妻の命を奪ってしまったー。
しかも今日は「妻の父」が遊びに来る日ー。
困惑した夫が取った手段はー
”妻に変身して、ごまかす”ことー。
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梶田 重康(かじた しげやす)は、
会社で同僚からもらった怪しげな薬を見つめていたー。
”変身薬”
海外旅行に行った同僚が、
砂漠近辺の集落で、怪しげな老婆から
貰ったのだと言う。
”気味悪いからあげるわ”と、苦笑いしながら、
その同僚が、くれたのが、この”変身薬”だ。
重康は一応貰っておいたものの、
使う気は全くなかったし、
何なら、次のゴミで捨てようかとも思っていたー。
「--つーか、こんなもん押し付けないでくれよ」
重康は、そう呟くと、自分の部屋から出て、リビングに向かったー。
リビングには、妻の遥奈(はるな)がいたー。
高校の時に知り合って、その後、付き合いをはじめー
大学卒業後に結婚したのだー。
だがー
最近は、”とあること”が原因で
関係がギクシャクしていたー。
「--お養父さん、午後だったっけ?」
重康が言うと、
遥奈は「うん」と呟くー
遥奈は、20代中盤の今でも
とてもきれいな雰囲気で、
この前も”高校生に間違えられちゃった”などと、
喜んでいたー。
「--じゃあまだ少し時間はあるな~!」
時計を見つめる重康ー
今は11時。
今日は妻である遥奈の父親・健三郎(けんざぶろう)が
家に遊びに来ることになっているー。
”午後には到着する”と言っていたらしいから、
まだ、時間があるー。
そんな風に考えていた重康ー。
この時はまだ”悲劇”が起こるなんて
考えてもみなかったー。
”お養父さんが来る前に、シャワーでも浴びておくか”
と、シャワーを浴びる重康。
シャワーから上がると、
遥奈が「ねぇ」と呟いたー
遥奈が勝手に重康のスマホをいじっているー
「お、、おい!?」
重康が声を荒げるー
遥奈が近づいてくるー
「これ、なに?」
とー。
”栗原さん”と書かれたラインのやり取りを
見せて来る遥奈。
「---ん?あぁ、栗原さんは、会社の後輩だよ。
今年入ってきた新人」
重康は、何のうしろめたさもなく、そう答えたー。
栗原 登美(くりはら とみ)は、
会社の新人女性社員で、
重康が”2年先輩として、教えてやってくれ”と
上司から言われたことで、色々教えているー
「---ほんとに?」
遥奈が言うー
「---はぁ」
重康はため息をついたー
最近ー
遥奈は、重康の”浮気”を疑っているー
この前も、女性上司を含む、飲み会に行ったときに、
浮気を疑われているー
重康に、そんなつもりは全くないし、
そんな事実もないー
ただ、会社には、男女が半分ずつぐらいいるため、
当然、女性との仕事上の絡みは出てきてしまう。
”妻がいるので、あなたとは喋りません”とは
さすがにできない。
遥奈だって、仕事上で、男と絡むことは当然あるし、
それは仕事上、普通の範囲内であれば、
仕方のないことだと、重康は考えているー
「---でも、こんなに親しそうに!」
LINEの画面を見せて来る遥奈ー
”栗原さん”とのやり取りが親しそうに見えるのだと言うー。
「--あのなぁ」
重康は苦笑いしながら言うー。
”浮気を疑われる”状況に最近はうんざりしていてー
先日もそれで喧嘩になっているー
”してないものを、している”と決めつけられるのは
正直、きつい。
それでも、重康は我慢をしていたー
なぜならー
妻の遥奈は、重康と付き合い始める前の
高校時代の彼氏に”浮気”されて、捨てられた過去があるからだー。
それが、トラウマになっているのだと思う。
本当にひどい”浮気”だったー。
だから、不安になっているのだろう、と
重康は我慢をしていたー。
「---よく見てくれよ、仕事上の話しかしてないだろ?」
重康がLINEの画面を見せるー。
「---でも楽しそう!!雑談もしてる!」
遥奈が不貞腐れた様子で言う。
「--はぁ…これは社交辞令だろ?」
重康が言う。
確かに雑談は0ではない。
だが、それは仕事上の連絡をした時に
少しすることがある程度で、
雑談目的で重康から連絡をしたことはないし、
相手の栗原さんからも連絡はない。
「---消して」
遥奈が言う。
「--は?」
重康が戸惑う。
「今すぐ、その女の連絡先、消して!」
遥奈は叫んだ。
「は!?おいおいおいおい!何言ってるんだよ!?」
重康は声を荒げたー
「あんまり仕事仕事って言いたくないけどさ、
さすがに、仕事上で必要な相手の連絡先消してって
言われてもそりゃ無理だって!」
重信の言葉に、
遥奈は言うー
「-ーーー出た!浮気の言い訳」
勝手に”浮気”と決めつける遥奈ー
普段の遥奈はとてもやさしく、穏やかなのだが、
”浮気”のトラウマからかー
こういう話になると豹変してしまうー
「---違うって言ってるだろ!」
重康は思わず声を荒げるー。
「--違くない!浮気とか、ホント最低!」
無理やりスマホを取り上げる遥奈ー
「おい!やめろって!」
重康が叫ぶー
遥奈は、重康のスマホの中にある
”女性”の連絡先を全て削除しようとしていたー
「やめろってば!」
重康が、遥奈からスマホを取り返そうとする。
「--浮気男!最低!」
遥奈が叫ぶー
「--違うって言ってんだろ!」
重康が大声で叫んで、
遥奈から強引にスマホを取り上げたー
女性の連絡先が入っているのは
”仕事関係”
”親族”
”学生時代の友人”
などであり、
浮気相手ではない。
消されてしまっては、困る相手も多いー。
恋愛関係にある相手など、いるはずがないー
一番大事な遥奈以外に、女性を愛するはずもないー。
「--ーーあっ!」
スマホを強引に取り上げた際に、遥奈がバランスを崩してーー
背後に倒れ込むー
ゴン!
鈍い音がしたー
「----」
スマホを取り返した重康は
連絡先を何人か削除されたことに気づいて
「何てことしてくれるんだ!?」と、遥奈の方に言い放ったー
だがーー
遥奈の返事はないー
「--おい!今度はだんまりかよ!?
俺は浮気なんかしてなーーーーーーー」
ーーーーー!!!
重康は言葉を失ったー
遥奈がーー
勢いよく転倒した際に、
机の角に勢いよく頭を打ちつけてー
頭から血を流してー
口をぽかんと開いたままー
その目は輝きを失い、虚空を見つめていたー
「お…おい!?!?」
重康が慌てて駆け寄る。
「遥奈!?!?遥奈!?!?!?
おい、、は???う、、嘘だろ!?」
重康は慌てるー
遥奈の後頭部から
止まらない血が流れているー
「は…!?!?え…!?!?おい!?」
重康は、救急車を呼ぼうとしたー
だがー
遥奈の顔を見る重康ー
その雰囲気からー
重康は、認めざるを得なかったー
”遥奈は、もう死んでいるー”
とー。
理由はどうあれ、
スマホを取り返すために、遥奈を突き飛ばしたー
そして、突き飛ばされた遥奈が転倒してー
頭を打ち付けてー
死んだー
「----え、、、ち、、ちがっ!?
俺は…人殺しじゃ… ない!」
重康は、”自分が人殺し”をしてしまったことに
恐怖を覚えたー
パニックを起こす重康ー
慌てて重康は、妻の遺体を押し入れの中に
押し込んでしまうー。
「--ど、、どうしよう…まじかよ…
なんで、、俺は、、俺は…」
重康はパニックを起こすー。
妻との口論からの事故ー
だが、どう考えても、自分が妻を殺したことになるしー
経過はどうあれ、やってしまったことが全てだー
「--嘘だ…嘘だ!」
”妻殺し”で”人生終了”
そんな考えが頭をよぎるー
もちろん、妻の遥奈をあっけなく失ってしまったことにも
激しい動揺を覚えていたー。
♪~~
♪~~~
ドキッ!!!!
飛び上がるほど驚いて振り返る重康ー。
そこにはー
妻のスマホー。
「---!!!」
スマホの画面には妻の父親・健三郎の名前が
表示されている。
電話に出ることはできないー。
夫である重康が、妻のスマホで出るのは、
なんだかおかしいー
そんな気がしてしまったのだー。
「どうする…?どうする?」
重康は脂汗をかき始める。
まさに絶体絶命の状態。
ーー!
”あと15分ぐらいで到着するよ”
LINEが届いて、
そう表示されていた。
「--は、、、、あっあっあっ」
語学力も失い、過呼吸になりそうになりながら、
重康は、頭をフル回転させるー。
どうにかー
どうにか、言い逃れる方法は、ないか!?
どうにかーー
どうにかならないのか!
くそっ!
俺はー
俺は悪くない!
殺すつもりなんてまったくなかったー!
事故だー!
これは、事故なんだー!
それにーー
勝手に連絡先を消そうとした遥奈が悪いんだー!
本当に浮気なんてしてないし
そんなこともこれっぽっちも考えていないー
連絡先を消されてしまえば、大変なことになったー
だから、止めるしかなかったー
これはー
じ こ
おれは わるくないーーー
「あああああああああ…」
重康は一人、うめき声をあげたー。
「-------!!!!!!!!!」
重康は、あることを思いついたー
会社の同僚からもらったー
”変身薬”
ーーー!!!
「--ああああああああああああああ!!!!!!!!」
重康は、必死に2階に走ったー
変身薬があればー
変身薬があればー
俺は、捕まらない!
そう、思いながらー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20分後ー
”ちょっと遅れてしまったな”などと思いながら
妻・遥奈の父親・健三郎は、
家の前にやってきていたー
娘の遥奈との関係は良好だし、
娘の夫である重康とも良好な関係を続けているー
健三郎が、インターホンを鳴らすー
少し間を置いてからー
遥奈が出てきたー
「あ、ど、どうぞ~ほほほほ」
遥奈はそう言うと、健三郎を家の中に案内したー
「--ーーー」
なんだか、少し家が散らかっている気がするー
そんな風に思いながら健三郎は、遥奈に案内されて、
イスに座るー
遥奈の髪が乱れていてー
化粧が妙に濃いというか、不自然な感じー
服装も、遥奈が好む感じの服装ではなく、
上下がアンバランスな恰好だー。
黒タイツのミニスカート姿で、下はおしゃれしている感じなのだが
上はジャージで、だらしない着こなしで、
なんとなく”上下のバランスがおかしい”
という雰囲気を健三郎は感じとっていた。
「----あれ?重康くんは?」
健三郎が尋ねる。
夫の重康の姿がない。
「あーー、、えっと、俺はですね…
その、仕事でちょっと」
遥奈は、そう答えたー。
「---え」
遥奈の父親・健三郎が表情を歪めるー
「---あ」
遥奈は、表情を歪めたー
父・健三郎を出迎えた遥奈はー
当然”本物”の遥奈ではないー
本物の遥奈は、押し入れの奥底でー
既に”屍”になっているー
この遥奈はー
夫・重康が変身した姿だー。
会社の同僚からもらった変身薬は
”本物”で、重康がやけくそになって
飲んだところー
本当に妻・遥奈の姿に変身したのだー
慌てて髪を整えて、
知識ほぼ0の状態でメイクをして、
必死に遥奈の服を漁ってー
こうして健三郎を出迎えたのだー
「あ、、、え~っと、
”俺、仕事で!”って言ってましたので」
遥奈が言うと、
健三郎は
「---そうか~ザンネンだな~」と呟きながらも
「そういえば、どうして敬語なんだ?」と、笑いながら言った。
「--あ、、、え~…
もう、やだ~!おとうさんったら~!」
パニックになった遥奈の姿の重康は、
とにかく誤魔化そうと、笑いながら健三郎を叩いたー
なんとかー
なんとか”嘘”を貫き通すー。
重康は、そう決意していたー
禁断の”嘘”が、
どのような結末をもたらすのかー。
それを、彼はまだ知らなかった。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
禁断の嘘をつく道を選んでしまった重康…
果たしてどうなってしまうのでしょうか~?
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