その学校では”憑依のうわさ”が
流れていたー
”あの子が憑依されている”という噂だー。
その真相は…?
---------------—-
「-----ぶつぶつぶつぶつ…」
教室の隅っこで何かを呟いている女子生徒がいたー。
仲尾 咲子(なかお さきこ)-
彼女は”悪霊に憑依されている”と、噂されているー。
咲子は、2学期に入ってから、急に様子がおかしくなってしまったのだー
「---気味悪い…」
キツそうな顔立ちの女子生徒・山澤 一恵(やまざわ いちえ)が呟くー
咲子は1学期までは、真面目な女子生徒で
勉強熱心な、優等生だったー
だが、今はそんな面影が、まるでない。
まるで幽霊のように髪の毛を伸ばしー
ボサボサになった髪でー
生気なく、虚ろな目をしているー。
最初は、先生も生徒も原因が分からず、困惑していたー
だがー
そんな彼女が”悪霊に憑依された現場を見た”と、
とある女子生徒が口にしたことによりー
”仲尾さんは、悪霊に憑依された”という噂が
全校中に広まったのだー。
「--ぶつぶつ…ぶつぶつ」
咲子が呟くー
まるで、感情のないように、意味不明な言葉をー
「------ねぇねぇ、望海(のぞみ)」
一恵が、望海と呼ばれる可愛らしい女子の元に近づいていくー。
彼女こそが、”咲子が憑依された現場を見た”と言い出した
女子生徒だー。
「--あの子が悪霊に憑依されたって本当なの?」
一恵の言葉に、望海は「うん…」と呟くー。
望海は、2学期が始まってすぐの頃ー
部活帰りで夜遅くなってしまった時に、
見たというのだー。
校舎裏で、”黒い煙”に乗っ取られる咲子の姿をー。
咲子がおかしくなったのは、
それからー、
時期もちょうど一致しているー。
望海は、クラス2位の成績を誇る優等生で、
素行も良い。
豹変する前の咲子と並んでー
”クラスの優等生”だった少女だー。
咲子のほうを見つめる希海ー
今やすっかり咲子は
”悪霊に憑りつかれた女子”として
誰も寄り付かなくなっているー
「---ふふ…」
望海は、一人笑みを浮かべたー
”嘘”なのだー
咲子が、悪霊に憑依される場面を見た、というのは
望海の”嘘”-
そんな場面は見ていないし、
咲子がおかしくなった理由なんて、望海は知らないー。
けれどー
”さすが仲尾さん”
”仲尾はすげぇな”
”咲子ちゃんすごい”
屈辱の記憶がよみがえるー
望海は、唇を噛みしめたー。
望海は、小さいころから”なんでもできる優等生”として
チヤホヤされてきたー
小学時代も、中学時代も、そう。
周囲から褒められてー
すごいと言われて
優越感に浸るー。
そんな”裏の顔”を持つ女子高生だったー。
だがー
高校に入ってから流れは変わったー
”自分よりも頭が良くてー”
”自分よりも性格も良くてー”
そんな、咲子に希海は嫉妬したー
蹴落としてやろうと思ったー
どんなに勉強しても、どんなに勉強してもー
望海は”クラスの一番”になることはできなかったー。
やがて、咲子に強い憎しみを抱いた希海ー。
だがー
咲子は突然豹変したー
2学期に入ってからー
まるで面影が無くなり、一人で幽霊のように
ブツブツ呟くー
そんな”異様な姿”が見かけられるようになったー。
望海は、笑みを浮かべたー。
”おかしな噂を流して、咲子をさらに追い詰めよう”
とー。
そして、望海は
”咲子が悪霊に憑りつかれる場面を見た”と
嘘をついたのだー。
その結果ー
咲子は”気味悪がられて”さらに孤立したー
「今では、わたしが一番…」
望海は、満足そうに笑みを浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
咲子の孤立は続くー
「ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ」
咲子は今日もボサボサの髪で何かを呟いているー。
「---…ほんときもい!」
キツそうな顔つきの一恵が呟くー。
「--あんまりそういうこと言わないほうがいいよ」
他の女子生徒が言うー
「----ぶつぶつ…」
何かを呟いていた咲子が、一恵たちのほうを見るー
虚ろな、目ー
一恵はゾクっと、恐怖感を覚えたー
望海の話が本当なら、
一恵は幽霊に乗り移られていることになるー
あんまり「きもい」だとかそういうことを言っているとー
一恵が狙われることになるかもしれない
「そ、、そうね…」
一恵は”あんまりそういうこと言わないほうがいいよ”と
言ってきた友達に対してそう返事をすると、
冷や汗をかきながら座席の方に戻っていったー
望海はそんな様子を見ながら笑みを浮かべるー
「---」
そして、咲子のほうを見る。
咲子がどうしてあんな風になってしまったのかは知らないー
でもーーー
今の状況は望海の思い通りー。
普段から真面目にやっている望海の言葉はー
”誰もが信じる”のだー。
”望海ちゃんが嘘をつくはずがない”
とー。
「---」
望海は笑みを浮かべるー。
「--ばいばい、咲子ー」
”わたしの勝ち”
咲子がああなってしまったのには、おそらく理由があるー。
家庭で何かトラブルがあったのだろう、と望海は推測しているー。
と、いうのも以前、咲子が
「うちの家庭は複雑で…」と、望海に漏らしたことがあったからだー。
きっと、家庭で大きな事件があって、
塞ぎこんでしまったのだろうー。
けれどー
咲子は芯の強い子だからー
きっと、周囲が心配して声を掛ければいずれ立ち直ってしまうー
だからー
そうなる前に”壊した”
今ではすっかり
”悪霊に乗り移られた不気味な女”扱いで
誰も話しかけようとしないし
避けられているー
全ては、望海の思い通りー。
咲子がおかしくなった本当に理由なんて、
どうでもいいー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---」
望海が部活を終えるー。
2学期に入り、もうすぐ引退する予定の部長に
笑顔を振りまく望海ー
”--人間なんて、ちょろいもん”
望海は、内心でそう思いながら後輩にも良い顔を振りまき、
部室を後にするー。
「---!」
薄暗くなった校舎ー
背後から足音が聞こえたー
望海が振り返るとー
そこには、咲子がいたー。
「--ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ」
相変わらず物凄い小声で呟いている咲子ー。
「----」
望海が咲子を見て表情を歪める。
「----咲子ちゃん」
望海は笑みを浮かべながら咲子に近づいていくー
内心では”キモイ”と咲子のことを
蔑みながらー。
「---ぶつぶつぶつぶつぶつ」
何かを呟いている咲子ー
「---……聞こえないんだけど」
望海は、ニコニコしながらうんざりした様子で言うー
どうせ、何か文句を言っているんでしょ?と
思いながら望海は
”精神的におかしくなっちゃった子の相手って疲れるなぁ”と、
耳を咲子の口元に近づけるー。
そしてー
ようやく聞こえたー
咲子がぶつぶつぶつぶつと何を言っていたのかー
「----!!」
望海の顔から笑顔が消えたー
”たすけてたすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけて”
「---えっ」
望海が咲子から咄嗟に少し距離を取るー
「ぶつぶつぶつぶつぶつ」
咲子が呟きながら歩いていくー。
「---あ……」
望海が、唖然としていると、咲子はそのまま立ち去って行ってしまったー
「--な、、な、、、なんなの…?」
望海は、”気味悪い”と思いながら
咲子の後ろ姿を見つめたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからも、咲子はぶつぶつと呟いている日々が続くー
”たすけて”とずっと
呟き続けているのだろうかー。
だがー
”異変”は起きたー
「-ーねぇねぇ…”咲子”が、昼休みに話があるって」
気の強い女子・一恵が望海のところにやってくるー
「え…?」
望海は首を傾げたー
咲子からの呼び出しー?
いったい、なにー?
とー。
咲子の姿が朝から教室に見当たらないー。
授業にも出てこないー
不気味に感じながらも、
望海は、咲子に呼び出された空き教室へと向かったー
そこではーーー
咲子が机の上に座ってー
両手で胸を揉んでいたー
「--え…」
望海が、困惑するー
咲子はニヤリと笑ったー
「よぉ~~~~~!
ようやく”乗っ取り”が完了したぜぇ~」
とー。
「-!?」
望海は、表情を歪めたー。
「--へへへ、驚くなって、
今までこの女が、廃人みたいな状態だったのは
”俺が身体を乗っ取ってる最中”だったからだよー
身体も記憶も全部受け継ぐために、
すこ~しずつ、この女に浸透させていたんだ。
俺の魂をな。
でも、しぶとい女でさぁ~
最後に自我が消えるまでずーっと
「たすけてたすけて」って呟き続けてたんだよ。
虚ろな意識で、な」
咲子はそう言うと、嬉しそうに胸を揉む手に力を込めたー
「え…な、、何言ってるの?」
望海が震えながら言うー。
「--お前、すげぇじゃん!
嘘から出たまことってやつ?
この女が悪霊に憑依されたってやつ、
正解だぜ!」
咲子がげらげら笑いながら言ったー。
「え…う、、、う、、嘘…?」
望海が戸惑うー。
「---へへへへへへへ!
ほぅら見ろよ!この女がこんなことするかぁぁ~???」
咲子が胸を触ったり
スカートに手を突っ込んで、甘い声を出したりしているー。
望海は震えながら後ずさるー
「お~っと、逃がさねぇぜ…」
咲子が近づいてきて、望海に壁ドンをするー。
震える望海ー
「--俺さぁ、勘のいい女、好きなんだよなぁぁ」
咲子が笑うー。
咲子の表情はとても生き生きとしているー。
「せっかく時間をかけて、この女を乗っ取ったけどさ、
気が変わった」
咲子がニヤァ、と笑うー
「--俺、お前の身体にするわ」
とー。
「--!?!?」
望海が悲鳴を上げるー。
黒い煙が咲子から吹き出して、
”抜け殻”になった咲子が倒れるー。
そしてーーー
望海に黒い煙が向かってくるー
「ひっ…!?ひっ!?!?!?」
望海は、悲鳴をあげることすらできなくなってしまったー
この世のものとは思えないー
あまりにも恐ろしい恐怖を目の当たりにしてー
もはや、悲鳴すら出なかったー
「---……あぐっ…あ…」
”お前の自我が消えるまで、また時間はかかると思うケドさぁ、
それでも、お前の身体が欲しくなっちまったぜ!へへへへへへ”
悪霊が、身体を完全に乗っ取るまで、
ある程度時間がかかるー
その間は、悪霊が身体を完全に支配することも出来ずー
茫然とした、抜け殻のような状態がしばらく続くー
「----…たすけて…たすけて…」
望海が目から涙をこぼしながら歩きだすー
咲子と同じようにーーーー
「ぶつぶつぶつぶつ」
小声で何かを呟く望海ー
虚ろな目で、生気を失った望海ー
望海は、ゆっくり、ゆっくりと、空き教室から外に出てー
ふらふらと歩き出したー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1週間後ー
「ねぇねぇ、望海も、最近、おかしくない?」
一恵が呟くー
他の女子生徒がうなずくー
「ぶつぶつぶつぶつぶつ」
咲子のようにー
幽霊のように髪をボサボサにして、
”助けて”と小声でつぶやき続ける望海ー
望海の肉体も精神も、この間に
徐々に侵食されているー
完全なる支配は、近いー
咲子の精神は、既に、悪霊に憑依されて
完全に消滅したあとだったためー
”抜け殻”になってしまったー
悪霊が咲子から望海に移動した日ー
空き教室に倒れていた咲子を先生たちが発見ー
病院に搬送されたがー
”身体は健康なのに、意識が戻らない”
という状態が続いているー
”望海も、悪霊に憑りつかれちゃったんじゃないの?”
そんな噂がー
学校中に広まり始めたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
しばらくすれば、悪霊が望海を完全に乗っ取り終えるので
また望海ちゃんが急に元気になって、
周囲がさらに困惑する未来が見えますネ~!
お読み下さりありがとうございました!!
コメント
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大抵の話は本人が何がなんだかわかんない内に一瞬で乗っ取られる話が多いので、乗っ取られて自分が消されていく恐怖をじわじわとあじあわせる、こういう憑依は新鮮でいいですね。すごく好みです。
望海は性格最低なので因果応報な感じだけど、自我消された上に体をポイ捨てされちゃった咲子が気の毒すぎです。
それにしてもこの話、また感の鋭い娘がいたらそっちを乗っ取るという無限ループになりそうな気がしますね。
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コメントありがとうございます!
確かに、また勘の鋭い子とか、より好みな子が見つかったら
移動しちゃいそうですネ…!
咲子は…
災難まみれでした…!!