<憑依>家出したお姉ちゃん②~行方~

5年前に家出したお姉ちゃんは憑依されていた。

その”姉”に5年前付きまとっていた
バンドグループ Romance Wave(ロマンス・ウェーブ)の一人の
行方を突き止めた妹は、その男に接触する…。

------------------------------

「----ーーー」

母・吉江のほうを見つめる静香ー。

吉江は、姉の文香が豹変して、家出してしまってから
心労により、まだ50代なのに、60代、下手をすれば
70代のおばあちゃんのように見えるぐらいに
老けてしまったー。

疲れ果てた様子の母を見つめながら
静香は
”わたしがお姉ちゃんを迎えに行ってくるー”と
決意を胸に、歩き出すー。

父・諭吉の浮気による離婚ー、
そして、姉・文香の突然の豹変からの家出ー

既に、母・吉江は”ふたりの家族”を失っているー。
静香は、なんとか、”そのうちの一人”だけでも
取り戻そうと、そう考えていたー。

静香は、Romance Waveのメンバー4人のうちの一人が、
毎週金曜日の夜に出入りしているという
スナック・ナイトメアに足を運ぶ。

「-----…」
女子大生一人でこんな場所に来るのは危険ー。
それは、静香もよく理解している。

だが、大学の友達をこんなことに巻き込むわけにはいかないし、
母・吉江にこんなことを言うこともできないー。

だからーーー

店の扉を開くー。

「--あらぁ、可愛い子ね」
化粧まみれのおばさんが、静香のほうを見る。

静香は頭を下げるー。
このスナックの店主なのだろうー。

そしてーー

「----!」
スナックのカウンターの奥の方で、
柄の悪い男が、一人寂しそうに、お酒と、
小さなから揚げを前に、うなだれていたー。

Romance Waveのメンバーのひとりー。

静香は、姉・文香が連れ込んでいた男たちを
よく覚えているー。

この男は、姉・文香と抱き合ったりしてた男ではないがー
確かに、家に来ていた男の一人だー。

「-----あの」
静香は勇気を出して、店の奥まで進むー。

ボタン一つ押すだけで、スマホで警察に通報できるように
準備もしてあるし、店の出口側の方に背を向けて、
男が何かしてきたらすぐに店の外に飛び出せるようにも、準備をしてある。

「-----」
静香は、深呼吸をしてからー
スマホに保存してある、
”姉・文香とRomance Waveの4人と思われる男たち”が写った、
5年前に撮影した写真を男に見せつけたー

この写真は、5年前に文香から”写真撮ってよ”と命令された際に
どさくさに紛れて撮影しておいた写真だー。

何かの手掛かりになるかもしれないー
そう思って、姉・文香と男たちの写真を撮影しておいた
5年前の写真ー。

今になって、それが役立つときが来たのだー

「----あん????」
男が、いかにも柄の悪い態度で、写真に目をやるー。

「----わたし、この人を探してるんです」
静香が言う。

写真の文香が、姉であることを伏せー、
文香を探している、と男に告げるー。

「---これ、あなたですよね?」
静香が、写真に写る、5年前の男を指さしながら言うー。

「--テメェ…!」
男が瞳を震わせたー。
そして、コップを乱暴にカウンターに置くと、
静香のほうを見つめたー。

静香が身構えるー
身体がぶるぶると震えているー

”恐怖”を感じているのだー

「---チッ」
男は露骨に聞こえるように舌打ちすると、
首をコキコキと鳴らしながら、静香のほうを見たー

静香は、”殴られる”と思ったー

だが、男は、頭を掻きむしると、「座れよ」と呟いたー

「-----」

警戒しながら、一つ離れた席に座る静香。

「----ははっ……まぁ、気持ちは分かるぜ」
男はそう言うと、スナックのママに「この子に何かジュースを出してやってくれ」と呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「----…はは、お姉さん思いのいい子だな」
男は、コップに入った水を飲みながら、そう呟くー

静香の前には、スナックのママが用意してくれた
ジュースが置かれているー。
それを一口飲み終えると、
静香は、男のほうを見た。

「確かに、俺はテメェの言う通り
 Romance Waveのメンバーだった。
 当時、俺はベースを担当しててな。

 でもー
 もう、辞めちまった」

男は、
5年前、姉・文香が家に連れ込んでいた男の一人で
間違いはなかったようだー。

Romance Waveのメンバーの一人
”タクミ”-。

だが、彼は、既にメンバーではないのだと言う。

「---で……あの女…いや、テメェのお姉さんのことだが」
タクミは言う。

「---」
スナックのママの方に目をやると、
スナックのママは何かを悟ったかのように、奥に向かうー。

「-----”憑依”----
 テメェの言う通りだ。
 テメェのお姉さんは、憑依されちまったのさ」

「----!!」
静香は、驚きの表情を浮かべたー。

覚悟はしていたー。
だが、いざー
”本当に姉が憑依されていた”となると
やはり、驚きは隠せなかったー

「じゃあ…お姉ちゃんが急に変わっちゃったのは…?」

話の中で、”文香の妹”だと身分を明かした静香は、
そう呟いたー。

「”中身”が変わったからー。
 そう、テメェのお姉さんの意思じゃない。
 お姉さんは”ユウヤ”に乗っ取られて、豹変したのさ」

「--ユウヤ…?」
静香が聞き返すと、

「Romance Waveのボーカルやってたやつだよ」
と、タクミは答えたー。

タクミという男は、柄が悪く、口も悪いが
話していると、どうたら悪い男では無さそうだったー。

「---写真、見せてみな」
タクミが言う。

静香が、スマホを握ったまま、
5年前の写真を見せるー

写真の男4人を一人ずつ指さすタクミ。

「これが、俺。分かるよな。」

「--こいつは、セイジ。ドラムを担当してた男ー」
写真で、ニヤニヤ笑ってる赤髪の男を指さすー。

「こいつは、ジュンだ。キーボードを担当してたー」
写真の、少し理知的なインテリヤクザっぽい男を指さすー。

「こいつが、アキラ。バンドのリーダーで、ギター担当だ」
姉・文香と抱き合ってた男を指さすー。

「そしてーーー」
姉・文香を指さす。

「テメェのお姉さんに憑依してるのが”ユウヤ”だー。
 ボーカル担当だな」

”4人”ではなく”5人”
姉の文香に憑依していた男を含めると、
Romance Waveは5人だったのだと言う。

「だがよー、
 ”憑依”を知ってたのは、
 3人だけだ。
 憑依してたユウヤ、リーダーのアキラ、そして
 キーボードのジュン…

 俺と、セイジは知らなかった。
 まさか、リーダーの女が、憑依で無理やり乗っ取られた女だとはな」

タクミは言う。

タクミとセイジは、憑依のことを当時は知らず、
姿を消したユウヤは、バンドから脱退、
文香は、リーダーがナンパして手に入れた女だと、そう思っていたのだー。
実際に、リーダーが文香をナンパしている現場に一緒にいたこともあるー

繰り返しのナンパに、文香がリーダーを受け入れて
付き合い始めたのだと、そう思っていたのだー

「”憑依”って聞いて、俺はびびっちまった」
タクミが言う。

ごく普通の女子大生にボーカルのユウヤが憑依して
乗っ取り、そして、好き放題しているー。
そう知り、タクミと、ドラム担当のセイジは、唖然としたー

”無関係の他人を乗っ取る”
その行為に、タクミは驚き、そして強い罪悪感を感じたー

「--俺は言ったんだ」

タクミが言う。

リーダーのアキラに対して
「その女の中に、ユウヤがいるのか?」とー。

すると、アキラは「そうだ」と答えたのだと言う。

文香は笑ったー

「この女は、身も心も俺のものなんだぜ?」
とー。

タクミは”すぐにその子の身体を返してやれよ!”と叫んだー。

他人の身体を乗っ取る、ということが
彼の中では”倫理的”に許せなかったのだー。

タクミとセイジの二人は、抗議したー。
だがー
リーダーのアキラも、文香に憑依しているユウヤもそれを拒みー

タクミとバンドメンバーの間で、溝が生まれたー。

そしてー
ある日、セイジが、水死体となって発見されたー

”消された”

そう思ったタクミは、その日のうちに姿を消して、
今はこうして、ひっそり身を隠しながら生きているのだと言うー。

「---…姉さんのことは残念だが、
 関わらないほうがいい。
 テメェも、死ぬか、乗っ取られるかするだけだぞ」

タクミの言葉に、
静香は困惑した表情を浮かべるー

「---憑依って、なんなんですか…?
 お姉ちゃんを乗っ取ってるって…どういうことなんですか?」
静香は困惑しながら聞くー

憑依薬の存在は調べて分かっていたが
それでも聞かずにはいられなかったー

「--テメェの姉さんにしつこく迫ってたリーダーを見た”男”がさ、
 キーボードのジュンを通じて、提供してくれたんだー。
 憑依薬をー」

タクミはそう答えたー。

「---男?」
静香の言葉に、
タクミは「俺はよく知らねぇんだが、リーダーたちは”プロデューサー”と呼んでいた」
と答えた。

「-----」
静香は、その後もタクミと色々と情報交換をして、
そのまま店を出たー。

”暗黒街”
そう呼ばれる一角がここにはあるのだという。

そこに、Romance Waveの男たちも出入りしているー。

タクミによれば、今現在も姉の文香が
乗っ取られたままなのかは分からないが、
少なくとも、Romance Waveメンバーの誰かしらは、
その暗黒街に出入りしているはずだ、と静香に告げたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

静香は、息を潜め、
”暗黒街”と呼ばれる一角を見つめていたー。

入口は、人の気配がまるでない裏路地ー。
この奥にかつては大規模工場だった場所ー
今は廃墟となっているところがあり、
そこに地元の悪たちがいつの間にか住み着いて
独自の文化を形成したことから、
”暗黒街”と呼ばれている。

「----……(さすがにやばいかなぁ…)」
足を踏み入れようと思えば、暗黒街に足を踏み入れることはできるー

先ほどから、何人か”唯一の入口”である裏路地から
柄の悪い男や、女が出入りしているが
”明らかにヤバそうな人たち”ばかりで、
静香は戸惑っていたー。

自分の身に何かがあれば、
母の吉江にも心配をかけてしまう。
それだけは避けなくてはいけない。

そんな風に思いながら
”これ以上はー”
と、静香は考えた。

Romance Waveのメンバーのことも分かったし、
憑依のことも分かった。
今日は十分に収穫がーーーー

「---きゃははははははははっ!あいつはもうあたしの虜だから!」

ーー!?!?

静香が、慌てて暗黒街の出入り口の方に
目をやるーーー

そこにはーー
まるでキャバクラ嬢のような姿のー
姉・文香がいたー。

口調は全然違うがー
忘れもしない、姉・文香の声ー
そして、その視線の先には、文香がいるー

「--お姉ちゃん!」
静香は、5年ぶりの姉・文香の姿に、たまらず物影から飛び出したー。

そしてー
暗黒街の出入り口となっている小さな路地で、
静香は、姉・文香と5年ぶりに再会を果たしたー

「--なにあんた?」
変わり果てた文香ー。

金髪にピアスー
化粧も濃くー
真っ赤な口紅で、深紅に染まった唇ー

まるで、別人ー。

”ユウヤー”
姉の文香に5年前、憑依した男の名前。

「-----……お姉ちゃん…」
静香が悲しそうに言う。

周囲には2人の男がいるー。
キーボードのジュンと
バンドのリーダー・アキラだー。

「---お姉ちゃん……?????」
文香がガムを噛みながら
静香を睨みつけるようにして見つめたー

「----文香お姉ちゃんでしょ?」
静香が言うと、
文香は、「あ~~?」と言いながら、
少しして、ようやく意味が分かったかのように笑みを浮かべたー

「あ~~~~~ あたしの妹。ふふ、久しぶりぃ~」
文香がげらげら笑うー。

その笑みに、優しさはないー

「----…ユウヤ…さん?」
静香は”姉に5年前憑依した”という男の名前を口にしたー。

「あ?」
文香の表情から笑顔が消えるー。

「---お姉ちゃんの身体を…返して!」
静香が、勇気を振り絞って叫ぶー。

「-----アァ?」
文香の表情が、鬼のように、歪んだー。

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

ようやくお姉ちゃんと再会できました!!
次回が最終回…!
ゾクゾクたっぷりなお話に…!?

コメント