男は、命を絶とうとしていたー
だがー
一人で死ぬのは嫌だ、という
こだわりを持っている彼はー
”誰かに憑依して、その身体で飛び降りる”ことを
決意するー
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島森 慎一郎(しまもり しんいちろう)は、
自殺を考えていたー
もう、この世に未練はないー
職場はブラック企業ー
給料も少なく、稼ぎもないー
友達はいないー
恋人もいないー
モテないー。
家族仲も、良くない。
プライベートの趣味もないー
もう、満足したー
彼は、そう思っていたー
この世に未練はない。
こんなつまらない日々を送るぐらいなら、
死んだ方がマシだ。
とー。
つまらない映画をいつまでも見続ける必要はない。
見始めた映画が、つまらなかったから、
最後まで見ることなく、劇場から立ち去るー
それだけのことだ。
人生と言う名の映画がつまらなかったから、
途中で退席するのだー。
つまらない映画を見続けるほど、苦痛なことはないー
つまらない人生も同じだー。
つまらないから、途中で退席するー
ただ、それだけのこと。
慎一郎は、そんな風に考えていたー
だが、彼は同時に”極度の寂しがり屋”だったー
どうせ死ぬなら、誰かと一緒ー
そんな風に思っていた彼はー
”一緒に死ぬ相手”を求めて
そういうサイトを見つめて回る日々を送っていたー
だが、慎一郎は思うー
こういうサイトで合流した相手との
トラブルの事例はたまに聞くし、
直前になって相手が思いとどまったり
そもそも相手は最初からその気がなかったりするー。
「ダメだ」
慎一郎は、頭を抱えるー
”誰かと一緒に”
慎一郎が、自らの自殺にそんな”理想”を抱いていた
一人であの世に行くのは不安だ。
だから、誰かと一緒に行きたいー
そんな風に思いながら
スマホで情報を検索する日々ー
そして、彼は見つけてしまったー
”憑依自殺”
というワードを。
「--なんだ、これは?」
慎一郎が、そのサイトを見るとー
”憑依して、他人と一緒にあの世に旅立とう”
と、書かれていたー
詳しく説明を読む慎一郎。
そこには
”憑依薬”なるものを使って
他人の身体を乗っ取り、
乗っ取ったその身体ごと命を絶つ、
と書かれていた。
それが、”憑依自殺”なのだと言う。
憑依薬を飲み、自分の身体が霊体化したら、
他人の身体を乗っ取り、
その身体ごと、命を絶つことで、
自分も、乗っ取った身体も命を落とすー
そう、書かれていたー。
そうすることにより
”あの世へのお供”が出来るのだと言うー
「これだ」
慎一郎は迷わず、その”終活憑依薬”を購入したー。
どうせイタズラかもしれないし
お金をだまし取られるだけかもしれない。
個人情報目当ての可能性もある。
だが、慎一郎にとっては、どうでも良かったー
もう、どうせ、じきに死ぬのだからー。
人生という映画はつまらないー
だからー
途中で劇場を出るのだからー
・・・・・・・・・・・・・
そして数日後ー
慎一郎の元に
”終活用憑依薬”が本当に到着したー
慎一郎は笑うー
”どうせただの水か、栄養ドリンクか何かだろう”
とー。
これを飲むことで自分の身体が霊体になる、なんてことは
まずあり得ないー
もしかしたら、この謎の液体は毒かもしれないー
だが、慎一郎は、そんなことは恐れていない。
どうせ、命を捨てるつもりなのだから、
仮にこれが毒だったとしても、
慎一郎にとっては、どうでも良いことなのだー。
「---」
慎一郎は、ターゲットを思い浮かべるー
近所に住んでいる一人暮らしの女子大生、
生瀬 野々花(なませ ののか)ー
とても可愛らしく、すれ違いざまに慎一郎も
挨拶をする間柄だー。
また、時々”実家から送られてきた野菜”を
おすそ分けしてくれたりもするー
野々花は、とても人生をエンジョイしている感じで
よく友達も遊びに来ているように見えるし
おしゃれを楽しんだり、毎日ニコニコしてて
本当に充実した人生を送っているように見えるー
そんな野々花をー
”道連れ”にしようと、慎一郎は考えていたー
自分の人生には、”何も”ないー
だが、近所に住む女子大生・野々花には
色々なものがあるー
そんな野々花のことが、慎一郎は羨ましかったし
嫉妬していたー
野々花のような可愛くて優しい女性を
あの世へのお供として連れていきたいー
という気持ちもあったが、
同時に”充実した人生を送っている”
野々花に対する嫉妬の感情もあったー
だからこそ、慎一郎は、
”憑依自殺”の道連れに、野々花を選んだのだったー
「----」
深呼吸する慎一郎ー
「今日、俺は死ぬ」
慎一郎は呟くー
特別、大きな悩みがあるわけではないー
だがー
とにかく、人生がつまらないー。
友達も、恋人もおらず
趣味もなく
職場はブラック企業で
将来に希望も持てないー
「さらばだ」
慎一郎はそう呟くと
”終活用憑依薬”を飲み干したー
激しい衝撃を感じる慎一郎ー
”やっぱり、これ毒?”
慎一郎は、そんな風に思うー
最後の最後まで騙されて、死ぬー
それは、それで悪くはないのかもしれない。
自分のクソみたいな人生に幕を引くためには
この”終活憑依薬”も、ぴったりだったのかもしれないー
自分の身体の感覚が抜けていくー
空気も、何も感じなくなっていくー
”これが、死か”
慎一郎はそう思ったー
死を恐れる人間は多い。
だが、慎一郎は死を一切恐れていないー
あの世があるのなら、見てみたい。
慎一郎は、
”人生”とは、”牢獄”なのではないかと考えているー
”楽園”で罪を犯した者が、人間として生まれて
死ぬまでの間、この世に閉じ込められるー
そんな世界なのではないか、と。
人生と言う名の牢獄ー
寿命を迎えたら、”元々いた世界”に戻ることができるのではないか、と
そんな風に考えているー
「---!」
そんなことを心の中で考えていた慎一郎は、
目を開いたー
「あれ?」
自分の家ー
だが、感覚は、ないままー
”ここが、あの世なのか?”
そんな風に思いながら、ふと、気付いたー
自分の身体が、幽霊のようになっていることにー
「そうか!」
慎一郎は思うー
”憑依薬”は本物だったんだ、と。
終活用憑依薬は、飲むと
自分の身体が霊体になり、他人に憑依できるようになる、
と、そう書かれていた。
「--はは、身体とはおさらばか」
慎一郎は笑うー
”失った身体は元には戻りません”と
そう、注意書きされていたー
つまり、
霊体になった慎一郎は、もう人間の状態に
戻ることはできないのだー
”これで、死に一歩近づいた感じだな”
慎一郎はそう思いながら、
”これから死ぬんだからな”と、思いながら
近所の女子大生・野々花の家へと向かったー
透明になった慎一郎は、すり抜けて
野々花の家に侵入するー
とてもおしゃれな部屋ー
彼氏らしき人物の写真も飾られているー
”これが、リア充ね。はいはい”
慎一郎はそう思いながら、
野々花の帰宅を待ったー。
”身勝手な道連れ”
そう思われるかもしれない。
だが、そんなことはどうでもいい。
慎一郎は
死にたいと考えているが
一人では死にたくない。
誰かと一緒に、あの世に向かいたいのだー。
そして、そのターゲットを野々花に定めたのだー。
野々花の帰宅を待つー。
慎一郎は、野々花の部屋のものを見つめて、
のんびりと野々花が帰って来るのを
待っていたー
モノに触れることはできないが、
それでも、野々花の部屋には色々なものが
置かれていたー
そして、よく整理整頓されている
”ホント、俺もこんな人生、味わってみたかったよ”
そんな風に思いながら
さらに待機しているとー
野々花が帰宅したー
清楚な雰囲気のおしゃれな野々花は帰宅すると
「は~、たのしかった~!」と呟いたー
「-----」
慎一郎は、そんな野々花に理不尽な嫉妬も覚えたー
”こんなにつまらない人生を俺は送っているのに、
お前は人生を楽しみやがって”
という嫉妬だー。
その嫉妬を晴らすためにも
”道連れ”にふさわしいー
そう思いながら、
帰宅して、荷物を置いている最中の野々花にー
慎一郎は突進したー
”いっしょに死のうぜ”と、叫びながらー
「---うっ!?!?」
野々花がビクンと震えるー。
「----あ………」
野々花の瞳の輝きが失われていきー
そして、少しして、再び輝きを取り戻したー
野々花は不気味な笑みを浮かべるー
「---へへへへへ…
一緒に死のうぜ」
野々花が、ニヤリと笑みを浮かべながら
そう呟いたー
慎一郎に憑依されてしまった野々花は
「うん!いっしょに死ぬ~!」と嬉しそうに口にするー
一人二役の会話を繰り広げて
ご満悦な慎一郎は、今夜は野々花の身体で
最後の一晩を過ごし、
明日、野々花の身体のまま命を絶つことに決めたー
今更、死ぬことを怖いとは思わない。
このつまらない”人生”という名の映画を見るのを
やめるだけだ。
「---どこにしよっかな~!」
野々花は、どこで命を絶つかを
嬉しそうに考えているー。
野々花本人の意識は完全に幽閉され、
慎一郎に身も心も乗っ取られー
死に場所を探しているー
「---ふふふ、ここでいっか」
野々花の家から大体1時間程度の場所に
あまり人の立ち寄らない小さな山があり、
その先には、ちょっとした有名な断崖絶壁がある。
そこから飛び降りようー
野々花は「ふふ、楽しみぃ~」と呟くと
スマホを放り投げたー。
”充実した人生を送っているこの野々花という子こそ、
自分の道連れにふさわしい”
慎一郎に憑依された野々花は
満足げな笑みを浮かべて、
”最後の一晩”を楽しむことにするのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーふ~~~~~」
煙草を吸いながら、野々花は、一息つくー
野々花のボディチェックを終えて、
野々花の部屋の仲のチェックを終えて、
近くのコンビニで煙草と酒を買って、
今は一息ついているー
野々花は煙草も酒もダメな子のようだが
そんなことは関係ないー
吸い殻まみれになった台所を見つめながら
「どうせ、明日には死ぬんだ」と
呟く野々花ー。
慎一郎は、自分の自殺する理由を考えるー。
別に、深い理由はない。
単純に”生きていることに飽きた”
と、でも言えばよいだろうか。
職場の人間には迷惑がかかるかもしれないが、
あんなブラック企業、知ったことかー。
友達はいないし、
恋人もいないー
家族仲も良くないから
誰も悲しむことはないー
「---」
鏡を見つめる野々花ー
リア充な野々花に対して、
慎一郎、一種の”嫉妬”も抱いていたー
「--幸せそうな顔しやがって」
野々花は低い声で呟くー
「まぁ、いいさー。
明日、お前も死ぬんだから」
野々花は、鏡の中の野々花に向かって
そう呟くと、
クスクスと笑い出したー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・
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身勝手な道連れ①でした~!
明日の②で完結デス~!
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