西暦2350年ー。
憑依による支配と”頭脳”の選別が、行われる世界ー。
疑問を抱く男子高校生と
何の疑問も抱かない女子高校生ー
二人の運命が、変わっていくー。
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「--もうさ、やめたら?」
知亜紀が言うー。
「--え?」
涼真が首を傾げるー。
「---さっきみたいなこと。
”器”になった妹のこと、いつまでも考えていたって
仕方がないでしょ?
人間は、そういしないと生きていけないんだから」
知亜紀が、諭すように言うー。
知亜紀の身体に憑依している”人物”は悪人ではないー
だが、この世界の考えに染まっているー。
食糧問題、少子高齢化、あらゆる問題ー。
人類が極限まで追いつめられていたのは事実ー
そして、国際組織ZEROによる「コンパクト種族・人類」の方針が
”人類の存続”という面だけで見れば成功しているのもまた事実だったー。
ZEROが”頭脳の選別”を行ったり、
”人間50年政策”を導入したりしていなければ
今頃、食糧難によって、人類は崩壊していたのかもしれないのだー。
「--もう、やめましょ。
わたしだって、本当は”146”よー。
本当だったら、もう殺傷分されてる年齢。
でも、”器”があるから、こうしてずっとずっと、生き続けてられるー。
わたしには、まだまだやることがあるからー」
知亜紀の中に憑依している人物はー
”科学者”として優れた実績を持っているー
だからこそ、”優先国民”として、こうして”劣等人間”の身体に
次々と乗り換えることができているのだー
誰が、誰の身体に憑依するかは
国際組織ZEROが決めるー。
そして、”ブルーメール”と呼ばれる特殊なメールにて、
通知され、3日後に、国際組織ZEROによって、
憑依センターにて、”移動”が行われるのだー。
「--吉野さんは、死にたくないと思う?」
涼真が、知亜紀に対して言い放つー
知亜紀が”器”であり、目の前にいる知亜紀が
とっくに知亜紀本人ではないことは、涼真も知っているー
この世界で、それは珍しいことではないー。
「---うん。まだまだやることがあるから」
知亜紀は即答するー。
「--じゃあさー
どうして、”劣等人間”のこと考えてあげられないんだ?」
涼真が言うー
知亜紀が立ち止まるー
「--優秀じゃなくたって、人間は、人間なのにー
みんな、吉野さんみたく”生きたい”って思ってるはずなのに-。
なんで簡単に”ごみ”なんていうんだ?」
涼真が純粋な疑問を口にするー。
知亜紀は「それはーー、劣等人間だから仕方ないでしょ?」と
苦笑いしながら言うー。
知亜紀に悪気は何もないー。
”それが当たり前”の世の中で生まれ、育ったから
知亜紀にとって、それが”当たり前”なのだー。
「---ーーいくら頭が良くても、
吉野さんは間違ってる!!
本当の吉野さん…
器になっちゃったその身体の元の持ち主だって
まだ”生きたい”って思ってたはずなんだ!」
涼真が言うと、
知亜紀は「意味わかんない。器は器でしょ?」と首を傾げたー
話が通じないー
”この世界に疑問を抱く”涼真と
”この世界の在り方が当たり前”な知亜紀では、話が
食い違うのは当然だったー
「そんなことより…松子ちゃんが”選民試験”受かるように
応援してあげたら?」
知亜紀の言葉に、
涼真は「言われなくてもそうするさ」と呟いたー。
”選民試験”が間近に迫っているー
国際組織ZEROが指定する”基準点”を下回った人間は
”優秀な人間の器”にされてしまうー。
つまり、高齢の優秀な人間や、病気持ちの優秀な人間の
”憑依先”にされてしまうのだー。
”高齢者の方は、一列に並んでください~”
下校中ー
涼真はそんな光景を見るー
”高齢者”と言っても
この世界では40歳以上を示すー
50歳になれば”殺処分”が行われるからだー。
「----」
涼真は”昔は40代が高齢者ではない”ということを
知っているー
歴史に興味があり、色々勉強していく中ー
”今”とは全く違う世界が、2100年ごろまで、
存在していたことを、知っているー
「--わたし…どんな子になっちゃうのかなぁ…」
松子が呟くー。
「---心配するなよ。俺が必ず松子を守るから」
涼真が呟くー。
彼女の松子と下校中ー
松子は優しく、大人しい少女なのだがー
勉強が苦手で、成績が低い
それゆえに、”次”の”選民試験”では落ちる可能性が高いー
必死に勉強してはいるけれどー
成績は厳しいし、
”特例”もないー
”特例”とは、学力が低くても
国際組織ZEROが認めた”スキル”があれば
”選民試験”を通過できるというものだー。
例えばー
スポーツだったり、ピアノの才能だったりー
そういう”優れたもの”を持っていれば、
選民試験はパスできるー。
だがー
松子にはそういうものもなかったー。
”選民試験”まで、あと数日ー
「お帰りなさい、お兄様」
眼鏡をかけた妹・羽須美が、礼儀正しく頭を下げるー。
帰宅した涼真は「俺はお前を妹と思ったことはない」と
不愛想に、返事をするー
羽須美は2年前”選民試験”に落ちて
”器”にされているー
今はエリート男に憑依されているのだー
「---お兄様がそうおっしゃっても、
わたしはお兄様の妹です」
羽須美の言葉に、涼真は歯ぎしりをするー
「うるさいー
俺はお前を許さない」
涼真はそう呟くと、
羽須美を無視して机に向かうー
”お兄ちゃん”と無邪気だった羽須美が
今は別人のようだー。
もう、羽須美はいないー
今の羽須美は、羽須美を奪った憎き男だー。
「----」
涼真はため息をつくー。
もちろんー
羽須美に憑依した男が悪い…わけではない。
彼は国際組織ZEROからのブルーメールに従い、
羽須美の身体に憑依しただけなのだからー。
憑依後は基本的に”器”として生活することが
義務付けされるー。
だから、知亜紀に憑依した”人物”は、
知亜紀として女子高生をしているしー
羽須美に憑依した”男”はこうして
この家で暮らしているー
それゆえにトラブルが起きることもあるのだが、
”国際組織ZERO”が介入することで、
解決することが多いー。
「--なぁ……やっぱりさ、、この世界っておかしくね?」
涼真が、羽須美に向かって言うと、
「おかしいのはお兄様です」と、羽須美は淡々と返事をしたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「-----」
知亜紀は、部屋で研究資料をまとめながら
表情を歪めていたー。
「--優秀じゃなくたって、人間は、人間なのにー
みんな、吉野さんみたく”生きたい”って思ってるはずなのに-。
なんで簡単に”ごみ”なんていうんだ?」
涼真の言葉を思い出すー
「---ごみはごみでしょ」
知亜紀はそう呟きながらも、
頭を抱えるー。
”生きたい”
その気持ちは、みんな、同じー。
そんなこと、今まで1回も考えたことがなかったのだー
”ごみ”は淘汰されて当たり前ー
優秀な人間のために、”器”になり、
身体を提供するー
それも、当たり前ー
この知亜紀という女もそうだー。
劣っていたから優秀な人間に身体を提供することになったー
それが、人類存続のための”最良”の手段なのだからー
それは、間違っていないー
「----余計なことを考えるな」
知亜紀の母親が、顔にZEROの文字が浮かんだ状態で
知亜紀を睨むー。
国際組織ZEROに憑依されているー。
「---はい」
知亜紀がそう返事をすると、知亜紀の母親が「あ…」と正気を取り戻すー
ZEROは全てを見張っているー
何かあれば、いつでもだれにでも憑依することができるー
”たとえー
この世が間違っていたとしても、これが、人類の生きる道ー”
知亜紀は、そう呟くと、
自分の研究を再開したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
選民試験が終わったー
”基準点”を下回った生徒たちが、表示されるー
軍服を着た国際組織ZEROのメンバーが基準点を下回った生徒に
洗脳催眠の注射を投与して、
荷台にゴミのように積んで回収していくー
”よし…”
涼真は呟くー
基準点をなんとか上回ることができたー
だがー
「---…ごめん」
彼女の松子が涙をこぼすー。
松子はー
”基準点”を超えることができていなかった。
身体を震わせている松子ー
その様子を少し離れた場所で試験を受けていた知亜紀が
「--バカな子ね」と呟きながら見つめているー
この世界で生きたければ”努力”しなくてはならないー
能力の低い人間を”養う”ほど、この世界には余裕はないー。
生きる権利だのなんだの言うやつもいるー。
人の人生を勝手に決めるな!というやつもいるー
でも、じゃあ食糧はどうするの?
じゃあ大気汚染はどうするの?
「--この世界は、綺麗ごとじゃ成り立たないのよ」
知亜紀が、泣きじゃくる松子と、松子に駆け寄る涼真を見つめながら呟くー
あなたのような”劣等人間”を生かしておけば
全員が死ぬー。
だから、こうするしかないの。
綺麗ごとを言うなら
”どうすれば”人類が生き残れるって言うの?
「----知亜紀」
知亜紀の友人、奈々が知亜紀に声を掛けたー
奈々は3列後ろで試験を受けていたー。
先日、松子のことを一緒に笑っていた友人だー。
「---わたし…落ちちゃった」
「--!?」
知亜紀が表情を歪めるー
奈々が”選民試験”に落ちているー。
「え…なんで…?」
知亜紀が驚くー。
奈々は、そんなに頭が悪い子ではないー。
「--ごめん…ちょっと…ミスしちゃったみたい」
この時代の試験は紙ではなく、
全て電子的に行われているー。
端末を見せて来る奈々ー。
奈々は”回答欄”を間違えていた結果
0点に近い点数になっていたー
涙を流す奈々ー
奈々の元に”国際組織ZERO”の軍服を着た男が
近づいてくるー。
「--ちょ!ちょっと待って!」
知亜紀が叫ぶー。
「---待ってくれ!」
ほぼ同時に、少し離れた場所では、彼女の松子を守ろうと、
軍服の女の前に、涼真が立ちはだかっていたー
「----”劣等人間”は”器”になるー。
どきなさい」
軍服の女が言うー。
「--!」
涼真は表情を歪めたー
その女に見覚えがあったからだー。
去年、”劣等人間”として、連行されるときに
泣きじゃくっていた”近所のお姉さん”ー。
今は、おそらく国際組織ZEROのメンバーに
憑依されているのだろうー。
「---……絶対にどくもんか!」
涼真が叫ぶー
松子が「もういいよ、涼真…」と泣いている。
「--良くない!!こんな世界、間違ってる!」
涼真が叫ぶー。
周囲がどよめくー
周囲の”劣等人間”認定された同級生たちは、
黙って連行されていくー。
”自分が悪い”
みんな、そう思っているー
生まれた時から、この世界で暮らしていれば
そういう考えが”ふつう”になるのだー。
「----…吉野さん!」
涼真が少し離れた場所で、友人の奈々をかばっている知亜紀に叫んだー。
「--」
知亜紀が涼真のほうを見るー
「--少しは”弱い立場の人間”の気持ち、わかったか!?」
涼真が叫ぶー。
知亜紀の友人も”選民試験”に落ちたのを横目で見ていた涼真ー。
「---…」
知亜紀は答えないー。
「助けてー」
友人の奈々が連行されそうになりながら泣いているー
奈々は、”器”にされるー。
他の誰かのーーー
「----」
知亜紀は迷うー。
これが、普通ー
そう、奈々が連れていかれるのを、黙って見届ければいいー
「---ーー」
揺らぐ心ー
だが、知亜紀にとって”これが普通”なのだー。
「---さよなら」
奈々に対して冷たい言葉を投げかける知亜紀ー。
「---知亜紀…たすけて…」
友人の奈々はそのまま洗脳催眠注射を打たれー
ごみのように引きずられていったー
「---…ふざけんな!ふざけんな!!!」
涼真は、そんな知亜紀の反応を見て叫ぶー
「あんたも、、お前らも、、みんな狂ってる!!ふざけんな!」
大声で叫ぶ涼真ー
しかしー
涼真の行為を”反逆行為”と判断した
国際組織ZEROは、”基準点”を上回った涼真にも
催眠洗脳注射を打ち込みー
彼女の松子もろとも、ゴミのように引きずられていくのだったー
③へ続く
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恐怖の未来世界…!
”おかしいと感じている涼真”と
”それが当たり前な知亜紀”の運命は…?
次回が最終回デス~!
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