憑依シーンが存在する劇の最中にー
劇中で、憑依される役者が、本当に憑依されてしまって…?
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とあるホールでは、
劇団による劇が行われていたー。
”守るべき姫様が、倒すべき魔王に”という
キャッチコピーの劇で、
魔王軍にさらわれた姫が、魔王に憑依されてしまって
主人公の騎士と敵対することになってしまう、というお話だったー。
”ポゼッション・プリンセス”
この日も、その劇の上演が行われていたー
「--姫様ーーー!」
「リチャードーーーー!」
劇は、この日も順調に進行していた。
物語の舞台・ルード王国。
王国の姫である、ネール姫がさらわれてしまうところから、物語が始まるー
「ガハハ!姫は我が貰っていくぞ!」
大魔王・サタンが、ネール姫をさらうー。
主人公である騎士・リチャードは悔しそうに空を見つめー、
姫を守り切れなかったことを悔い、
”しばらく様子を見るべきだ”という王国の大臣たちの方針を無視し、
騎士団の長としての位を返上、リチャードは魔王を倒すためのたびに出たー。
行く先々で色々な人々と出会い、
仲間を増やしー、
魔王の部下たちと戦うー。
そしてー場面は、魔王城に突入するところまでやってきたー
劇場の幕が下りるー
観客席が明るくなると
”これより、15分の休憩に入ります”とアナウンスが流れたー
「--後半はアクションが激しいからなぁ」
リチャード役の男・田所 弥一(たどころ やいち)が、汗をぬぐいながら言うー
「----まぁでも、由紀乃(ゆきの)さんよりマシかぁ」
恭一が笑いながら
ネール姫役の眞上 由紀乃を見つめるー。
「--そうですね~…切り替えが結構大変ですよね…
あと、この格好でアクションするのとかも」
由紀乃が笑うー
このあと、ネール姫が大魔王サタンに憑依されて
騎士・リチャードと戦う場面があるー。
その際に、由紀乃もそれなりにアクションをするのだが、
この姫としての格好でアクションをするのは
正直、なかなか大変だった。
「--でも、由紀乃さん、
いつもホントに魔王に憑依されてみたいな迫真の演技するから、
こっちも負けてられないや!って気持ちになるよ」
弥一が言うー。
「--ふふ、ありがとうございます。
後半も頑張りましょうね」
由紀乃が微笑むー
大魔王サタン役の又原(またはら)は
緊張しているのか、ずっと深呼吸をしているー。
それなりにベテランなのだが、
いつも緊張していて
”舞台は何年やっても緊張しますねぇ”などと、
いつも口にしているー。
そうこうしているうちに、休憩時間が終わるー
”これより、ポゼッションプリンセスの後半の部を
上演いたしますー
移動の際は、足元に気をーー”
アナウンスが鳴り響く中ー
劇場内は再び暗くなっていくー。
そして、後半の部が始まったー
「--これで、終わりだー!」
騎士リチャードが、
魔王軍の大幹部・ギドラテックオルガを倒すシーンからー
「GUOOOOOOOOO!!!」
ギドラテックオルガが悲鳴を上げて倒れるー
ついにー
魔王とリチャードが対峙するシーンが始まるー
「がはははは!よく来たな!騎士・リチャードよ!」
大魔王サタンが笑うー
「--リチャード!たすけて!」
ネール姫が叫ぶー
「--姫様!今、助けます!」
リチャードが叫ぶー。
「--がはは!我を倒す?
魔界の闇を支配し、統べる、この我を?」
大魔王サタンはそこまで言うと、
笑みを浮かべたー
「---貴様に本当の闇を見せてやるー」
シュウウウウーーーー
煙が舞台上に出現するー
これも”いつもの”演出だー。
「えーー、なに、、なにこれ?」
魔王サタン役の又原が、煙で自分の姿が
見えなくなったタイミングで、舞台の脇に下がっていくー
”がははははは!我は実態を持たぬ存在”
舞台の脇に下がった又原が、声だけを響かせるー
「--なんだと!」
騎士リチャードが叫ぶー
これも、いつもの演出ー
ネール姫が「ひっ!」と声をあげるー。
ネール姫の元に煙が集まっていきー
そして、効果音が流れー
ネール姫が、大魔王サタンに憑依される場面が、
描かれたー
「--ひぅっ!」
だがーー
ネール姫が、台本にないはずのビクン、と震える仕草をしたー。
アドリブだろうかー。
舞台にアドリブは、よくあるものだー。
リチャードは「姫様!」と、そのまま演技を続けるー
「---我に触れるな!」
ネール姫が、リチャードを突き飛ばすー
「--!?」
突き飛ばされたリチャードは驚くー
”台本と違う”-
いつもは、リチャードがネール姫に駆け寄ると、
ネール姫が静かに目を開き、
リチャードが、闇の減界を感じて
ネール姫から離れるー
と、いう流れだー
しかしー
今日は、ネール姫にいきなり突き飛ばされたー
”えっ…”
リチャードは戸惑いながら
ネール姫の方を見るー
「--我は魔王ガロンー」
ネール姫が叫ぶー
「--ま、、ま、、魔王、ガロン?」
リチャードは戸惑うー
ひとまず、劇としての体裁を整えられるように、
咄嗟にそう叫んだがー
リチャード役の弥一は内心では戸惑っていたー
”え、、ちょ、由紀乃さん?
魔王ガロンとか聞いてないケド!?!?
魔王の名前は、、サタンだけど!?!?!?”
弥一は戸惑うー
「--愚かな人間どもよー
我がまとめて、滅ぼしてくれる!」
ネール姫が叫んだー。
そして、ネール姫が何かを唱えると、
ネール姫の手に、剣が出現したー
「--!?」
リチャードは戸惑うー
”なんの、特殊演出だ!?”
とー。
ネール姫役の由紀乃の手に、
突然剣が出現したー
ように、リチャード役の弥一には見えたー
「--!?!?」
弥一が、舞台裏に隠れるようにして、
魔王サタンの声を演じている又原の方を見るー
”又原さん!?台詞は!?”
と、目で訴えるー
このあと、
魔王サタンの声で
”我はネール姫とひとつになった”と叫ぶ場面だー
だがー
又原は何も言わないー
何か目で合図をしているー
「--え???」
リチャードが戸惑っているとー
ネール姫役の由紀乃が剣を手に近づいてきたー
「-!」
リチャードが作り物の剣で応戦するー
”魔王サタンの台詞なしでアクションシーン?”
弥一は戸惑いつつも、
「貴様…魔王サタン!姫様の身体から出ていけ!」と叫ぶー。
いつもの台詞だー
「魔王サタン?」
ネール姫が笑うー。
「---我は、魔王ガロンなり!」
ネール姫役の由紀乃の身体から、衝撃波のようなものが飛ばされて、
リチャードが吹き飛ばされるー
「がはっ!?…え…えっ!?」
リチャードは戸惑うー。
何だ今のー?
ワイヤーアクション?
いやー
自分の身体にワイヤーはついていないー
これはいったいー?
ネール姫が襲い掛かって来るー
剣で必死にそれを防ぐリチャードー
だがーー
「--愚かな人間め!」
ネール姫がそう叫ぶとー
ネール姫の持っていた剣がー
リチャードを切り裂いたー
ぶしゅうう!
赤い血が吹き飛び、観客の一部が悲鳴を上げるー
だが、観客たちは
これが”演出”としか思っていないー
「がっあっ!?」
リチャード役の弥一が膝をついたー
”え…?”
リチャード役の弥一は慌てて腹部を触るー
”え…????”
血の演出なんてないはずー
しかも、
この”痛み”はーー
「-ぐふふふふ…この女も、この世界も、我のものだ!」
ネール姫は大声で叫んだー
「--我は魔王ガロンなり!!!!!」
ネール姫役の由紀乃の目が、おかしいー
まるで、正気を失っているかのようにー
「---は、、、え…」
苦しそうに蹲ったまま立ち上がれないリチャード。
「お、おい…なんかおかしくね?」
観客の一部も「異変」に気づき始めたー
まるで、リチャード役の弥一が、本当に苦しんでいるかのように
見えたからだー
ざわつき始める観客席ー
「ふん」
ネール姫役の由紀乃が壇上の真ん中に歩いていくと、
「愚かなゴミどもが、たくさんおるわ…!」と
凶悪な笑みを浮かべたー
「な、、な…由紀乃さん、、、何が…?」
リチャード役の弥一は苦しみながら由紀乃の方を見るー
まるで、意味が分からないー
「く…」
リチャード役の弥一は斬られた部分をさりげなく確認するー
”くそっ…本物の剣なのか…?”
どう考えても血糊などではないし、
そんなもの仕込んだ覚えもないー
リアルの血が出ているーー
だが、同時に弥一は思うー
”傷はそこまで深くはなさそうだな…”
リチャード役の弥一は、そう判断したー。
血はそこそこ出ているが、
致命傷ではないー。
驚きから、過剰に痛みを感じてしまっていたが、
動けないレベルではないー。
「---…魔王…!」
リチャードとして、弥一が叫ぶー。
「---ほぅ まだ立ち上がれるか」
ネール姫役の由紀乃が振り返るー。
”くそっ…何が起こっている…?”
そう思いながらも、リチャード役の弥一は
”アドリブ”での劇を続けるー。
「--魔王…サタン、いや、魔王ガロンと言ったな?」
リチャード役の弥一が叫ぶと、
ネール姫役の由紀乃は笑ったー
「サタン?そんな魔王は魔界にはおらぬ。
魔界はこの我・ガロンが支配しているのだ!」
ネール姫役の由紀乃の身体から、
紫色の霧のようなものが放たれるー
観客たちは、どよめいているー。
リチャード役の弥一は、
ネール姫役の由紀乃と戦いを始めるー
由紀乃に近づいた隙を見て、
弥一が小声で語り掛けるー。
「由紀乃さんっ、これはいったい…?」
「--ゆきの?この人間の名前か?」
由紀乃が小声で答えたー。
「--台本が直前で変わったのか?」
弥一が確認するー
だがー
「だいほん?何を言っておる?
それにー…
貴様、勇者の癖に、偽物の剣を持っているようだなー」
弥一が由紀乃の目を見るー
由紀乃の目はーー
どこか輝きを失っているように見えたー。
”まさか、本当に憑依されて…?
いや、そんなはずはー”
「--ぐあっ!」
由紀乃に蹴り飛ばされる弥一ー
舞台脇の方に吹き飛ばされた弥一は、
観客たちから見えない位置に飛ばされたことを
瞬時に確認すると、
狼狽えている魔王サタン役の又原に話しかけた。
「--又原さん!…由紀乃さんの様子がおかしい!」
弥一の言葉に、又原は「あ、、あぁ、わかってる!」と
狼狽えながら答えたー
「--もしかしたら観客も襲われるかもしれないー」
弥一が血を押さえながら言うと、
又原は「ひ、避難させよう!」と叫ぶー
だがー
「待て!」
弥一が叫んだー
「--何が起きてるのかは分からないが、
とにかくアドリブでこのまま劇を続けるー…
裏方のやつらにも、そう伝えておいてくれー」
弥一らが所属する劇団の裏方たちも、当然
由紀乃の脚本外の行動に唖然としていたー
じきに止めに入るかもしれないー
「---…いや、いや、由紀乃さんの様子がおかしいなら
止めたほうがいいだろ?
ってか、由紀乃さん、どうしたんだよ?」
魔王サタン役の又原はなおも戸惑うー
「わからないー…でも、本当に憑依されたのかも」
「は?」
さらに狼狽える又原に背を向けると、
リチャード役の弥一は立ち上がるー
「--俺が由紀乃さんと戦うー
俺は、劇を続けるー
でも、もしも俺が倒れたら、その時は劇を直ちに中止して
観客を避難させてほしい」
リチャード役の弥一がそう言うと、
さらに付け加えたー。
「--どんな状況でも、俺はお客さんを楽しませるために
ここに立っているんだからなー」
それだけ言うと、弥一は再び観客たちから見える位置に戻るー
「やるじゃないか。魔王ガロン!
だが、ネール姫の身体から、出ていってもらうぞ!」
リチャードとして弥一が叫ぶとー
”本当に憑依されてしまった”ネール姫役の由紀乃が不気味な笑みを浮かべた-
②へ続く
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劇の最中に本当に憑依されてしまった…!
と、いうお話デス~☆
続きはまた明日書きます!!
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