大名・雪之丞と入れ替わってしまった
町娘の小夜ー。
互いに異なる立場での生活。
その先に待ち受けている運命は…?
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「小夜ちゃん!ありがとな!」
近所の呉服問屋の主人から、お礼を言われて微笑む小夜(雪之丞)-
”小夜ちゃん”
”小夜ちゃん”
町人たちは、小夜のことをとても可愛がっているー
そしてー
「---小夜さん!お待たせ」
近所に住む青年・佐吉ー
小夜と入れ替わる前は気づかなかったが、
とても好青年だー。
「---」
小夜(雪之丞)は佐吉のほうを見るー。
雪之丞として、この町を通過したときには
”何と無礼な男か”としか思っていなかったが
こうして小夜になってみて、佐吉と接してみて、
わかったー
”この人は、素敵な人だ”
とー。
「---佐吉さん」
小夜(雪之丞)はゾクゾクしながら佐吉に身体をくっつけるー。
”この生活を手放したくないー”
小夜になった雪之丞は、そう思っていたー
城の中での、充実しながらも、心の充足感を感じることのできない生活は
もう、終わりだー。
「--わたしは、小夜ー」
夜ー
小夜は、綺麗な身体を眺めるようにして、
髪を整えながら呟くー
「わたしは、小夜」
そう呟くだけで興奮するー
雪之丞は、雪之丞としてではなく、
小夜として生きる道を選ぼうとしていたー
「ーーどうしてこうなったのか、分らぬがー」
小夜(雪之丞)は、ふと心配になるー
自分と入れ替わったこの娘は
どう思っているのだろうか、と。
”殿様が死んだ”という話を聞かないし、
”帯刀 雪之丞”は今も健在なのだと言う。
だから、自分の身体は生きてはいるのだろう。
「--儂になったこのおなごはどうしておるのだ?」
小夜(雪之丞)は、裸のまま、考え込むー。
「---……」
入れ替わったあとに、小夜としての記憶を失ったのだろうかー。
何も問題になっていない上に
この宿場に雪之丞(小夜)がやってきていない以上ー
”小夜としての記憶を失っている”か、
”雪之丞になったことに満足している”かー
そのどちらかである可能性が高いー
「儂の身体であれば、ここに来ることはたやすいはずー」
小夜(雪之丞)は、裸のまま足を組んで考えるー。
着替えの最中に、考え込むのは、雪之丞本人の癖だったー。
”入れ替わりがバレたか?”
小夜(雪之丞)はそうも考えてみたー
原因は不明だが、もし入れ替わったことがばれている場合、
雪之丞(小夜)を、磯部あたりが幽閉する可能性は十分にあるー。
「-いや、それはありえぬな」
小夜(雪之丞)は首を振ったー
もし、家臣たちが雪之丞の身体に町娘がいる、と知れば
ここに磯部か、誰かは分からないが
必ず誰かがやってくるはずなのだー。
それが、ない、ということはー
「--この娘も、儂として振舞っているということかー」
その証拠にー
最近は、税の取り立てや役人の応募な態度などが
緩和されて、
庶民が生活しやすくなってきているー。
「---……なるほど」
小夜(雪之丞)は、状況を理解した-
おそらくは、小夜の側も
入れ替わった状況に満足しているー
そういうことなのだろうーーー
「---儂はもう、帯刀 雪之丞ではない」
小夜は、着替えを終えて、鏡を見つめるとー
「儂は今日から、雪之丞としての儂を捨てる」
と、かわいい声で呟くー
そしてー
「儂は、小夜ーわたしは、小夜ー」
と呟いたー
雪之丞は、小夜として生きる決意を固めたのだったー
”殿”として生きてきたころには、
全く気付かなかった
”小さなやさしさ”
それに触れた雪之丞は、
もう、殿として城に戻るつもりなど、
さらさらなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
雪之丞になった小夜は、
何度か宿場に足を運びー
父も、佐吉も、
小夜になった雪之丞ととても
仲良さそうに生活していることを知ったー。
正直、
今の小夜は小夜じゃない。
「-わたし、あんなことしませんから」
不貞腐れた様子で雪之丞(小夜)は呟くー
雪之丞には、小夜としての記憶はない。
小夜っぽく振舞っているが
やはり、どうしても小夜とは違う行動が
たくさん見受けられるー
小夜もそう。
雪之丞になった小夜には雪之丞としての
記憶がないー
だから、妙にサポートしてくれる磯部の力を借りないと
分からないことも多いー。
でもー
佐吉や源左衛門、宿場の人々は
”楽しそう”なのだー
”わたし”が小夜であったころよりもー
”今の小夜”
中身が雪之丞である小夜といるほうが、楽しそうなのだー
雪之丞(小夜)は激しい嫉妬の感情を覚えていたー
”実際”はー
雪之丞になった小夜が、町人の締め付けをやめるように
色々な指示を出し、人々の生活によい影響をもたらしたことで
佐吉や源左衛門も明るくなっていたのだが、
今の小夜には”小さなこと”が見えなくなっていたー
「ははっ!」
家臣が頭を下げて、命令をこなしていくー
「--みんなみんな、わたしの一言でー」
雪之丞(小夜)の表情が歪むー。
”佐吉さん…
今、いっしょにいる小夜はわたしじゃないのに
あんなにたのしそうー”
小夜(雪之丞)と楽しそうに話している佐吉の姿を思い出すー
「----ゆるせない」
ギリッと唇を噛む雪之丞(小夜)。
「--磯部」
雪之丞(小夜)が家臣の磯部を呼ぶー。
そしてーーー
”命令”を告げたー
”今のわたしにはー”力”があるー”
雪之丞(小夜)は静かに微笑んだー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
再び、重税が課せられー
締め付けが始まったー
「---作物も全部お殿様に持っていかれただ」
近くの農村の男が、泣きながら源左衛門にそう言い放つー
「--殿様は、どうしてまた急に」
病気から回復していた小夜の父・源左衛門が言うー。
「------…わからねぇ」
佐吉も首を振る。
半月前から、再び雪之丞による圧政が始まったー
一度、雪之丞は民に寄り添う姿勢を見せ、
独占していた薬も解放し、税などの負担も削減させたー
だがー
最近、再びー
以前よりもひどいレベルで、暴政が始まったのだー
「---------」
小夜(雪之丞)は、困惑した表情を浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
「なにぃ?献上する作物がもう、ない?じゃと?」
雪之丞(小夜)が雪之丞として振舞う。
「--は」
家臣が報告すると、
雪之丞(小夜)は怒りの表情を浮かべたー
「斬り捨てよ!」
ゾクゾクする雪之丞(小夜)-
”他人の命を、わたしが決める”
”わたしの一声で、何もかもが決まる”
なにこれー
”殿様”ってすごいー
わたし、、、すごい…!
雪之丞になった小夜は、
権力に溺れ、暴走を始めていたー
城で雪之丞の身体のまま男遊びを繰り返しー
暴政で贅沢三昧を繰り返すー
家臣の磯部は困惑した末に
「殿ー、あなたは…殿ではないはずだ」と、叫んだー。
磯部は二人が入れ替わったことを突き止めながら黙っていたー。
理由は、”中身が小夜の雪之丞”のほうが
民のために、優しい政治が出来ると、そう思ったからだー
事実、最初はそうだった。
けれど、最近はー
「-----」
雪之丞(小夜)は驚きながらも、磯部の言葉を聞いたー
「--鋼管刀には入れ替わりの力がありました。
故に、あなたは、いいや、貴殿は、あの宿場の娘、小夜殿であるはずだ」
磯部がそう言い放つー。
「--最近の暴政ぶりは、目に余るー」
とー。
だがー
「--小夜?儂は小夜などではない。儂は帯刀 雪之丞ぞ」
雪之丞(小夜)はそう答えたー
記憶を失ったわけではないー
嫉妬と権力に溺れてー
小夜は、雪之丞になりきってしまったのだー
「ーーそんなはずはない!あなたは、宿場のー」
「--斬れ」
雪之丞(小夜)は、そう呟いたー
他の家臣に対して磯部を斬るように命じた。
「--であえであえ!反逆者ぞ!」
雪之丞(小夜)が叫ぶー
磯部は慌てて「待てっ!」と周囲に叫んだー
だが、”雪之丞”の命令に従いー
他の家臣たちは、その場で磯部を斬り捨てたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「-----もう、俺たち、耐えられねぇ!」
町の人々が口々にそう言いだすようになったー
雪之丞になった小夜が、
佐吉たちに対する嫉妬と、
”自分の一声で何もかもが動く”という権力に
憑りつかれてしまい、
元々の雪之丞以上の圧政を敷くようになったー。
このままでは、庶民は、命まで搾り取られてしまうー。
「-----」
小夜(雪之丞)が、表情を歪めるー。
「--……小夜さん?」
佐吉が不安そうに小夜(雪之丞)のほうを見るー
小夜になった雪之丞は、反対に、
小夜としてしばらく暮らしたことで、
自分の行動を恥じ、そして、
この生活をいつまでも送りたいー
そんな風に思うようになっていたー
だがー
”儂が、儂の身体に戻れば、全て丸く収まるのではないか”
そう、思い始めたー。
再び入れ替わればー
町の人々の優しさに触れて、変わった雪之丞は、
もう暴政を振るうことはないだろうー。
あまりにも視野が狭すぎた自分を恥じたからだー。
そしてー
小夜は、元の身体に戻ればー
おそらく、目を覚ますだろうー。
今は、手にした権力に溺れているだけー。
それにーーー
万が一権力に溺れたままでも
小夜の身体に戻ってしまえば、何もできはしないー
「--そうだ…儂が」
小夜(雪之丞)が呟くー
あの時の刀ー
おそらく”あれ”が入れ替わりのきっかけー。
小夜(雪之丞)は何度も何度も入れ替わったときのことを
考えた結果、鋼管刀こそが、入れ替わりの原因だと考えた。
「小夜さんー」
心配そうに小夜を見つめる佐吉ー。
「---」
小夜(雪之丞)は何も言わず佐吉にしがみついたー
「--えっ!?」
佐吉が驚くー
「今夜だけはー
どうか、このままーーー」
小夜(雪之丞)は
小夜として、佐吉のことが好きになっていたー
最後の夜ー。
小夜(雪之丞)は決意を固めー
佐吉と、最初で最後の濃密な夜を過ごしたー
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
翌日ー
こっそりと城に向かう小夜(雪之丞)-
そしてーーー
今度は見つからずにーーー
ゴォォォォォ
「---!?!?」
小夜(雪之丞)が表情を歪めたー
城の天守閣から、炎がー!?
「----なんだ!?」
小夜(雪之丞)が叫ぶー
”謀反だ”
”雪之丞を討ち取れ!”
「---!!」
小夜(雪之丞)は慌てて混乱に乗じて天守閣を目指すー
そこにはーーー
「---おのれぇぇぇぇ!
わたしは、、儂は帯刀 雪之丞ぞ!!!」
刀を持った雪之丞(小夜)がいたー。
「---…!!!」
小夜(雪之丞)が、雪之丞(小夜)のほうを悲しそうな目で見るー。
「---小娘が!お前も儂の命を取りに来たか?」
雪之丞(小夜)が叫ぶー。
「---!!!」
小夜(雪之丞)は表情を歪めるー。
雪之丞になった小夜は、権力に憑りつかれてー
溺れてー
そしてーーー
「---お、、、お主の身体であろう!?」
小夜(雪之丞)が自分を指さしながら言う。
「---…」
雪之丞(小夜)がぽかんとした表情を浮かべるー
「わ、、わた、、、わし、、わし、、儂は帯刀 雪之丞ぞ!
儂の命に従え!!
儂の命に従え!!!!!!!」
権力に憑りつかれてーー
小夜は自分を見失っていたー
「--どけ!」
武士たちがなだれ込んでくるー
小夜(雪之丞)は
「待て!!!待て!!!!!!!!!!」と叫んだー。
部屋に置かれていた鋼管刀を手にする小夜(雪之丞)-
狂ったように「儂は雪之丞ぞ!」と叫ぶ雪之丞(小夜)-
そしてー
帯刀 雪之丞は、その日ー
炎の中に消えたー
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---」
後日ー
雪降る山道を放心状態で歩く小夜の姿が発見されたー
宿場に運び込まれてー
意識を失っていた小夜が目を覚ますー。
「--小夜さん!」
佐吉が嬉しそうに、小夜のほうを見つめるー。
小夜は、涙を流しながら呟いたー
「佐吉さんーー、ごめんなさいー」
とー。
その言葉はー
”本物の小夜を助けることができなくてごめんなさい”
だったのかー
それともー
”入れ替わっている間に、ひどいことをしてごめんなさい”
だったのかー
それは、今の小夜本人にしか分からないー
だがー
小夜はそれ以降、小夜として佐吉と結婚してー
一生を過ごしたー
小夜が元に戻れたのか、
中身が雪之丞のままだったのかー
それはー
本人にしか、分らないー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
大名と町娘の完結編でした!
一応、入れ替わってからある程度の時間が
作中で経過しているのですが、
3話だと、案外、駆け足になってしまいますネ~汗
お読み下さりありがとうございました!!
コメント
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気になる終わりかたでしたね!
自分的には小夜(雪乃丞)であってほしいですね!
小夜になって改心したし佐吉と幸せな生活を送ってほしいですね(^o^)
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コメントありがとうございます~!★
幸せな生活を送れているといいですネ~!
後日談も…とも考えましたが
あえてこのまま、想像できるようにしておいたほうが
いいのかも…?とも思ったりします~☆