暴走車から女子高生を助け、代わりに命を落とした男子大学生ー。
彼の魂が、女子高生に宿り、
彼女は”あなたはわたしのヒーローだから”と、
死んだ男子大学生を受け入れるー
そんな二人の行く末は…?
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”今日もお疲れ様”
学校から帰宅した希海に、竜平が声を掛けるー。
希海は、「ありがとう」と呟きながら
学校に持って行っていた鞄から必要な荷物を取り出すー。
文化祭で不良を撃退した際にー
竜平は希海の身体を一時的に乗っ取ったー
その前後からだろうかー
希海が、考え込むことが多くなったー。
”----俺は、希海ちゃんの身体を乗っ取ったりはしないから、安心して”
竜平は呟くー。
「---あ、、うん…」
希海がうなずくー。
希海が最近元気がないのは”そこ”ではなかったー。
あの時は、竜平が希海の身体を支配して
不良を撃退してくれなければどうなっていたか分からないし、
暴力を振るってしまったものの、
あの不良たちは”自分から手を出そうとした”という
うしろめたさがあったからか、誰かに被害を訴えたりだとか
そういうことはしてこなかったー
暴走車が突っ込んできたときとー
不良に絡まれたときー
”2度”
希海は、竜平に助けられたのだー。
”何か悩みがあるなら、聞くよ”
竜平はそう呟いたー
同時に竜平は、最近、恐怖を抱いていたー
”希海を助けたい”
強く念じたことで、あの時、希海の身体を
一時的に支配できたー。
それはつまりー
強く念じればー
希海を完全に乗っ取ることもー
逆に、希海の身体から抜け出して成仏することもー
できるのかもしれないー
そう、思ったからだー。
試してはいないー
試してしまったら、”戻れなくなる”
可能性があるからだー。
そんな邪悪な考えがよぎる自分がイヤになり、
竜平は、その考えを打ち消そうとするー。
「---………じゃあ、聞いていい?」
希海が、壁を見つめながら呟いたー
”…いいよ。何でも”
竜平が優しく言うと、希海は
この前、竜平の墓を訪れた時のことを口にしたー
「--あの時、あなたのお母さんが
”僕は人を助ける仕事に就きたい
竜平は、いつもそう言ってましたー”
って言ってたのー
”僕”って…。
でもー
あなたは自分のことを”俺”って言ってるー」
希海の言葉に、
竜平は希海の中で表情を歪めたー
「--もちろん、親の前と、外で一人称が違う人は
いると思うんだけどー
それとーー」
希海は、竜平の母親との会話をさらに思い出して、
もう一つ違和感に感じたことを口にしたー
”竜平は、暴力とか、そういうのが嫌いな子でしたー”
とも、会話で母親が言っていたのだー
”暴力が嫌い”=”いざという時に戦えない”
とは、限らないー
けれどー
文化祭の日ー
希海の身体を支配した竜平の動きはー
”喧嘩に慣れている”
そんな感じに見えたのだー
”ははは…”
竜平は笑ったー
”それでーーー?”
竜平の言葉に、希海は続けたー
自分の”中”に竜平がいる以上、
滅多なことは言えないー。
だがーーー
希海は、この”竜平”を信じて口を開いたー
「あなたはーー
植松 竜平----
そう、信じていいんだよね?」
希海が、不安を全て口から吐き出したー
自分の中にいる存在が
自分を助けてくれた男子大学生
”植松 竜平”本人なのかどうかー
そう、不安に思ったのだー
勿論、タイミング的に、植松竜平以外で
あるとは考えられないー
見ず知らずの人に、偶然、このタイミングで憑依されて
植松竜平を名乗るなんてことはあり得ないし、
そもそも、あの日のことも、竜平の葬儀のことも、
ちゃんと最初に、希海に”俺、君の中にいるんだ”と言ってきた日ー
話していたー。
当事者しか知らないはずのことを、ちゃんと竜平は知っていたー
だからー
竜平本人であるはずだー
けれどー
希海は引っ掛かっていたー
何かがー
”-------”
竜平は沈黙していたー
が、しばらくすると、
竜平は口を開いたー
”-俺を信じて”
とー。
希海は、少し考えたあとに
「うん…
竜平は、ヒーローだもんね」と、少しだけ不安そうに呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
”え…”
希海は戸惑っていたー
希海が、外着に着替えているー。
家族と適当な会話をすると、
そのまま希海は「今日は遅くなるから」と
呟いて、外に出たー
”え…ちょ、、ちょっと?”
希海はーー
身体の主導権を竜平に奪われていたー。
「-ーー」
希海が男のような歩き方で、どこかへと向かうー。
”--え???なにしてるの!?えっ!?”
希海は戸惑うー
いきなり、自分の身体の主導権を奪われたからだー
別に”合意の上で”であれば、希海は
竜平に身体を一時的に貸してもいいと思っていたが
急に乗っ取られて、しかもどこかへと向かっているこの状況にはー
戸惑わずには、いられなかったー
「--悪い」
希海を支配した竜平が希海の口で呟くー
”え…そんな…竜平…どういうこと?”
「---…少し眠っていてくれないか」
希海が呟くー
”え…や、、やめて…!”
希海は恐怖したー
この人はーーー
わたしを乗っ取るつもりーー??
そう、思ったからだー
”やめーー”
プツン、と希海の意識が途切れたー
「---俺が強く念じれば、こんなこともできるんだな」
希海を支配した竜平はそう呟くと、
どこかに向かって歩き出したー。
険しい表情で歩く希海ー
「あ、、希海~!」
友達の真礼が偶然希海を見かけて手を振るー
「---!」
希海が振り返るー。
竜平は、希海の中で希海の行動を見ているときー
真礼を見て、なんとなく好感を持ったー
「---…真礼」
ふふ、っと微笑む希海ー
”君と、少しだけでも話してみたかったよ”
竜平はそんな風に思いながら
希海の身体で笑みを浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
希海は、さらにとある場所へと足を運んだー
そしてーー
周囲の人に何やら聞いたりしているー
夜になるまで色々な場所を歩き回りー
希海は笑みを浮かべたー
「ーーー」
「---!!!!」
希海が起き上がると、夜だったー
部屋のベッドー
”---おはよう ま、夜だけど”
竜平が呟くー
「---……わ、、わたしの…身体で何してたの?」
希海が震えるー
”-----”
竜平は答えないー
「--教えてよ!」
希海が叫ぶー
”-------”
竜平は、それでも答えなかったー
「--酷い……わたしの身体を…勝手に…」
希海が目から涙をこぼすー
”----泣くな”
竜平はそれだけ呟くー。
「---わたしのこと、どうするつもりなの…?」
希海はそれだけ呟くと、
竜平は”----俺を信じて”と、だけ呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
学校に向かう途中ー
竜平は”今日の放課後、大事な話がある”と呟いたー
希海は、”わたし、身体を乗っ取られるの…?”と
不安に思いながらも
”この人に逆らったら支配される”という
恐怖心が強まっていたー
昨日、支配されたのも、
恐らく、この前、あなたは本当に植松竜平なのか?と
聞いたからだと、希海はそう思っているー
だがーー
その時だったーーー
「-----!!!」
希海の頭上からーーー
建設現場の機材がーー
強風で煽られてー
落下してきたーーー
”-------!!!!!!”
竜平は、希海の中からそれを見て呟くー
”本来死ぬ運命だったこの子はー
結局死ぬーーー
と、でも言いたいのか???”
竜平は一瞬のうちにそんな風に思ったー
”そんなことはさせねぇ”
竜平は、咄嗟にそう思ったー
強く念じるー
”自分は消えてもいいから、この子を助けたいー”
とーー
次の瞬間ーーー
竜平はーー
希海の身体から、飛び出していたー
霊体となってーー
「---!?!?!?」
希海が驚くー
希海には見えたーーー
光のような姿の男がーーー
希海から飛び出した男の姿がーー
希海の頭上に落下するはずだった鉄骨をーー
奇跡的な力で、自分の存在を引き換えにー
空中で止める竜平ーー
いやーー
「---え…」
希海は驚くー
希海の身体から出て来た霊体はーーー
あの時ー
暴走車から希海を助けてくれた
男子大学生・植松竜平の姿ではなかったーーー
”---俺は、きみのヒーローなんかじゃない”
竜平を名乗っていた男は呟くー
”---俺、君の中で目覚めたときー
自分が誰だか分らなかったー
でもー
君の中に潜んでいてー
植松竜平の葬儀の様子を見たりー
事故の様子を聞いたりしてー
自分は竜平なんだと、思い込んでいたー
---けどさーー
違ったんだー
俺は君のヒーローじゃない
昨日ー
きみの身体を乗っ取ったのはー
俺が何者なのか、調べるためー
そしてー昨日、全部思い出したー。
今日ーーー
放課後に全て話してからー
消えるつもりだったー
けど、ごめんなーーー
それは、できそうにないー”
竜平を名乗っていた男は、自分が消えていくのを感じるー
希海は、竜平を名乗っていた男の霊体の方を見るー
「ーーーあなたは…!」
希海の言葉に、男は叫ぶー
”いいから、、、逃げろ!”
とーー
言葉が届いているかは分からないー
けれどー
希海は慌てて自分の頭上に降り注ぐはずだった鉄骨が落ちる場所から
逃れたーーー
”俺は、君のヒーローなんかじゃなかったー
でもーーー
俺も、これで、君のヒーローになれたかな…?
「----ーー」
希海は涙を浮かべながら
竜平を名乗っていた男の方を見るー
「---あなたも…わたしのヒーローだよ…」
希海は、そう呟いたー
竜平じゃなかったー
でもー
この人もー
自分をーーー
竜平を名乗っていた男はー
”元気でなーー”と呟くとー
鉄骨を押さえていたことで全ての力を使い果たしてー
そのまま、消滅したーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ほぼ同時刻ー
”希海と竜平が巻き込まれ、竜平が死んだ交通事故”の
もう一人の関係者ー
”暴走車”を運転していた人物はー
事故直後から、昏睡状態が続いていたがー
意識を取り戻すことなく、そのまま死亡したのだったー
”光本 幸徳(みつもと ゆきのり)”-
暴走車を運転していたその男はー、
過酷な労働環境で、疲れ果てており、
運転中に体調を崩し、意識を失い暴走ー、
希海のいた場所に突っ込むかたちになりー
結果的に希海を庇った男子大学生・竜平が
命を落としたのだったー
彼は、高校時代は、格闘技を習っていたのだというー
過労で意識を失い、
結果、一人の命を奪ってしまった挙句ー
自分も意識を取り戻すことのないまま死んだ彼ー。
しかし、彼の顔はどこか、穏やかだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
希海は”彼が誰なのか”
考えていたー
希海に、その答えは分からないー。
竜平の墓参りには今も定期的に訪れているー。
自分の中にいたのは、竜平じゃないー。
何故ならー
最後に、鉄骨から守ってくれたとき、
その姿が見えたそのときーー
”彼”ではなかったからだー。
竜平の姿は、暴走車から竜平が守ってくれた時に見ているー。
だがー
希海から飛び出した霊体は、
竜平の姿をしていなかったー
でもーー
竜平は、紛れもなく”わたしのヒーロー”
小さいころから、大きくなったヒーローになりたい、と
竜平は言っていたのだというー。
あの時、暴走車から守ってくれた竜平は、
希海にとって、ヒーローであることに違いないー
そしてーー
「---」
希海は空を見つめながら呟いたー
「--あなたもーー」
希海からしてみれば”誰”だから分からない彼もー。
少しの間、同じ身体を共有した彼もまたー
希海は、
文化祭の日に不良から助けてくれたことー
最後の日に建設現場の落下事故から守ってくれたことを思い出すー
「--あなたも、わたしのヒーロー」
希海は寂しそうに微笑むと、
竜平とー
誰だか分からないヒーロー
その二人に向かって、静かに感謝の言葉を述べたー
「本当に、ありがとうーー」
とー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
お読み下さりありがとうございました~!
事故を起こした側の人物が、憑依していた形ですネ~!
予想できた方はいるでしょうか~?
ちなみに、希海の親友・真礼に反応していたのは
希海に憑依していた彼が、
ただ単に、この子いいな~、と思っただけで、(下心的な意味ではなく)
深い意味はありませんでした!笑
コメント
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やっぱり竜平ではなかったですね。でも、光本が善人で希海は本当に幸運でしたね。もし光本が自分勝手な最低な人物だったとしたら、確実に身体を乗っ取られていたでしょうから。
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コメントありがとうございます~!
悪人だったら、今頃希海は
悪い笑みを浮かべながら高校に通ってることになってますネ~笑