娘たちを取り戻すことはできるのかー。
大事な娘はいただいたー?
ふざけるなー。
大事な家族は取り戻して見せるー。
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「---」
敏夫は、生まれて初めてとも言える速度で全力疾走するー
バイクに跨ったラバースーツの女を追いかけるー。
信号で止まっている女のバイクめがけてー
敏夫がとびかかろうとするー。
だが、女は、直前でバイクを発進させたー
信号無視をしてーー
そのままー
「--あれが…”D”なのか…?」
敏夫が呟くー
娘・美菜を”皮”にしていた
邪太郎は”元に戻す方法を知らない”と
確かにそう言ったー
そして、人を皮にする力を
”D”なる人物から手に入れたー
とー。
「---」
”D”と思われる女を思い出すー
若い女だったー
そんな、”闇”を担うようなことができる容姿には思えないー
それに、”どこかで”見たことがあるような気がするー。
「俺だー」
敏夫は電話を掛けるー。
協力してくれている親友の耕作が電話に出るー
状況を報告する敏夫ー。
”わかったー”
耕作はそう答えるー。
”俺は、例の若いのと一緒に”D”について調べてみるー”
耕作の言葉に、
敏夫は「頼む」とだけ告げて、電話を切るー。
アパートに戻った敏夫は
唖然としている息子の昭俊に「大丈夫だったか?」と声を掛けるー。
「--ああ」
昭俊は、気丈に返事をしたー
美菜の皮ー
晴子の皮ー
二人は、虚ろな言葉を時々発するだけでー
今にも意識が消えてしまいそうだー
そしてー
「おい!」
敏夫は、皮にされた邪太郎を掴むー
だが、邪太郎は、もう
”完全に皮”になっていてー
意識を感じなかったー。
返事を貰うことは、もう、できなかったー
「----」
敏夫は、邪太郎の皮から手を離すと、
昭俊の方を見たー
「---すまん 昭俊…」
敏夫は決意の表情で昭俊を見つめるー
「--ここは、頼めるか?」
敏夫の強い決意を前に、昭俊は「わかった」と答えて頷くー
皮にされてしまった
娘の美菜-、妻の晴子ー
その二人を息子の昭俊に託し、
敏夫はすべてに決着をつけに行くー。
「--必ず、二人を助ける方法を聞き出して、
戻って来る」
敏夫の言葉に、
昭俊は頷くと
「必ず戻って来いよ 父さん!」と力強く言葉を掛けたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
四国を後にしてー
林吾に電話を入れる敏夫ー
「--そっちは変わったことはないか?」
敏夫が聞くと、
林吾は”ええ”と答えたー
敏夫の親友・耕作から話は聞いた林吾は
”Dについての重要な情報が分かりました”と、
電話口で呟いたー
「Dー」
娘・美菜を皮にした男、邪太郎に”皮にする力”を提供した人物ー
邪太郎の口封じに来たラバースーツの女が、
その”D”であるかどうかは、まだ分からないが、
確実に”黒幕”に近づいているー
そんな、感じはしたー。
”D”とは誰なのかー
まだ見ぬ黒幕”D”
謎のラバースーツの女ー
そして、青年・林吾の彼女を皮にした男ー。
全てのピースが、ひとつになる
その時は、近づいていたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
耕作のアパートに戻ってきた敏夫は、
耕作の部屋に入るー
だがー
部屋に入ると、敏夫はすぐに”異変”に気付いたー
「え……」
敏夫は警戒しながら「耕作…?いるか?」と声を出すー。
だが、耕作も、彼女を皮にされた青年・林吾の気配もないー。
そしてーーー
恐る恐る奥に進むとー
「--!?!?!?!?!?」
耕作と林吾が”皮”にされていたー。
そして、背後からーーー
”女”が、敏夫に襲い掛かってきたー
「おらぁ!」
女が乱暴な口調で蹴りを加えて来るー
四国で、邪太郎を始末しにきたラバースーツの女だー
髪を振り乱しながら乱暴に襲い掛かって来る女をー
敏夫は投げ飛ばすー
そしてー
女が「ぐぇぇ!」と声をあげるー。
敏夫が叫ぶー
「お前が”D”か!?
お前が、耕作たちを皮にしたのか!?」
敏夫の言葉に
女は狂ったように笑いだしたー
その顔を見つめるー
ふと、敏夫は、皮にされた林吾を見るー
この女ーーー
”林吾の彼女ー”
彼女を皮にされた青年・林吾の彼女ー
ラバースーツの女は、
林吾の彼女だったー
「---お、、お前は…誰だ!?」
もちろんー
相手が林吾の彼女本人ではないことは分かっているー
娘・美菜がそうされたように、
誰かが、この女を”着ているー”
パキッ
なんとも言えない、いやな音が響き渡るー。
そして、皮が抉れてー
中からー”男”が姿を現したー
顔に傷のある不気味な風貌の男ー
この男がー
林吾の彼女を皮にした、男ー?
「---はじめまして」
男が、紳士的な声で呟いたー
「--私が、”D”ですー」
とー。
「なに?」
敏夫が表情を歪めるー。
紳士的な男は笑みを浮かべたー
「あなたがお探しの”D”は、私です。
私が”人を皮にする”ための薬を作ったのですよ」
林吾が座っていたイスに座り、
足を組んで笑う”D”-
「なっ…、、き、、貴様…!」
敏夫が、周囲を見渡すー
親友の耕作も、
彼女を皮にされた青年・林吾もー
そして、林吾の彼女も皮となって、横たわっているー
耕作だけは「う…あ…」とたまに声を出しているが、
林吾とその彼女の皮は、全く生気を感じず、
完全に”皮”になってしまっているー
「--あなたが、その青年の3年前のツイートを見つけて
連絡してきたときには驚きましたよ」
”D”が笑うー
「なんだって?」
敏夫が”D”を睨むー
「気づきませんでしたか?
あなたと会ったときー
いいえ、あなたがツイッターで連絡してきたとき、
その林吾という青年は、既に私が中に入っていたのですよ」
”D”は笑うー
「---…まさか」
敏夫の言葉に、”D”は頷くー
「あなたが林吾だと思ってしゃべっていた青年は、全部私ですー
私が、そこの林吾の皮をかぶり、喋っていただけの過ぎない」
”D”は笑みを浮かべたー
「私はね…”人を皮にする力”を、ここ数年ー
その林吾という青年の皮と、彼女の皮を交互に着て、
売りさばいていたのですよ」
”D”は笑ったー。
「----」
敏夫は”D”を無言で睨みつけているー
3年前ー
”D”は、人を皮にする力を、ある男に売りつけたー
是澤 幸彦(せざわ ゆきひこ)という男だー。
敏夫の家族を皮にした邪太郎と同じように
”D”から皮の力を買った男ー。
そして、幸彦は、林吾の彼女を皮にして乗っ取ったー。
それが、3年前、林吾本人が
”彼女が皮にされた”とツイートした時の出来事ー
だが、
その是澤幸彦は、林吾に追い詰められて
”D”のことや、皮のことを洗いざらい話してしまったー。
そして、林吾は是澤幸彦を引きずって、警察に皮のことを
知らせようとしたー
だからーーー
是澤幸彦ごと”全員”始末したー
”D”は、是澤幸彦を皮にして焼却処分、
さらには、林吾を皮にし、既に是澤幸彦に皮にされていた
林吾の彼女共々、自分が利用することにしたー
林吾と、林吾の彼女の皮を巧みに着こなしー
各地で、皮にする力を売りさばいたりー
林吾の彼女の身体を使って、男たちから金を稼いだりして、
ここ数年は活動していたのだー
「---……くそっ……最初から、お前はー」
敏夫が呟くー
敏夫がツイッターで連絡を取ったときには
既に、林吾と言う青年は、林吾ではなく
Dに皮にされて着こまれていた林吾だったのだー。
「--すごいでしょう?」
”D”が林吾の彼女の皮を着て、
再びラバースーツの女の姿になると笑みを浮かべたー
「”皮”の力があれば、誰にだってなれるー」
女が笑うー。
「---例えばここで、お前をぶち殺してもー
”この女”が手を汚すんだー。
どこかでこの女の皮を脱ぎ捨てればー
私は何の罪にも問われないー」
”D”が林吾の彼女の姿で笑うー
敏夫は咄嗟に動いたー。
”D”の顔面を殴りつけたのだー。
こういう”サイコパス”には何を言っても通じないー
少しでも躊躇したり、少しでも狼狽えるようなそぶりを見せればー
やられるー。
だからー動いたー
「ぐあっ!?」
女の悲鳴が響き渡るー
「、、き、、急に乱暴な…!女を殴るなんt」
言葉の途中で、Dはさらに殴り飛ばされるー
「--俺は、たとえ俺が逮捕されてでも、
家族を助ける覚悟でここにきているー
俺にそんなくだらん戯言が通用すると思うな」
敏夫が、林吾の彼女の姿をした”D”の胸倉をつかむー。
「--他に何人に”皮”の力を売ったー?」
「皮から元に戻すにはどうすればいい?」
「どうして、林吾として、俺と接触した!?」
敏夫が握り拳を作りながら言うー
「---女を殴るの?」
”D”が林吾の彼女の姿で笑うー
ドカッ!
敏夫は容赦なく”D”を殴りつけたー
「中身は男だろうが!」
とー。
「---へ、、へへへ…」
”D”が、可愛らしい声で笑いだすー
元々は、この子も普通に笑う
少女だったのだろうー、と思いながら
敏夫は、Dを睨みつけるー
「--3つの質問にお答えしましょうー」
唇から血を流しながら笑う”D”-。
「---私が皮の力を提供した相手は既にーー
何百人と存在していますー」
「なんだと!?」
敏夫は思わず叫ぶー
敏夫の家族を皮にした邪太郎や、
青年・林吾の彼女を皮にした幸彦のような人物が
既に何百人もいるということか…?と
敏夫は戦慄せざるを得なかった。
考えただけで恐ろしくなるー
仮に100人、人を皮にする力を持っていて
その中の半分が悪用していたとしたらー
恐ろしいことに、既に世の中はなっているのかもしれない。
「そこの青年として、あなたと接触した理由ですがー」
Dが、林吾の彼女の姿のまま微笑むー
「ただ、面白かったからですー
家族のために、必死こいて走り回る、あなたがー」
Dが笑うー。
林吾の彼女の身体でー。
クスクスと笑うー
人を小ばかにしたようにー
「貴様ぁ!」
敏夫が、林吾の彼女の胸倉を思いっきり掴むー。
「---必死こいて、四国まで行ってー
クク、ふふふふ、笑っちゃいますよねぇ!」
”D”が女の声で笑うー
敏夫がDを殴りつけるー
「--そんなことはもういい!
皮にされた人間を元に戻すにはどうすればいい!?
答えろ!」
敏夫が大声で怒鳴りつけると
”D”は不気味な笑みを浮かべたー
口元を歪めてー
囁くー
「---皮にされた人間を元に戻す方法はーーーーー」
「あ」
「り」
「ま」
「せ」
「ん」
”D”が、林吾の彼女の顔を極限まで歪めてー
”顔芸”を見せながら笑うー
「貴様あああああああああああ!」
敏夫は、Dを殴り飛ばしたー
林吾の彼女の顔がボロボロになっているー
「---あなたは本当に面白いー
あなたも今日、ここで皮にしてあげようと思いましたがー
見逃してあげましょうー
あなたにはーーー
”生き地獄”でも味わってもらいましょうか。
必死にもがいてー
必死に私を追ってー
ククク
必死こいて、ゴミ野郎が、もがいてる姿を
見せてもらいますよぉ!!!
ははははははははははっ!」
林吾の彼女の姿をした”D”が、
何かを敏夫に放ったー
敏夫は、反射的によけようとしたがー
避けることもできずー
そのまま眠りについた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「------う」
敏夫が目を覚ますー
林吾の皮もー
林吾の彼女の皮もー
そして、敏夫の親友・耕作の皮も置き去りにされたままー
”D”はいないー
「---!」
敏夫は、自分の身体を慌てて確認する。
だが、おかしなところはないー
”皮”にされたわけではないようだー。
「---!」
続けて敏夫が、周囲を見渡すー。
耕作の家に置かれているデジタル時計が、
日付を示しているー。
「--2日も眠っていたのか…!?」
敏夫が戸惑いながら、周囲を見渡すとー
ちょうどー
スマホに電話がかかってきたー
”美菜”
娘の名前が表示されているー
「--!」
敏夫は、”もしもし”と叫ぶー
”--ふふふ、お父さんー
あなたの娘さんと、妻、そして息子さんは頂きましたー”
美菜の声ー
だが、話し相手は美菜ではない
”D”だー。
敏夫が表情を歪めるー。
「娘を返せ!」と叫ぶー。
Dは笑うー
”今度は、あなたの娘と妻と息子の”皮”を使って
ビジネスを続ける”
とー。
「--ククク…返してほしければ
必死にもがき、あがき、私にたどり着いてごらんなさい」
”D”が美菜の声で挑発するー
「貴様ぁぁあああああ」
敏夫がスマホをぎしっと握りしめるー
「---ククク…
大事な娘は、いただいたーーーーー」
”D”はそれだけ言うと、電話を切ったー
美菜の皮を着こんだ男が、スマホを放り投げて笑うー。
「--面白い男だー
助けられやしないのにー
必死こいて…
ククククー」
”D”にとってー
人生とは”ビジネス”であり、”遊び”でもあるー
人を皮にする力を”ビジネス”とするならば、
敏夫を生かしておいたのは”遊び”だー
「クククー
もっと楽しませてくれよーー
”お父さん”」
美菜の姿でクスッと笑うとー
”D”は不気味な笑みを浮かべたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
「大事な娘はいただいた~深淵編~」の完結編でした!
もしかしたら、またいつか”D”との戦いが
描かれる日が来る…かもしれませんネ~!
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