<憑依>”頭脳”の選別③~人類の行く末~(完)

”国際組織ZERO”による、
人類のコンパクト化ー。

優秀な人間に、憑依薬で新たな身体を提供しー
劣る人間は、容赦なく”器”にされ、
場合によっては”処分”されていくー。

西暦2350年ー
人類の行く末は…?

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「------う…」
涼真が目を覚ますと、
そこは、薄暗い部屋だったー。

たくさんの人間が、そこには、ゴミのように積まれているー。

「え…???」
涼真が周囲を見渡すと、
そこには彼女の松子もいたー。

スカートがめくれた状態で、倒れ込んでいる松子ー
虚ろな表情で、涎を垂らしながら、
倒れ込んだまま笑っているー。

「---…お、、おい…松子!」
松子からの返事はないー。

「---お、おい!みんな!」
見覚えのある人間もー
見覚えのない人間もー
そこには、たくさんの人間がいたー

ほとんどの人間は、正気を失って
虚ろな目のまま、微笑んでいるー。

”目が覚めたのね”
聞き覚えのある声が、放送で部屋中に轟くー。

「--吉野さん!?」
涼真が叫ぶー

吉野 知亜紀ー
クラスメイトの女子でー、
”中身”は、とっくに別の人間になっている子だー

彼女は”エリート”であり、
この世界の考えに染まっているー。

”そこはー
 ”器”としての価値もない人間が集まる
 集積場…
 つまり、あなたたちはゴミってことね”

知亜紀が冷たい声で言うー。

「---ーーゴミだって…?」
涼真が拳を握りしめるー。

”人間の削減”
不要な人間は、徹底的に処分されるシステムー

”劣等人間”は、
優秀な人間の”器”として憑依されるか、
あるいは”処分”されるー。
処分されるのは、不健康な身体や、
容姿に劣り、需要のない身体ー
高齢かつ”劣等”と国際組織ZEROに認定された身体ー
そして、この世界の在り方に”反抗”を示した身体ー

「国際組織ZEROを、岡本くん、あなたは怒らせたのー。
 見せしめとして、あなたたち全員、ここで”焼却”されるー」

国際組織ZEROは徹底した統治をおこなっているー
少しでも逆らえばー
”見せしめ”に処分されるー。

そうしないとー
世界を掌握することはできないからー

そうしないとーー
人類は滅亡してしまうからー

「---本当に、それでいいのか?」
涼真が呟くー。

近くには、松子だけではなく、
知亜紀の友人・奈々も催眠漬けになって倒れているー。

「----」
知亜紀は答えないー。

「---ほんとは、吉野さんだって、こんなやり方、おかしいと思ってるんじゃないのか!?」
涼真は、暗い部屋の中で叫ぶー

知亜紀に言葉が届くと信じてー

「--ちょ!ちょっと待って!」
そう叫ぶ、知亜紀の姿を思い出すー

知亜紀は一瞬ー
友人の奈々を助けようとしていたー。

本当に、この世界に何の疑問も抱いていない人間は
絶対にそんなことはしないー。
あれは”知亜紀が揺らいでいる”証拠だー。

「-----」
知亜紀は思うー。
知亜紀の身体を今、乗っ取っている人物はー
”人類の存続”のために科学的な研究を続けてきたー。
その最中、”過去の歴史”も学んでいるー。
自分が生まれる前ー
今からすれば遥か昔の世界はー
一人一人の尊厳が重視された世界だったー

今とは、まるで違うー

でもーーー

知亜紀は戸惑うー。

”焼却”を命じられたのはー
”選民試験”の会場で、一瞬、奈々を守ろうとしたからだー。

”反逆”を疑われてー、
”そうでないと示せ”と、軍服の女に脅されているー。

ここで、親友の奈々を含む、全員を”焼却処分”することで、
国際組織ZEROにー
この世界の在り方に対する
忠誠心を見せろ、とそう言われているー

”さもなければ貴様も”劣等人間”だー”

とー。

「---」
知亜紀は、涼真がいる部屋の上から、モニターで涼真のいる様子を見つめながら
隣にあるスイッチを見つめるー。

”それ”を押せば、
全てが終わるー

涼真のいる部屋を灼熱地獄にしー
涼真や、奈々、松子ー
その他の人間たちを
全て燃やし尽くすー

「---松子!」

涼真の叫び声が聞こえるー

知亜紀は、涼真のほうをモニターで見つめるー

「ほら!松子!しっかりしろ!」
涼真が松子を抱き起すー。

松子は「えへへへへへ…♡」と涎を垂れ流しながら
笑っていて、完全に正気を失ってしまっているー。

「--…松子!しっかりしろ!」
涼真は、なんとか松子を抱きかかえると、
知亜紀の親友、奈々にも「しっかりしろ!」と呼びかけるー。

奈々のことも起こしー
なんとかして、二人を連れ出そうと、歩き始めるー

「みんなもしっかりするんだ!」
涼真が叫ぶー。

涼真のほかにも、何人かは、意識がはっきりしている人間がいたー

涼真は、そんな人たちに呼びかけながら
”ここから出よう”と叫ぶー。

催眠洗脳注射が”効きにくい”人間もいてー
涼真もその一人だったのだろうー

ハッキリとした意識で、
”出来る限り多くの人間を助けようと”するー。

しかしー

「---!」
涼真は、突然、首を絞められたー

驚いて振り返るとー
目を赤く光らせて、顔中に「ZERO」の文字が浮かび上がった松子が、
涼真の首を絞めていたー

「ま、、松子…!」
苦しそうに叫ぶ松子ー

「貴様のような人間が、人類を滅ぼすー」
松子の穏やかな声が、極限まで歪んでいるー。

この世界の人間は、”生まれた時”に全員、細工されー
国際組織ZEROのメンバーがいつでも憑依できるようになっているー

松子も、たった今、憑依されたのだー

”強引に憑依する”
「ZERO憑依」と呼ばれる憑依ー。

この方法で無理やり身体を乗っ取られた人間は
体中に「ZERO」の文字が浮かび上がるー

「やめてくれ…松子…」
もがく涼真ー

松子は完全に乗っ取られて「ひひひひひひ」と笑いながら
涼真の首を絞めているー
完全に、殺す気ーで。

「---人類は、コンパクト種族なのだ!
 お前のような人間は、いらないのだ!」
松子が叫ぶー

涼真が必死にもがきー
松子を振り払うー

だが、知亜紀の親友の奈々にも”ZERO”の文字が浮かび上がりー
涼真の顔面を思いっきり殴りつけてきたー

吹き飛ばされる涼真ー

乗っ取られた奈々と松子が倒れた涼真を
容赦なくけりつけるー

「ぎゃはははははは!」
「ひひひひひひひひひ!」
奈々と松子が狂ったように笑うー。

”さぁ、やりなさい”
軍服の女が、銃を手に、
モニター室でその様子を見ていた知亜紀に促すー

”劣等人間たちを、燃やしなさい”

その言葉に、知亜紀は静かに微笑んだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---あ、、、、あ」
遠のいていく意識ー

涼真はー
彼女の松子のことを思い出すー
今は、別の人間の器になって変わって待った妹・羽須美のことを思い出すー

”こんな世界ー”
涼真は、こんな世界狂っている、と思ったー

人類の存続ー?
こんな世界はー
絶対にー
狂っているー

「こんな世界はぁあああああ!狂ってる!!!!!!!!」
涼真は最後の力を振り絞って、大声で叫んだー

奈々と松子に蹴られ続けてボロボロの涼真ー

涼真以外の、逆らおうとした人間も、同じように
周囲の身体に憑依した国際組織ZEROのメンバーによって
ボコボコにされているー

暗い部屋の絶望ー
涼真は”ここで死ぬ”と悟るー

しかしー

パァン

「---!?」
変な音が響いたー

松子が、吹き飛ぶー。

「--!?」

続けて、音がして、奈々も吹き飛ぶー

暗い部屋に光が差し込んだー。
そこには、クラスメイトの知亜紀の姿があったー

「---…こっちに来て!」
知亜紀が、処理部屋の扉を開けてー
軍服の女から奪った銃を手に、
松子と奈々を撃ったのだったー

「---お、、、おい…松子!」
涼真が叫ぶー。

二人は身体をヒクヒクと痙攣させてー
やがて、そのまま動かなくなりー
「ZERO」の紋様も消えていくー。

「---な、、なんで!」
涼真が知亜紀のほうを見て叫ぶー

知亜紀は悲しそうに
「奈々も松子ちゃんももう助からない
 だから撃ったの」と呟くー

涼真は、戸惑いながらも
”二人はもう助からなかった”ことを冷静に理解し、
知亜紀の方に向かうー

不気味な研究施設を走るふたりー

「どうして!?どうして俺を助けてくれたんだー?」
涼真が言うと、
知亜紀は呟いたー

「--劣等人間はーーー
 岡本くんのような人間じゃなくてー
 ”こんな方法”でしか人類存続を考えられない
 国際組織ZEROのほうだってー
 そう思ったから」

とー。

知亜紀は年相応の少女のような表情で微笑むとー
「岡本くんが、あまりにも馬鹿だからー
 なんだか、わたしまで馬鹿になっちゃったー」と
笑ったー

「--吉野さん」
涼真は少しだけ笑いながら、国際組織ZEROの施設を走るー

”劣等人間焼却施設 第3廃棄工場”

そう書かれた通路を走る涼真と知亜紀ー。

「---……」
知亜紀は笑っていないー

ようやく、劣等人間焼却施設 第3工場の
外に出ると、見晴らしの良い高台に出たー。

「-------……」
知亜紀が景色を見つめるー。
涼真もまた、景色を見つめているー。

近未来的な都会が広がる一方で、
その周辺は荒廃した廃墟のようになっているー

”旧都市”と呼ばれる場所だー。
人口が減ったことにより”使わなくなった区域”が
そのまま打ち捨てられて、放棄されているのだー。

何百年前の建物が、そのままにされ、
植物に包まれているところもあるー。

「-----ーーー松子ちゃん、残念だったわね」
知亜紀が呟く。

「------」
涼真は答えない。

松子も、奈々も死んでしまったー
国際組織ZEROの催眠注射付けとなり、ZERO憑依までされた
ふたりに助かる道はないー

「--俺はー
 ZEROを許さないー」

涼真が呟くー。

「----」
知亜紀は少しだけ笑ったー。

「--あなたは、松子ちゃんを守ろうとしたー。
 でもねー
 国際組織ZEROも、人類を守ろうとしたの。

 大切なものを守ろうとしてるのは、同じー」

知亜紀の言葉に
涼真は「…違う!俺はあいつらのように、人間をゴミのように処理したりしない!」と叫ぶー。

朝日に照らされる二人ー。
知亜紀は首を振ったー

「同じよー。
 あなたが松子ちゃんを助ければー
 あなたのような人間で溢れれば、この世界はどうなるか、わかる?」

知亜紀の言葉に、涼真は答えないー。

「食糧問題ー
 環境問題ー
 土地の問題ー
 何百年も前と同じように、全ての人間が当たり前のように
 生きていけば、どうなるか、わかる?

 全ての人間はー
 滅ぶのよー」

知亜紀は悲しそうに呟いたー

「---だから、あなたがやってることはZEROと同じー。
 ”自分の大切なものを守るために、他のものを犠牲にしている”」

知亜紀の言葉に、涼真が反論しようとするー。

知亜紀はほほ笑む。

「別に、岡本くんを責めてるわけじゃない。
 でもねー
 綺麗なコトばっかり言ってても、ダメなのー。

 ZEROは人類を守るために劣等人間を犠牲にしようとしてー
 あなたは大切な人を守るために、人類全てを犠牲にしようとしてー

 同じなのー。
 ”何かを守るためには”
 ”何かを犠牲にしないと”
 できないのー。」

知亜紀は諦めた様子で首を振るー

「違う!食料だって、環境だってーなんとかー」

「--ならないよ!」
知亜紀が叫んだー

「-食料問題がなんとかなる?どうするの??
 言ってみなよ」
知亜紀の言葉に、涼真は口を閉ざしてしまうー。

食糧問題、
環境汚染ー
2350年は”限界”のラインに達しているー。

300年以上も昔のように”人類が何十億もいる世界”は
もはや、支えきれないー。

「---…ないでしょ?
 ないのよ。
 
 ZEROだってバカじゃないー。
 食料も、環境もー
 みんな、解決する方法なんて、ないの。

 だからー
 コンパクト種族・人類という非人道的な方法に
 シフトするしかなかった」

知亜紀は、朝日を見つめながら呟いたー。

「---ーーそ、、そんなことするなら、、
 宇宙開発とか、、そういうことに時間と技術をー」

「--それも無理」
知亜紀が言う。

「--2100年代に、人類は”宇宙進出”を諦めたの。
 宇宙は人間の手に負えない、って。

 ”地球心中計画”
 知ってるでしょ?
 人類は、地球と心中するの。
 地球で永遠に生きるしかないのー」

食糧問題もー
環境問題もー
解決できない。

”人間”は、愚かー。
そこまで優秀ではないー

人間が生きるための唯一の残された選択がー
国際組織ZEROのやり方ー

ZEROは強引に恐怖で支配しようとしているのはー
”そうすること”でしか、人類を維持できないからー

「ZEROを悪党と言い切れる?」
知亜紀が尋ねるー。

「-------」
涼真は困り果ててしまう。

「でも、、、でも!」
と、叫ぶー。

「---ふふ」
知亜紀は笑ったー

「でもねー」

「わたしは、岡本くんみたいな、まっすぐでーー
 きれいごと抜かすバカみたいなーー
 そういう子の方がーー
 好きだよー」

知亜紀が笑うー
涼真が戸惑うー。

「だからーーー
 ”意味ない”ってわかってたのにー
 あなたを助けちゃった」
知亜紀は悲しそうに微笑んだー

「え…」
涼真と、知亜紀の身体に”ZERO”の文字が浮かび上がってくるー

国際組織ZEROのメンバーは
この世界の人間誰にでも、いつでも憑依できるー

「----…どんなに頑張ったってー
 ”逆らえないもの”も、あるんだよ」

知亜紀は涙を流しながら言うとー
「え…っちょ!??おい!」と叫ぶ涼真と共にー
国際組織ZEROのメンバーに憑依されてー
身体を完全に乗っ取られたー

乗っ取られた二人は高台から無表情で飛び降りてー
そのまま”処分”されたー

人類が、生き延びる道は、これしかないー
ZEROはZEROなりに、”出来る限り多くの人”を救おうと、
劣等人間を処分し、少しでも多くの人間を
生き残らせようとしているー

他に方法はないー

”あるはずだー?”

ないー。

どんなに頑張ったって、
無理なものは、無理なのだー。

涼真のような”理想”を追い求めれば
人類は全滅するー。
深刻な食糧難と環境汚染で
壊滅的打撃を受けるー

涼真の理想通り世界を動かしたら100年後はどうなる?
今のまま国際組織ZEROが世界を支配していた場合の100年後よりもー
人間の数は、減っているだろうー。

”正解”はないー。

2350年の世界にー
ハッピーエンドなどないー

犠牲のその先に、ギリギリのところで生きる人類ー
何かを切り離して、
あがく人類ー

国際組織ZEROは、悪党と言えるのだろうか。

彼らもまたー、
自分たちの守りたいものをもがき、苦しみながら
守っているだけなのかもしれないー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

未来を舞台とした憑依モノでした~!

この世界はもう詰んでしまっているような気もしますが、
どうなっていくのでしょうか~?

お読み下さりありがとうございました!!

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憑依<”頭脳”の選別>

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