<憑依>悪の魂~悲願の時~(後編)

人間の遺体から”悪の部分”を抜き出すことのできる
謎の男・ジョー。

そんな彼の、悲願の時がついにやってきたー。

そして、その先に待つのは…?

---------------–

いつからだっただろうか。

”遺体から、その人間の悪の部分”を
抜き出すことができるようになったのはー。

いつからだっただろうか。

それを、他人に憑依させて、
悪の魂を憑依させられた人間が、悪の道に
堕ちていくのを、観察するようになったのはー

検死官ジョーは、真面目な男だったー。

検死官として、数々の死体を見つめー
時には、悲惨な現場も目の当たりにしてきたー。

言葉に言い表すのもつらいー
そんな、悲劇も、何度も何度も見てきた。

そんな彼の精神は、徐々に蝕まれていたー

始まりは、いつからだったのかー

いやー
検死官ジョーの精神は、とうの昔に壊れていたー。

無残な遺体を、目の当たりにしてー
真面目過ぎる彼の精神は、とうの昔にー
粉々に砕け散っていたー

悲惨な死を遂げた数々の遺体ー
死んだ人間たちの”怨念”

そして、ジョーの持つ”邪念”
それらは、いつしか、混じり合い、融合しー

”力”となったー。

ジョーの邪念と
数多の死者の怨念がー
ジョーの中に蓄積された結果ー

ジョーは、超常的な力を手に入れたのだったー。

遺体から悪の魂を抜き出す能力ー
それを他人に憑依させる能力ー
姿を消し、闇に潜むことのできる能力ー

それはー
怨念と邪念が生み出した
”闇の力”-

・・・・・・・・・・・・・

「おかえり、麻理ー」
ジョーは、笑みを浮かべたー

ベートーベンのクラシック音楽
”喜びの歌”を大音量で部屋に流しながら
ジョーは、ぶどうジュースの入ったワイングラスを手にするー

長かったー。

妹・麻理は、ついに復活を果たしたー
死んだ麻理とよく似ている女子大生を見つけ出し、
その身体に、長い時間をかけて加工した麻理の悪の魂を憑依させ
麻理を完全に復活させるー

「---お兄ちゃんー」
静恵が呟いたー

麻理だー
麻理の魂が、中島静恵の身体を完全に乗っ取ったー

「麻理…!やっと、、やっと帰って来たんだね」
狂気的な笑みを浮かべるジョー。

ジョーの思考や倫理は、既に壊れているー
彼は”真面目”すぎたのだー
真面目すぎる故に無残な遺体の数々を見てきた
ジョーは、狂ってしまったー

その結果出来上がったのが-
遺体から悪の魂を抜き出し、それを他人に憑依させて楽しむ
”怪物”ー
検死官・ジョーだ。

「---…うん」
静恵はほほ笑んだー

間違いなく、麻理ー。

ジョーの目論見通り、
麻理の悪の魂に、少しずつ他の人間の悪の魂を継ぎ足し続けた結果、
麻理の意志はより強靭になり、
しかも、悪の部分は中和された、

正真正銘の麻理が、中島静恵の身体を乗っ取り、
今、目の前にいるー

「--麻理に出来る限りそっくりな人を見つけたんだ」
ジョーが嬉しそうに言うー

「ーーごめんよ。自分の身体を失わせることになってしまってー。
 でも、俺も一生懸命頑張ったんだ」

ジョーは姿見を静恵に見せるー

静恵が驚いたような表情を浮かべるー

「-----」
静恵に憑依した麻理は複雑そうな表情を浮かべるー

それに気づいてジョーは言う。

「-ーーすまんな。」
麻理はきっとこう思っているー
”他の人の身体で生きるなんて…”と。

中島静恵という女子大生の身体を奪うことに
申し訳なさを感じているのだろうー

妹は、とても優しいからー。

静恵は、「----まだ、続けてるの?」と呟いたー

「え」
ジョーが静恵の方を見る。
妹の麻理は”悪の魂”のことを、知らないはずだー

「--ずっと、ずっと、見てたの」
静恵が言うー

”悪の魂”となった状態でも、麻理は
ずっと、見ていたのだと説明したー
兄であるジョーが今まで、何をしていたのかを。

安置されていた麻理の魂は、
ずっとずっと、兄・ジョーの行動を見つめていたのだー。

「----あぁ」
ジョーは呟く。

これからも遺体から悪の魂を取り出してー
他人にそれを憑依させー
悪に落ちていく様子を見る、
それを、やめるつもりはない。

「-------」
静恵は、ジョーの返事を聞いて、
複雑な表情を浮かべたー

ジョーは、そんな静恵の表情を見ながら
”本当にこの子は、麻理そっくりだな”と思うー

中身まで麻理になった今、
たとえ肉体は別人でも、
麻理そのものと言ってもいいー。

「---お兄ちゃん」
気付けば、静恵が、ジョーの近くにやってきていたー

「--わたしを生き返らせてくれて、ありがとう」
静恵が言うー

検死官ジョーは、その言葉にほほ笑んだー

「---妹が苦しんでたら助けるー
 それが、兄というものだろう?」

とー。

「----うん」
静恵は、静かに頷いたー

これからもー
検死官ジョーは、遺体から悪の部分を取り出してー
他人に憑依させていくつもりだー。

いつか、悪の魂に打ち勝つ人間が現れることを期待してー

…現れたら、何になると言うのだ?

ジョーは自問自答する。
自分のこの行為に、何か意味はあるのか?

いやー
意味なんか、ないのかもしれないー

自分はただー
”他人が悪に堕ちていく姿を見て”
楽しんでいるだけなのかもしれないー

「お兄ちゃんが道を踏み外していたらー」

静恵の声がして、ジョーは我に返るー

「----!!」
ジョーの胸部に、静恵がキッチンから持ってきた
包丁が食い込んだー

「--ぐぶっ!」
ジョーが、苦しそうな声を上げるー

「え…???」
ジョーはふらふらとよろめき、
持っていた、ぶどうジュース入りのワイングラスを床に落としたー

グラスが割れて、ぶどうジュースが床に散乱するー

「---え…」
ジョーが、静恵の方を見るー

静恵の手には、包丁が握られているー
妹・麻理が憑依している静恵が、兄であるジョーを刺したのだー

「---え…なんで…?」
ジョーが信じられない、という笑みを浮かべながら
静恵を見るー

「---お、、お、、、お前……え…?」
ジョーは震えたー

身体から力が抜けていくー

「---お、、、俺は、、、ずっとずっと、、、 
 お前のこと、愛してきたのにー」
ジョーが、呟くー

妹・麻理のことを、兄として、誰よりも愛してきたー
自分の過ちで、麻理を死なせてしまったけれど
こうして、長い時間を掛けて麻理を復活させたー

それなのにー

「恩を仇で返すのか!?麻理!」
ジョーが叫ぶー

「---違う!」
静恵が叫ぶー。

「わたしだって、お兄ちゃんのこと、大好き!
 でもーーー
 そのお兄ちゃんが、道を踏み外していたらー
 
 大切な人が道を踏み外していたらーーー

 大事だから、
 大好きだからこそー
 こうするの!

 もう、お兄ちゃんにこれ以上、悪いことしてほしくない!
 これ以上お兄ちゃんに”不幸にされる人”を
 生み出したくない!」

静恵が涙ながらにそう呟いたー

「う…あ…俺は…俺は、、」
ジョーが苦しそうにうめくー。

妹・麻理はー
兄・ジョーの”狂った行為”を止めたかったー

静恵という他人の身体で人殺しをすることになってしまってでもー
麻理には、こうすることしかできなかったー

今、ここで、自分が何もしなければー
ジョーはこれからも、大勢の人間に悪の魂を憑依させ、
そして、大勢の人生を、壊していくー

だからー

ここでーーー

静恵は、手にもった包丁を握りしめて、もう一度ジョーに突進したー

「ぐはっ!」
ジョーが口から血を噴き出し、その場に膝をつくー

「俺は…俺はぁ…」
ジョーが苦しそうに、虚ろな目になって叫ぶー

「---お兄ちゃん…昔の優しいお兄ちゃんに戻って」
静恵が悲しそうに言うー。

麻理は知っているー
検死官ジョーは、昔は妹想いの優しい兄だったことをー。

検死官として活動し始めてー
色々な遺体を見てー
そして、悲惨な現場を数多く見てー
ジョーは次第に変わってしまったー
おかしな行動をとるようになったー

怨念ー
邪念ー
狂気ー
あらゆる感情が混じり合い、
ジョーは狂ってしまったー

いつかし、その常軌を逸した”負のオーラ”が
ジョーに異様な力を与えたー。

悪の魂を遺体から抜き出し、
他人に憑依させる力ー

だがー
皮肉にも、本当に”悪”に堕ちていたのはー
彼自身ー

そう、検死官ジョー、本人だったのだー

「--お兄ちゃんが、たくさんの人の人生を壊してるー」
静恵が言うー

ジョーは、床の上のぶどうジュースの上でうつ伏せに
なりながら、静恵の方を見るー

「--もう、、これ以上、お兄ちゃんに、いろいろな人の人生、
 壊してほしくないー」

静恵が泣きながら叫ぶー

検死官ジョーは、苦しそうにしながら呟いたー

「麻理…」
ジョーは思うー

人間は
愚かだー

殺し合いー
騙し合いー
そして、犠牲者が出るー

今までに、酷い遺体をたくさん見てきたー
いつかしかジョーは、
人間なんて、どうせ全員根本的には悪なのだ、と
考えるようになったー

だがーーー
一番の悪はーーー
自分ではないか???

ジョーは、今まで悪の魂を憑依させて
悪の道に堕とした人間たちのことを思い出すー

今も、彼女らはー
悪堕ちしたまま、生活を続けているー
何人かは、既に、堕ちるところまで堕ちて死んだ者もいるー。

「---だから、お兄ちゃん…ここで、終わりにしよう…」
静恵の身体のまま、麻理はそう呟いたー

ジョーが、いつも部屋で流していた
クラシック音楽が、次の曲へと進み、
悲しそうな曲が流れ始めたー

「-----…ありがとう」
ジョーは、静かにそう呟いたー

狂ってしまった自分を、自分でも止めることができなかったー
だから、ジョーは、
誰かに止めてほしかったのかもしれないー
狂ってしまった、自分をー。

「-----------」
ジョーは、静恵の顔を見つめたー

その顔はー
麻理そのものに見えたー

「ーーー」
最愛の妹に手を伸ばしー
ジョーは、そのまま力尽きたー。

数多くの人間に悪の魂を憑依させてー
人生を破滅させてきた検死官・ジョーの最後の瞬間だったー

・・・・・・・・・・・・・

「----」
シルクハットを被った怪しげな男が、
不気味な光景の場所を歩いているー

「ここはー」
検死官・ジョーは、
見知らぬ世界へとやってきていたー

そこにはー

女子高生の西原 愛華(にしはら あいか)
新婚の妻だった藤森 彩乃(ふじもり あやの)
女子大生の三島 明日香(みしま あすか)
可愛らしい少女の岩田 裕美(いわた ひろみ)
仲良し姉妹の亜香音と愛奈ー

これまでに、ジョーが悪の魂を憑依させて
悪の道に堕としてきたものたちがいたー

全員、恨みの目でジョーを見つめているー

「----」
ジョーは思うー

”ここが、地獄かー”
とー。

今まで自分が人生を破壊してきた女たちの
亡霊が、そこには集まっていたー

ジョーがやってくるのを、今や今かと待ちながらー

ジョーは少しだけほほ笑むと、
その場で土下座したー

覚悟は出来ているー

謝ってもー
許されることではないことも、彼は理解しているー

だがー
それでも、検死官ジョーは土下座したー

これから、自分は永遠の苦しみを味わうことになるのだろうー。

「----」
これが、”悪党”になってしまった
自分に待ち受ける運命なのだからー

ジョーは、静かに目を瞑ったー

自らの”罪”を受け入れてー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「----ふふ」

兄・ジョーを止めるため、
兄・ジョーを刺殺した静恵に憑依している麻理は
静かにほほ笑んだー

”悪意は、伝染するー”

検死官ジョーの遺体からー
どす黒いオーラが噴き出しー
それに包み込まれた静恵は、
口元を三日月に歪めたー

”悪意”は消えないー

検死官ジョーは死んだー

しかしー

「-----ふふふふふふ…
 お兄ちゃんの力、ゲット♡」

静恵は、そう呟くと、
不気味な笑みを浮かべたままー
悪意に憑りつかれて、歩き出したー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

悪の魂の完結編でした~!
初期作品のひとつで、需要も無くなりつつ(?)あったのと、
”いつか描こうとしている最後の場面”も、
”ごちゃごちゃして分かりにくくなりそう”と思って
書いていなかったのですが、
それでもやっぱりちゃんと区切りを、ということで
今回、完結編を描きました!!

書く前から、頭の中で考えていた通り、
実際に書いてみても、
ちょっとごちゃごちゃした感じですが
一応、描き切れてよかったデス!

お読み下さりありがとうございました~!

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憑依<”悪の魂”>

コメント

  1. 匿名 より:

    ジョーよりもやばいことになりそうですね、これ。