<他者変身>禁断の”嘘”①~悲劇~

妻の命を奪ってしまったー。

しかも今日は「妻の父」が遊びに来る日ー。

困惑した夫が取った手段はー
”妻に変身して、ごまかす”ことー。

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梶田 重康(かじた しげやす)は、
会社で同僚からもらった怪しげな薬を見つめていたー。

”変身薬”

海外旅行に行った同僚が、
砂漠近辺の集落で、怪しげな老婆から
貰ったのだと言う。

”気味悪いからあげるわ”と、苦笑いしながら、
その同僚が、くれたのが、この”変身薬”だ。

重康は一応貰っておいたものの、
使う気は全くなかったし、
何なら、次のゴミで捨てようかとも思っていたー。

「--つーか、こんなもん押し付けないでくれよ」
重康は、そう呟くと、自分の部屋から出て、リビングに向かったー。

リビングには、妻の遥奈(はるな)がいたー。
高校の時に知り合って、その後、付き合いをはじめー
大学卒業後に結婚したのだー。

だがー
最近は、”とあること”が原因で
関係がギクシャクしていたー。

「--お養父さん、午後だったっけ?」
重康が言うと、
遥奈は「うん」と呟くー

遥奈は、20代中盤の今でも
とてもきれいな雰囲気で、
この前も”高校生に間違えられちゃった”などと、
喜んでいたー。

「--じゃあまだ少し時間はあるな~!」
時計を見つめる重康ー

今は11時。

今日は妻である遥奈の父親・健三郎(けんざぶろう)が
家に遊びに来ることになっているー。

”午後には到着する”と言っていたらしいから、
まだ、時間があるー。

そんな風に考えていた重康ー。

この時はまだ”悲劇”が起こるなんて
考えてもみなかったー。

”お養父さんが来る前に、シャワーでも浴びておくか”
と、シャワーを浴びる重康。

シャワーから上がると、
遥奈が「ねぇ」と呟いたー

遥奈が勝手に重康のスマホをいじっているー

「お、、おい!?」
重康が声を荒げるー

遥奈が近づいてくるー

「これ、なに?」
とー。

”栗原さん”と書かれたラインのやり取りを
見せて来る遥奈。

「---ん?あぁ、栗原さんは、会社の後輩だよ。
 今年入ってきた新人」

重康は、何のうしろめたさもなく、そう答えたー。

栗原 登美(くりはら とみ)は、
会社の新人女性社員で、
重康が”2年先輩として、教えてやってくれ”と
上司から言われたことで、色々教えているー

「---ほんとに?」
遥奈が言うー

「---はぁ」
重康はため息をついたー

最近ー
遥奈は、重康の”浮気”を疑っているー

この前も、女性上司を含む、飲み会に行ったときに、
浮気を疑われているー

重康に、そんなつもりは全くないし、
そんな事実もないー
ただ、会社には、男女が半分ずつぐらいいるため、
当然、女性との仕事上の絡みは出てきてしまう。

”妻がいるので、あなたとは喋りません”とは
さすがにできない。

遥奈だって、仕事上で、男と絡むことは当然あるし、
それは仕事上、普通の範囲内であれば、
仕方のないことだと、重康は考えているー

「---でも、こんなに親しそうに!」
LINEの画面を見せて来る遥奈ー

”栗原さん”とのやり取りが親しそうに見えるのだと言うー。

「--あのなぁ」
重康は苦笑いしながら言うー。

”浮気を疑われる”状況に最近はうんざりしていてー
先日もそれで喧嘩になっているー

”してないものを、している”と決めつけられるのは
正直、きつい。

それでも、重康は我慢をしていたー

なぜならー
妻の遥奈は、重康と付き合い始める前の
高校時代の彼氏に”浮気”されて、捨てられた過去があるからだー。
それが、トラウマになっているのだと思う。

本当にひどい”浮気”だったー。

だから、不安になっているのだろう、と
重康は我慢をしていたー。

「---よく見てくれよ、仕事上の話しかしてないだろ?」
重康がLINEの画面を見せるー。

「---でも楽しそう!!雑談もしてる!」
遥奈が不貞腐れた様子で言う。

「--はぁ…これは社交辞令だろ?」
重康が言う。

確かに雑談は0ではない。

だが、それは仕事上の連絡をした時に
少しすることがある程度で、
雑談目的で重康から連絡をしたことはないし、
相手の栗原さんからも連絡はない。

「---消して」
遥奈が言う。

「--は?」
重康が戸惑う。

「今すぐ、その女の連絡先、消して!」
遥奈は叫んだ。

「は!?おいおいおいおい!何言ってるんだよ!?」
重康は声を荒げたー

「あんまり仕事仕事って言いたくないけどさ、
 さすがに、仕事上で必要な相手の連絡先消してって
 言われてもそりゃ無理だって!」

重信の言葉に、
遥奈は言うー

「-ーーー出た!浮気の言い訳」

勝手に”浮気”と決めつける遥奈ー

普段の遥奈はとてもやさしく、穏やかなのだが、
”浮気”のトラウマからかー
こういう話になると豹変してしまうー

「---違うって言ってるだろ!」
重康は思わず声を荒げるー。

「--違くない!浮気とか、ホント最低!」
無理やりスマホを取り上げる遥奈ー

「おい!やめろって!」
重康が叫ぶー

遥奈は、重康のスマホの中にある
”女性”の連絡先を全て削除しようとしていたー

「やめろってば!」
重康が、遥奈からスマホを取り返そうとする。

「--浮気男!最低!」
遥奈が叫ぶー

「--違うって言ってんだろ!」
重康が大声で叫んで、
遥奈から強引にスマホを取り上げたー

女性の連絡先が入っているのは
”仕事関係”
”親族”
”学生時代の友人”
などであり、
浮気相手ではない。

消されてしまっては、困る相手も多いー。

恋愛関係にある相手など、いるはずがないー
一番大事な遥奈以外に、女性を愛するはずもないー。

「--ーーあっ!」
スマホを強引に取り上げた際に、遥奈がバランスを崩してーー
背後に倒れ込むー

ゴン!

鈍い音がしたー

「----」
スマホを取り返した重康は
連絡先を何人か削除されたことに気づいて
「何てことしてくれるんだ!?」と、遥奈の方に言い放ったー

だがーー
遥奈の返事はないー

「--おい!今度はだんまりかよ!?
 俺は浮気なんかしてなーーーーーーー」

ーーーーー!!!

重康は言葉を失ったー

遥奈がーー
勢いよく転倒した際に、
机の角に勢いよく頭を打ちつけてー
頭から血を流してー
口をぽかんと開いたままー
その目は輝きを失い、虚空を見つめていたー

「お…おい!?!?」
重康が慌てて駆け寄る。

「遥奈!?!?遥奈!?!?!?
 おい、、は???う、、嘘だろ!?」
重康は慌てるー

遥奈の後頭部から
止まらない血が流れているー

「は…!?!?え…!?!?おい!?」
重康は、救急車を呼ぼうとしたー

だがー

遥奈の顔を見る重康ー

その雰囲気からー
重康は、認めざるを得なかったー

”遥奈は、もう死んでいるー”

とー。

理由はどうあれ、
スマホを取り返すために、遥奈を突き飛ばしたー

そして、突き飛ばされた遥奈が転倒してー
頭を打ち付けてー
死んだー

「----え、、、ち、、ちがっ!?
 俺は…人殺しじゃ… ない!」

重康は、”自分が人殺し”をしてしまったことに
恐怖を覚えたー
パニックを起こす重康ー

慌てて重康は、妻の遺体を押し入れの中に
押し込んでしまうー。

「--ど、、どうしよう…まじかよ…
 なんで、、俺は、、俺は…」
重康はパニックを起こすー。

妻との口論からの事故ー

だが、どう考えても、自分が妻を殺したことになるしー
経過はどうあれ、やってしまったことが全てだー

「--嘘だ…嘘だ!」
”妻殺し”で”人生終了”

そんな考えが頭をよぎるー

もちろん、妻の遥奈をあっけなく失ってしまったことにも
激しい動揺を覚えていたー。

♪~~

♪~~~

ドキッ!!!!

飛び上がるほど驚いて振り返る重康ー。
そこにはー
妻のスマホー。

「---!!!」
スマホの画面には妻の父親・健三郎の名前が
表示されている。

電話に出ることはできないー。
夫である重康が、妻のスマホで出るのは、
なんだかおかしいー
そんな気がしてしまったのだー。

「どうする…?どうする?」
重康は脂汗をかき始める。

まさに絶体絶命の状態。

ーー!

”あと15分ぐらいで到着するよ”

LINEが届いて、
そう表示されていた。

「--は、、、、あっあっあっ」
語学力も失い、過呼吸になりそうになりながら、
重康は、頭をフル回転させるー。

どうにかー
どうにか、言い逃れる方法は、ないか!?
どうにかーー
どうにかならないのか!

くそっ!
俺はー
俺は悪くない!

殺すつもりなんてまったくなかったー!
事故だー!
これは、事故なんだー!

それにーー
勝手に連絡先を消そうとした遥奈が悪いんだー!

本当に浮気なんてしてないし
そんなこともこれっぽっちも考えていないー

連絡先を消されてしまえば、大変なことになったー
だから、止めるしかなかったー

これはー

じ こ

おれは わるくないーーー

「あああああああああ…」
重康は一人、うめき声をあげたー。

「-------!!!!!!!!!」

重康は、あることを思いついたー

会社の同僚からもらったー
”変身薬”

ーーー!!!

「--ああああああああああああああ!!!!!!!!」
重康は、必死に2階に走ったー

変身薬があればー
変身薬があればー
俺は、捕まらない!

そう、思いながらー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

20分後ー

”ちょっと遅れてしまったな”などと思いながら
妻・遥奈の父親・健三郎は、
家の前にやってきていたー

娘の遥奈との関係は良好だし、
娘の夫である重康とも良好な関係を続けているー

健三郎が、インターホンを鳴らすー

少し間を置いてからー
遥奈が出てきたー

「あ、ど、どうぞ~ほほほほ」
遥奈はそう言うと、健三郎を家の中に案内したー

「--ーーー」
なんだか、少し家が散らかっている気がするー
そんな風に思いながら健三郎は、遥奈に案内されて、
イスに座るー

遥奈の髪が乱れていてー
化粧が妙に濃いというか、不自然な感じー

服装も、遥奈が好む感じの服装ではなく、
上下がアンバランスな恰好だー。
黒タイツのミニスカート姿で、下はおしゃれしている感じなのだが
上はジャージで、だらしない着こなしで、
なんとなく”上下のバランスがおかしい”
という雰囲気を健三郎は感じとっていた。

「----あれ?重康くんは?」
健三郎が尋ねる。

夫の重康の姿がない。

「あーー、、えっと、俺はですね…

 その、仕事でちょっと」

遥奈は、そう答えたー。

「---え」
遥奈の父親・健三郎が表情を歪めるー

「---あ」
遥奈は、表情を歪めたー

父・健三郎を出迎えた遥奈はー
当然”本物”の遥奈ではないー
本物の遥奈は、押し入れの奥底でー
既に”屍”になっているー

この遥奈はー
夫・重康が変身した姿だー。
会社の同僚からもらった変身薬は
”本物”で、重康がやけくそになって
飲んだところー
本当に妻・遥奈の姿に変身したのだー

慌てて髪を整えて、
知識ほぼ0の状態でメイクをして、
必死に遥奈の服を漁ってー
こうして健三郎を出迎えたのだー

「あ、、、え~っと、
 ”俺、仕事で!”って言ってましたので」

遥奈が言うと、
健三郎は
「---そうか~ザンネンだな~」と呟きながらも
「そういえば、どうして敬語なんだ?」と、笑いながら言った。

「--あ、、、え~…
 もう、やだ~!おとうさんったら~!」

パニックになった遥奈の姿の重康は、
とにかく誤魔化そうと、笑いながら健三郎を叩いたー

なんとかー
なんとか”嘘”を貫き通すー。

重康は、そう決意していたー

禁断の”嘘”が、
どのような結末をもたらすのかー。
それを、彼はまだ知らなかった。

②へ続く

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禁断の嘘をつく道を選んでしまった重康…
果たしてどうなってしまうのでしょうか~?

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