<皮>大事な娘はいただいた~深淵編~・中編

家族を奪われてしまった父は、
家族を取り戻すべく、戦う決意を固めるー。

皮にされた娘と妻ー
そして、息子を助け出すために…。

---------------------

3年前に彼女を皮にされた青年・林吾と協力して
”皮”に立ち向かうことを決めた敏夫ー。

親友の耕作の家に集まった3人はー
敏夫の家族が今、どこにいるのかを調べていたー。

「---僕に任せてください」
林吾がパソコンをいじりながら、何かを調べているー。

「--ほ~」
敏夫と耕作が、興味深そうに林吾のほうを見るー

正直、何をしているのかはよく分からないー

”さすが若い子は違うな”
と、耕作が、小声で苦笑いしながら敏夫に言うー。

自分たちは、もう”おじさん”と呼ばれるような年齢だー。
やはり、新しいことに対しては若い人の方が
適応能力が早いー

「--笠山さんのご家族を見つけるための手は
 色々尽くしましたー
 あとは目撃情報を待つだけです」

SNSや
ネットのあらゆるサービスを駆使した林吾は、
敏夫の娘である美菜、妻の晴子、息子の昭俊の
目撃情報を集めていたー。

と、言っても、美菜、晴子、昭俊の写真を
ネットに晒したりしているわけではないー

”最近、近所にシングルマザーの親子が引っ越してきていないか”
という情報を重点的に探っていたー

「--すげぇなおい」
耕作が林吾に言う。

「--僕は大学でもネット関係を学んでましたので」
林吾はそう言うと、
現在は、ウェブ関連の仕事をしていて、こういうことには
詳しいんです、と付け足したー

林吾が次々と情報収集を行っていくー。

「--僕も、彼女を助けたい気持ちは、変わりませんから」
林吾が悔しそうに、パソコンのマウスを握る手に力を込めるー。

「--…君の彼女のことも、必ず助け出す」
敏夫は力強くそう呟いたー

娘の美菜、妻の晴子、そして息子の昭俊ー
全員を助け出すことはもちろん、
この勇気ある青年の彼女も助けなくてはならないー。
敏夫はそう強く決心していたー。

そのためにも”唯一”の手がかりと言える
娘と妻を皮にした男を、なんとか引きずり出して、
元に戻す方法を吐かせるしかないー。

”林吾の彼女を皮にした男”の情報は限りなく少なく
探すのは困難だー。

そして、”人を皮にする力”を、提供している人物ー
あるいは組織を見つけ出すのはさらに困難だろうー

唯一、
手の届く範囲にいるのが
美菜たちを乗っ取った男だったー。

林吾が「何か分かったらすぐにお教えします」と、敏夫たちに向かって呟く。

敏夫と親友の耕作は頷くと
「俺たちは俺たちに出来ることをしよう」と耕作が敏夫に伝え、
敏夫も頷いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---……」
敏夫の息子・昭俊が、複雑な表情で、
母親の晴子を見つめるー。

晴子は、皮にされてしまったー
脱がれている状態の、母は、
脱ぎ捨てられた着ぐるみのような状態になっていてー
晴子は時折、虚ろな言葉を発するだけー。

今にも、自我が消えてしまいそうな感じだー

「--お兄ちゃん」
背後から妹・美菜のー

いやー
”悪魔”の声がしたー

今、邪太郎は、再び美菜を乗っ取っているー
父である敏夫を撃退するために、
晴子を皮にしたが、それ以降は、基本的には美菜を
乗っ取っていて、母・晴子を乗っ取るのは
晴子として行動する必要があるときだけだ。

「-な~に、ずっとお母さんを見つめてるの?」
美菜が笑う。

「だ、、だって…こんな…」
昭俊が言うと、
美菜は笑いながら言う。

「--普通にしてろって何度も何度も言ってるよね?」
とー

顔は笑っているが、目は笑っていないー

「--だ、、だったら、母さんを元の姿に…!」
昭俊がそこまで言うと、美菜がグーで昭俊を殴りつけたー

「普通にしてろって言ってるだろうが!!!!
 クソガキが!」
鬼のような形相ー
鬼のような声で
怒鳴り声を出す美菜ー

「----ご、、ご、、ご、、ごめんなさい!」
昭俊が命乞いでもするかのように叫ぶー

「ふふふ じゃあお兄ちゃん、ゲームであそぼっか!」
美菜はいつものような笑みに戻るー

”家族ごっこ”
昭俊は”いつ、これが終わるのだろうー?”と
思いながらもー
ある行動に出る決意をしていたー。

なんとか、美菜を行動不能な状態に追い込んでー
母を助けたいー
美菜を助けたいー

皮の状態から、元に戻す方法を、突き止めたいー、
とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー

「分かりました!」
林吾が叫ぶー

敏夫と親友の耕作が、林吾がいじっていたパソコンの前に行くとー
そこには”四国”が表示されていたー。

「ご家族は、四国にいるようですね」
とー。

住所も表示されているー。

「すごいな!よくやった!」
敏夫が叫ぶと、
林吾は「僕の彼女のためでもありますから」と笑みを浮かべたー。

敏夫はさっそく準備をするー

「四国に飛ぶ」
とー

今すぐにでも、家族を助けに行くー。
そう決意してー

「---僕も行きます」
林吾が叫ぶー。

「-いや、君はここにー。
 ”俺の家族”のことは俺の問題だー
 君まで危険にさらすことはできない。

 それに、君にはまだ
 ”彼女を救う”仕事があるだろ?」

敏夫がそう言うと、林吾は少しだけ考えてから
「わかりました」と頷いたー

親友の耕作は「気をつけろよ」と敏夫に告げる。

「あぁ」と答えてー
敏夫は、美菜・晴子・昭俊が現在住んでいるー
”四国”に向かうのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

四国にやってきた敏夫は、
今、”家族”が住んでいる場所にたどり着いていたー

美菜を乗っ取った邪太郎は、
美菜と晴子を使って、敏夫を警察に逮捕させたあと、
敏夫に邪魔されないように、と、
晴子の身体をうまく、使い、四国に引っ越していたのだった。

「---…みんな、待ってろよ」
敏夫は、深呼吸してー
今、”家族”が住んでいる家を見つめるー。

「----」
このまま乗り込むべきか、否かー?

敏夫は一瞬迷ったものの、
”いや、ここで逃げていたら、家族は救えない”
と、インターホンを鳴らしたー

”はい”

娘の美菜の声がしたー

「--美菜…俺だ…父さんだ」
敏夫が言うと、
美菜は一瞬、言葉を止めたー

”この親父…まさか、ここまで来るとは”
美菜は表情を歪めながら答えるー。

”どちらさまですかぁ~~~?”
美菜がとぼけるー。

挑発的な声。

「ふざけるな!俺の家族を返せ」
とー。

”ククククク…お父さんってば~!冗談に決まってるでしょ~?
 こわ~~~い”

馬鹿にするような口調ー

ほどなくして、美菜が、玄関の扉を開けて出て来るー

美菜は、生足を大胆にさらしたミニスカート姿で、
肩出しの、色気を晒す服装だったー。

「---美菜にそんな恰好させるなんて」
敏夫は怒りの形相で美菜を睨むと、
「---ふふん わたしの自由でしょ?」と笑みを浮かべたー。

家の中に入った敏夫ー。

そして、敏夫は、表情を歪めたー。

「---!昭俊!」
敏夫が叫ぶー

敏夫の視線の先にはーー
イスに縛り付けられた息子ー
昭俊の姿ー。

「と、、父さん…!」
昭俊が、苦しそうに顔を上げるー。

「---お父さんもさ、
 ”家族”に戻る?」
美菜が挑発的に、近くのイスに座って足を組むー。

「--なんだと?」
敏夫が美菜を睨むー

「---晴子は?」
敏夫が、周囲を見渡すー。
妻の晴子の姿はない。

「晴子は無事なんだろうな!?」
敏夫が叫ぶと、
息子の昭俊が叫ぶー

「--母さんは…そいつに皮にされて…
 ほとんど意識がないような状態で…」
悔しそうに叫ぶ昭俊ー。

”彼女を皮にされた青年”
林吾の”彼女”の末路を思い出すー。

林吾の彼女を皮にしていた男が
立ち去ったあとー
林吾の彼女の身体は”人間”としての身体に戻ることは無く、
まるで脱皮した昆虫の皮ー
着ぐるみショーの着ぐるみかのように、
無残な姿を晒していたー

最初は意識が虚ろながらあったようだがー
今では、彼女の皮が”生きていた人間”とは思えないような状態だったー。

そう、まるで、抜け殻のように、
意識が残っているとは思えないー

晴子も、そうなってしまうのだろうかー。

「晴子を元に戻せ!」
敏夫が叫ぶー。

「--お父さんってばこわ~い!」
ふざけたポーズを取って笑う美菜ー

「--貴様…!」
敏夫が美菜を睨むー。

美菜を支配している邪太郎は、美菜の姿で笑う-

「わたしを殴るの?
 娘を殴るの?
 ふふ、殴りたければ?殴れば?
 ほら、殴りなよ!」

美菜が挑発を続けるー。

「--ほら、わたし、悪い娘になっちゃったよ!
 ほら、殴りなよ!
 わたしのこの綺麗な顔、ぶんなぐってみなよ!
 きゃはははははは!」

美菜がげらげらと笑うー。

「--貴様ぁ!」
敏夫が怒りの形相で美菜に向かうー

「父さん!」
昭俊が叫ぶー

敏夫が拳を振り下ろしたー。

「------」
美菜が笑うー

敏夫が殴ったのは、美菜の真横にあるテーブルだったー。

「---娘と、妻を元に戻せ」
敏夫が鬼のような形相で、美菜を見つめるー

今度は、絶対に負けないー
何が”家族ごっこ”だー。
今後は、絶対にーーー

「--”家族”に戻るの?」
美菜が笑うー

「普通にしてろっていつもいつも言ってるよね?
 俺はさぁ、”普通の家族”を味わいたいだけなんだよ。

 テメェらが”普通”にしてりゃ
 俺も”美菜”やってやるからよぉ!

 何が不満なんだ?
 あ?????」

美菜が鬼のような表情を浮かべて、呟くー

「---ふざけるな!」
敏夫は、美菜を睨むー。

「--お前が美菜のふりをしたって、それは、美菜ではない」
とー。

「----ケッ…黙って”家族ごっこ”してりゃいいのによぉ…!
 うぜぇおっさんだなぁ!」
美菜が本性を現して襲い掛かって来るー。

”今度は負けない”
敏夫は、”前回の失敗”を頭に思い浮かべるー

この前も、敏夫は、美菜と戦っているー
美菜を皮にした男を、美菜ごと無力化することには成功したー。

美菜の身体を傷つけることはしたくないー
そうは思っていてもー
”こうすることでしか美菜を救うことができない”
のであれば、戦うしか道はないー。

”家族の身体”を人質に取られてー
”俺に美菜を傷つけることはできない”
という状況はー、
美菜のためにも、自分のためにもならないー
美菜を乗っ取っている男が喜ぶだけのー
愚かな行為ー。

「---父さん!」
息子の昭俊が叫ぶー。

拘束されたままの息子を早く解放してあげたかったが、
とにかくまずは、美菜を魅力化することが先だー

”前回の失敗”
美菜を無力化したことに油断してー
”美菜の中から男が飛び出してきた”時に対応できなかったことー

だが、同じ失敗を二度冒すことはないー。
美菜を無力化し、美菜の中から出てきた男を引きずり出しー
美菜や晴子ー
そして、あの勇気ある青年・林吾の彼女を元に戻す方法を聞き出すー

「うああああああああああっ!」
美菜が狂気的な声をあげて襲い掛かってきているー

敏夫はそれを回避すると、
学生時代に習っていた柔道の技で美菜を投げ飛ばすー

「ぐあっ!」
美菜が声を上げるー

髪を振り乱し、
美菜がよろよろと立ち上がるとー

「娘の身体を傷つけて、楽しいかぁああああ?」
と挑発的な叫び声をあげたー

だがー
敏夫は動じなかったー

「こうしなきゃ、娘はもっと傷ついてしまうー。
 
 どうすればー
 子供たちが、家族が
 ”一番傷つかずに済むか”
 それを考えるのも、父親の仕事だ」

「--ほざけぇぇ!」
美菜が襲い掛かって来るー

”美菜、ごめん”
と、心の中で叫びながらー
敏夫は、美菜の足を引っかけて
美菜を倒しー、
拘束したー。

中の男が飛び出してくるー。

”もう同じ失敗はしないさ”

敏夫は、美菜の中から飛び出してきた男=邪太郎の顔面に
拳を叩きつけるー。

今度はー
負けないー

もう、絶対にー!

自分が捕まってもいいー。
でも、こいつを倒さなくちゃ、家族は救えないー。

恐れちゃだめだー

反撃してくる邪太郎のみぞおちに蹴りを加えて、台所の壁に
邪太郎を叩きつけるー。

悲鳴に似た叫び声を上げる邪太郎の頭を掴んで壁に叩きつけー
崩れ落ちる邪太郎の胸倉をつかみー
鼻血を流す邪太郎を睨みつけたー。

「-ーー美菜と晴子を元に戻せ!」
敏夫が大声で叫ぶー。

「--ひ、、、ひひひ、、、お前に…お前に…
 邪魔者扱いされ続けた俺の地獄が……分かるのか?」
邪太郎がうすら笑みを浮かべながら呟くー

バキッ!

敏夫が邪太郎の顔面を殴りつけるー
邪太郎の口から血が流れるー

「父さん!」
息子の昭俊が叫ぶー。

敏夫は、邪太郎を睨んだー。

「--貴様に、、、家族を奪われた父親の怒りが分かるか?」
敏夫の、この世のものとは思えないようなー
鬼のような形相ー

「あ…えへ…」
皮の状態になった美菜が時々、虚ろな声を発するー

「--俺は、お前を八つ裂きにしてでも、
 家族を元に戻す方法を聞き出すぞ!」
敏夫の怒鳴り声ー

邪太郎はなおも笑おうとしたー

しかしーーー
敏夫が、邪太郎の顔面を思いっきり蹴りつけたー。
そして、頭を掴み、壁に叩きつけるー

「--ぐぁっ」
邪太郎は悟るー

”このままじゃ、殺されるー”

とー。

そう思った瞬間に、邪太郎は、何もかもを捨てて、
泣き叫んだー

「た、、、たすけてくれっ…俺は、、俺は、、、知らない!」
とー。

敏夫が、ボロボロの邪太郎を掴む。

再び殴ろうと拳を握りしめるー

「知らない…知らない…知らない…!」
邪太郎が目からボロボロ涙をこぼすー。

とてもー
嘘をついているとは思えないー

「知らない…元に戻す方法は…知らない!…」
邪太郎が命乞いをするように叫ぶー。

「------」
敏夫は”こいつじゃだめだ”と判断するー

「--じゃあ、”人を皮にする力”をどこで手に入れたんだ!?」
敏夫が怒鳴るー。

邪太郎は泣きながら答えたーーー

「---”D”----」
とー。

「---D?」
敏夫が邪太郎を睨みつけた次の瞬間ー

玄関の扉が開いたー。

「--!?」
玄関から、フルフェイスヘルメットにラバースーツの女が入ってきてー
突然、敏夫に向かって走って来るー。

「--ぐあっ」
殴り飛ばされる敏夫ー。

女が、邪太郎の首筋に、何かを打ち込んだー。
あっという間の出来事ー

邪太郎が悲鳴をあげながら”皮”になっていくー。

そして、女が、敏夫に襲い掛かって来るー
敏夫は必死に攻撃をガードして、
女のヘルメットを弾き飛ばすー。

転がり落ちるヘルメットー

女はーー
若い女だったー

とても清楚な雰囲気の美人ー。

「--ケッ」
それだけ呟くと、女は玄関の方に向かって走りー
そのまま、近くに止めてあったバイクで逃亡してしまったー

「--待て!」
敏夫が叫ぶー

そして、追いかけるー。

「父さん!」
息子の昭俊が叫ぶー。

昭俊の拘束を素早く解くと、敏夫は
「美菜と晴子を元に戻す方法を、俺は絶対に突き止める…
 だから待っててくれ!」とだけ、叫ぶとー
そのまま家から飛び出したー

謎の女を追ってー。

<後編>へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

「大事な家族はいただいた」次回が最終回デス~!
果たして、その結末は…?

続きはまた来週になります!

コメント