<憑依>オンライン憑依ゲーム②~闇~(完)

徹底的にリアリティを追求した
オンラインのVR RPGゲーム
「ラグナロク・ファンタジー」。

その裏に隠された秘密とは…?

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「「--このゲームはVRを超えた
 V-TSF-R
 バーチャルリアリティとTSFの融合だー」

プロデューサーの男は、そう語るー

ラグナロクファンタジーの世界はーーー
”現実世界”
VRなどではないー。

株式会社エンドオブゲームズの
巨大施設の中に作られた
”疑似空間”
「ラグナロク・ワールド」
そこが、ラグナロクファンタジーの舞台ー。

そしてー
VR機器として発売している
フルフェイスヘルメットはVR機器などではないー。

使用者の魂を幽体離脱させ、
ラグナロクワールドに用意した身体に憑依させているー

つまり”転送装置”-。
起動すると瞬時に使用者の魂を、
ラグナロクワールドに用意した身体に憑依させー
RPGゲームの世界に誘っているー

ヒミツをペラペラとスタッフの男としゃべる
プロデューサーの男ー。

志郎は震えながら物影から
その会話を聞いていたー。

「---この世界の”身体”は
 全部現実世界の”人間”だとは、誰も思わないだろうな」

プロデューサーの男が言うと、
スタッフの男がケラケラと笑いながら
”ええ、そうでしょうね”と呟くー。

「--ラグナロクファンタジーの”身体”は全て生身の人間」

プロデューサーは笑ったー

”犯罪者”
”病気で余命わずかのモノ”
”国にとって都合の悪い人間”
”戸籍を持たないモノ”
”借金などを返済できずに”売られた”身体”
”裏社会の人間”

それらが、ラグナロクファンタジー用の身体として
裏ルートから流れているー。

そして、それらを
”プレイヤーキャラクター用の身体”として一部は保管し、
残りは”NPC”として、使うー。

「---…!」
志郎は震えたー

”このシスターの身体も…
 現実に存在する誰かの身体ってこと‥・?”

志郎は、この世界では、シスター・アリサとして
ゲームをプレイしているー

てっきり、アバターのようなものだと思っていた。

だが、現実は違う。

アリサの身体は”実在する誰かの身体”

そしてー、
志郎は、VR機器だと思っていたフルフェイスヘルメットにより
幽体離脱し、この女性の身体に憑依していたのだー

”だからーーー”
志郎の震えは止まらない

ラグナロク・ファンタジーの
”異様”なまでのリアリティはーー
ここが、仮想空間などではなくー
現実だからー。

現実の身体だから、
イクこともできるし、出産することもできるしー
痛みも感じるしー
死んでしまったプレイヤーキャラクターは、蘇生できないー

志郎自身も、巫女・ナナとしてプレイしていたが
魔物に襲われて死亡したためー
今はアリサと名前を変えて、シスターとしてプレイしているー

「---ナナとしてゲームを再開できないのはーー
 ”本当に人が死んだから”」

志郎は、恐怖を覚えるー。

志郎は、”ナナ”に憑依していただけで、
ゲームオーバーになると再び幽体離脱して
元の身体に戻るようになっていたから、死なないー

しかしー

「女王エルベスが、借金を返済できずにここに連れてこられた
 かわいそうな娘だとは、誰も知らないだろうなぁ」
プロデューサーがたばこを吸いながら笑うー。

女王エルベスとは
魔物を率いる悪の女王だー。

いかにも”悪女”というスタイルの女ー。

「---石浜 千香(いしはま ちか)-
 かわいそうにー」

”女王エルベス”役をさせられている女子大生の顔写真が
ホワイトボードに貼られるー。

「さて、”新キャラ”を作るか」
プロデューサーは、そう言うと
「へい」と、スタッフの男が頷いたー

口をぽかんと開けて、うつろな目の保美ー。

志郎の大学の同級生の保美に
謎のヘルメットが装着されるー。

「この保美という女に付きまとう男がいたというのは本当だな?」
プロデューサーが確認すると
スタッフが「えぇ。同級生プレイヤーがいたようで」と頷いたー

「そうか。ならば”作り替えよう”
 素顔が見えないー
 そうだなー、覆面の女騎士を作るか」

「NPCを作る方法は簡単だー」

プロデューサーの男が笑うー。

「プログラミングを”憑依”させるー」

保美に装着されたヘルメットから伸びる
ケーブルがパソコンに装着されているー

「新キャラクター
 魔王軍の女覆面騎士・ベルベラー」

プログラムが表示される。

実装予定の新キャラ”ベルベラ”-の
性格や、振る舞いなどがプログラミングされたデータだ。

「これをーーーー!
 この女に”書き込むー”」

ヘルメットのスイッチが起動しー、
保美の身体が「うっ♡ あ、、、」と変な声を出しながら、
震えているー

志郎は助けに入ろうと思ったー
だが、怖くて、身体が動かなかったー。

「我々はこれを”プログラミングを憑依させる”-
 ”プログラミング憑依”と呼んでいる」
プロデューサーの男が叫ぶー

「----」
保美が静かに立ち上がる。

「--お前の名は」
プロデューサーが保美に聞くー

「--わたしは、ベルベラー」
保美が呟く。

「そう。お前はベルベラだ。
 これが、お前の衣装だー」

プロデューサーはそう呟くと、
保美は色っぽく足と胸元を晒しー
顔を覆面で隠した服を身に着けたーー

「-新キャラ、ベルベラの実装だ。
 早速、公式ツイッターで新キャラを紹介しろ!」

プロデューサーの言葉に、スタッフは「はっ!」と叫んだー

この世界のー
プレイヤーキャラクター用の身体も
NPCの身体も
全て”生身の人間ー”

プレイヤーは、プレイヤーキャラ用に用意された身体に
憑依しー
極限まで高められた”リアル”を感じることができるー。

そしてー
NPCはプログラミングを書き込むー
”プログラミング憑依”によってー
生み出すー

宿屋の人間から、盗賊までー
全て”生身の人間の身体”だー。

「---」
ベルベラとなった保美が歩き出すー。

「---ところでーーー
 もう一つーー、
 このゲームの”身体”として使う人間がいるんだがー
 どんな人間だか、分かるかね?」

プロデューサーの男が呟くー

「--?」
物影からプロデューサーとスタッフの会話を見ていた志郎が
首を傾げるー

「---ーーそこにいる君に聞いてるんだがね?」
プロデューサーの男がニヤリとして振り返ったー

「--!!!!!!!!!!!」
志郎は、この瞬間”死”を感じたー

ここで話を盗み聞きしていることがー
最初からバレていたのだー

いやー
そうと分かっていてプロデューサーの男は
わざと喋っていたのだー

志郎は咄嗟にそこから飛び出しー
ミスト平原へと逃げだすー

「あっ、、あっ、、、あっ、、、」

俺もーー
俺もNPCにされてしまうー?

志郎は慌ててメニューを開き
「ゲーム終了!」と叫んだー

ラグナロクファンタジーの舞台から脱出しー
自宅に舞い戻った志郎ー

ヘルメットを外し、
冷や汗をかいた状態で、はぁはぁ、と息をし続けるー

想像以上に、ヤバすぎる世界、だったー。

一緒にプレイしているグラードやバイオス、メリンも
このことは知らないだろうー

まさか、生身の人間の身体が使われているなんてー。

志郎は、その日以降、
ラグナロクファンタジーを遊ぶことはしなくなったー

ゲームの秘密を知ってしまい、
怖くなってしまったのだ。

これ以上ー
ラグナロクファンタジーに関われば、殺されるー

いやーーー
NPCにされてしまうー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから、1週間が経過するー

世間では、相変わらず
ラグナロクファンタジーが大人気だー

新キャラクターの”ベルベラ”が告知されるー

乗っ取られた保美の身体が使われているが
覆面で顔を隠しているため、
志郎以外の友人は、それが保美だと気づかないー。

「---……」
ベルベラの写真を見ながら震える志郎ー。

そんなある日ー。

♪~~~

自宅に、誰かがやってきたー

「はい」
志郎が応答すると、
”お届け物です”と来訪者は言ったー。

特に怪しいところもないー
志郎が、扉を開けるとーーー

プスッ

「-!」
志郎は、その瞬間ーーー
眠りについたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「-----……」

志郎が目を覚ます。

するとー
志郎はいつの間にか
ラグナロクファンタジーの世界にいたー

”え…!?俺、いつの間に、ログイン…???”

志郎は混乱するー

そして、もう一つ、異様なことに気づくー

自分が、勝手に動いているー?
自分のキャラクターが、勝手に、動いているー?

「-ーーここは墓場じゃ」
口が勝手に動くー

「--!?」
志郎は戸惑うー

え…???なに???

「ーーーあの」
ー!
聞き覚えのある声がしたー

志郎が振り返ろうとーーー
いや、志郎の身体が勝手に振り返るー。

そしてー

「---!」

そこにいたのは、グラードだった。
一緒にラグナロクファンタジーをプレイしていたプレイヤー。

リアルでどんな人なのかは知らないが、
ここ最近はずっと一緒にプレイしてきたー。

「---ここは墓場じゃ」
志郎が勝手にそう呟くー

”ど、、どういう…?おい、、グラード、、お、、俺だよ!”

心の中の叫びはーー
表には一切出て行かないー。

そして、グラードは、目の前にいる志郎が
一緒にプレイしていたシスター・アリサの中の人だとは
気づかない。

志郎は、アリサとして、ゲームをプレイしていたから、
志郎本来の姿など、誰も知らないのだ。

「ねぇねぇ、この先に何があるのぉ~?」
ギャルっぽい言動のメリンが、志郎に聞く。

「--ここは墓場じゃ」
志郎が答えるー

「あはははは!この墓守、台詞1種類しか用意
 されてないみたい~!」

メリンがグラードの方を見て笑うー

グラードは苦笑いしながら
「NPCはそういうキャラも多いだろ」と呟くー

”違う!グラード!俺はNPCじゃない…!助けてくれ!”
志郎が心の中で叫ぶー

この世界のNPCは、
全部”生身の人間の身体”-

プロデューサーらに、プログラムを憑依させられて
意のままに操られてるー

そしてー
今、グラードやメリンと名乗るプレイヤーたちが使っている
プレイヤーキャラクターも、
”現実の誰かの身体”だー

”助けてくれ!!なぁ!!”

「--お!」
他のプレイヤーが、志郎に話しかける。

「--ここは墓場じゃ」
志郎が答えるー

ここは墓場じゃー
ここは墓場じゃー

ここは墓場じゃー

新マップの「墓場」の入口を徘徊し、
やってきたプレイヤーに
”ここは墓場じゃ”と言うだけのキャラー。

志郎は思うー

”保美も、他のNPCも、みんな…
 俺みたいにこうやって、意識はあるのに…
 何もできなくて…?”

悪の女王エルベスもそうかもしれないー
普通の少女が、乗っ取られて、その”役”をやらされているー

ラグナロクファンタジーは、悪魔のようなゲームだー
現実の人間の身体を回収しー
それを使って、”リアリティな世界”を作っているー

やばいー
やばすぎるー

なんとかしないとー

「おい」
背後から声がしたー

志郎の身体が勝手に振り返る。

「ここは墓場じゃー」
志郎が勝手に答えてしまうー。

「---お前の、な」
男は笑ったー

志郎はその男に見覚えがあったー

”プロデューサー”だー。

「--新キャラ”墓守A”として、
 お前はそこでずーっと、墓の案内をするんだ」
プロデューサーが笑うー

”事実”に気付いたやつには
”ゲームキャラ”になってもらうー

それだけのことー

「--ククク、どうだ?志郎よ。
 墓守Aとして生まれ変わった気分は?」

「--ここは墓場じゃ」
志郎は、それ以外にはもう喋れない

”お、、おい!!俺を…俺を元に戻せ!”
志郎は心の中で叫ぶー

他の冒険者がやってきて志郎に話しかける

「ここは墓場じゃー」

志郎は、悲鳴を上げるー

やがてーー
志郎は、何も考えられなくなってー
墓守Aとして、冒険者たちに「ここは墓場じゃー」と
無心で伝え続けるのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

ここは墓場じゃ

コメント

  1. 龍禍 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    幽体離脱させて別世界に憑依させるのすごい好き

    最後のNPC化も何か好きだなぁ

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コメントありがとうございます~~!

    NPCになっちゃいました~!笑