彼女には、”命の恩人”がいたー。
けれど、その彼女の恩人である男性はー
もう、”この世にはいない”存在になっていたー
何故ならー
彼は今、彼女の中にいるのだからー
--------------------------
「---」
下校中の女子高生は、夜の街を歩いていたー
高校2年生の
大橋 希海(おおはし のぞみ)ー
夜の街を歩いているー、と言っても
寄り道をしていたり、不真面目なことを
していたりしているわけではないー
文化祭が目前に迫っていて
生徒会副会長でもあり、文化祭実行委員でもある彼女は
単純に、最終下校の時間まで学校に残っていたため、
遅くなったのだー
希海が、交差点で立ち止まり、信号待ちをするー。
学校でも”周囲から頼りにされる”タイプで
心優しいことからか、
男女問わず、友達は多めー
先生からも信頼されているー
時折”優しすぎる”のが傷で、
それ故に、面倒ごとを押し付けられたりー、
ということもあるにはあるのだが、
それはそれで、彼女の持ち前の前向きな性格で
上手くやっていたー。
「---」
交差点の信号は赤のままー
ここの信号は、長いー。
その時だったー
「---危ない!」
横から声が聞こえたー
「え?」
希海が声のした方向を見るとーーー
交差点から希海の方にまっすぐ向かってくる車とーー
”危ない!”と叫んだ男の姿があったー。
希海からは死角になっていて、暴走車に気づくのが遅れてしまったー
希海は、咄嗟に避けようとするー。
だがーー
反応が遅すぎたー。
自分に車が追突する、
まさに直前ー
と、言えるタイミングで暴走車に気づいた希海の命運はーー
尽きていたー
何も考える間もなくー
希海の身体に強い衝撃が走りー
希海は吹き飛ばされたー
「---うっ…」
歩道の端の方に吹き飛ばされた希海ー
”車に、轢かれたー?”
そんな風に思いながら、慌てて身体を起こそうとする希海ー
身体は、思ったよりも痛くないー
痛みも、度を超すと、もはや感覚が抜けるー
そういうことなのかもしれないー。
そしてー、
希海は、意外にも自分の身体がスムーズに起き上がったことに驚くー
血も流れていないー
「あれ…」
希海は、確かに吹き飛ばされたー
けれどー…
すぐに”現実”を知ったー
事故を起こした車とー
その側には、無残な姿になった男性ー
「---え……」
周囲の通行人たちが集まってきて、男性に”大丈夫ですか!?”と
声を掛けるー。
男性は、ぐったりした様子で目を開いたー
希海の方を見ると、男性はほほ笑むー
「…よかった」
それだけ呟いて、彼は目を閉じたー
「---え…」
希海は、あまりの光景に唖然としているー
希海は、直前の光景を思い出すー。
「--危ない!」という声ー
そして、暴走した車ー。
直後に吹き飛ばされた自分ー
てっきり希海は、自分が車に跳ねられたものだと、
そう思ったー
けれど、違ったー
希海は車に跳ねられて吹き飛んだのではなくー
希海より先に暴走車に気づいた
通りすがりの男が、希海を守るために
希海を突き飛ばしー
結果的に希海は、間一髪で、暴走車に轢かれることを
免れたー
のだったー。
「--そ、、そんな…」
希海が我に返って、倒れている男性に駆け寄るー
男性の持っていた鞄からー
近くの大学の学生証が飛び出して、
地面に横たわっていたー。
”植松 竜平(うえまつ りゅうへい)”-
学生証には、そう刻まれているー。
「--き、救急車を!」
希海は、周囲の通行人に向かって叫んだー
既に、別の人が救急車は呼んでいたのかー
直後、すぐに救急車が駆け付けたー。
しかしーー
希海にとっての命の恩人でもある、植松竜平は、助からなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「------」
竜平の遺影に手を合わせる希海ー。
自分を助けてくれた人が、死んでしまったー。
希海は感謝すると共に、
罪悪感も感じていたー。
”あの人は、わたしを助けたりしなければ
きっと死ななかった”
のだとー。
竜平の遺族に声を掛ける希海ー。
生前の竜平とは、何の接点もなかったが、
希海は、自分の命の恩人である竜平に
なんとか感謝の気持ちを伝えたい、と
病院で出会った竜平の遺族に頼み込んで、
こうして今日、竜平とのお別れを済ませているのだったー。
「---竜平は、きっと、喜んでます
あなたのような子を助けられてー」
竜平の母親が呟くー
「----」
希海は、竜平の両親に恨まれているのではないかと
思っていたが、
竜平の両親は、決して希海を責めたりすることはなかったー。
「---竜平には、妹がいたんです」
竜平の母親が言うー。
竜平には、2歳離れた妹がいたのだというー。
がー、竜平が4年生の頃ー
妹と一緒に出掛けていた際に、
竜平が目を離してしまったタイミングで
妹が交差点に飛び出しー
目の前で、妹が車に轢かれてしまい、
死んでしまったのだとー
竜平の母親は説明したー。
「---きっと、その時のことを、思い出したのだと思います」
母親が言うー。
かつて、交通事故で目の前で死んだ妹の姿を
希海に重ねてー
竜平は、咄嗟に希海を助けたのかもしれないー、
と、竜平の母親はそう語ったー
「だから、竜平も、あなたを恨んでなんかいないと思います。
あなたはー
竜平の分まで、その命を大切にーー
生きて行って下さいー
あなたが元気に生きていることがー
きっと、竜平にとっても、幸せだと思いますからー」
希海はその言葉にうなずくー
「--竜平は、小さいころからヒーロー番組が好きで
小さいころはよく”大きくなったらヒーローになりたい”なんて言ってたんです」
母親は悲しそうにー
けれども嬉しそうに微笑んだー
「-ーヒーロー…」
希海はそう呟くと、続けたー。
「---あの人は…」
竜平の遺影を見つめながら、希海は悲しそうに微笑むー
「あの人は、わたしのヒーローです」
とー。
希海は自宅に帰宅したー。
落ち込む希海ー
けれどーーー
”前を向いてー”
希海は、「落ち込んでたら、あの人に怒られちゃうよね…」と、
自分に何度も言い聞かせて、前を向いて生きる決意をしたー
だがーー
この”事故”の件は、これでは終わらなかったー
”あの…”
「-!?」
事故から3日が経過した朝ー。
”突然”声がしたー。
「--えっ!?」
慌てて振り返る希海ー
だが、部屋の中には誰もいないー
「--え…?今、声が…」
希海が戸惑いながら周囲を見渡すと
”あの…!”と、今度ははっきりと声が聞こえたー
「---え!?だ、、誰…ですか?」
戸惑う望海ー
そんな希海に、信じられない言葉が
聞こえて来たー
”あの……俺…、、、
この前の事故の時の……”
その言葉に、希海は
「え……?」と困惑するー
”じ、、実は…俺、、気づいたら…
君の中にいて…”
と、声が聞こえたー
「--わ、、わ、、わたしの中!?!?」
希海が裏返った声で叫ぶー。
”---え、、えっと、落ち着いて聞いてほしいんだけど…”
脳から直接響いてくるその声は、
状況を説明したー。
彼は、希海を助けて事故死した男子大学生
植松 竜平本人なのだというー。
話にもつじつまが合うし、おそらく本当なのだろう、と
希海は思うー
咄嗟に希海を助けて、
何も感じなくなったと思ったらー
気づいたときには希海の中にいて、
自分の葬儀の最中だったー、
と、竜平は説明したー
すぐに希海から抜け出そうと思ったけれど
抜け出すことはできず、
希海を怖がらせないために数日間ずっと
黙っていたけれど、
やっぱり、希海の私生活を覗いているような感じがして
罪悪感が強くなって、
こうして打ち明けた、のだと…
”まずは君が無事でよかった”
竜平はそう呟くー
希海は「わたしのせいで、本当にごめんなさい」
と頭を下げるー。
”はは…まぁ…俺もやりたいことはたくさんあったけどさ…
でも、本当によかったー。
無駄に死んだわけじゃないし…
全然怒ったりしてないから、いいよ”
竜平は優しかったー
母親が言っていた通り、
やはり、竜平は過去の事件から
”咄嗟に身体が動いた”のだというー。
「---…でも…」
”ははは…いいさ。
でも…俺、どうすればいいかな…?
君から抜けようとしてるんだけどさ…方法も無くて”
「-------」
希海は、悲しそうな表情を浮かべていたー
”あ、ごめんごめん…
男が中にいるなんて、気持ち悪いよな…”
「あ、いえ、そんなこと…」
希海はどう返事をしていいか戸惑いながら
周囲を見渡すー
周囲に誰もいないのに声が聞こえるなんて、
なんとなく落ち着かないー。
”---極力何も見ないようにしながら
何もしゃべらないようにするから…
その、いつも通りしてて…
俺は、なんとか君から抜け出す方法を
探してみるからー”
竜平の言葉に、
希海は首を振ったー
「---あなたは、わたしのヒーローだから…」
そう呟く希海ー
”え…?
あ、、、あぁ、、はは…
小さい頃の俺の夢、母さんから聞いたんだったな”
竜平が笑いながら言うと、
希海は
「その……わたしにとってあなたは
命の恩人ですし……
無理に…無理に黙ったりとか、、
そんなことしないでいいですから…!」
と、呟いたー
竜平は”え…でも、君の私生活とか全部見えちゃうし…それじゃあ…”と
逆に戸惑った様子だー。
「---……あなたに助けられた命ですし、
たぶん、本当だったら死んでたのはわたしのほうだから……
その………」
何て言ったらいいか戸惑う希海ー
「--…その、、わたしの中にいるぐらいなら、
全然いいので!」
希海の言葉にー
竜平は、少しだけ微笑むー
”--君は優しいんだな…
そっか…わかった…ありがとう”
竜平は、”この子を助けて本当によかった”と
心から思ったー。
希海は、”自分を助けてくれた恩人”に
こうして恩返しができるなら、
あなたが中にいることぐらい、
どうってことないし、むしろ嬉しい、と
竜平に伝えるー。
”----…-----”
「-------」
”-ーーー……---”
一通り会話を終えた二人は
沈黙しているー
希海が落ち着かない様子でソワソワしていると
竜平が苦笑いしたー
”ふ、、普通でいいから! き、気にしないで”
竜平が笑いながら言うー
「あ、、は、、はい。で、、でも、やっぱりなんか
緊張するっていうか」
”はははは…
実は俺も、どう振舞っていいかわからなくて…
緊張してるよ”
竜平も希海も、今の自分の状況に緊張し、戸惑っていたー
”--君が見てほしくない!って時は言ってくれれば
俺は心を無にして、何もみないようにするし、
黙ってて!ってときも言ってくれればそうするから、
ホントに、気にしなくていいよ
俺は、ほら、こうして、まだ自分が消えてないだけでも
十分幸せだし、君のような子を助けられただけでもー
十分だから”
竜平の言葉に、
希海はほほ笑むー
「お互い、戸惑ってるんですね」
とー。
そして、希海は、「あ!」と呟くと
「あ、自己紹介、まだしてませんでしたよね?」とほほ笑むー。
希海の中で黙っていた数日間ー
希海の名前は既に知っていたが
竜平は優しくその言葉を聞くー。
「--希海です」
「---竜平ですー」
お互いに自己紹介を終えた二人はー
握手することも出来ないけれどー
心の中で握手をしたー
そして、この日ー
”助けられた少女”と
”助けた青年”の不思議な共同生活が始まるのだったー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
一心同体の生活のスタート!
竜平側が希海の身体の主導権を握ることはできるの!?などなど
細かい部分は②でわかりますよ~☆
コメント
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う~ん、率直な疑問なんですが、希海の中にいるのは本当に竜平なんですかね?
他の作品で最初は無害を装いつつ最終的に体を乗っ取る人物とか、未来から来た自分と騙して娘の体を奪う人物がいたりするせいでイマイチ信用できないです。
まったく無関係の人物が竜平を装って希海の体を奪おうとしてるのではと、つい疑ってしまいます。続きが楽しみです。
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コメントありがとうございます~☆!
憑依空間のお話の中には味方のふりをして
身体を奪っちゃう人が多いですからネ~笑
竜平(?)は、果たして…!
ぜひお楽しみくださいネ~!
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今のところは平和なので竜平を信じたいですね!
どんな結末か楽しみにしてます!
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TSマニア様~!ありがとうございます!
”今のところは”平和ですネ~!
どうか平和のままで終わりますように…!笑