<入れ替わり>執行の時

死刑執行ー。

立ち会った女性刑務官は
”恐るべき事態”に直面することになる…。

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凶悪犯罪者の小久保 竜太郎(こくぼ りゅうたろう)の
死刑が執行される当日ー

多くの人間の命を無差別に奪いー
数々の暴行を加えー
多数の詐欺もこなしてきた
近代稀に見る凶悪犯罪者である竜太郎は、
”反省”の色すら、最後まで見せることはなかったー

あまりの残虐さに、
誰もが、彼の死刑を疑わなかったー

そしてー
裁判において、彼の主文は後回しとなりー
多くの人間が予想していた通り、竜太郎の死刑が確定したのだったー

確定から数年ー
ついに、竜太郎の死刑が執行される日がやってきたー

死刑執行の日ー。
携わる者たちも、何度、経験しても、
その独特で異様な雰囲気に慣れることはない。

空気がー
重ぐるしいー

当たり前だ。
凶悪犯罪者と言えど、
今、この瞬間は生きている人間が、
数時間の後には、生きていないのだからー。

心を締め付けられるような気持になる者もいるー。

「---…」
死刑執行には、何人かの人間が立ち会う。
健司たち、処遇担当、教育担当、刑務官などなどー
様々な分野の人間がそこには、いたー。

女性刑務官の増原 絵里子(ますはら えりこ)も
そのうちのひとりー
彼女は比較的若いが、いろいろな成り行きから、
死刑に立ち会うことになったー

絵里子はーーー
一瞬の快感を感じていたー

絵里子は、小さいころから、犯罪者を”強く”憎んでいるー

その理由はー
彼女が小さいころに、祖父の家に遊びに行った際に、
祖父が遺体となって発見されたことだー。
彼女と母親が祖父の家に遊びに行く直前、
お金目当ての男に、祖父が殺されたのだー

そんな経緯から、絵里子は、犯罪者を今でも強く憎んでいるー

だからー
これから死刑になる竜太郎を見て、
ある種の愉悦に浸っていたー

竜太郎は、死刑執行の直前になってもー
未だに”反省”の色すら見せていないー
ふてぶてしい態度を見せ、
絵里子に対しても、そのほかの人たちに対しても、
”これから死刑になる人物”とは思えないほどの
余裕のある態度を見せているー

”死ぬ直前になっても反省しないなんて”

絵里子は、激しい怒りをこの男に抱いたー
何人もの人生を奪っておきながら、
この竜太郎と言う男は、
最後まで、まるで、反省する素振りも、
恐怖を感じている素振りも、
後悔する素振りも、何もないー。

絵里子に出来るのはただー
竜太郎を、軽蔑の眼差しで見つめることだけだったー。

竜太郎に、最後の言葉を掛ける担当官たちー。

死刑執行の直前には
取り乱したり、落ち着きのない素振りを見せたり
するものが多い、と絵里子も聞いていたー

だがー
この男はーー

”死んで償いなさい”
絵里子は、心の中でそう思ったー。

この犯罪者を許すことは絶対にできないー。
遺族たちの気持ちを考えると
胸が締め付けられるように、苦しくなるー。

どこまでも罪の意識を感じないこの男がー
せめて、死ぬ瞬間に地獄のような苦しみを
味わいますようにー。

そう、絵里子は願わずにはいられなかったー

竜太郎が、”最後の晩餐”をしているー。
最後の晩餐、と言っても、そんなに豪華な食事が
出ているわけではないー

簡単なお菓子と、お茶程度ー。

死刑執行の直前に、用意される軽食を
竜太郎が食べているー

竜太郎は、軽食を食べながら、笑みを浮かべているー

これから死ぬことに対する、諦めー
自虐的な笑みだろうか。
それとも…?

絵里子は、そんな竜太郎の態度にも、腹が立って仕方がなかったー

竜太郎に殺された人々は、
多くが、残酷な方法で殺されていたー
この上ない恐怖を味わいながら、
多くの人たちが、命を落とした。

それなのに、この竜太郎と言う男は、
自分が、これから死ぬことすら、恐れていないー

「----」
絵里子は、拳を握りしめるー

どうかー
どうか、この極悪非道の男に、
罰が下りますようにー
地獄で、この男が、この上ない永遠の
苦しみを味わいますようにー

”最後の晩餐”を終えた男の刑が
いよいよ執行されようとしているー

竜太郎と絵里子の目が合うー。

絵里子は、”この上ないぐらいの軽蔑の眼差し”で
竜太郎を見つめたー

竜太郎がうすら笑みを浮かべるー

”間もなく死ぬ”死刑囚ー
絵里子は思うー

”わたしには、この先何十年も人生があるけれどー
 あんたには、もうあと数分しかないー”
とー

ある種の優越感にも浸るー

決して気持ちの良い光景ではないけれどー
絵里子は笑みを浮かべずにはいられなかったー

いよいよー
いよいよ、
何人もの命を奪ってきた、残虐な死刑囚が、死に至るー

絞首刑ー。
おわりだー。

絵里子は
”間もなく死刑になる人っていったい何を考えているのだろうか”

と、ある種の好奇心を抱くー

”自分の死”が
もはや逃れられない状態ー。

病気で死ぬわけでもー
事故で死ぬわけでもー
寿命で死ぬわけでもないー。

今、この瞬間は、正真正銘の健康体ー

それでもー
この男は、間もなく死ぬー

本人の思考が、絵里子には、どうしても理解できない

自分があと、数分、数秒で死ぬー
と、”その瞬間”迫って来るときー
自分だったら何を考えるだろう。

恐怖で、それどころじゃないかもしれないー
泣きわめいてしまうかもしれないー

絵里子は、そこまで考えて
周囲の人間に分からないよう、自虐的に笑みを浮かべたー

そんなことを考えて何になるー?

”極刑”なんて、自分が体験することは
この先も、未来永劫ないだろう。

将来的に、何か病気になって
余命宣告されたりすることはあるかもしれない。

でも、それでもー
”自分があと数秒で死ぬ”だとか、
明確にそれを理解するような
状況になることは、絶対にないー。

余命宣告されたとしても、
自分がいつ死ぬか、までは分からないのだからー。

この男のー
小久保 竜太郎が今感じているであろう
”自分の人生はあと数分”というこの瞬間を、
絵里子が味わうことは、絶対にないのだー

絞首刑の
”その時”が近づくー

小久保竜太郎は、笑みを浮かべたー

”この男はーーー
 最後まで、何も反省していない”

絵里子は、そう思ったー

この男はーー
自分が死ぬことを、微塵も恐れていないー

どうしたら、そんな、”あと数分で死ぬ”のに
平然としていられるのー?

絵里子は、一種の恐怖を覚えるー

”あと数分で自分が死ぬ”のに
笑っていられるだろうかー?
普通は、無理だー。

大量殺人を起こしたこの男はー
”正真正銘のサイコパス”
なのだー。

竜太郎を見つめる絵里子ー
絵里子は、竜太郎の気持ちが、”あまりにも理解できず”
軽いめまいを覚えたー

絵里子の”常識”では、
竜太郎の気持ちは、理解できないー

ふらっ…
そんな感じを覚えて、
頭を抑えるー

そしてー
目を開くー

「---?」
絵里子は、さらに違和感を覚えたー

自分の立っていた位置と、場所が違うー
一瞬にして、自分が移動したー???

めまいを感じて、一瞬目を瞑っただけで、
自分の立っている場所が変わっていたのだー

まるで、ワープしたかのようにー

「--え」
絵里子は、唖然としたー

さっきまで、自分が立っていた場所に、
絵里子がいるー。

「え…?」
首をかしげる絵里子ー

そして、自分の口から”低い声”が出ていることに気付くー
まるで、男のような声ー

「----」
絵里子の姿をした”なにか”が、不気味な笑みを浮かべたー

自分の手を見つめる絵里子ー
絵里子は思うー

”これは、わたしの手じゃない”-
と。

「小久保竜太郎!」
絵里子のことを、近くにいた男が呼んだー

「え…?」
絵里子は戸惑うー

そしてー
”恐るべきもの”を目にしたー

近くの金属に反射してー
自分の姿が見えたー

いやーーー
小久保竜太郎の姿がーー

「----!」
絵里子は、間もなく死刑になる小久保竜太郎になってしまったー

そしてー

離れた場所にいる絵里子が笑みを浮かべながら
口元を動かしたー

”い・れ・か・わ・り”

とー。

「----いやああああああああああああああ!!
 やめて、、やめて!わたしは、、わたしは小久保竜太郎じゃない!」

竜太郎になってしまった絵里子は叫ぶー

「違う!違うの!」
とー。

絵里子は理解したー
自分が、死刑直前の竜太郎の身体になりー
竜太郎が、絵里子の身体になったのだ、とー。

だがー
周囲の人間が、そんな言葉を信じるはずがなかったー

今まで余裕の態度を崩さなかった
死刑囚の小久保 竜太郎が、その直前になって、
やはり怖くなったのだろう、と周囲の人間は考え、
憐みの目で竜太郎を見つめるー

だが、仮にー
直前で泣きわめいたとしてもー
それで、刑の執行は中止にならない。

それで中止にしていたら
永遠に刑は執行できないからだー

”そんな…嘘…えっ…?えっ・・・?”

さっきまで、自分が”永遠に経験することのない”と
思っていた、”まもなく死刑にされる人間の気持ち”を
味わうことになってしまった絵里子ー

竜太郎の身体で、自分が、死刑になるー

考えが、まとまらないー
何を考えていいか、分からないー

違うー
元に戻る方法をー

絵里子になった竜太郎は、
挑発的な笑みを浮かべて、
竜太郎(絵里子)を見つめているー

胸を触りー
絵里子(竜太郎)は口を大げさに動かすー

”おれのもの”
とー。

「---うあああああああああああ!」
竜太郎(絵里子)が叫ぶー

死にたくない-
死にたくないー
死にたくないー!

竜太郎になった絵里子の中の感情は
それ一つでいっぱいになったー

走馬灯だとか、
そういうものは一切浮かばずー

死にたくないー

という、死への恐怖、それだけだったー

当たり前のように起きて、
当たり前のように、寝る。

それが、無くなるー

死ってなにー?
どうなっちゃうの???

竜太郎(絵里子)を支配していた感情は
”恐怖”ひとつー。

その答えが出せないままー
絞首刑が執行されるー

「あ…あ…」
今までにない苦しみー

”でも、きっと奇跡は起きるからー”

現実逃避をする竜太郎(絵里子)

もがき、苦しみー
でも、何もできずー
誰もー
誰も、助けてくれないー

自分が、あと数秒で、この世から消えるー

その実感を抱いた時に、
絵里子が最後に感じたのはー

考えたのはー

家族のことでも
友達のことでも
恋人のことでも

感謝でも、なんでもなかったー

ただー
”死にたくないー”の
ひとつだけー

・・・・・・・・・・・・・・・

凶悪犯罪者・小久保 竜太郎の刑の執行は、おわったー

絵里子は笑みを浮かべているー

「くくくくく…今日から俺は、増原 絵里子だぜ…」
ペロリと唇を舐める絵里子ー

竜太郎は、裏社会で”他人と入れ替わる力”を手に入れていたー
だからー
”最後まで余裕”だったのだー

死刑になっても、死なないー
それが、分かっていたからー

「---ふっふふふふふふ…
 さぁ、まずは、この女の身体をチェックするかな」

優しそうな顔を、凶悪に歪めて笑う絵里子。
絵里子は、自分の住所を確認すると
不気味な笑みを浮かべたー

この女は、俺の代わりに死刑になったー
死刑になる瞬間は、どんな気持ちだったのだろうか。

竜太郎には、分からない。
”あと数分で死ぬ人間の気持ち”など…

彼は、元々入れ替わるつもりだったのだからー。

「---ひひひひひひ♡」
絵里子は、不気味な笑みを浮かべながら
玄関の扉を開けて、絵里子の家に入っていくのだったー。

おわり

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コメント

死刑執行の瞬間に入れ替わり…!な、お話でしたー!
以前、「入れ替わり犯罪者・室橋」というお話でも、死刑執行と入れ替わりの
要素がありましたが、
今回はそれとはまた違う感じで書いてみました!!

小説
憑依空間NEO

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