5年前に家出したお姉ちゃんは憑依されていた。
その”姉”に5年前付きまとっていた
バンドグループ Romance Wave(ロマンス・ウェーブ)の一人の
行方を突き止めた妹は、その男に接触する…。
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「----ーーー」
母・吉江のほうを見つめる静香ー。
吉江は、姉の文香が豹変して、家出してしまってから
心労により、まだ50代なのに、60代、下手をすれば
70代のおばあちゃんのように見えるぐらいに
老けてしまったー。
疲れ果てた様子の母を見つめながら
静香は
”わたしがお姉ちゃんを迎えに行ってくるー”と
決意を胸に、歩き出すー。
父・諭吉の浮気による離婚ー、
そして、姉・文香の突然の豹変からの家出ー
既に、母・吉江は”ふたりの家族”を失っているー。
静香は、なんとか、”そのうちの一人”だけでも
取り戻そうと、そう考えていたー。
静香は、Romance Waveのメンバー4人のうちの一人が、
毎週金曜日の夜に出入りしているという
スナック・ナイトメアに足を運ぶ。
「-----…」
女子大生一人でこんな場所に来るのは危険ー。
それは、静香もよく理解している。
だが、大学の友達をこんなことに巻き込むわけにはいかないし、
母・吉江にこんなことを言うこともできないー。
だからーーー
店の扉を開くー。
「--あらぁ、可愛い子ね」
化粧まみれのおばさんが、静香のほうを見る。
静香は頭を下げるー。
このスナックの店主なのだろうー。
そしてーー
「----!」
スナックのカウンターの奥の方で、
柄の悪い男が、一人寂しそうに、お酒と、
小さなから揚げを前に、うなだれていたー。
Romance Waveのメンバーのひとりー。
静香は、姉・文香が連れ込んでいた男たちを
よく覚えているー。
この男は、姉・文香と抱き合ったりしてた男ではないがー
確かに、家に来ていた男の一人だー。
「-----あの」
静香は勇気を出して、店の奥まで進むー。
ボタン一つ押すだけで、スマホで警察に通報できるように
準備もしてあるし、店の出口側の方に背を向けて、
男が何かしてきたらすぐに店の外に飛び出せるようにも、準備をしてある。
「-----」
静香は、深呼吸をしてからー
スマホに保存してある、
”姉・文香とRomance Waveの4人と思われる男たち”が写った、
5年前に撮影した写真を男に見せつけたー
この写真は、5年前に文香から”写真撮ってよ”と命令された際に
どさくさに紛れて撮影しておいた写真だー。
何かの手掛かりになるかもしれないー
そう思って、姉・文香と男たちの写真を撮影しておいた
5年前の写真ー。
今になって、それが役立つときが来たのだー
「----あん????」
男が、いかにも柄の悪い態度で、写真に目をやるー。
「----わたし、この人を探してるんです」
静香が言う。
写真の文香が、姉であることを伏せー、
文香を探している、と男に告げるー。
「---これ、あなたですよね?」
静香が、写真に写る、5年前の男を指さしながら言うー。
「--テメェ…!」
男が瞳を震わせたー。
そして、コップを乱暴にカウンターに置くと、
静香のほうを見つめたー。
静香が身構えるー
身体がぶるぶると震えているー
”恐怖”を感じているのだー
「---チッ」
男は露骨に聞こえるように舌打ちすると、
首をコキコキと鳴らしながら、静香のほうを見たー
静香は、”殴られる”と思ったー
だが、男は、頭を掻きむしると、「座れよ」と呟いたー
「-----」
警戒しながら、一つ離れた席に座る静香。
「----ははっ……まぁ、気持ちは分かるぜ」
男はそう言うと、スナックのママに「この子に何かジュースを出してやってくれ」と呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「----…はは、お姉さん思いのいい子だな」
男は、コップに入った水を飲みながら、そう呟くー
静香の前には、スナックのママが用意してくれた
ジュースが置かれているー。
それを一口飲み終えると、
静香は、男のほうを見た。
「確かに、俺はテメェの言う通り
Romance Waveのメンバーだった。
当時、俺はベースを担当しててな。
でもー
もう、辞めちまった」
男は、
5年前、姉・文香が家に連れ込んでいた男の一人で
間違いはなかったようだー。
Romance Waveのメンバーの一人
”タクミ”-。
だが、彼は、既にメンバーではないのだと言う。
「---で……あの女…いや、テメェのお姉さんのことだが」
タクミは言う。
「---」
スナックのママの方に目をやると、
スナックのママは何かを悟ったかのように、奥に向かうー。
「-----”憑依”----
テメェの言う通りだ。
テメェのお姉さんは、憑依されちまったのさ」
「----!!」
静香は、驚きの表情を浮かべたー。
覚悟はしていたー。
だが、いざー
”本当に姉が憑依されていた”となると
やはり、驚きは隠せなかったー
「じゃあ…お姉ちゃんが急に変わっちゃったのは…?」
話の中で、”文香の妹”だと身分を明かした静香は、
そう呟いたー。
「”中身”が変わったからー。
そう、テメェのお姉さんの意思じゃない。
お姉さんは”ユウヤ”に乗っ取られて、豹変したのさ」
「--ユウヤ…?」
静香が聞き返すと、
「Romance Waveのボーカルやってたやつだよ」
と、タクミは答えたー。
タクミという男は、柄が悪く、口も悪いが
話していると、どうたら悪い男では無さそうだったー。
「---写真、見せてみな」
タクミが言う。
静香が、スマホを握ったまま、
5年前の写真を見せるー
写真の男4人を一人ずつ指さすタクミ。
「これが、俺。分かるよな。」
「--こいつは、セイジ。ドラムを担当してた男ー」
写真で、ニヤニヤ笑ってる赤髪の男を指さすー。
「こいつは、ジュンだ。キーボードを担当してたー」
写真の、少し理知的なインテリヤクザっぽい男を指さすー。
「こいつが、アキラ。バンドのリーダーで、ギター担当だ」
姉・文香と抱き合ってた男を指さすー。
「そしてーーー」
姉・文香を指さす。
「テメェのお姉さんに憑依してるのが”ユウヤ”だー。
ボーカル担当だな」
”4人”ではなく”5人”
姉の文香に憑依していた男を含めると、
Romance Waveは5人だったのだと言う。
「だがよー、
”憑依”を知ってたのは、
3人だけだ。
憑依してたユウヤ、リーダーのアキラ、そして
キーボードのジュン…
俺と、セイジは知らなかった。
まさか、リーダーの女が、憑依で無理やり乗っ取られた女だとはな」
タクミは言う。
タクミとセイジは、憑依のことを当時は知らず、
姿を消したユウヤは、バンドから脱退、
文香は、リーダーがナンパして手に入れた女だと、そう思っていたのだー。
実際に、リーダーが文香をナンパしている現場に一緒にいたこともあるー
繰り返しのナンパに、文香がリーダーを受け入れて
付き合い始めたのだと、そう思っていたのだー
「”憑依”って聞いて、俺はびびっちまった」
タクミが言う。
ごく普通の女子大生にボーカルのユウヤが憑依して
乗っ取り、そして、好き放題しているー。
そう知り、タクミと、ドラム担当のセイジは、唖然としたー
”無関係の他人を乗っ取る”
その行為に、タクミは驚き、そして強い罪悪感を感じたー
「--俺は言ったんだ」
タクミが言う。
リーダーのアキラに対して
「その女の中に、ユウヤがいるのか?」とー。
すると、アキラは「そうだ」と答えたのだと言う。
文香は笑ったー
「この女は、身も心も俺のものなんだぜ?」
とー。
タクミは”すぐにその子の身体を返してやれよ!”と叫んだー。
他人の身体を乗っ取る、ということが
彼の中では”倫理的”に許せなかったのだー。
タクミとセイジの二人は、抗議したー。
だがー
リーダーのアキラも、文香に憑依しているユウヤもそれを拒みー
タクミとバンドメンバーの間で、溝が生まれたー。
そしてー
ある日、セイジが、水死体となって発見されたー
”消された”
そう思ったタクミは、その日のうちに姿を消して、
今はこうして、ひっそり身を隠しながら生きているのだと言うー。
「---…姉さんのことは残念だが、
関わらないほうがいい。
テメェも、死ぬか、乗っ取られるかするだけだぞ」
タクミの言葉に、
静香は困惑した表情を浮かべるー
「---憑依って、なんなんですか…?
お姉ちゃんを乗っ取ってるって…どういうことなんですか?」
静香は困惑しながら聞くー
憑依薬の存在は調べて分かっていたが
それでも聞かずにはいられなかったー
「--テメェの姉さんにしつこく迫ってたリーダーを見た”男”がさ、
キーボードのジュンを通じて、提供してくれたんだー。
憑依薬をー」
タクミはそう答えたー。
「---男?」
静香の言葉に、
タクミは「俺はよく知らねぇんだが、リーダーたちは”プロデューサー”と呼んでいた」
と答えた。
「-----」
静香は、その後もタクミと色々と情報交換をして、
そのまま店を出たー。
”暗黒街”
そう呼ばれる一角がここにはあるのだという。
そこに、Romance Waveの男たちも出入りしているー。
タクミによれば、今現在も姉の文香が
乗っ取られたままなのかは分からないが、
少なくとも、Romance Waveメンバーの誰かしらは、
その暗黒街に出入りしているはずだ、と静香に告げたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
静香は、息を潜め、
”暗黒街”と呼ばれる一角を見つめていたー。
入口は、人の気配がまるでない裏路地ー。
この奥にかつては大規模工場だった場所ー
今は廃墟となっているところがあり、
そこに地元の悪たちがいつの間にか住み着いて
独自の文化を形成したことから、
”暗黒街”と呼ばれている。
「----……(さすがにやばいかなぁ…)」
足を踏み入れようと思えば、暗黒街に足を踏み入れることはできるー
先ほどから、何人か”唯一の入口”である裏路地から
柄の悪い男や、女が出入りしているが
”明らかにヤバそうな人たち”ばかりで、
静香は戸惑っていたー。
自分の身に何かがあれば、
母の吉江にも心配をかけてしまう。
それだけは避けなくてはいけない。
そんな風に思いながら
”これ以上はー”
と、静香は考えた。
Romance Waveのメンバーのことも分かったし、
憑依のことも分かった。
今日は十分に収穫がーーーー
「---きゃははははははははっ!あいつはもうあたしの虜だから!」
ーー!?!?
静香が、慌てて暗黒街の出入り口の方に
目をやるーーー
そこにはーー
まるでキャバクラ嬢のような姿のー
姉・文香がいたー。
口調は全然違うがー
忘れもしない、姉・文香の声ー
そして、その視線の先には、文香がいるー
「--お姉ちゃん!」
静香は、5年ぶりの姉・文香の姿に、たまらず物影から飛び出したー。
そしてー
暗黒街の出入り口となっている小さな路地で、
静香は、姉・文香と5年ぶりに再会を果たしたー
「--なにあんた?」
変わり果てた文香ー。
金髪にピアスー
化粧も濃くー
真っ赤な口紅で、深紅に染まった唇ー
まるで、別人ー。
”ユウヤー”
姉の文香に5年前、憑依した男の名前。
「-----……お姉ちゃん…」
静香が悲しそうに言う。
周囲には2人の男がいるー。
キーボードのジュンと
バンドのリーダー・アキラだー。
「---お姉ちゃん……?????」
文香がガムを噛みながら
静香を睨みつけるようにして見つめたー
「----文香お姉ちゃんでしょ?」
静香が言うと、
文香は、「あ~~?」と言いながら、
少しして、ようやく意味が分かったかのように笑みを浮かべたー
「あ~~~~~ あたしの妹。ふふ、久しぶりぃ~」
文香がげらげら笑うー。
その笑みに、優しさはないー
「----…ユウヤ…さん?」
静香は”姉に5年前憑依した”という男の名前を口にしたー。
「あ?」
文香の表情から笑顔が消えるー。
「---お姉ちゃんの身体を…返して!」
静香が、勇気を振り絞って叫ぶー。
「-----アァ?」
文香の表情が、鬼のように、歪んだー。
③へ続く
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ようやくお姉ちゃんと再会できました!!
次回が最終回…!
ゾクゾクたっぷりなお話に…!?
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