宅配ピザを注文した男は、
配達にやってきた女子大生の身体を奪ったー。
入れ替わったその身体で
新たな人生を送ろうとする男の野望の行く末は…!?
--------------------–
”内定は取り消しさせていただきますー
そういうことですので。じゃ”
寛太はー
内定を取り消しされたー
”は?脳梗塞?後遺症?
なんだよお前、もう使えねーじゃん
明日から来なくていいよ”
ブラック企業に酷使されて
脳梗塞で倒れー、
復帰した寛太を待っていたのは
同じ人間とは思えない冷たい言葉だったー
”わたしが浮気せざるを得ない状態に
なったのが悪いんでしょ!
人のせいにしないでー”
脳梗塞で倒れ、職すら失った寛太に
愛想を尽かしたのか、彼女は浮気を正当化し、
寛太を裏切ったー。
どいつもー
こいつもー
だから俺はー
一発逆転のためー
入れ替わり薬を手に入れてー
可愛い女子大生の身体を奪ったんだー
女を狙った理由はー
”自分がなりたかった”からだー。
職もなくー
病の後遺症もあるー
俺のような男に、世間は酷く、厳しいー
そして、それは、世間に取り上げられることもないー
この世の”臭いものに蓋をした容器の中”だー
俺がどんなに助けを求めようとー
世間は”努力していない甘えたおっさん”として
俺に唾を吐き捨てるー
だから俺はー
女子大生の身体を奪ってやったんだー
新しい人生を送るためにー
「--はっ!!!!!!」
寛太は目を覚ましたー
須美の身体でー。
「---お目覚めですか?」
病院の看護師さんが笑うー。
「---……あ、、、…」
須美(寛太)は、夢を見ていたー
これまでの、地獄のような己の人生を見ていたー
「-----」
須美(寛太)は、
”はい”と笑みを浮かべたー。
車にあえて跳ねられー
”記憶喪失”を演出することでー
元々の須美としての記憶がない自分がー
”自然に須美として生きられるよう”
計画を狙った寛太ー
須美(寛太)は車に轢かれながらもー
無事に生還を果たしたー
手足が動くことを確認する須美(寛太)-
頭が少しズキっとするー。
「--あの…」
須美(寛太)が、看護師の女性に声を掛けるー。
「--わたし………誰ですか?」
寛太は、
”賭け”に勝ったのだー。
記憶喪失を演出する、賭けにー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---……」
須美(寛太)が車に跳ねられてから2日ー
寛太(須美)は、警察から釈放されていたー。
須美になった寛太が車に轢かれる直前ー
寛太(須美)が、須美(寛太)を追いかけている場面を
何人も目撃していたー。
そのため、
世間は
”女子大生を追い回すおっさん”
と、二人の関係を判断したのだー
結果的に、
逃げていた女子大生ー
須美が車に跳ねられたことでー
寛太は警察に連行され、
厳しい取り調べを受ける羽目になってしまっていたー。
警察も、通行人も、
”怪しいおっさん”と”かわいそうな女子大生”という
先入観が完全に固まってしまっていて、
二人の中身が入れ替わっている…などということは
全く考慮してくれなかったし、
寛太(須美)が取り調べの最中にどんなに叫んでも、
何も聞いてくれなかったー。
「--------……」
寛太(須美)は、寛太の部屋に戻っていたー
ピザの宅配を届けたために、寛太の部屋は
分かっているー
2日前ー
寛太が”入れ替わる身体”を物色するために
注文しまくったデリバリーの食事が
冷めた状態で部屋中に散らばっていたー。
「---」
寛太(須美)は、無事にこうして釈放されたー。
寛太(須美)が直接、須美(寛太)を突き飛ばしたわけではないしー
その他の接点も確認できなかったことから
身柄の拘留期間の延長や、起訴には至らなかったー。
「---」
寛太(須美)は涙を流しながら寛太(須美)の部屋に残されている
自分が届けたピザを食べるー
パサパサになって冷めきったピザー。
ピザの上に涙が零れ落ちるー。
「---……どうして……どうしてこんなことに…」
寛太(須美)が、泣きながら呟くー
何も悪いことをしていないのにー
ただ、普通にバイトをしていただけなのにー
どうして、こんな目に遭わないといけないのー?
寛太(須美)は怒りに震えるー
なんとかー
あの男に入れ替わった原因と方法、
元に戻るための手段を聞き出して
元に戻らないといけないー
元に戻ったあとに、その”目的”も聞かないと納得できないー
どうして須美が狙われたのかー。
寛太(須美)からすれば、
突然訳も分からないまま身体を奪われた状態ー。
理不尽極まりないー。
「---ーーー」
寛太のスマホは暗証番号により使えないため、近くの公衆電話から
病院に連絡する寛太(須美)-
”金村 須美”の状況を電話で確認しようとするー。
相手によれば、
須美は無事に意識を取り戻したとのことだったー。
しかしー
”今は面会はできません”
と、断られてしまったー。
”事故の影響で記憶が戻らない”
とー。
「-----」
寛太(須美)は、絶望したーー
「------記憶…喪失…」
寛太(須美)は、激しい絶望を感じながら
そのまま泣き続けたー。
そしてー
その日は、何もする気力も湧かないままー
いつの間にか寝てしまっていたー。
「---……」
翌日ー
目を覚ました寛太(須美)は、
ため息をつきながら、ゴミ出しを行うー
もしかしたら、自分はずっとこの身体のままー?
頭を締め付けるような
強いストレスを感じながら
ゴミ置き場から戻ってくると
玄関には
”出てけ変態”
と、張り紙されていたー。
寛太が警察に連行されていたのを偶然見ていた
近隣住民から噂が広まり、
”寛太は女子大生をストーカーしていた”
という間違った形で噂が広まってしまったのだー
「うああああああああああああああああああ!」
怒りの形相で玄関の扉を殴りつける寛太(須美)
「-わたしは、わたしは、、わたしは、、何も悪くないのに…
わたしは…」
頭を抱えて
パニックから、その場で過呼吸を起こしてしまう寛太(須美)-
「-ーーーーー」
隣の部屋の住人が、寛太(須美)の叫び声を聞いて
様子を見に出て来たー
泣きじゃくりながら、過呼吸を起こしている寛太(須美)-
もしー
ここで須美本人の身体で、須美が同じ状況だったらー
近隣住民は手を差し伸べてくれたかもしれないー
けれどー
”女子大生を追い回したおっさん”というレッテルが
貼られてしまった寛太(須美)に手を
差し伸べる人間は、誰一人として、存在しなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
午後ー
公衆電話から再度病院に連絡する
寛太(須美)-
須美との面会が出来るようになったのだというー
寛太(須美)は、
”退院して逃げられちゃう前に”と、
病院に慌てて駆け込んだー
そしてー
”208”と書かれた病室に須美(寛太)はいたー
「--あれ…」
須美(寛太)が、寛太(須美)の方を見てほほ笑むー
「--わたしの……えーっと…お知り合いですか?
ごめんなさい……わたし、事故で記憶が…」
須美(寛太)が、そう呟くー
「----嘘…」
寛太(須美)は思い出したー
須美(寛太)が
”轢かれる直前にこっちを見て笑った”ことをー
「--とぼけないで…!
わたしの身体を返して!」
寛太(須美)が叫ぶー
須美(寛太)が笑うー
「何を言ってるんですか~??」
とー。
「--ふざけないで!わたしの身体、返しなさいよ!」
須美は、いつも冷静な女子大生だったー
けれどー
さすがにもう限界ー
須美(寛太)の髪を引っ張ってー
「返して!」と大声で叫ぶー
”記憶喪失の芝居”
寛太が、それを最初から狙っていたことなど、
須美は知らないー
けれどー
それでも
”とぼけている”というのが
寛太(須美)にも伝わって来たー
「きゃああああああああ!」
須美(寛太)が叫ぶー
すぐに病院のスタッフが駆けつけて来るー
寛太(須美)が「ふざけないで!返して!返してよ!」と
必死に叫ぶー
「--わたしが、わたしが須美なんです!わたしが!」
寛太(須美)がどんなに必死に叫んでもー
世間は
”危険人物のおっさん”としてしかー
寛太(須美)を認識してくれないー
話すら、聞いてもらうことができないー
「あ~はいはい、おちついて」
「-話は向こうで聞きますから」
寛太(須美)を取り押さえた警備員たちが言うー
「--わたしは…わたしは…」
寛太(須美)はやがて、
須美(寛太)が車に跳ねられた際に須美(寛太)を
追いかけていた男だということに
病院のスタッフたちも気づきー、
警察に通報されてしまうー。
寛太(須美)は震えながら
隙をついて病院から抜け出したー
行く当てもなく泣きながら走る寛太(須美)-
繁華街にたどり着いたところで、
泣きながら膝をつくー。
路上で泣きわめく寛太(須美)ー
周囲は迷惑そうに寛太(須美)を見つめるー
誰も、救いの手を差し伸べる人間はいないー。
寛太になった須美はー
”世の中のひとつの冷たい現実”を知るー
「--おいおい、大丈夫かよおっさん!」
チャラそうな男が笑いながら声を掛けて来るー。
明らかに、揶揄っているー
寛太(須美)は泣きながら、さらに走り出したー。
これからー
これから、どうすればいいのー?
どうすればー?
須美になった寛太は
”記憶喪失のフリ”をしているー
寛太(須美)はそう思ったー
事実、須美になった寛太は
記憶喪失になったふりをするために
あえて車に跳ねられたー
ーー病室に入ったときの笑みー
ーーわざとらしい悲鳴ーー
「---」
”わたし”の身体を悪用されてしまうとーー
”この身体”じゃ、どうにもできないー
行く当てもなくー
寛太(須美)は泣きながら走ったー。
「わたしはただ、、ただ、、ピザを届けただけなのに…!」
寛太(須美)は走るー
行先も、分からないままーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---大丈夫でしたか?」
病院では、看護師が須美(寛太)に声を掛けていたー
「はい」
須美(寛太)が微笑むー
看護師が、須美(寛太)が落ち着いたことを
確認すると、そのまま病室の外へと向かうー
「あの!」
須美(寛太)が声を掛けたー
「---さっきの人はー」
須美(寛太)が言うと、
看護師は須美(寛太)を怖がらせないように、と、
”ちょっと人違いしてたみたい”と
微笑んで、そのまま病室の外に出て行ったー
「-----」
須美(寛太)が、一人になるー
寛太の計画は上手く行ったー
ただ、ひとつーーー
「---わたし……なんかあの男の人に見覚えがあるような…」
ただ、ひとつーーー
”本当に”記憶を失ってしまったー
そのこと以外はー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日ー
公園で遺体が発見されたー
男の名はー
三船 寛太ー
公園のブランコで、眠るようにして死んでいたー
死因は、脳梗塞ー。
病院で死亡が確認されたー。
彼には、過去にも脳梗塞で倒れた記録がありー、
”過度なストレス”が再発のトリガーとなり、
公園で、そのまま意識を失い、
誰にも声を掛けられないままー
深夜に公園のトイレを利用したホームレスが
ようやく異変に気付きー
死亡が確認されたのだったー
デリバリーから始まった男の入れ替わりー
もう、この世には
須美は存在しないー
寛太の人格も、存在しないー
残ったのはー
須美ではない、須美の姿をした
記憶を失った存在ー
それだけだったー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
ハッピーエンドにはならない入れ替わりものでした~!!
結局は須美になった寛太が
何も覚えていないまま、何食わぬ顔で生きていく…
ということですネ~汗
お読み下さりありがとうございました!
コメント
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演出のつもりが本当になっちゃったわけですね。
なら須美がとぼけてると思ったのは勘違いってことですな。
予想では交通事故で死ぬか、植物状態になるかとかで須美が自分の身体に戻れなくなって、自分がやられたのと同じ手で他人の身体を狙う結末になる気がしてたんですが、こうきましたか。
本当に記憶喪失になっちゃったのは計算外だったでしょうけど、狙い通り新しい人生を始められたので計画としては大成功じゃないですかね?
反面、すべてを失って絶望のまま死んでしまった須美は本当に救われませんね。
ところで前にもこういう記憶喪失になる結末の憑依の話ってありませんでしたっけ? うろ覚えですけど。
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コメントありがとうございます~!
須美は、”絶対に覚えている”と思い込んで須美(寛太)を
見ていたのでそう見えてしまった(勘違い)という設定ですネ~!
寛太にとっては、元の自分を完全に忘れ去ることができたので…
ある意味狙い通り…なのかもしれません…!
記憶喪失…
入れ替わりや憑依した側が身体に取り込まれて、元の自分のことを
忘れてしまうようなお話は何度か書きましたネ!
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女の身体に入れ替わった状態で記憶を失った場合、性自認や恋愛対象はどっちになるんでしょうか?
記憶を失っても魂は男の寛太のままだから心は男になるのでしょうか?それとも身体の方に心も引っ張られるのか…。
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コメントありがとうございます~!
どっちの可能性もありそうで、
何だかお話がひとつ書けそうな感じもしますネ~!
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まさかの展開でしたね!
寛太の計画は失敗というかホントに記憶喪失になるとは…
須美(寛太)は記憶喪失のままなんですかね…
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コメントありがとうございます~~!
これは後日談も書けそうな雰囲気ですネ~!
まだ未定ですが、いつか出て来るかもしれません~!
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最近、この話がお気に入りすぎて、暇さえあれば何度も繰り返し読んでます。
ところで須美(寛太)は本当の記憶喪失になったようですが、単純な記憶喪失ではなく、元の人格まで喪失してますよね。
口調や一人称からすると、かなり女よりっぽいですが、
体に引っ張られる感じで元の須美に近い人格になってるんですかね?
あと、記憶喪失ってなんらかのきっかけで元に戻る可能性もありますよね?
もし記憶を取り戻したらどうなるんでしょう?
元の人格も復元されるなら問題ないですけど、記憶だけもどって本来の須美に近い善良な人格のままだとしたら、「わたしはわたしじゃなかった」の話みたいに体を奪った罪悪感で苦しむ展開とかもあり得そうですよね。
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楽しんで頂けて何よりデス~!
記憶喪失になってしまって須美(寛太)は
自分が須美の身体なので、なんとなく引っ張られる感じで
女性っぽく振舞ってしまっています~
(時々本人も何となく漠然とした違和感を感じることはあっても
それを表には出さない、という感じですネ~)
記憶を取り戻したら…!
それは、いつか書いてみるかもしれません~笑