上も美咲希として振舞いー、
美咲希が意識を取り戻した時のために、と家でも学校でも
”協力者”を探し出して、美咲希本人として振舞う努力をしたりー。
「---親父…本当に、ありがとな」
和雄はスマホの中に保存してある父親の写真を見つめると
静かにそう呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--本当に、ありがとね」
クスッと笑う美咲希ー
美咲希は、部屋に戻ると、
自分の胸を触り、笑みを浮かべ始めたー
半年前ー
バスの事故に巻き込まれた二人ー
美咲希と、父・剛志は病院に運ばれたがー
美咲希を守るようにして、重症を負っていた剛志は
まもなく危篤状態になっていたー。
気づいたときーー
剛志は、音が鳴っている手術室の上に浮かんでいたー
自分の身体の手術が行われているー
心拍数の低下だが何だかを知らせる音が響いているー
「--え?俺、死ぬの?」
剛志は唖然としたー。
だがー
同時にすぐにー
一緒に事故に遭ってしまった美咲希のことが頭をよぎったー
「--美咲希!」
剛志はすぐさま霊体のまま移動するとー
美咲希も別室で治療が行われていたー
だが、剛志とは違い、その状況は、ある程度安定していてー
死の危険性はそれほど高くないように、思えたー
安堵しているとー
ほどなくして、剛志の身体が、死亡したー。
「--!!!」
剛志の霊体は、自分の身体が死んだことを知り、愕然とするー
そしてー
「---!!!!!」
霊体になっていた自分が”消えていく”のが分かったー
身体が死んだからだろうー
「--ちょ!?ま、、待てよ!おい!俺はまだ…!」
剛志は叫ぶー
剛志はー
まだまだやりたいことがたくさんあったー
家族のこともそうだし、
ここで消えるわけにはいかなかったー。
「死にたくない!!死にたくない!!!」
何よりー
死にたくなかったー
既に身体は死んでいるがー
霊体は、まだ残っているー
死んでいるのに「死にたくない!」と叫ぶ剛志ー
「死ぬのはいやだああああああああああああ!」
悲鳴を上げる剛志ー
パニックに陥った剛志がとっさに取った行動がーー
”--!!”
昔、漫画か何かで見た
”憑りつく”という行為だったー
眠っている娘・美咲希の身体に咄嗟に憑依した剛志は、
そのまま美咲希となったー
「----あ…」
美咲希は笑みを浮かべるー
「--俺…死んで…ない」
美咲希が笑うー
「--やった…!やった!ははっ…やった!」
自分が美咲希に憑依してしまったー
…と、いうことよりも先にー
”自分が生き延びることができた”ということに
喜びを感じた剛志ー
しかしー
美咲希の記憶は読み取れず、剛志は戸惑うー
”俺が美咲希に憑依した、なんてばれたらー…”
さすがにみんな、怒るかもしれないー
”頭のおかしなやつと思われるかもしれないし”
けれど、隠し通すのも難しいー
こうなったら”記憶喪失”にするしかないか、とも思ったが
それをしたら、妻の功恵が悲しむだろうー
「----」
「----」
”誰も悲しまない方法はないものか”
そう考えていた美咲希になった剛志は、
”たどり着いたー”
「そうだ!」
その時ー
美咲希になった剛志は、
長男の和雄にだけ”このこと”を伝えることにしたー
そしてー
学校での”自然な振る舞い”を確保するために
退院後に美咲希のスマホを徹底的に確認してー
”使えそうな”友達を見つけたー
それが、瞳ー
かくして、剛志は、
自宅では和雄、
学校では瞳にアドバイスを受けながら
”完璧に美咲希として振舞えるようになるまでー”
待ったーーー
表向きは”美咲希が目覚めた時のためー”
しかしー
実際はー
”自分が美咲希になるため”
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--ふふふふ…わたしは美咲希…」
美咲希はにやりと笑みを浮かべるー
今やー
”美咲希”は、誰がどう見ても美咲希だー
半年ー
長かったー
和雄と、瞳から
”自分が周囲から絶対に疑われないレベルに美咲希になりきれるまで”
教えを受け続けたー
そしてーー
ついに、”俺は完璧に美咲希として振るまうことができる”と
確信したタイミングでー
美咲希は”元の美咲希が目を覚ました”ということにして、
”剛志は消滅した”と演出したー
「--これで、誰ももう、俺が剛志だとは思わないだろうー」
美咲希は笑みを浮かべながら自分の太ももを触るー
「はぁ…♡ 自分の娘ながら、いい身体してるなぁ…ほんと」
美咲希はそう呟くと、立ち上がって家族写真を見つめたー
「-ごめんな。俺は死にたくなかったんだー。
”娘のために死ぬか”
”自分が生きるか”
それを選べと言われたら、俺は自分が生きるほうをえらぶー…」
美咲希はそう呟きながらも
”家族のこと”を考えたー
これが、最良の”選択”であるとー。
妻である功恵は
そもそも何も知らないー。
娘の美咲希に夫の剛志が憑依した、なんて聞けば
動揺するからだー。
そして、うまく隠し通すことに成功したー。
功恵は、美咲希が美咲希のままであると思っているー。
息子の和雄は、
美咲希に憑依していた父・剛志が消えたと思っているー。
”姉さん”を元通りにすることが出来て、
父親である剛志とも、円満に別れるような形になり、
今頃は、満足していることだろうー。
功恵も、和雄も、学校の人間たちも、
みんな、美咲希を美咲希だと思っているー
そしてー
自分自身ー
剛志も、死なずに済み、美咲希として生きていくことが出来るー
美咲希本人には申し訳ない気もするが、
こうして身体は有意義に役立っているのだしー
誰一人として、悲しんでいる人間はいないー
ーーーと、
剛志はそう思ったー。
「今日から俺はーー
いいや、わたしは正真正銘の美咲希ー…」
美咲希は笑みを浮かべるー
この半年で、
”完璧に美咲希として振舞えるようになった”
和雄と瞳には”憑依していた剛志は消えた”と
思わせることが出来たしー
これで、完璧ー。
「--ふふふふ…
親が子供を作るのは遺伝子を残すためだとか
子孫繁栄だとか言うけどー
俺自身が子孫になっちゃうなんてな…」
美咲希はそう呟くと、
「--剛志は死んだー
今日からわたしは美咲希ー」
と、呟いて、クスリと笑ったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
美咲希に憑依した剛志はー
”完璧に”美咲希となったー
弟の和雄も、高校の親友・瞳も
”実は美咲希はまだ憑依されたまま”ということには
全く気づいておらず、
美咲希は元の美咲希に戻ったと
思い込んでいるー。
美咲希になり切った剛志も、
今や完全に自分が女子高生として振舞っていて、
おしゃれが好きになったり、
恋愛対象も男子になったりして、
”人間、別の身体で生活しているうちに
その感覚にだんだんと染まっていくんだな”と
実感するようになったー。
いつしか高校も卒業しー
大学生になりー
やがて、成人式を迎えたー。
成人式の日ー。
20歳になっていた美咲希は、
同窓会でお酒をたっぷりと飲んだー。
元々、美咲希に憑依している父・剛志は
お酒をよく飲んでいたのだが、
美咲希の身体が未成年だったこともあり、
律儀に禁酒していたー。
それが、爆発するカタチでたくさん飲んだ美咲希ー
美咲希は、酒臭い状態で家に帰宅したー。
「--ふぁぁぁぁぁ~」
酔ってる美咲希を見て、苦笑いする和雄と、母親の功恵ー。
しかしーーー
”酔っぱらった”状態ー
理性を失った状態の美咲希はー
あることを口走ってしまったー
「--へへへへ…娘の身体で飲む酒はうめぇなぁ~!」
美咲希が酔った状態で叫ぶー。
「--!?」
「--え?」
和雄と功恵が表情を歪めるー
「--何言ってるの?美咲希?」
何も知らない功恵が声を掛けると、
美咲希は叫んだー
「功恵~!俺だよ剛志だよ!
へへ!ず~っとわかんなかったのかぁ??
へへへへっ!俺は美咲希になったんだよぉ~!
ふへへへ~!」
美咲希が叫びながら胸を揉み、
酔った様子で、だらしない笑みを浮かべるー
「ど、、どういうこと?」
戸惑う功恵ー
和雄も、”とうの昔に父は消えた”と
思っているため、困惑しているー
「--ははははっ!よぉ~く聞けよぉ~!」
酔った勢いの美咲希は、嬉しそうに大声で
”今までのこと”を全て暴露してしまうのだったー。
やがてー
だらしない格好のまま酔いつぶれて眠ってしまう美咲希ー。
翌日ー
目を覚ました時に待ち受けていることを知らずにー
美咲希になった剛志は、気持ちよさそうに
いびきをかいて、だらしのない笑みを浮かべていたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
姉の中に父親が憑依してしまうお話でした~!
憑依して誰かに成り済ますときは
お酒での失敗には、より注意、ですネ!笑
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
2話めで親友の瞳と隠れて、娘の体でいかがわしいことしてたあたりで怪しいと思ってたらやっぱりこういう展開でしたか。
それにしてもこの父親最悪ですね。色々綺麗事言いながら狡猾な手口で娘の人生を奪おうだなんて。
しかし、しょうもないミスで全部台無しになっちゃいましたね。この後どうなったのか、考えるだけでも恐ろしいですが、こうなって、ある意味、本人よりも、息子と妻の方が辛いんじゃないですかね?
いい思い出として心の中に残っていたであろう父親が我が身可愛さに娘の人生奪った上、何食わぬ顔で家族を騙そうとするような最低最悪の人物であることが露呈してしまったわけですから。
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
コメントありがとうございます~!
2話目でお気づきに…!
鋭い洞察力デス~!
最後のミスはうっかりでしたネ…!
このあとは地獄が待っていそう…な気も…。