銀行強盗に憑依された少女ー。
少女は”強盗”でありながら”人質”として
警察や人質を翻弄するー。
事件の結末は…?
---------------—-
「---ーーー」
銀行の扉がノックされるー。
銀行強盗に憑依されている女子高生・紗友里は
笑みを浮かべながら扉を開くー
「入れ」
紗友里が低い声で、威圧するように言うー。
入ってきたのは、若手刑事の釜井。
「----」
釜井が指示された食事を運んで来たのだー。
「-ー酒とたばこも貰おうか」
紗友里が言う。
釜井は紗友里を見つめながら
「その子は高校生だろう?…酒とたばこなんて…」と
反論の言葉を口にしたー
だがー
「うるせぇ!この女はおれのものなんだよ!
自分の身体でどうしようが、勝手だろうが!」
紗友里が鬼のような形相で叫ぶー。
釜井は、紗友里という少女が、本気で乗っ取られていることを確信して、
困惑するー
人質たちが怯えているのを確認する釜井ー。
「--人質を、解放しろ」
釜井の言葉に、紗友里は「嫌だね」と笑みを浮かべるー。
「---」
釜井が、床に倒れている三人を確認するー
貝塚支店長は、既に死んでいるー
男性銀行員の鹿島は、まだ生きているようだが、かなり苦しそうだー
そして、先輩刑事の義明も、苦しそうに座り込んでいるー。
「---達本さん!」
先輩刑事の名前を呼ぶ釜井ー
「--俺はいい、、人質を…救出しろ!」
と、苦しそうに義明が叫ぶー。
釜井は困惑しながらも、頷くー
泣きじゃくる子供ー
「-うっせぇって言ってんだろ!!!!ぶっ殺すぞ!」
紗友里が、女子高生とは思えない口調で叫ぶー。
人質の子連れ親子の母親が泣きながら謝罪の言葉を口にするー。
紗友里はイラついた様子で酒を飲み、たばこを口にするー。
負傷した義明は、そんな様子を見ながら
拳を震わせたー。
自分にも、同じぐらいの年齢の娘がいるー。
もし、自分の娘があんなことをさせられていたらー。
「---おい」
紗友里が言う。
「-マスコミとか、そういうやつらは集まったか?」
紗友里の言葉に、釜井は「---外にはたくさんいる」と返事をする。
「--へへ、そうか」
紗友里はニヤリと笑みを浮かべるとー
「”憑依”の素晴らしさを伝えるショーをそろそろ始めるかな」と
凶悪な笑みを浮かべながら呟いたー。
そしてー
「---!」
紗友里が釜井に銃を向けーー
釜井が身構えると同時に、紗友里は釜井に銃を放ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「----食事を運んだ釜井が負傷しました」
狙撃犯を指揮する刑事・山松(やままつ)が、本部に連絡をするー。
「それと”憑依の素晴らしさを広める”などと言っていて
報道陣を銀行の周辺に集めるよう、要求してきました」
山松の言葉に、本部は困惑していたー。
本部には、上梨警視正という警察幹部がやってきていたー。
警視正自らが現場の指揮をする、というのは
珍しいことだったがー
”ある理由”があったー
それはー”憑依”
「---憑依薬の存在を、表に出すことはできぬ」
”警視総監”の言葉ー。
上梨警視正も、その上にいる警視総監も
”憑依薬”の存在はかねてから知っていたー
裏社会のごく一部で出回っている
悪魔のような薬だ。
それが世間一般に知られれば、
大問題になるー。
”最悪の場合ー”
警視総監は、上梨警視正にそう伝えたー
”最悪の場合ーーー
犠牲者を出してでもーー
警察が批判されることになっても、
憑依薬の存在は隠せ”
とー。
上梨警視正は、本部から現場に向かって呟いたー
”突入の準備を”
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--ひゃはははははははは!
ひゃはははははははははは!」
銀行内に紗友里の狂った笑い声が響き渡るー。
「どうだ?!?さっきまで普通の女子高生だった俺、
いいや、わたしが、何人も何人も撃ってる!
たまんねぇよなぁああああああ!
あ~~ははははははははははっ!」
狂ったように笑う紗友里ー
撃たれた釜井は、うつぶせに倒れたままー。
「--もうやめて!」
女性銀行員の美空が叫ぶー。
「--その子の身体を返してあげて!」
美空の言葉に、紗友里は「あん???」と不愉快そうな
表情を浮かべたがー
すぐに美空を見てほほ笑んだー。
「-ふ~ん、意外と美人さんじゃん。
その割に、威勢もいいなぁ」
紗友里が美空の方に近づいてきて
美空を下心丸出しの表情で見つめるー
「へへへ、おっぱいもでかいじゃん」
紗友里が美空の胸を触りながら笑うー
カッとなった美空は思わず紗友里の頬をビンタしたー
周囲の人質が困惑するー
「---くひ、、くひひひひ、気の強い女はすきだぜぇ」
紗友里が唇を舐めながら笑うー
そしてー
パァン!パァン!パァン!
銃声が3発響き渡ったー
人質のおじいさんとー、
人質のサラリーマン風の男ー
そして、おばさんが、それぞれ悲鳴を上げて倒れるー
「え…」
美空が目に涙を浮かべながら紗友里を見つめるー
「--わりぃ、急にビンタされたからムカついて
三人ぶっ殺しちまった!」
紗友里がげらげら笑いながら言うー。
「---ひ、、、」
美空が震えて、声も出なくなってしまうー
この男はーー
狂っているー
「----貴様ぁ!!!!!!」
怒鳴り声が響いたー
いつの間にか、最初に銀行に入ってきた刑事・義明が、
銀行強盗の男の身体の目の前に立っていたー。
紗友里に憑依したことで”抜け殻”となった男の身体の目の前にー
「---なんのつもりだ?」
紗友里が笑うー。
「--今すぐその子を開放しろー。
で、ないと…お前の身体をーー」
義明は、銀行強盗の男の身体の頭に足を乗せるー
「ぶっ壊す!」
義明は叫んだー。
「---へぇ」
紗友里はニヤニヤと笑うとーー
自分の頭に銃を突きつけたー
「--やれるもんならやってみなー。
でも、お前がそうしたら、この娘の頭は
吹っ飛んじまうなぁ?」
紗友里が笑いながら言うー。
義明は「くっ」と表情を歪めるー。
銀行強盗の男の本体を、仮に”始末”すればー
男に憑依されている少女はどうなるのだろうか。
義明は考えるー
もし、憑依された紗友里が、自分の頭に銃を撃ってしまう前に、
銀行強盗の男の身体の息の根を止めることができればー
もしかしたらーーー
「----やめろ。俺は本気だぞ」
義明が紗友里を睨むー。
紗友里の姿が、娘と重なるー。
絶対に、助けるー。
「----……」
紗友里が義明を睨むー。
”自分の身体”が殺されてしまったらーーー
「-----」
紗友里は少しだけ天井を見上げると、
笑みを浮かべたーーー
「---------」
紗友里が銃を義明の方に構えたー
義明は、咄嗟に身体をこわばらせると同時にーーー
紗友里の方に向かって、突進したー
銃声が響き渡るー
紗友里をとにかく無力化して拘束しようと
必死に格闘技を叩きつける義明ー
紗友里が悲鳴を上げて、銃を落とすー
義明が銃を蹴り飛ばして
紗友里の手の届かないところに転がすと、
紗友里の腕を傷めつけてー
そして、紗友里を無力化することに成功したーーー
「---!」
だがーー
紗友里は白目を剥いて、泡を吹いていたー
「--!?」
義明が”なんだこれは”と思った直後ー
パァン!!
銃声が響いたー
「----!」
義明は、自分の胸にぽっかりと穴が開いているのに気づくー
「-----え」
義明が、驚いて、視線を銃が放たれた方向に向けるとー
そこにはー
女性銀行員の美空が、凶悪な笑みを浮かべて立っていたー
紗友里が落とした銃を美空が拾ってー
義明を撃ったのだー
「な、、、、ぜ」
義明が苦しそうに呟くー。
「---”身体を乗り換えたのさ” ひゃはははははは!」
美空が、泡を吹きながら痙攣している紗友里を見つめるー
「この女の胸、でかくて最高だなぁ!ぎゃはははははは!」
美空が胸を揉みながら笑うー
「-------」
義明は、身体から力が抜けていくのを感じたー
”こんなところで…”
そう思いながらー
義明が最後に考えたのは
妻と娘のことだったー
動かなくなった義明を見て、美空がげらげらと笑うー
子供の泣き声が響き渡るー
「うっせぇ!」
美空はそう言うと、
急にビクンと震えて、ふらふらよろめいて、そのまま壁に激突ー
気を失うー
そしてーーー
泣きじゃくる子供の母親がビクンと震えてー
笑みを浮かべたー
「うるせぇって、さっきから言ってんだろうがよ」
母親がそう呟くとー
子供の鼻と口をふさぐー
周囲の人質が「ちょっと!」と叫ぶー
だが、母親は止まらないー
何故なら、銀行強盗の男に憑依されているからーーー
「ひひひひひひひ!うるせぇんだよ、このクソガキがよぉぉぉぉぉぉぉぉ」
完全に”狂った母親”と化した母親ー
「うっ、、、、か、、、あっ…」
憑依されていた女性銀行員の美空は、苦しそうに白目を剥いて痙攣を起こしているー
周囲が憑依された母親を止めようとするー。
その時だったー
「--動くな!」
警察の特殊部隊が突入してきたー
「--あん?」
母親が狂暴な表情で警察たちを見るー
「--へへへへへ!
突入なんざしたらどうなるかわかってんのか?」
母親が笑みを浮かべるー。
「--わたしぃ~人質でありながら強盗なの!ふふふふふ」
母親は銃を拾って自分に突きつけるー。
「--ほら!ほら!全員、武器を捨てなさい?
そうしないと、わたし、死んじゃいますよぉぉぉぉぉぉぉ????」
特殊部隊が戸惑うー。
”へへへへ…
お前らに勝ち目なんざねぇよ!
これは、凶悪犯罪ゲームだ!
くくく…”
銀行強盗の男はー
金目的ではないー
恨み目的でもないー
ただー
憑依で楽しみたいー
それだけだー
ただーーー
楽しみたいーーー
極限のスリルをー
翻弄される
バカどもをーーー
「---ほら!銃を捨てて、わたしに、俺に跪け!!
うはっ!ははははははっ!」
母親の笑い声が響き渡る銀行ー
”この特殊部隊どもを追い払ったら
窓を全て解放してー
マスコミどもに見せつけてやるー
憑依の素晴らしさをー”
銀行強盗の男が笑うー
再び紗友里を乗っ取って、全裸になって
マスコミたちの前に姿を現してやるー
憑依が世間に知れ渡ったらー
世間は大混乱を起こすだろうー。
”乗っ取られた女子高生が銀行強盗の意のままにされている光景”が
全国区で放送されるのだー
「--ほら!!!!!!武器を捨てて俺の前に膝をつけーー!!!!
ほら、早くs
パァン
「---!?」
母親が目を見開くー
「------え」
憑依されている母親は、驚いて間抜けな声を出したー。
そしてーー
状況を理解できないまま、
特殊部隊が発砲してーーー
母親はその場に倒れたー。
”あとは手筈通りに”
上梨警視正からの指示を受けた特殊部隊が
迅速に人質らを救出しようとするー
「----くへ、、、へへへへへへへへ…こいつは驚いたぁ」
泡を吹いて倒れていた紗友里が起き上がるー
最初に乗っ取られていたJKだー。
「---!」
特殊部隊の人間たちが驚くー。
「---…へへへへ、まさか俺が乗っ取ってる身体ごと俺を殺そうとするなんてなぁぁぁぁ!!!
でも、残念でしたぁぁああああああああああああああ!」
紗友里が鬼のような形相で叫ぶー。
「--身体が死んでもぉぉぉぉぉ!
俺は死なねぇえええええええええ!!!!」
紗友里が大声で叫ぶー。
特殊部隊員は困惑し、
人質は悲鳴を上げているー。
だがー
次の瞬間ーーーーー
カッ!
ーー銀行が爆発を起こしたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--緊急報道ですー
立てこもり事件が起きていた銀行で先ほど大きな爆発がありましたー
現場は騒然としており
多くの被害者が出ている模様ですー」
報道陣が、炎上した銀行の周りに集まっているー
人質、突入した特殊部隊や警官、そして犯人の安否は不明ー。
「---犯人が、爆弾を使ったものと思われます」
上梨警視正が記者会見を行うー
やがて、被害状況が明らかになりー
犯人は死亡ー
人質も死亡ー
突入した特殊部隊も
警察官の達本義明や、若手刑事の釜井も死亡ー。
銀行の中にいた人間は、”全滅”してしまったー。
「--突入の対応は、適切だったのでしょうか?」
報道陣が、記者会見で上梨警視正に詰め寄るー。
「--あの段階で、犯人が、爆弾を持っていたことを確認できずー
突入の対応は間違ってはいなかったとーーー」
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ーーーーーーーーーー
「--ご苦労だったね」
警視総監が、上梨警視正の肩を叩くー。
”憑依薬”を表に出すわけにはいかないー
あの時、特殊部隊隊員のひとりに、密かに爆弾を持たせていたー。
本人には、目的を伝えていなかったが
それを遠隔操作で上梨警視正が爆発させたー。
爆発を犯人の持ち込んでいた爆弾によるもの、と世間には伝えー
”憑依”を行った犯人
”憑依”された被害者
”憑依”を目の当たりにした目撃者
”憑依”を解決させようとした人間
全てを
”処分”したー。
「--憑依を明るみに出すわけにはいかぬ。
これは、必要な犠牲だー」
警視総監の言葉に、
上梨警視正は頭をあげたー。
”令和最悪の強盗事件”
後にそう語り継がれることになる事件の、
”真相”は
永遠に闇に葬られたのだったー。
多くの人々の、背負う者を
燃やし尽くしてー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
救いのない恐ろしいダークエンドでした…!
ちなみに、
登場した警察官の一部は、私の前の作品にも
出ていたことがあって、家族も登場していた警察官だったりします~(笑)
お読み下さりありがとうございました!!
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