<入れ替わり>その身体いただきます②~追跡~

ピザを届けた先で
突然住民の男に身体を入れ替えられてしまった女性ー。

彼女は、”自分の身体”を追跡していくー

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「金村 須美ちゃんかぁ…♡ へへへへ」
バイト先から、荷物を回収した須美(寛太)は
須美の荷物の中にあった学生証を見つめながら笑みを浮かべていたー

「へへへへ…生まれ変わった気分だぜ」
可愛い声で呟きながら
身体をぶんぶんと振り回す須美(寛太)-

寛太の人生は、転落人生だったー
内定取り消し、ブラック企業での酷使からの脳梗塞、
バイト先でのぞんざいな扱い、
彼女の浮気、ブラック企業勤務で失った友達ー

何もかもが上手くいかなかったー

「--へへへ…でも今日から俺はーーー
 いいえ、わたしは金村 須美よ♡ うふふふ」
嬉しそうに歩く須美(寛太)

「--さぁ~て、まずは”俺色”に染めちゃわないとな~!
 もう俺の身体なんだし♪」

須美(寛太)は嬉しそうに笑みを浮かべながら
そのまま歩いていくー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「----……はぁ…はぁ」
寛太になってしまった須美は、
ようやくバイト先のピザ店にたどり着いていたー

「---あ、、、あ、、、あのぉ…」
寛太(須美)が、店内に向かって声を掛けるー

店内は混乱していたー
須美の姿はそこにはないー

「--あ、はい、お待たせいたしました」
バイト仲間の一人が接客モードで、応じる。

「---え、、えっと、、わたし…あの、、、……
 か、、金村 須美…なんですけど…」

寛太(須美)が
”自分は須美だ”と主張したー。

しかし、当然そんなこと信じてもらえるはずがないー

目の前にいるバイト仲間の男も
店の少し奥の方にいた店長も、表情を歪めているー

”なに言ってるんだこいつ?”
そういう顔に、見えるー。

「---え、、、えっと、、その、わたし…
 身体をこの人に入れ替えられてしまって!」

寛太(須美)が叫ぶー。

しかしーー
やはりというべきか、
バイト仲間や店長たちの反応は
須美が予想した通りー
”良いもの”ではなかったー。

”そ、、そうだよね…
 わたしがそう言われても、信じないと思うし…”

寛太(須美)は心の中で
”やっぱり信じてもらえなかった”と毒づくー。

急に身体を入れ替えられてしまって、
焦ってはいるものの
こういう風に冷静な考えが出来るのはー
須美の強みなのかもしれないー。

「--あ、、あの…
 わた、、じゃなくて、、えっと、、
 金村 須美さん…
 ここで、働いていると聞いたのですが」

寛太(須美)は
”自分が須美なの!”ということを
今、この場で信じてもらうことは出来ない、と判断して
自分の身体が今どうしているかを聞いたー。

しかしー
店長が不機嫌そうに答えたー

「--金村さんの彼氏さんか何か?」

その言葉に、寛太(須美)は思わず
条件反射的に
「はっ!?いやいやいや、ありえませんし!」と叫んだー

自分の身体を奪ったこの男が彼氏とか
勘違いでもやめてほしい、と、須美は心の中で
激しい嫌悪感すら覚えたー

バイト先の店長は、そんな寛太(須美)の反応にも
薄いリアクションで続けたー。

「わるいけど…
 金村さんは、さっき急にバイトやめるとか言いだして、
 出てったよ」

店長は、かなりうんざりしているー。
何の前触れもなく、突然やめると言われたことに
腹が立っているのだろうー。

「--え!?!?!?!?」
寛太(須美)が思わず変な声を出してしまうー

「は!?え、、ちょ、ま、待ってください!
 え???わたし、、バイトやめる気なんて!?

 え!?ちょっと、、、何してんのこいつ…!」

寛太(須美)は怒りの形相で自分の身体を見つめたー

普段、人のことを”こいつ”などとは言わないのだが、
”身体を奪って勝手にバイトをやめた”という
あまりにありえない行動に寛太(須美)は怒りを感じていたー

激しいストレスを感じる寛太(須美)

「----?」
店長が”何なんだよお前”と言いたげな表情で
寛太(須美)を見つめるー

「--あ、、す、すみませんー
 え、、えっと、金村さん、、、よ、呼び戻してきますから
 その、、、バイト、、クビにはしないでください!」
寛太(須美)の言葉に店長は

「---あ、いや、すみませんけど、もう、いいんでー
 金村さんのお友達なら、言っておいてください。

 ”急にやめられるとバイト先も困るから”ってー」

と、イヤそうに返事をしたー

「--本当に、すみませんでした」
寛太(須美)は歯を食いしばりながら、怒りの形相で、
ピザ店を後にするー

”こいつ…ホント何してんの…?
 ありえない…!”

須美は怒りを感じるー

ピザ店を辞めたー
と、いうことはーー
どこに行ったのだろうか。

店長によれば
”荷物を持って出て行った”とのことだったためー、
須美になった寛太はー
学生証を見れば、須美が通っている大学も、
須美が暮らしているアパートも分かるはずだー。

「---!」
寛太(須美)は表情を歪めるー

須美はスマホを指紋認証にしていたー。
”暗証番号”より安全だと、そう考えていたからだー

「さいあく…」
思わずつぶやいてしまう寛太(須美)-

”身体を奪われた”
まさか、こんなことが起きるなんてー。

そしてーーー
この状況はーーー

「----へへ、最高だぜ!」
別の場所で買い物をしていた須美(寛太)が笑うー

「くくく、女の子のスマホ…
 いいや、、これからは、俺のスマホかぁ」
須美(寛太)は、左手と左足がしびれることなく
動く事実に感動しながらー
須美のスマホが指紋認証であったことに
思わずガッツポーズをしたー。

須美(寛太)は
”これからどうすっかなぁ~”と頭の中で考えるー。

”とりあえず大学は通うとしてー…”

どうせ女になったからには、
”女”を最大限楽しみたいー

それと同時に寛太は、須美としてこれから生きていくつもりだったからー
”今後のこと”もちゃんと考えなくてはいけないー

身体を奪って遊ぶだけなら、須美の身体を滅茶苦茶にしてもいいー

だが、寛太の目的は
”新しい人生を送ること”

自分自身が奪った身体の人生を送ることだー。

「--バイトは、せっかく女の子になったんだし…
 メイドカフェとかもやってみたいかなぁ~へへへ
 この子なら絶対いける…
 いや、”わたし”なら、ぜったい行けるもん…!ふふふ」

ピザ店のバイトを辞めたのは
単純に寛太の趣味に合わないためー、だ。

これからは自分が須美ー
だから、バイトも自分で決めるー。

「------」
自分が須美になって人生を送るにあたり、
問題点は、いくつかあるー

だが、その中でも大きいのがー

”須美としての記憶がないこと”

そしてー

”寛太の身体になった須美”の

二通りと言えるー。

「--記憶喪失……」
須美(寛太)は呟くー。

”記憶喪失を装えば、記憶の方は無理やりにでもなんとかなるかもしれない”

「---俺の身体のほうはどうするか…」

寛太になってしまった須美が
このまま黙っているはずがないー、ということは
須美(寛太)にも容易に想像できたー。

「--ま…俺みたいなおっさんが
 ”入れ替わったの!”なんて言っても、
 なかなか信じてはもらえないだろうな…」

須美(寛太)は笑みを浮かべるー。

そうだー
元自分の身体は何とでもなるー。
最悪の場合、痴漢!とか、叫べばどうにか
なるかもしれないー。

「--さて…と、記憶喪失になるための方法はー…」
須美(寛太)は、
須美を自分好みに変えようと思っていたが
まず”記憶喪失”だー、と考えたー

記憶喪失になれば大学も人間関係も、なんとかなるー
”須美としての記憶が無くても自然に説明できる”とすれば、それだー。

だがー
寛太になった須美が、須美としての記憶を口にしたらどうなるー?

中には入れ替わりを信じるやつが、いるかもしれないー

「---そうだ」
笑みを浮かべる須美(寛太)ー

最高のシチュエーションを思いついたー

「---いた!!!!!!!」
寛太(須美)の声が聞こえるー

須美(寛太)は背を向けたままゾクッとしたー

”ここまで思い通りになるなんてー”
とー。

それにー
”自分以外の視点で、自分の声を聴く”というのも
なんとも言えない気分だー

「---へへへへ この身体は、いただきました」
須美(寛太)が笑うー

「ふ、、ふざけないで!わたしの身体を、返して!」
叫ぶ寛太(須美)-

「---」
須美(寛太)が突然逃げ始めるー

「--待って!」
寛太(須美)は、足を引きずるようにしながら走るー
ブラック企業で酷使された末に脳梗塞で倒れた寛太の
左手脚は、不自由な状態が続いているー

そんなこと知らない須美は、
寛太の身体が思い通りに動かないことに
苛立ちを覚えるー

「…早く…早く捕まえないと!」

”わたしの身体で好き放題されちゃうー”
そんな恐怖から、焦りを覚える寛太(須美)

一方の須美(寛太)は笑みを浮かべていたー。

”変なおっさんに追い回されて、逃げる最中に
 車に跳ねられて記憶を喪失するー”

「--我ながら完璧なシチュエーションだぜ」
須美(寛太)は交差点で笑みを浮かべるー

デリバリーで注文したのは、ピザじゃなくて
身体ってことさー。

そう思いながら笑うー。

”新しい人生を送る身体”を探していたんだー。

そして、この金村 須美ちゃんの身体こそ、
それにふさわしいー。
この身体で新しい人生を送るんだー。

けれどー
今までの記憶がない、というのはやはりおかしく思われるー

だからー
記憶喪失を演出するんだー

「---」
須美(寛太)は深呼吸したー。

”大丈夫ー
 ここまで俺は順調だー
 デリバリーで時間内にかわいい子がやってきたしー
 入れ替わり薬も、本物だったー。

 今まで地獄のような人生を送って来た俺だがー
 ここに来て、ようやく運がめぐって来たんだー

 死なずー
 後遺症が残らない程度に車に跳ねられてー
 記憶喪失してしまった設定にするー。

 周囲は変なおっさんに追い回された女子大生として
 同情の目で、俺を見るだろうー

 そこから、俺の須美としての人生が始まるのだー”

須美(寛太)は背後を振り返りー
追いかけてきている寛太(須美)を見て、
笑みを浮かべたー

ニヤァ…

悪魔のような笑みー。

”勝負だー”

須美(寛太)は「きゃああああああああああ!
ストーカー!!たすけて!」と、わざとらしく叫びながらー
軽自動車が来るタイミングで赤信号の横断歩道に飛び出しー
その車に跳ねられたー

「----!!!」
寛太(須美)が目を見開くー

自分の身体が車に跳ねられて、
交差点の端の方に吹き飛ばされるー。

「---うっ…」
須美(寛太)が苦しそうに交差点の端で倒れたままー。

周囲が慌てて救急車を呼ぶー

「------あ…」
寛太(須美)は、唖然としてその場に座りこんだー。

身体を奪われた挙句ー
自分の身体が交通事故に遭ってしまったー

「うそ…」
絶望する寛太(須美)

さっきまでー
ついさっきまで、
いつものようにピザの宅配のバイトをしていたー

なんて、想像することもできない
地獄のような光景ー

「---」

寛太が”わざと”車に轢かれたことも知らない寛太(須美)は、
自分が追いかけたことによって、自分の身体が轢かれてしまったー
と、激しく落ち込みー
そして、その場で涙をこぼしたー

やがて警察官が駆け付けるー。
須美(寛太)が、直前に、寛太(須美)を指さしていたところでー
寛太(須美)は事情聴取されることになってしまうー。

「-----」
寛太(須美)は放心状態で、パトカーの中に乗り込むのだったー

③へ続く

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コメント

奪われてしまった身体…
二人の運命は…!?

明日が最終回デス~!

コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
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    やっぱり憑依とかじゃなく、入れ替わりで体を奪うのは厄介ですね。下手したら取り返されてしまう可能性もありますし。体の記憶を都合よく使えないタイプの入れ替わりなら尚更に。

    それにしても記憶喪失を装うために後遺症にならないように交通事故にあうなんてそう上手くいきますかね?

    本人の思惑とはまったく違う展開になりそうな気がすごくします。

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
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    コメントありがとうございます~!

    憑依か皮なら、乗っ取りやすいのですけどネ~…!
    入れ替わりで記憶なしは厄介デス…!

    そううまく行かない気がする…
    果たして…!

    明日もぜひ楽しんでくださいネ~!