3年後からやってきた自分は
彼女の身体になっていたー。
”未来で起きるはずだった入れ替わり”と
悲劇の未来を阻止したその先に待つものは…?
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3年後ー。
幸雄と晴美は、結婚したー。
幸せの絶頂に包まれるふたりー。
結婚式を終えて、
祝福を受ける中、会場の外で月を見上げながら幸雄は呟くー
”幸せな未来ー手に入れたよ”
とー。
3年前ー。
”3年後の未来”からやってきた幸雄は、
彼女の晴美の身体になっていたー。
最初は信じられなかったが、幸雄しか知らないようなことまで
語って見せた未来の晴美(幸雄)を幸雄は信じたー。
そして、3年後の未来ー
片倉というストーカーによって、晴美が付け回されてー
やがて、幸雄と共に逃げる最中、階段から転落ー
二人は入れ替わってしまい、
幸雄の身体になった晴美は、意識不明の重体になってしまうー、という
最悪の未来が待っていることを知ったー
幸雄は、未来の幸雄と協力し、
ストーカー男になる男・片倉が、初めて晴美と出会ってしまう日にー
”出会わないよう”にすべく、行動を起こしたー。
その結果ー
学園祭の会場で、片倉に追い回されながらも、
その最中に片倉は階段を踏み外して転落ー
事故死してしまい、
後味の悪い結末にはなってしまったもののー
”未来を変える”ことには成功したー。
あれから3年ー
晴美は、ストーカーに付け回されることもなく、
未来は変わったと言えるー。
「----」
幸雄は、夜空を見上げながら
”でも、ちょっと晴美の身体になってみたい、って気持ちはあったかなぁ…”と
苦笑いするー。
晴美の身体でおしゃれをしたりー
女性として、色々してみたいー
「幸雄~!酔っちゃったの?」
会場の外に出ている幸雄を見つけて、晴美が近づいてくるー。
「いや、全然。ちょっと昔を思い出してて」
幸雄が言うと、晴美は「なにそれ~」と笑ったー
微笑む晴美ー
本当なら、あの時から3年後の今ー
晴美は片倉に追い回されていて、
挙句の果てに階段から転落、幸雄と入れ替わった上に
幸雄(晴美)は意識不明の重体になるー
はずだったー。
だが、そうはならなかったー。
それにー
「--未来を変えてなきゃ、今頃僕は、
タイムスリップする方法を手に入れてるなんて、
なんだかすごいなぁ…」
あの時の”3年後の僕”が言っていた通り
世の中に一般的にタイムスリップの技術が出来ているようなことは
なかったー。
それにー
「----」
幸雄は晴美のほうを見るー。
3年前に、幸雄の前に姿を現した
”3年後の僕”は、晴美と入れ替わって晴美の姿になっていたー
「--でもさ、3年後の晴美、まずます綺麗になってる気がするなぁ
なんだか、ますます若くなった感じ」
「はは、それだけ晴美は可愛いってことさ」
そんな会話も交わしたー
だがー
「----」
今の晴美は、
あの時見た”3年後の晴美”とはちょっと違う気がするー
当然、綺麗だし、かわいいー
でもー
何か、違うー
”ストーカーに怯えながら過ごす3年間と
そうじゃない3年間では、顔にも違いが出るってことかな”
幸雄はそんな風に思いながら
「さっきから、じーっと見つめて…どうしたの?」と苦笑いする晴美に対して、
「なんでもないよ!」と笑みを浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
時は流れー
1年後には、幸雄と晴美は、子供を授かったー
長女・紀香(のりか)を授かり、
幸雄と晴美は、ますます固い絆で結ばれるー
幸雄は、順調に仕事をこなしー、
晴美も、幸雄を支えつつ、
一方の幸雄も、晴美を支えー
理想的な夫婦の形が、そこにはあったー
紀香も、すくすくと育ちー、
やがて、成人式の日を迎えたー。
あれからーー
25年が経過していた。
幸雄も、晴美も40代に突入し、
あの時とは、何もかもが変わったー。
大学時代ー
幸雄の前にやってきた”3年後の僕”も
こんな風に幸せな生活を送ることができているのだろうかー。
そんな風に思いながら、
今日も仕事を終えて、幸雄は家への道を歩いていたー
今ではすっかり、中年男性、と言える年齢になった幸雄ー
けれども、晴美を大切にする気持ちは
大学時代から変わらないし、
晴美も変わっていないー
今では、娘の紀香のことも含め、家族を愛しているー
仕事帰りー、
”今日は少し早めに帰れそうだな”などと思いながら
幸雄は、家への道を歩いているー。
”タイムトラベル技術研究は進みー”
そんなニュースが流れているー
「タイムトラベル…か」
あの時、3年後の僕がやってきたときに、幸雄は
”現実のタイムトラベル”を既に見ているー。
あれから25年ー
ようやく、世間でタイムトラベル技術が、公に出始めていて、
既に管理の元、実験にも成功しているようだー。
「---やぁ」
背後から声がしたー。
ー幸雄が立ち止まる。
振り返ると、そこには見知らぬ青年がいたー。
「---君は?」
幸雄が警戒しながら言うと、
「--”昨日”はありがとう」
と、青年は答えたー。
「--昨日?」
幸雄が首を傾げる。
昨日は普通の1日で、特に変わったことはしていない。
当然、この青年にも見覚えはないー
「--あぁ、そっか、君にとってはー
25年ぶりかな…
僕には、タイムトラベルで、この時代に戻ってきただけだから
”昨日”のことなんだけどね」
青年が笑ったー
何を言っているのか、意味が分からないー
「ーーはは、分らないか。まぁ、当然だね」
青年が笑うー
幸雄は少し腹が立ったー
見知らぬ青年に、いきなりため口で話しかけられて、
”なんなんだこいつは”という気持ちになっているー
「--君が”歴史”を変えてくれたおかげでー
僕は”君の娘”の身体を安心して奪えるー。
この”入れ替わり薬”でねー」
ーー!?!?!?
幸雄が表情を歪めるー
「え……?ど、、どういう…」
幸雄が言うと、
青年は答えたー
「僕はー
25年前、大学生の君の前に現れたー
”3年後の僕”だよー
くくくくーーー
まぁ、自称”3年後の僕”だけどね」
青年は笑ったー
「な、なに…?」
幸雄は困惑するー
意味が分からないー
「---君に、ちょっとだけ嘘をついたんだー」
青年は笑うー
「あの時、”3年後の僕”を名乗ったけどさー、
実は僕、”君”じゃないんだよね。」
青年の言葉に、幸雄は呟くー
「まさか、お前…あの時、”未来の晴美”の身体で
僕の前に現れた…」
幸雄が言うと、
青年は「そう!ピンポーン!」と笑みを浮かべるー。
「--ごめんねぇ、僕は”3年後の君”なんかじゃなかったんだー。
そして、昨日、いや、君にとっては25年前かー
あの時、”3年後から来た”って言ったけど、
本当は、今ー
”25年後から”来たんだー」
青年は言うー
幸雄は、唖然としながら考えるー
”3年後の未来から来た晴美の身体をした僕”
ではなくー
”25年後の未来から来た晴美の身体をした知らない青年”
だったのかー?
とー。
「あと、あの時の身体ー
まだ気づかないかい?
あれは”3年後の晴美”の身体じゃないー」
青年はにやりと笑うー
「-------!!!」
青年が、答えを言う前に、幸雄はハッとしたー
「に、してもーー
3年後の晴美も、綺麗だなぁ…
ますます綺麗になってる気がする」
大学生の頃見たー
”3年後の晴美”の姿を思い出すー
その姿は、晴美とよく似ているー
だがーーー
「----紀香…!」
幸雄が呟くー
「そう、あれは3年後の晴美の身体じゃなくて、
25年後の、君自身の娘、紀香ちゃんの身体さ!」
青年は笑みを浮かべたー
”3年後の未来から来た晴美の身体をした僕”ではなく
”25年後の未来から来た紀香の身体をした知らない青年”
あの時、幸雄が出会った人間はーー
25年後からやってきた、未来の自分の娘の身体をした、知らない青年、だったのだー
「---………じゃあ、」
幸雄が言うー
”あの話は作り話だったのか?”
とー。
”3年後の僕”を自称して、接触してきたときに、この青年はー
”片倉という男につけまわされて、3年後に、幸雄と晴美は階段から転落ー
入れ替わってしまい、幸雄の身体になった晴美は意識不明の重体ー
その未来を変えるために、やってきた”と説明していたー
その結果、片倉がストーカー化するのを阻止したーーー
はずだったー
「---全部教えてあげるよー」
青年は笑みを浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
青年の名前は、黒崎 重康(くろさき しげやす)-
幸雄の娘である紀香の大学の同級生ー。
そしてー
彼の目的は、”一目ぼれした紀香の身体を奪うことー”
その結果、彼は裏社会で”入れ替わり薬”を手に入れたー。
それを使い、彼は紀香と入れ替わったー。
紀香の身体を奪い、欲望の日々を送る生活ー。
だがー
重康になった紀香は必死に叫んだー。
”入れ替えられてしまった”ことをー。
しかし、そう簡単に周囲は信じないー
入れ替わって紀香の記憶を読み取った重康は
紀香のことや、父である幸雄のこと、母の晴美のこと
あらゆることを知って、成り済ましたー
だがー
そんな紀香(重康)を怪しむ人物がいたー。
それが、片倉という名前の刑事ー。
片倉だけは”入れ替わり”を信じて、
徹底的に調査を進めー
ついに、紀香と重康が入れ替わっていることが証明されてしまいー
紀香(重康)は指名手配されてしまったー。
逃げ惑う紀香(重康)は、
とある研究施設に潜入してー
タイムトラベルの技術を盗み出したー
そしてー
”入れ替わり失敗”の未来を変えるためー
25年前にタイムスリップしたのだー
「まさか…お前…」
幸雄が唖然としながら言うー。
「--そうさ、僕が25年前にタイムスリップして
”3年後から来た”と嘘をついてまで、
片倉を始末したのはーーー
”入れ替わりに気づく刑事”を始末するためさー
君が25年前、僕と一緒に片倉を始末してくれたおかげでー
この時代で本来、僕を逮捕するはずだった
片倉刑事は”存在しなくなった”
片倉はさぁ、ストーカーなんかじゃなくて、
君と、娘を将来助けてくれるはずだった刑事だったのにさぁ!」
重康は笑ったー。
「--僕を…利用したのか…?」
幸雄は震えるー
「そう。片倉にある情報を僕が流して学園祭に呼び出してー
そしてー君たちを追っていた片倉を、階段で突き飛ばしてー
”始末”したー」
重康は笑みを浮かべるー
「ありがとうー
君のおかげでーーー
君の娘ーー
僕の大好きな紀香ちゃんの身体を奪うことを邪魔する人間はいないー」
狂気的な笑みを浮かべる重康ー。
「---お、、お前…!ふ、ふざけるな!僕の娘に手を出すな!」
幸雄が叫ぶー
「--へへへへ…”昨日”は本当に、ありがとうねぇ~」
重康は笑ったー
重康にとってはー”25年前の出来事”は
”昨日の出来事”ー
タイムスリップして、この時代に戻ってきたからー
昨日の出来事なのだー。
「いつかまた、会えるよねー って、言ってたよな?」
重康が笑ったー
「--また、会えたねぇ!!!ひゃははははははははははっ!」
笑う重康ー。
幸雄はそんな重康を見て、ふと笑ったー
「---何がおかしい?」
重康が首を傾げるー
幸雄は、冷静に、言い放ったー
「--過去を変えて、僕の娘を奪おうとしたーー
でもーーー
今、ここで僕にそれを打ち明けたのは誤算だったな!」
幸雄が叫ぶー
何も言われなければー
娘の紀香に成り済まされてしまったらー
気づかない可能性もあるー
だがー
この重康という男が、今、こうして真実を暴露したことー
それに、25年前の僕に”入れ替わり”の話をしていることー
それによってー
”入れ替わり”のことを、僕はすぐに気付くことができるー
幸雄がそう言うと、
重康は笑みを浮かべたー
「確かに、そうだね」
とー。
「---でも、そううまく、行くかな?」
重康はそう呟くと、邪悪な笑みを浮かべたー
近くに止めてあったバイクにまたがる重康ー。
「待て!」
幸雄が重康を止めようとしたー。
しかし、重康は勝ち誇った笑みを浮かべると、
そのまま走り去ってしまったー。
「くそっ!!!」
幸雄は慌てて娘の紀香に連絡を入れようとするー
まだ夕方ー
紀香は学校ー、
あるいは、既に帰宅しているだろうかー。
だが、紀香に連絡を送っても、紀香から返事はなかったー。
”くそっ!?まだ学校か?”
幸雄は、妻の晴美にも連絡を入れる。
「--僕の娘には、手出しはさせないー」
幸雄は、そう叫んだー。
しかしー
現実は冷たかったー
「--そ、そんな…」
大学から帰宅中だった紀香は、重康に襲われてーーー
”入れ替わって”しまったー。
「--くくく…これからは、僕が紀香ちゃんだ…!
ひひひひひひ」
紀香になった重康がげらげらと笑うー。
「--わ、、わたしの身体を、返して!」
重康(紀香)が叫ぶー。
だがーーー
紀香(重康)に、紀香の身体を返すつもりなんてなかったー
「--今度は失敗しないー
”入れ替わり”を信じてくれるはずだった
”唯一の警察官”は、もうこの時代に、いないからね…
君のお父さんのおかげさ!」
紀香(重康)は嬉しそうに、狂った声で叫んだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
幸雄が帰宅するー
自宅には、既に紀香(重康)が帰宅していたー。
入れ替わったその場で、
わざと悲鳴をあげて、重康(紀香)は警察に連行されてしまっているー
「---おかえり、お父さん」
紀香(重康)が静かに微笑むー
「-----!」
幸雄は表情を歪めるー
確かにー
25年前のことだから、言われるまで気づかなかったがー
あの時、
幸雄が大学時代に出会った”3年後の僕”を名乗っていた
晴美によく似ているー
あの時、姿を現したのは、
3年後の晴美の身体をした僕、ではなく
25年後の幸雄の娘・紀香の身体をした重康だったのだー
「-----」
紀香(重康)が静かに微笑むー。
「--お父さん…
入れ替わりのこと、周囲に叫んでもいいんだよー?
でもね、僕は完全に紀香ちゃんの記憶を受け継いでるー。
入れ替わりを証明することなんて、できないし、
そんなこと叫べば、頭がおかしいおっさんになるんだよ??
ククク」
紀香(重康)の言葉に、
幸雄は既に娘が入れ替えられてしまったことに気づくー
「ぼ、僕の娘を返せ!」
幸雄が小声で呟くー
「--お前が変な行動をしたらー
紀香ちゃんも、お前の大事な奥さんの晴美もーーー
まとめてぶっ壊してやるからな???
僕は、まだタイムスリップだってできるんだー。
その気になったら、お前を消去することだってできるんだよ?
ねー?
”3年前のぼ・く”」
全く関係ない人物なのに、挑発的に呟く紀香(重康)
「--く、、くそっ…」
幸雄は、震えながらその場にしゃがみ込むー
こいつをーー
こいつを抑え込む方法がーーーーない。
本当だったらー
片倉という刑事が入れ替わりを信じて
こいつを追い詰めてくれるはずだったー
けどー
片倉はー
25年前に始末されてー
歴史が変わってしまったーー
「---くくくくくく」
紀香(重康)は、悪魔のような表情で
幸雄を見つめるー
”この女は、僕のものだー”
25年前に戻りー
片倉を殺すだけなら簡単だったー
でも、せっかくタイムスリップしたならー
楽しみたいー
だから、幸雄と接触してからかってやったー。
”3年後の僕”という嘘を信じて
必死こいて奔走する姿は、最高だったー。
そしてー
重康になった紀香が、いくら騒いでも無駄ー
何故ならー
入れ替わる直前に、
女装したり、精神科にわざと通院して
「僕、自分が紀香ちゃんに思えて仕方がないんです」と言ったりー、
予め”伏線”を作っておいたー
仮にー
重康になった紀香が、警察で「わたし、入れ替えられちゃったんです」と
叫んだとしてもー
精神科への通院歴や、近所の人にわざと目撃されておいた女装ー、
友達に「僕、入れ替わりの妄想大好きなんだ」とわざと言いふらしておいたことー
これらからーー
誰も、本当に入れ替わったなど、信じやしないだろうー。
紀香(重康)は部屋に入ると、服を脱ぎ捨てて
自分を抱きしめたー
「僕、紀香ちゃんを死ぬほど愛してるんだー
僕が、そのものになりたいぐらいにー
ひひ、僕が、、僕が紀香ちゃんだー
ひひっ、、ひひひひひひっ♡」
紀香(重康)は笑うー
この時代に、入れ替わりを唯一信じる刑事・片倉はもういないー
これが、僕にとってのー
”光の未来”だー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
”未来から来た自分”なんて言葉を
軽々と信じてはいけませんネ~!★
お読み下さりありがとうございました!!
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